CM

 近頃、私のつとめるする某広告代理店が、CMミームの源泉をたどるプロジェクトを開始した。人の気持ちを引き付けるCMとは一体なにか、このインターネットの発達した、情報の共有速度の速い世界でCMとはいったい何が一番効果的なのか、近頃、成功しているCMの源泉をたどると、たったひとつの象徴にたどり着く。
 大量消費、企業、組織社会、それ以外に最も人を引き付けるのは、世の中で一番強い存在だ、つまり“成功者”。成功者はSNSでもてはやされ、口コミでもてはやされ、アンドロイドでさえ、人間のミームを利用している。人々は何かしらの組織や、企業に尽くし、労働の対価に“ソレ”を求める。もて生やされているのは、人々の支持しているもので、人々の支持しているものは、人々に身近な、自分自身だ。誰もが自分自身の背丈に合った、あるいは自分でさえ、くさいものに蓋ができるような、厄介な問題を瞬間的に解決できるような、その“ひと手間”を他人に求めている。
 「英雄だ!!英雄がいればいい、実績はなくともいい、ただ批判されず、否定されない対象、CMだけが英雄を作りうる」
 ビックデータと綿密な調査から、ミームの最も効果的な手段を講じる事にした、それによって、われわれは、我々自身のCMを作りだす事にした。広告代理店のCMである。
 我々は一体何をしたか、コスト削減のために、そしてインパクトがありつつ、世間の関心を引き、それでいて身近な存在、それは“宝くじ”だった。報酬はお金ではない、その人自身のCMを作り、テレビ、インターネットで放送する事である。そして、一年分の生活のサポートを、わが社の雇っている従業員、アンドロイドにさせるというキャンペーンを開催した。そのキャンペーンは昨年から行われ、現在5組が当選、かねがねいい反響をもらっている、世間の関心も高い。
 ただ人々はまだ知らない、そういう“注目を浴びた人々”のその後について、そう、この社会が匿名であるとき、匿名でない人々にどんな仕打ちをするのか、人々はこの社会の不満の刃が、自分でない人に向いているときには気づかないのだが、この社会はすでに、誰もが誰かに刃をむけつつある、注目されるという事は、その後に不幸を残す結果になる、可能性が多いにあるのだ、最もこの先は、個人情報のため、多くを語る事はできないが。いわゆる聖者必衰、たとえこの匿名の文化がいま旺盛であろうと、必ず次には、とってかわるものが現れるだろう、と我々は予測するのだ。

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ディストピア×コマーシャル×匿名文化

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-11-29

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