奈良にて

神社の周りの森というものは独特のみどり色をしている。昔からそこに居たという長さを刻み込んだかのような、寒々しくて霞んだいろ。そこを鹿が駆けるのが奈良というものである。鹿たち@奈良公園は、自分が特殊な状況に置かれているということを果たして認識しているのだろうか。情報を伝える手段を持たなければ、雪国に住む人は沖縄なんて土地があることを知る由もなく、奈良県の人は、この世に海なんてものが存在する事を知らずに死んでしまうかもしれない。宇宙人は、私たちのことを、私たちが鹿を見るように眺めているのかもしれない。もっとずーっと進んだ世界で、何をあくせくしているのかと、嘲笑っているかもね。だけど、そういう人間のすがた、どこか可愛くってすき。

奈良にて

奈良にて

  • 随筆・エッセイ
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2019-01-02

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