不満な兄弟

 どこか東の国、ある双子が赤い屋根の家にすんでいた。たまに人からもらったお菓子を分け合う事がある、お菓子の好きなものは好きな方へ。つつましく、健康的。双子は小さいころからずっと一緒だった。父は生まれたときからどこか遠くで働いていて月に数度返ってくるだけだ。いつも苦しい事も悲しい事も分け合う二子だった。そのどちらも小さいころは悩みはなどなかった。むしろお互いに二人で生まれてよかったとおもっていただけだ。そして優しい母は、いつもその二人の仲睦まじい様子をみてにこにことしていた。
 その片割れが、平等でない事にはじめて悩みを覚えたのは、中学生になったころ。初めこそ気にしていなかったし、小学生なら、得にそこまで相手の事をどうにかしてやろうとか、正義感なども小さなものだから、それほど過剰な行動はしない。しかし中学生になると、二人の間に大きな差がうまれた、それが火種となって事あるごとに衝突がうまれた。兄は少しアンニュイな雰囲気、弟は、とても明るい、だから友人や、異性の友人も多くなって、人気者になっていった。同じ用につつましく、健康的に、そして、豊かな心と表情をもっているのに、人気があるのは弟の方だった。
 兄はその弟に次第に嫉妬心をもっていった。まさか自分が、そんな心を持つとは思ってもいなかった。小さなころから、
 「あなたはお兄ちゃんだから」
 そんな風にいわれて、真剣に生きようと思ってきたのに。顔もそっくり、眼も青い、髪型だって同じ、色も金色。それでもどうして、この差がうまれたのか。兄はだんだんと深く考えるようになった、そのせいで一人になる時間が増え、孤独も感じ始め、とうとう悪循環から逃げられなくなった。眠るときも。家にいるときも学校にいるときも、友達といるときも、一人ずっと悩んでいた。

 そんな事が続いた中学二年生のある日、長い廊下のある自宅アパートで、兄弟と同じように青いを持つ母親が、食事の準備をしていた、午後6時、ただいまと声がかかり玄関が開く音がした。そのうち靴をぬいで、玄関をかけあがり廊下をタタタと走る音がする、騒がしいのは弟のほうなので、弟かと思えば、顔を出したのは兄のほうだった。
「ただいま」
 そうしてしばらく食事の準備をしていたが、母は、ちょっとコンビニに買い物があるとでていった、その間に、兄は、恐ろしい嫉妬心に駆られてしまった。それは子供時代から苦しんでいたこと、あまり年がはなれていないのに、兄でいなければいけない重圧、ほんの少しの事で、崩れてしまうようなもので、部屋にいたものの、母親のいたキッチンへすすみ、リビングにたち、一度食卓にある椅子にすわったものの、ふらふらと立ち上がった。
 
 弟は無防備だ。無防備に大切なものを家族の共同の場所においていた。
「生意気だ」
 気がつくと、兄は……いつのまにか弟がリビングにおいていた豚の貯金箱を、あろうことか机の上にわざとおっこしていた、それは薄い陶器の貯金箱で、いとも簡単に割れてしまった。兄には自分が何をしているかも、わからなかった。まるですべての不満が弟や、母の言葉のせいであるように、ほんの一瞬、ほんの一瞬母が、家からいなくなる、そんな珍しい一瞬に魔が差してしまったのだった、それをしたあと、恐ろしくて兄は震えていた。自分が何をしていたのか、そんなに不満をかかえていたのか、不貞腐れて、やっと悪い事ができた開放感と罪悪感から、テーブルのすぐそば、地べたにフローリングと、カーペットの丁度間、テレビの前でよこになって、そのまま寝そべてって母の帰りをまった。リビングの四角のテーブルの上には、ばらばらになった貯金箱がひろがっていた。

 一瞬、夢をみた、それは自分と弟がまるで反対の立場になる夢だった、そうするとなぜか、自分に同情ができたのだった。狭いアパートの部屋、やはり家族は自分たち三人だけだった。
   
 しばらくすると、今度は母の声で、ただいま、と声がかかった。そのあと、どうしたの?といい、大丈夫?と心配されはじめた。兄は体を起こさずうずくまってこう一言。
 「ごめん」
 怒るかと思った母は、リビングにいる弟をみて、そこで起きた出来事の様子をみて、膝を崩して、問い詰めた、しばらくして、恐るべきことがおこった。 母は、いたずらについて、むしろ母親のこれまで兄の苦しみに気がつかなかったことを、謝った。
(わたしが、一人であるはずだった人間を、仲良く生きられるように、二人一緒に産んでしまったから、あなたは普通の喜びより、もっと強いよろこびと、そして、悪いところにも、強い感性を感じるようになってしまったのね)
 弟は、その日、まるで取りつかれたように凶悪な顔をしていたのに、いつのまにかその顔がひいて、こわれた貯金箱をみて、いつのまにかぽろりぽろりと涙を流していた事に気がついた。別に母に言われたことを全て気にしているわけではない、ただ単に、自分が気に入らなかった。そこで体をおこし、同じように膝をついて、母にだきついた。
 (そういえば、何でも半分こしよう、恨みっこはなしって、はじめにお菓子を分けてくれるように頼んだのは、僕のほうだった、僕はいつも僕の中に
 弟の姿を見ていたのだ、いままでもこれからも、勝手比べたのは自分だ。さっき夢をみた。弟は見本であり、僕がするべきでない悪事を教えてくれるもう一人の自分)
 兄はその事に気がついたとき、まず初めに、自分の中の悪い感情をどうにかしようとして、母に謝った。母はそっと兄の頭をなでて、がんばらなくていいと声をかける、カーペットにふたり、ひざをついて、抱き合っていた、しばらくすると兄は、また謝り、それから、母にお願いした。弟にこれを謝りたくても、自分ひとりでは、まるで、もう一人の自分自身のようで面から謝るのはきまりが悪い。近頃、そういう事が難しくなった。だから見ていてほしいと、そして母を気遣ってか、母に抱かれそのまま兄ははこういった。
 「今までの僕にとって弟は、僕の半分、でもそれは、自分の中で、自分が作った想像。近頃弟とうまくいかない事がふえて、いつのまにか不満がたまって、僕の想像は、僕が勝手にしてものなのに、これまで自分は二人だとおもっていて、そこに差が生まれてしまった、それは自然にうまれたものなのに、自分と同じ人が、ひいきされるようで、悪い心が生まれて、止めようとしたけれど、それがうまくいかなかった、それを弟のせいにしていたんだ」
 母親は、余りの言葉に思わず涙をながして、二人は、兄が帰ってきて話をするまで泣いていたのだった。

不満な兄弟

不満な兄弟

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-11-22

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