無題

 鍵しっぽのお前は拾われ猫のくせに外を知らない。一枚ガラス隔てた場所でカラスと喧嘩して、知らない場所は車の中から眺めて。一度冗談で地面に足をつけさせたら慌てて家の中に走っていったのを覚えている。
 ぽってりと太ったお前は、まだ子猫の頃は相当なべっぴんさんだってちやほやされたのにな。いつの間にツチノコみたいななりになってしまったのか。仰向けにだらしなく寝転がって、猫じゃらしを振っても投げやりに前足を揺らしたのを覚えている。
 毛のよく抜けたお前に、猫アレルギーの私は触れることができなかった。お前と出会って初めて判明した猫アレルギーだ。同じ部屋にいると鼻がぐずぐずになる。仕方なく避けていたけど、わかっているのか否かお前は、必ず寝転がった私の顔の前を歩く。鼻に体を擦り付けるようにして歩く。さては悶絶する私を笑っていたな。
 気分屋なお前は私には甘えなかったけど、私が気を落としてるときは側にいてくれてたのを知っているよ。お前は賢いやつだ。だから尻尾で鼻をぱふぱふするのはやめてくれ。
 私はお前に何もしてやれなかったけど、今日だけは泣かせてほしい。いつも撫でてやらなかったのに、こういうときだけ手のひら返すみたいに撫でまわしてごめんな。手に毛がつかなかった。こういうときまで気が利くね。
 元気でな。お前はいい猫だったよ。
 今お前がどこにいるのかわからないけど、まだ乾物ばかり食ってるのか。食べてみなよ、猫缶。
 お前のトイレ撤去されてたよ。物入れの戸開きやすくなった。それが心底寂しい。
 いつでも遊びに来なよ。撫でてはやれないけど、同じ部屋には居れるから。案外お前家大好きだし、しばらく押入れ辺りにでも潜んでるかもな。
 週に一度実家に帰る。初めての猫のいない居間、鼻がぐずぐずし始めた。

無題

最初で多分、最後の猫だったんです。

無題

どうしても書いておきたかったんです。

  • 随筆・エッセイ
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-12-03

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