すくらんぶる交差点(4)
四 取り残された七人と犬一匹
交差点には七人と犬一匹が取り残された。お互い知らない同士だ。自分のドジさ加減を知られないように、うつむいたり、空を見上げたりして、顔を合わさないようにしている。当初、とまどう七人であった。周囲をトラックやタクシー、バスなどが走る。佇む交差点の真ん中は狭い。ようやく信号が変わり、それぞれの行きたい方向へ進もうとする。だが、四方八方から人が横断してくる。それぞれの目的方向に多勢がいるわけだ。無勢の七人ではどうにもならない。再び、元の交差点の真ん中に押し返されてしまった。その繰り返しが何回か続くうちに、一人、また一人と動くのをあきらめ、交差点のまん中に座りこんだ。結局、七人と一匹がそのまま残った。
互いに会話を交わすことなく、座りこんだ七人と一匹だったが、そのうちの一人が何となく呟いた。
「俺たち、どうなるんだろう」
その言葉をきっかけに、全員が誰に向かってではなくしゃべりだした。
「どうにもならないよ」
「変だよな」「変だよ」
「どうして、交差点から抜け出させないんだろう」
「どうしてだろう?」
「みんな、渡っているのに」
「そう、みんなだ」
「みんなじゃないよ。ここの七人以外だよ」
「一匹も追加してくれ」
「俺たち、特別なのか?」
お互いに互いの頭の先から足の先まで見つめる。
「特別なようで、特別じゃない」
「いや、特別な奴もいる」
「ほっといてくれ」
「ここはアリ地獄かな」
「砂じゃない。アスファルトだ」
「引っぱり込む砂の女もいないし」
「何、それ?」
「交通事故で死んだ女の亡霊のことだ」
「まさか?」
「新たなる都市伝説だ」
「今、作ったんだろ?」
「怖い」
「怖くないよ。そんなものいないよ」
「じゃあ、何故、あたしたち、ここから出られないの」
「やっぱり、窪みがあるんじゃないの?」
「傾斜はないよ」
「どちらかと言えば、雨水が流れやすいように道路の中心部は盛り上がっているんだ」
「よく見ているんだ」
「仕事柄だよ。ガードマンをやっているんだ」
「じゃあ、車の交通整理はお手の物だね」
「まあね。でも、相手が言うことを聞いてくれれば、の話だけど」
「聞いてくれないの?」
「聞かないよな」
「そう言う意味では、個人国家だ」
「そんな大げさな」
「それも一理ある」
「あたしもそうだもの」
永遠に続くダラダラ話。
すくらんぶる交差点(4)