憂さ晴らしやった

現代では考えられんほど、教師の行き過ぎた教育に寛容な時代やった。

「寒いからこれ来て行きなさい」

小六の冬、母に着せられた赤いコート。

普段ほとんど親に構われない子供やったで、そう言いながらせっせとコートを持ってきてくれる母親をとても優しく感じ、内心喜んどった。

教室ではストーブが灯されとるほど寒い日。

にも関わらず、担任の男教師は私のコートを良しとはせず、むしろ模範的な登下校の服ではないと主張し、クラスの見世物にした。同じく、男教師の目に留まったもう一人の男子M君も教壇に立たされ、集中的に〈指導〉された。

他にも上着を着ていた生徒はおったのに、M君と私だけが教師の横行の的になった。

なぜか。彼が私達を気に入らんから。

男教師は二年間私の担任やった。

彼は当時新婚で、すぐに子供にも恵まれた。子供の誕生日はたまたま私と同じなんやと、授業の合間の雑談で彼は楽しそうに語った。

「慶さんのような子供には育ちませんように」

笑いながら言っとった。

今やったら悪口の一つ言い返してやればよかったと思うけど、当時の私は今よりもっと気が弱く、幼かったで深く傷ついた。怒りや反論の余地もなく、たたただ無力感が込み上げてきた。

当時のクラスメイトはどんな気持ちでその言葉を聞いとったんやろう。

今も付き合いのあるMちゃんは、当時自分の事みたいに怒ってくれた。

「普通あんなこと言わへんて!◯◯先生ひどすぎる!」

ほんとやね。ひどいて。
仕事と家庭、彼にも色んなストレスあったんやろうけど、あれはないわ。弱いもの相手に言いたい放題。動物より質が悪いて。

恨みはないけど(こうして書いとる時点で恨みあるんかな?笑)、納得できへん思いは未だに心の中でくすぶっとる。

あの時ちゃんと嫌な気持ち吐き出せとったら、今何かが変わっとったんかな。

憂さ晴らしやった

憂さ晴らしやった

  • 随筆・エッセイ
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-12-06

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