きみのやさしさに生かされているのかなぼくは
(へいきでひとをきずつけるのね、きみ)
星のなまえをひとつひとつ答えながら、ひとびとの記憶にはない大昔の時代のことを想うとくらくらするという学者だった祖父の顔も思い出せないで、まぶたをはんぶんとじかけたきみの金糸のような髪を丁寧に梳く夜。
ココアを淹れたマグカップの色は、きみが青で、ぼくが赤だ。
きみの指が好きで、そのなかでも左手の中指が好きだった。さわったときの骨の感じがいいねと言ったら、きみは「変態っぽい」とにやりと笑った。はんぶん眠っているので舌足らずで、どこか儚くあやふやだった。ぼくは変態でもかまわない。きみが好きだったし、きみの骨(皮と肉越しではあるが)に触れて、きみを形成するもののことを少しでも知ることができるのは小さな幸せだった。
今夜は大晦日です。
スペシャル番組ばかりのテレビをただぼうっと眺めている。眠りかけているきみの邪魔をしないよう、ガラス細工を扱うようにそっと髪を梳いて、ときどき額にキスを落とす。
(だれもきずつけたくはない)
そう思うのに、ぼくは知らぬ間に誰かの心を傷つけているし、おそらくみんな、そうなのだと思う。でも、どうか、きみだけは。(来年も、よろしく)
きみのやさしさに生かされているのかなぼくは