知恵の罰

 私は機械になりたい。
 何も考えず与えられて仕事をこなす。
 ああ何と素晴らしきかな。

 若いときは違った。
 頭を使わない仕事なんて退屈で人間のやる仕事じゃ無いと傲慢にも思っていた。
 だから必死に勉強して大学に入ってまた必死に勉強した。
 大学を卒業して入社して、自己啓発して己のスキルを磨いていった。
 高く高く高く。
 必死に上り詰めようとした。
 もがき足掻いて、この苦しみこそ人間だと思い込んでいた。
 苦しんで苦しんで苦しんでその先に幸せがあると信じて苦しんだ。
 もうどうにも耐えられないくらい苦しんで、頭が潰れそうになったいた。
 そんな時、会社の命令で強制参加させられた公園の草むしり。
 下らない仕事だと、思考を停止してだた黙々と仕事をこなした。
 草を抜いて。
 草を抜いて。
 草を抜いて。
 知らぬまに時間は流れ終了の合図が鳴ったとき、俺は苦しみから解放されていることを知った。
 まさに天啓のラッパ。
 幸福はここにあったんだ。
 即日で退職をし、選びに選んで出来るだけ単純繰り返しで頭を使わない仕事に転職した。
 仕事をしている間は、全ての苦しみから解放されていた。
 親兄弟はそんな仕事でどうする、苦しんだ先にこそ幸せがあると説教する。
 だが、それは幻想。
 それが証拠に仕事が終わり家に帰って、なまじ考える時間が出来ると苦しみだした。
 なんたること、この人間だけが持つ知恵こそ知恵の実を食べてしまった人間への罰。
 俺はこの知恵を消し去りたい。
 機械となって幸福になりたい。
 そう願い俺は今日も仕事に行く。

知恵の罰

知恵の罰

  • 随筆・エッセイ
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-11-12

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted