第8話‐9

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 父としてわたしは何をしてやれたかと、今になっては後悔ばかりだ。

 2人の子供を育てるのは大変だった。家のことはすべてデハがやってくれていたからな。デハを突然失った悲しみに暮れている暇はわたしにはなかった。そう、君たち2人がいたからだ。

 君たちにわたしができることを考えた。デハのおかげたと思っている。あの時、考えているわたしに、君たちは心配しなくても大丈夫、自分たちがいると、逆に手を差し伸べてくれたな。あの時、君たちの父となれたことを幸せに思った。

 仕事にも理解をしめし、嬉しくもわたしと同じ道を君たちは歩んでくれた、海洋学者という道を。

 情けない親だった。きっと君たちにデハのように愛情を与えてあげることは、きっとできなかっただろう。それでも君たちは、わたしが思う以上に立派いに育ってくれた。

 脳細胞が破壊されて、君たちの記憶がなくなっていこうとしている。わたしは学者として、この定めを冷静に受け入れなければならない。脳細胞の死滅はいずれ、君たちのことすらも分らなくなるだろう。

 だからここに君たちに残せる唯一の贈り物を残しておくことにする。

 君たちが海洋学者であることを誇りに思い、わたしと同じように学問に対して、真剣に向き合い、探求の心があるのであれば、きっとこの贈り物は、興味を引くだろう。

 水は生きている。

 このようなバカげたことを学者が証明することなく言葉にするのは、非常に愚かなことだ。だがこれは事実であり、わたしが必死になって証明しようとしていることがらなのだ。

 水は生命体だ。しかもここの生命体ではない。宇宙全域の、あらゆる惑星の水分は1つの生命体なのだ。我々はその中で生かされている。特に我らティーフェ族は、水に生かされている。だからこそ言えることだ。

 この事実をわたしが初めて知ったのは、病になった頃まで遡る。故郷のダゴルトで海洋生物の調査をしている時のこと。すべての水分子が何らかの電波を発していることに偶然気づいた。それを調べていくと、生命体の細胞活動に似ていることに気づき、そこからわたしは、誇大妄想的仮説を構築した。

 この宇宙の水は1つの生命体なのではないだろうか。

 壊れていく脳細胞が勝手に妄想したただの夢なのかもしれない。何が現実で何が夢なのかも、今では分らなくなっている。だがこれだけは確信でして君たちに言える。水は生命であり、水は何かに怯えている。

 研究結果はわたしの今の状態では、きっと導き出すことは難しいだろう。だからこれを君たちに託したい。

 水が生命体であるといういくつかの証拠は、君たちに残す記録に入っている。そこから君たちが答えを導き出してほしい。

 そろそろ疲れた。

 これが最後のわたしの言葉になるかもしれない。

 そうだからこそ言っておきたい。

 わたしは君たちを子供に持ち、君たちの母親デハと出会えて、本当に幸せだった。

 君たちを心のそこから愛している。言葉では言い表せないほどに、君たちを愛していた。


 ティーフェ族、ジェフフェ族の言語で水に記録された、海洋学者グザの記録はこれをもって最後である。

第8話‐10へ続く

第8話‐9

第8話‐9

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-11-25

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