29
秋晴れの空の下
紅葉した街路
外套を羽織り始めた群衆
からからと響く鳥の鳴き声
足を引きずる男がいる
ゆっくりと歩いている
ゆっくりと歩いている
ゆっくりと歩いている
男の周囲には腐乱臭が漂い
通り過ぎる子どもは鼻をつまむ
手を繋いだ母親は顔をしかめて
革紐を握られている犬が厳しく吠えた
ゆっくりと歩いている
ゆっくりと歩いている
ゆっくりと歩いている
男の汚れた顔に何が描かれよう
男のとろい足取りに何を見られよう
全ては暗く絶望の色をしている
男はただ足を引きずり歩いている
ゆっくりと歩いている
ゆっくりと歩いている
ゆっくりと歩いている
29