お母さんのバンソウコウ

「いたっ! 」
 妹のゆうちゃんとボール遊びをしていたあやちゃんは転んでしまいました。あやちゃんは膝をすりむいてしまいました。
「おねえちゃん、だいじょうぶ? 」
 3歳のゆうちゃんが駆けよってきました。大丈夫、とあやちゃんは答えようとしました。
 でも膝の傷からにじんでくる血を見たら、あやちゃんの目にもみるみる涙があふれてきました。
「帰る」
 泣き出しそうなのをこらえ、あやちゃんは立ちあがって歩きだしました。ボールを抱えたゆうちゃんが、おねえちゃんのあとを追いかけます。
 
 あやちゃんは痛む膝をこらえて歩き、家に着きました。
「お母さん」
 玄関に立ったまま、あやちゃんは叫びました。
「お母さん! 」
「はーい。おかえりー」
 お母さんが出てきました。
「うわーん! 」
 お母さんの顔を見たとたん、あやちゃんは大声で泣いてしまいました。
 普段はしっかり者で妹の面倒をよく見る優しいおねえちゃんですが、やはりまだ6歳のこどもです。ゆうちゃんが言いました。
「おねえちゃん、ころんだの」
「そうだね。傷をきれいにしようね」
 お母さんはあやちゃんの肩に手をかけて家のなかへ連れていきました。

「ちょっとしみるよ」 
 お母さんはあやちゃんを椅子に座らせると、洗面器のぬるま湯にガーゼに浸し傷をきれいに洗いました。傷を消毒して薬をつけた大きなバンソウコウを貼りました。
「はい、おしまい。もう大丈夫」
 手当してもらったあやちゃんは、椅子に座ったままそっとお母さんに寄りかかりました。お母さんもあやちゃんを抱きよせて優しい声で言いました。
「もう大丈夫。がんばったね」
「ゆうも! ゆうも! 」
 今までずっと黙って様子をみていたゆうちゃんが騒ぎだしました。ゆうちゃんはバンソウコウが貼ってあるおねえちゃんの膝を指さしています。
「ああ、ゆうもバンソウコウしたいんだね」
 お母さんは小さなバンソウコウを取りだして、ゆうちゃんの膝に貼ってあげました。
 すると、ゆうちゃんもお母さんに寄りかかりました。お母さんは両方の腕でふたりをぎゅっと抱きしめました。
「ふたりとも、まだどこか痛い? バンソウコウ貼ってあげようか」
「おでこ、痛い」
「ゆうも、おでこ」
 あやちゃんが言うとゆうちゃんも言いました。
「それからほっぺも」
「ゆうも、ほっぺ」
 はいはい、とお母さんは次々とふたりにバンソウコウを貼っていきました。あやちゃんとゆうちゃんの顔や腕、足はバンソウコウだらけになりました。
「次はどこ? 」
「もうない」
「ない」
「そう、良かった。これでもう大丈夫」
 お母さんはバンソウコウだらけのふたりをもう一度ぎゅーっと抱きしめました。
 さっきまで泣いていたあやちゃんは、今はもうにっこりしています。ゆうちゃんもにっこりしています。
「ふたりとも元気になったね。また痛いところがあったらバンソウコウ貼ってあげるね」
「うん、また貼ってね」
 あやちゃんが言いました。
「はってね」
 ゆうちゃんが言いました。
 お母さんはにっこりしながらうなづいて、またまたふたりをぎゅーっと抱きしめました。
「お母さん、痛いよ」
「痛いよ」
「よし、バンソウコウ貼ろう」
 みんなで一緒に笑いました。

お母さんのバンソウコウ

お母さんのバンソウコウ

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-12-04

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