backspaceーA
前に挙げたしののめゆき(東雲柚木)ちゃんの昔のお話です。何故ハッカーを始めたのか。
少しずつ載せていきます。
A
ゆったりと吹き抜ける風。
春の陽光を受け、輝く桜の花びら。
そして、同じくらいに明るく輝く金髪の少年が桜の木によりかかって座っていた。
平日の昼下がりに何をしているかは分からない。学ランを着て校庭にいるので、恐らく学生なのだろう。だが身につけているイヤリングや金髪などのせいで、とても真面目そうには見えない。外見だけのイメージで言うなら、街で見かけてもあまり目を合わせたくはないタイプだ。
(まぁわざとそんな格好をしてるんじゃ無いんだけど。)
この服装は僕の好みを高校の制服に最大限組み込もうとした結果だ。不良らしくとか、アウトローっぽくとかそういう意図は毛頭ない。
…まぁもちろん優等生、という訳でも無いけど。
よく高校内外で喧嘩して、傷をつくるのは日常茶飯事だ。今じゃちょっとだけ名前が売れている。
でも少しだけ目立つ格好だから、狙われやすくもある。
珍しく今は、1人でのんびり花見ができているわけだ。桜の木はは校舎裏にあるので人も滅多に来ない、それもいい。なんて綺麗な景色だろう。
いつもこうならいいのに。と一人心の中で愚痴っていると、遠くから何人かが歩いてくるのが見えた。
「…………?」
校庭でなにかするのかと思って見ていたら、思いがけず僕の目の前まで来て止まる。
遠くで見た時にはわからなかったが、同じ高校の制服を着ている。だが同級生にしては些かガタイが良すぎるから、恐らく年上だろう。
「なに?」
4、5人ほどで、こちらを睨みつけているのがほとんど。そんなことされる覚えはないが、この雰囲気では友好的な要件ではないだろう。
「なに、だ?」
1番背格好が大きい、リーダーのように見える人間が口を開く。
「お前にやられた落とし前つけに来たんだよォ!」
吠えるような声で続ける。どうやらやはり、僕になにかされて怒っているらしい。
「僕、君に何したっけ」
というか、顔も思い出せないんだけど。と続けたくなるのをぐっと堪える。
記憶力には自信がある方なので、覚えていないなら先日喧嘩したやつの手下だった、とかかもしれない。
「フザけた野郎だな」
別のヤツが口を開く。
こっちは痩せ気味でニキビ肌だ。
やっぱり見覚えがない。
「……」
困った。
腕につけている時計を見る。17時5分。
これから予定があるのに変なのに捕まってしまった。恐らく僕の自業自得だけど。
「とりあえず…」
見覚えのない訪問者達に目を向けながら立ち上がる。
「逃げんのか!」
「ビビってんじゃねぇぞァ!」
男達が騒ぐ。逃げさせまいとこちらの動きを警戒するやつもいる。いちいちうるさいな。
「今日は予定があるので………また今、度ッ!」
言うと共に正面のニキビ男の顔を殴る。
めり、と音がしてニキビ男が倒れるのが一瞬スローモーションで見える。今だ。
カバンを引っ掴んで校門に走り出した。
狡いと言えば狡いけど、この場合は仕方ない。そもそも一対多数でかかってくる方が狡い。
一対一の喧嘩は得意だけど一対多数は苦手なのだ。
「待てコラァ!」
声が聞こえ走りながら後ろを少し振り返ると、いくらか遅れて男達が砂埃を上げながら追ってくる。なかなか凄い迫力。あと40メートルくらいで追いつかれてしまいそうだ。
でも残念。もう僕の勝ちだ。
校門を出てすぐの路上に黒いセレナが停まっていた。2車線ある路上にあるまじき停め方。普段ならこの位置絶対止めちゃいけないはずなんだけど、今は緊急事態なので見て見ぬふりだ。
助手席のドアを開けなかばつっこむように乗り込み、すぐにバンとドアを閉める。
「先輩車出して!不良が来るよ~」
外を見ながら運転席に話しかける。追ってきたヤツらの怒りようだと、フロントガラスくらい割れそうだ。
「はァ!?ちょっ柚木お前なんてもんくっつけてくんだよ馬鹿!馬鹿柚木!」
運転席から呆れと怒りが混ざったような声が聞こえる。続いてぐん、とうしろに引っ張られる感覚と共に車が急発進した。
「わ、」
外では追ってきた不良達が悔しそうになにか喚いてる。明日の学校が面倒くさくなりそうだ。
ひとまず間に合ってよかった。
走り出した車に安堵し、運転席に顔を向ける。
「久しぶり、先輩。」
改めて挨拶すると、隣の席では20代ほどの男性が困ったような、呆れたような顔をして笑っていた。
続く
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亀更新ですすみません。
ゆっくりお待ちください。