がんばれ!

大学の頃、基本的にMちゃんと一緒におったけど、講義やゼミの関係で男女混合のグループで行動することもあった。

高校と違ってクラス固定で動く必要がなかったで、固定のグループはなく、その都度でメンバーが変わった。

ある授業では、Mちゃんともう二人の男子、計四人で動くことが多かった。そのグループで特に話が合った男子がいた。名前はO君。

O君はワイルドな顔立ちで、隣県出身やったで方言も私のとは微妙に違っとって、彼との会話はいつも新鮮やった。

彼には地元の女友達も多く、その子達の話も聞いたし、行動範囲が広いおかげで色んな遊びを知っとった。
正直、チャラいのかなと思ったこともある。

友達として、O君が好きやった。
今まで出会ったことのないタイプ。
出身地も経験も違うのに不思議と趣味が合ったし、当時から密かに趣味で書いとった私の小説に、初めて興味を示して感想をくれたのもO君やった。

私の小説を読んで、絶対粗が多かったはずなのに面白いと言ってくれ、作家になるのが夢なら絶対叶えるべきやとも言ってくれた。

笑い話もするし、真面目な話もする。
O君含めた四人グループで集まってご飯を食べたり、しょっちゅうしとった。

やで、気付かんかった。
O君に好意を寄せられとること。

文化祭の準備で忙しい秋、唐突にO君から呼び出された。二人きりで会うのは初めてやったで珍しいなーと思いつつ、まあそういうこともあるかーと呑気な気持ちでO君の元に行ったら、

「慶ちゃんのこと、好きやったんやよね。付き合ってくれへん?」

告白された。
驚いた。
どう返事したらいいか分からんかった。
O君のことを異性として意識したことがなかった。

ノリが良くて楽しくて、いつも皆を明るくしてくれるムードメーカー。大事な友達の一人やった。でも、付き合うことは考えれんかった。

困った。苦しかった。これを断ったらO君との友情が消えて無くなるんやと思うと、怖くなった。

「そんな風に思ってくれとったんやね……。知らんかった」

ようやく出たのは、気の利かん言葉。
O君と今まで通りにはできんのか。
断りたいのに、断るのが大きい罪のようで。

それ以上何も言えんくて、気付いたら涙が出とった。

O君は、今まで見せたことのない真面目な顔で言った。

「泣かせてごめんね。慶ちゃんが俺に気持ちないのは知っとったんやよね。でも、どうしても好きって言いたかった。慶ちゃん可愛かったでさ。やで、泣かんくていいよ」

言い終わるなり、私のことをギュッと抱きしめてきた。ビックリして涙は止まった。
すぐに私から離れたO君はいつもの笑顔で、

「慶ちゃん、色々悩んどると思うけど。がんばれ!」

そう言ってくれた。

具体的に人に相談したことはなかったけど、大学に入ってからも家の事で嫌なことがあったり、高校時代好きやった人の事が心を震わせる日があった。O君はそういうのに気付いとったんかな?

自分を振った人のことを笑って気にかけれるO君の潔さと器の大きさに、勇気をもらった。背中を押された。

「ありがとう。がんばる!」

やっと、そう答えることができた。

がんばれ!

がんばれ!

  • 随筆・エッセイ
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-12-26

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