真昼の影の男性

誰かが僕に、こう言いました。
「君は生き方不器用だね。」
下を向いていた僕は、はっと顔を上げて、
そんなことを言ってきた顔を不審げに見つめました。
その人は口をにやと笑った形に捻じ曲げて、こちらを向いていました。
僕は背筋に恐怖と呼べるものを感じましたが、口をつぐんでいました。
何も言わない僕を確認して、彼は歪んだ微笑みを浮かべました。
僕はわずかに眉間に皺を寄せましたが、何も言いませんでした。
僕を見下ろす謎の男性は、少年と呼べそうな風貌をしていました。
けれども、その喉はまるで使い古されたように枯れ、震えた声を発し、
佇まいはまるで老木のそれでした。
彼は僕ににたにたと笑いながら、問いかけてきました。
「君は、こんなとこに座り込んで、何をしているの?」
そうです。僕は道路のど真ん中に座り込んで、
真下のアスファルトを、ただただ見詰めていたのです。
僕は問い返しました。「それよりあなたは、仕事へ行かなくていいの?」
彼は、ぎょっとしたように身震いした後、
瞬時にまたあの不気味な笑みを浮かべながら、
にたにたと僕の顔を見詰めてきました。
僕は気持ちが悪くなって、思わず「うおぇ。」と嗚咽を漏らしました。
彼は歓喜したような表情を浮かべ、ケタケタと声を上げながら、
実際に腹を抱えて笑っていました。
僕はあからさまに機嫌が悪くなって、
「いい加減、もう帰ってくれないか。」と言いました。
それを聞いた彼は、はたと笑うのを止め、
「それはやだ。」と言いました。
周りの空気が一瞬にして、冷気を帯びるのが分かりました。
実際、僕にはその一瞬、視界全体が青白く摩り替わって、
時が止まるのを感じました。
僕はまずいと思ってすかさず、
彼のガラス細工のような生身じゃない人の目を見詰めました。
彼は審議するように僕の目の奥を見詰め返し、それから
「よし。」と、言って踵を返しました。
どうやら何処かへ離脱して行くようです。
僕は内心ほっ、と息を付いたのですが、
見ると彼が顔を振り向かせて、こちらを凝視しています。
僕は心臓を鷲掴みされたような気持ちになって、
また寿命が1時間程減ったなと思いました。
ほどなく、彼が「この場所に、明日も。」と、言って
僕と彼の間の奇妙な時間は、終わりを告げられました。
こんな毎日が始まったのは、僕が中1になってからです。
何故だか僕は、死神(と、呼んでいます)に気に入られて、
毎日昼の1時にこの場所で向き合っています。
だって彼からは明らかに、
死んだ人間の匂いしかしないんですもん。
おかげで僕は、毎日給食の時間だけ教室からいなくなる、
変なやつだと思われるようになりました。
ああ、たった一回学校をさぼって、
平日の街中をぶらぶらと彷徨っていただけなのに、
周りから逸脱した行為はとらないほうがいいな、
と感じた中学1年生の2学期でした。

真昼の影の男性

真昼の影の男性

ホラーなのか、何なのか。思春期の頃の気持ちも一部含まれているような、謎の作品です。 読んで頂けると、幸いです。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-10-04

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted