第8話-12

12

 デガタ議長は白い椅子から立ち上がると、水の浮力に身を任せ浮かび上がると、議長室から見えるディーフェ族の首都の光景を眺めた。丁度その時、巨大水生生物ブシュターの群れが首都の上空を泳いでいった。

 地球上の生物でいうマンタに似ている巨大生物で、全長が600メートルを越え、それが数百匹と泳ぎすぎていく。

 恒星ボバハの陽光を乱反射する水の光を遮る、群れのいくつもの影に、憂いを落とした顔をして議長は、ビザンに事態を説明した。

「知っておる通り、ジュヴィラ人の政治的統括を担うのは、バンダイン党だ。ジュヴィラ人の歴史上、いくつもの正当がこの700フェザの間に生まれては統合を繰り返してきた」

 地球の数字に換算すると700万年の間の話だ。

「バンダイン党はその中から生まれたいわば成熟した果実とも言える政党であるとワシは考え、バスガリーガ首相は賢明な方であった。ワシが若い頃よりずいぶんとジュヴィラの文明を見てきたが、あれほどジュヴィラ人のことを思い、ジュヴィラ人のために尽力してきた方も珍しい。ワシはそう思い議長として、それぞれの種族を代表する立場として、公正な付き合いを行ってきた。だがこの数年のことだ。バンダイン党の総裁に新たに就任したデルガイアが大きく勢力を拡大していった。デルガイアは多くの面で軍部と協力体制を構築し、力によって派閥を拡大していった。ワシ等ティーフェ族だけではない。ベルダイア人、ライナウアン、コエオイ人、バテスア族、エイハンヌ人文明との間にも、軍部を使った宙域侵略、紛争を生み出した。首相はその都度、相手の文明代表と粘り強く交渉と賠償を行い、これまで大きな戦争をすることはなかった。首相の軍事権を侵害する総裁の越権行為は、もちろんバンダイン党、ジュヴィラ人の中でも反感をもって伝えられたが、行動を起こす者は、常に謎の失踪、闇に消えていった。首相もジュヴィラ人の内部でことを起こすのを避けたいとこれまで我慢なされてきたが、今回の事件でついにデルガイア派閥の粛清が行われるはずだった」

 議長は苦渋に顔を歪め、青く染めた。

「しかしだ。首相の側近にも派閥の配下がいたのだろう。首相の動きをいち早く察知したデルガイアは、軍部を動かしバンダイン党の主要人物の邸宅を包囲、首相を反逆罪の名目で拘束しようとした。これを不服とした首相を容赦なく、殺害したそうだ」

 ジュヴィラ人文明は、ここに大きな転換期を迎えようとしていた。

 隣人の騒ぎは対岸と火事ではないと知るビザン、デガタ議長とその場に居合わせた各部族代表たちの胸には、不安の鉛がずっしりと溜め込まれていた。


第8話-13へ続く

第8話-12

第8話-12

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-12-07

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted