マツケン奮闘記・・?!
‐プロローグ‐
俺達の住む街は、都会のあのビル街と違って殆んどが商店街ばっかりだ。
それでも少しづつ増えだしたコンビニと、それと、まあ俺の家からはちょっと離れてはいるけど、でっかいビルが建った。
今じゃお馴染みとも言えるモール街ってやつだ・・。
大して大きな街でもないけど、俺が生まれ育った街だ。
ちなみに俺は、松岡兼太・・、通称、呼び名がマツケンって言うんだ、なんでか一部の人に、そう呼ばれてる、って言うか
殆んど友達がおもなんだけどさ。
そんでもって俺の家族って言うと、五年前に親父が逝っちゃってから今は、お袋が独りで切り盛りしてる。
それと三つ下の妹居るんだけど、真子って言って、今高三の女子学生なんだ、けど、これがまた可愛い顔して、ちょっと生意気なんだよな、
なんたって妹のくせに俺にはやたら口うるさいんだ、俺がどんな格好しようがいいじゃんって思うんだけど、
人の頭のてっぺんから足のつま先までチェック入れだして・・・
『お兄ちゃん、その格好可笑しいよ・・』とか、し仕舞いにゃ『ださい格好しないでよ、こっちが恥ずかしいんだから・・』とかさ。
それだけでも鬱陶しいっつうのに、まるでお袋みたいな口調で・・・
『お兄ちゃんはもう、社会人なんだからシャンとしてよねえ?そうじゃなきゃあたしが笑われるんだから・・』
だとさ・・・。
(まったく、余計なお世話だっつうの・・・)
で、あと、俺のニつ上の兄貴がいるんだけど、これが何ともパソコンおたくで、ちょっと変わり者で浩太郎、って言うんだ・・。
けど本人は、その名で呼ばれるのすっごい嫌っててさ、どうも太郎ってのが気に入らないらしいんだ・・、
まっそうは言っても文句を言いたくても、その名前を付けた本人がいなくなっちゃったんじゃ文句も言えないってんで、
兄貴に同情してか、今じゃ家の中で兄貴の事、浩、って一文字で呼んでるんだ・・・。
(まっそれで本人が満足してるんだからいいけどね・・)
けど、俺に太朗が付いてないのが、兄貴にはどうも気に入らないようで、時々俺の顔見ちゃ、嫌みたっぷりに言うんだよね・・。
『お前はいいよな~兼太?・・・』だってさ・・。
(俺が付けたんじゃないっつうのにさ、まったく・・・・)
まっそんな兄貴だけど、何かと面倒見はいいし、頭も悪くない、だからそれなりに頼りにはしてるんだけどね。
あっそだ、俺、今バイトしてるんだ、実を言うとさ、俺、東京に行きたいんだ、だからその為の資金集めって奴を本気で考えだして
るって訳、そうは言っても、これはまだ、お袋にも兄貴にも内緒なんだ、どうせ言っても反対されるのは分かりきってるしね、
まあバイトって言ってもコンビニの店員だからそんなに稼げる訳でもないから、お袋には、ちゃんと就職した方がいいとか
言われちゃうんだけどさ、でもそうなると出て行く時が面倒だから、まっ今んとこはその内って事で何とか誤魔化してるんだ・・。
そうは言ってもここんとこ兄貴も少し、愚痴を漏らすようになったから、ちょっと焦ってる、それもわざわざ、俺の部屋に来て
漏らしてるんだからたまんないよ。
それに近頃は、やたらとため息つくようになった兄貴は、どっか落ち着かないし・・・。
ってそんな昨夜の事だけど・・・
「ああ、兼?明日、バイト終わったらでいいからさ、ちょっと俺に付き合ってくれないかな?」
って何だよ、いきなり・・・
「あ、ああ・・・いいけど、何処行くの?」
「ああ、それは会った時にな。それじゃお前の仕事が終わる頃に、いつものとこで待ってるよ。それじゃ宜しくな」
何時ものとこって言うのは、何を隠そう兄貴が高校の時、毎日のように通っていたという、コーヒーショップなんだ。
たまに俺も、そこで友達とうっちゃべってたりすんだけどさ・・。
その時、傍で聞いてた真子が俺らの話しに割り込んできた・・・、
「ねえ、あたしも連れってってよ?ねえ浩兄~?ね、いいでしょ?あたしだけ仲間はずれは嫌だよ~、ねえ~?」
ってなにいきなり入ってきて勝手言ってんだよ・・・、
何かと俺らの話しに首を突っ込んでくるこの妹は、未だ兄貴にだけは、ちょっといらっとするくらいの猫なで声で喋るんだ。
(まったく・・)
だから時々こいつの事、ホントは多重人格じゃないかって思う時があるんだよな・・・。
それに、何かと真子に甘い兄貴は、また考え込んでる・・って言うか、そこ考えるとこなのかな、俺にはサッパリだよ。
すると・・・
「ああ、真子?悪い、明日は勘弁な?ちょっと兼に用があるんだ。今度行く時は、必ずお前も連れてってやるからさ!だから明日は
悪いけど遠慮してくれ、なっ?真子は聞き分けいいから、俺の言う事分かってくれよな?」
って何か、遠慮がちに頼んでたりする兄貴は、もう見てらんないっつうか、聞いてる方が落ち込んでくるよ・・・。
まっ、それでもいいよって言わないだけ、俺はため息だけで済んだけどさ。
けど、それで納得するのか、内心は気が気じゃなかったんだけど、驚く事に真子の奴、ニコニコしてるんだよ。
(どうしてだ・・)
「ああ、そうなんだ・・分かった。しょうがないよね?真子我慢する。でも今度はきっとよ?ね、お兄ちゃん?」
だってさ・・・。
「ああ、悪いな。今度必ずだ、ありがとう真子」
って、どうして謝まってんだよ?
まったく・・・まっこれが兄貴なんだけどな。
何がどうしたんだか、訳が分かんないけど・・・まぁとりあえず、問題解決ってことだよな・・。
とは言え、真子が兄貴にべったりになるのは正直分かんないでもないんだ。
あいつは親父っ子だったから、その親父が居なくなったんだしな・・・。
だから、そんな真子に兄貴は何かしら気を遣ってるって言うか、はたから見てると親父の代わりしてやってるって感じなんだ。
まぁ兄貴も真子が可愛くてしょうがないって感じだし、それはそれでいいんだけどさ・・・。
ちょっと甘すぎじゃないかって、俺は思ったりしてる。
そして翌日、俺は、バイトは五時迄なんだけど、でも少し早めに上がらせて貰って出た・・。
そのコーヒーショップって言うのは、商店街の中にあるんだけど、いかにも古そうってのが滲みでてる店だ。
けど、こじんまりしてて、結構感じのいい店でさ・・・だから結構、学生も多いんだ。
つったって、この街じゃ気の利いたカフェなんてこの店ぐらいなんだけどね。
まぁ俺も何度か友達と来たりするけど、今じゃ兄貴との方が多いかもな・・・。
俺が店の中に入ると・・・
「お~い、兼?ここだ」
店の隅の席に独り陣取ってた。
(あっ、ちょっと違うか・・・はは、まっいいや・・)
「ああ、結構待たせちゃった?ああ、そうだな。俺も何か頼もっかな?ああ、すみません・・」って言うと
店のウエイトレスがイソイソと来て「いらっしゃいませ、御注文ですか?」
「ああ、ジンジャエール一つね・・、あっあと、兄貴、お替わりは?」
って聞くと・・・
「ああ、俺はいいや・・」
「あっそ・・・あっ、それじゃそれだけ頼みます」
「あ、はい・・・ジンジャエール一つですね」
そう言って小首を下げてイソイソと行っちゃったけど、その後ろ姿を何故か兄貴は徐に眺めて溜息をついた。
(どうしちゃった訳?なんからしくないだろ・・・まっいいけど)
「ねえ、兄貴が付き合ってくれって、もしかして此処の事なのか?」
って聞くと、自分のコーヒーカップを眺めながらニヤリと笑った。
(なんだよ、気持悪いな・・・)
すると・・・
「なぁお前、好きな人いるか?って言うか彼女は居るのか?」
(ってなんで俺?俺って関係なくね?まあいいけどさ・・・)
「居ないよ。居る訳無いだろ?けど、俺の事は関係ないだろ?兄貴の事で俺は此処に居るんだし・・・どうして俺よ?」
って言うと・・・
「だろうな。まっそうだよな・・なぁ兼太」
って言いかけた時、店の扉にぶら下がってる鈴がカランと鳴って客が入って来た。
ってその瞬間、兄貴が固まった・・・。
(は?何?)
その時、兄貴の視線に俺も眼を向けたら、俺も固まった・・・。
(え?ウソ・・・!?)
すると・・・
「あれ~?松岡君じゃない?元気してた~?あっ・・・」
って何故か兄貴見て驚いてる。
(今更だろ・・・)
声掛けて来たのは、俺の同級生の藤田奈津美・・・高校の時からのつき合いで、腐れ縁って奴かな・・・。
まぁいいや・・・何かやたらとお節介な奴で、ちょっとお喋り好きな、俺の最も苦手な相手だ。
って言うか、どうしてこんなとこで会っちゃう訳・・・?
(て言うか、この間、カラオケに付き合ったばかりじゃなかったっけ・・)
「ああ、お前も元気そうじゃん?って、お前な・・・この間会ったばっかだろ?何だよ、その白々しい言い方は?
まっいいけど・・・あっ、連れが居んじゃないのか?いいから待たせちゃ悪いだろ?じゃあな・・」
って言うと、何か凄い顔して睨んできた。
(なな、何だよ・・・)
「あのね?そう言う言い方ってすっごい傷つくのよ?まったく、これだからマツケンなのよ・・」
「はぁ?なんだよそれ?訳分かんね・・・いいから行けよ」
「あっそうだ、ねぇ、今度同窓会でもしようって皆に声掛けてるのよ。加藤君も斎藤さんも来るのよ?ねぇ、松岡君も来てよ、ね?
西田君知ってるでしょ?彼が今度の幹事なの・・・電話番号教えとくからさ?その時にでも返事聞かせて・・・場所とかは、その時に彼が
教えてくれると思うから宜しくね。連絡待ってるわよ?絶対来てよね?それじゃ、あっどうも・・」
って、何言っちゃってる訳・・・?
(何なんだよ、いきなり同窓会って?それに俺の返答無視かよ?まったく・・・けど、連れの人って誰?アイツにあんな知り合い居たっけ・・)
不意に兄貴を見たら、何故かまだ、奈津美の方をジッと見てた・・。
(何?まだ何かあんのか・・?)
「あ、兄貴?どうした?・・・あ、あのさ・・・」
って言いかけたら・・
「お待たせしました、ジンジャエールです」
って、俺の話しにいきなり割りこんで来たのはウエイトレスだ・・・。
(まったく、すみませんくらい言えよ。まっいいけど・・・あ、あれ?何だっけ・・)
すると、また奈津美が来た。
(何、なんだよ・・)
「ああ、ごめんね。はい、これ。電話必ずしてね?嫌だって言ってもマツケンは来ること決定なんだから、裏切ったら許さないわよ?
それじゃ宜しく。お邪魔しました」
(もお~勝手にしてくれっつうの~・・・)
すると、突然・・
「おい、兼?お前、あの子に気があんのか?」
またこれも問題発言でしょ?
って言うか、何時もの兄貴に戻ってるし・・・。
「あ、あのさ、何で俺があんな奴・・・辞めてくれよ。はっきり言って俺、その気まったくゼロだから、余計な気ぃ廻さないでくれる・・」
「あっそ・・、それは残念だな。結構かわいい子なのにな・・まぁいいや。けどあの子、お前に気があるんじゃないのか?俺の勘だけどさ・・」
「はぁ?んな訳ないっしょ?変な事言わないでくんないかな・・・あ、そうだ。それより兄貴の用って何なんだよ?そっちの方が先だろ」
「あ、そうだったな。あ、あのさ、俺にあの子を紹介してくんないか?」
(はぁ?何言ってんのかな・・)
「あ、あの・・・兄貴、あの子って・・・だ、誰の事かな?」
って、ちょっとトーンが上がっちゃったかな、
「あ、だから・・・あの子だよ、お前の・・彼女の・・・」
って、意味不明・・・。
「あのさ、兄貴・・・あの子って、つまり今の奈津美の事か?もしかして・・・そう、なのか?」
すると兄貴はアッサリと・・・
「ああ・・・」
「まぁ別にいいけど・・・何、兄貴は今日会ったばっかなのに気に入っちゃった訳?へぇ、驚いたな・・・兄貴が奈津美をねぇ」
「こら、そんなんじゃねえよ。変な誤解しないでくれ・・・俺が・・・ああ、まあいいや。今のは撤回な?忘れてくれ・・・いいな、マツケン君?」
(何なんだよ全く・・・俺をからかってんのか?)
その時、浩太郎は、内心思った・・・・、
何度も通った甲斐があったな、やっと会えた、正直、辞めたと知った時は、俺の半身がもぎ取られた気分だったけど、
でもまた会えた・・。
今度こそ思いを伝えたい・・、あっいやせめて、名前だけでも聞けるといいな・・・、
そうでなきゃ俺は、この先一歩も前に進めない気がする・・。
けど兼太の友達と知り合いとは、さすがにそれは意外だったけど・・・、ああ、でも好かった・・・・。
あれから一周間、何故か兄貴の奴、部屋に籠ってるんだ。
俺はって言うと、あれからっずっと考えてたんだ・・・兄貴が何のために俺を誘ったのか?
結局兄貴は、要件なんて何も話しちゃくれなかったしな・・、まったく俺は何しに付き合ったんだかさっぱりだよ・・。
それでだ―。
一つ思い出した事がある。
あのコーヒーショップは確か、兄貴の好きな子が居るって聞いた事があったんだ。
けど、もう辞めたとかって聞いた筈なんだよ。
でも、あん時どうして奈津美なんだか・・・そこがどうもよく分かんね。
って、どうして俺はそこまで悩んでる訳・・・。
(はぁ・・・)
兄貴は高校の時、あのショップでウエイトレスをしてた女の子に一目惚れをしたんだ。
あの時は確か、俺がまだ中二の頃だ―。
そん時の兄貴は、普通の高校生だった・・・あ、今も普通って言やぁ普通だけど・・・。
ただ、あの頃に比べると『暗い』・・・まっそれに尽きるんじゃないかな。
俺が行った時は彼女はもう辞めた後だったから、顔は知らない。
けど、あん時の兄貴・・・かなり、その子にお熱上げてたからなぁ。
もしかすると兄貴のあの根暗は、あの子が切っ掛けなのかも―。
多分だけどさ。
その時、ドアを叩く音・・・
「ああ、いますよ」
言うと、真子が顔を出した―。
「あの、ちょっといいかな?」
(何で泣きそうな顔してんだよ?)
「ああ、いいよ。何、どうした?お前が俺んとこ来るのなんか珍しいじゃん。あ、先言とっくけど、俺金はねぇよ」
と言ったらいきなり怒りだして・・・
「兼兄のバカ!そんなんじゃないわよ!どうしてあたしが来るとそうなの?もういいよ、このバカけん」
《バッタン!》
思いっきりドアを閉めて出てった。
(うわ・・・こわっ!けど、不味かったかな・・・)
更にまたノックの音―。
《コンコンッ―》
(なんだよ・・)
「あいよ」
何と、顔を出して来たのは兄貴だ。
「おい?お前、真子に何したんだ?まったく、妹を虐めんじゃねぇよ?このバカ兼」
(何なんだよ、いきなり・・)
もう、頭来た―。
俺はこの理不尽さに腹が立って、真子の部屋へ怒りをぶつけてやろうと行ったら
何故か真子の奴、兄貴とげらげら笑いながら話し、してるじゃん・・・。
(え?何?どうなってる訳・・・)
何なんだよ、この光景はさぁ・・・。
「あっ、兼兄?どうしたの?何か用?」
(はは・・・俺って何なんでしょ?はは・・ははは・・・)
もうやってらんね。
俺は部屋に戻ってからベッドに潜りこんで、更に布団の中で思いっきり叫んだ―。
(馬鹿やろう!俺は馬鹿けんなんかじゃね―)
そんな俺を他所に兄貴と真子は・・・。
「真子、何があったんだ・・?兼の奴になんか言われたのか?お兄ちゃんで好かったら話してくれるか?」
「あ、うん・・、あのね?あたし・・、ラブレター貰っちゃったの、あ、でもそれはいいの、ただ・・・、兼兄が知ってる人なんだけど、
あたし、二三度しか顔を会わせたこと無いし・・・それに話しもしたこと無いの、でもその人が、今度二人で会いたいって・・・、
ねえお兄ちゃん、どうしたらいいかな?兼兄に、聞いてみようかなって思ったんだけど、兼兄は、金は無いとか言い出すし、
話しにもなんないんだもん・・・・はあ~ぁ」
(なんだ、そう言う事か、でもこいつも、そんな年頃になってたんだな・・・、早いもんだ・・)
「そうか・・・、でも兼は、ああ見えて、意外と頼りになる奴だよ、お前が思うほど、薄情な奴じゃないさ、兼が知ってる奴なら、
俺なんかよりいいかもしれないぞ?兼にもう一度話してみたらどうだ?」
「んん・・・、やっぱりその方がいいのかな・・・、分かった、そうしてみる、ありがと?」
「あ、でもどうなったのかの報告はお兄ちゃんにも教えてくれよ?それだけは、約束してくれるかな?」
「うん、それはもちろん・・・、でもどうして浩兄じゃ駄目なの?ああ、そっか、お兄ちゃんは色々忙しいもんね、わかった、
ちゃんと報告するから、大丈夫よ?ありがとねお兄ちゃん?」
(まっ言いたくないけど、彼女なんて持ったこと無い俺じゃぁな、それに俺は自分の事で精一杯だし、あいつなら何とかしてくれるさ)
それから数日が経った日曜日の夜・・・。
バイトの帰り道・・・よりにもよって、また奈津美と会った。
(ああ、疫病神だ。こいつと会うとろくなこと無いんだよな俺・・)
「ああ、松岡君じゃない、今帰り?あたしも今、バイトの帰りなの。ねぇ、良かったらちょっと寄り道してかない?
話したい事も有るし・・・ねっ、いいでしょ?」
って真顔で見てる、また断れないのか俺、どういう訳だか・・・未だかつて俺は、こいつの誘いを断った試しが無いんだ・・。
(何でだ・・?)
「あ、ああ・・まぁいいけど、それじゃちょっとだけな」
入ったとこは、この間来たばっかの、コーヒーショップの店―。
「ねぇ、松岡君ってさ・・・好きな子いるの?あ、誤解しないでね?別にあたしは、何とも思ってないんだから。
ただ、ちょっと気になっただけだから・・。あ、そういえば、この間言った件で電話してくれた?ねっ、行くでしょう?絶対行くよね?ね?」
遠慮無しにジッと人の顔を覗きこんできた。
(な、何だっつうの?そんな覗きこむんじゃね~よ、まったく・・)
「あ、ああ・・・そうな、行く。行くからさ、そう人の顔覗きこむなって・・。あ、そうだ、俺も聞きたい事あんだけどさ?お前、
彼氏いるのか?誤解すんなよ?別に、彼女とかそう言うの俺は興味ないからな。ただ、ちょっと聞いときたかっただけだからさ・・あ、
別に居たっていいんだよ。まぁいっか・・悪い、気にしなくていいよ」
その時、奈津美と仲の良い小池美香と、何故か一緒に西田裕也がくっついて入って来た。
「あれ、マツケン、久しぶり。何、お揃いで・・」
(何だよ、その意味深な物言いは・・・?)
「何だよ、それはこっちのセリフだろ?そっちこそ何だよ、お揃いで・・何デートか?・・・けど、久しぶりだな」
「松岡君、それに奈津美・・・今日はどうしたの?そっちこそデートとか?あっそうだ・・ねぇ、松岡君は同窓会の話し聞いた?」
またそれかよ・・・。
「ああ、聞いた。それで、何時やるんだって?西、もう決ってるんだろ?」
「ああ、まあ大体のとこはね、ただ、場所がまだ未定なんだけど・・どうかな此処の店を借りるって言うのは?
いやさ、皆が知ってるとこって言ったら此処の店ぐらいだろ?それを考えると、手っ取り早く此処に決めちゃおうかなってさ。
なぁ、マツケンも一緒に考えてくれよ?とりあえず、今んとこ来るって決ってるのが、六~七人ってとこかな。
あ、そうだ・・一応さ、担任の山田先生にも声掛けてみたんだ。けど、アッサリ無理だって断られたよ・・まぁしょうがないんだけどね・・」
何考えてんだか、この生真面目男は―?
(先生なんか呼ぶなっつうの・・)
けどまぁ、西田は生真面目過ぎるくらいの奴だから、予想はつかなくもなかったんだけどね。
そんな奴だから、頼み事は大体が聞いてくれたりするんだ。
特に悩み事を打ち明けたりなんかするとさ・・・まぁ言い変えれば、人がいいんだろうな。
けど、何にでも真面目に捉えちゃうってのは、ちょっと難点ではあるんだけどさ・・。
「良かったよ。けど先生なんかに声掛けんなよな・・まったく。まぁいいや・・場所だけどさ、いいんじゃないか?俺も此処の方が
来やすいし、それにみんなも此処知ってるんだから良いと思うよ」
「そうだよな・・やっぱりそうするかな。好かった・・、で、後はそうだな・・会費なんだけどさ、独り三千円ってのはどうかな?」
って、何それも、まだ決まってないのか・・。
「おい、なんだよ?それもまだ決ってなかったのか?いいよ、それはお前に任せるからさ。勝手に決めてくれよ・・な?よし、頼んだ。
それじゃ俺、帰るよ。悪いな・・」
って言っちゃったけど、奈津美、怒るかな・・・。
「何言ってるのよ~、独りだけ抜けるなんて駄目に決ってるでしょう?最後まで付き合いなさいよねえ、此処まで来て独り先に帰るなんて
絶対許さないんだからね?マツケンが居なきゃ終わんないんだから・・・・」
(ああ、やっぱりな・・って何で俺だよ、まったく、勘弁してほしいよな~)
「はいはい、分かりました、付き合いますよ、付き合えばいいんでしょうが?それで?あと何を決めなきゃいけない訳?」
すると意気揚々と西田が乗りだしてきた・・・、
「ああ、それでさ?せっかくこうして集まったんだから、此処は、このメンバーで、協力し合えたらいいんじゃないかって思うんだ?
だから・・宜しくね?あ、とりあえず、場所の確保と、会費の徴収・・、あと・・・、名簿だ、そうそれ、やっぱり今後の事も有るしさ?みんなの
住所とか電話番号とか、控えとくのもいいんじゃないかと思うんだ、どうかな・・・?」
するとずっとカヤの外って感じで押し黙って聞いてた小池が、
「あ、うん、それいいと思うわ?そうすれば、また来年だって連絡し合えるし、ねえ奈津美・・?」
「そうね?あたしも賛成・・、それじゃぁその役割分担、決めましょう?」
ってなに俺の意見は無視なのか・・、
「お、おい待てよ奈津美~、どうしてお俺には聞かないんだ?俺はまだ、いいともいってないだろ?まったく・・」
「ええ?だってマツケンに聞いたって、言う事分かっちゃうんだもん、それなら聞かない方が得策ってもんでしょ?ねえみんな?」
(何だよそれ・・訳分かんね・・、だからこいつに会うとロクなことないっつうんだよ、まったく・・はあ・・腹減ったな~)
で・・、延々と続いたこの打ち合わせは、俺の夕飯をも省かせて、挙句、俺は名簿の作成を押しつけられて、やっと解散したのが22時過ぎ・・。
(って有りかよ・・まったく、何時間、居るんだよ・・)
な訳で俺は、お袋に小言を言われながらの晩飯を食べる羽目に・・・・。
ってそれだけじゃことたりないとばかりにどうした訳か、真子の奴が俺の部屋の前で、腕組みして立ってた・・、
(もう・・・勘弁してよ~)
「もう・・遅い・・?!あたし待ちくたびれちゃったじゃない・・・」
ってこれって俺に所為なのかぁ・・訳わかんねえよ・・。
「あのなぁ、俺は、お前に待ってろって言った覚えは無いんだよ?何でお前に文句言われなきゃなんないんだよ・・?まったく・・」
すると真子の顔がしわくちゃになった・・(はあ?なに、うそだろう、なに泣く事があるんだ・・?)
「お、おい・・、なに?何で泣くんだよ?何か俺、虐めたみたいだろがぁ、まったく・・」
って言うと、更に泣き出した・・、もう、こうなると手に負えないんだよなぁ、こいつ・・、ああ、もう・・どううしてこうなるんだよ・・。
「ああ、もう、わかった、分かったからさ?泣くな、な?とりあえず話し聞くからさ、それでいいだろ?」
って言った途端に真子は・・・、
「あ、うん、ありがと・・」・・だってさ、(これだよ、まったくゲンキンな奴が・・)
「あ、あのね?・・・、兼兄の友達に、吉野っているでしょ?よくお兄ちゃんが、ヨッシーとかって呼んでる人・・・」
「ああ、修の事か?・・何、あいつがどうかしたのか?」
「あ、うん・・、あの、あたし、あの人からね・・、ラブレター、貰っちゃったのよ・・、ねえお兄ちゃん?吉野さんってどんな人なの?」
「はあ・・?嘘だろ、あいつがかぁ?信じらんねえ・・・、あ、まあいっか、ああ、どんな奴って言われてもなぁ、まあ、そうだな、とりあえず
悪い奴じゃ~ないよな、けど驚いたなぁ・・、あいつがねえ・・」
ああ、吉野 修って、まあ、あいつも俺の高校の時の友達なんだ・・。
けどあいつ、女子の中じゃ、結構人気もんだったんだ・・、だから彼女くらいはもうとっくに居るかと思ってたんだけどなぁ。
それがなに、よりによって、うちの真子かよ・・・、どんな思考感覚してんだぁ、あいつ・・・。
まっ俺には理解不能だけどさ・・。
「お兄ちゃん?それじゃぁ説明になってないでしょう?あたしほんと、どうしていいか分かんないんだから、もう少しちゃんと
教えてくれなきゃ困っるよ・・、あの人に今度、ちゃんと会いたいって言われっちゃったんだからねえ・・」
「うそ?・・・そう、なのか?・・ああ、悪い・・・・、そうだなぁ、まあ勉強は出来て・・、まっ頭は悪くないな、それで、んんん・・そうだな、
人当たりはそこそこ良くて、女子には結構、モテモテで、幾つか貰ったって言うラブレター見せて貰った事もあったな・・、ああ、それから・・」
って話してたらいきなり真子が・・・、
「お兄ちゃん?!もうー!そこまで言わなくていいのー?!そんなんじゃなくて・・・、ああ、もう~」
って何だよ、なんでまた泣くかな・・(もう勘弁してくれよ~)
「ああ、分かった、分かったから、そう泣くなって?悪かったよ・・、けど俺も、なんて説明していいか分かんないんだよ・・、まっとりあえずさ?
俺から何とか、あいつと話してみるよ、だからそれで今日のとこは勘弁してくれよ?なあ真子・・?正直、今日は俺、へとへとなんだよ、
だからさ?なっ頼むよ、な?」
「あっうん・・、分かった、ごめんね?でも、あの人の事、お願い、お兄ちゃんしか頼めないの・・、あっそうだ、あの人に会おうって言われたの
だから、それまでには、返事考えとかなきゃいけないの、お兄ちゃん?それも一緒に考えてくれるよね、ね?お願いね?
それじゃぁ、あたし部屋に戻るよ、ごめんね?おやすみ~」
って何で、こうも、あっさりなんだよ・・。
(ああ、もう~どうしてこう次から次へと俺に来るんだよ~、泣けてくるよ、まったくさ?・・ああ、もう寝よ、疲れたよ・・)
ってその時・・・、《コンコンッー》
(またかよ・・いい加減、寝かせろっつの、まったく・・)
「もう寝たよ~!」って言ってはみた・・・、けど、いきなりドアが開いて兄貴が顔を見せた・・・。
(やっぱり、こうなるんだ・・・)
「ああ、悪いな?・・」
(ああ、悪いって言うぐらいなら遠慮してほしいよな・・、どうせ無理だろうけどさ・・・)
「実はお前に、頼みがあるんだ・・、あ、まあ、大した事じゃないんだけど・・、この間会った、お前の彼女、なんだけどさ・・?一度俺と、
話しさせて貰えないかな?・・・ああ・・別に無理ならいいんだよ・・・、ただ、話しさせてくれるだけで・・・、駄目、かな?兼、太、クン?」
(はぁ?やっぱり、兄貴は、奈津美な訳?こりゃ驚いたな・・)
「ああ、別にいいよ、とりあえず、今度あいつに会った時、聞いとくよ・・、あ、それで兄貴の都合は、何時でもいいのか?」
「あ、ああ、俺は何時でもいいよ、あ、それじゃぁ・・頼むな?眠りの邪魔して悪かったな?それじゃおやすみ?」
とさっさと兼太の部屋を出た浩太郎は少し浮かれ気分・・・。
(好かった・・、けど兼にしちゃ、やけにアッサリ引き受けてくれたなぁ・・、って俺の気のまわし過ぎか・・、マッいいさ、これでよしっと・・)
兄貴が出て行ったあと俺はって言うと・・、
(まったく、兄貴も素直じゃないよな~、そうならそうと言やぁいいのにさ・・、はは、けどこれは見ものだぞ~、よーし、少し俺が後押しでも
してやるかな・・・そうすりゃ兄貴の根暗も少しは解消されんじゃねぇ?ああ、楽しみだなこりゃ・・」・・・。
マツケン奮闘記・・?!