ハッピークリスマス

西木眼鏡

「 So, this is Christmas 」
 僕はベッドの上に座り、ギターを弾いて呟くように歌った。
 この一年はどうだっただろうか、何ができたのか。一年が過ぎれば、また一年がやってくる、と僕は続けて歌う。
 今日はクリスマスイヴ、この歌が一年で一番似合う季節だ。街中のいたるところで流れて、よく耳にする。
 六畳もない狭い部屋で、僕は久しぶりにギターを手に取った。恋人がいた頃はギターどころではなく、あの子に夢中だったけれども、半年前に別れてからは誰もいないこの部屋に帰ってきてもどうすればいいかわからなかった。
 一人暮らしが退屈であるということを思い出してしまった。
 一年前のクリスマスに僕は恋人へのプレゼントを探して街中を見て探したけれどもあまり好評ではなかったと思う。決して顔には出さなかったが。二か月後には恋人の誕生日も迫っていたから綺麗なアクセサーなんかはその時に渡すと決めていた。しかし、それを差し引いても僕のセレクトは良くなかったと思う。プレゼントに思い出のCDなんて今更古いんだ。
「 A very merry Christmas 」
 来年がいい年になりますように。恐れを抱く必要なんかない、と僕はギターと歌う。
 世の中にクリスマスソングは数あれど、僕はこの歌が好きだった。誰にも平等にやってくるクリスマス、その日だけとは言わずもう争いはやめよう、とかつて世界を熱狂させたバンドにいた一人の男が歌った。
 僕が生まれるずっと前に彼は突然この世から去った。銃で撃たれたんだ。「撃たれた、撃たれた」と繰り返し呟き、そして倒れた。
 四十一回目のクリスマスを迎えられなかった、平和を望んだ男の歌を僕は歌う。戦争は終わった、君がそう望むのなら、と。
「 War is over. Now 」
 ふと時計を見ると十一時三十分を回ろうとしていた。もう少しでクリスマス当日だ。駅のロータリーはいつもなら最終電車も行ってしまい、行きかう人もまばらになっているころだろう。それとも恋人たちで溢れているのだろうか。どちらにしても今日は歌いたい気分だった。
 僕はハンガーに掛けてあった上着を着て、ギターケースに相棒を入れて家を出た。
 さぁ、クリスマスがやってくるんだ。

ハッピークリスマス

ハッピークリスマス

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
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CC BY-NC-ND
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