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「私、騙したの。


自分の為に涙を流したの。
最低でしょ。」


幼かったあの日、
私の人生が変わったんだ。

一筋の涙で。


「家族だって証明するのに、何がいるの?
こうやって手を繋げば、
抱き締めあえば、
心が繋がれば、家族でしょ・・・?」


幸せになる方法はたくさんある。


幸せになりたかっただけなんだ・・・。

「真優~お兄ちゃんたち起こしてきて?」
お母さんが私に言った。

私は立花真優。
立花財閥の一人娘。
裕福な家庭で育った普通の女の子・・・
とは少し、違うかもしれない。


私には兄が3人いるけれど、
いろんな意味で困った兄たちなわけで。


「まだ起きてないの?今日から大学始まるんでしょ?」

そう。今は4月、始まりの季節。

「誰も起きてこないわ。3人ともよ~。
可愛い妹に起こしてほしいのかしらね?」

なんて微笑みながら言うのは私のお母さん。
優しくて綺麗で料理が上手。
完璧な母。

「自分で起きてもらわなくちゃ困るよ。」
と言いながらもお兄ちゃんたちの
部屋がある2階へ向かう私。

「はぁー。」
ため息が出る。


ーーーーーートントンーーー


一番上のお兄ちゃん、
勇治の部屋のドアをノックする。

いつも通り返事はない。

「入るよー。」
ドアノブを握り、部屋に入る。
シックな家具でまとめられ
綺麗に片付いた部屋。

そして、ベッドの上でまだ眠っている勇兄。
「綺麗な顔ー・・・。」
なんて囁いてしまうくらいカッコいい。

勇兄は26歳にして父の財閥が運営している会社の社長をしている。
モテる要素をたくさん持っているはずなのに彼女はいない。

「勇兄起きてー」

「んー・・・」
と言いながら伸びをして起きる勇兄。

「私が起こさなくても起きてよ。」
と言うと

「ごめんごめん。
真優にどーしても起こしてほしくって。
よっし、下いこっか。」
と頭を撫でながら言う。

「はぁー。」
本当にカッコいい、なんて思ってしまう。

私は勇兄の後を追い部屋から出て、隣の部屋へ行く。


ーーーーーートントンーーーーー



今度は次男の玲太の部屋。

玲兄は有名大学の3回生。
頭は良くて、何をしてもセンスがある。
大学に通いながらファッションコーディネーターとして
働いている。

「玲兄起きて!」

「起きてるよ。」
真顔で言う玲兄。

「だったら一階来てよ!」

「真優が来るまで待ってようと思って。」
とベッドの下にあるスリッパをはきながら言う。

パジャマなのにスタイルがよくて
思わず見とれてしまうほど。

「見とれんな。早く行くぞ。」

「み、見とれてないから !」

図星をつかれて恥ずかしくなる。
玲兄はそんな私をよそにさっさと部屋を出ていく。

少し冷たい感じはするけれど、
誰よりも情に熱く、人の事を理解していると思う。



ーーーーーーートントンーーーーーーー



次に向かうのは三男晴輝の部屋。

晴兄はこちらも有名大学の2回生。
玲兄と同じ大学に通っている。
スポーツ万能で有名だったけれど、
今は何もしていない。

「晴兄起きてよ。
朝ご飯できてるよー。」


・・・なんて言っても起きないのは想像の範囲内。

と思っていたらいきなり腕を掴まれた。

「うわっ!」

「チューしてくれたら起きるよ?」

なんて可愛い顔で言う晴兄。

「バカ!一生寝てれば!」

腕を振りほどき部屋を出る。

「待ってよー。」
と後をついてきて私に抱きつく。

晴兄に抱きつかれながら一階へ降りる。



ーーーーーーーーーーーー

「あれ?真優なんか怒ってない?」

私の顔を見て言う勇兄。

「どうせ晴輝だろ?」
と冷静に言う玲兄。


「そろそろ離れなさい。
真優が困ってるだろう。」

後ろからスーツを着たお父さんが言った。

「お父さん!おはよ。
そーだよ、晴兄離れて!」

「はぁい・・・。」

しょぼんとする晴兄。


私のお父さんは立花財閥を率いるトップ。
カッコよくて、優しくて、
兄たちの誰もが憧れる存在。


「ほら、食べましょ。」

お母さんの一言でみんなが席につく。

「「いただきます!」」



毎朝こうして一日が始まる。
素敵で幸せな毎日ー。





「行ってきます。」

毎朝家族全員が私を見送りに
だだっ広い庭を歩き、門まで来てくれる。

「いってらっしゃい。気を付けるのよ?」
お母さんが心配そうに言う。

「もう高校生だよ?大丈夫。」

そう言うと私は背を向けて歩きはじめた。



ーーーーーーーーーーーーー

「真優はなんで送りの車使わないかな。
心配で仕方ないし。」

勇治が真優の専属のお手伝いさん、黒田さんに目を向けながら
そんなことを口にする。

「真優は運転手にも気を遣うからな。
だからお手伝いもつけないんだよ。
こんなに人がいるのに。」

と言い、
庭で掃除などをしている30人ほどのお手伝いに
目を向ける玲太。

もちろん、お手伝いは30人じゃ済まないほどいる。

「心優しいんだよ、真優は。」

父は腕を組ながら言った。

「そーよ。可愛い妹ね。
真優みたいな子、他にいないわよ。」

目を細めながら言う母。

「妹ー・・・?」



その言葉にみんなが晴輝の方を見た。


「あいつは確かに家族だよ。
でもー・・・



妹じゃない。」

晴輝は苦しそうにでも笑いながら言い、家の中へ入っていった。


みんなが心配の目を向けているのをよそに
玲太が口を開いた。

「あいつは自分の感情がよくわかってないんだよ。
妹がどんな存在なのかを知らないだけだよ。」

そう言って、晴輝の後をおった。

「そー・・・よね?
ほら、中に入りましょ。」

母は残った父と勇治を連れて家へ戻った。


そう、真優はー




本当の家族じゃない。

私はてくてくと歩いて学校へ向かう。

向かう途中には
何台もの高級車が横切る。


そう、私が通う高校は
名門お嬢様学校。

通っているのは令嬢や御曹司ばかり。


実は玲兄と晴兄が通っている大学の付属だから
二人のキャンパスはすぐ隣にある。


ぼーっとしながら歩いていると
横に一台の高級車が止まった。

窓を開け私に話しかける────────


「いつまで歩き登校なわけ?
車で来ればいいのに。乗りなよ。」

そういうと運転席から運転手が出てきて
ドアを開け、私を手招きする。

話しているのは私の親友のまりや。

彼女も社長の令嬢で、かれこれ長い付き合いだ。

「いーよ。悪いし。
先行ってて。」

私が再び歩き出そうとすると、

「ほら!」

いきなり手を引っ張られ、車の中へ。

「黙って乗りゃいいのよ。
勝地行って。」

運転手の勝地さんにそう言うと
「かしこまりました。」と言って、車が動き出す。

「ありがとうございます・・・」

と申し訳無さそうに言うと
勝地さんはミラー越しにニコッと微笑んでくれた。

なんだかんだ毎朝お世話になっていたりする。



学校に着くなり私の手を引きながら教室に向かうまりや。

すると・・・

「キャー!!!!!」

何人もの女の子たちの黄色い声が響きわたった。

「どしたのかな?」
私は興味無く言う。

「いつものことじゃない。あの子達が来たんでしょ。」

あの子達・・・


とは、ルックス・頭脳・運動神経、何においても完璧で
学年、いや学校一のもて男
「神崎仁」

と、神崎仁の親友でこちらも何においても完璧、
学校で一二を争うもて男
「藍田廉」

このふたりが通るとまるでアイドルかのような黄色い声援が飛び交う。


「真優って、興味示さないよね。」

まりやがニヤけながらそんなことを言う。

だって、カッコいいとかよくわからないし・・・
いや、見た目は確かにカッコいい。
でも話した事もないし、ぶっちゃけ二人がどんな人かまでは知らない。


「そりゃそっか。家にあんだけカッコいいお兄ちゃん達がいれば。
ついでにパパまでカッコいいし、あの立花財閥のトップだし。
ママも完璧だしね。」

なんて頬杖をつきながら言うまりや。

「そんなことないよ。
家族は完璧かもしれないけど、
私は普通、むしろ普通以下の女の子だから。」

「はぁー。なにもわかってないな、真優は。
ま、それがいいんだろうね。」

そう言って1枚の紙を見せてきた。

「学校内モテランキング?」

そこには

「一位立花真優・・・?」

男女ともに一位のところに私の名前が。

「これ、校内全員に聞いた結果よ?
理由、"笑顔が可愛いから"、"なんでも完璧だから"だって。
あんた男にモテるのは前々から知ってたけど、女にもモテんのね。」

「いやいや!おかしいよ!みんなどんだけ目が節穴なの?
しかも校内全員て、私と聞かれてないし。」

そう、そうだよ!

「前回のディフェンディングチャンピオンだからじゃない?」

そう、実は去年も選ばれていたらしい。
私の学校は毎年このようなランキングが発表される。
でも、あまり興味が無くて・・・なにも知らない。

「しかも男女ともに一位獲得は真優が初めてらしいよ!」

とテンションマックスなまりや。

とは言うもののまりやは二位にランクインしている。

「こんなのどーでもいいよ、
ほら授業の用意っと。」

私は席を立った。

「ほんっとに鈍感だよね~。
あんたも完璧だっつーの。
ま、真優らしいか。」

まりやがそう言ったのも聞かずに。

授業が終わり、今は帰り支度をしている途中。

「真優~私、委員会あるんだ。
待っててくれたら送ってくけど?」

まりやが私の席まで来てそう言ってくれる。

「いや、いいよ。ありがと!
委員会頑張ってね。
また明日ね。」

「了解。なんかあったらすぐ連絡ね?」

まりやは私が一人で帰る度にそう言ってくれる。
本当に家族といい、友達といい、
恵まれていると実感する。


────────────────────────────────


帰り道の信号で、青に変わるまで携帯を片手に待っていた。
勇兄に"今から帰るね"と連絡を入れる。
お兄ちゃんたちがあまりにも心配するので、
これか私の日課になっている。

すると、後ろから肩をたたかれた。


振り返ると、


「あ・・・。」

学年一のもて男、神崎仁と親友の藍田廉がいた。


「立花真優・・・さんだよね?」

神崎仁が言った。

「でも、その反応は俺たちの事、知ってるんだよね?」

隣にいた藍田廉が言う。

だって今日、まりやが言ってたし、
なんせ学校一の有名人だし。

「知ってるもなにも、有名人だから。」

私が言うと安心したように神崎仁が口を開いた。

「良かった~。知らないって言われたらどうしようかと思ったよ。
っていうか、有名なのは俺たちよりも立花さんでしょ?」

「そーそー。
すごいよね真優ちゃん。男女から好感度No.1なんだもん。」

それに賛同するように藍田廉も言う。
なんか、いつの間にか仲いいみたいになってる・・・。
"真優ちゃん"って・・・。

「いやーなんかいきなり声かけてごめんね。
見かけたもんだからつい。前から仲良くなりたかったし。
改めて。俺は神崎仁、好きなように呼んでね。」

「俺は藍田廉。廉くんって呼んでくれたら嬉しいな~。」


「神崎くんと・・・廉・・・くん。」

なんだか晴兄に少し似てる気が・・・。

「照れてる~やっぱ可愛いね!」

廉くんは私のほっぺたをつつきながら言う。

「お前は~。ごめんね。また明日ね。
ほら、行くぞ!」
神崎くんはそう言うと手を振って
廉くんを連れて信号を渡っていった。



廉くんは晴兄に似てるけど、
神崎くんは、何て言うか、大人で優しくて、
女の子達がキャーキャー言うのがわかった気がする。

私は生まれてすぐ両親から捨てられ、
マンションの下のゴミ箱に入っている所を
発見されて、施設で育てられた。


施設では世間一般的には
何一つ申し分ない生活をさせてもらっていた。

「真優」という名前も多分ここの先生が
付けてくれたんだと思う。

優しい大人がいて、友達がたくさんいて。

でも、両親が迎えに来て、
嬉しそうに引き取られて行く友達たちを見て、
私は少なからず焦りを感じていた。

─────────このまま独りぼっちになったらどうしよう。───────


でもどうしていいか分からなかった。
お金も何もない私。

唯一、先生達から誉められるのは、


――――泣かないのね、まゆちゃんは――――――

そう。どんなに痛くても、
どんなに悲しいことがあっても、
物心ついた頃から泣いた記憶が無かった。



――――――だって、ずっと辛いから。


嬉しい日々なんて1日も無かった。

覚えてる。生後何ヵ月だったけれど、
ゴミ箱の中から空を見た記憶が
微かに脳に焼き付いていた。

施設の先生たちは色んな話をしてくれた。


「まゆちゃんは、鳥さんが運んできてくれたのよ。」
「まゆちゃんのパパとママもうすぐくるからね。」

―――――違う、どれも違う。――――
私は捨てられたんだ。
私はすでにその事実が分かっていた。


だから大人たちは嘘つきで大嫌い、
そう思っていた。



どんな人から生まれたのかも分からない私を
誰が引き取るのか。

そんなことを考えながら
施設で毎日を過ごしていた。


するとある日、
施設でスーツを着た大人二人を見た。

どうやらこの施設の人ではないのはわかった。

一人は男性で一人は女性。
お互い優しく微笑みあい、
女性が男性の歪んだネクタイを直したりしていた。

このふたりはどこか暖かい雰囲気で包まれていた。


―――――――私の両親もこんな人たちだったらいいな―――――


見たこともない、会ったこともない両親への
期待は高まった。

でも、永遠に迎えに来ることのない両親。

幼い私が考え出した結論だった。



―――――どうしたらこの人たちの子供になれる?―――――


遠くから見たことしかない二人。
まして話したこともない二人に、私は
両親の理想を描いていた。


そして、私は―――――――――――


「うわーん!」

その二人の前へ行くなり泣きわめいた。

この施設へ来て、物心が付いてから初めて泣いた。
だから泣き方がわからなかった。
ただ、毎日隣で泣いている友達のマネをした。

そんな私を見て二人は戸惑いながら
私の目線に合わす。

「どうしたんだろう。
痛いのかな?」

男性はそう言うと私を抱き上げた。

初めて感じた人の温もり。
男性は「どうした?」と笑顔で聞いている。

しかし、女性はずっと黙っていた。

そして、私を見て先生に言った――――――


「この子、引き取ってもよろしいですか?」

私はまだ「引き取る」の意味が分からなかった。

私達の家は世間一般的なお金持ちのお家。
だから一人に一人はお手伝いさんがつく。

私にも一人お手伝いさんがいる。
黒田さん、すっごくいい人で、
お兄ちゃん達は1年に一度、
お手伝いさんを変えるんだけど、
私はずっと黒田さん。

もう何年も一緒にいるんだけど
でも、いつもこう言われる。


「お嬢様、私になんなりと申し付け下さい。
私はお嬢様に遣われてこそ、意味があるのですから・・・。」

と。

でも・・・

「いーの!私だって普通の女の子だよ?
黒田さんも普通の人なんだから。
そんなこき使うなんて、できないよ。」

と、何年も言い続けている。



私と黒田さんの出会い。
それは、お手伝いさんを選ぶ時だった。

私が小学校に行くまではそこら辺にいるお手伝いさんが
いつも私を気にかけてくれていた。

そして、私が怪我なんかをすれば、
お父さんが帰ってきて私の近くにいたお手伝いさん
全員を怒鳴り散らしていた。

でも、小学校に入る前。
お父さんが男の人を50人、いや100人?
とにかく大勢の人を連れて家に帰ってきた。

「真優、ここから好きな人を選びなさい。」

そう言った。

ma.na.mi---kuma@docomo.ne.jp

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  • 小説
  • 短編
  • サスペンス
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-10-02

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