皇帝陛下の末のお嬢様

~小柄な世話係の少年の唄~

怖くはないですか
コーディリア様

金色に輝く髪を靡かせて立つ
高貴な戦士たる貴女のお姿を
小間使いでしかない僕は大分遠くから
困り眉で見ておりました

琥珀による富で潤った
この豊かで穏やかな国を
心ならずも
濃い赤に彩られた戦禍が襲うのは
古今の歴史を通じて良くある話なのでしょう


紺碧の貴女の瞳が夜空を仰ぐと
今宵も冷たく輝く月光が映り込み
蠱惑的だと密かに感じていたその眼差しが
コバルトブルーに燃え上がりました

昏冥にお独りで佇む後ろ姿を
これで何度目にしたか
来られなかった許婚の彼を
今夜もまたお待ちなのですね

恋する少女でありたいと
焦がれ願った麗しい貴女が
子供時代に彼と交わしたという儚い約束は
今度こそ深く深く
湖面の底へ沈めてしまえば良いのです


誇大な城塞では
木の葉に隠れて闘うようなもの
姑息な戦略では
鋼鉄を貫けないとご存知でいて なお 
氷のように凍てついた心身に全てを抱え込んで
後悔は決してしないと頑なにおっしゃるのですね

故郷から随分と離れたところに行かれる貴女
子守歌さえ思い出せない夜もありましょう

黒雲の立ち込める戦場で どうか
幸運の女神が貴女だけに微笑むよう
懇悃と祈り続けるのが
こっそり企てた非力な僕の任務です


「木霊たちよ
 答えておくれ
 こんなにも悲しみが深い訳を そして
 ここから先に平和な未来があるのかどうか」

声高に呼ばわる貴女の問い掛けは
忽焉と森の奥の闇へ消えるでしょう

呼応する精霊の囁きは きっと
小高い丘に朝陽が差すまでお預けです

「黄金色に輝く
 小麦畑が広がるように
 快い束の間の幻を貴女に」


希う僕の声は果たして届くでしょうか

孤高の戦士にさらなる明日の夢がありますように

皇帝陛下の末のお嬢様

皇帝陛下の末のお嬢様

「こ」が紡ぎ出す物語、その二。 「皇帝陛下の末娘」の別視点のお話。

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-11-24

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