僕は助けません。

「やめようぜ、っていえるやつがいなかった」

雰囲気だけがそこにあるから、雰囲気の中でも人気と不人気があるから。
だからそれはいじめじゃなかったし、いじめじゃないと思う、ただ瞬間的に、一人の人間をからかって、クラス全員がばかにした、
いつもは仲が良かったりしても場の雰囲気でそういう事は起こりうる。事実いつもは和やかなクラス、けれど卒業が近くなるにつれ、かりかりとして
生贄を探しはじめていた。そんなある秋の日。
 B-3その教室。
 俺はあの時の事を反省している。だけど、俺はいま、なんでこんなに、陰口をたたかれる立場になったのだろう。
そうだ、これは、呪いだ。社会人になって、とろくて、俺が仕事が出来ない人間なのは、呪いだ。
人を陥れるという、陥れていないという証明が欲しくて、
歪んだ善意を持ってしまったからだ、席を譲り続けてやっと気づいた。
同情したから、やめようぜ、って言えなかったんだ。

僕は助けません。それは人のためと偽って、僕が助かろうとするからです。
僕は助けません。僕たちは、平気で自己中心的なふるまいをして、他の人の苦しみを考えないからです。
いいわけにするのをやめましょう、足を引っ張り合うのをやめましょう。どこかで距離を保ちましょう。

 B-3その教室、手紙を残して、あいつは自殺した。あいつは、まさか俺が本当に助けないとはおもっていなかったんだろう。俺たちは世界の最下層の2人、けれどルールに歯向かう方法も、ルールとは違う信念を持ち守る方法も知らなかったんだ、だから、今も探し続けている。
 二人が助かる方法は何だ。二人が生き残る方法は何だ。それはどちらかが苦しいとき、助けるという行為であって、それと同時に、むしろそうでない状況で、苦しくない状況で俺たちは、その距離感を守り、探りあうべきじゃなかったのか。
 今だに俺は、あの頃の他の皆に対する不信感と怒りをもっていて、あいつは、なぜ死んだのかっていう事と、あの最後の日のいじめが、俺の眼をみても、俺の名前を発しなかったことが悔しくて、俺は、助けてほしいときには、面とむかって助けてと言える人間でありたかった、そんないいわけばかりをしている。

僕は助けません。

僕は助けません。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-12-04

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