悪役令嬢の妹は自称病弱なネガティブクソヒロイン

第1章 I.セシル・ラインネット①

「セシル嬢、今日もお美しいですね」
「ありがとう。聞き飽きたセリフだけど」
話しかけて来た男は私の返しに僅かに固まる。
だが直ぐに気を取り直して彼は優雅に微笑む。
「もしよろしければダンスのお相手をお願いできますか?」
私は100人居たら100人が「美しい」と褒めるような笑みを作り男を見る。
「よろしくしたくないのでご遠慮願うわ」


「聞きました、今のセリフ」
「ええ、しっかりと聞きましたわ」
「一体何様なのかしら」
「ちょっと美しいからって図に乗りすぎじゃありませんこと」

私の元から去って行く男を見つめるウザい女達がここぞとばかりに責め立てる。
と、言っても彼女達に直接私を害する勇気はない。
せいぜいできて遠巻きで似たような頭のレベルの女達とガチャガチャ言うだけだ。

私はそんな女達を見て鼻で笑ってやった。
すると女達は小説で良く見る「キーッ」と言って悔しがりながらハンカチを噛む馬鹿な女達と同じ顔をしていた。

本当にくだらない。
社交界というのはくだらない所だ。

II.セシル・ラインネット②

先程は失礼しました。
社交界で皆さんの注目を集めていたのは私、セシル・ラインネットと申します。

銀色の髪にルビーの瞳
とても目立つ色彩を持っている上に此の絶世の美女で皆さんの注目を集めています。
(まぁ、言葉の辛辣さでも目立っていますが。
だってどうでもいい男に割く時間が惜しいんですもの)

さて、先程の社交界には私しか出ていませんが実は私には妹がおります。

「お姉様、お帰りなさい」

癖のある黒い髪
長く伸ばした前髪で極力顔を隠そうとおかしな努力をしている。
大きくて丸いメガネしか印象に残らない妹、グロリア。

「また、社交界に行っていたの?」
「ええ。何か問題でも?」
「別に」
「そう。なら私は疲れているの手間休みたいのだけど」
「・・・・疲れるのなら社交界なんて行かなければいいのに」

うざっ。

「ねぇ、言いたいことがあるならボソボソ言わないではっきりと言ってくれる?
でなければ何も聞こえないわ」

私がそう言うとグロリアは黙って俯く。
まるで私が弱いものイジメをしているようだ。
そんな姿を見ると余計にイライラしてくる。

「陰口のつもりなら本人のいないところでするものよ」
「陰口、なんて。
大好きなお姉様の陰口なんて私言わないわ」
言葉と表情が真逆だ。
社交界では常に笑顔を絶やさず(あまりできてはいないが)表情を読み取れないようにするのが普通。

それができないグロリアは社交界では致命的だ。

「あら、そう。
てっきり、黙り込むものだから私は陰口を言っているのだと思ったのよ。
ごめんなさいね」

会話は終わりとばかりに私は立ち竦むグロリアを残して自分の部屋へ戻った。

「お嬢様、お帰りなさいませ。
お風呂の用意は出来ております」
「ありがとう。頂くわ」

侍女のルルにドレスを脱がせてもらい私はお風呂に入った。
浴室に入り、脚を伸ばすとかなりふくらはぎが張っていたようで気持ちが良い。

「お嬢様、長風呂はご遠慮ください」
浴室の外から抑揚のない声が聞こえる。
ルルの声だ。
あの子の声は抑揚がなく、表情もあまり動かない。
まるで人形のようだ邸の使用人に言われていた。

「分かったわ」

ルルの言う通りお風呂から上がってナイトドレスを着て、さぁ寝よう!と、なれば良いのだけれど残念なことにそうはならない。
私は続き部屋に入り、其処にある執務机に置かれた書類に目を通す。

「此れはジークが?」
「はい。一時間程前に持って来ました」
「そう」

ジークというのは執事のこと。
因みに私専用。
私や他の者にはジークと呼ばれているが本名はジークフリードだ。
長いのでジークと呼ばせてもらっている。
年は26歳。黒髪黒目で端整な顔立ちをしている為、使用人の中てま絶大な人気がある。

「相変わらず几帳面ね」

ジークが持って来ました書類はきちんと整理されているのでとても分かりやすい。

「お嬢様、今日は夜会もありましたのであまりご無理は」
「ありがとう、ルル。
これだけ見たら休むわ」
「分かりました。
何かあったらお呼びください」

ルルは一旦下がり、私は書類に目を通し許可できるものはサインを、検討の余地があるものは机の上にある木箱に入れた。

悪役令嬢の妹は自称病弱なネガティブクソヒロイン

悪役令嬢の妹は自称病弱なネガティブクソヒロイン

銀色の髪にルビーの瞳を持つ伯爵令嬢、セシル・ラインネット。 人に冷たい印象を与えてしまう彼女だけど、とても美しい容姿や内面からも惹かれる人が多くあり社交界ではとても有名な彼女には双子の妹が居た。 癖のある黒い髪と目立つ丸くて大きな眼鏡。 とても可愛らしい顔をしているのだが幼い頃から体が弱く社交界にあまり出なかった彼女はとても内向的で友達が一人もいない。 そんな彼女は社交界で人気者でありながら裏でかなり嫌われている(→と、思っている)姉が大嫌いなのだ。 姉は自分のコンプレックスを刺激するだけの存在だった。 そんな彼女を慰めてくれるのは姉の婚約者であるミハエル・ミロハイトと実母だけだった。

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-11-18

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  1. 第1章 I.セシル・ラインネット①
  2. II.セシル・ラインネット②