下手くそな沢庵

《下手くそな沢庵》




「一緒に暮らそうよ」

雨の中で受けた告白はあまりにもあっさりしていて、僕にはピンとこなかった。
君は一世一代のつもりだったと、後から聞いたけど。
だってそれより6年も前に言ってくれたじゃない、好きだって。
僕にとってその一言は藁。すがるように掴んだ。

君は僕の身体の中を走る亀裂に、根気よく愛を充填してくれた。
僕はダラダラと愛を垂れ流しながら、君のもとへ歩いた。
肉片と体液でぬかるんだ道を君に見せつけながらね。

いいのかい、僕はこんなにどうしようもなくドロドロなんだよ?
何度も確認しなきゃ気が済まなかった。
いつ消えても仕方ないと言い聞かせた。


不思議だった。
泥だらけの僕の手をぎゅっと握った君の手は白いままで。
僕の手まで、いつの間にか綺麗になっているように見えたんだ。
だからかな。
離さなくても良いって、信じはじめて。いや、離したくない言い訳にちょうどよくて。
僕は君の手を握り続けた。
恋人つなぎで。どんなに指が痛くなっても。それこそが幸せだった。


あれから同じ時間が流れて、君の一番が僕じゃなくなって。
虹色の思い出玉は、地下の一番深いシェルターで眠っている。
もう、僕でさえ取り出せないよ。

君が優しいのも厳しいのも、俺様なのも意気地なしなのも知っているのに
ぎゅっと、解けないほど固く君と絡まっていた僕の指先は
冷たいまま空っぽのポケットの中におさまっている。

恋人ができたとか、浮気してましたとか。
修羅場でもあれば、僕らの灯火は再燃したのだろうか。


僕らはトキと一緒に、隣り合って羽を休めている。
知ってる?
金の切れ目は縁の切れ目。
体の切れ目は恋の切れ目。

僕たちに残された切れ目は、あとどのくらい?

下手くそな沢庵みたいだね。

下手くそな沢庵

下手くそな沢庵

  • 韻文詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-12-01

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