宗教上の理由・教え子は女神の娘? 第九話

まえがきに代えたこれまでのあらすじ及び登場人物紹介
 金子あづみは教師を目指す大学生。だが自宅のある東京で教育実習先を見つけられず遠く離れた木花村の中学校に行かざるを得なくなる。木花村は「女神に見初められた村」と呼ばれるのどかな山里。村人は信仰心が篤く、あづみが居候することになった天狼神社の「神使」が大いに慕われている。
 普通神使というと神道では神に仕える動物を指すのだが、ここでは日本で唯一、人間が神使の役割を務める。あづみはその使命を負う「神の娘」嬬恋真耶と出会うのだが、当初清楚で可憐な女の子だと思っていた真耶の正体を知ってびっくり仰天するのだった。



金子あづみ…本作の語り手で、はるばる東京から木花村にやってきた教育実習生。自分が今まで経験してきたさまざまな常識がひっくり返る日々に振り回されつつも楽しんでいるようす。
嬬恋真耶…あづみが居候している天狼神社に住まう、神様のお遣い=神使。一見清楚で可憐、おしゃれと料理が大好きな女の子だが、実はその身体には大きな秘密が…。なおフランス人の血が入っているので金髪碧眼。勉強は得意だが運動は大の苦手。
御代田苗…真耶の親友。スポーツが得意でボーイッシュな言動が目立つ。でも部活は家庭科部。クラスも真耶たちと同じ。猫にちなんだあだ名を付けられることが多く、最近は「ミィちゃん」と呼ばれている。
霧積優香…ニックネームは「ゆゆちゃん」。ふんわりヘアーのメガネっ娘。真耶の親友で真奈美にも親切。農園の娘。真耶と同じクラスで、部活も同じ家庭科部に所属。
嬬恋花耶…真耶の妹で小三。頭脳明晰スポーツ万能の美少女というすべてのものを天から与えられた存在だが、唯一の弱点(?)については『宗教上の理由』第四話で。
嬬恋希和子…真耶と花耶のおばにあたるが、若いので皆「希和子さん」と呼ぶ。女性でありながら宮司として天狼神社を守る。そんなわけで一見しっかり者だがドジなところも。
渡辺史菜…以前あづみの通う女子校で教育実習を行ったのが縁で、今度は教育実習の指導役としてあづみと関わることになった。真耶たちの担任および部活の顧問(家庭科部)だが実は真耶が幼い時天狼神社に滞在したことがある。担当科目は社会。サバサバした性格に見えて熱血な面もあり、自分の教え子が傷つけられることは絶対に許さない。
池田卓哉…通称タッくん。真耶のあこがれの人で、真耶曰く将来のお婿さん。家庭科部部長。
篠岡美穂子・佳代子…家庭科部の先輩で双子。ちょっとしたアドバイスを上手いことくれるので真耶達の良い先輩。
屋代杏…木花中の前生徒会長にしてリゾート会社の社長令嬢、キリッとした言動が特徴。でもそれとは裏腹に真耶を着せ替え人形として溺愛している残念な部分も。しかし性格が優しいので真耶からも皆からも一目置かれている。
(登場人物及び舞台はフィクションです)

 「ただいまー」
と、玄関のドアを開けた途端、
「リコリコピンピン、すっきりボディ! ベジっと参上、パエリアトマト!」
という叫び声で迎えられた。

 …花耶ちゃんがコスプレしてる。

 いや、子ども向けにおもちゃ屋とかで売っている、なりきり変身セットだ。
 ベジっとパエリア。シリーズが長期化したことから新機軸を投入した、パエリア諸作品の中でも革命的な一作。キャラクターはキャロット、ピーマン、トマトをモチーフとしており、子供の好き嫌い解消にも貢献したという。
「パエリアって色んなお話があるけど、花耶はこれが一番お気に入りなの。幼稚園のときだったけど、おねだりしてお母さんに買ってもらったの」
いま花耶ちゃんが着ているのはパエリアトマト。真っ赤なコスチュームが鮮やかだ。
「あ、キャロットとピーマンの服もあるよ。みんなで遊べるようにって買ってくれたの。お姉ちゃんも一緒に着て遊んでくれたんだよ」
花耶ちゃんが幼稚園に通っていた頃だから、真耶ちゃんもまだ袖を通せるくらい小さかったのだろう。他にも花耶ちゃんの友達とかも着て遊んでいたそうだ。真耶ちゃんはまんざらでもない様子で遊んでいたらしく、後でこのことを話したら、
「もう着られないなぁ。お気に入りだったんだけど」
とこぼしていた。女の子らしさを追求して育てられたのだから無理もない。

「花耶ちゃんが何か買ってとおねだりするのってこれが最初で最後だったの。服も三種類順繰りにみんなで着て、取り合いにはならなかったわね。昔からいい子だったのよねぇ」
遅れてやってきた希和子さんが言う。真耶ちゃんもそうだが、花耶ちゃんも相当いい子だと思う。
「まぁ、パエリアシリーズの中でもこれが一番お気に入りだったってこともあったんだけどね。そういえば、今年はあんまり観てないわよね?」
希和子さんが花耶ちゃんに尋ねた。すると、花耶ちゃんは少しほっぺをふくらませて言った。
「だって、今年はオオカミさんが悪者なんだもん」
確かに、狼を神様と仰ぐ天狼神社の神使様の妹としては承服しがたいことだろう。

 話は少し戻っている。花子ちゃん改めお花ちゃんがまだ戻ってきていなかった頃の話だ。なぜ呼び名が変わったかといえば、真耶ちゃんの妹である花耶ちゃんと名前が似ていて紛らわしいとみんなが気づいたから。ちなみに言い出しっぺは苗ちゃん。
「前にお花がいた時って、まだ花耶ちゃんが幼かったじゃん。漢字で書いた時に字面(じづら)が似ていることに気が付かなかったんよ」
 それはそうと、なぜ私がパエリアシリーズについて知っているかといえば、自ら演じたからだ。
 中学校の職場体験。真耶ちゃんたちが体験先に選んだのはテーマパークでのキャラクターショー。着ぐるみと呼ばれる、登場人物を模したマスクを頭に被り、あたかもそのキャラクターになったかのように演技をする。パエリアシリーズではこの着ぐるみキャラクターショーが伝統的に盛ん。ちなみにエンディングテーマにダンスが取り入れられたのはベジっとパエリアが嚆矢(こうし)で、ショーの中でもキャストが踊ることが一般化した。今ではすっかり定着して、私たちのステージの際もなりきり変身セットを着て一緒に踊る子どもが沢山いた。
「おねえちゃんのパエリアイエロー、見たかったのになー」
花耶ちゃんは悔しがる。学校行事の一環である以上ショーは平日の設定で、東京ではまだ夏休みだが涼しい木花村では二学期が始まっていた。そのため花耶ちゃんは真耶ちゃんの晴れ舞台を観ることが出来なかったわけだ、と気づいたその時。
 「ただいまー」
真耶ちゃんが帰ってきた。おかえりー、とみんなで合唱して迎えるが、それが終わるが早いか、
「お姉ちゃん! パエリアファイブのダンス見せてよ! 早く早く!」
花耶ちゃんがおねだりを始めた。ファイブのキャラ設定に不満があるがそれはそれ、ということだろう。まぁ微笑ましい姉妹同士ふれあいの一コマ、という風に一見思える。
 ただ私が引っかかっているのは。え、厳密には姉妹なのかって? いやそれもあるけど、あのパエリアダンスをやるってことは…。
「うん、でもせっかくだから五人揃ってやりたいし、他のみんなにも予定聞いて合わせるから、もうちょっと待っててね。あ、あづみさんも、出来れば予定空けといてほしいな」
そう。私もメンバーの一人であるってことだ。

 「ベジっとパエリア以降、ダンスがデフォになったでしょ? 演じる方も教える方も大変で。踊れる人集めるところから苦労してるのよね」
それから数日後。私たちは無事花耶ちゃんの前でのダンス披露を終え、着ぐるみを返しに来たのだ。職場体験でお世話になった後藤さんにも丁重にお礼をした。その際の話の流れで着ぐるみ業界の現場の話になったのだったが、どうやらプロダクションの負担は激増しているらしい。
「まあ下請けだし。でも子供たちが喜ぶなら」
とけなげなことを言う後藤さんに対し、申し訳なさそうな顔をしているのは後藤さんの会社への依頼主側にあたる屋代さんだ。
「その分こっちは待遇よくしないといけないわね」
すでに経営者としての発想がある彼女。将来的に屋代グループを背負って立つことへの責任を感じているのかもしれない。
「それ言ってくれる人なかなかいないのよ」
と言う後藤さん。屋代グループは取引先に対しても無理な値引きとかをしないのですごくやりやすいのだそうだ。子どもが喜ぶ要素を増していくことは必要、でもその過程で働いている人を泣かせるようなことがあったらいけない、仕事が増えたら報酬も増やすのは当然のことだ。そういう思想があるのだという。
 「あたし、こういう仕事やってみたいな…」
真耶ちゃんが小声でつぶやいた。でも後藤さんは言う。
「そう言ってくれるのはうれしいけど、大変な仕事だよ? 給料少ないし。さっきも言ったけど、いいお金払ってくれるの屋代さんトコくらいのもんだから」
結構歯に衣着せぬ発言をする後藤さん。
「お金はいいんです」
サラリと言う真耶ちゃん。まぁお金への執着は無さそうだからこれは本心だろう。ただ後藤さんはもう一つ懸念があるらしい。
「それに、体力的に厳しいから。もっと暑いところでの営業もあるし、動物とかの着ぐるみもあるし」
でもそれについても心配は無いらしい。今度は屋代さんが答えた。
「ああ、それはむしろ真耶ちゃんには適役ですよ? 毎年夏には、狼の着ぐるみ着てるから」

 「そういえば、神宿し、だっけ? 私それ見たことないんだけど」
翌日。放課後の家庭科室。例によって私は面接の練習をした帰りに寄ったのだが、私の疑問に応じて屋代さんがスマホの待受を見せてくれた。そこには狼のぬいぐるみが一体。いや、明らかに中に人間がいる感じなので、これは着ぐるみだ。神宿しとは天狼神社に伝わる、狼が変化した神様をお迎えする儀式。そしてお迎えする本体が神使である真耶ちゃん。ということは、この中に真耶ちゃんが?
「そう。正面からだと分からないけど、狼の口に当たる部分を下から(のぞ)きこむと真耶ちゃんの鼻から下が見えるの。真耶ちゃんは暑いだろうけど、可愛いのよ~」
そう言いながら身体をくねくねさせて悶える屋代さん。その姿に苦笑しつつも同意する真耶ちゃん。
「うん、楽しいよ。いろんな人が喜んでくれるし」
「それだけじゃないっしょ? 他にも神社の行事って色々あるけど、神宿しのときって真耶余計に楽しそうじゃん」
苗ちゃんの疑問に対し、真耶ちゃんは素直に肯定した。
「そうなの。オオカミさんになれるのがなんか嬉しくって、子どもの時から毎年楽しみだったの」
変身願望ってやつだろうか。そう考えると昔から着ぐるみで演じる素質はあったってことかもしれない。ただ私はあることに気づいた。
「でも、恥ずかしくない?」
こないだのパエリアの着ぐるみは外から顔が見えなかった。でもこの狼の着ぐるみは顔が見えるのだという。写真を見る限り周りでは普通の格好をしているし、もし私がこの姿をしろと言われたら、ちょっと抵抗がある。ところがそれに反論したのは、真耶ちゃんではなく、優香ちゃんだった。
「んー、それは無い」
そして真耶ちゃんはもちろん、他のみんなもうなずいた。優香ちゃんがその理由を説明した。
「この村では、仮装が伝統だから」

 更に次の日。
「だから、それがこの村の伝統だったらしいの。それであたし、もしできたら楽しいな、って」
真耶ちゃんがいつものとおり落ち着いた感じで、でもしっかりした意志は感じられる、そんな話し方でみんなに提案をした。
「もちろんこれあたしのワガママかもしんないし、神の子が言うから従う、みたいなことだとあんまり良くないと思うんだけど」
「んなわけない! 神の子だろうがなんだろうが、イヤならイヤって言うし! ウチは神の子とか関係なくて、真耶がやりたいと言って、それでウチも面白いと思ったから乗ったの。だから安心して進めればいいよ」
苗ちゃんが反論する。優香ちゃんも首をぶんぶん縦に振ってうなずいている。
「そうだよねー。苗ちゃんはそういうのハッキリ言うもんねー」
と話に入ってきたのは、エプロンをしたお姉さん。
「私も面白そうだと思うし、大人たちも賛成してくれると思うよ? あ、紅茶おかわりする?」
ここは天狼神社のふもとにある集落の喫茶店。もともと私がこの店を見つけたのは、試験勉強をたまには違う場所でやって気晴らししようとして偶然入ったのだが、そこが実は真耶ちゃんたちの溜まり場でもあったのだ。店に入ると三人が制服で紅茶を飲んでいたのにはびっくりしたが、喫茶店への寄り道はいいのだという。
「喫茶店文化は日本の学生文化において守るべきもの。ファストフードとかに染まる前に手を打つことが必要」
という学校の考えなのだという。まぁそうなると、集落に喫茶店はここだけなのでバッタリ出会うのは必然なのだが。
 ともかく。真耶ちゃん・苗ちゃん・優香ちゃんの三人で、あるプロジェクトが進行していて、私はその話し合いの場に居合わせちゃったわけだ。

 「でも衣装どうするの?」
私は問題集を解きながら話を聴いていた。話の内容はまだ見えない。
「うちにいくつかあると思うよ。あたしが小さいとき着てたのもあるし」
優香ちゃんの問いに答えたのは真耶ちゃん。
「集落の家に呼び掛けてみたら? まだ持ってるっておうちあるかもよ」
喫茶店のお姉さんも呼応する。どうやらそのイベントには特定の服が必要で、それを集める方策を話し合っているようだ。
「ま、数的にはそれほど集まらないかもしれないけど、とりあえず今年はお試しってことでいいじゃん。耳とかは紙製で茶系のセーター合わせるとかでもいけそうだし。幼稚園のお遊戯みたいな。むしろそのほうが気楽に出来ていいって人もいるかも」
耳? 幼稚園のお遊戯? どうやら普通のお洋服とかでは無さそうだ。前日に言われたセリフを思い出した。
「この村では、仮装が伝統だから」
 しかし不意に、私は彼女たちに話しかけられた。というか、予感はしていた。
「つか、あづみさんもメンバーじゃん。話し合いに参加しなよ?」

 早速村内に回覧が回され、小中学校の友達同士でもメールなり電話なり直接会ってなりで話が広まった。そして返ってきた反応は、
「面白そう!」
「やりましょう!」
「むしろ待ってました!」
というものばかり。村人のほとんどが賛成し、協力してくれる人も多かった。
 私もまた、当然のようにメンバーに入れられていたというか、入っている前提で話が進んでいた。戦力として期待されているのは悪いとは思わないし、ほかに忙しい用事もないので、快く受け入れていた。
 ただ。これは私のいつもの悪い癖だ。
「ところで、何をやるの?」
そういう肝心なところを確認し忘れる。真耶ちゃんが答える。
「うん? お月見だよ」
ああお月見。何か大それたことを考えているように見えていただけに、あまりに普通な返事に拍子抜けした。
 このときは。あとでたまげることになるのだが。

 いよいよ決行日。お月見、すなわち中秋の名月。
「この村の多くの行事では、子供が主役なのよ。それにこの村も、子供が回してるの」
すっかり涼しくなり、昼間でも長袖で十分なくらいの陽気。真耶ちゃんと花耶ちゃんのマリンブルーのウィンドブレーカーが可愛い。アルミヤという子供服のブランドで、二人ともファンクラブに入るほど大好きなブランドなんだそうだ。私も子供の時着ていた。
「最近はこういうパステルカラーのが減っちゃったんだけど、あたしはこっちの昔のが好きだなー、今のもかわいいけど。ブランドだとピアニシモも可愛いけど、やっぱりエンジェルクレヨンかな。エンジェルって名前についてると反応しちゃうの。あたしも神使だし。くすくす」
と真耶ちゃん。ちなみに花耶ちゃんが着ているのは真耶ちゃんのお下がり。私の家では女ひとりに男の兄弟が沢山だったので、私のぶんの服は融通が効かないと母が嘆いていた。ただ神使様のしきたりが無かったら真耶ちゃんがピアニシモやエンジェルクレヨンの服を着ることはないので、その意味では親代わりの希和子さん的には良かったのだろうか。
「でもいい感じの温度になったね。冷えてきた」
時はもう昼下がり。だいぶ日も短くなってきたし、気温が下がるのが早くなってきた。あまり急に寒くなるのもどうかと普通思うところだが、木花村のお月見、というか真耶ちゃんたちがこれからやろうとしている、昔から木花村でされていたお月見には寒いくらいがちょうどいい。
 まあわざわざ気合入れて何度も話し合いを持ってやるわけだから、当然全国的にありふれた形のお月見ではないわけだ。しかもこの村伝統のスタイルと言いながら、長く絶えていたのだという。そうなればみんなのリキが入るのも自然。しかしそんな一見大それたことを、いち中学生の発案で実現させちゃうなんて。いくら言い出しっぺが神の子だとしてもすごい。そこで希和子さんの言葉になるわけだ。
 この村は、子どもが回している。

 日曜日ということもあり、会場には子どもたちが続々と集まり始めた。もちろん真耶ちゃんの友達や、学校の先輩たちもだ。林間学校で仲良くなった小瀬さんや星野さんに、外国から帰ってきたばかりのお花ちゃんもいる。
「わー。新しいの買ったの? 可愛いー」
苗ちゃんがはいているのはつるつるのトレーニングウェア。下にはいているのはスポーツタイツと言うらしい。真耶ちゃんはタイツの手触りが好きらしく、苗ちゃんの脇にしゃがんで足をなでている。まあタイツの肌触りって独特だから気持ちはわかるのだが、実は男の子が女の子の足をなででいる構図だというのにちょっと引っかかる。しかも触られている苗ちゃんが、
「真耶こういうの好きだもんなー」
と、自然に受け入れているからリアクションに困る。
 苗ちゃんがスポーツ用の格好をしているのにはわけがある。これから着る衣装の下にはぴったりして動きやすいものを着用するほうが楽なのだ。ただ天候が良くないのがみんなの心配の種。台風が近づいてきているのだ。
「いつもなら大体の行事は雨具着てやっちゃうけど、今日のこれはさすがにねー」
発案者の真耶ちゃんが一番心配しているが、ほかのみんなも楽しみにしていたし準備に奔走していたのもあって、決行出来ないとすればがっかりだろう。やるべきことはあらかたやった。あとはみんなで空に祈るのみ。

 真耶ちゃんが中止を心配しているのにはもうひとつ理由がある。
 お月見の会場はお寺なのだ。天狼神社とそのふもとにある照月寺は、もとはひとまとまりの宗教施設だった。参拝は照月寺と天狼神社セットで行われたという。しかし明治になって神仏分離という政策が行われ、それらは別々のものとされたうえ、廃仏毀釈(はいぶつきしゃく)という仏教弾圧も行われた。しかし木花村においてそれは表向きのこと。実際は天狼神社の手によって照月寺は保護され、密接なつながりを持ち続けてきた。今でも両方を一緒に参詣することが推奨されており、それだけつながりは深いということ。
 で、それと真耶ちゃんの本気とどう関係があるのか? 実は、照月寺を代々守っているのは池田家。そう、その長男が家庭科部の元部長であり、真耶ちゃんが恋心を抱いているあこがれの先輩、池田卓哉くん。真耶ちゃんがいつもより気合いを入れるのも無理はない。
 真耶ちゃんは当初自分の家、すなわち天狼神社でお月見をやるつもりだった。だがこのことを知った大人の人達から、
「どうせなら照月寺でやれば良い」
という意見が出てきた。言われてみれば照月寺という名前はお月見にはピッタリだし、実際寺の中で催された時期も長かったのだという。真耶ちゃんはそれを知らなかったようだが、いざその話が出ると恥ずかしがっていた。ただそこは苗ちゃんや優香ちゃんの後押しで、実現の方向に持っていかれたし、そうと決まればあとは全力でいいかっこ見せようと気持ちを切り替えた真耶ちゃんだ。中止となればそれはがっかりするだろう。
 しかし真耶ちゃんの願いも虚しく、雨が降り始めた。真耶ちゃんの落胆ぶりは相当なものだ。そんな様子を察した苗ちゃんが、
「それはそれとして。パーティーしようぜ。晩御飯も兼ねて、さ?」

 夕食の準備はできている。おむすびやサンドイッチをメインとしておかずが付く。それ以外にフルーツやスナック類もある。わりと人数は膨れ上がっているのだが量もあるし、お寺は敷地が結構あるのでみんな揃って食べる場所はありそうだ。
「どこで食べるんですか?」
お寺の管理者であるところの池田くんのお母さんに尋ねると、横から案内役を買って出てくれたのが優香ちゃんだ。手にはラップでフタをした煮物の皿を持っている。
「あづみさん、ついてきて?」
私もおむすびの皿を持って付いて行く。が、そこは意外な場所だった。
「こういうときでないと体験できない、とっておきのシチュエーションだから。あ、あづみさんも上に着るもの準備してくださいね?」

 しかし、雨をありがたがるのが村の伝統とはいえ、ここまでやるとは。
「レインコートパーティーって言ってさ、雨の日には子供はみんなやるんだよ」
夕食の会場は、なんと外。雨なのに。しかも屋根は無し。そんな中、子どもたちはレインコートやレインスーツを着込んで椅子に座っている。
「雨って憂鬱になるものでしょ? でも作物が育ったり、生き物が生きていくためには必要じゃない。だから雨の日だっていいことあるんだよって子どもに教えるために、楽しいイベントを雨の日にやることになったの」
池田くんのお母さんが説明してくれた。確かに、雨が降るとパーティーできるよ、ってことになればみんな楽しみにするかもしれない。実際みんなから笑顔があふれている。テーブルに並んでいるのもごちそうだ。この日ばかりは子供が好きそうなメニューを集めて、お菓子を沢山食べても許されるんだとか。そうすれば雨が待ち遠しくなるし、出かけるのを億劫がることもなくなるってわけ。ちなみに傘は禁止。レインコートに子供を慣れさせる狙いもあるのだとか。蒸れたりするから着るのを嫌がる子供もいるだろうし、その場合お菓子をご褒美にしてレインコートでの外出をうながすというわけ。夏は雷雨が多く冬も降水量の多い厳しい気候だから、生活のためレインコートに慣れる必要があるのだ。

 ただ食べ物が濡れてきているのはどうしたものだろう? ラップこそしてはいるがそれでも雨が入ってくるし、大人数でつまんでいるからいつの間にかラップは丸まってしまっている。
「これが美味しいんだよ。しんなりしたのがまた違った味わいで」
ポテトチップスを口に加えながらお花ちゃんが言う。私も口にしてみるがパリッ、ではなく、ふにゃ、って感じだ。
 雨はどんどん降ってくる。インターネットで見る気象レーダーは十ミリを超す大雨が今降っていると告げている。皿がどんどん水たまりになる。レインコートのフードから水がボタボタしたたり落ちてますます食べ物を濡らす。でもどんな大雨でも危険がない限りは続けるのが習わし。それに雨が強くなればなるほどみんな喜んでいる。
 ところが、肝心の真耶ちゃんがいない、と思ったら、いた。本堂の、ひさしの下。どうしたの? と声をかけると、
「レインコート…忘れた…」
涙目である。それはそうだろう。お月見ができるかどうか分からない上に、そのかわりのレインコートパーティーに参加するための衣装が無いというのでは。もちろん家に置いてきたというわけではない。天気予報で夕方から降るかもしれないことは分かっていたので、真耶ちゃんも私もレインウェアを持参してきている。
「奥の物置に置いてきちゃったんだよ。それで戸締りしちゃったから、今タッくん先輩が鍵探しに行ってるとこ、あ、戻ってきた」
池田くんは通学などにも使えそうな、紺色の上下レインスーツ。一見地味だが実用性は抜群だろうし、真面目な池田くんにふさわしい。通学も自転車のはずだし、雨の日でもお寺の手伝いをすることがあるだろう、かなり着慣れて生地が雨になじんでいる。だがフードの下からのぞく顔がうかない感じだ。
「ごめん…鍵、親父が持って行っちゃってる」
池田くんのお父さんは僧侶で、今日も法事がある。で、車のキーに物置の南京錠を開ける鍵が一緒になっているので、開錠してから出かけたのだが、そのとき一緒に鍵を持ちだしてしまったらしいのだ。つまり閉めることは出来ても開けることが出来ない。そして物置の中に、真耶ちゃんのレインコートがある。
 真耶ちゃんの落胆ぶりはひどかった。ウチが持ってきてあげる、と苗ちゃんが自転車に向けて走りだそうとしたが、池田くんが押し留めた。
「それだと時間もったいないだろ。俺もう一着持ってるから、ってあれは真耶には大きいかな。そうだ、これ着るといい。俺が戻るの待ってるより、すぐパーティーに出たいだろ?」
池田くんはやおら自分のレインスーツを脱ぐと、真耶ちゃんに羽織らせた。受け取った真耶ちゃんはボタンを一つひとつ閉めるとファスナーを上げ、フードをしっかりかぶる。ズボンもしっかりはく。足元は土の上も歩くことから、はなからなレインブーツを着ていたのが幸いした。
「あ、ありがとう…タッくんのレインスーツ…あったかい…」
真耶ちゃんの顔に微笑みが戻った。そして片思いの相手の服を着られたことで、顔を真っ赤にしていた。池田くんは代わりのレインスーツを取りに母屋に消えたが、残された真耶ちゃんは、からかわれることになる。
「タッくん先輩の服が着られて嬉しかろ?」
「そんな…聞かないでよ…恥ずかしいよぅ」
と言いながらも、
「でも嬉しい…タッくんの、においがする」
フードを両手でつかんで顔を覆うような仕草をすると、うっとりしながらそう答えた。

 レインコートパーティーは、やってみると楽しかった。だが風が強くなってきてはさすがに危険だ。宴はお開き。かと言ってこの風雨の中子どもたちを帰らせるわけにも行かないということで、寺の宿坊にみんなで宿泊することに。照月寺は災害時の一時集合場所にもなっているくらいなのでむしろ安全なのだとか。
 まぁ、子どもが集まってお泊まりとなればそう簡単にオヤスミナサイ、とも行かない。残ったお菓子を持ち寄ってワイワイガヤガヤパジャマパーティー。大人は大人で、いつの間にか渡辺先生も現れたとあってはやることは決まっている。私も有無を言わさずコップを握らされ、グビグビと日本酒を注がれる。
 そんな賑わいをよそに、神妙な面持ちでいる希和子さん。
「台風が来たときには被害が出ないように祈祷(きとう)をする決まりだから」
もちろん真耶ちゃんと花耶ちゃんも一緒で、いつの間にか三人とも神官と巫女の装束に着替えている。そしてそのかたわらには作務衣を来た池田くん。天狼神社と照月寺の役割分担のなかでは、祈祷のたぐいは神社の担当なわけだが。
「たまには、な。真耶たちだけにやらせるわけにも行かないからな」
ありがとう、という真耶ちゃんの目が潤んでいた。

 もっとも、祈祷といってもしじゅう祈り続けるわけではない。希和子さんが一人残ってしばらくやっていたようだが、他の私たちは返された。早く寝るように、とのことだったが、寝床に行っても寝られるわけがなく、しばらくガールズトークが続いた。意識がなくなったのは何時頃だったか、覚えていない。
 ふと目が覚めた。
 寝付く前までは雨風の音が激しかったが、静かになっている。トイレに行っておこうと思い廊下に出ると、
「まぶし…あっ!」
いつの間にか雲が切れて、そこから待望の月が覗いていた。小用もそこそこに、慌てて寝室に戻る。
「ねえ、誰か起きてる? つ、月! 月出てるよ!」
小声で、でもみんなの耳に行き渡るような声量で呼びかけた。すかさず花耶ちゃんが気づいた。
「ん…おおっ、やたっ! お姉ちゃん、起きて、お姉ちゃんってば!」

 あっという間に寝室は空っぽ。縁側にずらっと人影が並ぶ。まだ雲は多いので時々月が隠れたりもするが少しずつ雲が減ってきている。ようやく念願叶ってのお月見が実現、というわけ。真耶ちゃんはじめ何人かは着替えに行った。そう、準備していた衣装を着るのだ。
「お待たせ」
との声と共に現れたのは…。

 わんこ?

 「オオカミですよぉ。天狼神社の神様。可愛いでしょ?」
珍しく真耶ちゃんが自画自賛したかと思ったが、着ぐるみのことを言っているのだとすぐ気づいた。というか声こそ真耶ちゃんだが、口くらいしか見えない。狼の頭の部分が中にいる真耶ちゃんの頭を覆い隠している。
 それにしてもかわいいデザインだ。瞳はマンガチックなデザインで、真耶ちゃんに合わせたのか青くなっている。全体の毛並みもふわふわもこもこ。ちょっと触ると手が埋まりそう。
 同じような格好をしているのは真耶ちゃんだけではない。花耶ちゃんに、苗ちゃん、優香ちゃん、お花ちゃん。他にもちっちゃい狼さんが何人か。これは真耶ちゃんが幼い頃、神宿しの儀の時に着ていたのだのを有効活用したのだとか。
「素敵よねー。真耶ちゃんの晴れ姿、たまんないわー」
屋代さんも今回の協力者の一人。ただ自分は着ていない。真耶ちゃんが着ているのを見るのが楽しいのだそうだ。

 でもたしかに、屋代さんがうっとりするのも分かるというか、着ぐるみが可愛い出来具合なのだ。想像以上のふわふわもこもこ具合。
「自分だけ着るのは悪いっていうか、他にも着たいって子がいるかもでしょ? って真耶ちゃんが言って。だからこそぜひ復活させたかったみたい」
と、その屋代さん。たしかにみんな楽しそうではある。神事に使うものを簡単に貸し出すのはどうかとも思うが、そういうカタいことを言わないのが天狼神社の伝統だということもわかっている。
 でもやはり真耶ちゃんが一番着慣れているというか、身のこなしとか、あと言葉では説明しづらい気高さみたいのも感じるので、やはり神の子として「何か持ってる」ということなのだろう。
 「ねーねー神使様、あれやって? あれ」
と言いながら子供たちが寄ってくる。着ぐるみを着ていない子もオオカミの耳を模した飾りをつけたカチューシャをしているのだが、その頭を真耶ちゃんの口に押し付けてくる。すると真耶ちゃんが、
「かぷっ」
子供の頭にかぶりついた。え、なにこれ?
「ああ、真耶に甘噛みされた子供は健康で幸せになるって言われてるんよ。といっても真耶もあのデカイ頭コントロールするの難しいから子供のほうから願をかけたい身体の部分を口に突っ込むんだけど。願い事はほとんど成績良くなりたいとか綺麗になりたいとかだから、みんな噛んでもらうのは大体頭だね」
苗ちゃんの説明をふんふんと聞いていたのだが、
「あづみさんもどう? 子供限定ってわけじゃないから」
と勧められた。縁起物だと思って私もやってもらうことにした。おそるおそる真耶ちゃんの着ぐるみの口の中に、自分の頭を入れてみる。仮にも男の子の顔のそばに自分の頭を近づけるわけだ。なんかドキドキする。が。
 「くさい…」
真耶ちゃんには悪いけど、相当汗臭い。そりゃそうだ。いくら涼しいとはいえ、ひときわしっかり分厚い生地である真耶ちゃんの着ぐるみは、着ているだけで相当暑いと思う。だから外は涼しいとはいえ、着ぐるみの中から熱気がむわっと襲ってくる。暗闇の中に真耶ちゃんのスラっとした鼻とピンクの唇が見えるが、汗でうるんでいるのが分かる。
「あ、嫌がっちゃダメだよ~」
花耶ちゃんに横から釘を差された。
「その匂いは、神使様の匂いだから。たっぷりかいだほうがいいよ? あとお姉ちゃんさ、あづみさんだからって遠慮しないでよ? ちゃんと噛んであげないと不公平だよ?」
えっ? 私ちゃんと噛まれてると思うけど…こうやって口の中にしっかり頭入れてるし…。
「あ、ごめんなさい、じゃあ今から噛みます…」
真耶ちゃんがそう言うと、
「かぷっ」
私の頭が、着ぐるみの中にいる真耶ちゃんに噛まれた。
「噛んでるフリだけじゃダメじゃん? 中で真耶自身もちゃんと噛まないと。あ、血が出るとかは無いから安心して?」
苗ちゃんが続いて説明する。歯型が付くくらいならいいが血とかが出るといけない。なので真耶ちゃんは専用のマウスピースをしているのだという。
「よられ、れちゃうかもらえど…ろえんなはい…」
よだれ、出ちゃうかもだけど、ごめんなさい。苗ちゃんが通訳してくれた。私の頭に噛み付いている上に、マウスピースのせいで話すのが難しいらしい。そういえばさっきからどことなく口がもつれたりはしていたのだ。やはり神使ってすごい大変な仕事なんだと思う。
 多めにサービス、ということでしばらくオオカミの口の中。髪の毛に真耶ちゃんのよだれがついていたが、拭くと悪い気がしたのでそのままにしておいた。

 「満月の夜にこうやって狼の扮装をする習慣があったんだな」
すでに相当飲んでいるであろう渡辺先生が、縁側に座り込んだままで解説する。
「でも、どうしてオオカミなんですか?」
「んー、気付かんか? 満月と、オオカミ」
あ。自分の質問はあまりに間抜けだった。
「日本のお月見の習慣と、西洋の狼男伝説が結びついたわけだ。ちょうど天狼神社の存在もある。だから人間がオオカミになることで月からパワーをもらう、と。昔は秋にかぎらず満月の日ごとにやっていたようだが」
「でも、なんで廃れたんですか?」
私は訊いてみた。そういうありがたい行いなら残っていいはずだ。が、渡辺先生の返事はなんだか浮かないものだった。
「…まあ、直接的には子供が夜出歩くのが良くないって話なんだろうな。他にもいろいろ行事はあったんだが、どんどん消えていっているよ」
「なんでですか? お祭りくらいいいと思うんですけど」
「良くないと言うよりは、一部の人間には面白くないってことかもしれん。特に子どもが中心ってとこがな」
再び、希和子さんの言葉が思い出された。
「天狼神社の神事は、子供が主役なのよ。それにこの村も、子供が回してるの」
でもそれを望まない勢力がある、それは渡辺先生から聞いている。おそらく生徒にきつく当たっている教頭先生一派はそっち側だろうし、案外その陣営は人数がいるのかもしれない。そう思うとなんだか憂鬱にもなる。すると、
「何凹んでるかなぁ、あづみさん。せっかくのお祭りだよ?」
狼の姿をした苗ちゃんに軽く小突かれた。確かにそうだ。
「つか」
ただその後のセリフは予想していたものとはいえ…いよいよ来たか、というか。

 「あづみさんも着るんよ? ほら」

 着ぐるみを着る際は素肌がそれに触れないようにするのがマナーだと、着付け役の篠岡さん姉妹。二人も今日はサポートに徹している。借り物のスポーツインナーやらタイツやら水泳キャップやらで身体を覆うが、最終的には全身タイツということになる。もう初めてではないのだが恥ずかしさは消えない。
 その上から着ぐるみを着るのだが、足だけ入れた段階でこれはかなり暑いだろうと悟る。これでも薄手の方だし、洗濯もできるやつだから多少は汗がしみてもいい、薄着でもいいよというけれど、では真耶ちゃんが着てるやつみたいのはどうなるのだろう? あっちは洗濯出来ない厚手の素材なので汗が付かないよう中にも厚着するというのだから、その大変さはいかばかりだろうか。甘噛みされた時の臭いの理由がよく分かった。
 「わー、かわいいー」
真耶ちゃんに歓声をあげられた。ほめられるのは悪い気がしないが、やはり暑い。特に普段表に出している顔面以外の頭部がしっかり包まれているので違和感がある。でも実際着ぐるみを着ている質感が気持ちよく感じるのも事実。これはこれで有りという気がしてきた。
 「おだんご食べるよー」
優香ちゃんが月見団子を持ってきてくれた、といってもこの手では持てないので、長めの竹串が人数分用意してある。先に半円形の把手が付いていて、そこに手をくぐらせると固定するのに丁度いいサイズ。これを使って団子を刺し、口にしてみるとわりと簡単。お茶もあるがストローとフタが付いている。フーフーしなくてもストローで吸ってやけどしないくらいのぬるさで美味しいように立てたのだそうだ。
 大変だ。
 大変だけど、それだけに得るものは大きいと思う。着ぐるみに蒸れて暑い中で飲むぬるめのお茶は美味しいし、時折吹く秋の風が心地よい。

 空には満月。
 地上には、もこもこの狼たち。
 いつの間にか、みんなが寄り添っている。大体仲良し同士固まっているが、その中にやたらとソワソワしている狼さんがひとり。
「もぉ、お団子もらいに行って戻ってきたら、ここだけ空いてるなんてぇ」
ひときわもふもふの狼さんは真耶ちゃん。
「苗たちにうまくやられたな。まぁ観念しなよ。俺も悪いことだとは思わないからさ」
ちょっとゴワゴワ気味の毛にスレンダーなボディの狼さんは池田くん。
 周囲はみんなしてやったりの顔。それを見渡した真耶ちゃんは、一層もぞもぞしつつも、
「みんな、ありがと…」
 ちっちゃくて華奢なもふもふ狼が、すらっと背が伸びたワイルド狼の身体に、そっと寄りかかった。
 寄りかかられた狼は、自然な手つきでそれを受け入れた。
 風雨に洗われて澄み切った空気の中、二匹の狼を秋の月が照らしていた。

宗教上の理由・教え子は女神の娘? 第九話

 作品開始当初から、真耶と卓哉の恋模様は、特に力を入れて書きたいことの一つでした。他のにも枝葉の話がいっぱいあるのでなかなか専念できない事情はあるのですが、ようやく少し進展かな、って感じで作者自身が安心しています。
 真耶と花耶の好きなブランドの話は彼女たちが普段どんな格好をしているのかを想像しやすいようにという狙いもありますし、自分の中でイメージを固定化させたかったためでもあります。なにせ挿絵が描けないものですから…こういうビジュアル的な描写はどんどん入れていったほうがいいですね。まぁこのへん僕自身の好みが反映しています。子供服の世界も最近はフェミニンな感じのが多いですが、個人的には数年前爆発的に流行ったパステル系のやつが可愛くて好きですね。あれを着て育った子たちがママになってその子どもたちがおしゃれを覚えた頃に、あのテイストが返ってくるのではないか、むしろそうなればいいと思っているのですが。
 木花村独自の風習に関する話が、今用意している構想の中では増えていく予定です。そのへんで色々楽しんでいただければ。

宗教上の理由・教え子は女神の娘? 第九話

村のはずれの神社に住まう嬬恋真耶は一見清楚で可憐な美少女。しかし居候の金子あづみは彼女の正体を知ってビックリ! 廃れてしまった村の伝統行事を復活させたいと意気込む真耶。しかしその行事の内容は…そういえば登場人物の恋模様を描いていなかったと気づいた作者はそっち方面へのテコ入れも考えているとかいないとか。

  • 小説
  • 短編
  • 青春
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-10-05

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