都会(まち)の灯

ひと肌恋しい季節。ふと思い出すのは昔の誰かさんのこと。

あなたが好きでした

恋をしていました。
一生をかけた恋です。
忘れられないと、ずっと思っていました。
しかし、心も体も風化するものなのですね。
あなたのニュースを聞きました。
幸せそうで何より。そう思っているのに、なぜでしょう、涙が零れ落ちます。
ワイングラス片手に、旧い映画を見ています。
あの日の二人を重ね合わせるように、何度も何度も同じ場面を繰り返し見ています。
雨に濡れたアスファルトに乱反射する街の明かり。
誇り臭い街の中、私はあなたに夢中になった。
周りが何も見えない、そんな恋でした。
書ききった心にそっと寄り添ううように明かりを灯してくれた。
母が泣きました。
父が怒りました。
兄妹が心配して、引き止めました。
友を失いました。
それでもあなたが好きで好きで、でもそれは夢となり、砕け散りました。
沢山のものを失って、たくさん泣いて、たくさん傷ついて、生きている意味が分からなくなりました。
愛される。
軽々と手に入れることが出来る人が、羨ましくて、心に棘を待ちました。
幾つもの衝突を繰り返し、削られ、今日の私がいます。
もう私は、あなたが知っている私じゃありません。
不器用にしか生きられない私と、今もどこかで、器用に愛を渡り歩くあなたを、この都会の灯りが、今日も照らします。
あなたと別れた、あの日とどこか似ている今日。
とりとめのない虚しさが心をあの日へ、戻して行きます。
まつげの先、オレンジに滲む都会の灯り。
あなたが好きでした。
変えのない愛。
そう信じていました。
抱かれたくて、自分を装って、心弾ませ待ち合わせ場所へ走ったあの日。
冷たい北風が身を震わせ、イルミネーションで着飾った街路樹。
私たちは愛に終止符を打った。
錆びついた恋物語。
それもいい思い出。これも私の一部なのです。と、今夜は強がる私です。

都会(まち)の灯

都会(まち)の灯

寒くなったとある日、ふと耳にしたニュース。古いシネマを見ているように蘇る記憶。

  • 小説
  • 掌編
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-11-19

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