自動生成仮想世界
自動生成仮想世界には中身がない。僕は最近そのことに気がついた。傷心で一人、始まりの地点にたどり着いた。始まりの地点は、約束された場所ではなかった、けれど僕だけの場所だ。本日も晴天なり、しかり夜は曇っている、曇っていようと空を見上げるものはいない、それは、わかりきったこと、
いつの時代も平凡や普通こそが最も要求される事であれど、それにたどり着ける存在はごくわずかしかない、それは当然、平凡や普通とは、だれしも自分の奥底に思い描いているものであるが、第三者たちの大まかな想定によって枠組みが作られるがために、ごく少数の特殊な性質を持つ人間には適応できない、なにもそれは、僕である必要もない、だれしもどこか、心の奥底に他人と違うものを秘めているものなのだ。
諸君、今日も夜空が綺麗だ、曇っているが、このAR装置にはプラネタリウムがプレインストールされている、つまり夜空は室内に広がる、そして室外に夜空は存在しない、この矛盾、まるで僕の頭の曖昧な働きそのものだ、鈍感で、愚鈍、なぜ今日まで気がつかなかったのだろう、準備がたりなかった。僕には命としての準備がたりない、順序が整わないまま、母親の腹から出てきたせいだ。だから昨日しなかったロマン臭のする、キザなポエムをこうして、脳内で自動生成していくんだ。
そこでだ、クラスメイトのチリちゃんに、今日、僕はふられた。自宅のベットの上で、夜空を見つめるふりをして、AR装置によって仮想現実の中に一人の理想の人間を作り出す。
チリちゃんだ。それはとても美しい、けれど本物ではない、当たり前だ、これはプレインストールされているアイドルの映像にすぎない。プレインストール。そうだ、僕の幸福もあらかじめ僕に想定できるようには出来てはいない、振られていても、アイドルの水着姿に何らかの幸福を感じ、そして想像する。ああ、そう、この映像がどれほど美しくても、本物ではない、本物は、僕の中途半端な告白に起こったし、あざけったし、そして呆れていた、あれこそがそうなのだ。僕はいくらでもこのAR装置の中から“偽物”を選び出し、あるいは、選び続けることもできるだろう。けれど考えてみるのだ、このなんの恥じらいもない映像に、あのあざけりがない事が、悲しい。
自動生成仮想世界