Fate/key's memory 後編 中
前編→http://slib.net/5119
中編→http://slib.net/5809
後編 上→http://slib.net/7022
露出男です。いやぁ~遅くなった遅くなった。しょうがないじゃないですか。コミケだったり実家に帰ってたりTARITARI・・・
でもなんとか中編終わりました。次でラストです。
注意書き
・あくまでこれは私の妄想です。参戦作品についてはオリジナルも含んだりしています。その中で本編の設定を勝手に変えちゃったりしてます。
「あれ?こここんな設定だっけかなぁ」と思うこともあるとは思いますがご了承ください。その作品のファンの方は大変不快な思いをされることもあるとは思いますが
分かっていただけると助かります
ではお楽しみください。
街に繰り出していたギルドの面々は異変に気付いていた。
「歌が聞こえる・・・」
街は収穫祭の準備に余念が無かった。夜からは夜店も出店させる。大通りではテントが大量に並んでいた。街の人たちも歌には気付いていた。
「お、マーテルの聖歌隊の歌だな?でもどっから流れてるんだこれ。まぁいいや。」
などと、気にする様子もない。その歌に対する違和感に気付いていたのはギルドのメンバーだけであった。
「音無、聞こえるか。」
「おう、どうした。」
「街で歌が流れ始めた。どうやらマーテルの聖歌隊ってやつらの歌らしいんだが・・・」
「聖歌隊?そんなの聞いたこと無いぞ。」
「多分・・・マーテルでもガイアとは関係の無い方だと思う・・・いや、そう信じたい。」
「どういうことだ?」
「これは・・・街に出てる他の戦線のやつらにも連絡を取ったんだが・・・違和感しかないんだ。なんていうかこう・・・嫌な予感しかしないっていうか・・・というか音無、お前今どこにいるんだ?」
「俺か?俺はギルドの中だけど。」
「そうか。ならお前もちょっと出てみてくれ。こればかりはお前にも確認してもらったほうがいい。」
「わかった。じゃぁ竹山君には俺が伝えてメールを出させておく。その内容に従ってくれ。」
「了解。」
「さて・・・と」
アーチャーは竹山に電話をかける。
「あー竹山君?ちょっとお願いがあるんだけど・・・」
「なんですか。それとボクはク・・・」
「えっとみんなの携帯に歌に注意。それと単騎での行動は慎むように連絡をお願いしてほしい。あと、もし何かあった場合。頭の中でイメージすればその武器がギルドから出てくるってことも言っておいてくれ。それと何かあった場合はすぐにギルドに戻ることっていうのもよろしく。」
「了解。後は?」
「これはちょっと俺個人のお願いなんだが・・・・」
アーチャーはギルドを抜けて街に繰り出した。
ゾクッ!
「!?」
アーチャーは一気に背筋が凍るのを感じた。
「(なんだこれ・・・寒気とかそういうものじゃない・・・一気に気分が悪くなる・・・悪いことしか・・・想像できなくなる・・・街の人は何も気づいていないのか・・・?)」
アーチャーは周りの人間を見たが、普通に準備に取り掛かっていた。
だが、
「なぁー。この草やけに長いなー。」
「そうだなー。いくら収穫祭とは言ってもこれくらいは処理してもらわないとなー。」
「ちょっと業者に連絡するか。」
「お、そうだな。ちょっと電話してくるわ。」
「いってらっしゃ・・・おい、なんだあれ。」
「ん?・・・・・・え?」
2人組の男が空を見た。空には、この世のものとは思えない飛行物体が飛んでいた。
「うわあああああああああああああああああああああああああああ!」
アーチャーはその声がした先を見る。さっきの2人組が狼のような何かに襲われていた。動こうとしたがもう遅く、2人組はすでに無残な姿となっていた。
「マジかよ・・・!」
言いながらアーチャーは狼を銃で撃ち抜く
「竹山君!今すぐみんなをギルドに戻してくれ!」
「了解!」
戦線のメンバーはギルドに集結した。
「集まったか。」
「どうなってるんだよこれ!歌が聞こえてきたと思ったら犬みたいな狼みたいなのが街に一気に出てきたぞ!」
「こっちは空にFFでいうバハムートみたいなのが飛んでた・・・」
「マジ!?俺のところはなんか枝というかツタが一気に伸びてきてたぞ。」
皆が口々に今起こった状況を語る。アーチャーはまず皆の落ち着きを取り戻すことに専念しようとした。
「みんな落ちつけ。ここで焦ったら奴らの思い通りになってしまう。もっとも、これは魔物が出現していることからガイアの行動だと思う。というかそうだろう。それに、あっちはこっち側の存在を知らない。恐らく今は聖杯戦争どころではなくなる。他のサーヴァント達も動くはずだ。俺達もまずはこの街を救うことに専念するぞ。」
「音無さん。」
「どうした、直井。」
「はい。今街に出てくるってことはもうじき、このギルドにも来るってことじゃないですか?」
「そうだ。だからチームを分ける。キャスター側もチームに分けてくるはずだ。そこを一気に叩く。じゃぁ編成を言うぞ・・・」
「セイバー!」
一方雪村千春の自宅ではセイバーが一人で外に出て様子を伺っていた。
「何してるんですか!」
「・・・・キャスターが動いた。このままだと聖杯戦争どころではない。」
「え・・・?」
「天王寺の野郎が言ってただろ。ガイアは鍵を使ってこの星を滅ぼすつもりだって。今がその時なんだ。」
「そんな・・・。セイバー!あれ!」
千春が指さした方向。その方向は庭であり、木の枝が伸びて道場に絡まり始めた。まるで、自らの意思をもつように。その勢いで千春の隣にいた小鳥とハルカに枝は向かった。たまたまハルカは道場に稽古をつけてもらいに来ていて、この現場に遭遇してしまったのだ。
「・・・・ッ」
2人は目を瞑ったが、セイバーがかろうじて枝を切った。
「千春。俺は行くぞ。だが、その前に頼みがある。」
「・・・あまり行ってほしくはありません。ケガだってまだ・・・」
「その為の頼みだ。千春、お前の血を俺にくれ」
「え・・・・」
唐突なお願いであった。これはセイバーの僅かな賭けでもあった。セイバーのマスター雪村千春はセイバーの生前、土方歳三として生きていた時代にかかわった人物にそっくりなのである。その人物は鬼の末裔でもあり、鬼の血が流れていた。それをセイバーはわずかな望みということで千春に頼みこんだのである。
「私の血で・・・ケガが治るのですか?」
「いや、正確には治癒力の増進だ。いけるか?」
「・・・わかりました。私の血をあなたに分けます。」
言って千春は自らの首を出す。いつもより鮮明に見えるうなじが艶やかである。
「(やはり・・・似ている・・・)」
セイバーはその人物の面影を見ながら、千春の血をすすった。
「ん・・・・」
千春にとっては違和感そのものでしかない。この行動に何の意味があるのかを知るのはすぐであった。
「千春。もういいぞ。」
千春はセイバーを見上げた。セイバーのケガは消えていた。
「千春。お前は近所の逃げ遅れた子供たちを連れてここにいろ。その役目は燕にも任せる。」
「セイバー・・・セイバーはどうするんですか!?」
「俺は・・・大丈夫だ。」
「でも・・・ガイアの勢力にあなた一人じゃ・・・」
「確かに俺は一人だ。他のアーチャーやライダーも動くはず。協定を組めばいいのだがそういうわけにもいかなくてな。千春、意識を繋げろ。」
「え・・・」
千春は目を瞑りいつものように意識を繋げる。小鳥とハルカも真似をして瞑っていた。だがそこに行けたのは千春のみである。目を開けると、隣にはセイバーがいて。目の前には10人程の男達がそこにいた。
「うそ・・・・・」
「げぇ!千鶴ちゃん!?」
「うぅわ!千鶴だ!久しぶりー!」
男たちは「千鶴」という名前を私に投げかける。
「バカ。こいつは今のマスターの千春だ。多分、お前らの想像している通りだろう。だがいまはそんなことどうでもいい。話はわかっているな?お前ら」
それをセイバーが言った瞬間皆の目つきが変わった。いかにも今から戦うと言った目をしている。
「今回は目的はこの滅びを止めること。もちろん、敵は人間じゃねぇ、妖魔の類だろう。どのみち俺らが生き残る術はねぇってことだ。だがお前らは死んだとしても特に痛みを感じることは無い。またいつもの眠りに戻るだけだ。」
「それもそれでねぇ・・・どう思う?近藤さん。」
「ん?今回の指揮をとるのはトシだ。トシにまかせるさ。」
「ありがとう近藤さん。各自10分で経緯をまとめろ。すぐ行くぞ。」
「承知!」
一同がその場から消えていった。その場で千春はセイバーに問いかける。
「あの方達は・・・もしかして・・・」
「そうだ。新撰組の隊長の面子だ。これが俺の真の宝具ってわけだ。新撰組の本質は集団戦法にある。まぁ今回はバラバラの行動だがな。さて、こうしているのも10分しかない。少し、話をしようか。千春。」
「・・・・はい。」
それが何を意味するのか。千春は気付いた。セイバー達はもうここに戻ってくることはないつもりでいる。戦闘の場に私は連れていくつもりはないのだろう。私には子供たちを守るという役目が与えられている。
「俺の生前の話だ。簡単に言うならお前の先祖に当たるだろう。」
「私の、ご先祖様・・・?」
「あぁ、さっきお前の血を吸った時、確信した。実際に傷も治ってるしな。俺が生きていた時代。お前と同じように俺に血を与えてくれた女がいてな、それがお前の先祖だ。名前は雪村千鶴。容姿も千鶴そっくりだ・・・。だからだろうか、放っておけないんだよお前は・・・性格は千鶴とは違っておっとりしている。いや、しすぎか。」
「むぅ」
「悪い悪い。冗談だ。俺が初めてここに来た時、正直驚いた。場所が場所であるがこの道場はあんまり変わってはいない。もう150年以上昔なのに・・・それなりに修理はしてあるが、俺達新撰組がいた時代と変わってはいない。八木さんも喜んでいることだろう。」
「八木さん?」
「あぁ、この試衛館の持ち主だ。それからお前の親の世代に渡って行ったのだろうな。俺はこの街が好きだ。俺だけじゃない。新撰組の奴らもこの街には愛着がある。始まりの街だ。だがその街はもう跡かたも無くなってる。よくてこの道場だけ。これも時代の流れってやつなのだろう。時代は流れるんだ。これからもずっとな。だからこそ、キャスター達の好き勝手にはさせない。この街は俺達が守る。守りは俺達の専門だ。どうということはない。もちろん、お前も守ってみせる。」
「セイバー・・・。そうでした・・・あなたの願いを私は聞いていません。」
「俺の願いは・・・もう消えたよ。さっきも言っただろ?時代の流れで全て変わってしまったって。俺はそれが気に食わなかった。戊辰戦争で負け日本は破滅を辿ると思っていた。だが、今こうやって見ると子供たちが楽しそうに遊んでるじゃねぇか。それを見れただけで、俺は満足だ。自分達のしてたことは間違いじゃなかったって確信した。だからもうやることはないんだよ。恐らく、ランサーもそう思っていたはずだ。あいつも・・・真田幸村も自分を貫いて死んでいった男だからな。」
「そうですか・・・。(この時代を見定めることが、セイバーの目的だったんですね・・・)」
「忘れるな。あの時代は将軍の為に忠義を尽くしたが、今の俺達の主はお前だ。指示はお前に任せるから、考えておけ。・・・・時間だ。戻るぞ。」
千春が意識を戻すと、道場には隊長達が実体化していた。小鳥とハルカはいきなり男達が現れたものだから警戒している。
「よし、各々準備が出来たな。千春。」
「・・・・・・・」
複雑だった。もうセイバーには会えないような気がしてならなかった。思えばいきなり桜吹雪の夜に現れたり、新撰組に所縁あるこの道場に鬼の副長の土方歳三が召還されたこととか、偶然が偶然ではないように感じる。全ては必然であったのかと。そんなことが脳裏に浮かぶ。ふと、千春は右手の令呪の存在を思い出した。男たちは綺麗に千春の前に列を作って並んでいた。
「・・・・・令呪を以て、新撰組の方々に命じます・・・。私達を、守ってください。」
「承知!」
一同は床に禅を組み、頭を下げる。
「続いて令呪を以て命じます・・・絶対に生きて帰ってきてください。」
「・・・承知!」
千春の右手から2つの刻印が消えた。
「もう1つは、使わないのか?」
「これは・・・使ってはいけない気がするんです。本当に重要な時に使います。10年後でもずっと先でも・・・」
「そうか・・・」
「よし、行くぞ!新撰組の名をこの時代にも広めてやれ!散!」
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
「千春、後のことは任せたぞ。」
「はい・・・。ご武運を、土方さん。」
新撰組は道場を抜けて各方面へと散って行った。千春はその場に泣き崩れた。
各地方でケガ人が続出していた。そのケガ人は病院に運ばれるがその病院がもう対処しきれない状況になっていた。病人を見つけては担いで運んでいた少年上条当麻はこの状況を把握できずにいた。
「なんなんだよこれ!」
歌が聞こえてきたと思ったら一気に街は暴走し始めた。魔物の出現。木の暴走などでもう混乱状態である。当麻はインデックスに千春の道場に避難するように指示し、病院にやってきた。当然インデックスは怒りながら道場まで行ったわけだが。
「(ちゃんと行ってるんだろうなあいつ・・・)」
途中でケガをしている老人に出会った。当麻はおんぶして病院まで担いで行く。その時は病院にまだ空きがあったが、数分後には対処しきれない状況となった。
「どうする・・・・」
そう考えている時に、7Fで出会った青年がいた。どうやら陰に向かっているらしい。
「おい!そっちは危ないぞ!」
警告する。だが、聞こえてる様子が無かった。面と向かうしかないと当麻はその青年の方へ向かった。だが様子が変である。鏡の前に立って何かを取りだした。
「(カードケース?)」
するとその青年は、ランサーと命の取引をし、当麻達を手助け、とても謎の行動を取っていたライダーに姿を変えた。
「なっ!?」
声が出た。ライダーは驚くようにこちらを見た。殺させる。そう思った。
「見られたか・・・。お前、ランサーのマスターの仲間だよな。いや、そうだ。」
「お前だったのか。ライダーは。」
「ん?そんな驚かないのね。」
「驚いてるさ。冷静でいるので精一杯なだけ。」
「そうか。強いんだなお前は。で、何しに来た。」
「俺はケガ人を病院に運んでただけだ。そしたらお前らが・・・そっちこそどうするつもりだ。まさか、聖杯戦争が終わるのか?」
「まぁそうだろうな。恐らく、今日明日で終わる。だが先にキャスターをどうにかしないことには変わりは無いんでねぇ・・・ヒーローになってくるところさ。」
「頼む!俺も連れて行ってくれ!俺はこの戦いに納得が言っていない!だから・・・」
「お前が来ても足手まといになるだけだ。俺にお前は必要ない。だが・・・お前を必要としてるやつがいるはずだ。その時が必ず来る。その時まで待機しておけ。あと必ず携帯の電源は入れておくんだな小僧」
「え・・・・」
最後の言葉はドラグによる言葉であった。ライダーはそのまま鏡の中に飛び込んで行った。ライダーが最後に言った言葉が当麻の中でずっと引っかかっていた。
アーチャー達はチームを編成した。まずはギルドの入口で迎撃するチーム。中で迎撃するトラップチーム。最終防衛ラインを越えた先にアーチャーという布陣になった。アーチャー達が仕掛けた罠と言うのも実に複雑である。ガイアの連中はトロッコに乗って森へと出るはずが着いた先はまた洞窟。そこがギルドの最深部への入口だ。本来なら校舎に出てからギルドという流れだが校舎には設備は物資がある。そこを先に占領されるわけにもいかないのでそのような布陣に設定した。ギルド内は罠でいっぱいである。彼ら自身、引っかかるほどだ。そこを超えた先が校舎。地下から戻る、というイメージである。一方アーチャーがいるのは、その校舎隣のハリボテの小屋である。そこは竹山君にお願いしていろいろ機材を入れてもらった。
「配置に着いたか?」
「ギルド入口OK。」
「ギルド内部OK。」
「よし、みんなここからは命がけだ。いつ誰が死んでもおかしい状況ではない。先に謝っておく。すまない。」
「どうして謝るんだよ。」
「いやホラ、みんな戦ってるのに俺だけ・・・」
「今はいいんだよ!今は!でも後でなんか奢ってもらうからな!覚悟しろよ?」
「・・・・ありがとう。」
「こちらギルド入口!トロッコが近づいてきた!」
「みんな。これが最後だ。生きてまたパーティを開こう。」
「おう!!!」
トロッコに乗っているガイアの軍団は意気揚々と出発していた。異変に気付いている者は誰もいない。多少、敏感な人間が違和感を感じる頃には彼らはアーチャーの結界の中にいるのであった。
銃声。
「ん?」
一人の男が隣を見ると、隣にいた男は頭から血を流して死んでいた。この時点でも把握は出来ていない。
「なっ・・・・・!」
後ろに報告させて頭を下げるように命じる。そこでようやく違和感に気付く。
「(このトンネル・・・こんなに長かったか?)」
「音無君!」
「おぉ、竹山君か。どうした。」
「ギルド入口守備隊がガイアの人たちを撃破しました!」
「よし、その調子で守備をさせてくれ。おそらくこれからどんどんやってくる。線路の罠は使い果たしているはずだからここからは肉弾戦だ。注意を促してくれ。」
アーチャーの言う通りガイアの人間を乗せたトロッコは凄まじい勢いでやってきた。それでも守備隊はそれを撃退して行く。これを出来るのもアーチャーの能力のおかげでもある。武器に限りなど無い。イメージすればそれが出てくるのだ。だがあの化物には、そんな武器が効くわけが無かったのである。
守備隊はガイアの魔物使いを撃退していった。その先から、杭がものすごいスピードで守備隊の1人の目の前に迫った。
「避けろTK!」
「?」
屈強な男がバンダナ男の方を掴み横に飛ぶ。その杭は人型に戻った。
「全く・・・こんな奴ら相手にガイアの馬鹿どもは何をやってるんだか。私一人で十分ね。実際にここを任されてるのは私だけだし。ナメられたものね、私も。」
「お前一人・・・だと・」
「そ。後7姉妹・・・一人死んだから私外して5人街の方に向かってるわ。結局、聖杯戦争なんて無かったことになるのよ。ベアトリーチェ様はそれを見るのをすごく楽しみにしているわ。邪魔はさせない。」
女はまた人型から杭に戻りバンダナ男へと向かう。
「アハハハハハハハハ!まずはそのバンダナ男!お前から殺してあげる!私はね一人一人殺していくのが大好きなの!次はその・・・なんか変な道着を着てるお前よ!覚悟しておきなさい!アハハハハハハハハハハ!」
「く・・・TK・・・」
道着を着た男は杭に近寄ることは出来なかった。早すぎるのである。だがバンダナ男の動きは、その杭を凌駕した。避ける。避ける。避ける避ける避ける。独特の動き、ダンスのような動きで避けていく。
「気持ち悪い動きしやがって・・・」
女が怒りに満ちる。杭のスピードは更に早くなった。流石のバンダナ男もついていけなくなる。かくり傷が出来始めた。
「アハハハハハハハ!痛いか痛いか!アハハハハ!時間もないからこれで終わりにしてあげる!バイバーイ!」
杭は男の後ろから心臓に向かって動いた。
「・・・・Fu-」
心臓に着く直前、バンダナ男は両手を広げ右に動いた。その男が右手に持っていた物、手榴弾。杭は、急には止まれない。
「え?」
杭が手榴弾に刺さる寸前でバンダナ男がスピードを上げて走り出した。手榴弾は爆発したが、女はかろうじて生きていた、だがもうボロボロの状態である。
「まだ・・・まだよ・・・」
「お前・・・もう決着はついt・・・・」
道着の男は軽く上を見上げ、電話を取りだした。見上げながら番号を打っている。
「おい!戦いの最中に余所見してんじゃねぇ・・・・・え?」
女が後ろのソレに気付いた瞬間に胴体は肉の塊と化した。
「wow・・・」
「浅はかなり」
「これはマズいですねぇ・・・」
眼鏡の男だけがまともなことを言っていた。
アーチャーの元に電話がかかってきた。
「五段!どうした!」
「・・・・・・・・・・・・・・」
何か凄まじい音だけが聞こえていた。
「すまん・・・やられた・・・」
「え・・・?」
「キャスターの手下みたいなのをTKが倒したまではよかった・・・そしたら、後ろからティラノサウルスみたいなのが出てきてな・・・結構危ないところまできてる・・・俺とTKと高松はかろうじて意識はあるが・・・椎名の意識が無いんだ・・・でもまだ息はある。誰か迎えに来てやってくれ・・・」
「お前らはどうするんだ・・・」
辛いのだけは吐きだしてはならない。
「恐竜みたいなのはなんとか倒したよ・・・でも、まともな武器じゃ効かない。少なくとも地雷くらいの威力は無いと無理だ・・・そうだなぁ・・・ギルド内に時限式拡散弾を仕掛けるといいと思う・・・俺が言えるのはここまでだ。さて、なんとかあいつを倒したが・・・これから先はあれが何匹も出てくるはずだ。大量にきたらそりゃぁもう無理だ。」
「お前ら・・まさか・・」
「ん、勘がいいなぁ音無は。表に出て迎撃するよ。トラップ仕掛けながらな。そういうことだ。ほい、TK。」
「ヘイオトナシ・・・See you again. Good luck」
「そうだ高松。お前はどうする。」
「私の筋肉を忘れてはいませんか?」
「はは・・・そうだったな。んじゃぁ、ほれ。」
「音無君ですか?言い忘れてたことが・・・私を、NPCから救ってくれてありがとう。以上です。」
「そういうわけだ音無。俺はもうここでサヨナラだが、お前は勝てよ!いいな!」
「おい待て!サヨナラなんて言うな!絶対に生きて帰ってこい!」
「・・・・・・頑張るよ。じゃぁな、音無」
電話はそこで切れた。辛いのを吐きだしてはいけないのは分かっている。
「くそ・・・くそ・・・」
その様子を奏は後ろから見ていることしか出来なかった。
ギルド内部。ここのチームは主に女性で構成されている。と言っても、アサシンとの戦いで4人女性が減ったことからトラップをしかけるのは実質3人となっていた。
「遊佐さ~んこの仕事めんどくさくないですかぁー?」
ピンク色の少女がめんどくさそうに愚痴を言う。彼女達は迎撃部隊が地上に出たことは、まだ知らなかったが、ちょうどその時に竹山から遊佐という黄色の髪の少女に連絡が渡った。遊佐はギルド入口で意識を失っている忍者のような少女を抱えて戻ってきた。彼女が意識を戻すのは30分後のことである。その間、ギルドに敵が攻め込むことはなかった。遊佐は竹山から全てを知り、現状を2人に伝える。
「・・・この作業、めんどくさくないですね・・・」
ピンク髪の少女が悔しそうに答えた。彼女達はトラップの設置に取りかかった。
ガイアの迎撃に出た3人はひたすら線路内を進んでいく。先に行くにつれて攻撃は激化していた。当然この通路の狭さからあのティラノサウルスみたいなのは出てこない。それにあの変な女がやられたことを知り、援軍が更に増えると言うのも彼らはわかっていた。実際に魔物量が増えている。ひたすら銃を撃つがキリが無くなっていた。魔物の他に疲労が、3人を襲いかかっていた。彼らは一人一人順番に散って行く。筋肉質の男、高松はその自慢の筋肉を駆使し、素手で魔物を吹っ飛ばしていた。だが後ろからの攻撃に反応が遅れ足を取られた。その瞬間に中型の魔物に引き裂かれた。バンダナの男、TKは自慢のステップを疲労するもその倍の速さを仕込まれた魔物に敗戦。道着の男松下が最後まで残った。彼はひたすら最後の最後まで銃を撃ち抜いた。飛びかかってくる魔物には自慢の柔術で地面に投げつける。だがその投げることのできるサイズには限界があった。これもまた中型の魔物に敗戦。アーチャーに後を託して消えていった。ガイアの魔物使いたちはギルド目掛けて突っ込む。彼らはこの先がギルドというのをまだ知らない。3人が来た時は学校から攻めて来たものだろうと勝手に思い込んでいた。だがそうでないと知っていたのはキャスターただ一人。キャスターが指揮する大型魔物軍団が、ギルドに向かって出発した。キャスターが知っているのはこの通路を抜けた先が学校内部ではないことである。ギルドとまでは気付いてはいない。だが、使い魔がやられた時点でサーヴァントが関係していると言うのは勘づいているようである。だからこそ、ガイアの魔物使いを大量に連れてきた。正直、キャスター1人でもなんとかなる。だがそれは慢心だ。いざとなったらこの魔物使いたちを見限ることだって可能である。キャスター達の動向は、竹山を通じてトラップを仕掛けてる女性陣に伝わった。
「きた・・・。」
「わわわわ、本当に来ちゃいましたよぉ・・・」
「なんだユイ。ビビってるのか?」
「ビビってなんかないです!でも・・・」
「怖いよなぁそりゃぁ。そうかお前は初めてだな。人間じゃないものと戦いのは。」
「・・・・・・」
「ま、なんとかなるよ。私達は一度・・・いや、2度死んでるんだ。今更どうこう考えることじゃないよ。」
「そう・・・ですね。・・・・(日向さん・・・)」
キャスター達は中間地点にまで辿りついた。もう、学校に出ていてもおかしくはないはずである。
「ほう・・・そういうことか。魔物使いたちよ。魔物を前に出して進め。」
「了解しました。」
魔物たちを前線へ押し出しながら進む。魔物たちは一気に爆散した。
「地雷か・・・やるではないか・・・じゃが」
キャスターはその爆風をものともしない。自らを蝶に分散させて進む。そこまでは良かった。だがキャスター自身が想定していなかったもの。罠の数である。進んでも進んでも罠。そしてそれはいつしか、連鎖するものとなっていた。
「ぐぬぬ・・・小賢しい・・・」
無数の蝶と化してもそれらが攻撃を喰らっては意味が無い。アーチャー達が仕掛けてきた罠はキャスターの弱点を突いていた。その罠の多さに思考がこんがらがっていたが、話は簡単であった。
「そうか・・・ここは固有結界の中か。ふふふ、してやられたわ。どれ、魔物使いはどれだけ残っておるか・・・」
後ろを振り向くと数は半分以下にまで減っていたものの、かろうじて残っていた。残っていた魔物使いはエリートでもある。つまり、アレを使役することができた。
爆発の音は、3人の耳にも届いていた。確実に近くなっている。
「きてますね・・・」
「あぁ、来てる。でもまだ大丈夫だ。」
その間も、まだ罠を仕掛けていた。彼女達はギルドの最下層まできた。ここから折り返しで登りがある。それを登り、ようやく校庭に出るという仕組みになっている。ちなみにおまけで設計した学校からのギルドに入口はギルドの校庭に出る仕組みである。これはガイア本部から対になっている。
「ん?なんか変じゃないですか?」
「どうしたの・・・?」
遊佐は何も気づいてない。
「聞こえませんか?なんか地響きが・・・・?」
ユイの目の前が陰に覆われた。その後ろには、バケモノが大きな口を開けていた。
「・・・・・・・!?」
違和感に、日向は気付いた。
「音無、気付いているか?」
「・・・・あぁ。」
2人とも良い顔はしていない。
「ユイ以外の反応が・・・薄くなっている。」
3分前
「・・・・・あ、あははああ、ああはは」
「ユイ!逃げて!」
遊佐が大声で叫ぶ。彼女がここまで叫ぶのも珍しかった。だがユイはもう動ける様子が無い。
「くっ・・・・!」
その横を駆け抜ける1つの影。椎名がユイは紙一重で救った。
「大丈夫?ユイ。」
「ここは私が足止めする。2人は逃げて。」
「・・・・遊佐?」
遊佐は黙って通信機を出す。
「竹山君、ギルド内部はもうダメ。罠が全部突破されてるわ。ちょっと、まずいかも。」
「な・・・!何があったんです?」
「恐竜よ・・・しかもとびきり大きいの。椎名が時間稼ぎしてるけど。多分あんまり持たない。だから私も時間稼ぎにはいるわ。」
「遊佐!」
椎名が声を上げる。遊佐の戦闘能力が低いというのは周知の事実である。本人もそれを自覚していた。
「どうしたの?椎名。ユイよりはマシかと思うけど?」
「・・・・・・わかった・・・・。」
「ユイ、あなたは逃げなさい。やりたいことが、あるんでしょ?ここは私達でなんとかするから、まず校庭まで行って。いい?」
「・・・・・・。」
「岩沢達にも言われたでしょ?あなたは良い子。だから、みんなあなたを戦わせたくないんだよ。」
「・・・・・ッ!」
ユイは一目散に駆けだした。だが、そのユイも数分後には恐竜の集団に囲まれることになるのであった。
「ダメだ!どんどん2人の反応が薄くなってる!遊佐と椎名は瀕死の状態だ!」
電話が鳴った。竹山からである。
「どうした!・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あぁ・・・わかった。」
電話を切ると同時に2人の反応が消えるのを、アーチャーは感じ取った。
「ユイが・・・今必死に逃げてるらしい。」
「何!?今ユイはどこにいるんだ!」
「おそらく無我夢中で逃げてるだろうから別の出口から出たに違いない。反応がそっちから出てる。恐らく森の方向だ。」
「音無。俺、行っていいか?」
「言うと思ったよ。」
「将来の嫁さんを放っておくことはできないからな。」
「そうか。」
2人はどこか互いのことを理解しているかのように語る。
「日向、ユイと合流したら、地上に出ろ。俺もそこまでは生き延びる。だが、もしものことがあったらお前とユイも消えてしまう。そうならないように・・・」
アーチャーは日向の胸に手を当てた。
「?」
「これでお前らは俺に何かがあってもしばらくは生き延びることができる。多分、俺が消えてからの20分が限度だ。そこで、頼みがある。会ってほしい人がいるんだ。恐らくそいつも出てるだろうから、まずは・・・」
その話を聞いて日向自身、アーチャーの覚悟を知る。
「お前、死ぬつもりなのか?」
お前、消えるのか?アーチャーが前に日向に言った言葉を似たような意味だが日向はアーチャーに返した。
「死ぬつもりはないさ。勝算はあるよ。でも、数的不利なのは変わりは無い。罠も突破された。予想以上の戦力だ。だからこそ、更に上を行く作戦が必要だ。でも、俺はそのパイプになるだけだと思う。だから、そう簡単には死なないよ。安心しな。」
「音無、これだけは約束しろ。無理は、するなよ?」
「あぁ、元気でな。日向。」
「そうじゃないだろ。またな、だろ?」
「そうだな・・・またな、日向。」
日向はユイのいる方向へと走って行った。
「さて、時間が無い。早く準備しなければな・・・竹山君。聞こえるか?」
「はああああああああああああああああああああい竹山君でええええええええええええええええええす!」
「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
その声は狂気に満ちた声だった。
「キャスター・・・・いつのまに・・・」
「よくもまぁこんな大きいことをしてくれたなぁアーチャー。それは褒めてやろう。だが、もう終わりじゃ。一気に叩きつぶしてやるわアヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!」
ブツッ!
電話はそこで切れた。竹山は消え、放送室は占拠されていた。学校に待機しているのは竹山含め5人。竹山が消え残るは4人となっていた。その4人だが、竹山がやられたことを知り急いで配置についた。そのうちの一人は体育館の屋根へと登る。ちなみにこの体育館。アサシンとの戦いでは大破したがここはギルド。アーチャーの想像から生み出されてる場所である。いくら壊れてもまた開きなおせば元に戻ると言う仕組みなのである。
「おい、誰も来ねぇじゃねぇか。」
槍斧を持った男が口に出した。その通り、誰も来ないのである。ただわかるのは放送室にキャスターがいるということだけ。
「音無、聞こえるか?」
「どうした?」
「誰も来ないぞ。どうなってる。」
「・・・・恐らく、放送室から指示を出してる。」
「なるほどね。つまりこの学校の半分は既にキャスターの支配下にあるってことになるわね・・・。」
ユリという少女が言ったが、実際そうであった。今でも地下のギルドでは罠が爆発してる音が聞こえる。まだ魔物使いたちがここを目指してきているようだ。
「奴らはいつ来るかわからない。多分、キャスター一人なら俺達をせん滅することくらい可能だ。だがあいつはそういう奴じゃない。確実に、悲惨に仕留める奴だ。だからここまで来る魔物使いはトップクラスの魔物使いだ。気を引き締めてかかってほしい。」
アーチャーが言う。
「おい音無。お前、こうなることわかってたんじゃねぇのか?その言い方だと、俺たちではあいつらに勝てないみたいな言い方だなおい。あれだけの準備してそうくるか?あぁ?」
「・・・・・・・・・」
間違ってはいない。戦線の時に戦ってきたのは奏、つまり天使とNPCのみだ。だが今度は訳が違う。本物の魔法使い。しかも巨大な魔物を使役する連中だ。いくら武器を用意したって聞かなかったらそれで終わり。大量に武器を仕入れることが出来る一方で、戦闘のプロでは無く、素人というのがアーチャーの宝具のデメリットでもある。
「図星かよ・・・・」
「すまない・・・」
「おい、みんなそういうことだってよ。聞いてたか今の。」
このやりとりはギルドに残ってる全員に通じていたらしい。
「・・・・・・・・」
一同は沈黙する。そんな沈黙を破ったのは、校庭に一人立っていた少年だった。
「知ってましたよそんなこと。みなさんだってそうでしょ?」
「知ってた」
「知ってた」
「知ってた」
「・・・知ってたよ。」
最後に槍斧を持っていた少年。
「なんで・・・」
アーチャーが驚いたように言う。
「なんでってそりゃぁ僕たちは戦闘のプロではありません。ただの一般の市民です。ちょっと、違いますけれどね。ですがあっちはどうですか。何恐竜なんか従えちゃって。バカバカしい。無理にも程がありますよ。そうでしょう?」
「直井・・・・」
そう語ったのは一人違う制服を着ている直井であった。
「銃器であのバケモノ達を倒すのは無理でしょう。ですが・・・僕達がバケモノを従えることが出来たら、どうなりますかねぇ・・・。」
「お前まさか・・・?」
「そうですよ音無さん。ちょっと、ギルドまで行ってきますよ。僕なら大丈夫です。必ず校庭に戻ってきます。みなさんはここで待っていてください。それでは。」
そのまま直井は携帯をかけながらギルドへと入って行った。
ユイはひたすらギルドを走っていた。だが、ここは迷路。むやみやたらに走ると危ない。だがユイは、そんなことすら忘れていて走った。
「あっ・・・・!」
気付いた時には、自らが仕掛けた罠にかかっていた。そのせいで足をとられ動ける状況ではなくなってしまった。後ろでは既に魔物たちがユイが囲んでいたのである。
「いやだ・・・いやだいやだいやだ・・・・こんな奴らに噛まれて死ぬよりだったら・・・自分で死んだ方がマシだよ!」
目の前に大きな影が現れた。魔物が大きな口を開けてユイを呑みこもうとしていた。
「・・・けて・・・日向さん助けて!!!!!!」
ユイは最後に叫ぶ。その叫びは、爆発音によってかき消された。
「あ・・・・」
目の前で魔物は爆散していた。その姿は既にない。そこにいたのは、ロケットランチャーを持った日向だった。
「ま、間に合った・・・うぉ!」
「うわあああああああああああああ」
ユイは日向に飛びついて泣きだした。それを日向はイジろうとしたがそんな余裕は無かった。
「よし、行くぞ。しっかり捕まってろよ!」
「え!行くってどこに!?」
泣きながらユイは日向に聞いた。
「音無からの頼みだ。外に出るぞ。」
日向とユイ。2人の、この戦いの結末を左右する戦いが始まった。
アーチャーは校庭で行われている事を信じられない目で見ていた。いや、正確に言うとここまでとは思っていなかった。校庭では魔物同士が敵対していた。それを従えるのは魔物使いなのだが、さらにそれを従える直井の姿が、そこにはあった。だが、彼自身が従えることができるのは少数のみ。対してガイア側は更に魔物を増やしてくる。流石に恐竜のような大型の魔物は減った。恐らく、その魔物を従える魔物使いがギルドの罠によって死亡したのだろう。そう思った。その通り、魔物使いはギルドの罠+戦線の活躍で死亡した。残っているのは後から来た軍勢である。だがその軍勢は1人に着き2体、魔物を使役していた。対して直井の使役できている魔物は一体。もう1体使役出来ていたのだが、魔物使いが囲まれ書き砕かれて殺された。更に数は多くなる。それを体育館の屋根から狙撃する、というのが、特徴がないことが特徴の少年が担当する。直井がギルドに向かう時に連絡していたのはその少年であった。
「今から、魔物使いを誘導します。校庭に出てきた瞬間に狙撃してください。恐らく、大勢で来ることになるでしょうから、百発百中でお願いしますね。」
なんて、無理難題を押し付けられた。それが直井の特徴でもあるのだが。
「僕だって・・・」
ひたすら狙撃する。今のところは全部ヒットしている。勢いは確実にアーチャー陣営が押していた。だが、それに気付かないキャスターではない。ウサギの耳をつけた女の子を召還し、窓から顔を出させて弓を引かせる。少年はそれに気付き、銃口を女の子に向けた。放たれた弓は弾丸を避け、少年の胸を一突き。少年は屋根から地面へと落ちる。対して弓を放った少女も弾丸を浴び吹っ飛んだ。両者共に、笑顔でこの場から消えていった。その感情はどちらも同じ。
「役に立てた」
更に少年の場合、またみんなと一緒にいられた。この喜びのほうが強かったのだろう。
「大山君・・・!?」
体育館屋根の異変に気付いた直井は表情を変える。狙撃手がいなくなった今、対抗する術が無くなったからである。
「さぁさぁ!面白くなってきたぞぉ!もっともっと楽しませろぉ!」
キャスターが校内放送のスピーカーをイジって声を流した。地面からは魔方陣が現れ、そこから出てきたのはあの大型魔物だった。
「・・・・・・」
「直井!」
2つの声がしたのでその方向を見ると、槍斧と長ドスを持った2人が来た。
「相変わらずお二人は似てますねぇ・・・」
「似てねぇよ!」
「息ぴったりじゃないですか・・・で、どうします?これ。僕はもう出来ることは限られると思います。」
「そうか、そうだな・・・行くか。」
その行くかにこめられた意味をどう捉えるかはもう自由であった。だが、その覚悟を遮るかのように声が聞こえた。
「待って。」
「立華さん。」
立華奏がそこに降りてきた。なんだか羽が生えている。
「みんな来てしまったら校舎が手薄になるわ。誰かゆりを守って。」
「しまった・・・!ゆりっぺが危ない!」
槍斧の少年は一目散に校舎へと向かった。校舎はキャスターの7姉妹の使い魔が更に魔物を召還していた。槍斧の少年はそれを切り倒しながらゆりのいる校長室へと向かう。校長室は3階の端に位置していた。
「あの人はバカですか?自分の大事な人の事も忘れて・・・」
「まぁいいんじゃねぇの?俺たちはここをなんとかしようぜ。」
「そうね。」
だがその3人が出来ることなんて限られていた。洗脳して、切り倒して切り倒して切り倒して切られて庇って・・・勝負は一瞬だった。アーチャーの携帯が鳴る。
「・・・直井か・・・。」
「どうも・・・音無さん・・・すいま・・せん、負けちゃいました・・・。」
「あぁ・・・見てたよ。すまなかった。巻き込んでしまって・・・」
「すまなかったじゃ・・・すまされないですよ。なんです・・・かこ・・・れ・・・相手強すぎる・・・じゃ・・・ないで・・・すか・・・。でも・・・奏さんは・・・無事です・・・意識を失ってますが・・・藤巻さんと2人で・・・まもり・・・ました・・・。全く・・・なんで僕が・・・かのじょを・・・かば・・・う・・で・・・す・・か・・・。」
「もういい!もう・・・喋るな・・・。」
「あ・・れ・・・?ないて・・・ます・・・?あ・・あは・・は・・・そんな・・・かおしないで・・・ください・・・・。あなた・・・は・・・あなたのすべきこ・・とを・・・やって・・・ください・・・。たぶん・・・みん・・・な・・・きづいて・・・まし・・た・・・。」
「・・・・・」
「ずぼし、で・・・すね・・・。あなたなら・・・できます・・よ、お・・と・・・なし・・さん。さよう・・・なら・・・」
2人は消えた。その2人を消した魔物達は、2人が消えるのを見送らずに校舎へと向かう。故に奏が生きている事など知らない。これにキャスターは「バカが」と罵ったが、彼に通じたことではないのだ。魔物は入れる軍団は校舎に侵入し、入れない軍団は外側から、校舎を攻撃していた。アーチャーは隙を見て奏を回収。急いで治療にかかった。するとゆりから電話がきた。
「どう音無君。そっちの様子は。」
「・・・・見てたんじゃないのか?」
「見てたわよ。こりゃ負け戦ね。でも、ここまでの経過は楽しかったわよ。戦線らしい行動と戦いが出来たんじゃないかって。そう思う。ありがとう。ゴフ・・・」
「おい!お前まさか!」
「・・・ちょっと攻撃を喰らってね・・・野田君、ここまで来てくれたんだけど・・・魔物にやられちゃった・・・その勢いで私も、ね。なんとかそれは倒したんだけど見ての通り、後ろからはでかいの中からはキャスターの使い魔と中くらいの魔物。いつ食われてもおかしくはないわ。そこでお願い。この校舎ごと、時限式拡散弾にやっちゃってちょうだい。どうせならみんなで逝っちゃえばいいわ。」
「本当に・・・いいのか?」
「ええ、もう充分なほどに、楽しませてもらったわ。音無君。あなたの本当の願望って、この戦いを止めることでしょ?」
「・・・そうだ。・・・いつからだ?」
「ギルドを拡散してる時にはもうみんな気付いてたわ。なんでかなんて知らないし、知るつもりもないけどそういうことよ。・・・ドアが破られそう。音無君、私の合図で拡散弾を発射して。すぐ出せるでしょ?」
「もう準備してある・・・。」
「流石ね、じゃぁ音無君。バイバイ。楽しかったよ。奏ちゃんと、後は任せたわよ!」
「あぁ・・・任せろ、必ず、この戦いを止めて見せる・・・。」
「ふふ・・・5! 4! 3! 2! 1! ・・・・ふふ、痛いのは・・・いや、だからね・・・」
最後に小さな声で呟いた。手に持っている手榴弾のピンを抜く。
「0!」
同時にドアが破壊された。それに向かって手榴弾を飛ばす。ゆりは、小さな笑みを浮かべていた。
0のコールと同時にアーチャーは時限式拡散弾を校舎に向かって打ちこんだ。その数は10を超える。1発でも相当な威力だが、校舎の外装も破壊しながらの魔物殲滅作戦はそれを凌駕する威力が必要である。拡散された鉄の矢が爆風によってはがされた外装から校舎内に侵入する。効果は抜群であった。その弾丸の早さに校舎内にいた魔物・キャスターの使い魔は一瞬で死を迎えた。キャスターとて例外ではない。蝶に分散するもその蝶も矢を喰らい、キャスターは傷を負った。そこからキャスターは校庭へと出てきた。アーチャーと奏も校庭へと出る。
「クソがぁ・・・」
「どうだ、俺達のとっておきの味は・・・相当美味かったんじゃないか?」
「あぁ・・・相当美味かった・・・お返しはたっぷりとしてやろうぞ小僧・・・」
その表情には怒りが満ち溢れていた。
キャスターが何か口を動かしている。すると、赤い文字で
「お前たちは攻撃を当てることができない。故にお前達に勝ち目はない。」
「(きたか・・・。これで俺たちは攻撃を当てることが出来ない。もう負けは決定だ・・・頼むぞ、日向・ユイ。そして・・・)」
アーチャーは持っていた携帯の決定ボタンを押し、画面を見て確認した後、携帯を破壊した。
「奏、これで最後だ。今まで迷惑かけたなぁ・・・。でも、本当にこれで終わりだ。」
「(コクン) 頑張りましょ・・・。」
「あぁ・・・いくぞ。」
奏はキャスターに向かって走り出し、アーチャーは銃を取り出し、撃ち始めた。
「着いた・・・。」
2人はなんとかギルドの出口(入口でもある)に到着した。出た先は学校であった。新しく繋げた先の出口にでたようだ。
「これからどうするんですか日向さん?」
「音無の伝令を伝えに行かないといけない。だが、俺はその場所がわからない。とりあえず人を探そう。まず生きている人がいるかわからないけどな・・・。」
外の状況は校内からでも理解できた。魔物が空を飛び、火災が発生し、爆発も起きている。人が生きているとは到底思えない状況でもあった。
「とりあえず外に出よう。」
「そうですね・・・。」
2人は外に出た。その瞬間、2人の目の前に中型の魔物が現れた。
「嘘だろ・・・?」
1体だけならまだしも、後からどんどんと増えてきた。
「(1体・・・いや・・・3体はいるぞ・・・)ユイ。お前、銃は使えるか?」
「え?あ・・・うん・・・。」
「俺が先に行って道を開くから、後から続いてくれ。その際に、魔物を近づけないようにするんだ。いいな?いくぞ!」
日向はダッシュする。それにユイも続くが、
「ああああああああああああああああああああああああ!」
「なっ!?」
敵の数から錯乱状態に陥ってしまった。弾は、一瞬で底をついた。
「うそ・・・・。」
平静を取り戻した時には、ユイの足は止まっていた。それに日向が気付いたがあまりにも距離が出来てしまっていた。
「バカ!止まるな!」
「あ・・・・・」
そのユイの後ろでは魔物が口を開けている。それをユイは見ていることしかできなかった。
「ユイ!」
日向が叫ぶが、もう遅い。
その時間はユイにとっては長い時間であったはずだ。誰かに助けてもらえないか。日向が追いついてこないか。この魔物が一瞬で消えてくれないか。その魔物は、私の目の前で首を切られ消滅した・・・・・・・・・
「え・・・・?」
「なにしてるのかなぁ?こんなところで。」
魔物が消滅した後から出てきたのは、水色の羽織を着た男だった。
「で、君たちはどうしてこんなところにいるんだい?街の人は地下に避難しているはずなんだけどなぁ。」
「地下!?」
2人が声をそろえて驚く。
「あれ?なんにも知らないんだ。なんかガイアとかいう人たちがこの時の為に地下にそういう場所を作ってたみたいなんだよね。うん。入口は僕が教えてあげるからさっさとここから消えてくれるかな。じゃないと君達、死ぬよ?」
「・・・・」
「死にたいの?」
男の顔が真顔になった。
「じゃぁ僕が殺してあげようか?」
「・・・人を探してるんだ・・・。」
「人?そんなの、僕が知るわけないじゃない。」
「わかってる。でも聞いてくれ。その人の名前は確か・・・雪村・・・千春・・・だった・・・かな・」
「・・・・」
男の顔が一層険しくなる。心当たりがあるようだ。
「知ってるのか?知ってるんだな!? どこだ!どこにいるんだ!教えてくれ!」
「君達、一体何?」
男は、2人に刀を向けた。
「俺たちは頼まれたんだ。その人のところに行けば、この災難は収まるって。その人しか出来ないことなんだ!」
「・・・・(土方さん、聞こえますか?)」
「(総司か、どうした。)」
「(なんか千春ちゃんに会いたいって人たちに会いました。千春ちゃんにしか出来ないことがあるから助けてくれーみたいな。)」
「(どんな奴らだ。)」
「(なんか変な服来てますね。さっき銃で応戦してるところを見たから一応助けてはみたんですが・・・)」
「(銃・・・?そうか、わかった。案内してやってくれ。多分、俺に関係してることだ。あとそっちに到着したら、俺と繋ぐように言っておいてくれ。場合によっては、すぐに行動に移す。)」
「(りょーかい)」
「おい・・・しばらく黙ってどうしたんだ・・・?」
「案内するよ。着いてきて。銃は、持ってるよね、走って行くからそれで援護するように。あと、そこのお嬢ちゃんには持たせないでね。また混乱して誤射されたら困るからね。」
「何をこらあああああああ!」
「うるさい。行くよ。」
日向達2人は男に着いて行った。男はひたすら魔物を切る。時には、魔物使いも問答無用に切って行った。本人は「これが戦争なんだよ」という。2人は現実を知った。その間、たくさんの人が逃げていくのを見た。だが一人おかしな奴もいた。日向達が走ってきた道をそのまま逆走するツンツン頭の少年。男は、それについてはスルーした。スルーしながら一言。
「死にたい奴は、死ねばいい。」
「着いたよ。千春ちゃん!お客さん。」
「こんな時に・・・お客さんですか・・・?」
「うん。なんか君にしかできないことがあるとか・・・土方さんに相談したけど、通していいって。あと意識を繋げ、だとさ。」
「そうですか・・・そちらの方たちですね・どうぞ、上がってください。」
「それじゃ、僕はまた出るよ。」
「はい・・・お気をつけて・・・」
日向とユイは中に入った。そこにはたくさんの子供たちがいた。そこにはその場に似合わない修道服姿の少女もいる。彼らがなぜここにいるかは、2人は知らない。だがある程度は予想できる。
「ここでは多少うるさいので・・・あちらに行きましょうか・・・」
「で、要件と言うのは・・・」
「はい。音無・・・いや、アーチャーからの伝言です。」
「!?」
千春は一気に顔を曇らせた。ただ事ではないと知る。
「彼は今、たった一人で闘ってます。相手はキャスター。この災害の首謀者でもあります。俺はこいつが危ないって時に助けに行ったんですが・・・その時にこの役割を任されました。そして、あいつが戦ってる意味も知りました。あいつは・・・キャスターと相打ちになって死んでいくつもりです。あいつを・・・助けてやってくれませんか?」
日向は頭を下げる。それを見てユイも下げた。ユイ自身、このことは何も知らない。
「ちなみにアーチャーは今どこにいるんですか?」
「あいつは学校にいます。学校の中で結界を作ってそこにガイアの連中、キャスター達を誘いこみました。」
日向はこれまでの経過を話した。
「なるほど・・・そういうことですか・・・(セイバー、聞いてましたか?)」
「(もう動いてる。その建物のどの部屋か聞け。)」
「ちなみにアーチャーがいるのはどの部屋ですか?」
「あいつがいるのは・・・わからない・・・その場所は俺も初めてだったんだ。ただ、端にある部屋なのは覚えてます。脱出に苦労しました・・・。」
「そうですか・・・(セイバー、各階の部屋を全て調べてください。あと、学校にもう一人向かってる方がいます。援護してあげてください。)」
「(ちぃ、めんどくせぇ・・・。だが、この状況をなんとかしないことには決着をつけることなんて無理だ。)」
「(お願いします。)」
「(承知)」
「さて、私達は広間にもどりま・・・・」
「うわあああああああああああああああああああああああああああああ」
「なんだ!?」
3人が駆けつける。魔物が広間に侵入してきていた。
「そんな!どうして結界が・・・」
「くそっ!」
千春が驚きの声を上げる中、日向が銃を向ける。弾は魔物に当たるが、威力のせいかひるむことすらしない。
「ッ・・・・・」
更に銃を取り出す。今度はひるむくらいまで追い込むことが出来た。だがその弾丸の音を聞きつけ、魔物は更に増えてきた。
「くそ!こいつらどんどん増えてきやがる!」
日向が前方の魔物を対処していると
「日向さん!後ろ!」
ユイの声が聞こえた。後ろを見ると魔物が日向に向かって飛びかかっていた。
「あ・・・・・・・・」
日向を噛み砕こうとした魔物は横からの突きで吹っ飛んだ。そのまま消滅した。日向が横を見るとそこに立っていたのは細目の男、刀を携えていた。
「そんなに音を立てると逆にこっちの位置がバレるに決まってるだろ阿呆が。」
「藤田・・・さん・・・?」
「藤田?あぁそうか、お前らには藤田と名乗っていたな。」
「え・・・じゃぁあなたは・・・」
「ただの狼、ってところだ。おい、死にたくないならお前ら2人も手伝え。戦う力は、少しはあるんだろ?」
「・・・わかった。えっと・・雪村・・さん?俺達の役割は終わりました。この戦いの末を見届けてください。俺たちは出来るところまでここを守ります。」
「わかりました・・・無理だけは・・・しないでくださいね?」
その言葉に日向とユイは笑う。
「俺たちは、無理しかしない連中なんですよ。」
「なぁユイ、ここで別れないか?」
「・・・私も同じこと考えてました。」
「そっか。」
「・・・また会えますよね。」
「会えるよ。きっと。会えなくても、必ず俺がユイのところに行く。もしユイが生前の時のようにベッドに横になっていたのなら、野球のボールをわざと飛ばしてでもユイに会いに行く。」
「それってただの迷惑じゃないですか。」
「そうだな。」
2人は笑う。道場を出ると2方向にでる分かれ道に出た。藤田と言った男はもう先に行ったのでどこにいるかは2人の知るところじゃない。
「音無に言われた役割が終わったのに、また仕事増えたな。」
「ここを守らないといけませんね。」
「あぁ、ここの人たちなら、必ず音無の意思を継いでくれる。だから、守るんだ。準備はいいか?ユイは別れたら、絶対に振り返るなよ?いいな?絶対だぞ。」
「うん・・・うん・・・」
「バカ、泣くなよ。また会えるんだから・・・」
「・・・・・もう、泣かない。」
「それでいい。」
「じゃぁ、行くか。さよならは、言わないからな?」
「カッコつけちゃって・・・。でも、私も言いませんよ?」
2人はすれ違い様にハイタッチをして別々の方向へと向かった。日向とユイ。アーチャーの意思をセイバーに伝えると言う2人の役割は終わりを告げた。2人は、この道場を守り抜くために戦い、消えていった。
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ」
上条当麻は走っていた。ひたすら走っていた。もう少しで目的地の学校に到着する。
事の発端は数十分前。街は魔物とツタが大量に発生し人々は避難することに精一杯だった。上条当麻とインデックス、ランサーのマスターであった彼らも避難をしていた。その時ちょうど「試衛館」の前を通ったら中から声が聞こえてきた。中には子供と千春がいた。ここで待機しているとのことだ。大丈夫なのかと聞くと、結界を張っているらしい。2人もそこに入れてもらうことにした。確かに、何も起こらない。起こらないはずだった。
ピロピロピロピロピロ
「ん?」
当麻の携帯が鳴る。
「(電波が戻ってるのか・・・?)」
電波は切れているはずだった。だが、普通にメールが届いている。しかも
「(なんだ・・・これ)」
差出人の場所に誰も表示されず、件名も無題。ただ書かれているのは
「学校 教室 扉 右手」
「んんん???」
わからない。ただわかるのはそこに何かがあるということ。誰かは知らないが助けを求めているということ。様々な事が仮定できる。
「・・・・・行くしかないのか?」
「千春さん、俺ちょっと出るよ。」
「えっ?この状況で外に出るのは危険です!」
「いや、どうやら学校で助けを求めてる奴がいるんだ。行かなくちゃいけないらしい。いや、ダメなんだ。俺じゃないと出来ないから、こんなメールを・・・」
「メール?」
「あぁ、これを見てくれ。」
「これは・・・。」
「頼む。」
「・・・わかりました。インデックスちゃんは私が保護します。ですが、必ず戻ってきてください。じゃないと、インデックスちゃんが・・・」
「わかってる。必ず帰ってくる。」
当麻が玄関を出ようとする。
「とーま。」
「・・・見つかったか。」
「どこに行くの。」
顔は険しい。何をしようとしているか気付いてるような顔だ。
「外に出る。」
「なら私も行く。」
「ダメだ。危険すぎる。」
「その危険なところにとーまは飛びこもうとしてるんだよ?」
「わかってる。でもこれは・・・俺じゃないとダメなんだ。」
当麻は千春にアイコンタクトを送る。千春はインデックスのうなじをコツンと叩き、インデックスは気絶した。
「すまん。じゃぁ、行ってくる。」
「はい。この子のためにも、帰ってきてくださいね。」
「ハァ、ハァ、ハァ。結構走ったな・・・もう少しだ・・・」
幸い、ここまで魔物と遭遇することなく走ってこれた。
「よし、行こう。」
角を曲がる。
「!?」
曲がった先に、魔物がいた。しかもそれなりの大きさだ。
「まじかよ・・・」
来た道を戻ろうとする。だが、後ろにも魔物がいた。こっちは小型の集団である
「つけられていたか・・・」
素手で勝てるような相手ではない。噛まれたら一瞬だろう。どうにかして逃げたいが、逃げれる状況ではない。可能性が少しでも高いというのなら・・・
当麻は小型集団のほうへと走った。
「うおおおおおおおおお!」
だが、魔物の早さは、想定していたよりも倍早く、当麻の懐に簡単に入られた。
「ぐっ!」
紙一重で直撃を避けたが、それだけでも十分なダメージである。それでも吹っ飛んでしまったというのが、それを物語っている。
「くそ・・・」
小型が上条に飛びかかる。
「ッ・・・・・・」
目を瞑るが何も起きない。前にいたのは刀を持って水色の羽織を着た男。
「新撰・・・組・・・?」
「なぜ、その名を?」
勉強に自身が無い当麻でも、その服には見覚えがあった。テレビで見たことがある。
「そうか、セイバーのところか・・・・」
「お前は・・・何者だ・・・。」
「俺は・・・ランサーのマスターの仲間だ。だから多分・・・お前達の仲間ってことにもなるんだと思う。現にマスターのほうは千春さんのところにいるわけだし・・・あ、でも安心してくれ。あいつ今気絶してるから。」
「・・・・・・ならいい。ここにいると俺達の邪魔だ。とっとと避難しろ。」
「そういうわけにもいかない。俺は学校に行かなくちゃいけないんだ。」
「・・・・俺は止めはしない・・・。なら、このまままっすぐ行くといい。魔物はそこにはいない。俺が掃討した。」
「・・・・・お前ら・・・強いんだな・・・。」
「行け」
「わかった。ありがとう。お前、名前は?」
「・・・斎藤、一。」
「俺は上条当麻、おっと。行かなくちゃな。じゃぁな斎藤さん。ありがとう」
当麻はその道を一気にダッシュする。本当に周りに魔物はおらず、学校まで到着することができた。途中で変な3人組にも会ったが、気にしてる暇などない。
「で、どの教室だ・・・。」
当麻はひたすら校内を走る。走ってはドアを開け走ってはドアを開ける。必ず右手で開けることだけは忘れなかった。
「ちくしょう・・・これじゃキリがない・・・ん?」
思いついたことがあった。この学校の教室はほとんどがスライドのドアである。だが、特別教室は普通の扉であった。
「もしかして・・・」
考える暇などなかった。
「ええい!もうどうにでもなれ!」
それからは特別教室を行くことにした。ドアノブをひたすらまわしていく。簡単な作業なのだが、走りながらやっている以上、疲労が溜まって行く。ようやく、ラストまで来た。ラストはほんとに隅っこにある教室。
「はぁ・・・はぁ・・・ラストだ・・・よし、開けよう」
「待て。」
ドアノブに手がかかる瞬間だった。声のしたほうを振り向く。
「・・・なんでお前がここにいんだよ・・・セイバー。」
「それはこっちのセリフだ。てめぇ、何しに来た。いや、ある方というのはお前のことだったのか。千春め、最初からそう言えばいいものを。」
「何独り言言ってるんだ。で、なんでお前はここにいるんだ。」
「あぁ、ここに行けと千春に言われてな。飛んで来てみればお前がいるというわけだ。で、今までの事を報告しろ。」
「あぁ、ちょっとこれを見てほしいんだ。」
メールをセイバーに見せる。
「なんだこれは?」
「あぁ、そっちの時代には当然ないからな・・・言うなら手紙だ。」
「ほう、文のようなものか。なるほど、で、お前は部屋をひたすら回ってたというわけか。」
「あぁ、で、ここが最後の部屋だ。多分、何かあるんだろうな。想像できるか・セイバー。」
「さぁな。俺にもわからん。だが、これを送った主がここにいるんだろうな。言っておくが小僧、この扉を開いたらもう後には戻れない可能性だってある。それは大丈夫か?」
「大丈夫か?って・・・この扉は俺に開けろって言われてるんだ。開けないといけない。」
「・・・・約束しろ。扉を開いたとして、その先に何があってもその場を動くな。」
「・・・わかったよ。なんでそんなこと言うんだよ。」
「いい予感が、しないからだよ・・・」
「ふーん。じゃぁ、開けるぞ。」
当麻は右手でドアノブを掴んだ。
キャスターの腕は、奏とアーチャーの腹を同時に貫いた。
「ゴフッ・・・・」
2人とも血を吐く。
「お前らは攻撃を当てることすらできない。」
これが真実となってしまってからはキャスターの独壇場だった。様々な魔法を使い、アーチャー達を追い詰める。
(ガチャ・・・)
ドラノブの開く音が聞こえた瞬間、2人はキャスターに突っ込んだ。2人とも、何をすべきか瞬時に判断。扉の先の男達が、消えていくアーチャーの固有結界の中でその光景を目にするのを待った。
2人が見た光景は異様だった。せまい教室で腹を貫かれている2人。貫いてる魔女のような女。
(プツン)
「何してんだてめえええええええええええええええええ!」
「・・・!あのバカッ!!!!」
当麻はセイバーの忠告を無視してキャスターへと突っ込む。
「ふぅん!人間風情が妾に攻撃を当てることなど出来ぬわ!これが見え・・・!?」
そこでキャスターがようやく気付く。自分が発した詠唱が無い。
「・・・!?こいつまさか!!!!」
腕を離そうとするがアーチャーと奏の2人は離そうとしなかった。
「簡単に話すかよバーカ・・・・・」
「うらあああああああああああああああ!」
当麻の全力が、キャスターの顔面を捉えた。
キャスターは吹っ飛んだ。同時に、2人も吹っ飛ぶ。当麻はすぐ2人の元に駆け寄った。
「おい!大丈夫か!しっかりしろ!」
「いい・・・ぞ・・・。あとは・・・セイバーに任せてお前は地面に右腕を当てておくんだ・・・いいか?戦闘が終わるまでずっと・・・だ。そうすればキャスターは何もすることが出来ない・・・キャスターの魔法は全部幻想だ・・・自分の作り出したものにすぎない・・・俺の固有結界も同じだ・・だから消せた・・・。」
「そうか・・・お前が俺にメールを送ってくれたんだな・・・。」
「あぁ・・・あの時、セイバーの家でお前の能力を見てなかったら・・・確実に負けてた・・・・みて・・・よかったよ・・・。」
アーチャーは隣で横たわってる奏のほうを見る。
「ごめんな・・・奏・・・俺勝てなかったよ・・・」
「・・・そうね・・・負けて、しまったわね・・・」
「でも、聖杯が・・・悪い奴らに渡らなさそうで良かった・・・」
「そうね。」
「そうねしか・・・言わないな・・・」
「・・・もう、充分楽しんだから・・・かな・・・?」
「こんな結果でも・・・満足か・・・?」
「うん・・・私は・・・幸せだったよ、結弦・・・また、会いたいな、みんなに・・・そして、あなたに・・・」
奏はそのまま消滅した。アーチャーはまだ息があった。
「俺もだよ・・・奏・・・。・・・・・俺も、もうじき逝くことになるか・・・」
「何言ってんだ!お前は生きろ!」
「この・・・状態でどう生きろって言うんだ・・・。気付いてるか?この校舎の周り、魔物で一杯だ。お前はひたすら右手を当ててるんだ・・・後は、俺がやる・・・。なぁに・・・気にするな。銃くらいなら、持ってる・・・。」
「くぅっ・・・・・・」
「なにそんな顔してるんだよ・・・そうだ、起こして・・・くれないか・・・?足が・・・動かない・・・」
当麻はアーチャーを起こした。アーチャーは棚に寄りかかった。外からは魔物がガラスを叩いている。いつ割れてもおかしくは無い。
「割れるのも、時間の問題、か・・・」
キャスターは自分の態勢がどうなってるか把握できなかった。少なくとも、宙に浮いている。視界がぐるぐる回っている。気付いた時には天井しか見えていなかった。そして首筋に当たる、冷たいもの。
「くくく・・・妾を殺すか・・・。だが無駄だ。貴様は妾に触れることすらできない!どうだ!これでお前は妾に・・・?????」
気付いた時にはキャスターの腕が胴体から離れていた。
「なん・・・で・・・?」
キャスターが見せた驚きの表情。これに、セイバーは動じることは無い。キャスターは周りを見る。詠唱の跡がない。
「残念だが、今この空間を把握しているのはお前ではない。俺たちだ。」
「は、、はは、、、、出でよ!煉獄の7姉妹!」
誰も来ない。
「そいつらなら・・・俺達が潰したぜ・・・?」
後ろから声。
「・・・・・・・・クオォオオオオオオオオアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
発狂。自らの負けを認めないかのような、発狂。それはセイバーの目からしたら無様なものしか見えない。アーチャー自身も同じ。当麻からしたら、軽く同情する程度である。だがこの場で同情することは裏切りにも近い形になると、当麻は判断した。そうなった場合、命は無いだろう。
「じゃぁ、さよならだ。」
セイバーが刀を振り上げる。
「ま、待ってくれ!妾がお前らの味方になってやる!加島の目的も全部話す!だから、だから!・・・・・!?」
キャスターの脳内に声が届いた。
「(無様ねキャスター。)」
「か、加島!た、助けてくれぬか!」
「貴様、ぬけぬけと・・・!」
セイバーが言う。
「(その様子だと、あなた死にそうみたいね。)」
「だから言っておるだろうが!さっさと令呪を使ってそっちに戻らせるのじゃ!」
「(そうね、あなたはいい時間稼ぎになってくれたわ。おかげで、目的は成就されそうよ。)」
「そうかそうか!では早く!」
「(令呪を持って命ずる。)」
「フヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!残念だったな凡愚共!殺す機会を逃した!もうこれで妾達の勝ちは決定的じゃ!フヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!」
セイバーが刀を振り上げる。
「(そのまま死ね。)」
「・・・・え?」
セイバーの刀はキャスターを切り裂いた。
「なぜ・・・・だ・・・か・・・し・・・ま・・・・・」
「(・・・・・・・)」
キャスターは裏切りにより消滅した。裏切りというのはキャスターの立場であって、加島桜としては見限っただけである。もっとも、彼女自身聖杯には興味が無い。
ガシャン!
「まずい!?魔物が入ってきたぞ!」
当麻が声を上げた。
「ちぃ、こんな時に・・・」
「セイバー・・・こいつと一緒に・・・脱出しろ・・・ここは・・・俺がやる・・・。」
「おい!お前も一緒に逃げるんだよ!」
「言った・・・だろ・・・もう、無理なんだよ俺は・・・」
「アーチャーが言ってるんだ。行くぞ小僧。」
「おい!」
「俺たちは聖杯戦争で戦ってる仲だ。敵が死ぬところを助けて、どうなるってんだ。」
「そう・・だ・・・早く、行け・・・」
「ふざけるな!簡単に死のうとする・・・・・・・・」
当麻はセイバーに後ろから首を叩かれ気絶した。
「頼む・・・セイバー。」
「・・・・・・・」
セイバーは無言で脱出した。
「ふぅ・・・・立ってたのはいいが・・・結局は無理ってことか・・・・」
アーチャーは膝から落ちた。
「でも、簡単に・・・死ぬつもりは・・・おっと、おいでましか・・・・。」
魔物に銃を撃っていく。ギルドから持ちこんだ銃は、魔物に効いていた。だが、彼が使える銃は一丁のみ。弾丸の数など、たかが知れていた。
「へへ・・・ここまでか・・・なんなら、どでかいの、行くか・・・?・・・・・んなもんねーよバーカ。誘導できただけ、マシか・・・」
「そうだ。誘導できただけ、マシだ。ここまでよく戦ったよ。アーチャー。」
アーチャーは薄れていく意識の中、赤い男を見た。
「最後に見るのが・・・お前・・・だとは・・・・な・・・・・」
「・・・・お疲れさん。」
「・・・・・・・・・・・・・・」
ライダーはアーチャーに一言だけ投げかけてその場を去った。ライダーが魔物をせん滅する中、アーチャーはライダーが投げた最後の言葉に対し笑みを浮かべながら、この戦いの舞台から消えた。
千春は玄関先での音に気付く
「か、上条さん!?」
玄関前には意識を失っている当麻が倒れていた。周りを見るが誰もいない。
「・・・・・・」
とりあえず呼吸をしてるか確かめる。
「よかった・・・意識を失っているだけですね・・・。よいしょっと・・・。」
千春は当麻をそのまま中に運んだ。
その頃、ガイア本部では加島桜が最後の準備をしていた。そこにあるものは、黄金の輝きを放っていた。それこそ、7人のサーヴァントが命を賭けて争っている聖杯である。
「後はこの聖杯に2つの命を注げば・・・全ては終わる。そして・・・」
横に目をやる。そこにはかつて篝だったものがあった。それはもう1本の樹木と化していた。瑚太郎が森を抜け出した瞬間、キャスターが樹木を奪取。そのまま加島の元へと連れてきた。その後キャスターはギルドへ向かい、加島の裏切りに会い死んだ。流れとしてはこのような感じだ。それを瑚太郎は気付いている。いや、むしろそうしたと言ってもいいだろう。現に瑚太郎はガイア本部に到着していた。街の魔物はほとんど消えていた。誰かが倒してのだろう。その分、死体の数も多い。これだけの規模だ。集団じゃないと倒せない。
「誰が・・・やったんだ・・・?そんなことはどうでもいい。行かなくちゃ・・・」
瑚太郎はガイア本部の上を見ていた。遥か上に続く道。そこに、篝はいる。
「よぉ、ライダー。」
「セイバーか。ついに俺達だけになったな。」
「そうだな。」
「ん?その後ろの奴らは・・・そうか、お前は・・・。」
「そういうことだ。だが、こいつらには手は出させない。お前ら、ご苦労だった。後は、ゆっくり眠っててくれ。」
セイバーの後ろに着いていた男たちは消えていった。
「いいんだぜ?多人数でも。」
「冗談言うな。それは俺の誇りが許さない。」
「武士の誇りってやつか。いいぜ、これで決着だ。邪魔するものは誰も・・・いない、よな?」
「その場合は、ぶった斬ってやるさ。」
「そうか、じゃぁ、行くぞ。最後の戦いだ。」
セイバーとライダー。戦いを生き残った2人の最後の戦いが始まる。
Fate/key's memory 後編 中
中編がちょっと長くなりすぎた可能性が微レ存
多分下のほうはすぐ終わっちゃいますかね・・・
だからそんな時間かからないかも?と思いますがこの時期もまた忙しくなってくるんですよ・・・・
でも頑張ります。途中でやめようと思うこともありましたがなんとか完成までいけそうです。