怨念がおらん件
ちょうど4年前に起きた心霊に関する出来事、そのころ自分が不健康な状態が続き、不健康の理由を探るとひとつしか思い浮かばなかった。それは毎晩自室内で響くある奇妙な物音だった。俺はその理由を探るため、色々ためしたが、実際大家に相談しようとどうにもならなかったし、業者に来てもらっても解決しなかった。おかげで徹夜しようがしまいが、朝を迎えるとくまができている生活が続いていた。引っ越してきたばかりのときはそんな事はなかったのに1か月後だなんて妙な時期にそんな事が起き始めるなんて、俺は都会での生活に憧れ、大学生活を満喫しようとしていたのに。
目を閉じて自宅を想像する、いくつかの部屋をわけいって、リビングへと急ぐ、その間に誰かに出会ったら、霊感があるとかないとか、そんな話を聞いたことがあったけれど、怪奇現象がおきて、解決できず、またしばらくたった日、俺はその真相を確かめるために、あるレストランチェーンのバイトから帰った後で、その後輩をひきつれて、自宅アパートへと案内した、彼は、バイト先でも霊感があるとかないとかいいふらしていたのだった。
「先輩、普段から霊感とかあるんですか?」
「いやあわからないんだよなあ」
「僕は何も感じませんけどねえ」
ただの物音か、ラップ音というものか、そもそもが俺のアパートの壁はとても薄い、だから隣人や、上の階の人間の物音がよくとおる、それとは違い、深夜、すやすやと眠るころになって、こつりこつりと、まるで赤子の這うような音が聞こえるので、自分はそれに嫌気がさして、まずその“霊感テスト”を後輩にうけさせ、後輩が、のりにのって、幽霊がみえた、というので、すぐさま後輩を、その日、俺のアパートに来てもらう事にした、あわよくば、悪いものを払ってもらおう、というのが俺の魂胆だったのだ。
バイト先と自宅は近く、おれはのんびりと、くだらない話しをして後輩にうざがられながら、自宅前まで案内していた。
「ここなんだけど」
「外観は何も感じませんねえ」
「なにもって、そんなわけ」
そりゃそうだ、外観は変哲もない、レンガ色したたてものだ、住人のない部屋がひときわさびれて見えるが、どこも古いのであまり目立たない。洗濯ものをほしている中年ぽいおばさんの住人と目が合って、顔をさげて会釈だけして、裏から自分の部屋へと向かう。ピンポーン、わけもなくベルを鳴らすと、後輩があきれ顔でこちらをみた。
「今一人でになったぞ」
「はいはい」
「俺はみえてたんだよ、これまで、今朝までさ」
「そうですか、嘘はあきました、先輩」
俺は呆れ返した面をして鍵をあけた、家の中へ入ると案内する、生活感がないのはリビングまで、リビングには漫画同人の原稿用紙や、領収書がならんでる、洗濯ものはたたまず置いてあるものもあるし、まさに男の部屋、居住空間だ。
それから霊感のある後輩に、一通りみてもらったものの、後輩は、そ家の中に例はいないという、それよりも俺の同人活動やら、収集している漫画やらが気になっているらしく、こいつ本当は霊感なんて嘘なんじゃないかってくらいサブカルの話に没頭した。幽霊、追い払ってもらおうとおもったのになあ。昼の3時から、夕方の代替6時まで、後輩はそのまま、流行りのスウォッチのゲームをして帰って行った。ただ、帰り際に奇妙な事をいっていた。
「幽霊、ともちがって、ほかの霊的な現象ならありえます、幽霊ともひとくくりにいっても、宿る感情は色々あるのです、また後日きてみて、その時に何か見つかるかもしれません、そしたら、除霊しますよ」
その瞬間、後輩は気づかなかったが、俺は背後で、奇妙な、例の深夜にするような、こつりこつりという音をきいた。俺はこわかったので、後輩を送りにだすという口実に一度コンビニにでて、午後8時を回るころ、あるコミックを買った後家にかえった。
夕方まで遊ん、人を招いたのも久しぶりで、家に帰って、ぐうたらしていると、眠気がきたのでシャワーだけあびて、時刻は9時ごろ、そのままつかれて眠っていたのだが、そのとき、また例の音がした。こつり、こつり。
リビングへと続く廊下、フローリングの床、備え付けの電話のおかれた、台のすぐしたのすきまから、光る眼がのぞいている、のそり、のそり、恐怖といえば恐怖はあったが、奇妙さがあった、なぜなら、赤子というにはあまりに小さすぎるからだ、その隙間は、10センチと少し程度しかない、そこから顔をだしたもの、のそりのそり、ときて、にょきり、と顔をだす、その体には、緑色の線がはいり、固い鎧のようなものをまとっていた、それはカメだった、カメがいた。
「カメです」
「カメだよね」
「そうなんです」
「それで」
のそりのそり、さらに近づいた、おれはいつのまにかソファでよこになっていたようだった、さかさまだったからだを起こし、カメを真正面からみると、急に怖さがこみあげてきた、なぜか人語をしゃべるし、それに、
「にたあ」
笑ったその顔があまりにも人間じみた表情をもっていたので俺はそこで思わず叫び声をあげた。
「ひっ」
しかし、次からが意外な展開だった、カメのやろうは、土下座をして懇願したのだ
「私は幽霊の一種、怨念です……これまでの事も説明しますし、家賃払いますからここにおいてください」
その日、まくらもとに立っていた怨念は、前の、この部屋の持主に飼われていた亀らしかった、なぜ亀が人語をしゃべったのか理解できないが、カメは確かに自らをカメだと名乗ったし、実際その姿形も亀だった。気になる家賃だが、その日から家賃の変わりにある利益が俺の部屋にあった。まずもちろん、第一に深夜に物音をさせないのを約束させた。(深夜に物音をさせるのは、住民が眠っていてつまらないからだそうだ)それから、同人活動にいそしむ深夜、彼に働いてもらう事にしたのだ。
「うーらーめーしーやー」
「ひいええっ」
上階から音がする。壁ドンならぬカメドンである。深夜うるさい上の階の住人を脅かす役目をかってもらった。怨念と暮す生活は奇妙なものだったが、少しばかり思うところもあった、自分もかつて、金魚をかっていた。その亀も、水槽の中で世話がたりず、亡くなってしまったらしく、あの日、枕元にでた日、しくしくとないていたのだった。
怨念がおらん件