狙撃手2

シリーズ2、狙撃手の人質奪還編。

海外で実戦中の主人公が、組織からの「人質を預かった」の挑戦あり。人質奪還の為、日本に戻る。

「Linuxか」

今野充は今、シリアにいる。
レミントンM700を構えている。連合軍の傭兵だ。
この銃は連射は出来ないが、メンテナンスのしやすさと、命中率の高さがメリット。
この付近は、米軍を主とする連合軍の爆撃と砲撃などで、街の建物は殆どが全半壊に等しい状態で残っている。辺りの地面は戦闘の激しさを物語るように塹壕や穴ぼこだらけ。
片側だけ残っている建物の2階にシリア過激派組織の狙撃手が立て籠もって、同じ様に崩れかけた建物の陰で相対する、8人の連合軍兵士の進撃を阻もうとしている。
双方は2、2キロほど離れている。
幾つかある窓から、黒と赤の横線に挟まれた白地に緑の星が見える。
少し前に米軍の狙撃手が最新式の銃「Linux」で狙ったのだが、敵に多少のダメージを与えたと同時に、逆に居場所を知られる事になったようだ。
「Linux」は、驚異の命中率を誇る。スコープに特徴があり、弾丸の発射から着弾までに影響される様々な要素を自動で計算し、スコープを狙えば一撃で敵を倒す事が出来る筈なんだが。狙撃戦になるとなかなか決着がつかない。
少し前までは、装甲車に隠れるように歩兵が移動していたのだが。
対物用の砲撃で装甲車はかなり損傷を受けて走行不能、おまけにこの狙撃手に狙い撃ちにされて、行軍は捗らない。
建物の残骸だけでは無い、壊れた壁や、木や森も障害となる。
空爆が手っ取り早いのだが、無線でも、レーダーにもこの辺りには連合軍の機影は映っていない。かと言って、メンバーはアンチマテリアルライフル(対物にも通用)は所持していない。この先に連合軍の合流場所があるから、何とか其処まで進むしか無い。逆に、敵は無線で追手を呼ぶだろう。
充は、此処を抜けられれば、連合軍の本体に合流する前に、脱走するつもりでいる。
逃がし屋のシンジケートにその手配はしてあるのだが、此処がなかなか、突破できない。
充の頭の中には、「日本に一時戻り、やらなければいけない事がある」
そして、充は考えた、「此処を突破出来たら、ある程度進軍した辺りで撃たれて倒れる、後は匍匐で2キロは行けるだろう。(味方にも紛れた辺りで、単独で行動に出る)
市街戦では無いし、集団で機甲戦をするわけでもないから、紛れる事は可能だ」と考えた。
観測主と狙撃手、それに数人の兵士が話し合っている。
二階の狙撃手を倒して、建物に突入して突破しようという腹なんだろう。
突然、弾丸が飛び交う音がして、建物の窓石が吹き飛ぶと、逆に、こちらにも狙撃弾が飛んできた。
充の目から建物の奥に蠢く狙撃手らしき人影が見えた。狙いを付ける。
風はかなり強いし弾丸は5秒程飛ぶ事になる、すかさず引き金を引く。反応はあったようで、狙撃手はダメージを受けたようだ。しかし、反撃とばかりに、明らかに狙撃手では無いと思われる兵士が、連射して来る・・が、被害は無い。
と、次の瞬間、連合軍の兵士が続けて狙撃された。
良くは分からないが、スコープでは、敵の銃はM40A3のように見えた。
たて続けに、3人が犠牲になる。
焦り始めた連合軍は一気に突入の構えを見せたが、充が、「先ずは狙撃手をしとめてから」と制止した。充には、大きめの壁の穴からこちらを狙っているもう一人の狙撃手が見えた。照準を合わせ引き金を引いた。
5~6秒して、反応はあったか・・。
と思ったが、充が上半身を少し動かしただけで、狙撃してくる。
充の肩の数センチ上を通過する。
その後、双方の狙撃手の打ち合いが続く。
敵の潜む、建物の残骸の窓の縁は次々と、弾丸で削れていく。
敵の弾丸も、充が少しでも身体を動かせばすれすれに通過する。
正に、狙撃戦だ。
充は、身動きをしにくい中で、彼方此方姿勢を変え、敵の狙撃手を一番狙いやすい体勢に整えた。
窓の縁沿いに敵の影が瞬時に見える時がある。
その時を狙うしかない。
充が銃を構えて、引き金に指を添えた時、敵の影がほんの少し見えた。瞬間、弾丸は6秒飛んで窓の縁より僅かに出ていた敵の右肩を打ち抜いたようだ。
敵の狙撃手は、右が利き腕の様だったから、ダメージはあっただろう。
敵の狙撃手以外のランダムな銃撃はあっても、突撃は決行された。
これ以上、敵に時間を与えたら、無線で連絡を受けた追撃の兵士に追い着かれる。
建物は連合軍に制圧され、五人の兵士は集合場所を目指してゆっくりと走り出した。
15分もした頃、後方から敵のトラックが追い掛けてくる。荷台から機関銃が連射される。連合軍兵士は、トラック目掛けて撃ちながら走り、空爆で地面に開いていた穴や塹壕に飛び込んだり。
一人が穴から手りゅう弾をトラックに投げ込む。
荷台に転がって爆裂。
これで、追手はいなくなった。
五人は再び走り出す。
しかし、後方からヘリの音が聞こえて来た。音は次第に大きくなると、ヘリは宙に制止し、五人の足元に機銃が連射される。
全速で走る五人。
充が、林の手前で倒れる。
充は倒れたまま。
残りの四人はヘリの連射を避けて林の間を全速で走る。
四人の先に壊れた建物が見えて来た、そこに辛うじて身を隠す。
諦めたヘリが来た方向に上昇して行く。

充は1時間ほど倒れたまま、そして、誰もいなくなったのを見計らって、匍匐前進で林まで。
林の中に入ると立ち上がり、林に身を隠しながら走る。

バンドの簡易無線に連絡が入った。
シンジケートは近い。
砂煙をあげて、あっという間にジープが充の手を取って車に引き上げる。
表向きは連合軍仕様のジープだ、少し走ると連合軍の何人かが歩いているのに出会う。片手を振り、その脇をすり抜ける。
やがて、連合軍の拠点とは違う普通の空き家の前に車を止め、脇に置いてあった普通車に乗り換える。
すぐ脇を走っているのは空港へ繋がっている道だ。
充は迷彩服を脱ぎ捨て、車の中に用意してあったスーツに着替え、サングラスをする。ここまで来れば後は空港まで突っ走るだけだ。
空港ロビーに行く前に、偽造パスポートなど入出国に必要な一式書類を貰う。
飛行機はほぼ定刻に離陸した、目的地は羽田空港だ。

羽田のロビーを出、空港駐車場に向かう。
外国人の男が二人乗っている黒いセダンに乗り込むと、一人が狙撃銃M107(M82A1M)を渡した。
充は其々ゴルフバッグとシリアから持って来たバッグの中に入れて、隣に止めてあった同じ車種の車に乗り込んだ。二台の車は空港を出て、首都高湾岸線に乗ってから東京方面と横浜方面に別れた。
充は横浜横須賀道路を南本牧埠頭に向かって走っている。
以前、関係のあった闇組織から、メールで指示があったからだ。
その内容は、「charge of a hostage. Come, or do not come; on you?」(人質を預かっている。来るか来ないかはお前次第)
充には親族はいない。
メールに添付されていた写真には、養護施設で一緒だった女性が写っている。養護施設で育てられた者は、共に幼い頃同じ様な境遇だったという辛い思い出と、家族の様な感情を持っていた。
増してや、充が恋心を抱いていた、「葉月洋子」、狙撃手だって人間だ、感情の一つや二つ、あってもおかしくは無い。狙撃手になろうと思った時に捨てた感情の一つ。
組織のボスはミッシェルという男。本拠地は横須賀らしい。
本牧を指定して来たのは、夜間になると、人が少ないからだろう。
この日は、昼過ぎに埠頭の入口付近で何か大きな事故が会ったらしく、水深十八メートルの着岸突堤まで通じる道路は通行止めになっていた。
これも組織の仕業かも知れない。
充はそこで、車を降りた。
特殊部隊用の黒服に着替える。
暗視ゴーグル、ライフル用のサーモグラフィ内蔵スコープの映像を投影するシステムを、Bluetooth で接続したものを装着。
埠頭に近付くに連れ、数人の黒ずくめのスーツを着た人間がいる事に気付いた。
コンテナーに身を隠し、此方を狙っている。
埠頭の手前に狭い道路があるから、連中にとってはそこを通る時に狙うつもりだろう。連中はただ倒せば良いが、問題は、何処に人質を隠しているかだ。黒い車が二台、普段トレーラが待機する位置に止まっている。多分、その中だろう。
充は、先ず一旦狭い道路を進む。案の定、サプレッサーの音が響く。充は臥せては前進を繰り返す。充分射程距離には入っているし、スコープで大体は見渡せるのだが、連中の全体の配置をハッキリ確認したいから、身の隠し場所が無い場所に、危険を冒して近付いた。充は真っ黒な埠頭をスコープで見ながら、「五人か」と呟いた。先ずは臥せたまま、別々のコンテナから身を出した二人を狙う。一人は前に、もう一人は海に落ちる。
コンテナの扉の隙間から狙っているのが狙撃手だろう。正確に撃って来る。
近くのコンテナに身を隠しながら充は呟いた、「人質は、二台の車の内どちらかに乗っているのだろう、どちらだ?」全面黒いフィルムが貼られているから、中の様子は分からない。
その時、一台の車のドアが開いて男が一人出て来る、ドアが開いた瞬間、街灯の灯りで車内の人質の姿が見える。「あの車か」充はニヤリと笑い呟く。
男はコンテナに身を隠したが、充が動いた瞬間にサプレッサーの音がして弾が飛んで来る。充は身を隠すコンテナーの間を移動する。連射してくる。「今だ」充は呟き、狙いを定めて、コンテナーから身を出した男をしとめる。
「あと二人、狙撃手が厄介だ、しかし、あれは最新式では無い様だ、とすると・・やはり、そうみたいだな」充はそう呟き、ある瞬間を待つ。
狙撃手がコンテナの隙間から見える。こちらを暗視ゴーグルで見てから銃のスコープを覗く瞬間、充の弾が狙撃手に・・倒れる。ある瞬間とは、暗視ゴーグルで敵を発見後ゴーグルを外し、銃に取り付けたサーモスコープで再び敵を狙うから、この間に敵を見失い易いし、機材が別々で重量がかさむから、その瞬間身体が目立つ。
残りの一人はコンテナを移動させたまま、クレーンの運転席にいる。狙おうと思った瞬間、破れかぶれになった男はクレーンを操作し、コンテナを、(普段はトレーラーが待機する位置)に止まっている人質の乗った車に落とそうとする。コンテナが車の上に近付いて行く。
充が引き金を引く、この銃はヘリコプターや装甲車などにも損傷を与えられるよう対物用でもあるから、運転手は、クレーンの運転席毎吹っ飛ぶ。

充は、車まで歩いてドアを開け、「久し振りだね。僕の事で君にまで迷惑を掛ける事になるとは、本当に、御免」と頭を下げる。
洋子は笑顔を取り戻し、「二人共無事で良かった。未だに何が何だか分からないわ。こんな事になるとは思わなかったから」
充は笑顔で頷くと、「さあ、もう何も恐れる事は無くなったし。良かったら、ゆっくりお話を出来たらいいんだけれど」
洋子が腕時計を見ながら、「まだ宵の内じゃない、横浜は近いから、何処かでゆっくりお話をしましょう。これまでの二人を」
充が、もう必要が無い銃を連中のもう一台の車に載せてドアを閉めると、洋子の乗った車に乗り込み、「そして、できたら、これからの二人も・・」


通行止めの標識の手前で、充が乗って来た車、に乗り換えると、二人を乗せた車はベイブリッジを右に見て、マリンタワーの青い光に祝福されるようにゆっくりと走る。


月が微笑むようについて来て、色とりどりの街の灯りが煌めきを増すと、涼しい風も負けじと横浜の街を流れて行った。

狙撃手2

狙撃手2

海外で実戦中の主人公が、組織から人質を預かったとの連絡を受け、日本へ、人質奪還の為、向かう。

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • アクション
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-12-06

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