翠碧色の虹(2)
虹は七色だと思っていた・・・不思議な少女に出逢うまでは・・・
---あらすじ---
虹の撮影に興味を持った主人公は、不思議な虹がよく現れる街の事を知り、撮影旅行に出かける。その街で、今までに見た事も無い不思議な「ふたつの虹」を持つ少女と出逢い、旅行の目的が大きく変わってゆく事に・・・。
虹は、どんな色に見えますか?
今までに無い特徴を持つ少女と、心揺られるほのぼの恋物語。
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↓「翠碧色の虹」登場人物紹介動画です☆
https://youtu.be/GYsJxMBn36w
↓小説本編紹介動画です♪
https://youtu.be/0WKqkkbhVN4s
「翠碧色の虹」は完結いたしております!
閉幕まで何卒よろしくお願いいたします!
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ご注意/ご留意事項
この物語は、フィクション(作り話)となります。
世界、舞台、登場する人物(キャラクター)、組織、団体、地域は全て架空となります。
実在するものとは一切関係ございません。
本小説に、実在する商標や物と同名の商標や物が登場した場合、そのオリジナルの商標は、各社、各権利者様の商標、または登録商標となります。作中内の商標や物とは、一切関係ございません。
本小説で登場する人物(キャラクター)の台詞に関しては、それぞれの人物(キャラクター)の個人的な心境を表しているに過ぎず、実在する事柄に対して宛てたものではございません。また、洒落や冗談へのご理解を頂けますよう、お願いいたします。
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十分ご注意/ご留意願います。
随筆三十六:歯医者さんって怖い!?
心桜「イタッ!」
七夏「? どしたの? ここちゃー?」
心桜「あはは・・・今ちょっと歯が痛かった」
七夏「え!? 大丈夫なの?」
心桜「うーむ・・・」
笹夜「歯医者さんに診てもらった方が---」
心桜「えーっ! 歯医者やだよぉー」
七夏「ここちゃー・・・えっと、私に出来る事ないかな」
笹夜「七夏ちゃん?」
七夏「ここちゃー、昔から歯医者さん苦手で・・・」
笹夜「まあ、そうなの?」
心桜「うぅ・・・つっちゃーだって注射苦手でしょ!?」
七夏「え!? えっと・・・」
笹夜「ふたりのお気持ちは、とても分かります」
心桜「歯医者さんが『痛かったら手を上げて』って言うでしょ?」
笹夜「ええ」
心桜「あれ、素直に手を上げると注射が待ってるって罠だよ!?」
笹夜「それは、患者さんのご負担を減らして、治療も行いやすくする為ですから」
心桜「でも、結局、注射で痛いよ! つっちゃー分かるでしょ!? 注射を口の中に打つんだよ!?」
七夏「うぅ・・・」
心桜「あたしさー、最初何も分かってなくて、大して痛くもないのに手を上げて、痛い注射を打たれたから、今は痛くても絶対手を上げないっ!」
笹夜「心桜さん・・・」
七夏「注射は怖いです・・・」
心桜「そういえばさ、小学校の予防接種の時『痛かったぁー』って脅かすヤツいたよねー」
笹夜「心桜さんの所にもいらっしゃったのですね」
心桜「笹夜先輩の所にも居たんですね」
笹夜「ええ。中学生になったら居なくなりましたけど」
心桜「あたしは、順番が最初の方だから、その気になれば、まだの人を脅かす事も出来たけどさぁ」
七夏「ここちゃーは、私に『ちょっと痛かったけどあっという間だから大丈夫だよ!』って☆」
心桜「ちょっ! つっちゃー!」
笹夜「まあ♪」
心桜「ま、まあ、そう言う事にしておきますか!」
七夏「くすっ☆ でもその後、他の男の子には『痛かったよー!』って話してました」
笹夜「心桜さん・・・」
心桜「あはは・・・痛かった事には変わらないからね!」
笹夜「心桜さんも『必ず居る側』だったのかしら?」
心桜「え!? あたしは男子に『痛かった?』って訊かれたから、ホントの事を話しただけだよ。わざわざ訊かれもしないのに嫌味な事を言う気は無いです!」
笹夜「そうでしたか♪」
七夏「ここちゃー」
笹夜「ん?」
七夏「この後、歯医者さんに診てもらいに---」
心桜「えぇー!? 今から!? なんか最近このパターン多くない!?」
笹夜「でも、七夏ちゃんの言うとおり、早い方が良いと思います」
心桜「歯医者のあの歯を削る機械の音も嫌なんだよねー」
笹夜「あの高い音かしら?」
心桜「そうそう! キーンっていう音! あれ、何とかならないのかな?」
七夏「なんとかって!?」
心桜「例えば、サイレンサーを付けてみるとか!?」
七夏「さいれん・・・」
心桜「キーンって音が出ないようにする事! 機械は進化してるはずだから、そういう方向でもお願いしたいよ・・・アレレちゃんじゃないんだからさ!」
七夏「あれれちゃん!?」
心桜「あーなんでもない!」
笹夜「七夏ちゃん、どうします?」
七夏「ここちゃー、一緒に歯医者さんにです☆」
笹夜「私もご一緒いたします♪」
心桜「ううぅ・・・2対1か・・・」
七夏「ね☆ お願い☆」
心桜「つっちゃーのお願いなら仕方ないか」
笹夜「~♪」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
心桜「お待たせ!」
七夏「ここちゃー☆ どうだったの?」
心桜「ん。思ったほどでもなかったよ!」
笹夜「良かった♪」
七夏「くすっ☆」
心桜「つっちゃーの話したとおり、早期だったから大したことなかったって! ありがと!」
七夏「はい☆ これからどうします? みんなでお茶でも---」
心桜「ごめん! あたし、あと2時間くらい何も食べれない!」
七夏「あっ! ごめんなさい!」
心桜「いや、謝まらくてもいいよ!」
笹夜「では、心桜さんにお付き合いいたします♪」
心桜「え? お付き合いって?」
笹夜「心桜さんのお好きな所へ♪」
七夏「はい☆」
心桜「ホント!? ありがとー!」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
心桜「結局、本屋さんになるんだよねー」
七夏「くすっ☆」
心桜「でも、『海これ』の攻略ガイドも買えたし、これでガッツリ楽しめるよ!」
笹夜「すみません」
七夏「笹夜先輩! ありましたか?」
笹夜「いえ。置いてなかったみたいです。でも、まだ読めていない本もありますから」
心桜「つっちゃーは!?」
七夏「えっと、今日は特にお買い物はなかったので、お料理の本を見てました☆」
心桜「そっか、なんかあたしだけ上手く回ってるみたいで・・・」
笹夜「心桜さんは、苦手な歯医者さんで頑張って治療しましたから♪」
七夏「はい☆」
心桜「なるほど! 苦は楽の元ってヤツだね!」
七夏「え!? ちょっと違うような・・・」
笹夜「まあ、間違いとも言えないかしら?」
心桜「あたしは、みんなで楽しめるように、これからも考えるよ!」
七夏「くすっ☆」
心桜「って事で、つっちゃーと笹夜先輩にも帝国海軍の---」
七夏「みんなで『海これ』!?」
笹夜「え!? 『海これ』ってみんなで楽しめるのかしら?」
心桜「基本的には1人だけど、作戦は笹夜先輩、キャラクターの育成はつっちゃー、リアルタイム戦闘のユニット操作はあたし・・・って事で!」
笹夜「なるほど♪」
心桜「つっちゃーも頑張るんだよ!」
七夏「は、はい☆」
心桜「って事で、これからもつっちゃーが頑張る『翠碧色の虹』本編はこちら!」
心桜「http://nanatsuiro.my.coocan.jp/nnt_frma_a.htm」
心桜「あたしたち『ココナッツ』宛ての、お手紙はこちら!」
心桜「http://nanatsuiro.my.coocan.jp/nnt_suiheki_novel.htm#QUESTIONNAIRE」
七夏「勢いでお返事しちゃったけど、どうすればいいのかな?」
心桜「とりあえず、つっちゃーの家に戻って今後の作戦会議!」
七夏「はい☆」
心桜「笹夜司令官殿! ご指揮をよろしくです!」
笹夜「え!? ええ♪」
随筆三十六 完
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随筆三十六をお読みくださり、ありがとうございました!
本編の方も鋭意制作中ですので、どうぞよろしくお願い申しあげます!
随筆三十七:いつでも熱中症!?
心桜「つっちゃー!」
七夏「ここちゃー☆ いらっしゃいです☆」
笹夜「ごめんください♪」
七夏「笹夜先輩も、いらっしゃいです☆ ここちゃーと一緒に来られたのですか?」
笹夜「ええ♪」
心桜「ここへ来る途中で、あたしが笹夜先輩に追いついただけ」
七夏「くすっ☆」
心桜「ところで、つっちゃーもう知ってる?」
七夏「え!?」
心桜「小説本編紹介動画で、つっちゃーの未来の事が紹介されてるよ!」
七夏「私の未来!?」
心桜「たぶん・・・違うのかな?」
笹夜「これから先・・・未来の事は、私達には分かりません」
心桜「ま、そうなんだけど、とりあえず動画の紹介しておくね!」
心桜「https://youtu.be/AZX-zKWmp2s」
七夏「えっと・・・」
心桜「って事で、これからもつっちゃー頑張るんだよ!」
七夏「は、はい☆」
笹夜「こ、心桜さんっ!」
心桜「なんですか? 笹夜先輩?」
笹夜「今回はこれでおしまいなのかしら?」
心桜「何がです?」
笹夜「いえ、てっきり・・・」
心桜「? ・・・あっ! そういう事か!」
七夏「どしたの? ここちゃー?」
心桜「あたし達、今来たばっかりだよ!」
七夏「あ、ごめんなさい。私、お飲み物を用意いたします☆」
心桜「いや、そういうつもりじゃなくて・・・でも、頂きます!」
七夏「くすっ☆」
笹夜「ありがとう♪ 七夏ちゃん♪」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
心桜「ふぅー、で、何のお話しでしたっけ?」
笹夜「今、熱中している事だったかしら?」
七夏「熱中?」
心桜「っそ! 笹夜先輩とここに来る前に少し話してて」
七夏「なるほど☆ 熱中症には気をつけないとです☆」
心桜「熱中症!?」
笹夜「七夏ちゃん、熱中している事かしら?」
七夏「熱中し過ぎると、色々と大変ですから」
心桜「あー、どっちかって言うと、つっちゃーの熱中は『依存症』の事だね?」
七夏「私、小説を読んでて夜更かしさんになってしまって、お母さんに心配された事があって」
心桜「凪咲さんは心配かぁ」
笹夜「心桜さん?」
心桜「あたしのお母さんは、心配じゃなくて怒ってくるから」
笹夜「それも、心配の現れです」
心桜「そうなんだけどさ、もっとこうワイルドに・・・じゃなくてマイルドにならないかなぁ~」
七夏「???」
心桜「なんかこう、家によって、その違いと言うか・・・なんかあるでしょ!?」
笹夜「確かに、ご家庭でのルールは様々ですね」
心桜「笹夜先輩は、夜更かしして怒られたりしますか?」
笹夜「怒られはしませんけど、注意はされるかしら?」
心桜「心配、怒られ、注意・・・まあ、それぞれレベルが違うという事かな」
笹夜「レベル?」
心桜「っそ! レベル1が心配、レベル2が注意、レベル3が怒られるかな?」
七夏「えっと・・・」
心桜「あっ! 信号で言うと、青が心配、黄色が注意、赤が怒られるかな?」
七夏「青は心配なの?」
心桜「んじゃ、青と黄色!」
七夏「なるほど☆」
笹夜「え!? 何のお話かしら?」
七夏「青と黄色は『減速』です☆」
笹夜「減速!?」
心桜「親が車掌と女将だと、こうなるんだよね~」
笹夜「???」
心桜「青と黄色の信号は、列車の信号機であるんですよ!」
笹夜「列車の信号機・・・なるほど」
心桜「笹夜先輩は、熱中している事ってあります・・・あ、ピアノ以外で!」
笹夜「え!? 小説・・・かしら?」
心桜「それ以外で!」
笹夜「それ以外・・・特には無いかしら?」
心桜「まあ、手を広げ過ぎると身が持たないですよね」
笹夜「熱中と言えば・・・」
心桜「何かあります?」
笹夜「美夜が携帯端末のゲームに熱中しているかしら?」
心桜「なるほど! あたしの『海これ』みたいなヤツかな?」
笹夜「美夜は『海これ』も遊んでいます。あまり熱中し過ぎないように注意されてます」
心桜「今度、お手合わせ願いたいところですなぁ・・・つっちゃーは? 小説以外で!」
七夏「えっ!? えっと・・・お、お料理・・・かな?」
心桜「それ以外で!」
七夏「それ以外で・・・と、特には無い・・・かな?」
心桜「えぇ~ホントにぃ~?」
七夏「え!? えっと・・・」
心桜「https://youtu.be/AZX-zKWmp2s」
七夏「こ、ここちゃ~!」
笹夜「心桜さんは、熱中している事ってあるのかしら? バドミントン以外で♪」
心桜「海これ!」
笹夜「それ以外で♪」
心桜「それ以外ですかぁ~最近ちょっと気になって・・・あっ!」
笹夜「どうかしたのかしら?」
心桜「何か、忘れてた事があったような気がしたんだけど・・・漫画かな?」
七夏「え!?」
笹夜「???」
心桜「笹夜先輩の『それ以外で』の答えが漫画!!!」
七夏「ここちゃー、分かりにくいです」
笹夜「まあ!」
心桜「なんだったっけか・・・ま、そのうち思い出せればいっか!」
七夏「くすっ☆」
心桜「って事で、これからもつっちゃーが楽しむ『翠碧色の虹』本編はこちら!」
心桜「http://nanatsuiro.my.coocan.jp/nnt_frma_a.htm」
心桜「あたしたち『ココナッツ』宛ての、お手紙はこちら!」
心桜「http://nanatsuiro.my.coocan.jp/nnt_suiheki_novel.htm#QUESTIONNAIRE」
笹夜「心桜さん、今度は本当に---」
心桜「ですです! 笹夜先輩も楽しんでください!」
笹夜「ええ♪」
随筆三十七 完
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随筆三十七をお読みくださり、ありがとうございました!
本編の方も鋭意制作中ですので、どうぞよろしくお願い申しあげます!
随筆三十八:同窓会ってどう!?
七夏「えっと・・・」
笹夜「まだ私たちには分からないかしら?」
七夏「将来そう思ったりするのかな?」
笹夜「その時になってみなければ・・・」
心桜「こんにちわー!」
七夏「あ、ここちゃー☆ いらっしゃいです☆」
笹夜「こんにちは♪ 心桜さん♪」
心桜「何話してたの?」
七夏「えっと、これ・・・」
心桜「ん? あ、お手紙!?」
笹夜「ええ♪ 同窓会について---」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
心桜「なるほどね~、確かに突然そんな案内が来ても参加するかどうか戸惑う人もいると思うよ」
七夏「ここちゃーは、参加する?」
心桜「その時次第かな?」
笹夜「どういう事かしら?」
心桜「文字通り・・・いや、言葉通りだよ」
七夏「え!?」
心桜「その時、暇してたら参加。予定があったら不参加」
笹夜「参加する事に抵抗はないのかしら?」
心桜「抵抗っていいますと!?」
笹夜「それはその・・・随分変わったって言われたりしないかしら?」
心桜「そりゃ、10年以上も経過したら変わるでしょ!?」
七夏「それは、そうだけど・・・」
心桜「みんな変わってるん」
七夏「るん?」
心桜「いや、今何か思いついた気がしたんだけど、まあいいや」
七夏「?」
心桜「んで、みんな変わってるんだから、そこはお互いさま。笑い飛ばせばいいんじゃない!?」
笹夜「心桜さんらしいですね♪」
心桜「どうせなら、楽しまないとね!」
七夏「はい☆」
笹夜「ですけど、同窓会で久々にクラスのみんなと会っても、何を話せばいいのかしら?」
心桜「ん? 普通は近況報告になるよね」
笹夜「ええ」
心桜「つっちゃー! お久しぶり!」
七夏「え!? こ、ここちゃー!?」
心桜「おおっ! つっちゃーはあんまり変わってないね~、今は立派に民宿風水の女将さんしてるのかな?」
七夏「えっと・・・」
心桜「もぉ~、つっちゃー乗って来てよ!」
笹夜「心桜さん、突然過ぎです」
心桜「何事も臨機応変に対応できなければ! つっちゃー、しっかり頼むよ!」
七夏「うぅ・・・ごめんなさい」
笹夜「あら? 心桜さん? ご無沙汰いたしております♪」
心桜「笹夜先輩!? 相変わらずお綺麗ですね~!」
笹夜「まあ♪ ありがとうございます♪ 心桜さんもお変わりなくお元気そうで♪」
心桜「まあね!」
笹夜「今は何をされておられるのかしら?」
心桜「同窓会に来てますっ!」
笹夜「・・・・・」
七夏「ここちゃー!」
心桜「あはは!」
笹夜「確かに間違ってはいませんけど・・・」
心桜「同窓会の定番! まさに『エビを食べてプリップリッ!』と同じくらい!」
七夏「いつのお話しなの?」
心桜「他にもフィギュアを見て『良く出来てる』って言うのもお約束だよね!?」
七夏「え!?」
笹夜「久々に会った方とお話しする時は、どのようにお話しを始めれば良いのかしら?」
心桜「そだね。『今何してる?』攻撃は高確率で来るから、答えを用意しておく必要があるかもね」
七夏「攻撃なの?」
心桜「同窓会へ参加する時の心得だね!」
笹夜「・・・なるほど♪」
心桜「ん!? 笹夜先輩? 何か思い付きました?」
笹夜「今の生活が充実していれば参加。そうでなければ不参加・・・かしら?」
心桜「え!?」
笹夜「お手紙の主さんへの答えのひとつとして」
心桜「あ、お手紙主さんは参加すべきかどうかで迷ってたんでしたっけ?」
笹夜「ええ♪ わざわざ、辛い思いを他の人にお話しする必要は無いと思います」
七夏「確かに、仲良しさんなら同窓会でなくても会っていると思います☆」
心桜「そだね! ・・・という事で同窓会へ参加する場合は、人様にひけらかす話題が用意出来てからと心得よ!」
七夏「ひけらかすって」
笹夜「心桜さん!」
心桜「あはは! でもそんなに外してないと思うよ!」
七夏「もう・・・」
笹夜「久々にお会いした方と一緒に楽しめるような話題を用意しておくことかしら?」
七夏「はい☆」
心桜「って事で、つっちゃーが楽しむ『翠碧色の虹』本編はこちら!」
心桜「http://nanatsuiro.my.coocan.jp/nnt_frma_a.htm」
心桜「そして、あたしと笹夜先輩も楽しむ『ココナッツ』宛てのお便りはこちら!」
心桜「http://nanatsuiro.my.coocan.jp/nnt_suiheki_novel.htm#QUESTIONNAIRE」
七夏「おたより、ありがとうございました☆」
笹夜「ありがとうございます♪」
心桜「え!? あたし、まだお手紙を読んでないんだけと・・・」
七夏「あ、もう一度読みますね☆」
心桜「うんうん♪」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
心桜「なるほど! お手紙、ありがとうございました!」
七夏「あっ!」
心桜「ん? どした? つっちゃー?」
七夏「さっきの、笹夜先輩とここちゃー。同窓会では一緒にならないと思って・・・」
笹夜「まあ!」
心桜「おっ!」
七夏「クラスが違うからその・・・」
心桜「気付かなかった・・・」
随筆三十八 完
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随筆三十八をお読みくださり、ありがとうございました!
本編の方も鋭意制作中ですので、どうぞよろしくお願い申しあげます!
随筆三十九:修学旅行で学ぶ事って!?
心桜「修学旅行か・・・」
七夏「え!?」
心桜「あ、つっちゃーお疲れ! これこれ!」
七夏「あ、おたより☆」
心桜「つっちゃー待ってる間、先に読んじゃった☆ テヘペロッ☆」
笹夜「心桜さん! 七夏ちゃん、ごめんなさい」
七夏「いえ、私こそお待たせしてしまって」
心桜「んじゃ、もう一度読んでみますか! つっちゃーお願い☆」
七夏「はい☆」
笹夜「心桜さん・・・『もう一度読む』って話されてらしたのに・・・」
心桜「いや、あたしの声よりも、つっちゃーの声の方が可愛いし!」
七夏「え!?」
笹夜「・・・・・」
心桜「笹夜先輩、何か話してください!」
笹夜「す、すみません」
心桜「まあ、真面目な話し、つっちゃーの方が文章読み慣れてるからね!」
笹夜「なるほど♪」
心桜「そう言う意味では笹夜先輩も・・・なんでしたら、二人で読んでみるってのは?」
七夏「笹夜先輩☆」
笹夜「ええ♪ はい♪ ご一緒いたします♪」
七夏「はい☆」
笹夜「では・・・」
七夏&笹夜「ペンネーム、ナッツピーさん 『ココナッツさん、こんにちは! もうすぐ、私の学校では修学旅行で、今から楽しみです! ココナッツさんは修学旅行でどんな思い出がありますか?』」
心桜「修学旅行か・・・」
七夏「え!?」
心桜「あ、つっちゃーお疲れ!」
笹夜「まあ! ダ・カーポかしら!?」
心桜「え!?」
七夏「えっと、修学旅行の思い出・・・」
笹夜「七夏ちゃんと心桜さんは、どこだったのかしら?」
心桜「んー小学校の時は・・・・・あっ!」
七夏「どしたの? ここちゃー?」
心桜「大変な事に気付いた!」
七夏「え!?」
心桜「地名の設定がないっ!」
笹夜「え?」
心桜「致命的!」
七夏「???」
心桜「まあ、このまま進めますか!」
七夏「えっと・・・」
心桜「お寺とお城と美術館だったね!」
七夏「はい☆」
心桜「笹夜先輩は?」
笹夜「私は、日本庭園とお寺、あとは博物館かしら」
心桜「それって小学校の時ですか?」
笹夜「ええ♪ 中学校では、テーマパークと神社でした♪」
心桜「テーマパークは楽しくていいね! あたしたちは中学校はスキーだった!」
七夏「うぅ・・・」
笹夜「七夏ちゃん!?」
心桜「あはは・・・つっちゃーは、その時体調悪くて」
笹夜「まあ、七夏ちゃん修学旅行をお休みされたのかしら?」
七夏「えっと、修学旅行には参加しました」
心桜「出発時は元気だったけど、現地に着いてから頭が痛くなったんだっけ?」
七夏「・・・はい」
笹夜「高山病かしら?」
心桜「確かに山の上だったからねー」
笹夜「では、七夏ちゃん、スキーは楽しめなかったのかしら?」
七夏「こ、ここちゃーも・・・」
笹夜「え!?」
七夏「ここちゃーも、私と一緒に居てくれて・・・」
心桜「修学旅行で何が大切な事かって事だね!」
笹夜「まあ♪」
七夏「ここちゃーも、スキー楽しみたかったと思って・・・」
心桜「そりゃ楽しみにしてたけど、つっちゃーを残してあたし一人で楽しんで、そんな思い出を残してどうするのさ?」
七夏「ごめんなさい」
心桜「つっちゃー! しんみりしないっ!」
七夏「は、はい!」
心桜「あたしは、つっちゃーと一緒にのんびり出来た事が楽しかったし、良い思い出になってるよ!」
笹夜「心桜さん♪」
心桜「そして、修学旅行では、予定通りに事が進むとは限らないという事を修学した!」
笹夜「心桜さん・・・」
心桜「でも、どんな事があっても、これから先は楽しめるように努める事が大切だということも修学したよ」
笹夜「ええ♪」
心桜「つっちゃー! しっかり頼むよ!」
七夏「はい!」
心桜「その次の日の自由時間は、つっちゃーも元気になって、全面的にあたしの観たい所に付き合ってくれたけど、つっちゃー楽しめてた?」
七夏「はい☆」
笹夜「~♪」
心桜「高校の修学旅行も楽しみだね!」
笹夜「私、七夏ちゃんや心桜さんとご一緒できれば良いのですけど」
心桜「そうですねー」
七夏「はい☆」
心桜「高校の修学旅行はスキーだったりして!?」
七夏「うぅ・・・」
笹夜「こ、心桜さん!」
心桜「あはは! つっちゃー、頑張んなよ!」
七夏「はい!」
心桜「って事で、これからもつっちゃーが頑張る『翠碧色の虹』本編はこちら!」
心桜「http://nanatsuiro.my.coocan.jp/nnt_frma_a.htm」
心桜「あたしたち『ココナッツ』宛ての、お手紙はこちらです!」
心桜「http://nanatsuiro.my.coocan.jp/nnt_suiheki_novel.htm#QUESTIONNAIRE」
七夏「えっと、ナッツピーさんへ・・・体調管理にはお気をつけてくださいです☆」
心桜「それ、つっちゃーが言いますか・・・」
笹夜「前の日、楽しみでなかなか眠れなくなるかも知れませんから、早めにお休みなさってくださいませ♪」
七夏「おたより、ありがとうございました☆」
心桜「ありがとうね~!」
笹夜「ありがとうございます♪」
随筆三十九 完
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随筆三十九をお読みくださり、ありがとうございました!
本編の方も鋭意制作中ですので、どうぞよろしくお願い申しあげます!
第三十五幕:太陽よりも輝く虹
蝉の声で目が覚める。いつもよりも良く寝ている事になる。七夏ちゃんが蝉よりも早く起こしてくれる事もあるからだけど、今日は七夏ちゃんもゆっくりとしているのだろうか。そういえば、天美さんや高月さんがお泊まりに来ている時は、七夏ちゃんもお客様のように楽しく過ごしてほしいと、凪咲さんも話していたな。俺は布団から出て、1階の居間へ移動する。
凪咲「おはようございます」
時崎「凪咲さん、おはようございます!」
玄関先から凪咲さんが姿を見せる。
凪咲「柚樹君、どうかなさいましたか?」
時崎「え!? 凪咲さんが家の外から入って来たので」
凪咲「ナオ・・・主人が忘れ物してて」
時崎「え!? 大丈夫ですか?」
凪咲「ええ。すぐに気付いて届けましたから。あ、朝食は七夏達が準備してくれてますので」
時崎「ありがとうございます! 顔を洗って来ます!」
凪咲「はい」
洗面所で顔を洗って、居間へと戻る。
心桜「おはよー! お兄さん!」
時崎「おはよう! 天美さん!」
天美さんが、食器を並べながら挨拶をしてくれた。民宿風水の浴衣姿と相まってなかなか様になっている。
心桜「ん? どうかした?」
時崎「いや、なかなか様になってるなーと思って」
心桜「あはは! あたし、つっちゃーほど家庭的ではないからね」
時崎「そんな事はないと思うけど」
笹夜「心桜さん、あ、おはようございます♪ 時崎さん」
時崎「おはよう! 高月さん!」
高月さんも天美さんと同じく、朝食の準備のお手伝いを行なっているみたいで、少し申し訳なくなった。
笹夜「時崎さん、どうぞこちらへ♪」
時崎「ありがとう。なんか、ごめん」
笹夜「え!?」
心桜「お兄さん、なんで謝るの?」
時崎「本当なら、俺が行わなければならない事なのにと思って」
心桜「なんだ、そんな事で謝ってたら、この先謝り三昧になるよ!」
笹夜「謝り三昧って何かしら?」
心桜「そんなに深く追求されても、イメージ以外は何もないよ」
笹夜「でも確かに、最初は『すみません』って話すところから始まりますから」
心桜「そういえばそうだね。なんでだろ?」
笹夜「おそらく、相手のお時間を頂く事への申し訳なさからかしら?」
心桜「なるほどねー」
七夏「ここちゃー、あ、柚樹さん☆ おはようです☆」
時崎「七夏ちゃん、おはよう!」
心桜「なんか、さっきも同じような事が・・・」
七夏「え!?」
心桜「笹夜先輩も、つっちゃーも、あたしに何か話しかけて、キャンセルしてたから」
笹夜「あ、すみません! これは、こちらでいいのかしら?」
七夏「はい☆」
心桜「適当に並べておけばいいと思います!」
笹夜「では、こちらに♪」
七夏「私もお料理、持ってきますね☆」
時崎「みんなで朝食の準備をしてくれてありがとう!」
俺は「すまない」を「感謝の言葉」に改めた。
七夏「くすっ☆」
三人と一緒に頂く食事。食事自体は普段とそれほど変わらないけど、賑やかさが後押しして、特別なひとときに思える。
七夏「えっと、お食事の後で、柚樹さんのお手伝い☆」
笹夜「ええ♪」
心桜「了解ー!!」
時崎「みんなありがとう!」
七夏「柚樹さん、あまり夜更かしさんにならないようにです☆」
時崎「え!?」
七夏「昨夜も、夜遅くまでお部屋の灯りが付いてたみたいですから」
時崎「七夏ちゃんも遅くまで起きてたの?」
七夏「いえ、おやすみしましたけど、喉が渇いちゃったから、お水を飲みに1階へ降りる時に・・・」
時崎「なるほど、ごめん。気をつけるよ」
心桜「あたしは、ぐっすりだったよ! 笹夜先輩は?」
笹夜「ええ♪ 心桜さんと同じかしら?」
朝食を終え足早に自部屋へ移動する。この前のように、MyPadで制作中のデジタルアルバムを開いて準備を行っておく。
昨日撮影した浴衣姿の七夏ちゃんたちがアルバムに加わった事により、より一層華やかになって、俺自身も手ごたえを実感している。ここ、民宿風水で凪咲さんのお世話になっているからには、それに見合うだけの、いや、それ以上のアルバムに仕上げなければならない。
もうひとつ、七夏ちゃんへのアルバムも進めなければならないけど、場合によっては、天美さんと高月さんに相談してみるのもありだろうか?
しかし、天美さんや高月さんだけと会う機会がそんなにないと思うから、基本的には俺1人で制作を進める事になりそうだ。
七夏ちゃんへのアルバムは、俺が考えている事を実現させる為にまだ足りない材料も揃えなければ・・・。
心桜「お兄さん!」
扉の向こうから声がした。天美さんだ。
時崎「天美さん! どうぞ!」
笹夜「し、失礼いたしますっ!」
天美さんかと思ったら、高月さんだった。
時崎「え!? 高月さん!?」
心桜「中の人はあたし!」
高月さんの背後から天美さんが、ひょっこりと姿を見せた。
時崎「な、中の人!?」
心桜「声優さんの事だよ!」
時崎「そ、そうなの?」
笹夜「すみません、時崎さん。私はやめましょうと話したのですけど」
時崎「少し驚いたけど、構わないよ。楽しい事は歓迎するよ!」
心桜「ほらね! お兄さんなら---」
笹夜「心桜さん!」
心桜「あはは!」
時崎「七夏ちゃんは!?」
心桜「もうすぐ来るよ!」
時崎「そう・・・」
今のタイミングなら、天美さんと高月さんの2人しか居ない。七夏ちゃんへのアルバムの事を話しておくべきだろうか・・・2人なら秘密を守ってくれるはずだ。
笹夜「? 時崎さん?」
時崎「え?」
笹夜「どうかなさいました?」
時崎「いや、アルバムの事で---」
七夏「あれ? どしたの?」
心桜「つっちゃー、お疲れ!」
七夏「はい☆ もうみんな柚樹さんのお部屋に居るのかなと思ってました☆」
時崎「あ、ごめん。どうぞ!」
心桜「お邪魔します!」
時崎「高月さんも!」
笹夜「はい♪ 失礼いたします♪」
七夏「私、筆記具持ってきます☆」
時崎「ありがとう!」
心桜「お兄さん! これだよね!」
天美さんは、机の上にある俺のMyPadを手に取り操作を---
時崎「ちょっ! 天美さん!」
笹夜「心桜さん! 勝手に操作したら・・・」
心桜「おやおや? その焦りようは、なんか見られては困る物でもあるのかなぁ?」
時崎「いや、そうじゃないんだけど、七夏ちゃんの写真を表示させたままだと思うから」
笹夜「まあ♪」
心桜「それって、何か問題なの?」
時崎「いや、なんと言うか、少し恥ずかしいかな・・・」
心桜「あはは! でも安心してください!」
時崎「え!?」
心桜「MyPadは、ロックがかかってました!」
天美さんはMyPadの画面を俺の方に見せてくれる。自動ロックがかかって解除キーを求める画面が表示されていた。
心桜「あって良かったオートロック!」
笹夜「心桜さん!」
時崎「まあ、いいか」
俺は天美さんからMyPadを受け取り、ロックを解除すると、画面いっぱいに七夏ちゃんの写真が表示された。
笹夜「まあ♪ 七夏ちゃん可愛い♪」
隣に居た高月さんが、MyPadに映った七夏ちゃんを見て微笑む。
心桜「どれどれー? おっ! 可愛い! けど、これ前に見た写真だね」
時崎「ちょっと編集中で・・・」
心桜「編集中か・・・壁紙だったら確かにって感じだけど」
時崎「何が『確かに』なんだ!?」
笹夜「心桜さん! すみません、時崎さん」
時崎「いや、構わないよ」
心桜「あはは!」
七夏「お待たせです☆」
心桜「おっ! つっちゃー これ見てよ!」
七夏「え!?」
時崎「ちょっ! 天美さん!」
七夏「あっ!」
「MyPadに大きく表示された七夏ちゃん」を見た七夏ちゃんは、少し恥ずかしそうに頬を染めた。
時崎「・・・・・」
笹夜「えっと、時崎さん!」
時崎「え!?」
笹夜「私たち、お手伝い、何を行えば良いかしら?」
時崎「あ、ありがとう!」
高月さんの心遣いに感謝する。この三人は、誰かが言葉に躓いた時、お互いに助け合っている。俺もそうでありたい。
笹夜「七夏ちゃんも♪」
七夏「は、はい☆」
時崎「この前みたいに、写真にコメントをもらいたいのだけど、今回は写真のレイアウトも考えて貰えると助かるよ。なんせ昨日撮影した写真は、まだ適当にしか配置できてないから」
心桜「よし! んじゃ、まずは撮影した写真を全部見てみよう!」
笹夜「ええ♪」
三人は俺のMyPadを囲んで、写真を見ながら楽しんでいる。
心桜「お兄さん!」
時崎「え!?」
心桜「アルバム内の写真、並び替えていいんだよね!?」
時崎「ああ。でも、既に完成してるページはそのままにしておいてくれるかな?」
心桜「どれが完成してるの?」
時崎「みんなからの吹き出しコメントが入っているページが完成していてページもロックしてるから」
心桜「あっ! この鍵のマークかな?」
主 「そう! そのロックしたページを変更したい時は声をかけて」
心桜「了解!」
七夏「ここちゃー、これ☆」
笹夜「コメントは七夏ちゃんの持ってる付箋に♪」
しばらく三人の様子を眺めながら考える。いくつか気になる事があるままだ。七夏ちゃんの瞳の色の変化と本人の認識、虹の色の見え方の違い、高月さんが話していた七夏ちゃんの影の表情、俺が七夏ちゃんの事を可愛いと話した時の反応・・・これらの事を何一つ解決できていない。まあ、七夏ちゃんの瞳の色の変化に関しては、俺の関心事に過ぎないから、それはいいとして七夏ちゃんの心事には力になってあげたい。
天美さんと高月さんは、俺の知っている限り、七夏ちゃんの「ふたつの虹」について殆ど触れていない。そして、七夏ちゃんと天美さんは、高月さんの髪に映る虹について話してはいない。俺にとってはどちらも魅力的で不思議な虹なのだが、三人にとっては不思議事ではなく、自然な事、普通の事という認識なのかも知れないな。
高月さんは、自分の髪に映る虹についてどのように思っているのだろうか? 多くの人の場合、白く輝く髪のハイライト、天使の輪とも呼ばれている光だけど、高月さんのそれは、虹色に光って見える。
笹夜「? 時崎さん?」
時崎「あっ!」
笹夜「どうかなさいました?」
なんとなく高月さんの事を考えてたら、自然と高月さん本人を見つめているかたちになってしまっていた。
時崎「いや、ごめん!」
笹夜「いえ♪」
心桜「まあ、無理もないよね!」
時崎「え!?」
「え!?」と答えたけど、天美さんの次の言葉は予想できる。
心桜「笹夜先輩を見つめたくなるのは、お兄さんだけじゃないから!」
笹夜「こ、心桜さん!」
時崎「確かに、天美さんに同意するよ」
笹夜「と、時崎さんまで・・・」
心桜「あはは!」
時崎「ごめん、高月さん」
笹夜「いえ・・・」
心桜「おっ! 昨日の浴衣!」
七夏「はい☆ ここちゃーも笹夜先輩も、とっても素敵です!」
心桜「つっちゃーもねっ!」
笹夜「ふたりとも可愛い♪」
七夏「笹夜先輩、髪飾りも素敵です☆」
心桜「そだねー、あたしのと違って優雅独尊!」
笹夜「心桜さん、唯我独尊かしら?」
心桜「そうですけど、気持ち的には間違ってないかも!?」
七夏「これは、こっちの方がいいな☆」
心桜「こんな感じ?」
七夏「はい☆」
三人は、再びアルバムを眺めながら、コメントを考えてくれている。高月さんの虹は写真としてしっかり記録できているけど、天美さんも七夏ちゃんも、その事には触れていない。高月さんの髪飾りの話しをしているくらいだから、虹の事に気づいていないはずはないと思う。もっと三人と一緒に居ればその辺りが見えてくるのかも知れないけど、三人にとって既に過ぎ去った事だとしたら、待ってても答えは見つからない。
携帯端末で、今後の予定を考える・・・この街で過ごせる日に関しては、まだ七夏ちゃんや凪咲さんに話していない。はっきり決めている訳ではないけど、七夏ちゃんたちの夏休み期間の一週間前あたりに設定しておかないと、後が厳しくなりそうだな。
そもそも、民宿風水にお世話になりっぱなしなので、早くお返しをしなければという思いもある。写真機を手に取り、今まで撮影した写真を眺める。
「虹」を追いかけて、今ここに居る。不思議な虹は手を伸ばせば届きそうなのに・・・。この街に来て最初に撮影した「ブロッケンの虹」は、まだ写真機のメモリーカード内に残っている。七夏ちゃんと初めて出逢った時の写真も一緒だ。MyPadにも転送しているが、移動はさせていない。この写真のブロッケンの虹のように簡単に触れる事が出来ない不思議な虹だからこそ、今、このひと時を大切に想う。
心桜「よし! こんなとこかな?」
七夏「はい☆」
笹夜「心桜さん、もう一度最初の方から見せてもらってもいいかしら?」
心桜「はい! どうぞです!」
天美さんは、俺のMyPadを高月さんに手渡す。
七夏「私も最初から見たいです☆」
笹夜「ええ♪ では一緒に♪」
七夏「はい☆」
高月さんと七夏ちゃんは、一緒にMyPadを眺めながら操作を行っている。
天美さんは、周囲を見渡して---
心桜「おっ!? 飛び出す絵本!?」
時崎「あ、それ、なかなか凄い飛び出し方なんだよ」
心桜「どれどれー わぁ!」
飛び出す絵本の飛び出した箇所が天美さんの顔に触れそうになり、天美さんは反射的に回避する。
時崎「天美さん、大丈夫!?」
心桜「あーびっくりした!」
笹夜「心桜さん、勝手に触っては---」
時崎「全然構わないよ。高月さん、ありがとう」
笹夜「いえ・・・」
心桜「これ、びっくり箱ならぬ、びっくり本!」
七夏「くすっ☆ 大きなリボン☆」
心桜「え!?」
笹夜「まあ♪」
心桜「天然か!」
・・・やはり、天美さんは虹の話題については触れない。そう思った理由は、飛び出す絵本のすぐ側に虹に関する写真をいくつか置いていたからだ。写真の話題も以前は全く触れてなかったのだと思う。それは、天美さんと初めて出逢った時の表情・・・写真機を持つ俺を警戒しているようだったから。七夏ちゃんの事を想う天美さんの気持ちは分かる。俺も以前、七夏ちゃんを撮影しまくるお泊り客に大声で話してしまい、凪咲さんにご迷惑をかけてしまったから・・・。写真のように虹についても普通に話しが出来る時が来てほしいと思う。
笹夜「時崎さん」
時崎「え!?」
笹夜「これでいいかしら?」
七夏「一通り、出来たと思います☆」
時崎「ありがとう!」
心桜「では、ぱぱっと着替えて帰りますか!」
時崎「え!? もう帰るの?」
心桜「なになにー、お兄さん、もっとあたしにいてほしいのぉー?」
時崎「そうだな。高月さんには居てほしいかな?」
笹夜「と、時崎さん!」
心桜「あはは! それは分かる!」
時崎「まあ、三人と一緒がいいけどね!」
心桜「ありがと。でも午後から用事あるから残念!」
笹夜「すみません。私も所用がありますので」
時崎「また、会える事を楽しみにしてるよ!」
笹夜「ええ♪」
七夏「・・・・・」
心桜「どした? つっちゃー?」
七夏「え!? えっと、なんでもないです!」
笹夜「七夏ちゃん・・・」
時崎「?」
七夏「そ、それじゃ柚樹さん、また後で☆」
心桜「お兄さん、またね!」
笹夜「では、失礼いたします」
時崎「あ、ああ」
三人が部屋を出てゆくと、急に静かになると同時に寂しい感覚も覚えた。それだけ三人一緒の時が楽しく心地良かったという事なのだろう。MyPadと付箋のメモを手に取り、再びアルバム制作を再開した。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
しばらくアルバム制作作業を行なっていると、扉の向こうから話し声が聞こえ、続いて扉が鳴った。扉を、開けると私服姿の三人が居た。
心桜「それじゃ、お兄さん! あたしたちはこれで帰るから!」
時崎「わざわざ、ありがとう! 送るよ!」
心桜「え!? いいよいいよ!」
時崎「玄関まで・・・」
心桜「なっ!」
笹夜「まあ♪」
七夏「くすっ☆」
心桜「お兄さん、腕を上げましたなぁ~」
時崎「そう!?」
玄関まで三人を見送る。
笹夜「では、失礼いたします♪」
凪咲「高月さん、またいらしてくださいませ!」
笹夜「はい♪ 是非♪ お世話になりました♪」
心桜「凪咲さん、またお世話になります!」
凪咲「はい♪」
七夏「くすっ☆」
心桜「つっちゃー、お兄さん! またね!」
七夏「はい☆」
時崎「ああ!」
高月さんと目が合う。俺は軽く頭を下げると、高月さんも会釈を返してくれた。
笹夜「と、時崎さん!」
時崎「え!?」
笹夜「あっ! ・・・失礼・・・いたします」
時崎「あ、ああ」
高月さんは、もう一度深く頭を下げて、扉をそっと閉めた。
七夏「柚樹さん☆」
時崎「え!?」
七夏「お昼、おむすびでいいですか?」
時崎「おむすび! 楽しみだよ! 前みたいに手伝おうか?」
七夏「ありがとうです☆ でも、柚樹さんはアルバム作りをお願いできますか?」
時崎「ありがとう! じゃ、おむすび、楽しみにしてるよ!」
七夏「はい☆」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
自分の部屋に戻ってアルバム制作作業を再開する。天美さん達が写真を並び替えてくれているけど、特に時系列順ではないようだ。並び順に何か意味があるのかも知れないけど、その法則は分からない。付箋のコメント内容をアルバムに追加してゆくと、写真の並び順に多少の意味がある事に気付いた。
心桜「これから、こんな感じで浴衣を選ぶよ!」
七夏「え!?」
笹夜「まあ♪ 少し未来の私たちかしら?」
心桜「っそ!」
なるほど。少し漫画のようなレイアウトになっている。単に写真を並べてコメントを付けるよりも、見ていて楽しい。さすが天美さんだと感心してしまう。
トントンと扉が鳴る。七夏ちゃんだ。
時崎「七夏ちゃん! どうぞ!」
七夏「えっと、柚樹さん・・・」
時崎「?」
俺は移動して扉を開ける。
七夏「ありがとうです☆」
七夏ちゃんは、おむすびとお茶をのせた御盆を、両手で持っていた。
七夏「お昼、どうぞです☆」
時崎「わざわざ、持って来てくれたんだ。ありがとう!」
七夏「はい☆」
時崎「早速、頂くよ! 七夏ちゃんも一緒に!」
七夏「え!?」
時崎「お昼、まだだよね?」
七夏「あ、はい☆ えっと・・・」
時崎「俺、七夏ちゃんのお昼、持ってくるから待ってて!」
七夏「柚樹さん! 私が持ってきますので」
時崎「手も洗わないとならないから!」
七夏「くすっ☆」
時崎「じゃ、そういう事で!」
七夏「ありがとうです☆」
1階へ降り、洗面所で手を洗ってから台所へ向かう。
凪咲「七夏、後で・・・って、柚樹君!?」
時崎「凪咲さん!?」
凪咲「ごめんなさい。七夏かと思って」
時崎「いえ、七夏ちゃん、呼んできましょうか?」
凪咲「いえ、後で構いませんので」
時崎「では、七夏ちゃんに伝えておきます」
凪咲「ありがとう」
時崎「七夏ちゃんのお昼はこれですか?」
凪咲「ええ♪ お部屋で頂くのかしら?」
時崎「はい」
凪咲「ちょっと待ってて」
凪咲さんは、御盆を用意して七夏ちゃんのお昼を運びやすいように準備してくれた。
時崎「ありがとうございます!」
凪咲「いえいえ♪」
七夏ちゃんのお昼を持って、自分の部屋へ戻る。七夏ちゃんが待っててくれていると思うと、嬉しくなってくる。七夏ちゃん、俺のお昼もこんな気持ちで運んできてくれたのだろうか?
自分の部屋の扉の前まで来て、片手で扉を鳴らす。
七夏「柚樹さん☆ ありがとうです☆」
すぐに扉が開いて七夏ちゃんが迎えてくれた。
時崎「お待たせ!」
七夏「くすっ☆」
七夏ちゃんと一緒にお昼を頂く。
時崎「そういえば、凪咲さんが七夏ちゃんに頼みたい事があるみたいだったよ」
七夏「お母さんが? お使いかな?」
時崎「用件は聞いてないから分からないけど」
七夏「ありがとうです☆ 後でお母さんに訊いてみます☆」
七夏ちゃんの手作りおむすびは、美味しいだけでなく、以前の出来事も呼び戻してくれた。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
昼食を頂き、七夏ちゃんと一緒に1階へ移動する。
時崎「凪咲さん、お昼、ご馳走さまです!」
七夏「ごちそうさまです☆」
凪咲「はい♪」
時崎「凪咲さん、七夏ちゃん、何か手伝える事ってない?」
凪咲「ありがとう、柚樹君」
七夏「えっと、柚樹さんはアルバム作り、頑張ってです☆」
凪咲「そうね。私も楽しみにしてます♪」
時崎「ありがとうございます! 分かりました」
再び一人でアルバム制作を行う。七夏ちゃんは凪咲さんのお手伝いみたいだ。お互いに頑張ろう・・・と思ったけど、七夏ちゃんは十分に頑張っているな。改めて気合いを入れる。
暫く作業に集中していると、トントンと扉が鳴る。
時崎「七夏ちゃん! どうぞ!」
七夏「失礼します。柚樹さん☆」
七夏ちゃんは民宿風水の浴衣から私服姿に着替えており、これからお出かけするような印象を受けた。
時崎「七夏ちゃん、お出かけ?」
七夏「はい☆ 柚樹さん、何かお使いありますか?」
時崎「いや、特には・・・お使いなら、荷物持ちするよ!」
七夏「えっと、今日は私ひとりで大丈夫ですからっ!」
時崎「そ、そう?」
七夏「柚樹さんと一緒がダメって事ではないのですけど・・・お使い、この前の喫茶店だから・・・」
「この前の喫茶店」・・・この前、七夏ちゃんと一緒にココアを飲んだ喫茶店? あっ! もっと前の喫茶店の事か! 確かお店の人が七夏ちゃんと親しくて、俺が一緒だとからかって来る可能性が高いと言う事だろう。七夏ちゃんは、からかわれるのは苦手だろうから、俺はこのままアルバム制作作業を続ける方がよさそうだな。
時崎「俺は、このままアルバム制作を行うから!」
七夏「はい☆」
時崎「ありがとう!」
七夏「え!?」
時崎「わざわざ、声をかけてくれて」
七夏「くすっ☆ それでは、失礼します☆」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
2階の窓から、お出かけする七夏ちゃんを見送る。七夏ちゃんが居ないこの間に「七夏ちゃんへのアルバム」の制作に集中する。以前から少しずつ準備をしていた素材と、写真のトリミング。こっちは「凪咲さんへのアルバム」とはまた違った作業となり、試行錯誤も必要だ。頭の中でイメージした事が本当に実現出来るかどうかは、実際に行なってみないと分からない所もある。
時崎「・・・ダメか・・・」
誰が話したか「思った事の半分でも実現出来たら大した物である」という言葉が頭の中を駆けてゆく。別の方法を考えては試してみる。なんとしてでも、形にしなければ!
現物合わせの検討は材料を消費してしまうので、基本的にMyPadで検討を行うが、これは寸法や見た目の検討のみになる為、実際に部品を作ってみると、摩擦や耐久力の問題が発生する。最初は上手く出来たと思っても、何度か動作を行うと、紙で出来た部品は疲労して期待した動作が行えなくなる。
時崎「紙よりも、もっと強度のある素材を使う必要がありそうだな」
イベントの時だけの一時的な物ではなく、末永く機能を維持できなければならない・・・アルバムなのだから。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
どのくらい時間が経過しただろうか・・・作業に集中すると時間経過の感覚が分からなくなる。扉から音がした。
時崎「七夏ちゃん?」
俺は扉を開ける。凪咲さんが居た。
時崎「凪咲さん!」
凪咲「柚樹君、七夏、何か柚樹君に話してなかったかしら?」
時崎「え!?」
凪咲「少し、帰りが遅いみたいですので・・・」
時崎「え!?」
凪咲さんからそう言われて時計を見る。いつも七夏ちゃんが夕食の準備を行っている時間を過ぎているようだ。
凪咲「今日は少し遅くなるって話してたけど・・・」
時崎「七夏ちゃんから連絡は---」
その時、電話が鳴る。
凪咲「! ごめんなさい!」
時崎「はい」
凪咲さんは、急ぎ気味で電話に出る。
凪咲「七夏! ・・・よかった。今どこに居るの? ・・・そう、分かったわ。慌てなくていいから、気をつけて帰るのよ」
凪咲さんは電話をおろす。凪咲さんのすぐ側に居た俺も、状況が分かったので安心する。
時崎「七夏ちゃん、これから帰って来るみたいでよかった」
凪咲「はい。すみません」
時崎「いえ」
凪咲「もう少し早めに連絡をくれれば・・・」
時崎「七夏ちゃんは、携帯電話を持ってないみたいですから」
凪咲「そうね・・・」
部屋に戻り、アルバム制作作業に戻った。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
凪咲「柚樹君、お夕飯、お先にどうぞ」
時崎「ありがとうございます」
俺は、七夏ちゃんが帰ってくるまで夕食を頂くのを待っていた。
凪咲「ありがとうございます。柚樹君♪」
時崎「え!?」
凪咲さんは微笑み、台所へと移動した。目の前に並べられたお料理を眺め、いつもは七夏ちゃんが色々と準備を行ってくれている事に気付く。今日は、俺が七夏ちゃんの分の準備をしておこうと、凪咲さんの所へ移動する。
凪咲「あら? 柚樹君?」
時崎「凪咲さん、七夏ちゃん、そろそろ帰って来ると思いますので---」
凪咲「ありがとう。では、これをお願いできるかしら?」
時崎「はい!」
七夏ちゃんの分のお料理を運び、机に並べる。ご飯とお味噌汁は、七夏ちゃんが帰ってきてからの方がいいだろう。ひと通り準備が終わり、再びただ待つだけになりかけた時---
七夏「ただいまです!」
凪咲「お帰り、七夏」
七夏「ごめんなさい、遅くなっちゃって」
凪咲「いいのよ。連絡してくれてたから」
時崎「七夏ちゃん、お帰り!」
七夏「あ☆ 柚樹さん、ただいまです☆」
凪咲「お夕食、出来てるから♪」
七夏「はい☆ 手を洗ってきます☆」
俺は、七夏ちゃんの分のご飯をよそい、お味噌汁も運ぶ。いつも七夏ちゃんが行なってくれている事に感謝をする。
七夏「あ、柚樹さん? お夕食、まだだったの?」
時崎「ああ」
七夏「ごめんなさい、あっ、えっと、ありがとうです☆」
俺の意図を読み取り、すぐに言い直してきた。
時崎「七夏ちゃん、どうぞ!」
七夏「ありがとうです☆」
時崎「いただきます!」
七夏「いただきます♪」
時崎「おっ! これはなかなか!」
七夏「好きですか?」
時崎「え!?」
七夏「えっと、お魚のあら煮」
時崎「ああ! もちろん!」
七夏「あまり、頂ける所は多くないですから、お皿は大きいですけど、小鉢感覚です☆」
時崎「なるほど、少し味付けが濃い目なのも何か理由があるの?」
七夏「お味、強かったですか?」
時崎「いや、美味しいよ!」
七夏「良かったです☆ えっと、ご飯と一緒に合わせて頂くと丁度良くなるようにお味を強めに合わせてます☆」
時崎「確かに、ご飯が進むね!」
七夏「くすっ☆ ご飯のお供は、少しお味を強めに意識してます☆」
時崎「普段は意識してなかったけど、言われてみれば・・・」
七夏「お味の加減は、なかなか難しいです」
時崎「そうなの?」
七夏「はい。私もお母さんみたいに、お料理が上手になれるといいな☆」
時崎「なれると思うよ!」
七夏「くすっ☆ ありがとです☆」
七夏ちゃんと一緒に夕食を頂きながら考える。「可愛い」という言葉を無理に使わなくても、今みたいに七夏ちゃんを喜ばせる事ができるはずだ。可愛いと話して喜んで貰えるのが一番だが、可愛いという言葉に対する七夏ちゃんの困惑するような反応の理由がはっきりと分かるまでは、他の方法で喜んでもらえるように努めたい。
時崎「ん!?」
七夏「? どしたの? 柚樹さん?」
時崎「今、玄関から物音がしなかった?」
七夏「え!? 私、分からなかったです」
時崎「気のせいかな?」
七夏「お父さんなら、声を掛けてくれますから」
時崎「そうだよね」
食事の途中だけど、俺は気になったので、玄関の様子を見てくる事にした。
七夏「柚樹さん?」
時崎「やっぱり、ちょっと気になるから玄関を見てくるよ」
七夏「は、はい」
暗くなった玄関に移動すると、玄関の扉のこちら側にもたれ掛かった人影が見えた。お客さんという雰囲気ではない。俺は玄関の灯りを付ける。
時崎「!? 天美さん!?」
心桜「・・・・・あ、お兄・・・さん」
ただならぬ予感がしたので、俺は大きな声で七夏ちゃんを呼んだ。
時崎「な、七夏ちゃんっ!」
俺の大きな声で七夏ちゃんがすぐに姿を見せた。
七夏「ど、どしたの? 柚樹さ・・・こ、ここちゃー!?」
心桜「つっちゃー・・・うぅ・・・うわ~!!!」
七夏「ひゃっ! ここちゃー!」
七夏ちゃんの姿を見るなり、天美さんは突然大きな声で泣き始めた。俺はどうしてよいか分からず、体が全く動かない。七夏ちゃんは天美さんに駆け寄り、そのままぎゅっと抱きしめた。
今朝の元気だった天美さんとは全然違う、今までに見た事の無い天美さん。何があったのか分からないが、今、俺が問う事ではない。七夏ちゃんもその事を分かっているようで、ただ、泣きじゃくる天美さんを抱きしめているだけだった。
第三十五幕 完
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次回予告
太陽の光が虹を生み、その虹が太陽を優しく包むのだが・・・
次回、翠碧色の虹、第三十六幕
「太陽を想う虹と」
虹は太陽から生まれるので、太陽以上には輝けない。大切な物事が消えかけていたとすると、俺の取るべき行動はただひとつだ!
幕間三十:時間がもったいない!?
笹夜「ごめんください♪」
時崎「高月さん、いらっしゃい」
笹夜「あっ! 時崎さん!?」
時崎「!? どうかした?」
笹夜「い、いえ・・・七夏ちゃんと心桜さんは、居るかしら?」
時崎「居るには居るんだけど・・・」
笹夜「?」
時崎「ふたりともお部屋でおやすみ中・・・かな?」
笹夜「あら? おやすみ中・・・なのですか?」
時崎「実は・・・」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
笹夜「まあ! そのような事が・・・」
時崎「二人を呼んできましょうか?」
笹夜「いえ、このままそっとしておいてあげてください♪」
時崎「ありがとう。高月さん」
笹夜「はい♪」
時崎「高月さんは、ここ、民宿風水まで列車で来られてるんですよね?」
笹夜「はい。高校も列車で通学しております♪」
時崎「通学時間は、何をしてるの?」
笹夜「主に小説を読んでるかしら?」
時崎「なるほど、今は携帯端末を見ている人が多いからね」
笹夜「携帯端末も時々見ていますけど、一駅ですから、気軽に読める小説に落ち着いてます♪」
時崎「確かに、ひと駅だと微妙な空き時間になりそうだね」
笹夜「はい。朝の時間は人も多いですから、小説を読まない事も多いですね」
時崎「そうなんだ」
笹夜「はい・・・」
時崎「・・・・・」
笹夜「・・・・・」
時崎「ええっと」
笹夜「あっ! すみません!」
時崎「いや、こっちこそ!」
笹夜「・・・・・」
時崎「(・・・困ったな、七夏ちゃん達が居ないと、この場が持ちそうにないな・・・)」
笹夜「時崎さん」
時崎「え!?」
笹夜「その、私、こういう状況になった時、どうすればよいのか・・・」
時崎「高月さんも?」
笹夜「時崎さんも?」
時崎「まあ、いつもは七夏ちゃんや天美さんに助けられてるからね」
笹夜「なんとなく、分かります♪」
時崎「今日のテーマとしては『通勤、通学時間を有効に使う事』になってるんだよ」
笹夜「まあ、それで私に?」
時崎「そういう事なんだ。まあ、行動の制限はかなりあるけど、考える事は沢山出来るからね」
笹夜「ええ♪」
時崎「そう言えば、列車の中で朝ごはん食べている人が居たよ」
笹夜「まあ! ご旅行ではなくてかしら?」
時崎「学生服を着ていたから、通学中だと思うけど」
笹夜「あまり、良い傾向とは言えませんね」
時崎「時間を有効には使えてると思うけど」
笹夜「え!?」
時崎「恐らくだけど、時間ギリギリまで寝ている。つまり、朝食の時間を睡眠時間に充てている! 時間がもったいないからかな?」
笹夜「今出来る事を考えますと、分からなくもないですけど・・・お行儀が良いとは言えないですね」
時崎「じゃ、それぞれを入れ替えてみて、朝食は家で頂いて、車内で寝るというのは?」
笹夜「少し、改善はされてますけど・・・」
時崎「いずれにしても、周囲の人へご迷惑にならないように改善する必要はありそうだね」
笹夜「そうですね♪ 時間に余裕があれば、どちらも解決できそうです♪」
時崎「早く寝て、早く起きるという事?」
笹夜「はい♪ でも、なかなか難しいです」
時崎「高月さんでも難しいの?」
笹夜「つい、夜遅くまで起きてしまう事がありますから」
時崎「小説でも中断しにくい時ってあったりする?」
笹夜「はい。列車内ですと、降りなければならないですから、切りを付けられるのですけど、お休み前ですとつい・・・」
時崎「俺も、夢中になってる時は、夜中の2時過ぎてるとかあるから」
笹夜「まあ! 寝不足になりますと、その日は、ずっと辛くなりますから・・・」
時崎「そ、そうだね・・・分かってるんだけど」
笹夜「お休み前に携帯端末を見るのは、眠れなくなる要因になったりするらしいですので、お休み前の1時間くらい前までに留めておく方がよいらしいですね♪」
時崎「・・・・・」
笹夜「ど、どうされました?」
時崎「俺、全然出来てないなーと思って」
笹夜「急には難しいかも知れませんけど、少しずつ意識して慣れてゆかれますと、お体にも優しいかも知れません♪」
時崎「そうだね・・・少しずつ意識してみる事にするよ」
笹夜「はい♪」
時崎「良かったよ」
笹夜「え!?」
時崎「高月さんも、普段どおりにお話してくれてるから」
笹夜「あ! すみません。私、時崎さんに生意気な事を・・・」
時崎「いやいや、全然構わないよ! 話してる事はもっともだと思う」
笹夜「ありがとうございます♪ お互いに夜更かしには気をつけましょう♪」
時崎「はい。今回のテーマはなんかこんな感じで良かったのかな?」
笹夜「良いかどうかは分かりませんけど、列車内でのお化粧は良くないです」
時崎「なっ! さすが!」
笹夜「七夏ちゃんと心桜さんが、早くいつものお二人に戻られる事をお祈りいたします」
時崎「そうだね・・・俺もしっかりしないと」
笹夜「はい♪ 頼りにいたしております♪」
時崎「よし! 俺もしっかり頑張る『翠碧色の虹』本編はこちらから!」
時崎「http://nanatsuiro.my.coocan.jp/nnt_frma_a.htm」
笹夜「私もしっかり頑張ります♪『ココナッツ』宛てのお手紙はこちらです♪」
笹夜「http://nanatsuiro.my.coocan.jp/nnt_suiheki_novel.htm#QUESTIONNAIRE」
時崎「ありがとう! 高月さん!」
笹夜「いえ♪」
時崎「また、高月さんと二人でこんな風にお話できる事があればいいなと思うよ!」
笹夜「え!? と、時崎さん!?」
時崎「え!?」
笹夜「・・・・・」
時崎「高月さん!?」
笹夜「・・・・・はい♪」
時崎「じゃあ、そういう事で、これからもよろしく!」
笹夜「はい♪」
幕間三十 完
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幕間三十をお読みくださり、ありがとうございました!
本編の方も鋭意制作中ですので、どうぞよろしくお願い申しあげます!
第三十六幕:太陽を想う虹と
夜遅く突然風水に来た天美さん。七夏ちゃんの姿を見るなり大きな声で泣き出した。七夏ちゃんは、天美さんを優しく抱きしめている。俺はただその場で何も出来ないままでいた。
凪咲「どうしたの? 心桜さん!?」
心桜「うう・・・」
凪咲「・・・・・」
天美さんの泣き声で凪咲さんも姿を見せるが、七夏ちゃんと天美さんの様子を見て、そのまま居間へと姿を消した。それを見て俺も凪咲さんの後を追うように居間へと移動する。七夏ちゃんや天美さんに声を掛けると思っていた凪咲さんが、二人を見てすぐに移動した理由に何か意味があるはずだ。
凪咲さんに小声で訊いてみる。
時崎「凪咲さん」
凪咲「今は、七夏に任せておけばいいわ」
時崎「何があったのかは分からないけど、心桜さんが落ちつくまでは、大人は黙ってる方がいいと思うの」
結果的に俺も凪咲さんも、天美さんには何も行ってはいないけど、どうしてよいか分からない俺とは全然意味が異なった。
時崎「・・・・・すみません」
凪咲「え!?」
時崎「俺、何も出来なくて・・・」
凪咲「いいのよ」
凪咲さんは、冷静だ。過去にもこのような事があったのかも知れないな。
七夏「お母さん・・・」
しばらくして、七夏ちゃん・・・その後から天美さんも姿を見せる。
凪咲さんは、飲み物を用意してくれた。
天美さんの事が気になり、つい見てしまう。手に何か持っているみたいだけど、あれは何だろう?
心桜「・・・・・」
七夏「柚樹さん・・・」
時崎「え!?」
七夏ちゃんは、天美さんが手にしていた物に手を添えて、俺の方に見せてくれた。
時崎「それは・・・」
小さな木箱・・・宝石箱だろうか? 木箱の角は何かで衝撃を加えたような凹みがあった。
七夏「えっと・・・オルゴール」
時崎「オルゴール?」
七夏「鳴らなくなっちゃったみたいで・・・」
心桜「うぅ・・・」
ようやく、内容が見えてきた。天美さんの泣いていた理由は、このオルゴールだ。だけど、天美さんの様子からすると、よほど大切な物なのだろう。七夏ちゃんが俺に話したい事は分かる。このオルゴールを何とか直せないかという事だろう。
時崎「ちょっと、見せてもらってもいいかな?」
七夏「ここちゃー?」
心桜「・・・うん・・・」
七夏ちゃんから、オルゴールを受け取る。オルゴールは受け取った時点でカラカラと異音がしたので、中の部品が外れてしまったのだと思った。
凪咲「心桜さん。ここに来る事はお家の人に話しているのかしら?」
心桜「・・・・・」
七夏「ここちゃー、今日はもう遅いから、泊まってって☆ お母さん・・・」
凪咲「そうね」
心桜「・・・でも・・・」
天美さんが家に連絡したがっていない様子を、凪咲さんはすぐに察したようだ。
凪咲「心桜さんの家には、私から連絡しておきますから」
心桜「・・・ありがとう・・・ございます・・・つっちゃーも・・・」
七夏「くすっ☆」
家出か・・・壊れたオルゴールと何か関係があるはずだけど、はっきりとした理由もそのうち見えてくるだろう・・・いや、別に見えてこなくてもいい。俺は、いつもの天美さんに戻ってもらいたいだけで、それは七夏ちゃんや凪咲さんも同じ気持ちだと思う。
時崎「オルゴールの事は俺に任せて!」
七夏「え!? 柚樹さん、直せるの?」
心桜「・・・・・」
時崎「なんとかしてみせるよ!」
心桜「でも・・・」
天美さんは元気が無いままだ。
時崎「じゃあ、天美さん。ひとつ条件・・・というか約束、いいかな?」
心桜「・・・約束?」
時崎「明日からは『今まで通り、いつもの天美さんになる事!』」
七夏「・・・・・柚樹さん・・・・・」
時崎「いいかな?」
心桜「・・・・・うん。分かった・・・」
時崎「じゃ、後は俺に任せて、今日は早く寝る事!」
七夏「・・・はい☆ おやすみなさい☆ ここちゃー!」
心桜「・・・おやすみなさい」
時崎「ああ。おやすみ!」
七夏ちゃんに寄り添いながら、二人が七夏ちゃんのお部屋に入ってゆくのを見送る。
心桜「お兄さん・・・」
時崎「え!?」
心桜「・・・ありがと」
時崎「ああ!」
二人は部屋へと姿を消した。
凪咲「柚樹君、色々ありがとうございます」
時崎「いえ、天美さんの家には---」
凪咲「今日も家で泊まりますって、連絡しておいたわ」
時崎「すみません」
凪咲「柚樹君が謝る事はないわ」
時崎「俺、さっき玄関で天美さんを見て、何も出来なくて・・・七夏ちゃんは凄いなって思って・・・」
凪咲「七夏にしか出来ない事、柚樹君にしか出来ない事があると思うわ♪」
時崎「・・・・・」
凪咲「それとも、柚樹君が七夏と同じ事を天美さんにするのかしら?」
時崎「え!? あ・・・いや・・・それは・・・」
凪咲「ごめんなさい。ちょっと困らせてしまったわね」
時崎「凪咲さん・・・」
凪咲さんなりの気遣いだろう。俺が落ち込んでても何も良い事はないはずだ。
凪咲「オルゴールの事、私からもよろしくお願いいたします」
時崎「はい! では、部屋に戻って詳しく見てみます」
凪咲「はい!」
自分の部屋に戻り、オルゴールを分解してみる。直方体の小さな木箱のオルゴール。蓋を開けると左半分にオルゴールのメカが入っていると思われるが、外からその様子は見えない。右半分は小物入れになっており、蓋の内側はキャラクターのイラストが描かれているが、これは写真立てのように自分好みのイラストや写真と交換できるようになっていて、なかなか良いオルゴールだと思う。
壊れたオルゴールは、中のメカの部品が脱落しているだけだと思っていたけど、分解してみると、絶望的な光景だった。風切り羽は外れ、櫛のような部品がバラバラに破損していて、単純な部品の組み直しだけでは直らない事がすぐに分かった。
時崎「これは、結構厄介かも・・・」
MyPadでオルゴールの部品や構造について調べてみる。破損した櫛のような部品は「振動弁」と呼ばれているようで、これが音色を生み出す部品のようだ。いくつかのギヤも脱落している。とりあえず、構造が分かったので組める範囲で組みなおしてみる。
時崎「今、出来る事はここまでか・・・」
オルゴールのぜんまいハンドルを回して演奏させてみる。シリンダーや各ギヤは動作しているようだが、振動弁が破損しているため、本来の演奏は出来ておらず、何の曲かすら分からない。とにかく、破損した振動弁を入手しなければ、この先どうにもならないので、この近くにオルゴール取り扱い店が無いかをMyPadで探してみる。天美さんの為に、なんとかしなければ! 天美さんを喜ばせる事は、七夏ちゃんを喜ばせる事と同じなのだから!
MyPadで調べていると、隣街に手作りオルゴールを販売してるお店がある事が分かった。このお店ならオルゴールの部品も扱っているはず。ただ、このオルゴールの振動弁と同じ部品があるかどうかだ。とにかく、明日はこのお店に急ごう。
オルゴールの蓋を閉める。工具類を片付けていると、トントンと扉が鳴った。扉へ近づき開けると、七夏ちゃんが居た。
時崎「七夏ちゃん?」
七夏「柚樹さん、まだ起きてるの?」
時崎「ああ。どうして?」
七夏「えっと、お部屋の灯りが点いてましたから、まだ起きてるのかなって」
時崎「これから、おやすみするよ。天美さんは?」
七夏「えっと、ここちゃーは、私のお部屋でおやすみしてます☆」
時崎「そうなんだ。七夏ちゃんは、天美さんが眠るまで起きてたの?」
七夏「えっと、ここちゃーと一緒におやすみしてたのですけど、その・・・」
時崎「?」
七夏「くすっ☆」
時崎「七夏ちゃん?」
七夏「ここちゃー、少しお寝相が悪い所があって、私、ベットから落ちそうになって起きちゃいました」
時崎「はは・・・大変だね」
七夏「でも、ぐっすり眠れてるみたいですから☆」
時崎「それで、七夏ちゃんは別のお部屋でお休みするの?」
七夏「いえ、起こさないように、ここちゃーの所に戻ります☆」
時崎「その方がいいと思う」
七夏「え!?」
時崎「起きた時に七夏ちゃんが一緒に居る方が良いと思って!」
七夏「くすっ☆ それじゃ、柚樹さんもお早めにおやすみくださいね☆」
時崎「ああ。おやすみ、七夏ちゃん!」
七夏「おやすみなさいです☆」
俺の部屋の灯りが点いていたからだろう・・・いや、天美さんに起こされたからか、まあ、どっちでもいいか。
時崎「おやすみ。天美さん」
聞こえないと分かっているけど、想いは届くと信じ、明日に備えてお休みすることにした。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
時崎「ん・・・今何時だろう?」
時計を手探り確認する。
時崎「四時半過ぎ・・・」
起きるにはまだ早いけど、布団の中に入っていると昨日の出来事を考えてしまう。七夏ちゃんの姿を見るなり、大声で泣き崩れた天美さんが強烈な記憶となっている。それまで、夜店や花火の事で楽しそうに話していた天美さんとは対象的だったから。
目の前で泣いている人を見て、何も出来なかった・・・全く見ず知らずの他人ではないのに!
昨日も思った事だか、一晩休んだくらいでは、このもやもやとした想いは解消しないだろう。やはり、自ら解決に動かなければならない。どんな顔で天美さんと話しをすればいいのだろうか?
今までと同じように普段どおりに話しが出来るだろうか?
時崎「普段どおり・・・」
ここでの「俺の普段どおり」は、アルバム作りを行う事。布団から出て、アルバム制作の続きを始める。今日は七夏ちゃんへのアルバム作りから再開しよう。七夏ちゃんが喜んでくれる事は、絶対天美さんも喜んでくれるはずだ。
しばらくアルバム制作に没頭する。静かな早朝に作業すると集中できる事を実感したけど、これは寝起きで疲れていないからかも知れない。
コンコンと扉が鳴った。こんな朝早くに誰だろう? 扉を開けると---
心桜「おはよー! お兄さんっ!」
時崎「え!? あ、天美さん!?」
そこには、普段どおりの天美さんが居た・・・昨日の事が気になっていただけに呆気に取られていると---
心桜「ん? どしたの? お兄さん?」
時崎「え!? あ、おはよう! 天美さん!」
心桜「いやー、部屋の灯り点いてたから、お兄さん起きてるのかなーと思って」
昨日の七夏ちゃんと同じような事を話している。俺も今までどおりの対応に努める。
時崎「天美さんも、早いね!」
心桜「んー、もう少し寝ときたかったんだけどさ・・・つっちゃーが」
時崎「七夏ちゃんに起こされたの?」
心桜「どうだろ? つっちゃーは、まだ寝てるから」
時崎「どういう事?」
心桜「つっちゃーさ、ちょっと寝相・・・っていうのかな・・・お布団を体に巻き付ける事があって、それで起きちゃった」
時崎「・・・・・」
ここでも、昨日の七夏ちゃんと同じような事を話している。
心桜「あ、今の、つっちゃーには内緒で!」
時崎「了解!」
布団を体に巻きつける七夏ちゃん・・・和室でうたた寝している七夏ちゃんで、俺も見た事があるな。
心桜「危うく、『みのちゃー』に巻き込まれるところだった」
時崎「くく・・・」
心桜「あ、お兄さん笑った!?」
時崎「あ、今の、七夏ちゃんには内緒で!」
心桜「了解~!」
時崎「良かった・・・」
いつもの天美さんを見て、ほっとして出てしまった俺の小声に---
心桜「約束したからね!」
時崎「え!?」
心桜「なんでもないっ!」
天美さんは答えてくれたように思えた。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
その後、七夏ちゃんも起きてきて、天美さんと一緒に朝食を頂き、普段どおりの一日が始まるのかと思ったのだが・・・
心桜「あたしは、ゆーが壊した事を怒ってるんじゃなくて、それを黙って隠してた事に対して怒ってるの!」
時崎「な、なるほど」
心桜「でも、あたしのお母さんは『お姉ちゃんなんだから許してあげなさい』って。いっつもそう! お姉ちゃんお姉ちゃんって! 別に好きでお姉ちゃんになった訳じゃないのに何さっ! あたしが許すよりも先に話さなければならない事ってあるでしょ!?」
七夏「ここちゃー、ゆーちゃんも、わざとじゃないんだから」
心桜「つっちゃー甘いよ! 壊したのはわざとじゃ無かったとしても、黙って隠したのはわざとでしょ!?」
時崎「あ、天美さん・・・」
心桜「今回だけは・・・許せなかった! お母さんがゆーの味方したから、もうあたし居場所無いって思って・・・」
それで家を飛び出してきたという事か・・・。天美さんの気持ちも分からなくはない。
七夏「でも、ゆーちゃん、ここちゃーに話しにくかったんじゃないかな。私も昔、同じような事があったから・・・」
時崎「同じようなこと?」
七夏「えっと、お父さんの・・・」
時崎「鉄道模型・・・か」
七夏「はい」
心桜「でも、つっちゃーはすぐに話して謝ったんでしょ? それならあたしもここまで怒らないよ!」
天美さんが怒るのはもっともだと思う。
七夏「柚樹さん」
時崎「!?」
七夏ちゃんが俺に小声で話しかけてきた。
七夏「(ここちゃーは、本当はゆーちゃんの事、とっても大切に思ってます☆)」
時崎「(ゆーちゃん?)」
七夏「(あ、えっと、ここちゃーの弟さんです☆)」
時崎「・・・なるほど・・・」
七夏「!? どしたの?」
時崎「いや、一瞬、俺の事かと思って」
七夏「えっ!? あっ! ご、ごめんなさいっ!」
時崎「いや、別に構わないよ」
心桜「こっちの『ゆーちゃん』は優しくていいね~!」
小声で話していたつもりが、七夏ちゃんも俺もいつの間にか普通の声の大きさになっていたようだ。
七夏「こ、ここちゃー! 柚樹さん! ごめんなさいっ!」
心桜「だって、あっちの『ゆーちゃん』はオルゴール壊して、こっちの『ゆーちゃん』はオルゴール直してくれるんだよ!?」
時崎「つまり相殺!?」
心桜「あははっ! 素晴らしい相殺システム! またみんなで『ぴよぴよ』対戦しますか?」
時崎「機会があればね」
七夏「くすっ☆」
話し・・・というよりも天美さんの愚痴に付き合っていると、結構な時間が経過していた。でも、愚痴を聞いてあげるというのも支えてあげるという意味では大切な事だと思う。それで天美さんの気が晴れるなら・・・だけど、俺も行うべき事がある。後の事は七夏ちゃんに任せよう。
時崎「ごめん。俺、ちょっと用事があるから、出かけてくるよ!」
七夏「はい☆ 柚樹さん、お昼はどうなさいますか?」
時崎「ちょっと午前中には戻れそうにないから、外で頂くよ」
七夏「はい☆」
心桜「お兄さんは、お出掛けか・・・普段もそうなの?」
時崎「まあ、色々かな。今日はアルバムの素材や風景写真を集める予定になってるから」
心桜「そうなんだ」
時崎「というわけで、これで失礼するよ」
心桜「うん」
七夏「柚樹さん、お気をつけてです☆」
時崎「ありがとう!」
心桜「つっちゃー、これからどうする?」
七夏「ここちゃーと一緒に宿題です☆」
心桜「えぇ~!」
天美さんには「アルバムの素材や風景写真を集める」と話したけど、それは今でなくても構わないから、先に隣街のオルゴール店に向かうことにする。
急いで駅へと向かい、タイミングよく到着した列車に乗る。列車の車窓からの風景を何枚か撮影してみたけど、ぼかして背景の素材に使う分には十分だと思う。
隣街の駅前に到着した。以前、高月さんがここで待ってくれていた事、三人で浴衣を買いに来た事を思い出しながら、その風景を撮影する。風景を撮影する場合は一人の方が相手を待たせる事を気にしなくていいから、背景素材集めは今のうちに行っておこう。
時崎「えーっと、オルゴール店は・・・」
駅前から携帯端末の地図情報を頼りに少し歩くと、モダンな建物が見えた。
時崎「オルゴール館・・・ここか。うわ! 高級なオルゴールが沢山!」
店員「いらっしゃいませ!」
時崎「あ、えっと・・・」
店員「どうぞ、ご覧になってくださいませ!」
時崎「すみません。オルゴールの部品ってありますか?」
店員「はい。こちらの手作りオルゴール用の部品でしたら、取り揃えてございます!」
時崎「このオルゴールの部品と同じのがあればと思いまして」
店員「どのような部品でしょうか?」
時崎「これになるのですけど」
店員「お借りしてもよろしいでしょうか?」
時崎「はい」
店員「では、こちらでお待ちくださいませ」
時崎「ありがとうございます」
オルゴール館に入り、辺りを見回す。高級なオルゴールや、円盤のような見た事の無いオルゴールが並んでいた。オルゴールの駆動部・・・メカと言うのだろうか・・・昨日俺が見た部品と同じような部品もたくさんあるので、なんとかなりそうだ。
店員「おまたせいたしました。お客様のオルゴールのメカは23弁になりますので、こちらのメカと交換すればよろしいかと思われます」
時崎「交換・・・ですか」
店員「同じ楽曲も在庫がございます」
以前に七夏ちゃんから、蒸気機関車の鉄道模型の思い出話しを聞いていた事を思い出す。
<<直弥「修理しようかと考えたんだが、これは、七夏の直そうとしてくれた想いが詰まっているから、交換されてしまうのはちょっと・・・って、思ったんだよ」>>
---修理ではなく交換になってしまう事---
天美さんにとって大切なオルゴール・・・できる限り、今使える部品をそのまま残したいと思った。天美さんにとっては、俺が手にしている「これ」でなければならないと思う。
時崎「今使える部品はそのまま使って、この破損した部品だけを交換する事って出来ませんか?」
店員「可能ですけど、お客様のオルゴールは、失礼ながら落下衝撃によって回転羽が外れて、シリンダーが一気に回転し、その勢いで振動弁を破損してしまったように見受けられます。この場合、他の箇所も損傷している可能性がございますため、振動弁のみ交換しても他の箇所が不具合を起こす可能性がございます」
時崎「なるほど、不具合を起こさない可能性も?」
店員「もちろん、ございます。ただ、振動弁のみの交換でも、取り付け調整技術料が必要になりますので、メカユニットの交換に近いくらいの費用が掛かってしまいますけど・・・よろしいでしょうか?」
どうしようか・・・ここで考えられる最善の方法は、新しいメカユニットを買って、そのメカユニットの振動弁を外し、天美さんのオルゴールに付ける事。もし、それで不都合が出れば、振動弁を戻して、メカユニット全体を交換するという二段構えの方法でどうだろうか?
時崎「では、こちらのメカユニットを購入します。それで、この振動弁を外して、このオルゴールに付けてみます」
店員「お客様ご自身でご交換なさるのですね。かしこまりました。こちらの手作りコーナーへどうぞ」
時崎「ありがとうございます!」
店員「振動弁の交換自体は、2本のネジで簡単に行えますが、最終的な位置決めの調整は慣れていませんと結構難しいですので、出来ましたら一度、お声をお掛けくださいませ」
時崎「はい!」
店員「最初は私が交換と調整おこなわさせて頂いても・・・と思いましたが、僭越ながらお客様はこちらのオルゴールにとても思い入れがあるご様子が伝わってまいりましたので」
時崎「ま、まあ一応・・・」
店員「では、ごゆっくりどうぞ」
時崎「はい。ありがとうございます」
店員さんのお話しどおり確かに振動弁の交換自体は簡単だが、仮止めでの演奏を行うと、微調整によって結構音色が異なってくるようだ。シリンダーと振動弁の距離が重要な要素になっており、距離を詰めると音色は大きく硬くなり、距離を開けると小さく柔らかい音色になる。元々、どのくらいの音色だったのか分からないので、楽曲と俺の感覚で位置決めを行うが、仮止めで良い音になったと思って本締めを行うと、振動弁が微妙に動いてしまい、仮止めの時の音色と異なってしまう。
時崎「なかなか難しいな」
仮止めで、良い音を探りながら、少しずつ2個のネジを交互に締めてゆくと、最終的に仮止めの時の音色のまま本締めへと辿り着く事が出来た。
時崎「すみません」
店員「交換できましたでしょうか?」
時崎「これでどうでしょうか?」
店員「拝見いたします」
時崎「お願いいたします」
店員さんは、オルゴールのメカユニットを眺め、音色を確認した。
店員「お客様、とても上手くご調整なされてます!」
時崎「そうですか!?」
店員「ネジをしっかりと締める時に振動弁が傾いてしまう事がありますけど、お客様のオルゴールではシリンダーと振動弁が綺麗な等間隔になっていて演奏も安定しております!」
時崎「良かったです。ひとつ、質問してもいいですか?」
店員「はい。どうぞ」
時崎「今回のような破損を防ぐ方法ってありますか?」
店員「衝撃を加えない事ですけど、保管する時は演奏が自然に止まった状態・・・動力源のばねがリラックスした状態ですと、振動弁の破損は免れたかも知れません」
時崎「なるほど。ありがとうございます!」
俺は、店員さんへのお礼と、お会計を済ませた。
時計を見るとお昼を過ぎていた。隣街の駅前の喫茶店で昼食を頂き、急いで風水へ戻る。戻る時も風景素材として使えそうな写真を撮影する。少しでも時間を有効に使いたい。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
時崎「ただいま!」
凪咲「おかえりなさい。柚樹君」
時崎「オルゴール、なんとか直せました」
凪咲「ありがとう。また柚樹君に助けてもらったわ♪」
時崎「いえ。七夏ちゃんと天美さんは?」
凪咲「七夏は心桜さんをお家まで送るって」
時崎「そうですか。では俺、今からオルゴールを天美さんの家に届けてきます!」
凪咲「心桜さんの家、分かるかしら?」
時崎「はい! 大丈夫です! 早い方がいいと思うので!」
凪咲「ありがとうございます♪」
風水に帰って来たばかりだけど、そのまますぐに出掛ける。
時崎「それじゃ!」
凪咲「柚樹君!」
時崎「え!?」
凪咲さんは冷茶を持って来てくれた。
凪咲「玄関先でごめんなさい」
時崎「ありがとうございます! いただきます!」
冷茶を一気に頂くと、喉が渇いていた事を再認識させられた。
時崎「では!」
凪咲「はい♪ お気をつけて♪」
天美さんの家に急ぐ、まだ七夏ちゃんが一緒にいるはず。少し小走り気味に歩いていると・・・ん!? あれは?
道の先から自転車に乗って・・・いるのかよく分からないけど、ひとりの少女がこちらに近づいて来る。あれは、七夏ちゃんだ!
時崎「七夏ちゃん!」
七夏「あっ! 柚樹さん☆」
時崎「自転車!?」
七夏「はい☆ この後、おつかいあります☆」
時崎「そうなんだ。あっ! オルゴール、直せたから、天美さんの所に持ってゆこうと思って」
七夏「わぁ☆ 良かったです☆ ここちゃーも喜びます☆」
時崎「なるべく早い方が良いと思って!」
七夏「くすっ☆ ありがとうです☆」
時崎「ところで、七夏ちゃん?」
七夏「はい?」
時崎「変わった乗り方だね?」
七夏「え!?」
時崎「自転車」
七夏「えっと、この乗り方だと見えませ・・・あっ! か、風が心地よくて☆」
時崎「???」
七夏「柚樹さん、早くここちゃーに!」
時崎「あ、ああ」
七夏「また後で☆」
七夏ちゃんは、急ぐように商店街の方へ・・・さっき話しかけてた「見えない」って何の事だろう? まあ、いいか。俺も天美さんの家に急いだ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
天美さんの家の前に着く。呼び鈴を鳴らそうと思ったら、扉から天美さんが出て来た。
時崎「あ! 天美さん!?」
心桜「え!? お兄さん!?」
時崎「どうして分かったの?」
心桜「何が?」
時崎「???」
心桜「つっちゃー見なかった?」
時崎「七夏ちゃん? さっき会ったけど、どうしたの?」
心桜「これ! つっちゃー楽しみにしてたのに忘れてるからさ。今ならまだ間に合うかなと思って」
時崎「七夏ちゃん、自転車に乗ってたけど?」
心桜「あ、そっか! つっちゃー今日は帰り急ぐからって話してたんだった」
時崎「俺で良ければ、七夏ちゃんに届けておくよ」
心桜「ホント!? ありがとー!」
天美さんから、七夏ちゃんの忘れ物を受け取る。これは、七夏ちゃんが好きな小説だ。
時崎「ま、同じ家だからね」
心桜「同じ家・・・くぅ~残念!」
時崎「え!?」
心桜「今の言葉、つっちゃーが居たら面白い事になりそうだったのにぃ~」
時崎「お、面白い事って・・・」
心桜「あはは! ところで、お兄さんはどうしてあたしの家に?」
時崎「これ!」
心桜「あっ!」
オルゴールを見るなり、急にしんみりとする天美さん。
心桜「やっぱり、お兄さんでも無理だった?」
時崎「え!? 一応、音は鳴るようになったけど」
心桜「え!? 本当に!?」
時崎「ああ。だから、早い方がいいかなと思って」
心桜「・・・・・」
時崎「天美さん?」
天美さんは黙ったまま深く頭を下げた。
時崎「ちょっ! 天美さん!」
心桜「ありがとう・・・ございます!」
時崎「そんな、改まらなくても・・・」
心桜「こんなに早く直してくれるなんて、思ってなかったから・・・」
俺は、オルゴールのネジを少し回して、蓋をそっと開けた。オルゴールがゆっくりと音楽を奏で始める。
心桜「うぅ・・・」
時崎「天美さん! 俺との約束! 忘れてないよね!?」
心桜「忘れてないよ・・・けど、ごめん・・・やっぱり、今すぐは無理だよ・・・」
時崎「・・・まあ、俺も偉そうな事は言えない・・・か」
心桜「え!?」
時崎「オルゴール、完全には直せなかったから・・・」
心桜「ちゃんと鳴ってるよ?」
時崎「この、衝撃でできた凹みだけは、直せなかった」
心桜「いいよ全然・・・」
時崎「天美さん!」
俺は、オルゴールの蓋を閉じて天美さんに差し出す。天美さんは、オルゴールを両手で受け取り---
時崎「あっ、天美さん!?」
天美さんは、オルゴールだけではなく、俺の手も包むように受け取り、そのままオルゴールを抱きしめた。天美さんの心の音と温もり・・・この上ない感謝の気持ちが俺の手に伝わってきた。
心桜「ありがとう。お兄さん」
時崎「あ、ああ・・・」
そのまま、どのくらいの時間が経過しただろうか。
心桜「こんなとこ、つっちゃーに見られたら大変だよ!」
時崎「え!?」
心桜「よし!」
時崎「!?」
突然、天美さんが大きな声を上げた。
心桜「約束だからねっ!」
時崎「あ、ああ」
心桜「お兄さん、凄く速かったから、てっきり無理だったんだと思って・・・ごめんなさい!」
時崎「いや、完全には直せなかったけど」
心桜「いやいや、音が鳴るようになっただけで十分だよ! ホントありがとう! 一生大切にするよ!」
時崎「そんな大袈裟な」
心桜「もうつっちゃーだけのオルゴールじゃないからね!」
時崎「え!?」
心桜「お兄さんの・・・なんでもないっ!」
時崎「???」
心桜「あはは!」
時崎「そうそう、オルゴールを保管する時は、完全に鳴らし終えた状態の方が良いそうだよ」
心桜「そうなんだ。あたし、いつでも鳴らせるように、ネジをいっぱいまで回してたよ」
時崎「それだと、オルゴールに負荷がかかった状態になるからね」
心桜「なるほどねー。これからは、オルゴールにも優しくするよ」
時崎「今までもそうだったんじゃないの?」
心桜「あはは! そだねー! ありがと!」
もう一度、オルゴールを抱きしめる天美さん。その様子を見て、さっきの事を思い出し、再びこそばゆくなってくると同時に、天美さんのとても良い表情を写真として残したくなった。
時崎「天美さん!」
心桜「!?」
写真機を構えると、天美さんはこっちを見てすぐにさっきと同じようにオルゴールを抱きしめて目を閉じてくれた。俺が残したいと思った表情。その機会をもう一度くれた事に感謝しつつ、撮影する。
時崎「ありがとう! 天美さん!」
心桜「こっちこそ! でも、お兄さん、オルゴールにも詳しいんだね。正直、まだ驚いてるよ」
時崎「実は、オルゴール館の人に教えてもらったんだ」
心桜「オルゴール館って、隣街の?」
時崎「そう」
心桜「あのお店、高級品ばかりじゃなかった?」
時崎「そうみたいだけど、手作りオルゴールもあったよ!」
心桜「手作り!? 前は無かったけど」
時崎「そうなの? 店員さんがとても丁寧に教えてくれたよ『お客様はとてもこのオルゴールに思い入れがあるんですね』って言われた」
心桜「あはは・・・キャラクター入りのオルゴール。お兄さん、ちょっと恥ずかしくなかった?」
時崎「直す事に必死で、そんな事考える余裕は無かったよ」
心桜「そっか。このオルゴール、つっちゃーがあたしの誕生日にくれたんだ」
時崎「そうだったのか・・・それで・・・」
七夏ちゃんからの誕生日プレゼント。それが、どれだけ大切な物なのか俺にも分かる。
心桜「つっちゃーが、ちょっと前から好きな本を買うのを我慢してたりしてた理由も分かって、あたし、とっても嬉しかったんだけど、なんか素直に嬉しいって言えなくて・・・でも、つっちゃーは、それも分かってくれてて」
時崎「・・・・・」
心桜「壊れたオルゴールを見て、色んな事を思い出しちゃってさ」
時崎「なるほど」
心桜「今まで、当然のようにあった物が無くなりかけるとどうなるのか、よく分かったよ」
時崎「天美さん・・・」
心桜「本当は、分かってたはずなんだけどね」
時崎「!」
心桜「昨日、つっちゃーと一緒に寝ててさ、オルゴールが壊れても、あたしとの関係は壊れないよって・・・そう言われてなんか、あたし自分が凄く恥ずかしくなったよ」
時崎「天美さんが怒ってたのも、七夏ちゃんの事を大切に想ってるから、現れ方の違いだと思うよ」
心桜「ありがと。つっちゃーに送ってもらって家に帰って、あたし、まだまだ子供だったなって・・・」
時崎「え!?」
心桜「な、なんでもない!」
時崎「???」
心桜「お兄さん・・・ごめん。あたし、なんでこんな事、話してるんだろ?」
時崎「さあ。でも、天美さんと七夏ちゃんの事がまたひとつ分かって嬉しいよ」
心桜「お兄さんの昔の思い出も話してよね!」
時崎「え!? また機会があればね! じゃあ、俺はこれで!」
心桜「あれ!? 急によそよそしくなった!」
時崎「いや、そろそろアルバムの作業に戻らないと・・・それに、俺の思い出話しは七夏ちゃんや高月さんと一緒の時の方がいいかなと思って」
心桜「そう言われると、納得しか出てこないよ」
時崎「じゃ、そう言う事で!」
心桜「お兄さん!」
時崎「ん?」
心桜「ありがとう!」
時崎「お礼は十分受け取ってるから!」
心桜「あたしの為に、予定を変更してくれた事!」
天美さんは気付いていた。本来今日はアルバム制作に集中する予定だったけど、良い思い出も出来たから、本来の予定よりも充実感に満ちている。
時崎「七夏ちゃんとの良い思い出話しが聞けたからおあいこ!」
心桜「うん!」
天美さんに軽く手を振り、俺は、風水へと急いだ。角を曲がる時に振り返ると、天美さんはまだ俺を見送ってくれていて手を振ってくれた。
風水へ帰る前に、七夏ちゃんへのアルバム作りに必要な材料を買う為、商店街へ寄る。七夏ちゃんへのアルバム作りは、七夏ちゃんが居ない時に進めたいので、今のうちに足りないものは揃えておく方が良いだろう・・・まだ試行錯誤の必要はあるので、急がねばならない。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
時崎「ただいま!」
七夏「あ、柚樹さん☆ お帰りなさいです☆」
時崎「七夏ちゃん、これ!」
七夏「あっ! 小説!?」
時崎「天美さんが、忘れてるよって」
七夏「柚樹さん、ありがとです☆ 帰る途中で気付いてましたけど、今度でいいかなって」
時崎「どうして? 天美さんがこの小説、七夏ちゃん楽しみにしてるって話してたよ?」
七夏「えっと、すぐ戻ると柚樹さんが居るって分かってたから・・・」
時崎「え!? どういう事?」
七夏「ここちゃーって、素直じゃない所ありますから☆」
<<心桜「こんなとこ、つっちゃーに見られたら大変だよ!」>>
今更だけど七夏ちゃんは、天美さんの事をよく分かっていると思う。
七夏「ここちゃー、元気になりました?」
時崎「え!? あ、ああ。どうして?」
七夏「えっと、今日、ここちゃーお家になかなか帰りたがらなくて・・・」
時崎「そうなの?」
七夏「はい。だから私、ここちゃーをお家まで送ったの」
天美さん、俺の前では無理して空元気だったという事なのか・・・今回は単にオルゴールを壊された事だけではなかったみたいだから、もちろん、大切にしている物を失いかけると、心は不安定になるのは自然な事だ。強いイメージの天美さん。ひとつくらいの悲しい出来事には耐えれても、複数の悲しい事が重なると今回のような事になってしまうのだと。椅子の足を2本同時に失うと、その椅子は倒れてしまうか、持ちこたえたとしても、とても不安定な状態になる。そんな時に倒れないように支えてあげられる存在が大切なんだなと、改めて思う。
時崎「天美さん、大丈夫だったの?」
七夏「はい。でも、ここちゃーのお家から、ゆーちゃんの泣き声が聞こえてきて」
時崎「泣き声?」
七夏「はい」
七夏ちゃんのお話によると、天美さんのお母さんは、天美さんが居ない時に弟さんの事を叱っていたという事。誰でも叱られている所を他の人に見られたくないはずだから。
<<心桜「ありがと。つっちゃーに送ってもらって家に帰って、あたし、まだまだ子供だったなって・・・」>>
<<時崎「え!?」>>
<<心桜「な、なんでもない!」>>
時崎「・・・なるほど」
あの時の天美さんの言葉。俺は七夏ちゃんに送ってもらった事に対してかと思ったけど、本当の意味を、七夏ちゃんが教えてくれたような気がした。
七夏「柚樹さん☆ ありがとうです☆」
時崎「え!?」
七夏「くすっ☆ ありがとうです☆」
時崎「あ、ああ!」
七夏「今日のお夕飯、肉じゃがをお母さんと一緒に作ります♪」
時崎「おお! それは楽しみだ!」
七夏「はい☆ お母さんに教えてもらいながらですけど、頑張ります☆」
時崎「楽しみにしてるよ! 俺も、アルバム作り、頑張るよ!」
七夏「はい☆」
自分の部屋に戻って、早速、アルバム作りを再開する。今日撮影した背景素材や、オルゴール館、そしてなんと言っても天美さんのとても優しい表情。良い素材が集まったと思う。後は俺がしっかりとアルバムのレイアウトを行えば、きっと七夏ちゃんも驚いて喜んでくれるはずだ。今、七夏ちゃんですら知らない天美さんの心を知っている事に少し申し訳なさを覚えながらも、早くこの事を知ってもらえるように、アルバム制作を進めるのだった。
第三十六幕 完
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次回予告
虹がいつ現れるのか、分かればいいのにと思っていた。
次回、翠碧色の虹、第三十七幕
「未来を写す虹?」
いつ現れるか分からない事が、その出逢いをより印象付けるのだろうか?
幕間三十一:大切な宝物ってある!?
時崎「なんか、疲れたな・・・」
七夏「柚樹さん☆ お疲れ様です☆」
心桜「お兄さんっ! お疲れっ!」
時崎「いや、まだ頑張らなければ!」
心桜「いや~今回はつっちゃーとお兄さんに助けられたからね。ホントありがとう!」
七夏「くすっ☆」
時崎「実は、直せられるかどうかヒヤヒヤしてたよ」
心桜「すみません、ご迷惑をお掛けしました」
笹夜「ごめんください♪」
時崎「高月さん、いらっしゃい!」
笹夜「と、時崎さん!? こ、こんにちは♪」
時崎「こんにちは!」
七夏「笹夜先輩! いらっしゃいです☆」
心桜「こんちわ! 笹夜先輩!」
笹夜「心桜さん・・・もう大丈夫なのかしら?」
心桜「はい! 大丈夫です! 前回はありがとうございました!」
笹夜「いえ・・・良かった♪」
時崎「んじゃ、皆揃ったみたいだから、七夏ちゃん!」
七夏「はい☆」
時崎「後はよろしく!」
七夏「え!? 柚樹さん!?」
心桜「お兄さん!?」
笹夜「あ・・・」
時崎「色々と、行わなければならない事があって・・・ごめん」
七夏「分かりました♪ 私に任せてくださいです☆」
時崎「ありがとう! 七夏ちゃん!」
心桜「ま、お兄さんも忙しそうだし、仕方がないか」
笹夜「心桜さん、それは何かしら?」
心桜「これですか? あたしの宝物だよ!」
笹夜「まあ♪ 素敵なオルゴール♪」
心桜「中を開けると・・・」
笹夜「あら♪ 可愛い♪」
七夏「くすっ☆」
心桜「笹夜先輩は、何か宝物ってありますか?」
笹夜「私? ピアノとピース・・・かしら?」
心桜「おお! ピアノ! 大きな宝物ですね!」
七夏「素敵なプレゼントです☆」
笹夜「ええ♪ 私が幼い頃、ピアノに強く興味を示したらしく、両親からお誕生日プレゼントとして♪」
心桜「お誕生日のプレゼントにピアノですか!? それはスケールが大きいですね!」
笹夜「突然、大きなピアノがお家に届いたから、嬉しいというよりも驚きの方が大きかったかしら?」
心桜「あはは・・・なんとなく分かります! でも、小さいピアノもあるはずなのに、いきなり本物とは!」
笹夜「私、幼い頃、あまり物事に関心を示さなかった事を両親は悩んでいたみたいで・・・でもピアノだけは違ったらしくて・・・それだったら、思い切って本物のピアノを・・・という事だと聞かされました」
七夏「それが、今の笹夜先輩の素敵な演奏になっているのですね☆」
笹夜「ありがとう♪ 七夏ちゃん♪」
心桜「最初から良い物に触れておくと、後々良いのは確かだからね!」
七夏「くすっ☆」
笹夜「ええ♪」
心桜「でも、最初にピアノだと、後のお誕生日プレゼントは大変なんじゃないの?」
笹夜「どおしてかしら?」
心桜「どおしてって言われても・・・次の年の誕生日プレゼントは何だったんですか?」
笹夜「ピアノのピースや、図書券です♪」
心桜「そっか、さすが笹夜先輩のご両親ですね! でも、少し寂しくないですか?」
笹夜「いいえ。最初のピアノのプレゼント、私にとっては両親からの一生分のプレゼントだと思ってます♪」
七夏「ここちゃー! すみません、笹夜先輩」
心桜「納得です・・・失礼いたしました」
笹夜「七夏ちゃんの宝物って何かしら?」
七夏「わ、私!?」
笹夜「ええ♪」
七夏「えっと・・・」
心桜「ん? つっちゃー?」
笹夜「七夏ちゃん?」
心桜「これ!?」
七夏「あっ!」
笹夜「まあ♪ セブンリーフの写真立てかしら?」
心桜「そう言えば前から置いてあったけど、写真、入ってないよね」
七夏「・・・・・」
笹夜「心桜さんっ!」
心桜「分かってますって! だけど、このままじゃ色々と寂しいかなーと思ってさ」
七夏「・・・・・」
笹夜「それは・・・」
七夏「ここちゃー」
心桜「ん?」
七夏「この写真立て・・・いつか写真を入れて飾ろうと思ってます☆」
心桜「おぉ! それは楽しみだよ!」
笹夜「七夏ちゃん♪」
七夏「だから、もうちょっと待っててもらえるかな?」
心桜「もちろん! 待つよ! ねっ! 笹夜先輩!」
笹夜「ええ♪」
七夏「ありがとです☆」
心桜「その時こそ、つっちゃーにとって本当の宝物になるんだろうね!」
七夏「え!? えっと・・・」
笹夜「七夏ちゃん♪ 焦らないで少しずつ参りましょう♪」
七夏「は、はい♪」
笹夜「という事で、七夏ちゃんが少しずつ頑張る『翠碧色の虹』本編はこちらです♪」
笹夜「http://nanatsuiro.my.coocan.jp/nnt_frma_a.htm」
心桜「さ、笹夜先輩!?」
笹夜「あっ、すみません・・・先週の流れでつい・・・」
心桜「あーびっくりした! 流石、適応能力高いですね~」
七夏「もう・・・ここちゃー!」
心桜「んじゃ、続きはあたしが!」
笹夜「お願いいたします♪」
心桜「ではでは、あたしと笹夜先輩も少しずつ頑張る『ココナッツ』宛てのお便りはこちら!」
心桜「http://nanatsuiro.my.coocan.jp/nnt_suiheki_novel.htm#QUESTIONNAIRE」
七夏「みんなの宝物って何かな?」
心桜「聞かせてもらえると嬉しいよね!」
笹夜「ええ♪」
心桜「お兄さんの宝物ってなんだろ?」
七夏&笹夜「え!?」
心桜「お二人の『え!?』が、左右からステレオで来たよ!」
幕間三十一 完
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幕間三十一をお読みくださり、ありがとうございました!
本編の方も鋭意制作中ですので、どうぞよろしくお願い申しあげます!
随筆四十:サンタさんはどこに居る?
心桜「こんちわー!」
笹夜「いらっしゃい♪ 心桜さん♪」
心桜「あ、笹夜先輩! こんにちはです!」
笹夜「はい♪ こんにちは♪」
心桜「つっちゃーは?」
七夏「あ、ここちゃー☆ いらっしゃいです☆」
心桜「お、いたいた!」
七夏「くすっ☆ えっと、おたより届いてます☆」
心桜「おおっ! どなたか分かりませんが、ありがとうございます!」
笹夜「心桜さん・・・」
心桜「だって、今の所、本当に誰だか分からないですから」
笹夜「それはそうですけど」
七夏「えっと、読んでみますね☆」
心桜「うんうん!」
笹夜「ええ♪」
七夏「お名前は、冬が熱いさん・・・」
心桜「冬が暑い!?」
笹夜「南半球にお住まいなのかしら?」
心桜「笹夜先輩、そう来ますか!? つっちゃー続きお願い!」
七夏「はい☆ 『ココナッツさん、こんにちは! もうすぐ私達の所では年末で沢山のイベントがあります♪ まずは冬休み! クリスマスからなのですけど、お友達とサンタさんを何歳まで信じていたかという話題になって、かなり熱くなりました。ココナッツさんは、今でもサンタさんを信じていますか?』」
心桜「あ、『あつい』ってそっちでしたか!?」
七夏「え!?」
心桜「熱い! まあ、確かに今は冬でも熱いからね・・・特に冬コミなんか熱い上に暑い!」
笹夜「あついうえにあつい!?」
心桜「今回は、伝わらないかぁ・・・まあいいや!」
七夏「サンタさん、私は居ると思います☆」
心桜「おっ! つっちゃーは居る派か・・・」
笹夜「心桜さんは、居ない派なのかしら?」
心桜「居るか居ないかで言えば、あたしも居ると思うよ、サンタさん・・・クリスマス前、商店街でも大量に沸くからね」
笹夜「心桜さんっ!」
心桜「あはは・・・すみません。だけど12月25日を過ぎると絶滅するから、あの熱い盛り上がりは何だったのかって思ったりするよね!?」
笹夜「心桜さん、反省されてるのかしら?」
心桜「笹夜先輩は、サンタさん居ると思います?」
笹夜「ええ♪」
心桜「おっ! 即答! その心は!?」
笹夜「サンタクロースというお名前が、多くの方に広く認知されてます♪」
心桜「はは・・・なんと申しますか、そんなに手堅く来られますと・・・」
笹夜「でも、居るって思っている方が素敵です♪」
七夏「はいっ☆」
心桜「居るって信じている人にはプレゼントが届いてほしい!」
笹夜「ええ♪」
心桜「あたしは、強く強く信じてるよ!」
笹夜「心桜さん・・・」
心桜「そう言えば、昔、商店サンタさんにプレゼント貰えた時は嬉しかったなぁ」
七夏「くすっ☆ ここちゃー、サンタさん巡りしてました☆」
心桜「あはは・・・街のサンタさん、雪フルコンプですよ!」
七夏「???」
心桜「あの赤い服見ると、つい近づいてしまうんだよね~」
笹夜「今もかしら?」
心桜「いえいえ、昔の話です! そう言えばさっき、笹夜先輩が南半球って話されてましたけど」
笹夜「南半球では、暑い季節・・・真夏にクリスマスが訪れますので♪」
心桜「・・・ぜんぜんイメージがわかない・・・あ、もしかして海辺で赤い水着を着て『ひゃっほー!』とか!?」
笹夜「どおしてそうなるのかしら?」
心桜「だって、真夏でしょ!?」
七夏「えっと、サンタさんの乗り物も違うのかな?」
心桜「乗り物・・・トナカイとソリの事か!」
七夏「はい☆」
笹夜「そう言われると、確かにサンタさんのソリは雪の上を走るイメージですね」
心桜「実際、空を飛んでますけどね~」
笹夜「・・・・・」
心桜「大丈夫! 列車だって空を飛ぶんだから! 銀河鉄道QQQとかあったでしょ!?」
七夏「あっ! お父さんがお話してました☆」
心桜「南半球のサンタさんは、イルカが引っ張るサーフボードに乗って『ひゃっはー!』って感じかな?」
笹夜「心桜さん・・・やっぱり、海から離れられないのですね」
心桜「だって、イルカが引っ張るんだから、海から出られないでしょ!?」
笹夜「さっき、空を飛ぶから大丈夫って話されてなかったかしら?」
心桜「うぐっ・・・斬られたぁ~・・・バタン!」
七夏「こ、ここちゃー!!!」
心桜「「つ、つっちゃー・・・あたしの・・・」
七夏「な、何!?」
心桜「プレゼントを・・・受け取っといて・・・」
笹夜「はぁ・・・この流れ・・・何なのかしら?」
心桜「まあ、真面目な話、サンタさんには感謝しているよ! それが誰であってもね!」
七夏「え!?」
心桜「サンタさんて、偶像みたいなもんだよ。だからあたしは、プレゼントをくれる事に感謝してるし、サンタさんは居ると信じてるよ・・・もちろんこれからもね!」
笹夜「心桜さん・・・♪」
七夏「私も信じてます☆ これからも☆ サンタさん☆」
笹夜「ええ♪」
心桜「そして、いつか、あたしたちも・・・いや、なんでもないっ!」
笹夜「~♪」
七夏「???」
心桜「そんな訳で、あたしたちココナッツは、全面的にサンタさん居る派でファイナルアンサーだね!?」
七夏「えっと・・・最後の答え?」
笹夜「七夏ちゃん、結論ね♪」
七夏「はい☆ 冬が熱いさん、お手紙、ありがとうございました☆」
笹夜「ありがとうございます♪」
心桜「ありがとう! またお手紙よろしくね!」
七夏「くすっ☆」
心桜「って事で、これからもつっちゃーが頑張る『翠碧色の虹』本編はこちら!」
心桜「http://nanatsuiro.my.coocan.jp/nnt_frma_a.htm」
心桜「あたしたち『ココナッツ』宛ての、お手紙はこちらです!」
心桜「http://nanatsuiro.my.coocan.jp/nnt_suiheki_novel.htm#QUESTIONNAIRE」
心桜「サンタさんの話をすると、なぜか鶏肉が食べたくなる!」
七夏「くすっ☆ ケーキもあるといいな?」
笹夜「七夏ちゃんや心桜さんと一緒だと、クリスマスが楽しくなりますね♪」
心桜「んじゃ、今度は笹夜先輩もご一緒に! ねっ! つっちゃー?」
七夏「はい☆」
笹夜「まあ♪ いいのかしら?」
心桜「勿論です! だって、笹夜先輩が居るとケーキがめっちゃ綺麗に切れそうですから!」
七夏「こ、ここちゃー!」
笹夜「腕を磨いておきます♪」
心桜「うっひゃぁ~!」
随筆四十 完
------------
随筆四十をお読みくださり、ありがとうございました!
本編の方も鋭意制作中ですので、どうぞよろしくお願い申しあげます!
随筆四十一:過程と結果、大切なのは?
心桜「あー落ち着きますなぁ~」
笹夜「ええ♪」
心桜「おやおや!? 笹夜先輩!?」
笹夜「何かしら?」
心桜「以前の笹夜先輩なら『心桜さん、くつろぎ過ぎです!』って言ってたけど」
笹夜「時にはのんびり過ごす事も大切ですので♪」
七夏「くすっ☆ 紅茶いれました☆」
心桜「ありがと! つっちゃー!」
笹夜「ありがとう♪ 七夏ちゃん♪」
七夏「はい☆ ここちゃー、お砂糖はいくつにする?」
心桜「んじゃ、みっつくらい!」
笹夜「心桜さん? みっつくらいって何かしら?」
心桜「キターーー!!!」
七夏「ひゃっ☆」
笹夜「きゃっ!」
心桜「んー、確かによく言いがちなんだけど・・・」
七夏「えっと、みっつって事かな?」
心桜「そだねー、『ぐらい』って何だろ?」
笹夜「そもそも『ぐらい』というのは、言い換えれば『おおよそ』や『約』という意味になりそうですね」
心桜「約みっつ・・・なんか誰かの名前みたいだ」
七夏「る?」
笹夜「まあ♪」
心桜「他にも『だいたい』とかもその仲間かな?」
笹夜「ええ♪」
七夏「私がここちゃーの紅茶にお砂糖をふたつかよっつ入れてもいいのかな?」
心桜「まあプラマイ1なら構わないよ・・・それよりあたし的には『ここちゃーの紅茶』が気になった」
七夏「え!?」
心桜「ここちゃーのここちゃーって言い間違えてほしかったよ~」
笹夜「心桜さん・・・」
七夏「い、言い間違えないようにかなり意識しましたけど、良くなかったのかな?」
笹夜「良いと思います♪」
七夏「笹夜先輩は、お砂糖おひとつかな?」
笹夜「ええ♪ ありがとう♪ ななつちゃん♪ どおして心桜さんには訊いたのかしら?」
七夏「はい☆ ここちゃーは、その時によってお砂糖の数が変わります☆」
心桜「っそ! 砂糖無しの時もあるからね!」
笹夜「なるほど♪」
心桜「だから今日、もし、つっちゃーが、お砂糖4個入れたとしても『あたし、みっつぐらいって言ったよね』とか言わないよ」
笹夜「ぐらいって話されてる時点で・・・」
心桜「あはは! 誤差だね~」
七夏「ここちゃー?」
心桜「あ、そだそだ。お手紙あったんだ! ありがとう!」
七夏「ありがとうです☆」
笹夜「まあ♪ ありがとうございます♪」
心桜「んじゃ、あたしがよんでみるね!」
七夏「はい☆」
笹夜「ええ♪」
心桜「お~い!」
七夏「ひゃっ☆」
笹夜「・・・・・」
心桜「・・・あら?」
笹夜「・・・ひらがなの時点で、そんな気がしました・・・」
心桜「なんで『ひらがな』って分かるんですか!? まあ、いいや、ホントに読むよ『ココナッツさん、こんにちは! 突然ですけど、過程と結果ってどっちが大切だと思いますか? 終わり良ければ全てよしっていう言葉がありますけど、やはり結果が大切なのでしょうか?』・・・確かに過程よければ全て良しは聞かないなぁ」
笹夜「結果よりも過程が大事・・・という言葉があります。過程が良ければ、結果も良くなるからかしら?」
心桜「そう言われれば、そうですね!」
七夏「私、過程も大切だと思います☆」
心桜「おっ! つっちゃー、その心は?」
七夏「ただひとつの大切で、掛け替えの無い存在です☆」
心桜「わわっ! まさかの展開!」
笹夜「家庭・・・かしら?」
七夏「はい☆」
笹夜「心桜さんの尋ね方に原因があると思います」
心桜「はは・・・すみません」
七夏「でも、本当に過程も大切だと思います☆」
心桜「その理由は?」
七夏「私、お母さんから色々と教わった事、そのひとつひとつが大切だと思います♪ 結果が失敗しちゃった事もありますけど、それを上手く手直しする事も教えてもらいました☆」
笹夜「なるほど♪」
心桜「あっ! 失敗は成功の元!!!」
笹夜「ええ♪ 単に結果が良いというだけでは、得られない事かしら?」
七夏「はい☆ ひとつの良い結果は、過程によって得られます☆」
笹夜「過程も、結果と同じく大切です。最初は教わった事に対して、忠実な過程が行えるかどうか・・・そういう意味での過程はとても大切です」
心桜「ん? どういう事ですか?」
笹夜「例えば、あるひとつの結果に辿り着く為の手順を教わったとします。でも、その結果に辿り着く方法はいくつかありました。その時、教わった方法・・・つまり、過程を正しく経由するか、自身の判断で独自に結果へ辿り着くかの違いです」
心桜「なるほど、独自判断タイプは問題なの?」
笹夜「場合によっては問題になります。結果が同じですので、どちらも正しいのは確かです。だけど、もし、判断の基準が『教わった事を正しく履行できるか?』だとしたら、結果が同じであっても不正解となります」
心桜「なるほど・・・独自判断タイプは、己の勝手な判断で過程を変えてしまう上、命令に従えない人と判断されてしまうという事か・・・」
笹夜「他にも、結果は同じでも、過程が異なれば、結果へ辿り着く時間に差が出てきます。もし、時間に余裕がない時に過程を変えて時間が掛かったとしたら・・・どうなるのかしら?」
七夏「でも、逆に時間が掛からない事もあるのかな?」
笹夜「勿論、その可能性もあります。だけど、七夏ちゃん、一刻を争う時に、その判断って出来るかしら?」
七夏「えっと・・・できないです」
心桜「という事は、まずは教わった過程が大切。んで、それを踏まえた上で、色々と試して同じ結果が得られるようになってはじめて『結果が大切』と言える・・・って事?」
笹夜「ええ♪」
七夏「はいっ☆」
心桜「よーし! つっちゃーはこれからも『過程』を頑張るんだよ!」
七夏「え!?」
心桜「って事で、これからもつっちゃーが過程を頑張る『翠碧色の虹』本編はこちら!」
心桜「http://nanatsuiro.my.coocan.jp/nnt_frma_a.htm」
心桜「あたしたち『ココナッツ』宛ての、お手紙はこちら!」
心桜「http://nanatsuiro.my.coocan.jp/nnt_suiheki_novel.htm#QUESTIONNAIRE」
笹夜「過程も結果も、どちらも大切です♪」
心桜「あはは・・・結局、そこに落ち着くんだけどね~」
七夏「くすっ☆」
心桜「って事で、ペンネーム『過程チーズ』さん、ご参考になったかな? また、お手紙くれると嬉しいです!」
七夏「かていちーず?」
笹夜「プロセスチーズ・・・かしら?」
心桜「だね~」
随筆四十一 完
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随筆四十一をお読みくださり、ありがとうございました!
本編の方も鋭意制作中ですので、どうぞよろしくお願い申しあげます!
第三十七幕:未来を写す虹?
昨日は天美さんのことで色々とあったけど、今日はいつもどおりの朝・・・という訳ではなく・・・。
時崎「う・・・ちょっと、食べ過ぎたかな」
少し胃がもたれている。昨日、七夏ちゃんと凪咲さんが「肉じゃが」を作ってくれたけど、いつもよりも多めに作ったみたいで、俺は二人分は頂いてしまった。美味しいと言うと、七夏ちゃんはとても喜んでくれるのでつい・・・まあ「可愛い」という言葉で喜んでくれないのなら、こういうところで頑張らないと。
時崎「もう少し、横になっていようかな」
そのまま、目を閉じる。しばらく休んでいると、蝉の声が聞こえ始めたけど、今日はもう少しお休みしていたい。蝉の声を絶つように布団に頭ごと潜り込む。しばらくお休みしていると、蝉の声に混じって女の子の声が聞こえた。
七夏「柚樹さん☆」
時崎「ん? 七夏ちゃん?」
七夏「おはようです☆」
時崎「おはよう」
七夏ちゃんが起こしに来てくれたから、頑張って起きる事にする! 食べ過ぎた事を悟られないよう、いつもと同じようにを意識して。
七夏「くすっ☆ まだ眠たいですか?」
時崎「いや、もう起きるよ! ありがとう!」
七夏「はい☆ 朝食の準備できてますので、1階に来てくださいです☆」
時崎「ああ」
七夏ちゃんはそう話すと、そのまま部屋を出てゆく。これがいつもどおりになってしまって良いのだろうか? いつもと言えば、七夏ちゃんは今日も午前中に宿題を済ませるだろうけど、午後は何か予定があるのだろうか?
今日は七夏ちゃんと一緒に過ごせるといいなと思う。後で、七夏ちゃんに午後の予定が空いているのか訊いてみよう!
1階へ降りて顔を洗い、居間へ向かう。
凪咲「おはようございます」
時崎「おはようございます! 凪咲さん!」
七夏「柚樹さん! どうぞです☆」
時崎「ありがとう。七夏ちゃんも一緒に」
七夏「はい☆ ありがとです☆」
時崎「う・・・」
七夏「あっ! えっと・・・やっぱり、他のが良かったかな?」
目の前には、昨日沢山食べた「肉じゃが」が、結構なボリュームで置いてあった。
凪咲「ごめんなさいね。少し多めに作ってしまって・・・」
時崎「いえ! 美味しかったですから!」
七夏「私も頑張って頂きますので☆」
時崎「よし! いただきます! おっ!?」
七夏「あっ!」
時崎「昨日よりも美味しい?」
七夏「はい☆」
カレーは一晩寝かせると美味しくなると聞いた事があるけど、「肉じゃが」もそうなのかな?
時崎「昨日よりも味が豊かになってると思う!」
七夏「はい☆ 良くなってます☆」
凪咲「肉じゃがを美味しく作るには、鍋止めする事なのよ♪」
七夏「はい☆」
時崎「なるほど。それで沢山作っていたのですか?」
七夏「えっと・・・」
凪咲「七夏と練習をしていると・・・かしら?」
七夏「ごめんなさい」
やはり沢山作っていた理由はここにあったようだ。七夏ちゃんも少しずつお料理が上手くなって行くのだろうなと思いながら、美味しく頂いた。朝起きた時は、ちょっと胃がもたれているように思ったけど、美味しいお料理は胃もたれも打ち負かす事を俺は学んだ。結構沢山食べれらるものだと驚く。
時崎「ご馳走様でした!」
七夏「はい☆」
時崎「七夏ちゃん、今日は何か予定あるのかな?」
七夏「えっと、午前中は宿題ですけど、午後はのんびり過ごします☆ どおして?」
時崎「え!? あっ、か、買い物とかあったら、付き合おうかなと思って」
七夏「わぁ☆ いいの!?」
時崎「もちろん!」
七夏「ありがとです☆ じゃ、急いで宿題済ませますね☆」
時崎「ゆっくりでいいよ! 俺もアルバム作ってるから!」
七夏「はい☆ ありがとうです☆」
朝食を済ませ、自分の部屋に戻る。七夏ちゃんも自分の部屋で宿題をするようだ。アルバム制作に取り掛かる・・・七夏ちゃんを待たせる事がないようにと思うのだが、俺のほうはいつでも中断はできる。昨日買った材料で、七夏ちゃんへのアルバムの試作を行う。
時崎「この距離感が難しい。あとは、耐久性の問題もあるな」
材料の大きさや厚みを変え、試行錯誤を行っているが、末永く使えるかどうかは分からない。少しでも引っ掛かる点を残すと、後々問題になる為、十分な検証は必要だ。
デジタル素材の方のトリミングもしっかりと仕上げる必要があるので、工作に行き詰まったら、デジタル編集を行うというように気分を変えて作業を進める。
時崎「ん!?」
扉が開く音、そして、1階へと降りて行く足音が聞こえた。時計を見ると11時前。
時崎「もう、そんな時間か・・・七夏ちゃん、宿題終わったのかも知れないな」
俺も気分転換を兼ねて1階へ降りる事にした。
しかし、凪咲さんも七夏ちゃんも見当たらない・・・玄関の扉を開けて外の様子も見てみる・・・扉の鍵は掛かっていないので、すぐに戻ってくるだろう。
玄関の周りを改めて見回す。民宿風水には、ちょっとした「おみやげ」が売られている。和菓子と、駄菓子、氷菓のようだ。特に、凪咲さん手作り和菓子の「水大福」と「風大福」は、この街ではちょっと有名らしい。七夏ちゃんもこの和菓子作りのお手伝いをしていると話していた。そう言えば、民宿なのに宿泊客が、あまりいなくて大丈夫なのかと、余計な心配をしてしまった事もあったな。七夏ちゃんのお父さんの収入だけで、家系的には何も心配ないと凪咲さんが話してくれた。元々、民宿を始めたいと言い出したのは、凪咲さんのようで、幼い七夏ちゃんをそばで見守りながら、お仕事もできれば・・・という事。その時、七夏ちゃんのお父さんが出した条件が、禁煙の民宿にする事だった。この理由は、凪咲さんや、幼い七夏ちゃんの健康を想っての事なのだろう。
以前、七夏ちゃんが電話で話していた事を思い出す。
<<七夏「・・・当宿は、全室禁煙になりますけど・・・え? はい・・・申し訳ございません。はい。お電話ありがとうございました。失礼いたします」>>
俺は、禁煙の民宿があってもいいなと思う。
改めて、民宿風水のおみやげを眺めていると、懐かしい「笛のラムネ」が目に留まる。それを手にとって眺めていると---
七夏「柚樹さん!?」
時崎「七夏ちゃん!?」
七夏「あ、笛のラムネ・・・ですか?」
時崎「ああ。懐かしいなと思って」
七夏「くすっ☆ 私、今日のお菓子、笛のラムネにしようかなぁ♪」
時崎「え!? 今日のお菓子!?」
七夏「はい☆ ここのお菓子、一日1つ、頂いてもいい事になってます☆」
時崎「そうなんだ、七夏ちゃんの家ならではだね」
七夏「はい♪ あ、でも・・・こっちのスイカのグミもいいな・・・どおしようかなぁ」
時崎「七夏ちゃん!」
七夏「はい!?」
時崎「七夏ちゃんは、そのグミでどうかな?」
七夏「え!?」
時崎「俺、この笛のラムネ、頂くから・・・」
七夏「柚樹さんが笛のラムネ?」
時崎「笛のラムネ、こんなに沢山あっても・・・ね。半分くらい協力してくれないかな?」
七夏「くすっ☆ ありがとうございます♪ えっと、私のグミと半分ずつ・・・でいいですか?」
七夏ちゃんは、俺の意図をすぐに理解してくれた。
時崎「ああ。ありがとう!」
七夏「こちらこそ、ありがとうです♪」
俺は、笛のラムネの代金を七夏ちゃんに支払う。七夏ちゃんは、売上簿のようなノートに何かを記入している。
時崎「ちゃんと記録しているんだね」
七夏「はい☆ 柚樹さんの笛のラムネも記録しました! ありがとうございます!」
七夏ちゃんは、そのノートを俺に見せてくれた。今日の日付と、笛のラムネの個数と金額・・・。その下には、今日の日付と、スイカのグミ個数と金額と七夏・・・と、書かれてあった。なるほど。七夏ちゃんが、今日のお菓子として頂いた分は、名前を書く事になっているようだ。所々、天美さんの名前も入っている。
早速俺は、笛のラムネを開ける・・・何か「おまけの箱」が入っていた。こういうのは「おまけ」がメインだったりする事もあるな。七夏ちゃんも「おまけ」が気になる様子だ。その中には、おもちゃの指輪・・・これは・・・俺にどうしろと!?
七夏「あ♪ 指輪です☆」
時崎「そうみたいだけど・・・俺にどうしろというんだ!?」
七夏「くすっ☆ 柚樹さん、指に付けてみる・・・っていうのは、どうですか?」
七夏ちゃんに、からかわれてしまった。けど、楽しそうな七夏ちゃんを見ていると、それも悪くないなと思ってしまう。しかし、からかわれて、このままっていうのも少し悔しい。
時崎「七夏ちゃん! 笛のラムネあげるから、手を出して!」
七夏「は、はい☆」
七夏ちゃんは、右手を差し出してきた。右手の下に左手を添えているあたり、七夏ちゃんらしいなと思う。俺は、手を差し出してきた七夏ちゃんの右手の薬指に、指輪を付けてあげた。
七夏「あっ・・・」
時崎「七夏ちゃんに言われたとおり、指に付けてみたよ!」
七夏「・・・・・」
時崎「うんうん。やっぱり、指輪は女の子が付けてこそ・・・より輝くよねっ!」
七夏「・・・・・」
俺は、七夏ちゃんから、からかわれた分を、お返しする軽い気持ちだった。けど、七夏ちゃんは黙り込んでしまっている・・・。
時崎「七夏ちゃん!?」
七夏「え!? あっ・・・えっと・・・」
時崎「どおしたの!?」
七夏「なっ、なんでも・・・ないです・・・」
時崎「指輪は女の子に似合うよね!」
七夏「くすっ☆ ありがとう・・・です」
七夏ちゃんは、しばらくその指輪を眺めていた。
七夏「男の人の指輪も、あります☆」
しばらく答えを探しているようだった七夏ちゃんからの言葉。男の人の指輪か。
時崎「それって、骸骨みたいなヤツでしょ!!!」
七夏「え!? ええっと・・・その・・・」
少し、返事に困っている七夏ちゃん。これ以上からかうのは、どうかと思う。俺は今度こそ笛のラムネを七夏ちゃんに差し出す。
時崎「七夏ちゃん! どうぞ!」
七夏「あ☆ ありがとうです♪」
七夏ちゃんは、笛のラムネをそのまま食べてしまった。何故鳴らさないのか・・・。俺の目の前で鳴らすのが恥ずかしいのか、或いはそんな年ではないという事なのかも知れない。俺はせっかくなので、童心に帰って笛のラムネを鳴らしてみる。
時崎「ヒュ~ゥ・・・ヒュ~~~」
七夏「くすっ☆」
七夏ちゃんが、楽しそうに見てくれているので、俺は更に勢いづく。
時崎「ヒュ~~~~~~~~~~~~~~~」
すると、凪咲さんが少し慌てた様子で現れた。
凪咲「七夏! 居るんだったら・・・って、あら?」
七夏「どおしたの? お母さん?」
凪咲「お湯・・・沸かしてたんじゃなかったの?」
七夏「え? お湯?」
凪咲「やかんから、ヒューって音が・・・」
七夏「あっ!」
時崎「ヒュ~ゥ・・・。これ・・・ですか?」
凪咲「まあ! 笛のラムネ!?」
時崎「す、すみませんっ!! 紛らわしいことをしてしまって!」
凪咲「いえいえ。こちらこそ、慌ててしまって・・・すみません」
七夏「くすっ☆ 私、お茶煎れますね♪」
民宿風水での、のんびりとした時間が心地よい。いつまでもこういう時間であってほしいと思うのだが、時間は止まる事無く進むものだ。でも「ふたつの虹」に写る未来は、いつものんびりと心地よい世界であってほしい。
七夏「どしたの? 柚樹さん?」
時崎「え!? ああ、なんでもない。七夏ちゃん、今朝話したけど、午後から時間あるかな?」
七夏ちゃんと一緒に過ごす時間を、積極的に作らなければならないと思った。
七夏「はい☆ 今日の分の宿題も終わりました☆」
時崎「ちょっと早いけど、今からお出掛けどうかな?」
七夏「わぁ☆ いいの?」
時崎「もちろん!」
七夏「じゃあ、お出掛けの準備・・・あ、その前にお昼・・・おむすびです☆」
時崎「あ、そうだね。ありがとう!」
七夏「くすっ☆」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
昼食を頂き、七夏ちゃんを待つ間、凪咲さんに何かお買い物が無いか訊いておく。
凪咲「ありがとう。柚樹君」
時崎「いえ」
凪咲「でも、無理に買わなくてもいいから、七夏の事をお願いします」
時崎「ありがとうございます!」
七夏「柚樹さんっ☆ お待たせです☆」
時崎「おっ! ばっちりだね!」
可愛いけど、その言葉を伝えられず、別の言い方をしてしまう・・・このままではダメだと思いながらも、すぐに良い答えが見つからない。
七夏「くすっ☆ お母さん。何かお買い物ある?」
凪咲「ありがとう七夏。今日は特に無いから、柚樹君とデート、楽しんでらっしゃい!」
七夏「えっ!? えっと・・・」
時崎「なっ! 凪咲さんっ!」
凪咲「~♪」
凪咲さんはそう言い残して、姿を消した。
一緒にお出掛けする事・・・確かにデートと言うのかも知れないが、その言葉には特別な意味が含まれている気がする。だって・・・
七夏「・・・・・」
時崎「・・・な、七夏ちゃん」
七夏「あっ、えっと・・・」
時崎「で、出掛けようか?」
七夏「・・・・・」
七夏ちゃんは、今までの返事「はい」ではなく、軽く頷いた。デートという言葉にはお互いの気持ちや意識を大きく変える力がある。俺は、今までどおり自然なお話しが出来るよう、回復に努めるが、このなんとも言えない動揺も心地良い。七夏ちゃんはどういう気持ちなのだろうか?
時崎「七夏ちゃんと、こうして一緒にお出掛けするのも、何度目になるかな?」
七夏「え!?」
時崎「もう、数え切れないくらい一緒にこの道をを歩いてるから」
七夏「くすっ☆」
今は、お互いの距離感や歩く速度が分かっているから、狭い所を通る時に一列になっても、自然と二人が横に並ぶ形になる。「デート」という言葉から「お出掛け」という言葉に回復するのに、そう時間は掛からなかった。
七夏ちゃんと、商店街をのんびりと歩く。一緒にお出掛けなのだが、特に具体的な場所は決めておらず、七夏ちゃんが気になったお店があったら寄ってみるという事にしている。
時崎「七夏ちゃん、寄りたいお店があったら話してよ」
七夏「はい☆ 柚樹さんもあったらどうぞです☆」
時崎「ああ」
小さな商店街から駅前の商店街へと歩いてゆく途中で、自動車を洗っている人が目に留まる。噴水のように広がるシャワーの水・・・その中に綺麗な虹が現れていた。
七夏「あっ!」
七夏ちゃんもその虹に気付いたようだ。だけど七夏ちゃんには、七色の虹には見えてなく、翠碧色の虹なのかも知れない。
時崎「・・・・・」
七夏「柚樹さん!?」
時崎「え!?」
七夏「いえ、なんでもない・・・です」
時崎「そ、そう・・・」
しまった! 虹を見て、七夏ちゃんの事を考えて、難しい顔をしてしまっていた。人の心をよく見ている七夏ちゃんは、今の俺の表情を見逃す事はないだろう・・・気を付けなければ!
七夏ちゃんのお父さん、直弥さんは色覚特性が多くの人と異なる。七夏ちゃんの虹の見え方も、その事が影響しているのかも知れない。
<<凪咲「七夏が生まれてきてくれて、私もそうですけど、ナオ・・・主人は、とても喜んだわ。女の子なら、主人が抱えている目の特性も、現れる確率がとても低くなるから」>>
以前、凪咲さんが話してくれた。女の子なら色覚特性が現れる確率は1/500くらいだと・・・。だけど、俺は七夏ちゃんの虹の見え方については、直弥さんと凪咲さんを受け継いでいる証であり、それが七夏ちゃんなのだと思う。
サッカーボールが七夏ちゃんの歩く前に転がってきた。そのボールを追いかけてきた小さな男の子に、七夏ちゃんはボールを手渡した。
男の子「ありがとぉ! お姉ちゃん!」
七夏「はい☆ どういたしまして☆」
男の子「手で持っちゃダメだよ!」
七夏「え!? あっ、でもボールがお外に出た場合は、えっと・・・」
男の子「スローイン!」
七夏「はい☆ 道路は危ないから気をつけて☆」
男の子「はぁーい」
その様子を一枚切り取りながら、七夏ちゃんは、凪咲さんのように優しいお母さんになるだろうと思った。
時崎「七夏ちゃん、優しいお母さんみたいだね!」
七夏「え!?」
俺は、七夏ちゃんに「可愛い」とは言わない方法で喜んでもらいたくて、つい思った事を話してしまった。
時崎「あっ、えっと・・・」
七夏「くすっ☆ 柚樹さん。もし、私が子供を授かったら・・・」
時崎「えっ!?」
七夏ちゃんの言葉にドキッとする。これは、この先、七夏ちゃんと同じ未来を歩む事を想像してしまうから・・・。
七夏「私・・・もし、子供を授かったら、その子は辛い思いをするかも・・・って」
辛い思い・・・それは、きっと七夏ちゃんから見た凪咲さんや直弥さんの事だろう。だけど、凪咲さんや直弥さんは、七夏ちゃんと出逢えて本当に良かったと思っている事は絶対に間違いない! 七夏ちゃん自身がどう思っているかだけの事だ。
時崎「七夏ちゃんは、生まれてきて、良かったと思ってないの?」
七夏「え!?」
時崎「俺は、七夏ちゃんと出逢えた事、とても良かったと思ってるよ」
七夏「私、良かったと思ってます☆」
時崎「良かった」
平静を装っているが、俺の心は激しく揺さぶられている。七夏ちゃんが、迷う事無く、すぐに「良かった」と答えてくれた事に安堵する。しかし、答えるのが速すぎた為か、敢えて・・・だろうか。七夏ちゃんは、単に「良かった」と応えてくれたが、その真意はどちらなのか、俺は気になった。
七夏「くすっ☆ 柚樹さん、さっきの続きですけど、もし、私が子供を授かったら、男の子と女の子、どっちがいいですか?」
時崎「んなっ!」
七夏ちゃんは、さらに切り込んできた。質問の内容は定番と言えるが、どう答えるかは難しい。一番無難な答えは「どっちでもいい。元気に生まれてきてほしい」という事になるだろう。しかし、この答えでは、七夏ちゃんの質問に正確に答えられてはいない・・・はぐらかしている事になる。七夏ちゃんが思っている答えは「無難な答え」だろう。つまり、七夏ちゃんの質問こそが、七夏ちゃんの意思であるという事。だから、より具体的な答えを求めて、俺に訊いてきているのだと思う。俺は答えた。
時崎「女の子かな」
七夏「くすっ☆ どおして女の子が、いいのかな?」
---来たっ! この質問の、もっとも難しい所である。単純に男の子、女の子と、答えるのは簡単だ。大切なのは何故か・・・という理由の方である。男の子を選んだ場合は、「一緒にキャッチボールしたい」とか「女の子はお嫁さんになってしまうから」とか、そんなところだろうか・・・。俺が七夏ちゃんに答えたのは「女の子」の方だ。選んだ以上は、七夏ちゃんも喜んでくれる答えを、話さなければならない。
時崎「七夏ちゃん、優しくて、とても可愛いから!」
七夏「えっ!?」
時崎「そんな七夏ちゃんから、生まれてくる女の子だよ。優しくて可愛いに決まってる!」
七夏「あ・・・」
・・・使ってしまった「可愛い」という言葉を・・・。でも、俺の答えに七夏ちゃんは、予想していなかったという驚きの表情。そして、その驚きの後から嬉しさが、込み上がってきたようだ。
七夏「あ、ありがとう・・・です☆」
七夏ちゃんの質問に、まっすぐ答えることが出来たみたいで、ほっとする。しかし、七夏ちゃんの子供とは・・・。まだ、想像すらできないな・・・その前に、幼い頃の七夏ちゃんに逢う事が出来れば、少しは分かるのかな・・・なんて、考えてしまった。
七夏「柚樹さん♪」
時崎「どうしたの?」
七夏「お顔、赤くなってます♪」
時崎「えっ!?」
七夏「くすっ☆」
そう話してきた七夏ちゃんも、頬が赤く染まっていたけど、俺は何も言わなかった。この少しこそばゆい感覚を、もう少し味わうことにする。七夏ちゃんも同じ気持ちであってほしいと願いながら・・・。
俺が、女の子がいいと話した理由は、もうひとつある。それは、七夏ちゃんの瞳と色の認識に関係する事だ。色の認識に関わる遺伝子はX染色体だ。女の子はX染色体が2つ、そして男の子はX染色体とY染色体の組み合わせとなる。もし、男の子の場合、その子は七夏ちゃんと同じように色の認識が他の人と違ってくるかも知れない。女の子の場合は、俺が虹を七色と認識できている事から、生まれてくる女の子も俺と同じ色の認識が出来る可能性が高い。俺は七夏ちゃんが生まれてくる子の心配をしている様子から、そんな七夏ちゃんが、不安を抱えない可能性の高い女の子がいいと思ったりもしたが、色の認識は個性だと凪咲さんから教わったので、今は正直な所、どちらでもいいと思っている。七夏ちゃんは、色の認識が他の人と少し違っていても、とても魅力的な女の子だと思う・・・それが答えだ。 ん? という事は、やっぱり可愛くて魅力的な七夏ちゃんだから、生まれてくるのは女の子がいいなと思ったり・・・こんな事を考えていていいのだろうか・・・!?
七夏「柚樹さん!?」
時崎「えっ!?」
七夏「いえ☆ なんでもないです☆」
さっき虹を見た時と同じような会話。だけど、俺の考え事を読んでいるかのように、七夏ちゃんはとてもご機嫌な様子だ。
時崎「七夏ちゃん?」
七夏「柚樹さんは、女の子ですね☆」
時崎「え!?」
俺が女の子!? そこだけ切り取ると、凄い事を話してるなと思いつつ、この流れに乗っていて良いのだろうか。この辺りで、切り返そうと思う。
七夏「女の子♪」
時崎「七夏ちゃん、可愛いからね!」
七夏「え!?」
時崎「モテて困るでしょ!?」
七夏「そ、そんな事は・・・」
何かの漫画で見た定番の流れ。七夏ちゃんは小説をよく読んでいるから、このような流れに対して未来の選択肢は、俺よりも多く持っていると思う。思い切ってこの流れに乗って訊いてみる事にした。
時崎「今まで、告白された事ってないの?」
七夏「えっと・・・ふたり・・・」
時崎「!!!」
訊いておいてなんだが、もの凄い衝撃波を頂いた。まさか、本当に答えてくれるとは思っていなかった。七夏ちゃんは過去にふたりから告白されているという事。でも、今、誰かとお付き合いしているようには思えない・・・という事は、ふたりの告白を断っているという事になる。
七夏「ゆ、柚樹さん?」
時崎「おわっ!」
七夏「ひゃっ☆」
時崎「ご、ごめんっ!」
七夏「いえ」
時崎「ふたりか・・・凄いね!」
七夏「そんなことは・・・」
七夏ちゃんが、どのような気持ちだったのか興味はとてもあるけど、七夏ちゃんの表情は複雑だ。
時崎「告白されて、嬉しくなかったの?」
七夏「えっと、あんまり・・・」
時崎「え!?」
七夏「私、相手の事をよく分かってませんから、分からなくて」
時崎「???」
七夏「お話した事が無いのに、どおして、私の事が好きって言えるのかな?」
時崎「それは・・・」
・・・それは、七夏ちゃんの容姿や仕草というような外見的要素、或いは一目惚れという事になるだろうか。だけど、七夏ちゃんは、そういうタイプではないという事か・・・いや、今までの七夏ちゃんを見ていれば分かる事、分かってなくてはならない事だ。
七夏「私、相手の心が分からないのに、好きって言える自信はありません」
時崎「す、少しずつ分かってゆけば・・・」
七夏「そうなってからの方がいいかな?」
時崎「え!?」
七夏「こ、告白・・・」
時崎「あっ!」
七夏「えっと、お互いの心が分かってからじゃないと・・・分かってない状態でお付き合いしちゃうと、色々と大変・・・かな」
時崎「そ、そう・・・だね・・・」
これは驚いた。のんびりさんの七夏ちゃんから、芯のある答え。軽い気持ちで七夏ちゃんに想いを伝えても、届かないという事だけは分かった。民宿育ちで色々な人と出逢っている七夏ちゃん。俺なんかよりも遥かに多くの人の心を見てきている事だけは確かだ。
七夏「お互いに相手の心が通じ合っている事が分からないと、この先も上手くゆかないと思ってます☆」
なるほど。相手の心も分からない状態で一方的に想いをぶつけても、上手くはゆかないという事か。
時崎「俺なんて・・・」
七夏「え!?」
時崎「なんでもない! で、そのふたりとは?」
七夏「どう・・・なのかな?」
時崎「え!? そこで、はぐらかしますか!?」
七夏「くすっ☆」
・・・でも、七夏ちゃんの心がある程度見える人は、はぐらかされても答えは分かる。七夏ちゃんにとって大切な事は、そういう事なのだろう。七夏ちゃんは、絶対分からない事と簡単に分かる事は答えてくれる。だけど、少し考えれば分かる事や、相手の事を知っていれば分かる事はすぐに答えてくれない。ここまで辿り着けたのは、大きな進歩だと思う。
時崎「ありがとう。七夏ちゃん」
七夏「はい☆」
駅前の商店街に着く。
時崎「本屋さん寄ってく?」
七夏「本屋さん寄ってもいいかな?」
ほぼ同時に話した。
時崎「あっ・・・と」
七夏「くすっ☆」
書店で七夏ちゃんは小説コーナーを見にゆくのかと思ったら、そうではなく、子供の科学のような本を眺めている。
時崎「七夏ちゃん、どうしたの?」
七夏「えっと、自由研究のテーマ、良いのがあったらって☆ 今、思い出しました」
時崎「なるほど」
七夏「こういうのって、後になりがちですから」
時崎「工作や習字もそうだよね」
七夏「くすっ☆ お料理の本も見ていいかな」
時崎「もちろん!」
七夏「ありがとです☆」
楽しそうに本を眺める七夏ちゃんを見ながら、さっきの出来事を考える。七夏ちゃんが望む未来。それは、お互いに心を通わせた未来である事を意味しているのだと思う。七夏ちゃんの瞳は、未来まで写しているような気がする一日だった。
第三十七幕 完
----------
次回予告
虹は幸せの象徴だ。俺はそんな虹を追いかけてここまで来たのに・・・
次回、翠碧色の虹、第三十八幕
「架け離れゆく虹」
追いかけても届かない。離れると追いつけない。そんな虹を幸せの象徴だと言えるのだろうか?
幕間三十二:予約って押さえ込み?
心桜「こんちわー! つっちゃー居る?」
七夏「はーい☆」
笹夜「こんにちは♪ 心桜さん♪」
心桜「笹夜先輩! お早いお付きで!」
七夏「ここちゃー☆ いらっしゃいです☆」
心桜「あれ? 笹夜先輩、それはお手紙ですか?」
笹夜「ええ♪」
心桜「ではでは、そのまま読み上げてくださいまし」
笹夜「はい♪ 『ペンネーム、枕の掃除さん』」
七夏「えっと、随筆?」
心桜「今回は幕間だと思うよ。どした? つっちゃー?」
笹夜「心桜さん、気付いてないのかしら?」
心桜「枕の掃除さん・・・あ゛~~~!!!」
七夏「ひゃっ☆」
笹夜「きゃっ!」
心桜「このあたしがぁ~!!! さて、笹夜先輩、続きお願いします!」
笹夜「え!? ええ♪」
七夏「ここちゃー切り替え早い」
心桜「ん? 何か?」
七夏「え!? えっと・・・」
笹夜「続き、いいかしら?」
七夏「は、はい☆」
笹夜「『心桜さん、七夏さん、笹夜さん、こんにちは! 突然ですけど勝手な予約ってどう思いますか? 家の子がお風呂に入るって話しておきながら、全然入らないから、私が先に入るよって話すと、今から入るって急に慌てて割り込んできたり、座席に先に荷物を置いたままにしてから、注文を行ったりしているみたいで、これってこのまま放っておくと良くないと思ってますけど、皆様はそう思いませんか?』」
心桜「これは、押さえ込みだね」
笹夜「そうなりますね」
七夏「押さえ込み?」
心桜「つっちゃー、予約・・・って言えば分かる?」
七夏「はい☆ ご予約です☆」
心桜「いやいや、そんな丁寧な事ではないでしょ?」
笹夜「予約が認められている訳ではないですので」
心桜「これも、ちょっとくらいなら許容範囲だと思うけど」
笹夜「許容範囲・・・具体的にはどのくらいかしら?」
心桜「そだね・・・あたしなら、5分まで、つっちゃーは?」
七夏「え!? 10分くらいかな?」
心桜「お、優しい! 笹夜先輩は?」
笹夜「3分かしら?」
心桜「おっ! 厳しい!」
笹夜「そうかしら? 3分って待ってみると結構長いと思います」
心桜「確かに、ウルトラ星人なら、そんなに待ってられないよね?」
笹夜「え!?」
七夏「うるとら?」
心桜「あーなんでもない! ・・・って事は、三人の平均で考えると・・・えっとー・・・」
七夏「・・・・・」
笹夜「・・・・・」
心桜「・・・つっちゃー、お願いっ!」
七夏「6分です☆」
心桜「早っ!」
笹夜「(5+10+3)÷3=6」
心桜「はは・・・答え聞くと簡単なんだけど」
笹夜「心桜さん、どのように計算しようとしたのかしら?」
心桜「5と10の間が7.5で、それと3の中間を考えようとして・・・」
七夏「それだと、答えは5.25になります」
心桜「なんで!?」
笹夜「三人の平均には、ならないのではないかしら?」
心桜「うー奥が深い・・・って、今はそんな事ではなくて!」
笹夜「心桜さんが平均のお話しを・・・」
心桜「あー、6、6、6! あたしが計算するとロクな事にならないって事ですよ!」
笹夜「まあ!」
七夏「ここちゃー、頑張って☆」
心桜「んで、枕草子さん・・・」
笹夜「え!?」
心桜「・・・じゃなくて枕の掃除さん! ・・・もう、ボロボロだよ・・・」
七夏「ここちゃー、頑張って☆」
心桜「うぅ・・・がんばる・・・」
笹夜「大丈夫かしら?」
七夏「ちょっと、休憩にします☆」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
心桜「復活!!!」
七夏「くすっ☆」
心桜「からの神話へ!!!」
笹夜「え!?」
心桜「あれ? 伝説は神話へ・・・だったっけ?」
笹夜「何のお話しかしら?」
心桜「神話からお笑いへ・・・とかもなかった?」
七夏「えっと、何のお話しか分かりません」
心桜「分かっているではありませんか?」
笹夜「お話を戻しましょう♪」
心桜「あたし達の待てる平均時間は6分だったね!」
七夏「はい☆」
心桜「って事は、お風呂は6分待って、入らなければ、枕の掃除さんが黙って先に入る! 黙ってっていうのがポイントだよ!」
笹夜「座席に荷物はどうかしら?」
心桜「これ、6分待ってるとヤバいかな?」
笹夜「では三人のミニマムで3分かしら?」
心桜「そだねー」
七夏「みにまむ?」
心桜「つっちゃー最小値!」
七夏「あ、そうでした☆」
心桜「つっちゃーも、頑張るんだよ!」
七夏「はい☆」
心桜「って事で、つっちゃーが頑張る『翠碧色の虹』本編はこちら!」
心桜「http://nanatsuiro.my.coocan.jp/nnt_frma_a.htm」
七夏「ここちゃーも頑張って☆」
心桜「うん! あたしと笹夜先輩も頑張る『ココナッツ』宛てのお便りはこちらです!」
心桜「http://nanatsuiro.my.coocan.jp/nnt_suiheki_novel.htm#QUESTIONNAIRE」
笹夜「なんとかなったのかしら?」
心桜「はは・・・今回は、休憩入れてもらってすみません。つっちゃーもありがとね!」
七夏「はい☆」
心桜「って事で、枕の掃除さん、お手紙ありがとうございました!」
七夏&笹夜「ありがとうございました☆♪」
幕間三十二 完
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幕間三十二をお読みくださり、ありがとうございました!
本編の方も鋭意制作中ですので、どうぞよろしくお願い申しあげます!
第三十八幕:架け離れゆく虹
七夏ちゃんの瞳は、未来まで写しているような気がする一日だった・・・なんて、思ったけど、まだ今日一日は終わっていない。今、七夏ちゃんと夕食を頂いている。今日のお料理は、さっぱりとした物が多い。
七夏「鳥のささ身を使ったお料理は、あっさりしていて頂きやすいです☆」
時崎「たしかに、食べやすいね」
七夏「高野豆腐は暖かい方がよかったかな?」
時崎「今は冷たい方がいいかな。喉が心地いいし・・・出し巻き玉子も同じかな」
七夏「はい☆ あっ、柚樹さん。足りなかったら、おかわりどうぞです☆」
時崎「ありがとう。でも昨日、今日と少し食べ過ぎだから、このくらいが丁度いいよ」
七夏「くすっ☆」
夕食を済ませて、再びアルバム制作に取り掛かる・・・。今日撮影したサッカーボールを男の子に手渡す七夏ちゃんの写真を見て、その時の七夏ちゃんが話した事を考え始めると、手が止まってしまう。七夏ちゃんは間違いなく優しいお母さんになると思う。それって、凪咲さんを見れば、七夏ちゃんの未来の姿と重なるのかも知れない。つい、今まで撮影してきた七夏ちゃんの写真を振り返ってしまう。
突然、窓の外がフラッシュのように光った。
時崎「雷?」
最初は窓の外が時々、光るだけだったけど、次第に雷の音も聞こえ始める。雷雲がこちらに近づいているようだ。窓に近づき、外の様子を伺う。僅かに街の明かりは見えるけど、ほぼ真っ暗な世界。
時崎「っ!」
暗い世界が脅かすかのように一瞬光る・・・ついで、大きな轟音。こういうのは不安な気持ちを呼んでしまう。
時崎「っ!!!」
さらにまぶしい光と、何かを割り裂くような音! そして、雨音も加わった。その時---
時崎「えっ!?」
突然、視界を失う、何も見えない暗闇の世界・・・どうやら停電のようだ。俺は机の上の携帯端末を探す。懐中電灯とまでゆかなくても液晶画面の光で、ある程度周りを灯せるはずだ。だけど、机の上に置いてある携帯端末画面は消えてしまっているらしく、すぐに場所が分からない。今まで明るかった部屋が急に暗くなると、黒一色の世界となって方向感覚すら麻痺する。・・・目が慣れるまでしばらくかかりそうだ。すると「トントン」と扉から音がして---
七夏「柚樹さん、大丈夫ですか?!」
七夏ちゃんの声がする。俺は直ぐに返事をする。
時崎「七夏ちゃん! 大丈夫!」
すると七夏ちゃんが扉を開けて入ってきた。
七夏「良かった・・・すみません。停電みたいです」
意外な事に七夏ちゃんは懐中電灯の類を持っていない。だけど、七夏ちゃんの瞳は結構輝いており、そこに目がゆく。すると俺の視線を感じ取ったらしく、七夏ちゃんは目を逸らしてしまった。
七夏「あっ・・・怖い・・・ですよね・・・」
その言葉は色々な意味に捉えられ、返答するのに少し時間がかかってしまう・・・。
時崎「怖くないよ。ありがとう、七夏ちゃん」
七夏「私、お母さんの様子も見てきます」
時崎「俺も一緒に!」
七夏「ありがとうございます。でも周りが暗いですから」
時崎「七夏ちゃん、机の上に携帯端末があるはずなんだけど、分かる?」
七夏「はい。机ですね。ちょっと失礼します」
七夏ちゃんは迷う事なく、机の場所へ辿り着き、携帯端末を探し当てる。その様子を見て、七夏ちゃんは暗闇での視界認識が高いという事を思い出す。瞳がより輝いて見えたのもその影響だろうか。
七夏「はい。どうぞです☆」
時崎「ありがとう」
俺は七夏ちゃんから携帯端末を受け取り、手探りで液晶画面を点灯させる。真っ暗だった部屋の様子がある程度認識できるようになった。
時崎「凪咲さん、台所か居間かな? とりあえず1階へ降りよう」
七夏「はい」
俺と七夏ちゃんは凪咲さんの所へ向かう。
七夏「階段、足元、気をつけてくださいね」
時崎「ありがとう」
情けない事に、俺は七夏ちゃんに頼りきってしまっている。七夏ちゃんが、ここの民宿の女将さんの立場であるとしても、これはもどかしかった。
七夏「ひゃっ!」
時崎「七夏ちゃん!」
窓から眩しい光と大きな音! 七夏ちゃんはその場で立ち止まる。俺は、何も出来ないままだ。
七夏「ごめんなさい! 驚いちゃって!」
時崎「あ、ああ」
再び、居間へと向かう。
七夏「ひゃっ☆」
時崎「!」
居間に到着した時、急に視界が真っ白になり、また雷かと思ったら、辺りの様子がはっきりと伺えるようになった。どうやら停電は復帰したようだ。
七夏「!!!」
時崎「凪咲さんっ!」
凪咲さんは、椅子で横になっていた。
七夏「お母さん! お母さんっ!」
凪咲「ん・・・七夏!? どうかしたの?」
時崎「???」
七夏「え!?」
凪咲「あらっ? 柚樹君も一緒?」
・・・どうやら、凪咲さんはここで「うたた寝」していた様子で、停電があった事には気付いていない様子だ。
凪咲「あ、ごめんなさい。ちょっと、うとうとしてしまって・・・」
時崎「いえ、さっき停電がありまして、それで・・・」
凪咲「まあ! 大変な所、何も出来ずにすみません」
時崎「いえ、こちらこそ、七夏ちゃんに頼りっぱなしで・・・」
七夏「・・・怖くなかったですか?」
七夏ちゃんは、さっきと同じ質問をしてきた。今度は戸惑う事無く言える!
時崎「七夏ちゃんのおかげで、心強かったよ。ありがとう!」
七夏「あっ・・・は、はいっ☆」
凪咲「ありがとう。柚樹くん」
俺と七夏ちゃんのやりとりを見ていた凪咲さんが、暖かな笑みを浮かべ、台所へ・・・そして、緑茶を持ってきてくれた。
凪咲「いつの間にか、雨が降っていたのね。ナオ、大丈夫かしら?」
七夏「お父さん、傘、持ってるのかな?」
玄関から音がした。
直弥「ただいま!」
七夏「あっ、お父さん! おかえりなさいです☆」
凪咲「あなた、お帰りなさい。大丈夫だったかしら?」
直弥「一応、折りたたみの傘は持ってたけど、急に雷と凄い雨で・・・って、時崎君!?」
時崎「直弥さん、こんばんは。さっき、停電がありまして・・・」
直弥「そうみたいだね。帰る途中で街の灯りが消えたから少し慌てたけど、大丈夫だったかい?」
時崎「はい! 七夏ちゃんが居てくれて、心強かったです!」
七夏「え!?」
直弥「そうか! 七夏は家の光だからね!」
七夏「お、お父さんっ!?」
凪咲「そうね♪」
七夏「お母さんまで!」
凪咲「あなた、雨に打たれてますから、先に流して来てください」
直弥「そうさせてもらうよ。じゃ、時崎君、失礼します」
時崎「あ、はい!」
直弥さんは、お風呂場へと向かってゆく。
七夏「あ、お父さんの浴衣!」
七夏ちゃんも、少し慌てながら直弥さんの後を追いかけてゆく。
凪咲「柚樹君、ありがとう」
時崎「え!?」
凪咲「七夏、とっても喜んでたみたいだから」
時崎「そう・・・ですか?」
凪咲「私の勘違いかも知れないけど」
凪咲さんの勘は鋭いから、勘違いではないと思う。そう意識すると急に恥ずかしくなってきた。
時崎「お、俺・・・部屋に戻ります。何かありましたら、声を掛けてください」
凪咲「はい♪ ありがとうございます。おやすみなさいませ」
時崎「はい。おやすみなさい」
まだ寝る訳ではないけど、そう話して部屋に戻る。部屋に置いてあるMyPadを見て、携帯端末よりもMyPadの方がより灯りとして適していたかも知れないと思いつつ、MyPadの画面を付けて、今の言葉を取り消した。
時崎「七夏ちゃん・・・」
MyPadの画面に大きく映った七夏ちゃんの写真。これを七夏ちゃんが見たらどう思うだろうか・・・いや、今回が初めてではなく、以前にもこのような事があったので、いつも俺のMyPadには七夏ちゃんの写真が表示されている印象を与えてしまいかねない。これは、少し恥ずかしく思う。
時崎「よし! アルバム作りに戻るとするか!」
アルバム制作に集中した。七夏ちゃんの瞳は、未来だけでなく、みんなを照らしてくれているのだと思った。
時崎「おやすみ、七夏ちゃん」
俺も、七夏ちゃんを照らせるように頑張りたいと思いながら、今日一日を締めくくった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
遠くなった意識・・・最初にその事が意識なのだと気付かされたのは---
時崎「雨・・・」
雨の音に目覚める。そう言えば、昨日から雨は降ったままのようだ。雷が呼ぶ雨は一時的な事が多いけど、今回は違うようだ。
時崎「起きる・・・か」
昨日と同じように、窓の外を眺める。街の景色はまだ薄暗く、遠くの街灯の灯りを眺めると、雨が降っている事を音だけではなく目でも確認できた。
時崎「ん? あれは、直弥さん?」
窓越しから、広がった大きな傘が目に留まる。今日はいつもよりも早い出勤なのかな?」
時崎「いってらっしゃい」
そうつぶやきながら、小さくなってゆく傘をぼーっと見送っていると、扉から音がした。
七夏「柚樹さん、起きてますか?」
時崎「七夏ちゃん?」
扉へ向かい、開ける。
七夏「あ、おはようです☆」
時崎「おはよう! 七夏ちゃん!」
七夏「柚樹さん、起きてました☆」
時崎「え!?」
七夏「くすっ☆ 今日は、お寝坊さんなのかなって」
時崎「???」
時計を見ると、思ってたよりも1時間くらい時間が経過していた。
時崎「え!? もうこんな時間なの?」
七夏「あ、今日は雨で、お外がまだ暗いですから」
時崎「そういう事か。ごめん」
七夏「くすっ☆ 朝食、出来てますから☆」
時崎「ありがとう、七夏ちゃん」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
凪咲「おはようございます。柚樹君」
時崎「凪咲さん、おはようございます」
凪咲「雨、よく降ってるわね」
時崎「はい」
凪咲「あら? お外へ出掛けるのかしら?」
時崎「いえ、ちょっと、雨の風景も撮影しておこうかなと思って」
七夏「柚樹さん、私、お手伝いできる事ってあるかな?」
時崎「七夏ちゃん、ありがとう。どちらかって言うと、七夏ちゃんにはモデルさんになってもらいたいかな?」
七夏「え!?」
時崎「傘を差してる七夏ちゃんを、お願いしてもいいかな?」
七夏「はい☆」
凪咲「~♪」
民宿風水の玄関先で背に傘を差す七夏ちゃんを何枚か撮影する。俺も傘を差しながらの撮影の為、思ったよりも難しい・・・光の量が少なく、手振れが発生しないようにする事に意識を集中する。
七夏「柚樹さん、大丈夫ですか?」
七夏ちゃんが気にかけてくれる。あまり長時間にならないように、手短に済ませる。
時崎「ありがとう! 七夏ちゃん!」
七夏「はい☆」
時崎「突然のお願いでごめんね」
七夏「いえ、お母さんも喜んでくれてます☆」
時崎「ありがとう、いいアルバムを作れるように頑張るよ!」
七夏「はい☆ では、朝食に・・・です☆」
時崎「ああ! 一緒に!」
七夏「くすっ☆」
朝食を頂いた後は、昨日と同じように、七夏ちゃんは宿題、俺はアルバムという、いつものここでの流れだ。昨日と違うのは雨が降っているという事。今日も午後から、七夏ちゃんとお出掛けできればいいなと思いながらも、それは難しいかも知れない。その分、アルバム制作は進められるはずだ。俺は、制作に集中した。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
トントンと扉がなる。
時崎「七夏ちゃん?」
凪咲「柚樹君」
時崎「凪咲さん!」
少し急ぎ気味に扉を開ける。
凪咲「ごめんなさい。そんなに慌てなくても」
時崎「すみません」
凪咲「昼食、出来てますから」
時崎「え!?」
凪咲「七夏も、柚樹君もなかなか降りてこないから・・・」
・・・時計を見る。思っていたよりも1時間以上経過していた。
時崎「すみません・・・なんか今日は、いつもよりも時間の感覚が・・・」
凪咲「そんな日もあると思います」
時崎「七夏ちゃんは?」
凪咲「今日は少し宿題に時間が掛かってるみたいね」
時崎「そうですか。俺、何か手伝えないかな?」
凪咲「ありがとう、柚樹君。七夏が困ってたら、お願いできるかしら?」
時崎「はい」
七夏「お母さん、あ、柚樹さん」
七夏ちゃんが姿を見せた。
時崎「七夏ちゃん、宿題どう?」
七夏「えっと、少し困ってて」
時崎「俺でよければ、手伝うよ!」
七夏「え!? いいの?」
時崎「分かる範囲でなら」
七夏「ありがとです☆」
凪咲「七夏」
七夏「あ、答えだけ聞かないようにします」
凪咲「そうではなくて、お昼、まだでしょ?」
七夏「え!? あ、もうお昼の時間になってるの?」
どうやら、時間の感覚がいつもと違うのは俺だけではなかったようだ。ちょっと嬉しい。
七夏「? どしたの? 柚樹さん?」
時崎「いや、なんでも。七夏ちゃん! お昼一緒に!」
七夏「はい☆」
いつもと同じ・・・そんな事はなく、いつもと同じようでも、少しずつ変化はある。七夏ちゃんと、これからも「いつもと違ういつも」を大切に過ごしたいと思った。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
昼食を頂き、七夏ちゃんの宿題を手伝っている。英語が苦手だという事は何となくわかっていたけど---
七夏「えっと・・・」
時崎「英語は答えを言う事になってしまうけど・・・」
七夏「答えを、もっと自然になるように工夫する方法で・・・」
時崎「自然に!?」
七夏「はい。よくここちゃーに言われます」
時崎「天美さん?」
七夏「私の英語は不自然だって」
時崎「不自然・・・それって直訳してるって事?」
七夏「そう・・・だと思います。でも私、訳すだけでも大変で」
時崎「まあ、最初は正しく伝える事ができてたらいいと思うよ」
七夏「単語もなかなか覚えられなくて」
時崎「単語は地道に覚えるしかないかな」
七夏「やっぱり、そうですよね」
時崎「必要最低限でいいと思うけど」
七夏「だから、不自然になってしまうのは分かってるのですけど、早く答えなきゃって思うと、上手く言葉が出てこなくて」
時崎「まあ、そんなに身構えなくても、楽しみを見つけながら進めるといいかも?」
七夏「楽しみ?」
時崎「俺ならそう考えるかなって」
七夏「・・・・・えっと、『それは岩が隆起? しているだけだ。彼女の父は話した』」
七夏ちゃんは、宿題の英文を眺めながら翻訳する。俺もその英文を見て---
時崎「『ああ、それはただの出っ張りだ。彼女のお父さんはそう言った』」
七夏「え!?」
時崎「もっと砕けた感じで!」
七夏「えっと『岩』は?」
時崎「砕いた!」
七夏「え!? 無くていいの?」
時崎「話しの流れから、分かる事だからね!」
七夏「お話の流れ・・・」
時崎「『それ』が岩を含んでるから」
七夏「くすっ☆」
時崎「少し、楽しくならない?」
七夏「はい☆」
確かに、単語を繋ぐだけでは滑らかな会話にはならない。
時崎「どうしたの?」
七夏「私、前に海外からお泊りのお客様が来て・・・上手く話せなくて・・・」
時崎「そうだったね。でも、その相手はそれで怒ったりした?」
七夏「え!?」
時崎「一生懸命伝えようとする七夏ちゃんの事を、待っててくれたんじゃないかな?」
七夏「あっ・・・私、ひとりで焦ってたような気がします」
時崎「七夏ちゃんなら、相手が一生懸命だったら、応援するでしょ?」
七夏「・・・・・柚樹さん」
時崎「ありがと・・・です☆」
英語が上手く話せる事よりも大切な事。七夏ちゃんは知っていると思う。
七夏「私、頑張ってみます☆」
時崎「ああ!」
七夏「あとは、自由研究のテーマ・・・どおしようかな?」
時崎「あ、昨日、本屋さんで話してたよね?」
七夏「はい☆」
時崎「何か楽しそうな事が無いか、探してもいいかな?」
七夏「え!? いいの?」
時崎「もちろん、でも、研究そのものは七夏ちゃん主で!」
七夏「はい☆ ありがとうです☆」
窓が明るくなり光が差し始めた。
時崎「お! 雨、あがったみたいだね!」
七夏「はい☆」
時崎「七夏ちゃん、ちょっと庭に出てみない?」
七夏「え!?」
時崎「外の空気で頭もすっきりするし、自由研究のテーマも見つかるかも?」
七夏「くすっ☆」
時崎「あと、晴れた明るい日差しで、今朝と同じように玄関前で七夏ちゃんを撮影したいな」
七夏「はいっ☆」
俺は七夏ちゃんと一緒に玄関の前に移動した。
七夏「柚樹さん☆」
時崎「え!?」
七夏「こう・・・かな?」
七夏ちゃんは。傘を差すような仕草を行なってくれた。今朝の出来事と重なる。
時崎「傘を持ってないと、なかなか面白いね」
七夏「くすっ☆」
傘を持つ仕草の七夏ちゃんを撮影した。
時崎「七夏ちゃん!」
七夏「はい☆」
時崎「少し、庭を歩いてみて」
七夏「はい☆」
七夏ちゃんは、街と海がよく見える所まで歩いてゆく。俺はその後を追いかけながら、撮影を行う。自然な七夏ちゃんの姿をたくさん残してあげたい。
時崎「七夏ちゃん! 足元に気をつけて!」
七夏「柚樹さんもです☆」
時崎「ああ」
七夏「今日は遠くの景色までよく見えます☆」
時崎「そうだね」
七夏「あっ!」
時崎「!?」
七夏ちゃんは空を見上げる。
時崎「七夏ちゃん!?」
七夏ちゃんが空を指差す。俺も空を見上げる。しかし、青空以外に特に何かが見える訳ではなく、俺は七夏ちゃんに視線を戻す。七夏ちゃんは空に大きな円弧を描くように視線を動かす。俺も、もう一度空を見上げたけど、やっぱり青空以外は何も見えない。飛行機でも飛んでいるのだろうか?
七夏「見えませんか?」
時崎「え!?」
更に目を凝らしてみると---
時崎「あっ!」
意識すると「それ」は、少しずつ空に浮き上がってきた。雨が上がり、心も晴れる気持ちにさせてくれるはずの「それ」を見て、俺の心は無意識に曇ってしまった。
気が付くといつの間にか現れている「それ」が生まれる瞬間を目の当たりにした。感動的な光景・・・のはずだが、なんでこんな時に・・・。
七夏「・・・・・・・・・・」
時崎「・・・・・・・・・・」
ダメだ、こんな表情を七夏ちゃんに見せる訳にはっ!
七夏「・・・柚樹さんっ☆ 凄いです!」
時崎「えっ!?」
七夏「こっちから、あっちの島まで掛かってます☆」
時崎「・・・・・」
七夏ちゃんは「それ」を見て大袈裟にはしゃいでいる・・・けど、俺には分かる。七夏ちゃんは無理をしている。
七夏「・・・・・柚樹さん」
時崎「!?」
急に落ち着いた様子の七夏ちゃんに、俺の心は大きく動揺する。
七夏「虹は、どんな色に見えますか?」
前にも訊かれた事。七夏ちゃんは、もう分かっているはずだ! 俺だって分かっている! 七夏ちゃんの見ている虹と、俺の見ている虹が同じであり、違うという事を。なんて答えればいいっ!
時崎「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
なんて答えればいいんだよっ! 俺は今まで何をしてきたっ!
七夏「うぅ・・・」
時崎「っ!!! 七夏ちゃんっ!!!」
七夏「ご、ごめんなさいっ!!! 私のせいで・・・」
時崎「!!!」
七夏「私のせいで、嫌いになっちゃったら・・・」
時崎「!!!???」
嫌いになる!? どういう事だ!? 何がどうなっているんだ!?
七夏「えぅっ・・・うぅっ・・・」
主 「ななつっ!」
七夏ちゃんは、風水へ駆けてしまった。
<<七夏「くすっ☆ 虹を見ると幸せになれるのですよね?」>>
<<時崎「え!? ああ・・・そ、そうだね・・・」>>
<<七夏「私も虹を見て幸せになれるといいな☆」>>
虹を見ると幸せになれるなんて、誰が決めたんだ!? 七夏ちゃんは、虹を見て泣いてたじゃないか!!! 俺は七夏ちゃんに幸せになってもらいたいのに、なんでこんな事になるんだ!!!
さっきよりも、よりはっきりと輝く大きな虹。
時崎「副虹まで・・・なんなんだよ! 嫌味か?」
探してもなかなか見つからないのに、突然現れたと思ったら、俺と七夏ちゃんを引き離そうとするなんて・・・・・俺は、虹に対して初めて憎しみの感情を抱いてしまった。七夏ちゃんは虹に対してあまり良い印象を持ってはいなかったけど、今回の事で、虹の事がもっと嫌いになってしまったんじゃないのか?
<<七夏「私のせいで、嫌いになっちゃったら・・・」>>
嫌い・・・私のせいで・・・私のせい・・・私のせい???
時崎「!!!!! そういう事か! そういう事・・・なのか!?」
七夏ちゃんは、こんな時でも、俺の事を気遣っていた・・・なぜ気付けなかった!?
七夏ちゃんも、虹も悪く無い! 悪いのは、虹を見て素直に喜べなかった俺だ!!!
俺は、もう一度、大空を見上げる。虹の光は先ほどよりも優しく、憎しみを抱いてしまった俺を受け入れてくれるかのように思え、少しずつ儚くなってゆく・・・。
時崎「ま、待って!!! 待ってくれ!!! 俺はまだ・・・」
慌てて、写真機を構え、空色へと変わりゆく虹を追いかける! 何枚も何枚も追いかける・・・ただ、ひたすらに、がむしゃらに・・・・・。そんな俺を止めたのは---
「メモリーカードの空き容量がありません。空き容量のあるメモリーカードと交換するか、不要な画像を削除してください」
時崎「・・・・・」
形式ばった写真機からのエラーメッセージ。
時崎「不要な画像なんてあるはずないっ!!!」
空を見上げると、既にいつもの空。虹は大空へと戻っていた。
時崎「俺もこの空・・・いつものように・・・」
七夏ちゃんと話がしたい! 俺は急いで風水へ戻った。玄関を通ると、凪咲さんから声を掛けられた。
凪咲「柚樹くん、七夏と何かあったのかしら?」
時崎「・・・・・」
凪咲さんから訊かれる事くらい分かっていたはずだ。なのに、いつも後手後手になってしまっている。七夏ちゃんの事を「のんびりさん」なんて思っていたけど、俺の方がもっと、どうしようもないくらい・・・。
凪咲「急に近づき過ぎたのかも知れないわね」
時崎「え!?」
凪咲さんが呟くように話した。
凪咲「なんでもないわ」
時崎「すみません。実は---」
俺はさっきの出来事を凪咲さんに話した。
時崎「俺、どう答えたらいいのか分からなくて」
凪咲「そう・・・柚樹君と七夏、似てるわね」
時崎「え!?」
凪咲「柚樹君にとっての虹と、七夏にとっての虹。それだけの事かしら?」
時崎「それだけ?」
凪咲「柚樹君と七夏が、お互いの事を想って・・・」
時崎「いえ! 俺なんかっ!---」
凪咲さんは首を左右に振って、俺の言葉を止める。
凪咲「少し、距離を置いてみると、色々と見えてくると思うわ」
時崎「・・・・・」
凪咲「七夏の事なら、心配しなくても大丈夫。柚樹君は自分の気持ちをよく考えて、大切にしてくれるかしら?」
時崎「すみま・・・ありがとうございます」
凪咲「七夏もきっとそう思ってると思うわ」
凪咲さんは優しく微笑んでくれた。俺は一礼をして七夏ちゃんの所へ向かった。
時崎「七夏ちゃん・・・」
・・・けど、扉を前にして身動きが取れない。七夏ちゃんに会って話がしたいけど、今、会って上手く話せるのか?
<<凪咲「少し、距離を置いてみると、色々と見えてくると思うわ」>>
時崎「凪咲さん・・・」
俺は、七夏ちゃんに会いたい気持ちを抑え、凪咲さんの言葉に従うことにした。少し、冷静になった方がいい。
自分の部屋に戻ったけど、何も行おうとする気がしない脱力感に襲われる。写真機を机に置き、そのまま机にうつぶせになる。自分が情けない。目を閉じてこれまでの事を考えようとするけど---
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
??「・・・君」
時崎「・・・・・」
誰かに呼ばれている気がした。
??「柚樹君」
時崎「んん・・・」
誰かに呼ばれている!
凪咲「柚樹君」
時崎「な、凪咲さん!?」
部屋に凪咲さんが居る。何か用事だろうか?
凪咲「ごめんなさい。勝手に入ってしまって」
時崎「い、いえ! 何か用事でしょうか?」
凪咲「お夕食、出来てます。柚樹君、なかなか居間に来てくれないから」
時崎「え!? 夕食!?」
時計を見る・・・21時半!?
時崎「す、すみませんっ! 寝てしまって」
凪咲「いえ、良かったら、降りてきてくださいね」
時崎「はい! あっ、な、七夏ちゃんは?」
凪咲「ごめんなさい。七夏は先に頂くって・・・」
時崎「そ、そう・・・ですか」
夕食を手短に頂いて、部屋に戻る。今日は、七夏ちゃんと会わない方が良いのかも知れない。だけど、いつまでもこのままではダメだ。明日は、七夏ちゃんとお話しが出来るように努めなければ!
机で長い時間うたた寝していたにも関わらず、脱力感は残ったままだ。凪咲さんが準備してくれたと思うお布団にもぐり込む。
時崎「七夏ちゃん・・・ごめん」
七夏ちゃんは、俺よりも辛い想いをしているに違いない。その理由が俺にあるのだから、謝る気持ちしか出てこない。だけど、それって、七夏ちゃんが喜ぶ事なのか?
<<時崎「明日からは『今まで通り、いつもの天美さんになる事!』」>>
天美さんに、こんな事を話しておいて、俺は・・・。
時崎「他人の事って簡単に言えるんだよな」
・・・違う、七夏ちゃんは他人---
時崎「・・・・・」
急に心が締め付けられた。今の感覚・・・俺は、七夏ちゃんを「他人」だと思っていないという事だ! 頭で考えるよりも心で考えた方が良いのかも知れない。少しずつでいい。少しずつ、七夏ちゃんと・・・。
時崎「七夏ちゃん、おやすみ」
心に従うと、幾分、安らかな気持ちになった。安らかな気持ちは、次第に冷静な判断ができるように変化する。
時崎「距離を置く・・・か」
七夏ちゃんの家、民宿風水にお世話になりっぱなしだ。この街に来た時に宿泊した駅前の宿の事を思い出す。俺は民宿風水を発とうと思い始めていた。明日、凪咲さんに相談してみようと考えると、落ち着きを取り戻した心が、また揺れ始めるのだった。
第三十八幕 完
----------
次回予告
距離を置く事で見えてくる事がある。しかし、そうして出来た隙間は不安定で、何かで埋めようとしてしまう。
次回、翠碧色の虹、第三十九幕
「すれ違いの虹」
俺は、あまりにも突然の想いを知り、心を大きく揺さぶられる事になる。
幕間三十三:お好みの味って?
七夏「今日のお夕食は、カレーにしようかな☆」
心桜「おっ! カレー! いいね!」
笹夜「心桜さん? 何を探されているのかしら?」
心桜「『いいね!』ボタンどこにあるんだろって」
笹夜「まあ!」
七夏「くすっ☆」
心桜「つっちゃーが元気そうで良かったよ!」
七夏「え!?」
心桜「今回のお話し!」
七夏「あっ、そんな事もありました☆」
笹夜「七夏ちゃん♪」
心桜「なんと、既に過去の事になってる!?」
七夏「くすっ☆ えっと、未来の事を考えて、カレーです☆」
心桜「これはまた、近い未来だね~」
七夏「甘口、中辛、辛口・・・どれがいいかな?」
心桜「あたしは、辛口がいいかな? 笹夜先輩は?」
笹夜「私は中辛かしら?」
心桜「つっちゃーは、甘口が好きだよね?」
七夏「はい☆」
心桜「って事は、平均を取ると中辛だね! あたし計算速くなった!」
笹夜「計算・・・なのかしら?」
七夏「私、みんなの分を作る時は、中辛にしてますので☆」
心桜「って事は、中辛と辛口の中間って事になるのか・・・」
笹夜「それってあるのかしら?」
心桜「中辛口・・・だね! やっぱりあたし、計算速くなってる!」
七夏「ここちゃー、カレー好きですから☆」
心桜「だねっ! ・・・って言うか、カレー嫌いな人って居るの?」
笹夜「そう言われると、聞かないかしら?」
心桜「みんなが好きって、すごい事だよ!」
七夏「はい☆ えっと・・・」
心桜「どしたの? つっちゃー?」
七夏「中辛のルゥと辛口のルゥを使って・・・」
笹夜「ブレンドかしら?」
七夏「はい☆」
心桜「中辛にしといて後で香辛料を足せばガォ~!」
七夏「ひゃっ☆」
笹夜「きゃっ!」
七夏「どしたの? ここちゃー?」
笹夜「心桜さん、何の真似かしら?」
心桜「狼っ!」
七夏「どおして、狼さんが出て来たの?」
心桜「あはは・・・香辛料って言葉で・・・」
笹夜「狼って『がぉ~!』なのかしら?」
心桜「さ、笹夜先輩!」
笹夜「な、何かしら?」
心桜「いや、可愛いガォ~ですね・・・その手は何ですか?」
笹夜「え!? えっと・・・なんとなく・・・」
七夏「狼さんは、わぉ~ん・・・かな?」
心桜「だからさ、つっちゃー!」
七夏「え!?」
心桜「その手は何っ!?」
七夏「え!? えっと・・・なんとなく・・・」
心桜「まったく・・・シンクロ率高いですなぁ~」
笹夜「そう言えば・・・」
心桜「なんでしょうか? 笹夜先輩」
笹夜「この前、カレー専門店に寄ったら、本格的過ぎて困りました」
心桜「どういう事ですか?」
笹夜「スプーンが無かったのです」
七夏「忘れられていたのかな?」
笹夜「そうではなくて、本当にスプーンが無いみたいで・・・」
心桜「じゃ、どうやって食べるんですか?」
笹夜「えっと、ナンを使って・・・」
心桜「ナンですとぉ~!!!」
笹夜「きゃっ!」
七夏「ひゃっ☆」
心桜「お約束っ!!!」
七夏「なん・・・って・・・」
心桜「なんなん? ・・・って、いう『お約束パート2』ではなくて?」
七夏「パンみたいな食べ物だったかな?」
笹夜「ええ♪」
心桜「って事は『カレーパン』に近い感じですか?」
笹夜「揚げてはいないですけど、そんなイメージかしら?」
心桜「・・・って事はさ、家でも出来そうだね!?」
七夏「え!?」
心桜「ナンは無くても、食パンとかでさ!」
七夏「くすっ☆ ここちゃー、食パンならあります☆」
心桜「ホント!?」
七夏「笹夜先輩はどうされますか?」
笹夜「私は、普通のカレーがいいかしら♪」
心桜「はは・・・そこは、乗ってこられない所が流石、笹夜先輩ですね!」
笹夜「ですから、本格的なカレー店へは、スプーンを持ってゆくと安心かしら?」
心桜「ナンと! マイスプーンですか!?」
七夏「そう言えば、幼い頃、名前を書いたスプーン持ってました☆」
心桜「い、いや、つっちゃー、そうじゃなくて」
笹夜「私も持ってました♪」
心桜「まあ、あたしも持ってたけど、ここではカレースプーンだね!」
笹夜「ええ♪」
七夏「はい☆」
心桜「んで、カレーパン、食パンと来て・・・主役が居ない・・・と」
七夏「主役!?」
心桜「食後には、主役がっ!」
笹夜「何のお話かしら?」
心桜「ナンのお話はもう決着が付いてますので!」
七夏「???」
心桜「皆はもう、主役が何か分かるよね!?」
七夏「みんな?」
笹夜「主役・・・カレーかしら?」
心桜「ははは・・・こっちの『みんな』は、分かってないみたいだね~」
七夏「え!?」
心桜「つっちゃー頑張りなよ!」
七夏「は、はい☆ 頑張ってカレー作ります☆」」
心桜「って事で、つっちゃーが頑張る『翠碧色の虹』本編はこちら!」
心桜「http://nanatsuiro.my.coocan.jp/nnt_frma_a.htm」
笹夜「えっと・・・」
心桜「そして、あたしと笹夜先輩も頑張る『ココナッツ』宛てのお便りはこちら!」
心桜「http://nanatsuiro.my.coocan.jp/nnt_suiheki_novel.htm#QUESTIONNAIRE」
七夏「笹夜先輩・・・分かりますか?」
笹夜「さっきから考えてるのですけど・・・」
七夏「!? どしたの? ここちゃー?」
心桜「顔がニヤけて力が出ないぃ~」
幕間三十三 完
------------
幕間三十三をお読みくださり、ありがとうございました!
本編の方も鋭意制作中ですので、どうぞよろしくお願い申しあげます!
第三十九幕:すれ違いの虹
七夏「虹は、どんな色に見えますか?」
時崎「・・・・・・・・・・」
七夏「うぅ・・・」
時崎「っ!!! 七夏ちゃんっ!!!」
心臓に叩き起こされた。
時崎「七夏ちゃん・・・」
窓はかなり明るくなっており、いつもなら起きている時間だという事がすぐに分かった。
時崎「起きる・・・か」
布団から起きる。机の上に「C11機関車」の鉄道模型・・・その下にメモ書きがあった。
--------------------
柚樹さん、
おはようございます。昨日はごめんなさい。
今日はここちゃーのお家にお出掛けします。
七夏
--------------------
時崎「七夏ちゃん・・・」
メモ書きを見てほっとする自分が居た。どんな顔をして七夏ちゃんと会えばいいのかと思っていたから。けど、それは問題を先延ばしにしているだけだ。七夏ちゃんは、しっかりと自分の意思を伝えてきているのに俺は・・・。
1階へ降りる。
時崎「おはようございます」
凪咲「柚樹君、おはようございます」
時崎「すみません。寝坊してしまって」
凪咲「いいのよ。起こしてあげようかと悩んだのですけど、七夏が・・・ね」
時崎「七夏ちゃん・・・」
凪咲「七夏は今日、心桜さんのお家にお出掛けしてるわ」
時崎「はい。七夏ちゃんからのメモを見ました」
凪咲「そうなの?」
時崎「凪咲さん!」
凪咲「はい」
時崎「・・・・・」
俺は、民宿風水を発つ事を凪咲さんに話そうとするが、なかなか言葉が出てこない。
凪咲「柚樹君?」
時崎「お、俺、七夏ちゃんと距離を置いた方がいいかと思って・・・その・・・」
凪咲「・・・・・」
時崎「泊り先を駅前の宿にしようかと思って・・・」
民宿風水を発つという言い方をしたくない自分が居た。別の言い方でなんとか意思を絞り出す。
凪咲「・・・やっぱり、二人とも似てるわね」
時崎「え!?」
凪咲「七夏が今日、心桜さんの家にお出掛けした理由と、柚樹君の今のお話し」
時崎「・・・・・」
凪咲「少し、距離を置いた方が見える事があるって話したと思うけど、それは避けるっていう事ではないのよ」
時崎「っ!!!」
凪咲「七夏は、柚樹君の事を避けてる訳ではないと思うの」
七夏ちゃんのメモ書きを見て、俺の事を避けている訳ではないという事くらい分かる。七夏ちゃんの方が、俺よりもしっかりと行動できているという事だ。
時崎「・・・はい」
凪咲「急に色々な事があると、気持ちを纏めるのに時間が必要なのよ。そして、その時に気持ちの対象となる人が近くに居ると、上手く纏まらないのよ」
どんな顔をして七夏ちゃんと会えばいいのだろう・・・そう思っていた俺に、凪咲さんの言葉が鋭く刺さった。
凪咲「でも、距離が離れ過ぎたり、時間が掛かり過ぎても、上手くゆかないのよ」
時崎「・・・・・」
凪咲「今日一日」
時崎「え!?」
凪咲「今夜は、駅前の宿に泊ってみると、色々と見えてくる事があるかも知れないわね」
時崎「それって」
凪咲「柚樹君と七夏、似ているから、同じように風水を見つめなおしてもらえるかしら?」
時崎「凪咲さん・・・」
凪咲さんは優しく微笑んでくれた。
時崎「色々、すみません。ありがとうございます」
凪咲「いいのよ。そのかわり、七夏の事、これからもよろしくお願いします」
時崎「はい」
凪咲「少し、遅くなっちゃったけど、朝食、頂いてくださいね」
時崎「ありがとうございます」
いつもよりかなり遅い朝食。もう、昼食と言えるかも知れない。
時崎「!?」
窓の外から蝉の声。だけど、この夏初めて聞く鳴き声だ。
時崎「ツクツクボウシ・・・か」
夏の終わりが近づいている事を告げるように現れる蝉。ツクツクボウシの鳴き声を聞くと、切ない気持ちを加速させられる。急がなければならない事が沢山ある。凪咲さんは気持ちを整えるのには時間が必要だと話してくれたけど、そんなに時間の余裕は無いと思う。
今日は、駅前の宿に泊る事にした為、手短に荷物をまとめる。
時崎「凪咲さん、では今日は、駅前の宿に泊ります」
凪咲「柚樹君、これ」
凪咲さんは、封筒を渡してくれた。
時崎「これは・・・」
凪咲「今日の宿泊代」
時崎「そ、そんなっ!」
凪咲「提案したのは私ですから♪ でも、おつりは返しに来てくださいね♪」
時崎「凪咲さん・・・ありがとうございます」
??「ごめんください」
出掛けようと思っていた矢先、玄関から声がした。凪咲さんが応対するけど、この声は知っている。
凪咲「あら、高月さん。いらっしゃいませ」
笹夜「こんにちは」
凪咲「ごめんなさい。七夏は出掛けているの」
笹夜「今日は、その、時崎さんにお話しがあって・・・」
凪咲「まあ、そうなの? 柚樹君!?」
時崎「はい。お話しは聞こえてました。高月さん、こんにちは」
笹夜「こんにちは。突然すみません」
時崎「いや、全然構わないよ」
突然の高月さんの訪問。今、七夏ちゃんとの事を考えると、高月さんが居てくれると心が幾分穏やかになりそうだ。高月さんは俺に話しがあるみたいだけど、俺も高月さんには訊きたい事がある。
笹夜「時崎さん、お出掛け・・・でしたか?」
時崎「え!? あ、ああ。でも、今すぐでなくてもいいよ」
笹夜「お出掛けでしたら、私もご一緒してもよろしいでしょうか?」
時崎「え!? それは、もちろん構わないけど」
凪咲「高月さん、せっかくいらしたのですから、少し休憩なさってください」
笹夜「え!?」
凪咲「お顔、少し赤くなってないかしら?」
笹夜「・・・ありがとうございます♪」
凪咲さんに言われて高月さんを見ると、白くて綺麗な頬が、少し赤く染まっている気がした。ちょっとした事への気遣いが出来ない自分が情けない。
時崎「高月さん! こっちへ!」
笹夜「ありがとうございます♪」
俺は涼しい縁側へと高月さんを案内した。心地よい音が響く。
笹夜「まあ! 風鈴♪」
時崎「あ、音、気になるかな?」
笹夜「とても涼しく、心地よい音色です♪」
時崎「良かった」
笹夜「それに、綺麗な光・・・サンキャッチャーかしら?」
時崎「ああ。七夏ちゃんも喜んでくれたんだ」
笹夜「そう♪」
俺は昨日の七夏ちゃんとの事を、高月さんに話すべきか躊躇っていた。まずは高月さんのお話しを聞くべきではないだろうか?
凪咲「冷茶と和菓子です。どうぞ」
笹夜「ありがとうございます♪」
時崎「凪咲さん、ありがとうございます」
凪咲「ごゆっくりなさってくださいませ」
そう話すと、凪咲さんは部屋を出てゆく。縁側で高月さんと二人きりのような時間・・・次に行うべき事を考える。
時崎「高月さん、どうぞ!」
笹夜「ありがとうございます♪」
高月さんの手元に冷茶を差し出す。いや、次に行うべき事って、そうではなくって!
時崎「そ、その・・・話しって?」
笹夜「はい。時崎さんにお礼が言いたくて」
時崎「お礼!?」
高月さんから感謝されるような事をしたかどうか考える。けど、心当たりがない。
笹夜「この前、心桜さんの浴衣を選んだ日の事」
時崎「天美さんの浴衣選び? それ、俺は選んでなかったと思うけど?」
笹夜「その後の事で・・・」
時崎「その後の事? あっ! ピアノ演奏?」
笹夜「はい♪ あの時の販売員さんが、ランドロー社の方で、それ以来メッセージで連絡しあってます」
時崎「そうなんだ」
笹夜「ランドロー社の方のお話しは、色々な事を知る機会になりました」
時崎「その事と、俺へのお礼とは、どういう関係が!?」
笹夜「あの時、時崎さんが私の演奏を聴いてみたいと話してくれなかったら・・・」
時崎「え!? それなら俺だけではなかったと思うけど」
笹夜「七夏ちゃんや、心桜さんだけだったら、演奏していなかったと思います」
時崎「どうして?」
笹夜「二人は私の演奏を知っていますし、多くの人の前で演奏するのはちょっと勇気がなくて・・・」
時崎「俺が高月さんの演奏を聞いてみたいと話しても断る事ができたのでは?」
笹夜「はい。時崎さんには、知っておいてもらいたかったから・・・かしら?」
時崎「え!?」
笹夜「えっと、七夏ちゃんのアルバム作り・・・私も協力するって話しましたから」
時崎「アルバム・・・」
笹夜「時崎さんと七夏ちゃん・・・沢山の色々な思い出が必要だと思って・・・」
時崎「ありがとう。高月さん」
高月さんが俺に話したい事・・・お礼って、ランドロー社の方との繋がりという事か。でも、その為に、わざわざ俺の所まで訪ねてくるだろうか?
笹夜「私、その販売員のお方とお話している流れで、電子ピアノ用のデモ音楽を作ってみませんかって」
時崎「え!? それって凄い事では?」
笹夜「はい。私も驚いて・・・あの時の演奏、販売員さんの方がとても気に入ってくれて」
時崎「とっても良かったよ」
笹夜「でも・・・」
時崎「高月さん?」
笹夜「即興演奏って、その時にその場で作りながら演奏しますので、後で全く同じ演奏が出来ないのです。家で思い出しながら弾いてみるのですけど、あの時と違う気がして・・・」
俺は、高月さんの力になれると思った。
時崎「高月さん!」
笹夜「は、はい!?」
時崎「あの時の高月さんの演奏、録画してるから、それを聴けばいいと思う」
笹夜「録画・・・まだ残ってますか?」
時崎「もちろん! 消すはずないよ!」
笹夜「ありがとうございます。でも、私・・・」
時崎「どうしたの?」
笹夜「音感が鋭くなくて・・・聴いても分かるかしら?」
時崎「おんかん?」
笹夜「私、『絶対音感』を持っていなくて・・・」
時崎「絶対音感?」
笹夜「例えば『ラ』の音を鳴らした時に、それが『ラ』だと分かる事です」
時崎「音当てクイズみたいなイメージかな?」
笹夜「はい。美夜は絶対音感を持ってるのに、どおして私は・・・」
時崎「みや?」
笹夜「あ、すみません、私の妹です」
時崎「高月さん、妹さんが居たんだ」
笹夜「はい。絶対音感は、幼い頃にしか習得できないみたいで、私は少し遅かったみたいです」
時崎「そう・・・なんだ」
笹夜「私がピアノを弾いているのを傍で聴いていた美夜は、自然と絶対音感を身に付けていて・・・でも、美夜はピアノには全然興味がないみたいで・・・」
時崎「興味の対象は人それぞれだから」
笹夜「はい。 絶対音感のない私が、電子ピアノのデモ音楽を担当してよいのかしら?」
時崎「いいと思う!」
笹夜「え!?」
俺は迷わず即答した。
時崎「高月さんの演奏は、ピアノの事がよく分からない俺でもとても良かったと思ったし、ランドロー社の方も良いって話してくれて今がある訳でしょ?」
笹夜「・・・・・」
時崎「見えない、分からないっていう事は、それが分かる人では味わえない事で、その多くは、優しさや思いやりに繋がってゆくのだと俺は思うよ」
笹夜「・・・・・時崎さん・・・・・」
高月さんは、音が良く見えない・・・これって七夏ちゃんと重なる部分があると思った。
時崎「・・・なんて、ちょっと偉そうだったかな・・・ごめん」
笹夜「いえ。ありがとう・・・ございます・・・」
時崎「高月さん!」
笹夜「はい?」
時崎「あの時の演奏、聴いてみる?」
笹夜「はい♪ お願いします♪」
俺は、MyPadに転送しておいた、高月さんの即興演奏動画を再生した。演奏を聴いている高月さんは、少し恥ずかしそうだけど真剣な表情で動画を見つめていた。
時崎「手ぶれ多くてごめん」
笹夜「いえ。自分の演奏している姿を見ると少し恥ずかしいです」
時崎「あ、それ、分かるよ」
笹夜「でも、私が思っていた記憶と、細かな所で違いがありました」
時崎「この動画が参考になるかな?」
笹夜「はい♪ とっても参考になります♪」
時崎「もう一度、演奏する?」
笹夜「はい♪ お願いします♪」
演奏を聴きながら、高月さんの表情は次第に優しくなり、演奏そのものを楽しみ始めたように思えた。
時崎「高月さん!」
笹夜「はい!?」
時崎「この動画、送るよ!」
笹夜「え!?」
時崎「高月さんの携帯端末に!」
笹夜「え!? あ、ありがとうございます♪」
俺は高月さんの携帯端末へ動画を転送する。
時崎「上手く届いたかな?」
笹夜「はい♪」
時崎「俺に出来る事ってこのくらいしかないから」
笹夜「とても大切な『このくらい』です♪」
時崎「え!?」
笹夜「時崎さん」
時崎「?」
笹夜「時崎さんは、虹の撮影で、この街に来られたのでしたでしょうか?」
時崎「あ、ああ」
笹夜「昨日、大きな虹が架かってました」
時崎「!!!」
笹夜「私の家から、この街まで・・・」
時崎「・・・・・」
真剣な表情で俺を見ている高月さん。俺の心にその視線が鋭く刺さってくるようで、高月さんの顔が見れなくなっていた。何かを読み取られるような感覚。どうすればいい?
笹夜「見えませんか?」
時崎「っ!!!」
昨日の七夏ちゃんと同じ事を聞かれた。けど、高月さんは空ではなく、自分の髪の半分を掻きあげる。その髪はさらさらと手から滑り始め、扇子のように広がりを見せた。
時崎「あっ!」
その髪の扇子に陽の光があたり、虹が浮かびあがっていた。とても美しく儚い虹。さっきと違って今度は高月さんを凝視してしまう。高月さんの手から髪は全て滑り落ち、虹もすぐに消えてしまった。
笹夜「私、この髪、あまり好きではなくて・・・」
時崎「どうして?」
笹夜「いつも最初に髪の事を言われるから・・・」
高月さんの気持ちは分かる。
時崎「高月さんの心が髪で霞むからかな?」
笹夜「・・・七夏ちゃん」
時崎「え!?」
笹夜「七夏ちゃんは、話してこなかったの」
時崎「!」
笹夜「でも、七夏ちゃんには、見えてなかったからなのかも知れないって」
七夏ちゃんには高月さんの虹が見えていない・・・見えたとしても、翠碧色の虹・・・だけど、高月さんの虹を写真として、アルバムとして残せばもしかすると・・・。
時崎「高月さん!」
笹夜「はい!?」
時崎「さっきの、1枚いいかな?」
笹夜「え!?」
時崎「俺からお願いします!」
笹夜「は、はい・・・こう、かしら?」
再び広がる高月さんの綺麗な髪。その中に現れた虹を俺は撮影しようと写真機を構えるが---
「メモリーカードの空き容量がありません。空き容量のあるメモリーカードと交換するか、不要な画像を削除してください」
時崎「・・・・・」
笹夜「? どうかなさいました?」
時崎「ご、ごめん! ちょっと待って!」
笹夜「は、はい」
俺は慌てて写真機のメモリーカードを交換する。
時崎「もう一度、いいかな?」
笹夜「はい♪」
少し、慌てている俺を見て、高月さんは微笑んでくれた。
笹夜「こうかしら?」
時崎「ああ!」
さすがに3度目となると、高月さんも慣れてくるようで、さっきよりも綺麗に髪が流れ、その中の虹もより輝いて見えた。今度はしっかりと撮影する。
時崎「ありがとう! 高月さん!」
笹夜「はい♪」
時崎「さっき、七夏ちゃんには見えていないって話してたけど、七夏ちゃんなら---」
笹夜「え!?」
時崎「見えてたとしても七夏ちゃんなら!」
笹夜「はい♪ 私も、そう思っています♪」
七夏ちゃんと始めて出逢った時、俺は虹の写真を見せた・・・見せてしまった。その虹は、どんな色だったのだろうか?
なんとなくだけど、届かない虹の色と、印刷した虹の色の違いなのだろうか?
或いは、触れられないか触れられるか・・・前者が翠碧色の虹で、後者が七色だとしたら・・・。
だけど、高月さんの虹は触れる事が出来ると思う。七夏ちゃんにはどのように見えているのだろうか? 分からない。分からないと言えば「可愛い」の一件もそうだ。高月さんなら七夏ちゃんの気持ちが分かるかも知れない。
時計を見る。七夏ちゃんがいつ帰ってくるか分からないから、そろそろ出掛けた方が良いかも知れない。七夏ちゃんを避けているような気持ちになってしまって複雑な気分だ。いや、七夏ちゃんと会わないように意識したのは、距離を置く事ではなくて避けている事になる。本当は七夏ちゃんと会って話しがしたいのに・・・。
笹夜「時崎さん?」
時崎「え!? あ、ごめん」
笹夜「お出掛けのご予定でしたよね?」
時崎「あ、ああ」
お出掛け・・・でも、特に予定がある訳ではない。
笹夜「先ほどもお話ししましたけど、わ、私も、ご一緒いいでしょうか?」
時崎「え!? それはもちろん!」
笹夜「ありがとうございます♪」
高月さんは、俺への話しは済んだと思ったのだけど、まだ何かあるのかも知れない。俺も高月さんに訊いてみたい事がある。七夏ちゃんと距離を置く事で出来てしまった空間と時間を、高月さんで埋めてしまおうとする自分に気付く。だけど、七夏ちゃんの事をよく知っている高月さんに力を貸してもらう事で、七夏ちゃんと距離を詰める事が出来るなら・・・なんて考えてしまう。俺は身勝手だ。
時崎「高月さん、ありがとう」
笹夜「え!? い、いえ・・・」
凪咲さんに出掛ける事を伝える。
凪咲「柚樹君、高月さん、お気をつけて」
時崎「はい。ありがとうございます」
笹夜「では、失礼いたします」
商店街へと続く道を高月さんと歩く。昨日は七夏ちゃんと一緒だった事を思い出してしまう。ダメだ! 今は高月さんの事も考えないと! 何を話せばいい?
時崎「・・・・・」
笹夜「・・・・・」
時崎「・・・・・」
笹夜「と、時崎さん」
時崎「え!?」
笹夜「アルバム作り、如何でしょうか?」
高月さんから、話題を頂いてしまった。もっとしっかりしろ! 俺!
時崎「ま、まあ、今日も風景とか素材を集めたり、あと写真屋さんにも寄ろうかと」
笹夜「私にもお手伝いできる事ってあるでしょうか?」
高月さんには、写真のモデルさんになってもらいたいと思ってしまう。
時崎「写真屋さん、後で寄ってもいいかな?」
笹夜「はい♪」
時崎「高月さんは、買い物は無いの?」
笹夜「特には・・・あ!」
時崎「何かある?」
笹夜「本屋さんに・・・」
時崎「楽譜? それとも小説かな?」
俺が知っている高月さんの事って、このくらいしかない。でも、高月さんは少し嬉しそうに微笑んでくれた。
笹夜「すみません。今日は参考書を・・・」
時崎「そ、そう」
笹夜「夏休み、あと半分もないですから・・・」
時崎「!!!」
ツクツクボウシの鳴き声がまた聞こえてきた。夏の終わりが始まる事を告げるかのように・・・。もう、そんなに余裕がないな。俺自身でなんとかしたかったけど、高月さんに今迄で気になっている事を訊いてみようと思う。
少し、落ち着ける場所の方が良いだろう。それに、高月さんへ訊きたい事をまとめる時間も少しほしい。
時崎「高月さん」
笹夜「はい?」
時崎「本屋さんに!」
笹夜「ありがとうございます♪」
本屋さんで、高月さんを待っている間に、自分の考えをまとめる事にした。
「七夏ちゃんは写真が苦手」
これまでの事から、この事は分かる。そして、写真に対しての印象が、変わってきている事も。七夏ちゃんの方から写真撮影をお願いされたりもした。だけど、初対面の時に、俺の写真撮影のお願いを受けてくれた事は、分からないままだ。でもこれは、高月さんも分からないと思うし、俺が答えを見つけたい。それが無理だとしても、七夏ちゃんに俺自身が訊かなければならない事だ。
「七夏ちゃんは虹の話題が苦手」
虹の話題が苦手な事も、今さら訊く必要は無い。その事で、今がある。虹に対しても七夏ちゃんは変わろうとしている。俺は七夏ちゃんに「七色の虹を見せてあげたい」なんて話しておきながら、何も出来ていない。
「七夏ちゃんの落とす影って?」
以前に高月さんが話していた事。笑顔から影が落ちているというのは・・・七夏ちゃんを見ていても気付けないままだ。
「可愛いと言われる事は迷惑?」
ある時期から七夏ちゃんは「可愛い」という言葉に対して何とも言えない困惑の表情を浮かべるようになった。でも、完全に嫌がっているようには思えない。お泊り客から「可愛い」と言われた七夏ちゃんは笑顔で応対していた。
ここまで考えて、ある事に気付く。
時崎「あっ!」
七夏ちゃんの最も魅力的な「ふたつの虹」について、思い出すかのように意識された。七夏ちゃんは「ふたつの虹」を感覚出来ていない。そして、天美さんや、高月さんも「ふたつの虹」を感覚していないかのように振舞っている。今の俺もそうだった。最初は変化する七夏ちゃんの瞳の色が不思議で魅力的に思えた。それは今でも変わらない。けど、それよりも、もっと魅力的で大切な事があって、それを想う気持ちこそ「ふたつの虹」の持つ本当の魅力なのかも知れない。
高月さん、参考書選びに悩んでいるのだろうか?
笹夜「時崎さん!」
時崎「え!? うわっ!」
笹夜「きゃっ!」
時崎「ご、ごめん!」
笹夜「いえ・・・私の方こそ・・・」
突然背後から高月さんに声を掛けられて驚く。高月さんは、参考書の置いてある場所に居ると思ってたけど・・・。
時崎「参考書、見つかった?!」
笹夜「はい♪ すみません。楽譜も見ていたら、遅くなってしまって」
時崎「なるほど。全然構わないよ」
笹夜「ありがとうございます♪」
時崎「高月さん、ちょっと喫茶店で休憩しない?」
笹夜「はい♪ お心遣いありがとうございます♪」
高月さんと、喫茶店へ寄る。訊きいた事はだいたい纏めておいたけど、いざ訊くとなると、その切り出し方が難しい。二人とも紅茶を注文して、待っている時間・・・訊くなら今のタイミングだ!
時崎「た、高月さん!」
笹夜「は、はい!?」
時崎「え、えっと、ちょっと気になっている事があって・・・」
笹夜「何でしょうか?」
時崎「以前に、七夏ちゃんの落とす影がどうとかいうお話しがあったよね?」
笹夜「はい。時崎さん、分かりましたか?」
時崎「い、いや・・・それが、今でも分からなくて・・・」
笹夜「そう・・・ですか・・・」
時崎「な、七夏ちゃんの落とす影って?」
笹夜「・・・時崎さんは、いつまでこの街に居られるのかしら?」
時崎「え!? あっ!」
そう言う事か!
<<時崎「あ、ごめん。今回の旅行の滞在期間の事なんだけど・・・」>>
<<七夏「あ・・・」>>
以前、この街の滞在期間の事を七夏ちゃんに話した時の表情を見て以来、七夏ちゃんが不安にならないように気を遣ってたつもりが、逆効果だったのか?
笹夜「時崎さんが、いつ居なくなってしまうのか分からないという事が、七夏ちゃんの笑顔の影になっているのではと思って・・・」
時崎「やっぱり、七夏ちゃんに伝えた方が良いのかな?」
笹夜「決まっているのでしょうか?」
時崎「え!?」
笹夜「時崎さんが、いつまでこの街に居られるかという事」
時崎「いや、まだはっきりとした事は・・・だけど、引き延ばせてもあと一週間くらいかなと」
笹夜「え!? そ、そう・・・」
時崎「? どうしたの? 高月さん?」
笹夜「い、いえ・・・」
滞在期間の予定を高月さんに告げると、一瞬、高月さんの様子が変わった気がした。気のせいだろうか?
店員「お待たせしました。紅茶になります」
時崎「ありがとう」
笹夜「ありがとうございます」
店員「ごゆっくりどうぞ」
紅茶を頂き、少し落ち着いてから、もうひとつ気になっている事を訊ねた。
時崎「高月さん。もうひとつ、いいかな?」
笹夜「はい」
時崎「そ、その・・・高月さんは『可愛い』って言われるのって迷惑かな?」
笹夜「え!?」
時崎「女の子は・・・って、言った方がいいかな?」
笹夜「・・・・・私は、言われる人に依ります」
時崎「言われる人・・・」
笹夜「と、時崎さんだったら、とても嬉しい・・・です・・・」
時崎「そ、そう。ありがとう」
笹夜「七夏ちゃん、かしら?」
時崎「え!? ああ。まあ、可愛いって言うと、困ったような顔をされる事があって・・・前はそうでもなかったのだけど」
笹夜「それはきっと、とっても嬉しいからなのだと思います♪」
時崎「え!?」
笹夜「時崎さんの『可愛い』が社交辞令や、お世辞ではないという事」
時崎「あっ・・・」
なるほど。高月さんに言われると、心当たりがある。七夏ちゃんは、お泊り客からの「可愛い」には笑顔で対応していた。
笹夜「言われる人に依るって話しましたけど、伝わったかしら?」
時崎「ああ! ありがとう!」
笹夜「良かったです♪」
時崎「しっかり者さんの高月さんが居てくれると、心強いよ」
笹夜「そんな・・・」
虹の事についても高月さんに訊きたかったけど、これだけは、俺自身でなんとかしたい。全てを高月さんに訊いていては、ダメだと思う。
時崎「あ、そうだ! 写真屋さんに寄る前に、高月さん!」
笹夜「はい?」
時崎「アルバムの表紙についてなんだけど」
笹夜「アルバムの表紙・・・前に決めませんでした?」
時崎「製本アルバムは前に決めたけど、もうひとつ、七夏ちゃんに別に渡そうと思っているのがあって、その表紙をどうしようかと思ってた所で」
笹夜「なるほど♪」
時崎「この後、雑貨店へ寄ってもいいかな?」
笹夜「はい♪」
喫茶店を出て、高月さんと雑貨店へ寄る。文房具も置いてあり、アルバムの表紙に使えそうな厚紙もあった。
時崎「あ、これなんか使えそうだな」
笹夜「厚紙ですか?」
時崎「ああ。いいデザインがあるかな?」
笹夜「私も探してみます♪」
時崎「ありがとう」
しばらくすると、高月さんは、若葉色の厚紙を持って来てくれた。
笹夜「時崎さん、これは、どうかしら?」
時崎「若葉色に白い縁取り、セブンリーフみたいだね!」
笹夜「はい♪ 時崎さんもそう思われました?」
時崎「ああ! これなら、七夏ちゃんも喜んでくれると思う!」
笹夜「はい♪」
時崎「あとは・・・」
アルバムに必要な材料を買い足す。まだ足りない物があるかも知れないけど、とりあえず今思い付く物は買っておいた。
雑貨店を出ると、日が結構傾いていた。意外と時間を使ってしまったようだ。高月さんが隣町に住んでいる事を考えると、写真屋さんは俺一人で行く方が良さそうだ。
時崎「高月さん、今日は色々とありがとう!」
笹夜「はい♪」
時崎「駅まで送るよ!」
笹夜「え!? 写真屋さんへは・・・」
時崎「今からだと、高月さんの帰りが遅くなるから、写真屋さんへは俺一人で」
笹夜「は、はい・・・」
ん? 何だろ? また少し高月さんの様子が変わったような気がした。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
駅に着いたけど、高月さんは急に話しかけてこなくなった。何か少し気まずいけど、気に障るような事を話しただろうか? 写真屋さんへ俺一人・・・その事が影響しているようには思えないのだけど・・・。
時崎「高月さん! 今日はありがとう!」
笹夜「・・・はい・・・」
高月さんは、改札の前まで歩いてこちらに振り返る。長い黒髪がその後を追うようにふわりと広がる・・・前にも見た事のある光景。何度でも見てみたい光景。
俺はその瞬間を撮影して記録したかったが、今の高月さんの様子を考えると、写真撮影を行おうとは思わなかった。丁度、隣町行きの列車が改札越しに見えた時---
笹夜「と、時崎さん! わ、私、時崎さんの事が---」
時崎「!!!!!!!」
聞き間違いだろうか・・・いや、震え始めている手足が、そうではない証拠だ。どういう事なんだ? 訳が分からない。
時崎「あ、た、高月さん!」
笹夜「列車、来ましたから・・・失礼します」
その言葉を残して、高月さんは列車内へ消え、そのまま列車は高月さんの気持ちに合わせたかのように、出発してしまった。
ホームに鳴り響く次の列車のアナウンスが、今の出来事を掻き消すかのようだった。
第三十九幕 完
----------
次回予告
突然の想いが眩し過ぎて、今までの事が全く見えなくなる。
次回、翠碧色の虹、第四十幕
「響き広がる虹」
俺は、今までどおりの風水での日常を取り戻す事ができるのだろうか?
幕間三十四:幕間を演じにくい!
心桜「いや~・・・いよいよ、ややこしくなってきました」
七夏「私も、びっくりしちゃった」
笹夜「・・・すみません」
心桜「あーいやいや、笹夜先輩、ここで多くを語るのは無しで!」
七夏「そ、そんな事もありました」
心桜「おっ! つっちゃー! そうそう! その切り替えが必要!」
笹夜「・・・・・」
心桜「笹夜先輩!」
笹夜「は、はい!」
心桜「ここ、『幕間』は、本編とは独立した世界だから、いつもどおりで!」
笹夜「・・・はい」
心桜「つっちゃーも! いい!?」
七夏「はい☆」
心桜「んでさー、あたし、すっかり忘れてたんだけど、今回のお話しで思い出しちゃったよ」
七夏「何を思い出したの?」
心桜「笹夜先輩のピアノ演奏!」
笹夜「え!?」
心桜「確か『幕間二十五』で原作者に圧力をかけたんだけど、音沙汰無しだよ!?」
七夏「あ、圧力って・・・」
笹夜「心桜さんも忘れていたからではないかしら?」
心桜「うっ! それを言われると・・・。よし! 今度こそ忘れないようにメモ書きをして・・・と。 おーい! 原作者! 今度は忘れないから、なんとかしろー!!!」
七夏「なんとか・・・なるのかな?」
心桜「なるよ! なんとかならなければ、今まで続いてないと思う!」
笹夜「まあ、私も再現演奏が聴けると助かります♪」
心桜「演奏者である笹夜先輩のお願いなら、さすがに原作者も断れないでしょ!?」
笹夜「そうかしら?」
七夏「私からもお願いしてみます☆」
心桜「メインヒロインであるつっちゃーのお願いなら、益々原作者は断れないでしょう!」
七夏「そうかな?」
心桜「そうそう! そう言えば、今回の本編では、つっちゃーの台詞が全然なかったね・・・メインヒロインなのに!」
七夏「私、ここちゃーと一緒に居ましたから☆」
心桜「はは・・・今、思い出しても大変だったよ・・・」
七夏「ご、ごめんなさいっ!」
心桜「いやいや。お互い様だよ!」
笹夜「やっぱり、演じにくいかしら?」
心桜「そだねー。今は、本編の流れを見守るしかない・・・かな」
笹夜「ええ」
心桜「んじゃ、ちょっと早いけど、纏めますか!」
七夏「え!?」
心桜「さて、つっちゃーが頑張る『翠碧色の虹』は、いよいよ転機を迎えました!」
七夏「天気?」
心桜「つっちゃー、そうじゃなくて!」
笹夜「起承転結の転かしら?」
心桜「そーゆーこと! あたし、本気で転に立ち向かうから!」
七夏「それって」
笹夜「次回への伏線・・・なのかしら?」
心桜「どうでしょうね・・・あー! やっぱ、やりにくいっ!」
七夏「ここちゃー、今回は、これでおしまいにしよ?」
笹夜「その方が良さそうです」
心桜「だねっ! って事で、つっちゃーが頑張る『翠碧色の虹』本編はこちら!」
心桜「http://nanatsuiro.my.coocan.jp/nnt_frma_a.htm」
七夏「くすっ☆」
心桜「そして、あたしと笹夜先輩も頑張る『ココナッツ』宛てのお便りはこちら!」
心桜「http://nanatsuiro.my.coocan.jp/nnt_suiheki_novel.htm#QUESTIONNAIRE」
七夏「それじゃ、今後ともどうぞよろしくです☆」
笹夜「よろしくお願いいたします♪」
心桜「あたしからも、よろしくお願いします! 特に原作者! 今度はあたし、忘れないからねっ!」
七夏「ここちゃー、まだその事を・・・」
心桜「念押し念押しぃ~♪」
幕間三十四 完
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幕間三十四をお読みくださり、ありがとうございました!
本編の方も鋭意制作中ですので、どうぞよろしくお願い申しあげます!
第四十幕:響き広がる虹
何が起こったのだろう? まだ手足が震えている。
高月さんからの突然の---いや、突然に思えたのは俺だけなのかも知れない。高月さんが話したかった事って、この事だったのか!? まだ、聞き間違のように思えてならない。
今までの出来事が全て真っ白になりかける中、なんとか今日泊まる宿に辿り着き、ベッドに寝っ転がっている。写真屋さんには寄っていない。掛け布団の上で横になっていると、少し冷静さが返ってきた。そうなると、余計に分からない事が出てくる。今日一日、高月さんと一緒に過ごして、今までと大きな違いは・・・俺がこの街にあと一週間くらいしか居ない事を告げた時、
<<時崎「いや、まだはっきりとした事は・・・だけど、引き延ばせてもあと一週間くらいかなと」>>
<<笹夜「え!? そ、そう・・・」>>
この時に、少し様子が変わった事。あと、写真屋さんへは俺一人で行くと話した時以降だ。他に何かあるか? 今日一日だけでなく、今までの事も含めて考える。
「髪に虹を映す少女」
それが、高月さんの第一印象だった。だけど、高月さんは自分の髪はあまり好きではないらしい。その理由は七夏ちゃんの瞳と共通点がある。七夏ちゃんが割と髪を結ったりして変化があるのに対して、高月さんはいつもストレートで変化が無いのは、この辺りに理由があるのかも知れない。髪型を変え、その話題を誘発する事を防止しているのかと考えると繋がってくる。
「手の力が強い事」
以前、高月さんが本屋さんでナンパされ、手を掴まれた時、相手を手の力だけで撃退していた。過去に高月さんと手が触れてしまった時に、もの凄く拒絶するかのように手を引っ込められた事があったけど、手にコンプレックスがあるとすれば納得ができる。手の力が強いのはピアノ奏者だからだと今なら分かる。百貨店での即興演奏の後、高月さんが俺に手を差し出してきた事があった。あれは、それまでの拒絶の償いだったのかも知れない。
「花火大会の時」
大きな花火の音に驚いた高月さんが俺の腕に掴まってきた事があった。これは、反射だろうけど、それよりも前に俺の傍らに寄ってきていた。これは今回の出来事と繋がりがあるのだろうか。
高月さんとの思い出を振り返ってみて、高月さんが俺に好意を抱いてくれていると思われる要素はある。これらを踏まえて今日一日の出来事を考えると---
<<笹夜「昨日、大きな虹が架かってました」>>
時崎「あっ!」
<<笹夜「見えませんか?」>>
高月さんが、好きではない自分の髪の話題をしてまで、俺に見せてくれた虹。それは、自分の事よりも相手の気持ちを優先している心の表れではないのか?
・・・俺は、そんな高月さんの気持ちに気付かず、七夏ちゃんの事を相談してしまっていた。高月さんはどんな気持ちで、俺の質問に答えてくれていたのか、考えるまでもない。
時崎「・・・・・・・・・・」
高月笹夜さん。とても上品で、優しく、しっかり者。こんなにも魅力的な人から、想いを寄せられるなんて、本当なら舞い上がってしまうはずなのに、手足が震えてそうなりきれない自分が居る。
時崎「・・・・・そうか・・・・・」
その理由は、もう分かっているはずだ!
時崎「俺・・・七夏ちゃんの事が・・・」
大切な存在と、好きかどうかは別だ。俺は七夏ちゃんの事を大切に想っている。もちろん、天美さんや高月さんに対しても、それは変わらない。高月さんを目の前にしておきながら、七夏ちゃんの事を話していた事がその理由だと思う。
俺は、高月さんの想いに応える事は出来ないし、その資格もないだろう・・・。こういう事の決断は、早いほうがいい。高月さんに俺の気持ちを伝えなければならない。大切な人を傷付ける事になると思うと、また体が震え始めた。俺は、その震えを落ち着かせようと、布団の中に潜り込んだ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
目覚まし時計の音で目覚める。いつもと違う朝に少し戸惑うが、今日も色々と行わなければならない。昨日の事を考えると、まだ気分も落ち着かない。俺は大切な人を傷付ける事になってしまう。だけど、時間経過で解決できる問題ではない。
時崎「あっ!」
よく考えると、高月さんの連絡先を訊いていなかった。七夏ちゃんなら知っていると思うけど、今、訊ける状態ではないだろう・・・どうすればいい? 七夏ちゃんではなく、凪咲さんなら知っているかもしれない。
民宿風水へ戻る前に、昨日寄れなかった写真屋さんへ向かう。
店員「いらっしゃいませ! あ、写真、出来ております!」
時崎「遅くなってしまって、すみません」
店員「いえ」
以前に現像依頼していた写真を受け取り、それ以降に撮影した写真から、特に俺のお気に入りを現像依頼する。
時崎「追加で、現像を、お願いします」
店員「いつもありがとうございます!」
写真屋さんを後にして、民宿風水へ向かう。七夏ちゃんに、どんな顔をして会えばいいのだろう。そんな事を考えると、足が重くなる。民宿風水の看板の前で、少し足を止める。七夏ちゃんを探していた時に、この看板を見た時の事を思い出した。今はこの先に七夏ちゃんが居る。俺は、足を進める。
民宿風水の扉をそっと開ける。
凪咲「柚樹君!?」
時崎「な、凪咲さん!」
凪咲「おかえりなさいませ」
時崎「え!? あ、ただいま」
凪咲さんは、今までどおり優しく微笑んでくれた。ここでのいつもの日常が戻ってくるかのように思えたけど、それはまだだと思う。
凪咲「一晩、ゆっくりと考えられたかしら?」
時崎「え!? はい・・・色々と・・・あ、これ! ありがとうございました」
俺は、宿泊代のおつりを凪咲さんへ渡した。
凪咲「はい。確かに♪」
時崎「色々とすみません」
凪咲さんに高月さんの連絡先を訊くべきか・・・いや、まずは七夏ちゃんの事が先だな。
時崎「七夏ちゃんは、お部屋ですか?」
凪咲「七夏は、まだ心桜さんの家に居ます」
時崎「え!?」
凪咲「昨日は、心桜さんの家で泊まる事になって・・・」
時崎「そうなのですか?」
凪咲「二人とも似てるわね」
時崎「・・・・・」
凪咲「昨日、心桜さんから電話があって---」
----- 昨日の回想 -----
凪咲「お電話ありがとうございます。民宿風水です」
心桜「あ、凪咲さん、天美です」
凪咲「あら、心桜さん、こんにちは」
心桜「こんにちは。今、つっちゃーと一緒なんですけど、今日は家に帰りたくないって話してて」
凪咲「あら、そうなの?」
心桜「はい」
七夏「うぅ・・・笹夜先輩が・・・笹夜先輩が・・・」
凪咲「!? 七夏、傍に居るのかしら?」
心桜「居るには、居るんですけど、今ちょっと、取り乱してて・・・」
凪咲「まあ・・・ご迷惑をお掛けしてすみません」
心桜「あ、いえいえ! 全然迷惑なんて思ってませんから!」
凪咲「ありがとう。心桜さん」
心桜「ですから、今日はあたしの家でつっちゃー泊まりますけど、いいですか?」
凪咲「はい。七夏の事、よろしくお願いします」
心桜「はい! では、失礼します」
-----------------
時崎「!!! 七夏ちゃん、『笹夜先輩が』って!?」
凪咲「ええ。電話の奥から七夏の声が聞こえてきて、取り乱してたみたいだけど、高月さんと何かあったのかしら?」
どういう事だ? 高月さんは昨日、殆ど俺と一緒に居て、七夏ちゃんとは会っていないはずだ。七夏ちゃんが高月さんの事で取り乱すような事・・・
時崎「ま、まさかっ!」
凪咲「ゆ、柚樹君!?」
時崎「す、すみません。ちょっと部屋に戻って考えさせてくださいっ!」
凪咲「え!? はい」
ここ、民宿風水での自分の部屋に駆け込んだ。少ししか走っていないのに息が荒れている。なんだ、これは? 少し、落ち着け!
七夏ちゃんが、昨日、帰りたくないと話していた理由・・・高月さんと何かあった事だけは間違い無さそうだ。何かなんてもう分かっている。高月さんが俺へ想いを告げた事を、七夏ちゃんに話した・・・これしかないだろう。だけど、なんでわざわざそのような事をしたのだろうか? 高月さんは自分の想いをより確実にする為に七夏ちゃんを・・・いや、それはない! 高月さんは、そんな事をする人ではない。きっと他に理由があるはずだ。理由、理由・・・考えてはみるけど、納得できる理由が見つからない。
時崎「高月さん・・・」
俺は、高月さんが七夏ちゃんの事を想う心優しい少女である事を知っている。これだけは間違いないと信じている。高月さんと会って話しを訊く必要がある。そして、俺の想いを伝える必要も。凪咲さんに、高月さんの連絡先を訊いてみる。
時崎「凪咲さん!」
・・・あれ? 凪咲さんが居ない。庭に居るのだろうか? その時、玄関の扉が開く。
時崎「凪咲さ・・・って、たっ、高月さん!?」
笹夜「え!? あ、こんにちは」
時崎「こ、こんにちは」
驚いて、変な声で挨拶してしまった。何の前触れもなく突然現れた高月さんに、どう対応したらよいのか分からない。
笹夜「突然、すみません」
時崎「あ、いや・・・た、高月さんに話したい事があって・・・」
笹夜「・・・・・」
玄関先からもう一人、今度は凪咲さんだ。
凪咲「あら? 高月さん? いらっしゃいませ」
笹夜「こんにちは」
凪咲「七夏はまだ帰ってなくて・・・昨日、心桜さんの家に泊まったの」
笹夜「はい。知ってます」
時崎「!!!」
やっぱり、昨日、七夏ちゃんと高月さんが連絡を取っていたのは間違い無さそうだ。
凪咲「という事は、柚樹君にご用なのかしら?」
笹夜「え!? えっと、心桜さんに呼ばれて・・・」
時崎「!?」
高月さんは、天美さんに呼ばれて、風水に来たという事か。という事は・・・まずいっ! 急がなければっ!
時崎「た、高月さんっ!」
笹夜「は、はい!?」
時崎「き、昨日の事なんだけど・・・」
笹夜「・・・・・」
凪咲さんは、昨日の俺と高月さんの出来事を知らない。ここで話してしまっていいのか!? 凪咲さんと目が合う。すると、凪咲さんは、何かを察したかのように軽く頷いて、台所へと移動してくれた。
時崎「・・・・・」
笹夜「・・・・・」
今、ここで俺の想いを告げると高月さんを傷付ける事になってしまうと思うと、なかなか切り出せない。急がねばならないのに急げない・・・どうすればいいんだ? 大切な人の大切なお友達を傷付けてしまうなんて、俺は望んでなんかいない・・・けど---
玄関の扉が勢いよく開く。
時崎「あ、天美さん」
心桜「・・・どうも!」
天美さんは、もの凄く表情が険しい。初対面時に警戒された時以上であり、その鋭い眼差しは、俺ではなく高月さんを差していた。
時崎「な、七夏ちゃんは?」
心桜「つっちゃーなら、あたしん家に居る・・・なんでか分かる?」
時崎「え!?」
心桜「笹夜先輩! ちょっと話あるんですけど・・・」
笹夜「・・・ええ」
心桜「凪咲さーん!」
凪咲「あら? 心桜さん!?」
心桜「ちょっと、空いてる部屋借ります!」
凪咲「え!? は、はい」
心桜「んじゃ、笹夜先輩!」
笹夜「・・・・・」
心桜「お兄さんも、後で話しあるから!」
時崎「あ、ああ」
天美さんはそう話すと、高月さんを連れて2階の空き部屋に入って行く。天美さんが高月さんに話す事の予想は付く・・・けど、それ以上に自分の想いを高月さんに言えなかった事が情けない。
凪咲「柚樹君」
時崎「少し、居間へどうぞ」
凪咲「すみません。ありがとうございます」
頭では分かっていても、いざその場になると、なかなか思うように言葉が出てこない。相手を傷付けたくないなんて綺麗事なのかも知れないな。だって、そうやって先延ばしにすると、より多くの人を巻き込むのだから。天美さんと高月さんの話しが終わったら、俺の気持ちを高月さんに伝えよう・・・今度こそ。俺は拳に力を入れて決意した。
----- 2階の空き部屋 -----
心桜「笹夜先輩、どういう事ですか?」
笹夜「昨日、電話で話したとおりです」
心桜「なんで、そうなるの! 笹夜先輩! つっちゃーとお兄さんの事、応援するって話したよね?」
笹夜「今でも応援してます」
心桜「じゃなんで!? お兄さんにっ!」
笹夜「二人を応援する事と、私の想いを時崎さんに伝える事は別ではないかしら?」
心桜「そんな! 別じゃないっ! 笹夜先輩の行動でつっちゃー泣かせたんだよ!」
笹夜「なぜ、七夏ちゃんは泣いたのかしら?」
心桜「そ、それはその・・・」
笹夜「七夏ちゃんと時崎さん、お二人はまだ正式にお付き合いしているとは聞いてません」
心桜「そうだけどさっ!」
笹夜「私の想いを時崎さんに伝えた事で、二人の心が離れるのなら、遅かれ早かれ、長くは続かない」
心桜「・・・二人を引き裂く事が目的なんですか?」
笹夜「いいえ。二人の想いが本物なら、私の想いを時崎さんに伝える事で、より引き合う事になると思います」
心桜「っ! まさか! 笹夜先輩・・・それで・・・」
笹夜「・・・どうかしら?」
心桜「ぜったい・・・」
笹夜「え!?」
心桜「ぜったい、こじれると思ったから・・・」
笹夜「三角関係になっても結局は、どちらかが両思いになって決着が付きます。決着が付くまでは、辛い想いをする事もありますから、その期間は短い方がいいと思わないかしら?」
心桜「・・・・・」
笹夜「私、七夏ちゃんと時崎さん、それぞれの想いを知った上で、私の想いを告げました。これは、二人を応援する事にならないかしら?」
心桜「じゃ、全部知った上でって事?」
笹夜「ええ。私の時崎さんへの想いは本当の事・・・それを、七夏ちゃんに隠す事なんて出来ません。隠しても七夏ちゃんは、いずれ気付くと思います」
心桜「・・・・・」
笹夜「私が時崎さんへの想いを黙ってて、七夏ちゃんに気付かれる事の方が後々、大変な事にならないかしら?」
心桜「・・・・・」
笹夜「私は七夏ちゃんに、私の本当の気持ちを知っておいてほしかったの」
心桜「知っておいてほしいって、笹夜先輩はそれでいいんですか?」
笹夜「お互いに心から惹かれ合わないと、長くは持ちませんから・・・」
心桜「惹かれあってるかなんて、そんなの、すぐに分かる訳ないよ!」
笹夜「すぐには分からないですけど、今なら時崎さんのお気持ちが分かります」
心桜「え!?」
笹夜「私の想いは、時崎さんには届かない・・・」
心桜「そ、そんなっ!」
笹夜「この後、私は、時崎さんへの想いを断たれると思います」
心桜「なんで・・・なんで・・・うぅ・・・」
笹夜「心桜さん、あなたは、どちらの味方なのかしら?」
心桜「・・・どっちも・・・どっちもだよ! うぅ・・・」
笹夜「ありがとう・・・優しい子ね♪」
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高月さんが、居間に姿を見せた。その後に先ほどとは様子ががらりと変わって、しょんぼりしたような天美さんを連れて。
時崎「た、高月さん!」
笹夜「はい!?」
さっきの二の舞になってしまう。はやく言うんだ! はやくっ!
時崎「き、昨日の事なんだけど・・・」
笹夜「・・・・・」
高月さんは、真っ直ぐ俺を見つめてきている。この想いにしっかりと応えなければ!
時崎「その・・・ごめん」
笹夜「・・・・・はい♪」
心桜「うわぁ~ん!!!」
時崎「!?」
突然、天美さんが大声で泣き始めた。すぐに高月さんは、天美さんをかばうように抱きしめる。以前に七夏ちゃんがそうしてた時の事と重なる。俺は、状況が分からず何も出来ないままだ。
凪咲「心桜さん!? どうしたの?」
凪咲さんが、天美さんの泣き声を聞いて居間に着たけど、その様子を見て、俺の方を見て、再び台所へと戻って行く。俺は何も出来ないままだけど、凪咲さんは事情を読み取った上で、何もしなかった。何もしていない事に変わりは無いけど、その差は大きい。
俺は1人の少女を傷付け、1人の少女を泣かせた。いや、泣かせたのは二人・・・最低だ。
大切に想い、大切に考えれば考えるほど、望んだ結果から遠ざかるのは何故だ!?
傷を癒し合うかのような二人を見ていられなく、俺は自分の部屋に駆け込んでしまった。
二人の事が気になって仕方がない・・・自分から逃げ出しておきながら、どれだけ都合が良いのだ!?
時崎「七夏ちゃん・・・」
さらに、七夏ちゃんの事も気になっていて、どうしたら良い!? どうすれば・・・。いつもの日常が遠く霞んでいる。離れかけて、ようやく気付くようでは遅い。だけど、普段の出来事、あたり前のような事って、それが続いている間は、大切な事なのだと気付くのが難しい。
<<凪咲「少し、距離を置いてみると、色々と見えてくると思うわ」>>
凪咲さんの言葉は、もっと広義的な意味だったのかも知れない。
高月さんの想いによって気付かされた七夏ちゃんへの想い・・・。
時崎「ま、まさかっ!」
高月さんは、俺と七夏ちゃんとの昨日あった出来事を全て知っていたのかも知れない。全て知った上で、俺に会いに来て・・・そして・・・俺が断る事も分かっていたという事なのか!?
・・・何の為に!?
・・・何を今更・・・七夏ちゃんの為だ!!!
だけど、今、七夏ちゃんに俺の想いを伝えるのは無理だ。七夏ちゃんと普段どうりの状態になって、その上で、七夏ちゃんの本当の想いを知ってからでなければ・・・。
<<七夏「お互いに相手の心が通じ合っている事が分からないと、この先も上手くゆかないと思ってます☆」>>
あの時、七夏ちゃんにはぐらかされたけど、七夏ちゃんは二人の告白を断っている。俺が一方的に想いを伝えても、上手く行くかどうか分からない。もし、上手く行かなかったら、ここでの生活が一変してしまうだろう。凪咲さんとの約束、アルバム作りを完成させてから、そして、七夏ちゃんへの想いが届かなくても、その後にお互いに影響が無い日・・・つまり、俺がこの街を発つ日に想いを伝えるべきだと思う。
色々考え過ぎた反動だろうか・・・しばらく放心状態が続く。
時を刻む音に混ざって、微かに聞こえる会話。その内容までは分からない。
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心桜「笹夜先輩・・・ごめん。もう大丈夫!」
笹夜「・・・良かった・・・」
心桜「あたし、つっちゃー迎えにゆく」
笹夜「私も一緒に・・・」
心桜「笹夜先輩、今日はつっちゃーと会わない方がいいと思います」
笹夜「でも、七夏ちゃんに会ってお話ししないと」
心桜「あたしから話しておきますから! つっちゃーなら絶対分かってくれる!」
笹夜「・・・はい。すみません、心桜さん」
心桜「凪咲さーん!」
凪咲「はい」
心桜「あたし、つっちゃー迎えに、家に戻ります!」
凪咲「ありがとう。心桜さん」
心桜「いえ、帰りたがらないつっちゃー置いて、飛び出してきたから、こんどは連れて来ます!」
凪咲「色々すみません」
心桜「いえいえ!」
凪咲「七夏の事、よろしくお願いします」
心桜「はい!」
凪咲「高月さん」
笹夜「はい!?」
凪咲「いつでもいらしてくださいね。七夏も喜びますから♪」
笹夜「・・・・・はい」
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しばらくして、トントンと階段を登ってくる音。それが誰なのかは分かっていたけど、俺は何故かぼーっとしていた。
トントンと扉が鳴る音に、意識を呼び戻された。
凪咲「柚樹君、いいかしら?」
時崎「な、凪咲さん! は、はい!」
慌てて扉を開ける。
凪咲「ごめんなさい」
時崎「い、いえ! 高月さんと天美さんは?」
凪咲「二人とも帰られました」
時崎「そう・・・ですか・・・」
高月さんを駅まで送りたかった気持ちが一瞬頭をよぎったけど、今の俺にその資格は無い。高月さんと今後も今までどうり、お話しが出来るのだろうか。
凪咲「色々、あったみたいね」
時崎「凪咲さん、俺、どうしたらいいか分からなくて・・・」
凪咲「皆んなが幸せになる事って、難しいのよ」
時崎「・・・・・」
凪咲「幸せって、誰かが譲ってくれた上で成り立つ事も多いから、その人への感謝の気持ちを忘れなければいいと思うの」
時崎「もう少し、考えてみます」
凪咲「ええ。柚樹君!」
時崎「はい!?」
凪咲「高月さんから伝言。『これからも、よろしくお願いします』って」
時崎「高月さん・・・」
凪咲「心桜さんから伝言。『明日からはいつものお兄さんに戻る事! つっちゃーの事、よろしくたのむよ! それと、あたしの事も!』って♪」
時崎「なっ、凪咲さん!?」
突然、天美さんのような勢いのある身振りと一緒に一気に話した凪咲さんを見て、驚きと可笑しさに襲われた。
凪咲「伝わったかしら?」
時崎「ククッ!」
なんか分からないけど、笑ってしまった・・・。
凪咲「あら!?」
時崎「すみません。凪咲さん、今のは天美さんの真似ですか?」
凪咲「天美さんだけでなく、高月さんもかしら?」
時崎「高月さん!? そっちは気付かなかったです」
凪咲「それは、少し残念かしら?」
時崎「え!?」
凪咲「高月さん、とてもお上品ですから♪」
そう言われると、高月さんと凪咲さんは仕草や話し方が似ていると思う。
時崎「はい。天美さんとは違って、凪咲さんの高月さんからの伝言は、真似ではなく、凪咲さんそのものだと思いました。凪咲さんと高月さん、お二人は似ていますから」
凪咲「まあ♪ 高月さんみたいな人に似てるなんて言われると嬉しいわ! そうそう、心桜さんがこの後、七夏を連れて帰ってくるからって」
時崎「え!?」
凪咲「それで、柚樹君にお願いがあって」
時崎「はい! なんでもします!」
凪咲「そんなに身構えなくてもいいの。ただ・・・」
時崎「ただ?」
凪咲「七夏が帰ってきたら『お帰りなさい』って声をかけてあげてくれるかしら?」
時崎「はい! もちろん! そのつもりです!」
凪咲「ありがとうございます。あと、ひとつ、私からの伝言。『これからも、七夏の事、よろしくお願いいたします』」
時崎「え!?」
凪咲「それでは、失礼いたします」
凪咲さんは、そう話して部屋を出てゆく。
---再び時を刻む音。俺は多くの人に支えられている事を実感する。今、支えてあげなければならないのは---
時崎「七夏ちゃん!」
机の上に置いてあった「C11機関車」の鉄道模型と七夏ちゃんからのメモ。そのメモに返事を書く。今日、写真屋さんで受け取った写真の中から、俺のお気に入りの写真をいくつか添えて・・・
時崎「七夏ちゃん、ごめん。ちょっとだけ、失礼します」
俺は七夏ちゃんのお部屋の扉を軽く鳴らして、一呼吸してから、扉を開けた。七夏ちゃんの机の上にメモと写真を置いて部屋を出て、そのまま「C11機関車」の鉄道模型を直弥さんの所へ持って行く。少しずつ「いつもの出来事」を取り戻せてゆけると信じながら。
時崎「いや! 取り戻さなければっ!」
直弥さんの部屋の扉を軽く鳴らし、「C11機関車」を机の上に置く・・・。
時崎「ここで七夏ちゃんと一緒に・・・」
以前の想い出を取り戻すかのように「C11機関車」を線路の上に乗せる。七夏ちゃんから教えてもらった「ヘラ」のような物を使って・・・。
時崎「・・・・・」
こんな事を行なっていて・・・と、思いかけてその思いを消した。
時崎「こんな事のはずがないっ!」
ひとつひとつ、ここでの出来事その全てが大切な事だ。今、俺に出来る事はないだろうか?
時崎「確か・・・」
以前、七夏ちゃんは、機関車の後ろに客車と車掌車を繋いでいた。客車は線路の上に置いてあったけど車掌車が見つからない。机の上をよく見てみると、分解された車掌車があった。さっきも目に留まったはずだけど、車掌車だとは思わなかっただけだ。
時崎「これは、どういう事だ!?」
故障でもしたのだろうか!? バラバラになったままの車掌車を見ると切なくなる。
時崎「!?」
車掌車の側に小さな照明部品が置いてあった。それをよく見ると・・・。なるほど、車掌車に灯りを装備しようとしている事が分かった。七夏ちゃんが途中まで作業を行ったのだろうか?
もし、途中で分からないままだとしたら、俺は力になってあげたい。七夏ちゃんと、お話しが出来るようになったら、訊いてみようと思う。
車掌車の無い編成は少し物哀しく思えたので、列車を走らせる事はなく、そのまま、直弥さんの部屋を後にした。
凪咲さんは七夏ちゃんが帰ってきたら「お帰りなさい」と声をかけてほしいと話していた。自分の部屋に居てはその機会を逃しかねないから、居間で七夏ちゃんの帰りを待つ事にした。
凪咲「あら? 柚樹君!?」
時崎「凪咲さん。七夏ちゃん、もうすぐ帰ってくる気がして・・・」
凪咲さんは黙って微笑んでくれた。
凪咲「柚樹君、どうぞ!」
時崎「ありがとうございます!」
凪咲さんから頂いた冷茶を一気に飲み、気合いを入れた!
しばらく、目を閉じて、心を落ち着かせる---
??「ごめんください!」
天美さん!?
時崎「七夏ちゃんっ!」
俺は慌てながらも玄関へと急ぐ。
七夏「あっ!」
時崎「七夏ちゃん! お帰り!」
七夏「た、ただいま・・・です・・・」
凪咲「お帰り。七夏」
心桜「んじゃ! 確かに心桜速達で届けたからねっ!」
凪咲「ありがとう、心桜さん」
心桜「では、凪咲さん、失礼します! つっちゃー! またねっ! お兄さんも!」
時崎「あ、ああ」
話す事は決まっていた。だけと、決まっていた事を話すと、その次の言葉に詰まってしまう。
時崎「な、七夏ちゃん」
七夏「えっと、ごめんなさい」
時崎「っ!」
七夏「お部屋に戻って、宿題・・・ありますから・・・」
時崎「あ、ああ・・・」
七夏「失礼します」
七夏ちゃんは軽くお辞儀をして、そのまま自分の部屋へと入ってゆく・・・。上手くゆかないものだ。
凪咲「柚樹君」
時崎「はい」
凪咲「焦らなくても大丈夫」
時崎「え!?」
凪咲「七夏は、のんびりさんだから、もう少し、待ってもらえるかしら?」
時崎「・・・はい」
凪咲さんの言葉に救われる。だけど、俺は違うと思う。七夏ちゃんは、のんびりさんではない。のんびりと過ごす事が好きなだけだ。
凪咲さんなりの心遣いに流されるままではなく、俺自身が七夏ちゃんにしっかりと焦点を合わせなければ、七夏ちゃんの笑顔を撮るのではなく、心を撮らなければ・・・だから、例え七夏ちゃんが泣いたとしても、それが七夏ちゃんの本当の心なら・・・俺はシャッターを切らなければならない。
自分の部屋に戻り、なんとかならないか考える。凪咲さんは「もう少し待ってほしい」と話していたけど、今日中に七夏ちゃんとお話しができるようになっておきたい。
<<凪咲「でも、距離が離れ過ぎたり、時間が掛かり過ぎても、上手くゆかないのよ」>>
離れ過ぎてしまった場合、その心を取り戻す時間的な余裕は、そんなに残されていない。
七夏ちゃんとお話しができるような「きっかけ」はないものか・・・。
時崎「!? これは!!!」
鞄の中を漁っていると「水族館のチケット」が目に留まった。以前、蒸気機関車イベントで貰ったものだ。浅はかとは思いながらも、試してみる価値はある。今は他に思い付かない。俺は、七夏ちゃんの部屋の前に急ぐ。
トントンと扉を鳴らす・・・けど、返事がない。
時崎「な、七夏ちゃん!」
・・・やっぱり、返事がない。でも俺は続ける!
時崎「七夏ちゃん! 水族館の招待券があるんだ!」
・・・しばらく待ってみる・・・けど、返事は返ってこなかった・・・ダメなのか!?
七夏ちゃんの事をもっとよく考える。七夏ちゃんが、どうすれば喜んでくれるのか、どうすれば・・・七夏ちゃんがとっても喜んでいた時の事を考える・・・。
時崎「!!!」
・・・俺は、次の言葉に想いを全て託す事にした。
時崎「七夏ちゃん! 水族館、七夏ちゃんと一緒がいいっ!」
・・・しかし、返事は無かった・・・。まだ早過ぎたのか・・・でも俺は諦めない! 水族館がダメなら、他に七夏ちゃんが喜びそうな事を考えるまでだ!
自分の部屋に戻ろうとした時、背後から微かに扉の開く音がした。
時崎「っ!?」
扉の奥の、七夏ちゃんと目が合う。
時崎「七夏ちゃんっ!!!」
七夏「ひゃっ☆」
七夏ちゃんは驚いて扉を閉めてしまった・・・何をやっているんだ! 俺っ!
時崎「ご、ごめん! 七夏ちゃん!」
再び、そっと扉が開いた。
七夏「一緒・・・」
時崎「え!?」
七夏「水族館・・・七夏と一緒がいいって本当?」
時崎「あっ! ああ。七夏ちゃんと一緒がいいっ!」
しどろもどろになりながらも、俺の想いを七夏ちゃんに伝えると、七夏ちゃんの表情は少し優しくなったような気がした。
七夏「ありがとう・・・です☆」
時崎「良かった・・・」
七夏「ゆ、柚樹さんっ!!!」
俺はその場で膝から崩れ落ちた。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
今、七夏ちゃんの部屋に招かれている。
七夏「柚樹さん、お返事、ありがとうです☆」
時崎「返事?」
七夏ちゃんは、メモ書きを見せてくれた。今朝、俺が七夏ちゃんから貰ったメモだ。
七夏「おたよりって、自分の気持ちが上手く言えない時に頼るからそう言うのかなぁ?」
時崎「そう・・・かも知れないな」
七夏「柚樹さんのお返事を読んで、私の気持ちも、柚樹さんの気持ちも同じなのかなって」
時崎「そんなに深い意味は無いよ」
七夏「くすっ☆」
七夏「昔ね、お母さんと一緒に見た虹は、七色だったような気がして・・・でも、はっきりと覚えてなくて・・・」
時崎「え!?」
七夏「虹が、柚樹さんの好きな虹・・・私も一緒に見えて、一緒に喜んであげれたらいいなって・・・。でも、そうじゃなくて、私と一緒に見た虹・・・柚樹さんとても辛そうで・・・このまま一緒に居ると、嫌いになっちゃうんじゃないかって・・・」
時崎「嫌いになんかならないよ!」
七夏「え!?」
時崎「だって俺は・・・・・」
七夏「・・・・・」
時崎「好きだから・・・」
七夏「えっ!?」
時崎「虹が好きだから、七夏ちゃんと出逢えたんだ!」
七夏「あっ・・・」
時崎「だから、七夏ちゃんと出逢えて、虹の事・・・もっと好きになった! これからもずっと好きだ!」
七夏「うぅ・・・」
時崎「な、七夏ちゃん!?」
また泣かせてしまった・・・なんでこうなるっ!
七夏「ありがとう・・・です・・・よかった・・・」
時崎「!!!」
七夏ちゃんからの言葉を聞いた時、俺はまだまだ、七夏ちゃんの心が分かっていないんだなと思ってしまった。だけど、ふたつの虹が大きく響き、広がりを見せ始めた事を実感するのだった。
第四十幕 完
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次回予告
いつもの日常、いつもの出来事。幸せとは振り返ってみなければ気付けないのだろうか?
次回、翠碧色の虹、第四十一幕
「しあわせななつの虹」
今、この一時が「しあわせ」なのだと意識すれば、それが幸せなのだと思う!
幕間三十五:熱演は疲れます!
心桜「いやー、今回は疲れた・・・」
七夏「ごめんなさいです・・・ここちゃー」
心桜「いやいや、疲れたのは、つっちゃーと自分の家を二往復したからってだけで」
笹夜「心桜さん、今回は色々ありましたから」
心桜「色々あったのは、みんな一緒だよ! 特に、笹夜先輩は、心の中で色々あったみたいですから」
笹夜「ええ♪」
心桜「そうそう、笹夜先輩のピアノ即興演奏が届いたよ!」
笹夜「まあ♪」
心桜「【翠碧色の虹】瑠璃月夜想【ピアノ即興曲】HD版は、以下のURLです!」
心桜「https://youtu.be/MN260JEBdbU」
七夏「私も聴きながら、あの時の事を思い出しました☆」
心桜「今回は、原作者も動いてくれたみたいだね~♪」
七夏「くすっ☆」
笹夜「こうして、聴き返しますと、色々と至らない点に気付けますね♪」
心桜「え!? これで至らないなら、あたしの演奏って何よ!? 同じピアノだとは思えないんですけど!?」
笹夜「心桜さんのスマッシュは、私にはとても無理ですから♪」
心桜「はは・・・」
七夏「そういえば・・・」
心桜「ん? どした? つっちゃー?」
七夏「えっと、熱演は疲れます・・・っていう題名」
心桜「えぇー!?」
七夏「ひゃっ☆」
笹夜「きゃっ!」
心桜「これ全部、演技だったのかぁ~!」
七夏「びっくりしました☆」
笹夜「心桜さん!」
七夏「演技じゃないと思いますけど・・・」
心桜「そう言えば、随分以前に、憧れの職業がどうのこうのって話しがあったよね?」
七夏「え!? えっと・・・」
笹夜「翠碧色の虹:幕間十五:将来の夢・・・憧れの職業! ・・・かしら?
心桜「あー! それそれ! 流石、笹夜先輩!」
笹夜「憧れの職業がどうかしたのかしら?」
心桜「あの時、笹夜先輩が女優さんにはなれないって話されてましたよね?」
笹夜「え!? ええ」
心桜「あたし、思ったんですけど、笹夜先輩なら、なれるんじゃないかなーって?」
笹夜「それは、無理です」
心桜「あらら・・・迷わず即答と来ましたか! さらっと凄い行動に出られる辺り、そういう素質ありそうですけど」
笹夜「でも、自分に嘘は付いていませんので♪」
心桜「深いですね~」
七夏「ここちゃーのお家で、私、笹夜先輩に電話で相談して・・・凄いお話しを聞かされて、その後、しばらく何があったのか分からなくなって・・・笹夜先輩、ごめんなさい!」
笹夜「え!?」
七夏「勝手に電話切っちゃったから・・・」
笹夜「いえ、私にも問題はありましたから・・・」
心桜「電話切った後のつっちゃーが、取り乱しちゃってさ。今日はこのまま家に帰せないなって思って、凪咲さんに電話したけど、あたしも震えてたよ・・・」
笹夜「本当にすみません・・・」
心桜「いえいえ! でも、それが熱演だったって分かってさ」
七夏「こ、ここちゃー!」
心桜「ん?」
七夏「演技・・・ではないと思います」
心桜「あ、そだったね」
笹夜「本当の想い・・・です♪」
心桜「笹夜先輩は、いつから?」
七夏「こ、ここちゃー!!」
笹夜「ピアノ即興演奏の後くらい・・・かしら?」
心桜「流石、即答! 迷い無し!」
七夏「わ、私・・・気付かなかったです」
心桜「はは・・・あたしも」
笹夜「私自身も本当の気持ちに気付くのに、少し時間が掛かりましたから・・・」
心桜「・・・って事は、もっと前からだったって事?」
笹夜「そう・・・かも知れません」
七夏「ここちゃーから、笹夜先輩の気持ちを聞いて、私は何もしていないのに取り乱して泣いちゃって・・・そんな自分が悲しくて・・・」
心桜「あーはいはい! これからは、もっとしっかりと頑張る方向にするって、二人で決めたでしょ!?」
七夏「あ、ごめんなさい!」
心桜「これからは、楽しくなるように頑張ってみよう!」
七夏「はい☆」
心桜「って事で、つっちゃーが、これから楽しむ『翠碧色の虹』本編はこちら!」
心桜「http://nanatsuiro.my.coocan.jp/nnt_frma_a.htm」
七夏「本当に頑張らないと・・・」
心桜「そして、あたしと笹夜先輩も楽しむ『ココナッツ』宛てのお便りはこちらです!」
心桜「http://nanatsuiro.my.coocan.jp/nnt_suiheki_novel.htm#QUESTIONNAIRE」
七夏「えっと、まだ宿題、途中のままでした・・・」
心桜「が、頑張るって宿題ですか!? いきなり厳しい現実に戻らない事!」
笹夜「宿題が終わると、楽しい事が沢山待ってます♪」
七夏「はいっ☆」
心桜「ははは・・・今回も軽めだけど、これでおしまいっ!」
七夏「えっと、今後とも翠碧色の虹をどうぞよろしくです☆」
笹夜「よろしくお願いいたします♪」
幕間三十五 完
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幕間三十五をお読みくださり、ありがとうございました!
本編の方も鋭意制作中ですので、どうぞよろしくお願い申しあげます!
随筆四十二:黙って頂くのは辛い!
心桜「あれ? つっちゃー、それは!?」
七夏「はい☆ 今日は巻き寿司を作ってます☆」
心桜「お料理、頑張ってるね~♪」
七夏「はい☆」
心桜「巻き寿司か・・・」
七夏「どしたの?」
心桜「いや、なんでも・・・」
笹夜「心桜さん♪」
心桜「わぁっ! さ、笹夜先輩! い、居らしたんですか!?」
笹夜「ええ♪」
心桜「いや、予想外って事はないんですけど」
笹夜「何かあるという事かしら?」
心桜「え!? まあね」
七夏「そう言えば去年、恵方巻きのお話しがありました☆」
心桜「あ、まさにそれ! そもそも、何で食べ終わるまで話したらダメなの?」
笹夜「確か、恵方巻きは7つの具が入っていて---」
心桜「つ、つっちゃーが具に!?」
七夏「え!?」
笹夜「心桜さんっ!」
心桜「分かってますって・・・ちょっと乗っかってみたかっただけです!」
笹夜「・・・ならいいのですけど」
心桜「でも、つっちゃーの具が入ってるなら・・・」
笹夜「心桜さんっ! 本当に分かってるのかしら!?」
心桜「はは・・・勿論ですとも! つっちゃーの具って真心の事だからねっ!」
七夏「くすっ☆」
笹夜「恵方巻きは、七福にちなんで7種類の具が入っています。その福を逃す事無く、一気に頂く・・・それが、途中でお話してはならないという事に繋がっている意味だったかしら?」
心桜「なるほどね~。さすが笹夜先輩!」
笹夜「・・・・・」
心桜「ん? どうかされました?」
笹夜「私、恵方巻きを一気に頂いた事が無くて・・・」
心桜「あ、そういう事ですか。確かに太巻きを一気に頂くのは色々と厳しいよね。特に笹夜先輩は上品なイメージがありますから!」
笹夜「そんな事は・・・」
七夏「今日の巻き寿司は、頂きやすいように工夫してます☆」
心桜「さすが、つっちゃーだね! 要するに細くて短い巻き寿司だね!」
七夏「はい☆ 普通の大きさのも作りますので☆」
心桜「あたしは、普通の大きさがいいな! 食べ応えあるし♪」
七夏「はい☆」
笹夜「まあ♪ 可愛いお寿司♪」
心桜「でもこれってさ、七種類の具は入ってない?」
七夏「はい。ですから、2種類作ってます♪」
心桜「なるほどね~」
笹夜「七夏ちゃん、色々とありがとうございます♪」
七夏「くすっ☆」
心桜「今は、巻き寿司も、随分お手軽になったよね」
七夏「え!?」
心桜「既に、完成された巻き寿司が売ってるから」
七夏「はい☆ お手軽で、味も美味しいです☆」
笹夜「心桜さん、せっかく七夏ちゃんが作ってくれているのに・・・」
心桜「いやいや、つっちゃーのお寿司と、売ってるお寿司は、やっぱり違うよ!」
笹夜「その違いって何かしら?」
心桜「結論から言うと、どっちも美味しい! だけど、美味しいの種類が違うんだよ」
笹夜「美味しいの種類?」
心桜「さっき話してた真心・・・作った人の心がそれぞれ違うっていうのかな?」
七夏「そう言えば、私とお母さんが作っても、味が違う事があります☆」
笹夜「まあ♪」
心桜「そうそう! あたしは、つっちゃーのも、凪咲さんのも好きだよ!」
七夏「私は、お母さんの味の方が好きかなぁ」
心桜「でも、凪咲さんは、つっちゃーの方が良いって話す時があるよね?」
七夏「はい☆ 時々ですけど、お母さんがそう話してくれると、とっても嬉しいです☆」
心桜「はは・・・つっちゃーが失敗した時は、さすがに凪咲さんも美味しいとは言わないからね」
七夏「うぅ・・・失敗しないように頑張ります!」
心桜「この、かっぱ巻きみたいなやつ見て思ったけど、なんで『かっぱ』なんだろ?」
笹夜「胡瓜が河童の好物だという事で、胡瓜の事を『かっぱ』と呼ぶようになったそうです」
心桜「本当に河童を巻いてたら凄いよね!?」
七夏「え!?」
心桜「そもそも、どこで河童を調達してくるかが問題だよね~」
笹夜「心桜さん・・・去年『鬼』で、同じような事を話されてませんでしたか?」
心桜「いやいや、そんなはずは・・・って、ええぇ~!!!」
七夏「ひゃっ☆」
笹夜「心桜さん、思い出されました?」
心桜「あはは・・・思い出しました。まあ、今を楽しく生きてこそ『あたし』ですから!」
笹夜「心桜さんらしいと言えますね♪」
心桜「かっぱついでに、『かっぱえびあられ』の『かっぱ』にも『河童』は入っていないからねっ!」
七夏「え!? そうなんだ・・・」
心桜「つっちゃー、さっき『どこで河童を調達してくるかが問題』って話したよね?」
七夏「えっと、そうではなくて、胡瓜が入っているのかなって☆」
笹夜「心桜さん、先ほど、胡瓜の事を『かっぱ』と呼ぶと話さなかったかしら?」
心桜「い、今を楽しく生きるっ!」
笹夜「まだ『今』にならないかしら?」
心桜「うぅ・・・参りました! でもさ、胡瓜と海老のあられ・・・なんか微妙な組み合わせな気が・・・」
七夏「ここちゃー、この巻き寿司にも、胡瓜と海老が入ってます☆ どうぞです☆」
心桜「おおっ! 頂きますっ!」
七夏「くすっ☆」
心桜「ん~確かに美味しい! 断面を見ると胡瓜と海老・・・玉子もあるねっ!」
笹夜「こ、心桜さん!?」
心桜「あ・・・途中で話してしまった・・・」
七夏「ここちゃー、もうひとつ、こっちで頑張ってです☆」
心桜「ありがと、つっちゃー!」
七夏「笹夜先輩も、どうぞです☆」
笹夜「ありがとう♪ 七夏ちゃん♪」
心桜「んじゃ、今度こそ、一気に頂くよ!」
七夏「はい☆」
笹夜「頑張ります♪」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
七夏&心桜&笹夜「ご馳走様でした☆!♪」
心桜「って事で、これからもつっちゃーが頑張る『翠碧色の虹』本編はこちら!」
心桜「http://nanatsuiro.my.coocan.jp/nnt_frma_a.htm」
心桜「あたしたち『ココナッツ』宛ての、お手紙はこちらです!」
心桜「http://nanatsuiro.my.coocan.jp/nnt_suiheki_novel.htm#QUESTIONNAIRE」
七夏「くすっ☆ お茶、どうぞです☆」
笹夜「ありがとう♪」
心桜「この一杯がたまんないね~」
随筆四十二 完
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随筆四十二をお読みくださり、ありがとうございました!
本編の方も鋭意制作中ですので、どうぞよろしくお願い申しあげます!
第四十一幕:しあわせななつの虹
ここは民宿風水。いつもの日常、大切な場所。
時崎「あれは・・・七夏ちゃん?」
七夏ちゃんは、庭で洗濯物を干している。とても慣れた手付きで手際が良い。手伝おうかと思ったけど、もう少しこのまま眺めていたい。
七夏ちゃんは、俺の方へと近づいて来たけど、俺に気付く様子はなく・・・ん!?
何か違和感を覚える。もっとよく目を凝らして見ると、七夏ちゃんでは無い!? 凪咲さん!? でも、とても若くて七夏ちゃんにそっくりだ。
凪咲さんは、さらに洗濯物を干してゆくけど、途中で手が止まった。その手を額にかざして空を見上げている。そして、側にあった「ゆりかご」から大切に何かを抱きしめ、再び空を見上げる。
凪咲「七夏、見て! 虹!」
七夏「・・・・・」
凪咲「綺麗ね・・・って、まだ分からないかしら?」
七夏「・・・・・」
七夏ちゃん!? とても幼いみたいだけど・・・。
凪咲さんは、七夏ちゃんに微笑んでいる。
凪咲「でも、いつか、きっと・・・一緒に♪」
七夏「・・・・・」
凪咲さんに揺られながら、幼い七夏ちゃんは目を開ける。その瞳の色は翠碧色のままで変化せず、空に掛かる大きな虹がふたつ、映り込んでいた。
時崎「な、七夏ちゃんっ!!!」
はっ! ・・・ゆ、夢!?
・・・なんでこんな夢を見たんだ?
<<七夏「昔ね、お母さんと一緒に見た虹は、七色だったような気がして・・・でも、はっきりと覚えてなくて・・・」>>
時崎「・・・・・」
<<凪咲「七夏が5、6歳の頃かしら・・・ほのかに瞳の色が変わるように見えてきて・・・」>>
七夏ちゃんの魅力的な「ふたつの虹」。だけど、その引き換えとして、虹の七色を失ったとすると・・・。俺は「ふたつの虹」を失っても、七夏ちゃんに、七色の虹を見せる事ができるなら、迷わずそっちを選ぶ。そんな方法があるのならば・・・。
瞳の色が変わらず、虹が七色に見える人。いわゆる普通の人・・・普通・・・つい、こんな言葉を使ってしまう。
時崎「何が普通だ!? 七夏ちゃんだって普通の女の子じゃないか!?」
いや、俺にとっては普通ではなく大切な・・・。
そこまで思って、この想いが届くのかは、これからの俺次第だ。
相手の事を想って、喜んでもらおうと意識しても、少しの事が引き金になり、思うようにならなくなる事が結構あった。これから先も、そのような事が起こると思う。だけど、それを乗り越える事が「より強い想い」へとなるのかも知れない。
布団から出て、1階へ降りようと部屋を出る。
七夏「柚樹さん、おはようです☆」
時崎「なぎ、な、七夏ちゃん!?」
七夏「!?」
ほぼ同時に七夏ちゃんも部屋から出てきて声を掛けてくれたけど、夢で見た若い凪咲さんと七夏ちゃんが重なってしまった。
時崎「い、いや、なんでもない! おはよう! 七夏ちゃん!」
七夏「くすっ☆ 今日、とっても楽しみです☆ 」
時崎「あ、ああ! 俺も!」
七夏「はい☆ 私、急いで宿題終わらせます☆」
時崎「俺もアルバム作り、頑張るよ! 宿題で分からない事があったら聞いて。分かる範囲なら答えられるかも知れないから」
七夏「ありがとです☆ 頼りにしてます☆」
少し、七夏ちゃんの頬が赤くなっているような気がしたけど、照れてくれているのだろうか。気のせいかも知れない。七夏ちゃんの事が気になり過ぎて自意識過剰にならないよう、気を付けなければならないな。
凪咲「おはようございます!」
時崎「凪咲さん、おはようございます」
凪咲「柚樹君、どうぞこちらへ」
七夏「おはようです☆ 遅くなってごめんなさい」
凪咲「いいのよ。二人がいつものようになってくれて嬉しいわ。七夏も柚樹君と一緒に♪」
七夏「はい☆」
昨日、凪咲さんに、七夏ちゃんと仲直り出来た事は話しだけど、凪咲さん自身はもう少し時間が掛かると思っていた様子で驚いていた。
凪咲「まあ! 今日は七夏と水族館へデートなの?」
時崎「はい! 七夏ちゃんと一緒にいいでしょうか?」
七夏「あっ!」
凪咲「もちろんいいわよ! ありがとう♪ 柚樹君!」
時崎「ありがとうございます!」
七夏「・・・・・」
七夏ちゃんと、一緒に食事を頂く。俺は昨日、七夏ちゃんに「お帰り」って話したけど、それは七夏ちゃんだけではなく、今、こうしていつものような風水の日常に対しても「お帰りなさい」なのだと思う。「あたり前の事」が、いつまでその状態を保ってくれるかなんて分からない。だからこそ、この一時をひとつひとつ大切に想いたい。
七夏「? 柚樹さん? どうしたの?」
時崎「え!?」
七夏「お食事、あまり進んでないみたいです」
時崎「あ、ごめん。ちょっと考え事」
そう話してきた七夏ちゃんは、まだ少し頬が赤い気がした。
七夏ちゃんは、自分の事以上に相手の事をよく見ている。でも、必要以上に声は掛けて来ないから「言われる」という事は、ある域値を超えているのだろう。俺も、七夏ちゃんの事をもっと気に掛けてあげたい。
七夏「・・・・・」
時崎「・・・・・」
七夏ちゃんの瞳が澄んだ翠碧色になり、頬はより赤くなった。頬の色に関しては多分、今の俺も同じかも知れない。
七夏「・・・えっと、おかわり、ありますので・・・」
時崎「あ、ああ」
もう一度、この、なんとも言えない「こそばゆい朝食」を取り戻せた事を嬉しく、大切に想う。距離を取る事の意味を噛みしめた。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
朝食を済ませ、七夏ちゃんは宿題を行っている。俺はアルバム作り・・・ではなく、今日出掛ける水族館の事をマイパッドで調べていた。七夏ちゃんが喜んでくれるように、色々と訊かれても、迷う事なく答えられるように、そして、少しでも沢山の場所を見て周れるように、館内のレイアウトを把握しておく。なんだかんだと理由を付けてはいるが、俺自身も楽しみにしているということだ。
時崎「休憩出来る場所は・・・」
人が多いかも知れないから、水族館の外も含めて休憩できる場所がいくつあるか把握しておく。七夏ちゃんは俺に気を遣ってくるはずだけど、俺はそれを望んではいない。七夏ちゃんが純粋に楽しんでくれる事を第一に考えたい。
水族館の周辺についても、ある程度調べておく。隣街は以前、天美さんの浴衣選び、オルゴールの修理で出掛けているから、駅周辺の事はある程度分かる。水族館へはバスもあるみたいだけど、歩いてでも大丈夫そうだな。この辺りは、七夏ちゃんに訊いてみよう。
色々とネットで調べていると、結構な時間を使ってしまう。つい関係ない事まで見てしまったり・・・これは気を付けなければと思いながらも、なかなか直せない。こうして得た知識が無駄になるかどうかは俺次第だけど。無駄と言えば、少しの時間も無駄にしたくはない。アルバム作りに戻ろうとしたら、扉から音が鳴った。七夏ちゃんだ! 俺はすぐに扉を開ける。
時崎「七夏ちゃん!」
七夏「あ、えっと柚樹さん」
今朝もそう思った。今日の七夏ちゃんは、少し頬が赤い気がするけど、とにかく俺の疑問よりも、七夏ちゃんの事を優先して先にお話しを訊こう。
時崎「どうしたの?」
七夏「えっと、宿題で分からないとこがあって・・・今日は、急いで終わらせたくて、その・・・」
七夏ちゃんも、今日の事を楽しみにしてくれている事が伝わってきて嬉しくなる。恥ずかしそうに頬を染めながらのお願いは、とても可愛い。
時崎「そう言う事か! 俺で分かる事なら!」
七夏「ありがとうです☆」
七夏ちゃんの部屋に招かれ、宿題の内容を見る。結構難しい・・・けど、ここは携帯端末の力を借りて・・・そう言えば、七夏ちゃんもマイパッドを持っているはずだけど、それを使っていないみたいだ。後で俺が検索した履歴が残るように、七夏ちゃんのマイパットを借りた方が良いと思った。
時崎「七夏ちゃん、マイパッドを借りてもいいかな?」
七夏「はい☆ どうぞです☆」
時崎「ありがとう! ・・・なるほど!」
俺は問題の答えを導き出す方法を理解し、七夏ちゃんに教えてあげた。いくつかあった七夏ちゃんの分からなかった箇所を、次々と調べて、問題を解く方法を付箋に書き込む。
七夏「柚樹さん、凄いです!」
時崎「そ、そう!?」
検索慣れ・・・とでも言うのだろうか? 普段から色々な事をマイパッドで調べている事が、今は効いている! さっき水族館とは関係ない事まで調べてしまっていたけど、今は関連検索機能に感謝する。
時崎「!?」
検索する時、「に」で始まる文字を打ったら、予測候補として出て来た文字列・・・「虹色」「虹の色」「虹は七色」「虹見えない」・・・七夏ちゃん・・・。
七夏「!? どうしたの? 柚樹さん?」
時崎「え!? あ、ごめん! 七夏ちゃんは、宿題でマイパッドは使わないの?」
七夏「えっと、なるべく自分で考えたくて・・・それに、マイパッドを使うと、つい宿題と関係ない他の所も見てしまうから・・・」
時崎「・・・・・」
七夏「ご、ごめんなさいっ!」
恥ずかしそうに顔を赤くして謝ってくる七夏ちゃん。その気持ちはとても良く分かるし、俺も人の事を言えない。
時崎「・・・俺もだよ!」
七夏「え!?」
時崎「マイパッドは便利だけど、誘惑も沢山あるからね」
七夏「はい。だから今日は・・・」
七夏ちゃんは、いつもよく頑張っている。今日だってそうだ。だけど、頑張り過ぎて楽しい事の前に疲れてしまっては本意ではない。俺が調べて書き加えた付箋の内容を見ながら宿題を進める七夏ちゃん・・・何か今までと違うような気がしてならない。
七夏「ふぅ・・・」
七夏ちゃんが小さく「ため息」をこぼした。俺は念の為、七夏ちゃんに訊いてみる。
時崎「七夏ちゃん、大丈夫?」
七夏「え!?」
時崎「ちょっと、疲れてない?」
七夏「疲れてはないですけど、少し、頭がぼーっとしちゃって、宿題も急いでるのに、なかなか集中できなくて・・・」
宿題に集中出来ない・・・今日の水族館の事が原因!? いや、それもあるかも知れないけど、それだけではないかも知れない。俺は思い切って行動に出る! 七夏ちゃんの為に!
時崎「七夏ちゃん!」
七夏「は、はい!?」
時崎「ちょっと、ごめん!」
七夏「え!? ひゃっ☆」
七夏ちゃんの額に手のひらをあてた。少し熱い気がした。七夏ちゃんは少し驚いた様子だけど、そのまま目を閉じて大人しくしてくれている。俺は七夏ちゃんの前髪を優しく掻き分け、額に手の甲をあて直す。やっぱり熱い。
七夏「・・・・・」
時崎「七夏ちゃん、少し熱があるかも知れないよ」
七夏「え!?」
時崎「体温計ある?」
七夏「はい。お部屋にあります」
時崎「俺、凪咲さんに話してくるから、体温測っててくれるかな?」
七夏「・・・はい」
凪咲さんに、七夏ちゃんの事を話す。もし、熱があるなら今日は・・・。
凪咲「あら? そうなの?」
時崎「まだ分からないですけど、今、七夏ちゃんに体温を測ってもらってます」
凪咲「そう・・・七夏も色々とあったから少し疲れが出たのかも知れないわね。あ、ごめんなさい。色々とあったのは、柚樹君も同じはずなのに・・・」
時崎「いえ。俺の事は構いません。念の為、タライとタオルを借ります。あと、熱を冷ます薬はありますか?」
凪咲「ありがとう。お薬は用意しておきますから」
時崎「はい。お願いします」
洗面所でタライに水を入れ、タオルを浸けて冷やしておく。
時崎「七夏ちゃん、もう体温測れたかな?」
俺は七夏ちゃんの部屋に急いだ。
時崎「七夏ちゃん!」
七夏「柚樹さん、どうぞです」
時崎「お邪魔します」
扉を開けると、七夏ちゃんはベットに座り、体温を測っていた。
七夏「・・・・・」
時崎「どう? ・・・って、な、七夏ちゃん!」
体温を測る七夏ちゃんの浴衣から少し見えた下着に視線を奪われてしまう・・・こんな時に何を考えているんだ! いや、七夏ちゃんだから気になってしまう・・・などと自分に言い訳をしているが、七夏ちゃんは見られている事に絶対気付いているはずだ。
七夏「!? どうしたの? 柚樹さん?」
気付いているはずなのに、気付いていないかのように尋ねてくる。これは、試されているのかも知れない。俺は正直に話した。あくまでも直接的ではない言い方で。
時崎「な、七夏ちゃん・・・そ、その、浴衣から七夏ちゃんの可愛いのが・・・」
七夏「あっ、で、でも、こうしないと、測りにくいから・・・」
時崎「そ、その・・・ごめん」
七夏「くすっ♪」
今の七夏ちゃんをまともに見れない。
時崎「・・・・・」
七夏「・・・・・」
この、もどかしくも静寂な時間を割ったのは、体温計の無機質な音だった。
ピピッ! ピピッ! ピピッ!
七夏「あ・・・」
七夏ちゃんが体温計を見る。
時崎「どう?」
七夏「37.2度・・・です」
時崎「やっぱり、熱があるみたいだね」
七夏「・・・・・」
時崎「今日は、ゆっくり休んで---」
俺がそう言いかけると、
七夏「そんなっ! 私・・・大丈夫です!!」
七夏ちゃんが、慌ててそう返してきた事に驚いた。普段の七夏ちゃんは、あまり我侭を言わないから。七夏ちゃんのお願いを聞いてあげたいけど、どうする?
時崎「七夏ちゃん。無理はしないほうがいいと思う」
七夏「だって! 今日、楽しみだったのに・・・宿題も頑張ったのに・・・どおして!?」
今にも泣きそうな七夏ちゃんを見て、胸が締め付けられそうになる。
七夏「柚樹さん・・・うぅ・・・」
また、泣かしてしまった。なんでこうなってしまうのか?
七夏ちゃんは何も悪くないのに・・・頑張っているのに・・・。
今、俺が七夏ちゃんに出来ることは何だ? 水族館へのお出掛けは今日は無しになると思うけど、それを補うだけの事はしなければならない。泣いている七夏ちゃんに、納得してもらえるようにする事が大切だ。
時崎「七夏ちゃん。今日無理して出掛けても、辛い思い出になるだけだよ・・・しっかりと、治して元気になってからにしよう!」
七夏「・・・・・」
時崎「明日、明日は予定ある?」
七夏ちゃんは、軽く首を横に振る。
時崎「じゃ、明日までにしっかり直す為に今日は、ゆっくりお休みしよう!」
七夏「・・・・・」
時崎「今日は、七夏ちゃんの側に、一緒にいるから!」
俺がそう言うと、七夏ちゃんは、頷いてくれた。
七夏「・・・・・ごめんなさい・・・ありがとうです・・・」
時崎「ああ。凪咲さんに話してくるから」
七夏「はい」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
時崎「七夏ちゃん、熱があるみたいですから、今日は家でお休みします」
凪咲「そう・・・柚樹君。ありがとうございます」
時崎「水族館は、明日、七夏ちゃんが元気になったら、一緒に出かけようと思います」
凪咲「はい。 柚樹君、お薬とお水、用意してます」
時崎「ありがとうございます」
凪咲「七夏の事、よろしくお願いします」
時崎「はい」
凪咲「今日、お泊りのお客様が来られる事になりまして」
時崎「え!? 俺も手伝える事があれば、話してください」
凪咲「ありがとう。でも、お一人様ですから、私1人で大丈夫。柚樹君は七夏の事をお願いできるかしら?」
時崎「はい! 分かりました!」
七夏ちゃんの部屋に薬とお水を持ってゆく。
時崎「七夏ちゃん!」
七夏「柚樹さん、どうぞです」
時崎「七夏ちゃん! 宿題はもういいから、休んで! 薬も持ってきたから」
七夏「は、はい。ありがとうです」
時崎「薬を飲んだら、ベッドで休む事!」
七夏「はい☆」
洗面所に向かい、水を入れたタライとタオルを持って、七夏ちゃんの部屋に入る。
七夏「柚樹さん☆」
七夏ちゃんは、ベットに休んでくれていた。少し嬉しそうで、綺麗な翠碧色の瞳に少し安心する。
時崎「タオルで冷やすから、上を見て」
七夏「はい♪」
時崎「ちょっと、ごめんね」
七夏ちゃんの額に冷たいタオルを乗せてあげた。
七夏「ひゃっ☆」
時崎「どうかな?」
七夏「冷たくて、心地いいです☆」
時崎「よかった。じゃ、時々、タオルは交換するけど、とりあえずおやすみ」
七夏「くすっ☆ とりあえず、おやすみなさいです☆」
そう話すと、七夏ちゃんは目を閉じた。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
雨音・・・今日、午後の天気は穏やかではなくなっており、七夏ちゃんの容態は先程より悪くなっていた。
七夏「はぁ・・・はぁ・・・」
七夏ちゃんの額に手のひらを当てると、明らかに今朝よりも熱い。とても息苦しそうな七夏ちゃんを見て、不安になる。
時崎「七夏ちゃん、ちょっと待ってて! すぐ戻るから!」
七夏「はぁ・・・はぁ・・・」
俺は、凪咲さんの所へ急いだけど、お泊りのお客様の対応をしているようだ。
時崎「いらっしゃいませ。ごゆっくりどうぞ!」
凪咲「柚樹君!?」
時崎「凪咲さんっ! 氷と、お皿を借ります!」
凪咲「はい」
俺は、その一声だけかけて、冷蔵庫から氷を皿に乗せて、七夏ちゃんの部屋に急いだ。
時崎「七夏ちゃん! 氷、持って来たよ」
七夏「はぁ・・・はぁ・・・」
俺はタライの中の水に氷を入れる。タオルを氷水で冷やし、七夏ちゃんの額に乗せる。
七夏「うぅ・・・はぁ・・・」
こんな事しか出来ないなんて・・・。雨粒が窓を叩く音は、不安な気持ちを増幅させられる。七夏ちゃんも同じ気持ちなのかも知れない。
時崎「七夏ちゃん」
俺は、タオルを交換する間隔を短くする。
七夏「はぁ・・・はぁ・・・」
ただひたすらに、七夏ちゃんのタオルを交換するだけになっていた。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
タオルを裏返して、冷やして・・・の繰り返しで数時間経過していた。だけど、その効果なのか、息苦しそうだった七夏ちゃんは、今、落ち着いて休んでくれている。雨も上がったようだった。
七夏「すー・・・すー・・・」
時崎「七夏ちゃん・・・ちょっと、ごめんね」
俺はタオル交換の時、七夏ちゃんの額に手の甲をあてた。
時崎「・・・良かった。熱は下がっている」
七夏「すー・・・すー・・・」
タライの氷は解けて水になっていたけど、追加の氷は必要なさそうだ。
そのまま、冷たい水で、七夏ちゃんの額を冷やす。
七夏「んん・・・」
時崎「!?」
七夏「・・・ちゃ・・・」
ちゃ? 七夏ちゃん、天美さんと一緒の夢でも見ているのだろうか? 夢を見るという事は眠りが浅くなった事を意味する。もう少しで目覚めてくれるかも知れないな。
七夏「すー・・・すー・・・」
一時はどうなるかと思ったけど、落ち着きを取り戻してくれたみたいで本当に良かった。あのまま、七夏ちゃんの希望を聞いて水族館へ出掛けていたら、大変な事になっていたと思うと、少し寒気がした。ちょっとした変化に気付いてあげられるようになりたい。
七夏「・・・さん」
時崎「!? 七夏ちゃん!?」
七夏ちゃんは、俺の方を見て微笑み、そのまま目を閉じた。これにもきっと意味があるはずだ。だけど、分からない。ん!? お布団から七夏ちゃんの手が出ている。俺はその手を優しく両手で包んだ。
七夏「くすっ☆ 柚樹さん☆」
時崎「ん?」
七夏「ありがとうです☆」
時崎「あ、ああ。気分はどう?」
七夏「はい♪ 今はとても楽です♪」
時崎「そう・・・よかった」
俺は恥ずかしくて、七夏ちゃんの顔を見れずにいた。
七夏「夢・・・」
時崎「え!?」
七夏「夢を、見ました。大きな虹が架かってて・・・一緒に見ていたのは、誰だったのか思い出せなくて・・・」
今、七夏ちゃんに色々と考えさせるのは良くない。それよりも、虹の色の事まで話し始められるのが怖かった。
時崎「七夏ちゃん!」
七夏「はい☆」
時崎「喉、乾かない?」
七夏「はい♪」
時崎「ちょっと待ってて! 飲み物、持って来るから?」
七夏「ありがとうです☆」
1階へ急ぐ。
時崎「凪咲さん!」
凪咲「柚樹君、さっきはごめんなさいね」
時崎「いえ。七夏ちゃんの熱が引いたみたいで、何か飲み物をお願いできますか?」
凪咲「まあ! 良かった。飲み物、すぐに用意しますから」
時崎「ありがとうございます!」
凪咲さんは、お茶と、切ったりんごを用意してくれた。
凪咲「柚樹君、七夏の事。お願いします」
時崎「はい。ありがとうございます!」
時崎「七夏ちゃん!」
七夏「はい。どうぞです」
時崎「飲み物とりんごを持ってきたよ」
七夏「くすっ☆ ありがとうです♪」
お茶とりんごを頂く七夏ちゃんを見て、もう大丈夫だと思うと、一気に疲れが襲ってきた。
七夏「ん・・・冷たくて美味しいです♪」
時崎「良かった」
七夏「柚樹さんも、食べませんか?」
時崎「え!?」
七夏「りんご・・・こんなに沢山は・・・」
時崎「じゃ、一緒に頂くよ!」
七夏「くすっ☆」
時崎「んー冷たくて美味しい!」
七夏「はい☆ あ!」
時崎「どうしたの?」
七夏「雨・・・降ってたの?」
時崎「え!? ああ、そうみたい」
七夏「柚樹さん、さっきは、ごめんなさい」
時崎「え!?」
七夏「私、我侭だったから・・・」
時崎「俺も楽しみにしてたから、七夏ちゃんの気持ちは凄く分かるよ」
七夏「夢を、見ました」
時崎「え!?」
七夏「さっきの続きですけど、夢なら思い通りに描けます☆」
時崎「思い通りに!?」
七夏「はい☆ 夢は自分で描ける世界だから、夢の中の虹はきっと・・・」
時崎「『夢は自分で描ける世界』・・・なんか、七夏ちゃんの言葉じゃないみたいだけど」
七夏「え!? くすっ☆」
時崎「???」
七夏「お父さんの言葉・・・借りました☆」
時崎「直弥さんの言葉か。なるほど、良い言葉だね!」
七夏「はい☆」
七夏ちゃんが虹をどのように思っているのかは、まだなんとなくしか分からない。けど、七夏ちゃんは虹に対しての考えを変えようとしている事だけは分かる。
七夏「雨が上がって、虹が見えています☆」
時崎「え!? 虹!?」
俺は、反射的に窓の外を見てしまう。けど、雨は上がっているけど、虹は見えない。目を凝らしても虹が浮かび上がってくる様子も無い。
七夏「柚樹さん♪」
時崎「な、七夏ちゃん!?」
七夏ちゃんを見ると、両手を胸の辺りに持ってきて目を閉じていた。
時崎「???」
七夏「七夏は、今日とっても幸せです♪」
虹が見えると話した七夏ちゃん。俺には見えないけど、それは、七夏ちゃんにしか見えない「しあわせの虹」なのだと理解した。その虹が見えない、分からなくても嬉しい・・・この感覚は、七夏ちゃんだからこそ、俺に伝える事が出来るのだと思う。
七夏「柚樹さん?」
目が熱い。俺は、嬉しくて、泣きそうになっていたのだと思う。
時崎「あ、ごめん・・・安心したら、眠くなって・・・」
七夏「くすっ☆ 柚樹さん、ありがとうです☆」
時崎「じゃ、少し、部屋で横になるよ」
七夏「はい☆」
時崎「七夏ちゃん、お大事に!」
七夏「はい」
部屋に戻り、今朝から敷かれたままの布団の上で横になる。今日は、アルバム制作が殆ど進まなかったけど、まあ仕方がないかな。俺は、少し休む事にした。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
少し休んだ後、お泊りのお客さんのご対応をする凪咲さんを手伝って、七夏ちゃんと一緒に夕食を頂いた。七夏ちゃんは「おかゆになってごめんなさい」と話していたけど、俺は七夏ちゃんと一緒の「おかゆ」がいいと話した。
夕食後、少しアルバム制作を進める事にした。明日は、七夏ちゃんと水族館へお出掛けする予定だから、その分、少しでも進めておいた方が良いと思う。
トントンと扉が鳴った。七夏ちゃん、まだ起きているのだろうか?
時計を見ると、日付が変わろうとしていた。少しのつもりだったけど、結構長時間、作業を行っていたようだ。
七夏「柚樹さん。七夏です」
時崎「七夏ちゃん。どうぞ!」
七夏「こんばんはです。柚樹さん、まだ起きてました?」
時崎「あ、ああ。七夏ちゃんも!?」
七夏「私は、お休みしていたのですけど、ちょっと眠れなくて・・・」
時崎「七夏ちゃん、今日はお昼も寝ていたからかな?」
七夏「はい☆ それに、明日、水族館、楽しみで☆」
時崎「今日の二の舞にならないように、早くお休みしよう!」
七夏「はい☆ 柚樹さんもです☆」
時崎「ああ! おやすみ! 七夏ちゃん!」
七夏「おやすみなさいです☆」
お休み前に、七夏ちゃんと少しお話しができた。このようなちょっとした事が、とても大きく感じられる。俺は七夏ちゃんに「しあわせの虹」をもっと届けてあげたいと思うのだった。
第四十一幕 完
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次回予告
幸せは見える物ではない。だけど、幸せかどうか気付く事は出来る。
次回、翠碧色の虹、第四十二幕
「見えない虹に気付く時」
虹を見て幸せかどうかは、人それぞれだ。それが見えなかったとしても・・・だ。俺は「見えない事」の意味を理解する。
幕間三十六:チョコを渡せない!?
七夏「ふぅ・・・」
心桜「つっちゃー大丈夫?」
七夏「はい☆」
笹夜「七夏ちゃん、あまりご無理はなさらないように♪」
七夏「笹夜先輩、ありがとうです♪」
心桜「どうする? このまま続ける?」
七夏「はい☆ ここちゃー、お願いします☆」
心桜「わかった! んじゃ、お手紙読むよ!」
七夏「はい☆」
心桜「ペンネーム、ちょコミックスさん・・・あっ!」
笹夜「まあ♪」
七夏「ご無沙汰です☆」
心桜「お久しぶりだねっ! またお手紙くれてありがと~!」
七夏「くすっ☆」
心桜「えーなになに・・・『ココナッツさん、笹夜さんこんにちは。去年、気になる人にチョコレートを渡すかどうかで悩んでいたのですけど、結局、渡しませんでした。すると、なんかその人への想いも冷めちゃって・・・。今年は特にチョコレートを渡す人が居ないという、女の子にとっては少し切ない状態になってます。義理チョコはどうかと思いますし、友チョコなら、普段から行っててあまり新鮮味がなくて・・・贅沢な悩みかも知れませんけど、チョコレートを渡したい人が居ない場合、バレンタインデーをどのように考えますか?』・・・だって、簡単だよ。渡したい人が居ないなら、何もしない! これで決まりっ!」
七夏「こ、ここちゃー!」
笹夜「まあ! 確かにそうなのですけど」
心桜「見栄を張っても空しいだけだよ」
七夏「でも、ちょコミックスさんは、渡したい人が居ない事に切なさを抱いているのですよね」
心桜「まあ、去年まではあった目標が無くなってしまったみたいだからね・・・」
笹夜「今は、想い人もいらっしゃらないご様子みたいですね」
心桜「んー・・・自分チョコってのはどう?」
七夏「えっと、自分へのチョコレート?」
心桜「そうそう! 自分で好きなのを買って、自分で頂く! 損失無し!」
七夏「誰かに渡して喜んでもらいたいのではないのかな?」
笹夜「そうね♪ 本来は想いを伝える事ですから♪」
七夏「あっ!」
心桜「ん? つっちゃー、何か良い事思い付いた?」
七夏「はい☆ お父さんに渡すのはどうかな?」
笹夜「なるほど♪」
心桜「その手があったか・・・でも、ちょコミックスさんが去年もお父さんに渡していたとしたら・・・」
笹夜「それは、問題とはなりません♪ 今年は渡す相手が居ないと話されてます♪」
七夏「お父さんに渡すのなら、そのような書き方にはならないと思います☆」
心桜「なるほどねー。あたしも、次の時はお父さんに渡してみようかな?」
七夏「くすっ☆」
心桜「そのかわり、ゆーには渡さないっ!」
笹夜「心桜さん! 弟さんと仲良くなさってください♪」
七夏「ゆーちゃん、ここちゃーからのチョコレート、楽しみにしてると思います☆」
心桜「いやいや。ゆーはお菓子だったら、いつでも何でもいいんだよ!」
七夏「確かに、ここちゃーは普段からゆーちゃんにお菓子をあげてます☆」
心桜「い、いや! それは、あたしが食べきれなかっただけで・・・」
七夏「くすっ☆」
笹夜「~♪」
心桜「ちょっ、ちょっと2人でニヤニヤするのやめてよっ!」
笹夜「ニヤニヤはしていません♪」
七夏「にこにこです☆」
心桜「あーもう! つっちゃー・・・は、ともかく、笹夜先輩は、渡す人居るのですか?」
笹夜「私?」
心桜「チョコレートを渡す人・・・あ、お父さん以外で!」
笹夜「ええ♪」
心桜「な、なんとっ!」
笹夜「今年は、時崎さんに渡せたらいいなって思ってます♪」
七夏「さ、笹夜先輩!?」
心桜「はは・・・相変わらず、真っ直ぐですねー」
笹夜「ええ♪」
心桜「(その真っ直ぐな髪は、伊達じゃないって事ですか!?)」
笹夜「心桜さん? 何か話されたかしら?」
心桜「いえ、なんでもありませんっ!」
笹夜「七夏ちゃん♪」
七夏「は、はい!?」
笹夜「私は、時崎さんに『友チョコ』として渡せたらいいなって思ってます♪」
七夏「あっ・・・」
笹夜「七夏ちゃん。私、応援してますから、頑張って♪」
七夏「は、はい☆ ありがとうです☆」
心桜「そうそう、つっちゃー頑張りなよ、応援してるのは、笹夜先輩だけじゃないんだからねっ!」
七夏「はい☆」
心桜「って事で、つっちゃーが頑張る『翠碧色の虹』本編はこちら!」
心桜「http://nanatsuiro.my.coocan.jp/nnt_frma_a.htm」
心桜「そして、あたしと笹夜先輩も頑張る『ココナッツ』宛てのお便りはこちら!」
心桜「http://nanatsuiro.my.coocan.jp/nnt_suiheki_novel.htm#QUESTIONNAIRE」
笹夜「ちょコミックスさんに、早く想い人が現れますように♪」
心桜「そだねー! それまでは、想いとチョコレートを溜め込んでおくのも良いかもね!」
七夏「早く、出逢えますようにです☆」
心桜「んで、3年くらい貯めて、波動~ウォッ! コホッ! コホッ!」
七夏「こ、ここちゃー! 私、お水持ってきます!」
笹夜「心桜さん・・・」
七夏「ここちゃー、お水です! 大丈夫?」
心桜「ありがと。つっちゃー! ちょっと、咽ただけ・・・いや、なんかこう、咽たというか咽させられた感がするっ! 誰だ!? あたしをコントロールしているヤツは!?」
笹夜「コメントは、控えさせて頂きます」
七夏「ちょコミックスさん☆ おたより、ありがとうございました☆」
心桜「誰だ!? 誰だ!? 誰~ウォッ! コホッ! コホッ! コホッ!」
笹夜「色々な意味で、この先、心配になってきました・・・」
幕間三十六 完
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幕間三十六をお読みくださり、ありがとうございました!
本編の方も鋭意制作中ですので、どうぞよろしくお願い申しあげます!
随筆四十三:告白の断り方って!?
心桜「こんちわー!」
七夏「ここちゃー☆ いらっしゃいです☆」
心桜「これ! 届いてたよ!」
七夏「あっ☆ おたより、ありがとうです☆」
心桜「笹夜先輩は!?」
七夏「えっと、今日は用事があるみたいです」
心桜「そっか、んじゃ早速、読んでみますか!」
七夏「はい☆」
心桜「えー『ペンネーム、匿名少女さん。『ココナッツさん、こんにちは。突然ですが、付き合ってくださいって告白された場合、もっとも無難な断り方を教えて頂ければと思い、お手紙いたしました。どうぞよろしくお願いします』・・・告白の断り方!?」
七夏「ごめんなさい! かな?」
心桜「速っ! つっちゃーは、そういう所、はっきりしてるよね」
七夏「だって、こういう事って早い方がいいと思って」
心桜「そりゃそーなんだけどさー。せっかく告白されたのに・・・」
七夏「告白されたのに?」
心桜「ちょ、ちょっと考えさせてって答えを延ばして・・・自分の部屋で、うぉ~告白されたぁー凄い、凄いよあたしぃ~ってベッドにダイブ! 枕に抱きついて、ごろごろ頃がりまくってみたいっ!」
七夏「えっと、お手紙主さんは、告白の断り方って話してます」
心桜「あら? 乗ってこないねー。告白されて嬉しい気持ちにならない?」
七夏「相手による・・・かな?」
心桜「ま、そりゃそうなんだけどさー」
七夏「すぐお返事ができない場合、この先続くかどうか不安です」
心桜「まずなんで、断るか・・・その理由だけど、単純に相手が好みでない!?」
七夏「他に好きな人が居るのかな?」
心桜「好きな人が居れば、断る理由にはなるけどさ、居ない場合は?」
七夏「えっと・・・」
笹夜「気になる人が---」
心桜「わぁっ!」
七夏「ひゃっ☆」
心桜「さ、笹夜先輩!? 用事があったんじゃ?」
笹夜「すみません。急いで済ませました♪」
七夏「笹夜先輩、こんにちはです☆」
心桜「はは・・・こんにちわー!」
笹夜「はい♪ こんにちは♪ あら? 心桜さん?」
心桜「いや、このパターンがあった・・・ちょっと油断してた」
笹夜「すみません・・・お二人が楽しそうにお話しされてましたから、タイミングが難しくて・・・勇気を持って話しに入るとこうなってしまって・・・」
心桜「楽しそうに見えた? んー、縄跳びに入るタイミングが難しい的なヤツかなぁ?」
七夏「え?」
心桜「まあいいや! んで、笹夜先輩! 何でしょうか?」
笹夜「え!?」
心桜「気になる人が---って」
笹夜「気になる人が居なくても、そのように伝えれば良いと思います♪」
心桜「気になる人って誰? ・・・って訊かれた場合は?」
笹夜「それ以上は、お答えする必要はありません」
心桜「それで、相手は納得しますか?」
笹夜「納得する、しないに関わらず、はっきりと意思を伝えておく事が大切なのです」
心桜「つっちゃーと同じって事か」
七夏「相手の事を想って、はっきりと断らないのは、相手の事を想っていない事になります」
心桜「んじゃさ、よくある断り方をあげてみるよ」
七夏「え!?」
心桜「まだ男の人とお付き合いするのは早いと思って---」
笹夜「では、その時まで待ちます」
七夏「その時っていつになるのかな?」
心桜「・・・・・お、お友達以上には思えなくて---」
七夏「お友達でもいいです☆」
笹夜「一緒に居るだけで構いません♪」
心桜「・・・・・ほ、他に気になる人が居るから---」
笹夜「そう・・・」
七夏「気になる人が居るなら・・・」
心桜「なんでそうなるんですか!?」
笹夜「想い人が居るなら・・・」
七夏「お互いの心が惹きあってませんから」
心桜「告白した事で、惹き合う方向に変わる事は無いの?」
笹夜「無いとは言い切れませんけど・・・」
七夏「難しいかな?」
心桜「はは・・・はぁ・・・んで、匿名少女さんは『無難な断り方』って書いてたみたいだけど?」
七夏「はっきりとお断りする事が、無難かな?」
笹夜「それ以外の方法は、無難な結果にはならないと思います」
心桜「・・・だってさ。匿名少女さん、こんなんでご参考になるのかな?」
笹夜「ひとつ、いいかしら?」
心桜「はい! どうぞ!」
笹夜「告白は相手の心に大きく響いて、自分の存在をこの上なく印象付ける効果があります。それで、相手の心を惹く事が出来たら、良いお返事が期待できますが、告白と言う最大の言葉でも相手の心が動かないのなら・・・ということです」
七夏「おたよりの匿名少女さんは、相手の告白でも心が動かなかったみたいですので・・・」
心桜「んじゃさ、他に気になる人が居るから・・・で、引き下がらないパターンを強行!」
七夏「え!?」
心桜「気になる人って誰?」
笹夜「答える必要ってあるかしら?」
心桜「答えを聞いたら、納得する!」
笹夜「居ません♪」
心桜「んなっ!」
笹夜「この意味、分かるかしら?」
心桜「居ないって事は、お付き合いする意思は全く無いと・・・んじゃさ、最初からっ!」
七夏「ここちゃー、最初に気になる人居ないって話して、相手は納得するかな?」
心桜「うっ・・・自分で話して気付いたけど遅かった・・・」
七夏「でも、気付いてくれて良かったです☆」
心桜「うっひょ~! つっちゃーシビア! その調子で、これからも頑張ってよねっ!」
七夏「え!?」
心桜「って事で、恋愛に妙にシビアなつっちゃーが主役の『翠碧色の虹』本編はこちら!」
心桜「http://nanatsuiro.my.coocan.jp/nnt_frma_a.htm」
七夏「しびあ?」
心桜「同じく、ニードル笹夜先輩が大活躍する『ココナッツ』宛てのお便りはこちら!」
心桜「http://nanatsuiro.my.coocan.jp/nnt_suiheki_novel.htm#QUESTIONNAIRE」
笹夜「にーどる?」
心桜「今回はもう、戦意喪失気味・・・決まり言だけ話して戦術的撤退っ! さらばっ!」
七夏「こ、ここちゃー!?」
笹夜「心桜さんっ!」
七夏「笹夜先輩☆ ここちゃーの分もご一緒に☆」
笹夜「ええ♪」
七夏&笹夜「匿名少女さん、おたより、ありがとうございました♪」
随筆四十三 完
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随筆四十三をお読みくださり、ありがとうございました!
本編の方も鋭意制作中ですので、どうぞよろしくお願い申しあげます!
随筆四十四:星座占いに揺られて
心桜「つ、つつ、つっちゃー!」
七夏「ひゃっ☆ どしたの? ここちゃー、そんなに慌てて」
心桜「これ見てよ! これっ!」
笹夜「あら♪ 星座占いかしら?」
心桜「そうです! あ、こんにちわ! 笹夜先輩、つっちゃーも!」
笹夜「はい♪」
七夏「こんにちはです☆」
笹夜「心桜さん、星座占いに興味があるのかしら?」
心桜「興味ですか? そんなにないですけど、ちょっと気になる事があって」
笹夜「気になる事?」
心桜「はい。その前に、これを見てください!」
【翠碧色の虹】ヒロイン3人のプロフィール 兼 あらすじ【挿絵】
https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=73371994
七夏「あ、えっと、私達の自己紹介?」
心桜「そうそう! つっちゃーって、7月23日生まれの『かに座』だよね?」
七夏「はい☆」
心桜「でもさ、この星座占いの本では、つっちゃー『しし座』になってるよ!?」
七夏「え!?」
笹夜「あら?」
心桜「ほら! ここを見て!」
笹夜「しし座:7月23日から8月22日」
心桜「かに座:6月22日から7月22日」
七夏「そうなの?」
心桜「って事で、つっちゃーは『かに座』へ滑り込みアウトォ!」
七夏「ひゃっ☆ で、でも待って、ここちゃー」
心桜「ん? 異論は、つっちゃーなら認める! あたしもつっちゃーは『かに座』だと思ってたからね!」
笹夜「~♪」
七夏「えっと、お父さんが、私は『かに座』だって話してたから・・・」
心桜「そう言えば、昔、そんな事があったよね。一緒に蟹のお料理食べながら・・・共食いがどうとか・・・」
笹夜「心桜さん、それは、この前みんなで一緒にお泊りした時に話されてませんでした?」
心桜「はは、そうだったね。でもそれよりも前から、蟹の共食いのお話しはあったんだよ・・・蟹のお料理が出てきたらお約束的な感じだったかな?」
七夏「ここちゃー! ・・・もう」
笹夜「まあ!」
七夏「私、星座は『かに座』だって思ってたから、自己紹介にも『かに座』って書きましたけど、違うのかな?」
笹夜「・・・なるほど」
心桜「お! 笹夜先輩、何か分かりました?」
笹夜「もしかすると、七夏ちゃんのお父さんは13星座で話されたのかも知れません」
心桜「13星座?」
笹夜「ええ♪ 12星座と13星座があって、お誕生日に対応する星座が異なってきます」
心桜「ひとつ増えた星座って何だろ?」
笹夜「確か、『へびつかい座』だったかしら?」
心桜「へびつかい!? それってどこに加わるんだろ?」
笹夜「少し待ってください」
星座名 12星座 13星座
牡羊座 03/21-04/19 04/19-05/13
牡牛座 04/20-05/20 05/14-06/20
双子座 05/21-06/21 06/21-07/19
蟹 座 06/22-07/22 07/20-08/10
獅子座 07/23-08/22 08/11-09/15
乙女座 08/23-09/22 09/16-10/29
天秤座 09/23-10/23 10/30-11/22
蠍 座 10/24-11/22 11/23-11/29
蛇遣座 ----------- 11/30-12/17
射手座 11/23-12/22 12/18-01/18
山羊座 12/23-01/19 01/19-02/15
水瓶座 01/20-02/18 02/16-03/10
魚 座 02/19-03/20 03/11-04/18
笹夜「蛇使い座は『さそり座』と『いて座』の間に入るみたいです♪」
心桜「なるほど、あたしは13星座だと『おうし座』になるのか」
笹夜「私は13星座ですと『しし座』になります♪」
心桜「13星座なら、つっちゃーは正真正銘の『かに座』だね! よかったねっ!」
七夏「良かったのかな?」
心桜「しし座の方が良かった?」
七夏「よく分からないですけど、いままでどおり『かに座』でいいかな♪」
笹夜「私は、自己紹介は12星座で書きましたけど、心桜さんも12星座かしら?」
心桜「あたし、親から『ふたご座』って聞いてたからね」
笹夜「七夏ちゃんは13星座を受け継いで、心桜さんは12星座を受け継いだのですね♪」
心桜「受け継いだって、そんな大袈裟な事ではないですけど」
七夏「くすっ☆」
心桜「んで、今回の星座占いの本を見て、つっちゃーの星座が間違ってた!? って思って慌てて伝えに来たってわけ」
七夏「そんなに慌てなくてもいいよ☆」
心桜「いや、慌てるって・・・設定間違えたんじゃないかって!?」
七夏「設定!?」
心桜「はは・・・今この文章焦りながら打ってる人が居たりして!?」
笹夜「心桜さんっ!?」
七夏「???」
心桜「どうやってリカバリーするか見物だったけど、そうきたかっ!」
七夏「あ、そう言えば・・・あ、ちょっと、待ってて!」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
七夏「お待たせです☆」
心桜「ん? つっちゃーそれって」
七夏「星座占いです☆」
笹夜「七夏ちゃんも、星座占いを持っていたのね♪」
心桜「どっちかって言うと、つっちゃーが持ってる方が自然だね。んで、それがどうかしたの?」
七夏「えっと、この星座占いの本では・・・」
心桜「あれ!?」
笹夜「まあ!? これは12星座かしら?」
七夏「はい☆ えっと・・・」
牡羊座 03/21-04/20
牡牛座 04/21-05/21
双子座 05/22-06/21
蟹 座 06/22-07/23
獅子座 07/24-08/23
乙女座 08/24-09/23
天秤座 09/24-10/23
蠍 座 10/24-11/22
射手座 11/23-12/22
山羊座 12/23-01/20
水瓶座 01/21-02/19
魚 座 02/20-03/20
七夏「こう書かれています☆」
心桜「つっちゃー、12星座でも『かに座』になってるね!?」
七夏「はい☆」
笹夜「この揺らぎ・・・諸説がありそうですね♪」
心桜「ま、つっちゃーは『かに座』と『しし座』どっちも間違いではないって事にしておきますか!」
七夏「よかった☆」
心桜「って事で、これからも『かに座』のつっちゃーが頑張る『翠碧色の虹』本編はこちら!」
心桜「http://nanatsuiro.my.coocan.jp/nnt_frma_a.htm」
七夏「やっぱり『かに座』なんだ」
心桜「っそ! 今さら、あたしのつっちゃーのイメージを変えられないからね」
七夏「くすっ☆」
心桜「(蟹料理で共食いって言えなくなるし)」
七夏「???」
笹夜「心桜さん!? 何か話されました?」
心桜「いえ! あたしと笹夜先輩も楽しむ『ココナッツ』宛てのお便りはこちら!」
心桜「http://nanatsuiro.my.coocan.jp/nnt_suiheki_novel.htm#QUESTIONNAIRE」
笹夜「せっかくですから、みんなで占ってみるのはどうかしら?」
七夏「はい☆」
心桜「ふたつの12星座と13星座・・・みんな結果が違ってたらどうする?」
七夏「えっと、一番良い事を信じます☆」
笹夜「ええ♪」
心桜「みんな同じ考えみたいだねっ!」
七夏「くすっ☆」
随筆四十四 完
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随筆四十四をお読みくださり、ありがとうございました!
本編の方も鋭意制作中ですので、どうぞよろしくお願い申しあげます!
第四十二幕:見えない虹に気付く時
七夏「あっ! 柚樹さん! 見えます!」
時崎「え!?」
七夏「虹が・・・」
時崎「・・・・・」
七夏「ひとつ、ふたつ、みっつ」
時崎「な、七夏ちゃん!?」
七夏「よっつ、いつつ、むっつ」
時崎「???」
七夏「ななつです☆」
時崎「!!!」
七夏「ななつの色に見えます☆」
時崎「ななつのいろ・・・って、な、七色に見えるの!?」
七夏「はいっ☆ 私・・・虹・・・こんなに綺麗だったなんて・・・」
時崎「七夏ちゃんっ!」
七夏「くすっ☆」
時崎「七夏ちゃんっ!!!」
七色の虹と大空が突然真っ暗になった。
時崎「ななっ・・・・・」
また・・・か・・・。でも、今の夢は、俺の望む夢だった気がする。
時崎「夢は自分で描くもの・・・か・・・」
確かに、自分で望まなければならない事もある。さっきの夢、正夢になればいいなと思いながら、布団から出て背伸びをする。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
七夏「あ、柚樹さん☆ おはようです☆」
時崎「七夏ちゃん、おはよう!」
七夏「くすっ☆」
七夏ちゃんの頬が少し赤い気がする。まさか、まだ熱が引いていないのか!?
時崎「七夏ちゃん、ちょっとごめん」
七夏「え!? ひゃっ☆」
俺は、七夏ちゃんの額に手をあてる。大丈夫、熱は無いと思う。七夏ちゃんは目を閉じてじっとしてくれている。
時崎「よかった。熱は大丈夫みたいだ」
七夏「はい☆ さっき、体温測りました☆」
時崎「は、測ってたの?」
七夏「えっと、36.4度・・・平熱です☆」
時崎「そ、そう。話してくれれば良かったのに」
七夏「えっと、お話しする前に柚樹さんが頭に手を・・・」
時崎「ごめん、早とちりだった」
七夏「七夏ね、柚樹さんが心配してくれて、とっても嬉しいです☆」
多分、今の俺は七夏ちゃんよりも顔が赤くなってるはずだ。
時崎「よ、よし! 今日は思いっきり楽しもう!」
七夏「はい☆ よろしくです☆」
七夏「柚樹さん☆」
時崎「?」
七夏「昨日は、ありがとです☆」
時崎「ああ」
七夏ちゃんと一緒に1階へ降りる。
凪咲「おはようございます」
時崎「凪咲さん、おはようございます!」
七夏「おはようです☆」
凪咲「七夏、今日は大丈夫そうね♪」
七夏「はい☆ 柚樹さん☆」
時崎「え!?」
七夏「朝食の準備しますから、ここに座って☆」
時崎「ありがとう。七夏ちゃん!」
何か、七夏ちゃんの話し方が以前よりもくだけたように思える。天美さんと話している時の七夏ちゃんの言葉使い・・・言葉遣いではなく、丁寧語ではなくなる事に喜びを覚えるのは初めてかも知れない。
七夏「あ、私が持ってゆきます☆」
凪咲「熱いから、気を付けて」
七夏「はい☆」
七夏ちゃんがお盆に乗せたお料理を持って来てくれる。
七夏「柚樹さん、これ、熱いから気を付けて」
時崎「ありがとう」
鍋掴みを使っている七夏ちゃんを見ると、熱いという事が伝わってくる。
七夏「どうぞです☆」
時崎「これは!?」
七夏「お雑炊です☆」
七夏ちゃんは小鍋の蓋を開けてくれた。湯気が大きく広がる。
時崎「これは、かなり熱そうだ」
七夏「この小鉢に移して、少し冷まして☆」
言葉使いはくだけても、七夏ちゃんの心遣いは変わる事がない。
時崎「頂きます! あ、七夏ちゃんも一緒に!」
七夏「はい☆ ありがとうです☆」
七夏ちゃんと一緒に、熱いお雑炊をゆっくりと時間をかけて頂く。
時崎「朝からお雑炊って、ここでは初めてかな?」
七夏「くすっ☆ お粥さんでもよかったのですけど、昨日、私あまり食べなかったから、食材が余ってて」
時崎「なるほど!」
七夏「今日、とっても楽しみです☆」
時崎「俺もだよ」
七夏「くすっ☆ 私、急いで宿題終わらせますね」
時崎「慌てなくてもいいよ。いつもどうりで。あ、分からない事があったら協力するから」
七夏「はい! ありがとです☆」
俺は思った。今日は日曜日だな。
時崎「七夏ちゃん、今日は日曜日だけど、宿題お休みじゃないの?」
七夏「今週、色々あって、あまり宿題進んでないから・・・昨日も殆ど進められませんでしたから」
時崎「色々・・・あ、ごめん」
七夏「いえ、私こそ、ごめんなさいです。ですから、宿題は頑張って終わらせます☆」
時崎「ああ!」
朝食を済ませ、七夏ちゃんと一緒に片付けを行う・・・と言っても、俺は食器を運んで机の上を拭くくらいだけど。
凪咲「七夏、今日はこれでいいわ」
七夏「はい。起きるの遅くてごめんなさい」
凪咲「いいのよ。ナオが心配してたけど、大丈夫って話しておいたから」
七夏「お父さん、最近朝のお出掛けが早いみたいだから」
凪咲「そうみたいね」
七夏「私、早起きして、お父さんを見送れるようにします」
凪咲「七夏の顔を見れたら、ナオも喜ぶと思うけど、無理はしないようにね」
七夏「はい☆」
七夏ちゃんと凪咲さんの会話が聞こえてくる。そう言われると、しばらく直弥さんとは会っていない。一応、頼まれていた事は全て行っているはずだけど、俺も七夏ちゃんと同じく、早起きして直弥さんを見送れるようにしようと思った。
七夏「柚樹さん、私、宿題済ませますから、また後で☆」
時崎「ああ!」
七夏「あ、おはようございます☆」
時崎「!?」
お泊まりのお客様が玄関に居たらしく、七夏ちゃんは挨拶をしていた。これから、ここ風水を発たれる様子だった。
凪咲「ありがとうございました。またのお越しをお待ちいたしております!」
俺もお泊りのお客様に会釈程度だけど挨拶をして見送った。何もしていない事が後ろめたく思える。
時崎「凪咲さん、すみません。何も出来てなくて」
凪咲「いいのよ、柚樹君は昨日、ずっと七夏の看病をしてくれてたから、何もしてない事はないわ。とても助かりました」
時崎「ありがとうこざいます」
凪咲さんの言葉に救われる思いだけど、俺はお泊りのお客様の事を今、会うまで、全く忘れていた。民宿風水のお手伝いをすると話している以上、これは反省点だと思う。
凪咲「柚樹君」
時崎「はい!」
凪咲「今日は七夏とお出掛けかしら?」
時崎「はい、隣街の水族館へ出掛けるつもりです」
凪咲「七夏の事、よろしくお願いします」
時崎「こちらこそ! あ、出掛けるまでに何か手伝える事がありましたら、声を掛けてください」
凪咲「ありがとう♪ 七夏のアルバム、楽しみにしているわ♪」
時崎「はい! では、部屋にいますから!」
凪咲さんに頭を下げて、自分の部屋へと戻る。今日出掛ける予定の水族館については、昨日調べているから、先にアルバム作りに集中する。凪咲さんへのアルバムは、ある程度まとまってきているけど、やはり俺だけではなく、七夏ちゃん、天美さん、高月さ・・・高月さんの事を考えると、心が揺れてしまう。凪咲さんから「これからもよろしく」と聞いているけど、高月さんと今までどうりお話しができるのだろうか!?
いや、今までどうりでなければ、高月さんや七夏ちゃんの気持ちに応える事にはならないはずだ。
七夏ちゃんに、天美さんと高月さんの都合を聞いてもらおうと思う。アルバム作りの事なら、協力してくれるはずだから。
・・・俺は、このアルバムまでも利用しようとしているのだろうか!?
と、とにかく、みんなに訊く事をまとめておく。後は、七夏ちゃんへのアルバム作りを再開しよう。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
扉から音が聞こえる。
時崎「七夏ちゃん!? どうぞ!」
七夏「柚樹さん、えっと・・・」
時崎「???」
扉の向こうから七夏ちゃんの声がするけど、部屋に入ってこない。俺は扉を開ける。
七夏「あ、ありがとうです☆」
七夏ちゃんは両手でお盆を持っていた。
時崎「お茶と和菓子、ありがとう! 入って!」
七夏「はい☆」
時崎「宿題で分からない所はない?」
七夏「はい☆ 今日の分までは済ませました☆」
時崎「え!? もう終わらせたの?」
七夏「はい☆ 柚樹さんの履歴があって助かりました♪」
時崎「履歴!? マイパッドの事?」
七夏「はい☆ 柚樹さん、私がお休みしている間に、訊いていないところまで調べてくれてたみたいだから、そのおかげです☆」
時崎「それにしても、早く済んだんだね!」
七夏「そ、そうかな? いつもより少し早いくらいかな?」
七夏ちゃんに言われて時計を見る。
時崎「もうお昼前?」
七夏「くすっ☆ 柚樹さんも集中されていたみたいです☆」
時崎「確かに集中してると時間経過が速くなる気がするよ」
七夏「楽しい時もです☆」
時崎「分かる!」
七夏「アルバム作りで何かお手伝い出来る事ってありますか?」
時崎「前みたいに、コメントを貰えると嬉しいかな」
七夏「あ、だったら、ここちゃーと笹夜先輩も一緒の方がいいかな?」
時崎「え!?」
七夏「?」
時崎「あ、ああ。その方がいいと思う!」
七夏「はい☆ では、後で連絡してみます☆」
時崎「ありがとう」
七夏ちゃんから、天美さんと高月さんに連絡を取ってもらえる事になったけど、これは、七夏ちゃんなりの心遣いだと思う。よくよく考えれば、天美さんや高月さんの連絡先を知らない。天美さんの家は分かるけど、高月さんの家は分からないから、七夏ちゃんの助けが必要だ。今日は、これから七夏ちゃんの望む事を沢山叶えてあげたい。
時崎「七夏ちゃん、この後すぐ出掛ける?」
七夏「え!? いいの?」
時崎「もちろん! お茶と和菓子頂いたら、お出掛けしよう!」
七夏「わぁ☆ あ、お昼はどうしますか?」
時崎「出掛け先でどうかな?」
七夏「はい☆ では、お母さんに話して来ます☆」
今度は少し急ぎ気味に和菓子とお茶を頂く。
時崎「ご馳走さま」
七夏「はい☆ では、お出掛けの準備をしますから、少し待っててください」
時崎「慌てなくていいから」
七夏「はい☆」
俺も出掛ける準備をする。七夏ちゃんは、凪咲さんに今日のお昼は外で頂く事を話して、部屋でお出掛けの準備をしているようだ。
出掛ける準備を終え、1階の居間で七夏ちゃんを待っている間、今日出掛ける水族館周辺をもう一度確認しておく。あと、水族館の入場チケットを忘れないように、先に七夏ちゃんに渡しておこうかな。
凪咲「柚樹君、これから七夏とお出掛けかしら?」
時崎「はい。あまり遅くならないようにします」
凪咲「遅くなる時は、連絡をくれればいいわ」
時崎「ありがとうこざいます」
凪咲「あら? 七夏!? 珍しい格好ね」
七夏「お母さん!? えっと、おかしくないかな?」
凪咲「とっても可愛いわ♪」
七夏「よかった☆ 柚樹さん☆ お待たせです☆」
時崎「七夏ちゃん!?」
七夏ちゃんの格好は、いつもと印象が大きく変わってて、凪咲さんの言葉の意味を理解できた。
七夏「ど、どうかな?」
時崎「初めて・・・」
七夏「え!?」
時崎「初めて、七夏ちゃんと出逢った時みたいな感覚かな?」
七夏「初めて・・・」
時崎「良く似合ってて可愛いよ!」
七夏「あっ・・・・・」
髪を結っている七夏ちゃんは何度も見た事があるけど、頭の上の方で髪を結っている「ポニーテール」は珍しいと思う。大きなリボンは蝶のようにも見えた。衣装もお出掛けの時はスカートが多い七夏ちゃんだけど、今日はデニムのアウターとお揃いのショートパンツにレギンスって言うのだろうか? かなり冒険・・・いや、頑張ってくれた感があって嬉しくなる。何の躊躇いもなく「可愛い」と言葉になっていた。
時崎「はじめまして・・・かな?」
七夏「くすっ☆ よろしくです☆」
時崎「よし! では出掛けますか!」
七夏「はい☆ 柚樹さん、ここちゃーみたいです☆」
時崎「天美さん?」
七夏「えっと、話し方☆」
時崎「なるほど!」
天美さんのような話し方の方が、七夏ちゃんも自然に話せるのかも知れない。
凪咲「七夏、気をつけて楽しんでらっしゃい♪」
七夏「はーい☆」
時崎「では、出掛けて来ます!」
凪咲「いってらっしゃいませ!」
七夏ちゃんと商店街を歩いて、駅前へと向かう。この前はここで小さな虹を見たな。虹はいつも突然現れるから、常にその事を意識しておいた方が良いのかも知れない。
七夏「? どしたの? 柚樹さん?」
時崎「え!?」
七夏「早く水族館に着くといいな♪」
時崎「ああ!」
そう話す七夏ちゃんは、いつもよりも少し速く歩いている気がする。
時崎「七夏ちゃん、今日は少し速く歩いてる?」
七夏「はい☆ 今から楽しみで、今日は動きやすいように意識しました☆」
時崎「なるほど」
今日の七夏ちゃんの格好、七夏ちゃんも色々と考えている事が分かったから、俺も七夏ちゃんの心に歩みを合わせる。
七夏「くすっ☆」
時崎「七夏ちゃんに遅れないように意識するよ」
七夏「はい☆」
・・・と話しつつ、七夏ちゃんを撮影する事を意識すると、どうしても七夏ちゃんの後を付いてゆく形になってしまう。七夏ちゃんもその事は分かってくれているようで、急ぎながらも、俺の事を気遣ってくれた。
駅前に着いた。この駅前の街並みも随分見慣れた風景になった。これまでの色々な出来事が頭の中を駆け巡り始めかけた時---
七夏「柚樹さん☆」
時崎「どうしたの?」
七夏「早く! 列車が駅に来てます☆」
時崎「え!? あ、分かった!」
急ぐ七夏ちゃんに付いてゆく形で切符を買い、駅のホームへと向かう。七夏ちゃんは列車の扉の前でこちらを見て、少し苦笑いの表情を浮かべた。
七夏「柚樹さん、えっと、ごめんなさいです」
時崎「!? どうしたの?」
七夏「列車、普通でした」
時崎「え!? 普通? どういう事!?」
七夏「急ぐ必要なかったみたいです」
時崎「そうなの? と、とにかくこれに乗ればいいんだよね!?」
七夏「はい☆」
今度は俺が先に列車に乗り、七夏ちゃんが後を付いてくる。車内に人はそれほど多くなく、空いている。俺は海が見える方の窓際の席の前で、七夏ちゃんを待つ。
時崎「七夏ちゃん! ここでいいかな?」
七夏「はい☆ ありがとうです☆」
時崎「どうぞ!」
俺は七夏ちゃんに窓側の席を案内した。蒸気機関車イベントでは七夏ちゃんが俺にしてくれた事だ。
七夏「え!? 柚樹さん、窓側でなくてもいいの?」
時崎「ああ、どおして?」
七夏「えっと、柚樹さん窓からの景色を撮影するかなぁって」
時崎「ありがとう! 景色と七夏ちゃんを一緒に撮影したいから!」
七夏「あっ・・・」
時崎「七夏ちゃん! 早く!」
七夏「はい☆ ありがとうです☆」
七夏ちゃんが窓側の席に座り、俺もその隣に座った。窓の外を眺めている七夏ちゃんを俺は眺めていると、七夏ちゃんと目が合った・・・窓ガラスに映っている七夏ちゃんと。
七夏「柚樹さん」
七夏ちゃんがこちらを見てきた。
時崎「どうしたの?」
七夏「急がせてしまったのに、ごめんなさい」
時崎「そう言えば、さっき普通がどうとか話してたけど」
七夏「はい」
時崎「隣街で一駅だから、普通でも特急でも同じだと思うけど、隣街の駅も特急は停まるからね」
七夏「えっと、そうではなくて・・・」
背後から大きな音が迫って来る。その音で、俺は七夏ちゃんが何故謝ってきたのかを理解した。
時崎「特急列車!?」
七夏「はい」
特急列車が普通列車の横に並んで停車した。
「特急列車、まもなく発車いたします。ご乗車されるお客様はお急ぎください」
時崎「特急の方が先に隣街に着くみたいだけど、急いで乗り換える?」
七夏「えっと、七夏はこのままがいいかな?」
時崎「七夏ちゃん、水族館へお急ぎみたいだったけど?」
七夏「特急は人が多いですから」
時崎「なるほど」
七夏「普通だとこうして、柚樹さんと一緒にのんびりできます☆」
時崎「そ、そう・・・」
自分の想いを素直に届けてくれる七夏ちゃんに対して俺は、同じように振る舞えず、恥ずかしくて七夏ちゃんから目を背けてしまう。
そのまま丁度、特急列車が出発してゆく様子を眺める形となり、少し救われた気分だけど、眺める対象はすぐに無くなってしまった。
ゆっくりと七夏ちゃんの方に視線を戻すと、七夏ちゃんは先程と同じように、窓の外を眺めていた。
再び、大きな音が聞こえてきた。
七夏「あっ♪」
その音を聞いた七夏ちゃんが、こちらを見て笑みを浮かべた。
七夏「柚樹さん☆ もうすぐ出発です☆」
時崎「そうみたいだね!」
七夏「くすっ☆」
ディーゼルエンジンの力強く大きな音。出発時刻が迫っている事が伝わってきて、自然と高揚感に包まれる。この感覚は昔、遠足で列車が出発する時に味わった感覚に近い。
「普通列車、まもなく発車いたします。ご乗車されるお客様はお急ぎください」
アナウンスと共に、さらにエンジンの音は大きくなる。七夏ちゃんも俺と同じ事を思った様子で、窓の外と俺とを交互に見てきた。七夏ちゃんが何か話したみたいだけど、よく聞き取れなかった。
列車の扉が閉まると、エンジンの音が少し断たれたようで、七夏ちゃんの声も聞こえるようになった。
時崎「七夏ちゃん、さっき何か話した?」
七夏「え!? なんでもないです☆」
景色がゆっくりと動き始め、大きな警笛音が鳴り響く。七夏ちゃんは流れてゆく景色を眺めているけど、俺は不思議に思って訊いてみた。
時崎「七夏ちゃん、今日は小説、読まないの?」
七夏「え!?」
七夏ちゃんは少し驚いた様子だけど、その後から笑顔が追いついたみたいに見えた。
時崎「この前の蒸気機関車イベントの時は、出発後すぐに小説を読んでたから」
七夏「えっと、この前はトンネルが多くて、景色も時々しか見えませんから」
時崎「なるほど」
七夏「それに、お母さんも一緒だったから☆」
時崎「な、なるほど」
七夏「くすっ☆」
時崎「七夏ちゃんは、凪咲さんと一緒の時も、そうでない時もあまり変わらないと思うけど?」
七夏「あまり、列車内でお話しし過ぎると、後で注意されます」
時崎「確かに、でも今は、人も多くないし、あまり大きな声でなければ大丈夫だと思うよ」
七夏「はい☆」
七夏ちゃんは再び、窓の外を眺める。俺も七夏ちゃんと窓の外を一緒に眺める。
七夏「もうすぐ、海が見えます☆」
七夏ちゃんがそう話した少し後で、列車の車窓からはキラキラと輝く海の光が飛び込んできた。海岸沿いを走る列車に合わせるかのように海鳥が舞っている。その様子から魚も沢山居るようだけど、よく見えない。俺は少し身を乗り出して海を眺めると、そこに大きな鯨がゆらゆらと・・・って、鯨!?
時崎「七夏ちゃん!?」
七夏「くすっ☆」
鯨のマスコットを車窓の海に重ねる七夏ちゃん。鯨はゆらゆらと揺れているだけだが、本当に海の上を泳いでいるようにも見える。
七夏「こうすると、クジラさん、泳いでませんか?」
主 「なるほど、面白いね!」
七夏「はい☆」
時崎「七夏ちゃん、そのままで!」
七夏「え!?」
鯨を海に浮かべる七夏ちゃんを1枚撮影した。
列車はしばらく海岸沿いを走っていたと思ったけど、短いトンネルを越えただけで車窓は海から都会の風景に変わっていた。この景色も何度か見ているので、列車がそろそろ隣街の駅に到着する事が分かった。
時崎「七夏ちゃん、もうすぐ隣街の駅に着くよ」
七夏「はい☆」
列車を降りて隣町の駅に着く。この場所も何度か来たから、ある程度の事は分かる。七夏ちゃんは、先を急ぐ様子はなく俺の隣に居る。
時崎「七夏ちゃん、水族館まではバスがあるみたいだよ? 急ぐ?」
七夏「えっと、バスもありますけど、水族館までなら、のんびり歩く方がいいかな。お小遣いの節約にもなります☆」
時崎「了解! 途中で気になるお店があったら寄るから声かけて」
七夏「はい☆ 柚樹さんもです☆」
時崎「ああ」
いつも気を遣ってくれる七夏ちゃん。俺は気になるお店があっても、七夏ちゃんが気にならない場合は気にしない事にする。
時崎「七夏ちゃんは、この街の水族館に来た事あるよね?」
七夏「え!? はい☆ あります☆ どおして分かったの?」
時崎「いや、隣街だけど七夏ちゃんの家から最寄りの水族館だから、一度は着ているだろうと思っただけ」
七夏「くすっ☆ 小学校の時に来ました☆ ここちゃーも一緒です☆」
時崎「天美さんも?」
七夏「学校の遠足です☆」
時崎「なるほど☆ じゃ、ある程度は知っているんだね」
七夏「はい☆ でも、久々ですから、色々と知らない事もあると思います」
時崎「新しい発見ができるといいね!」
七夏「はい☆」
水族館の建物が見えてきた。同時に風が潮の香りを運んでくる。水族館は海が近い場所にある事は調べていたけど、実際に来てみないと感覚できない事もある。潮風が心地よい。
七夏「あ!」
時崎「どうしたの?」
七夏「昔の記憶と違ったから」
時崎「あ、この建物は数年前に新しくなったみたいだよ。夜にはライトアップもされる日があるらしいよ」
七夏「そうなんだ」
七夏ちゃんと一緒に水族館に入る。
館内に入ると大きな水槽が飛び込んできた。
七夏「わぁ! とても広いです☆」
時崎「迫力ある水槽だね!」
七夏「はい☆ 前に来た時は無かったです」
時崎「そうなんだ」
七夏ちゃんは、目の前に広がる「珊瑚と海の世界」に近づいてじっと眺めている。
俺は、その様子を一枚撮影し、七夏ちゃんが何か話してくるまで、待つ事にした。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
七夏「柚樹さん、ごめんなさい」
時崎「どうしたの?」
七夏「私、長い間ぼーっと海を眺めていたから・・・」
時崎「俺も一緒に眺めていたよ! 時間を忘れてしまいそうになるね!」
七夏「はい☆」
時崎「もう少しここで眺める? 他も見て回る?」
七夏「ありがとです☆ もう少し眺めてていいかな?」
時崎「もちろん、一緒に眺めるよ!」
七夏「くすっ☆」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
七夏「柚樹さん、ありがとです☆」
時崎「もういいの?」
七夏「はい☆ 他も見て周りたいです☆」
時崎「よし! じゃ、順番に見て行こう!」
七夏「はい☆」
時崎「そう言えば、この大きなエイって、なんでガラスにへばりつくように泳いでるんだろうね!?」
七夏「くすっ☆」
時崎「そう思わない!?」
七夏「柚樹さん、ここちゃーと同じ事を話してます☆」
時崎「という事は、やっぱりみんなそう思ってる事なんだよ」
七夏「はい☆」
時崎「エイがこっちを見てニコニコしているように見えるね」
七夏「それって、目じゃないよ☆」
時崎「え!?」
七夏「あ、ごめんなさい。柚樹さん、ここちゃーと同じような事を話すからつい・・・」
時崎「謝らなくていいよ! 天美さんと一緒に居る時の七夏ちゃんで居てくれる方が嬉しいから!」
七夏「柚樹さん・・・」
時崎「あ、これは知ってる! 電気ウナギ! 電気ショックで獲物を捕獲するウナギ」
七夏「電気ショック!?」
時崎「ビリビリって来るヤツ」
七夏「はい☆ でも、自分は大丈夫なのかな?」
時崎「大丈夫じゃなかったら、1回でお終いになるよ!?」
七夏「はい。不思議です☆」
時崎「まさか、自ら『カバ焼き』にはならないでしょ!?」
七夏「くすっ☆ えっと、このお魚さんは・・・」
時崎「ハリセンボンかな?」
七夏「そうみたいですけど、もっと丸かった気がします」
時崎「あ、それは威嚇して膨れた時の姿かな? 普段からずっと膨れているわけではないみたいだね」
七夏「丸い姿の方が定着している気がします☆」
時崎「このハリセンボンのイラストとかのイメージあるからね・・・ほら!」
七夏「はい☆ えっと、ひゃっ☆」
時崎「七夏ちゃん!? あ、ウツボか、顔が怖いな・・・次いこ!」
七夏「はい!」
時崎「ディスカス・・・」
七夏「?」
「ディスカス」は知っている。成長過程で体の色の変わる魚だ。この魚を見ていると、七夏ちゃんの瞳の事を意識してしまう。それが良い事かどうかなんて---
七夏「柚樹さん?」
時崎「え!?」
七夏「綺麗なお魚さんですね」
時崎「そうだね・・・ちょっと薄っぺらいけど」
七夏「くすっ☆」
時崎「ディスカスは、とても神経質な魚らしいよ」
七夏「え!? そうなんだ。綺麗だからって、あまり見つめるとダメかな?」
・・・それは、七夏ちゃんにもあてはまる事だと思ったりした。
時崎「七夏ちゃん! あっちにも大きな水槽があるよ!」
七夏「え!? わぁ☆」
水族館の入り口にあった大きな水槽よりは少し小さいけど、こっちは淡水の大きな魚がたくさん泳いでいた。
時崎「あ、あれはアロワナ・・・か」
七夏「???」
時崎「ディスカスと同じく、成長過程で体の色が変わる魚・・・俺の気持ちとは関係なく、その泳ぎ方はとても優雅だった」
七夏「柚樹さん、あのお魚さんが気になるの?」
時崎「え!?」
七夏「えっと、水面の近くを泳いでるお魚さんです☆」
時崎「ああ、あれ? アロワナの事?」
七夏「はい☆」
時崎「気になるというか、優雅だなと思って」
七夏「くすっ☆」
しばらく、七夏ちゃんと一緒に大きな水槽を眺める。
七夏「どおしてずっと水面の近くに居るのかな?」
時崎「え!? ああ、水面に落ちてきた獲物を狙ったり、水面近くの木に止まっている虫を狙ったりするからね」
七夏「そうなんだ。でも水面より上の虫さんって・・・」
時崎「ジャンプしてかぶりつく!」
七夏「ひゃっ☆」
時崎「あ、ごめん!」
七夏「くすっ☆」
時崎「かぶりつくで思い出したけど、七夏ちゃん、お腹すかない?」
七夏「え!? あ、そう言われると少し・・・」
時崎「あっちに、お弁当販売と休憩所があるから、そこでお昼にする?」
七夏「はい☆ ありがとです☆」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
時崎「七夏ちゃん、お弁当、色々あるけど、どれにする?」
七夏「えっと、あ、このイルカさんのが可愛いです☆」
時崎「イルカランチか、じゃ、それにする?」
七夏「はい☆ 柚樹さんは?」
時崎「俺は・・・そうだな、クジランチにしようかな?」
七夏「クジラさんのお肉って高級品です☆」
時崎「そうだけど、鯨の肉は入っていないと思うよ!?」
七夏「そうなんだ」
時崎「七夏ちゃんの頼んだイルカランチにも、イルカの肉は入ってないと思うよ?」
七夏「はい☆ それは分かってます☆ きつねのおうどんと、たぬきのおそばも、そうですね☆」
時崎「あ、ああ!」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
七夏「いただきまーす☆」
時崎「いただきます!」
七夏「わぁ☆ とっても可愛いです☆ 柚樹さんのはどうかな?」
時崎「俺のは、こんな感じ・・・って、おいおいっ! これ本当に鯨の肉じゃないか!」
七夏「え!? そうなの?」
時崎「七夏ちゃん! ちょっと食べてみてよ!」
七夏「え!? えっと・・・」
時崎「はい! どうぞ!」
七夏「ありがとです! 私のこの揚げ物と交換で☆」
時崎「ありがとう!」
七夏「クジラさんのお肉って高級品であまりお店でも見かけないから、頂いた事がないです」
時崎「そうだね。でも昔は普通に売っていたらしいよ」
七夏「あ、お母さんもそう話してました。学校の給食に鯨さんのお肉があったそうです☆」
時崎「今は、調査捕鯨分だけみたいだからね」
七夏「はい☆」
時崎「イルカの肉は・・・まあ、食べる習慣はなさそうだね」
七夏「くすっ☆」
時崎「イルカと言えば、イルカのショーが、もうすぐ始まるみたいだよ。後で見にゆく?」
七夏「はい☆ 楽しみです☆」
お弁当を頂いて、水族館の本館を出る。イルカショーの開催場所へ向かうと、やはりイルカは人気らしく、その場所は人が多かった。
時崎「人が多いから、近くで見られなさそうだね」
七夏「ここからの方がいいと思います☆」
時崎「え!? 近くの方が迫力あると思うけど?」
七夏「えっと、ここからだと、全体が見渡せます☆」
時崎「じゃ、ここにしようか」
七夏「はい☆」
イルカショーが終わって、七夏ちゃんが、離れた場所からイルカショーを眺めていた本当の理由が分かった。
時崎「前の列の人、思いっきりイルカに水をかけられてたね?」
七夏「はい☆ あれがちょっと怖いからここがいいかなって☆」
時崎「七夏ちゃん、知ってたの? 教えてくれればよかったのに」
七夏「知ってしまうと、柚樹さんの楽しみが無くなってしまうと思って」
時崎「そうか・・・ありがとう!」
七夏ちゃんは楽しみながらも、俺への心遣いは忘れない。もちろん、嬉しい事なのだけど、七夏ちゃんにもっと純粋に楽しんでもらう事はできないだろうか?
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
水族館は海にも面していて、海岸での体験コーナーもあるようだ。
時崎「七夏ちゃん! あさり取りの体験があるみたいだよ!」
七夏「あさりさん、いつもお世話になってます♪」
時崎「お世話に・・・はは・・・」
海岸を七夏ちゃんと歩く。砂浜は少し歩きにくい。
時崎「七夏ちゃん、足元、大丈夫!?」
七夏「はい☆ 水族館に海岸がある事は知ってましたから♪ 柚樹さん☆」
時崎「?」
七夏「少し、海に入ってもいいかな?」
時崎「勿論! 撮影もいいかな?」
七夏「はい☆ よろしくです☆」
七夏ちゃんは、パンプス・・・ミュールって言うのかな? 靴を脱いで海岸に近付く、靴下を履いていなくて素足だった理由も判った気がする。いつもと違う七夏ちゃんの今日の格好・・・俺以上に今日の事を調べてくれていたのだという事が、分かってきた。俺は、今日の特別な七夏ちゃんを大切に記録してゆく。
七夏「ひゃっ☆」
時崎「七夏ちゃん! 大丈夫!?」
七夏「はい☆ 波が、とても冷たくて心地いいです☆」
七夏ちゃんは楽しんでくれているようだ。
七夏「こうして、波に足を乗せていると、そのまま海で泳ぎたくなります☆」
時崎「その気持ちは、とても分かるよ!」
七夏「でも、今日は水着、持って着てないから・・・」
時崎「また、一緒に海へお出掛けする?」
七夏「え!? いいの?」
時崎「ああ! 七夏ちゃんさえ良ければ!」
七夏「わぁ☆ ありがとです☆」
時崎「じゃ、日を改めて、一緒に海へお出掛けしよう!」
七夏「はいっ☆」
七夏ちゃんと、海へ一緒にお出掛けする約束を交わした。
七夏「柚樹さん、お待たせです☆」
時崎「ああ!」
足に付いた砂を洗ってきた七夏ちゃんは、とても満足そうな表情だ。俺を待たせて申し訳ないという気持ちが全く感じられない事が本当に嬉しい。
時崎「まだ本館で見ていない所があるけど、それも見る?」
七夏「はい☆」
再び、水族館の本館に戻ってきた。先ほど周ってきた方とは違う方を見て周る。
時崎「こっちは、深海魚かな?」
七夏「クラゲさんも居ます☆」
時崎「まさに流れに身を任せてだね!」
七夏「くすっ☆」
俺は虹色に輝く生き物がいないか無意識に探していた。虹色に輝く深海生物を水族館で見た記憶がある。虹色の中には、七夏ちゃんでも七色に見える虹色があるかも知れないと、思っていたからだ。そんな中、七夏ちゃんが、ある水槽を眺めて、声を掛けてくる。
七夏「柚樹さん☆」
時崎「どおしたの?」
七夏「これ、見てください!」
その水槽は、台の上に円柱を輪切りにして、横倒ししたような形状だった。円柱の厚みは20cm程で円の大きさは直径60cmくらいだろうか・・・。その円の周り付近を、沢山の小さな生き物が、くるくると回りながら移動している。円柱水槽の反対側から七夏ちゃんが姿を現す。
七夏「カニの幼生さん・・・です♪」
七夏ちゃんが、そう話してきた。
時崎「カニの幼生!? 沢山いるね!」
七夏「え!? たくさん? えっと・・・」
時崎「ん? だって、数え切れないでしょ?」
七夏「ひとつ、ふたつ、みっつ」
時崎「か、数えるの!?」
七夏ちゃんは、何かを数え始めた。何かって、カニの幼生である事は間違いない。しかし、こんなに無数にいるカニの幼生を、数えるなんて無謀だ。
七夏「よっつ、いつつ、むっつ」
時崎「七夏ちゃん!?」
七夏「ななつです☆」
時崎「え!?」
七夏「くすっ☆ 」
なんか、話がかみ合わない。これはどういう事だ!?
まてよ!? どこかで聞いたような言葉・・・今朝の夢っ!!!
七夏「ななつ・・・です☆」
時崎「え!?」
七夏「あっ・・・えっと、ななつの幼生さん♪」
時崎「ななつの幼生・・・って、カニの幼生の事!?」
七夏「はい☆」
七夏ちゃんは、カニの幼生がななつ・・・つまり、七匹いると言いたいという事が分かった。しかし、俺の目にはカニの幼生が七匹どころか無数に居る様に見える・・・とてもじゃないが数え切れない。七夏ちゃんは虹以外にも、他の人と感覚の違う物があるのかも知れないと、少し不安になってきたから、俺は訊いてみた。
時崎「えっと、七匹どころか、無数にいない?」
七夏「え!?」
時崎「ほら、こんなに沢山、くるくると回って・・・」
七夏「あっ!!」
七夏ちゃんにも、それが見えていたようで、ほっとした。
七夏「柚樹さん☆ それは、カニの幼生さんではないです☆」
時崎「え!?」
七夏ちゃんの言葉に俺は驚く。このくるくると無数にまわっている生き物が、カニの幼生ではないとすると・・・。
七夏「見えませんか?」
時崎「え!?」
俺は、目を凝らして水槽を眺める・・・くるくると無数にまわっている生き物以外に、何も見えない・・・。
七夏「えっと、この辺り・・・です☆」
俺は、七夏ちゃんが教えてくれた付近を目を細めて見てみる・・・。すると、なにやら雪の結晶のような透明な物体が、すーっと七夏ちゃんの手の付近を横切ってゆく。その透明な物体は一瞬キラッと虹色のような光を放った。その光が水槽照明の反射光である事はすぐに理解できた。
時崎「あっ!?」
七夏「くすっ☆ 見えました? ゆらゆらと♪」
時崎「あー! これが、カニの幼生だったのかっ!!!」
俺は更に、目を細めて水槽を眺める。すると、今まで全く気付かなかったカニの幼生が、次々と浮かび上がってきた。その数は七夏ちゃんの話すとおり7匹確認できた。カニの幼生は、とても透明度が高く、例えると、餡蜜や蜜豆の液体の中に浸かっている透明な寒天を探すような感覚に近い。七夏ちゃんはすぐに、カニの幼生を見つけていた。七夏ちゃんには見えるのに、自分には見えなかった・・・これが、どれだけ、もどかしく切ない事かを思い知らされた。俺は、七夏ちゃんのおかげでカニの幼生の存在に気付く事が出来た。でも、七色の虹は、まだ七夏ちゃん自身確認できていない・・・七夏ちゃんは、そんな切ない想いを、ずっと今まで・・・。
七夏「柚樹さん?」
時崎「・・・・・」
七夏「柚樹さん☆」
時崎「え!? ああ、すまない・・・」
七夏「どおしたの? 難しい顔してます」
時崎「カニの幼生か・・・奥が深いなーと思ってね・・・」
俺は、難しい顔に別の理由を当てて七夏ちゃんに返事をした。
七夏「くすっ☆」
因みに、俺がカニの幼生だと思い込んでいた無数の生き物は、カニの幼生の食べ物になるらしい。いやこれ、言われないと、誤解してゆく人も、いるんじゃないかな・・・なんて思ってしまう。
時崎「そう言えば、七夏ちゃんって『かに座』だよね!?」
七夏「え!?」
時崎「星座・・・天美さんがそう話してなかった?」
七夏「はい☆」
時崎「流石、かに座の女の子だねっ!」
七夏「それって関係あるのかなぁ?」
時崎「さぁ?」
七夏「くすっ☆ こっちのお魚さんは・・・」
時崎「メクラウオって書いてあるね。目が退化して無くなったんだって」
七夏「え!? 目が無くて何も見えないのかな?」
時崎「いや、きっと見えてると思う!」
七夏「???」
時崎「見えなくても、ずっとそのままという事は無いと思う。見えない事に気付いた時、見える事が始まるのだと思う」
七夏「見えない事に気付いた時・・・」
時崎「七夏ちゃん、さっき俺にカニの幼生の事を教えてくれたよね?」
七夏「はい」
時崎「七夏ちゃんが居なかったら、ずっと見えないままだったと思う」
七夏「あ・・・」
時崎「それに、見て! このメクラウオ!」
七夏「???」
時崎「こんなに元気そうに泳いでて、お互いにぶつからないし、岩も避けてるよ!」
七夏「・・・・・」
時崎「これって、見えてるって事じゃないかな?」
七夏「・・・・・はい☆」
時崎「ありがとう。七夏ちゃん!」
七夏「くすっ☆」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
一通り水族館本館を周って、最初に見た大きな水槽まで辿り着いた。
時崎「これで、全部見れたかな? 七夏ちゃん、お疲れ様!」
七夏「はい☆ のんびりと周れて楽しかったです☆」
時崎「確かに、結構ゆっくり見れたね!」
七夏「はい☆」
水族館を出て、隣町の駅前まで一緒に歩く。今日は俺自身も色々と思う所があったな。なにより楽しかった。七夏ちゃんとまた水族館に来れたらいいなと思う。
七夏「柚樹さんと、また水族館に一緒に来れるといいな☆」
時崎「!!!」
七夏「どしたの?」
時崎「ありがとう! 今、七夏ちゃんと同じ事を考えてたから」
七夏「あ・・・えっと・・・」
時崎「また、機会があったらよろしく! 次は海を楽しもう!」
七夏「は、はいっ!」
七夏ちゃんも楽しんでくれたみたいで良かった。これからも七夏ちゃんが、もっと楽しくて幸せな気持ちになってほしいと思う。
七夏「あっ!」
時崎「!?」
商店街を歩く中、少し先を歩いていた七夏ちゃんの足が止まった。
先ほど、水族館で七夏ちゃんが大きな水槽を眺めていた光景と重なった。七夏ちゃんが眺めているのは、花嫁衣裳、ウェディングドレスだ。俺は、水槽を眺めていた時と同じように、七夏ちゃんを待つ事にした。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
七夏「柚樹さん、ごめんなさいです」
時崎「とっても素敵だね!」
七夏「はい☆ つい眺めちゃった☆」
時崎「その気持ちは、とてもよく分かるよ!」
七夏「くすっ☆ 私もいつか、こんな素敵な花嫁衣装が着れるといいな♪」
時崎「そ、そうだね!」
なんか焦って、気の利いた返事が出来なくなっていた。
七夏「くすっ☆」
時崎「七夏ちゃん!?」
七夏「その前に、お料理とか色々と頑張ります☆」
時崎「はは・・・」
七夏ちゃんがどのような事を思っているのか、考えると顔が熱くなる。だけど、それがとても心地よい。俺は、これから先も、この感覚を大切に想いながら、七夏ちゃんの事も大切に想えるように・・・今、見え始めた虹に気付くのだった。
第四十二幕 完
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次回予告
見え始めた本当の心と虹。今こそ、俺はこの旅行の原点を振り返るべきだろうか?
次回、翠碧色の虹、第四十三幕
「たいせつななつの虹」
大切な事って、なかなか気付けない。だから自ら意識し、行動する必要があるはずだ!
幕間三十七:雛祭りの思い出に華を
七夏「~♪」
心桜「つっちゃー! ご機嫌だね!」
七夏「はい☆」
笹夜「こんにちは♪」
七夏「笹夜先輩☆ こんにちはです☆」
心桜「こんちわー! 笹夜先輩!」
笹夜「あら? 七夏ちゃん、ご機嫌ね♪」
七夏「はい☆」
心桜「今日はつっちゃー、たくさん楽しめたみたいだから!」
七夏「くすっ☆」
笹夜「七夏ちゃん、何があったのかしら?」
七夏「えっと、水族館へお出掛けしました☆」
笹夜「水族館!? 私の居る街の水族館かしら?」
七夏「はい☆」
心桜「笹夜先輩は、あの水族館は地元ですよね!」
笹夜「ええ♪ 数年前、新しくなった本館に、大きな水槽がふたつ加わった事が話題になりました♪」
心桜「大きな水槽がふたつ!?」
笹夜「確か、一番大きな海水の水槽と、その次に大きな淡水の水槽があったかしら?」
心桜「笹夜先輩は見てきたんですか?」
笹夜「ええ♪ 新しくなった時に美夜と一緒に♪」
心桜「って事は、新しくなった水族館を知らないのはあたしだけか・・・」
七夏「ここちゃー、一緒に見にゆく?」
心桜「そだね♪ 機会を設けてみんなで見にゆければいいね!」
七夏「はい☆」
心桜「んじゃ、水族館の事はつっちゃーに任せて、これ!」
七夏「あ、おたよりかな?」
笹夜「まあ♪」
心桜「んじゃ、このまま読んでみるよ!」
七夏「はい☆」
心桜「ペンネーム・・・」
七夏「・・・!?」
笹夜「心桜さん!?」
心桜「いや、たいていペンネームで話しが脱線するから・・・」
笹夜「個性的なお名前なのかしら!?」
心桜「コアラッコさん」
七夏「えっと・・・」
心桜「コアなラッコって事!?」
笹夜「コアとは核・・・つまり、物事の中心かしら?」
心桜「自己中心的なラッコって事!?」
七夏「ラッコさんも水族館に居ました☆」
心桜「はは・・・。あ、もしかして『貴様とはコアの数が違うんだよ! コアの数がっ!』のコア!?」
笹夜「何のお話しかしら?」
心桜「伝わらなかったか・・・。あ、コアラ+ラッコって事!?」
七夏「なるほど☆」
笹夜「お手紙の内容は・・・」
心桜「あ、結局脱線してるね・・・えーっと『ココナッツさん、こんにちは、3月3日は雛祭りですが、私の家には小さなお雛様があるだけで、お友達の家にある豪華な雛祭りが羨ましく思えて・・・でも、親にそんな事はなかなか言えないし。そもそも私の親はあまりそういう事に関心がなかったから。ココナッツさんは、どんなお雛祭りの思い出がありますか?』・・・だって!」
七夏「私の家にも雛人形さんは居ますけど、三人官女さんまでです☆」
心桜「つっちゃーの家はそうだったね」
笹夜「心桜さんは?」
心桜「あたしは、お殿様とお姫様のおふたりのみです! だけど、おばあちゃんの手作りなんだ!」
笹夜「まあ♪ 手作りの親王飾りかしら? 素敵です♪」
心桜「笹夜先輩は? 豪華な雛人形ですか!?」
笹夜「ええ・・・段飾りになります。美夜が生まれた時に、女の子が二人になった事で、段飾りになりました♪ それまでは親王飾りだったそうです♪」
心桜「やっぱ、女の子が多いと、親も奮発してくれるのかな?」
七夏「そういう事はないと思います」
心桜「あたしの場合は、弟居るから、鯉のぼりにエネルギーを持ってかれたかな?」
笹夜「私は、鯉のぼりも素敵だと思います。心桜さんが羨ましいです♪」
心桜「そうですか!? 実際、弟居ると、こういうイベントの日は戦いの幕開けだったりするよ!?」
七夏「ここちゃー・・・もう」
心桜「そう言えば、昔、小学校の給食で、雛祭りの日に特別なデザートがあったよね?」
七夏「はい☆ とっても美味しいです♪」
笹夜「えっと、確か菱餅かしら?」
心桜「菱餅・・・ではなくて、菱餅みたいな形の入れ物に入ったゼリーだったかな?」
七夏「真ん中の白い所はお餅だったかな?」
心桜「あーそうそう、だから『菱餅ゼリー』って話してたよね!?」
七夏「はい☆」
笹夜「そうなの?」
心桜「笹夜先輩はそうじゃなかったんですか?」
笹夜「ええ♪ 普通の菱餅でした♪」
心桜「あー、あの『菱餅ゼリー』どこで売ってるんだろ?」
七夏「そう言えば見かけないです」
心桜「給食じゃなくなってからご無沙汰だから、久々に食べたくなってきたけど・・・売ってないからなぁ・・・」
七夏「菱餅や雛あられ、雛ゼリーは見かけますけど」
笹夜「菱餅と雛ゼリーを合わせたようなイメージかしら?」
心桜「そんな感じですけど、単純に合わせただけではないかな?」
七夏「はい☆ あっ!」
心桜「ん? どした? つっちゃー?」
七夏「今度、思い出しながら作ってみようかなーって☆」
心桜「おぉっ! その手があった! つっちゃーの家は和菓子も作ってるからね!」
七夏「はい☆ お母さんに訊いてみます☆」
心桜「うんうん! 笹夜先輩! これは期待していいと思います!」
笹夜「ええ♪ とても楽しみです♪」
七夏「くすっ☆」
心桜「なんだったら、あたしたちで雛祭りするってのもいいかもね!?」
七夏「はい☆」
笹夜「雛祭りは、華やかですけど上品なお祭りですから、あまりみんなで騒ぐのは控えた方が良いかと思います♪」
心桜「分かってますって!」
七夏「くすっ☆」
心桜「あ、そうだ。コアラッコさん! あたしは、お殿様とお姫様のおふたりでもいいと思う! だって、その方が、ふたりっきりでゆっくり居られるからねっ!」
七夏「わぁ☆」
笹夜「まあ! 心桜さん!」
心桜「さ、笹夜先輩、そんなに驚かなくても・・・」
笹夜「す、すみませんっ!」
心桜「い、いや、そんなに深々と謝られなくてもっ!」
笹夜「心桜さん、素敵なお考え方です♪」
七夏「はい☆」
心桜「はは・・・照れますって!」
笹夜「それに、心桜さんが、お内裏様ではなく、お殿様とお姫様と話されておられる事も素敵です♪」
心桜「おばあちゃんが、そう話してたからってだけです!」
七夏「お内裏様って、お殿様とお姫様おふたりの事ですよね♪」
笹夜「ええ♪ お雛様も、お殿様とお姫様おふたりの事です♪」
心桜「ん!? って事は、お内裏様とお雛様~♪ って」
七夏「4人!?」
笹夜「そうかも知れませんね♪」
心桜「ひとつ分かったよ・・・おばあちゃんは正しい!」
七夏「くすっ☆」
心桜「って事で、コアラッコさん、雛祭りは、みんなそれぞれだから、自分の家のお雛様を眺めて楽しもう♪ ・・・で、いいかな?」
七夏「はい☆」
笹夜「ええ♪」
心桜「んじゃ、つっちゃーがこれからも楽しむ『翠碧色の虹』本編はこちらです!」
心桜「http://nanatsuiro.my.coocan.jp/nnt_frma_a.htm」
七夏「はいっ☆」
心桜「そして、あたしと笹夜先輩も楽しむ『ココナッツ』宛てのお便りはこちら!」
心桜「http://nanatsuiro.my.coocan.jp/nnt_suiheki_novel.htm#QUESTIONNAIRE」
七夏「そう言えば、お雛様はお雛祭りが終わったら、すぐに片付けた方がいいのかな?」
心桜「ん? それって、お嫁さんになるのが遅くなるって話?」
七夏「お雛祭りが終わっても飾っていたいなって思って☆」
笹夜「お嫁さんになるのが遅くなるというのは迷信です♪」
心桜「だねっ!」
笹夜「でも、お片づけが出来ない人は、お嫁さんになっても苦労するかも知れません♪」
心桜「うっひゃ~! さすが笹夜先輩!」
七夏「わ、私、お雛祭りが終わったら、早くお片づけしますっ!」
心桜「ははは・・・」
七夏「あ、コアラッコさん☆ おたより、ありがとうございました☆」
笹夜「ありがとうございます♪」
心桜「ありがとね~。またお手紙、待ってま~す!」
幕間三十七 完
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幕間三十七をお読みくださり、ありがとうございました!
本編の方も鋭意制作中ですので、どうぞよろしくお願い申しあげます!
随筆四十五:小説世界の小説!?
七夏「~♪」
心桜「つっちゃー!」
七夏「ここちゃー☆ いらっしゃいです☆」
笹夜「こんにちは♪ 心桜さん♪」
心桜「つっちゃー、小説読んでんの?」
七夏「はい☆」
心桜「笹夜先輩も、小説読まれてたのですか?」
笹夜「ええ♪」
心桜「おふたりとも小説・・・という事は、あたしは漫画でも読みますか!」
七夏「くすっ☆」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
七夏「~♪」
笹夜「~♪」
心桜「・・・・・」
七夏「~♪」
笹夜「~♪」
心桜「・・・・・」
七夏「~♪」
笹夜「~♪」
心桜「・・・・・あ゛~!」
七夏「ひゃっ☆」
笹夜「きゃっ!」
七夏「こ、ここちゃー? どしたの?」
笹夜「心桜さん? どうかなされました?」
心桜「どしたも、どうかなされたもないっ!」
七夏「え!?」
心桜「このままだと、座布団が飛んでくる事になるよ!」
笹夜「座布団?」
心桜「分からないのですか!? 今、すべき事ってなんですか!?」
七夏「えっと、小説を読むことかな?」
笹夜「ええ♪」
心桜「んじゃ、今、すべき事の最優先事項であるその小説ってどんなのよ?」
七夏「あ☆ えっと『コイアイ』かな?」
心桜「こいあい? 『恋つ&愛つ』・・・これってなんて読むの?」
笹夜「『こいつとあいつ』かしら?」
心桜「こいつとあいつ・・・当て字系か・・・んで、どんな話し?」
七夏「えっと---」
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「恋つ&愛つ(こいつとあいつ)」 原作/著作:T.MONDEN
こいつにだけは負けていない・・・そう思っていた。
俺は大した特技もないし成績だって中の下、運動も苦手な所謂「落ちこぼれ」というやつだ。いっその事「落ちこぼれ」の頂点でも目指してみようかと思うくらいだ。
だが、どんな世界でも頂点を極めるとなると、なかなか難しいもので、それは「落ちこぼれ」であっても例外ではなかった。
「こいつ」の存在である。落ちこぼれの俺から見ても「こいつ」は更に上をゆく「おちこぼれ」であり、精神的な意味では助けられているとも言える。
何をやっても俺より劣っている「こいつ」は、俺の主観ではなく客観的にもそう認識されており「おちこぼれ」としてからかわれるのはいつも「こいつ」の方だ。
「こいつ」が居なかったら、俺がからかわれているはずだ。
俺と「こいつ」は、落ちこぼれ同士という事もあって、気が合う事もある。
いつも「こいつ」が身代わりになってくれている事を考えると、せめてもの恩返しとして俺は「こいつ」と一緒に過ごす事が多くなっていた。
だけど、心の中では「こいつには負けていない」と思っていた。
そう、ある出来事が起こるまでは・・・。
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七夏「---っていうお話です☆」
心桜「ふーん・・・んで、結局、そのある出来事って何よ?」
七夏「それは、ここちゃーが小説を読んでみれば分かります☆」
笹夜「心桜さんも、小説を楽しまれてみればいかがかしら?」
心桜「え~! 文字ばっかだと眠くなる!」
七夏「くすっ☆」
心桜「なんかその、こいつだっけ? それも面倒なお話しのような気がしてさ・・・あたし、そういうの苦手なんだよね。もっとこう! スカッと爽快なのは無いの?」
七夏「そういう小説もあると思います☆」
笹夜「心桜さんでも楽しめそうな小説を、一緒に探してみましょう♪」
心桜「げっ、しくじった!」
七夏「どしたの? ここちゃー?」
笹夜「小説の世界は、とても素敵です♪ そうよね? 七夏ちゃん♪」
七夏「はい♪ とっても素敵です☆」
心桜「ちょ、ちょっと!」
七夏「~♪」
笹夜「~♪」
心桜「・・・・・あ゛~!」
七夏「ひゃっ☆」
笹夜「きゃっ!」
心桜「座布団が飛んできて、ぶつかるのは、こいつとあいつだ!」
七夏「!?」
心桜「ははは・・・もう、上手く回ってないよこれ・・・」
笹夜「???」
心桜「仕方が無いから、座布団が飛んでくる前に、座布団を回してみますか!?」
七夏「ここちゃー☆ 頑張ってです☆」
心桜「頑張るのは、つっちゃーなんだからねっ! ホント頼むよ!」
七夏「え!?」
心桜「って事で、今後もつっちゃーが頑張る『翠碧色の虹』本編はこちら!」
心桜「http://nanatsuiro.my.coocan.jp/nnt_frma_a.htm」
心桜「あたしたち『ココナッツ』宛ての、お手紙はこちらです!」
心桜「http://nanatsuiro.my.coocan.jp/nnt_suiheki_novel.htm#QUESTIONNAIRE」
笹夜「心桜さん!?」
心桜「まあ、今日の所は、おふたりとも小説の続きをどうぞ!」
七夏「はい☆」
笹夜「ありがとう♪ 心桜さん♪」
心桜「大丈夫なのか? これ・・・」
随筆四十五 完
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随筆四十五をお読みくださり、ありがとうございました!
本編の方も鋭意制作中ですので、どうぞよろしくお願い申しあげます!
第四十三幕:たいせつななつの虹
意識しなくても見える事、意識しなければ見えない事、そして、意識しても見えない事・・・これが問題となる。虹は滅多に出逢い自然現象のひとつだけど、俺がこの街に来るきっかけとなった虹、「ブロッケンの虹」は、滅多に出逢えない事はないのではという想いもあった。この街に「ブロッケンの虹がよく現れる場所がある」という事前情報があったからだけど、実際2日目で出逢えている。それよりも先に「ふたつの虹」、七夏ちゃんとの出逢いがあったから今がある。つまり、七夏ちゃんを意識していたから当初の目的を達成しても、この街に留まったという事だ。もし、この街に来た初日に「ブロッケンの虹」と出逢っていたら、どうなっていたのだろうか? いや、その後の行動が同じなら、バス停で七夏ちゃんと出逢っているはずだ。ここまでは振り返れば見えるけど、見えない事もある。七夏ちゃんが虹の事をどのように見て、どのように思っているかという事。七夏ちゃんは、俺の事を気遣って、本当の想いを話さない可能性があるし、俺も七夏ちゃんを大切に思っているから、虹の事について積極的に話そうとは思わなかった。このままだと、なかなか先へ進めない。
時崎「先へ進む?」
その必要ってあるのか? 先日見た夢、七夏ちゃんが七色の虹を見て喜ぶ夢、俺の願う夢。この夢を叶えてあげたいけど、具体的な解決方法がある訳でもない。大きな虹が現れても、この前のように七夏ちゃんに悲しい思いをさせてしまう可能性だってある。表面上では笑顔でも内心がそうだとは限らない。
七夏ちゃんは、虹を見て一緒に喜びたいと話してくれた。七夏ちゃんと一緒に喜べる虹・・・最も身近な虹---
時崎「ふたつの虹!!!」
七夏ちゃんに最も近く、いつも俺の側に居てくれる優しいふたつの虹。偶然現れる虹ではないから、このふたつの虹を七夏ちゃんと一緒に喜べる方法はないか!?
写真では残せないし、鏡でも七夏ちゃんには伝わっていない様子だったから、そう簡単な事ではないけど、七夏ちゃんへのアルバムで「ふたつの虹」を七夏ちゃんに伝える事が出来ないだろうか。俺と同じに見える「ふたつの虹」を七夏ちゃんと一緒に見たい!
試しに作った物はあるけど、それが七夏ちゃんに伝わるかどうかは分からない。七夏ちゃんにはまだ内緒にしている事だから。
辺りが急に明るくなった。太陽の光! 俺は太陽に背を向けて写真機を構える。
時崎「現れないか・・・」
今、俺は「ブロッケンの虹」がよく現れる場所に居る。昨日、七夏ちゃんと凪咲さんには朝早くに出掛ける事を話しているけど、場所までは話していない。だけど、七夏ちゃんも凪咲さんも、俺がこの場所に居る事に気付いているかも知れないな。
初めてこの場所に来た日から1ヶ月経過している。1ヶ月も・・・このままでは、1年もすぐに経過してしまいそうだけど、さすがにそれは無理だ。俺自身、自分の住む場所で積み残しが増えてきているから、この長い旅行も終わらせなければならない。
時崎「風水に戻ったら、この街を発つ日を七夏ちゃんと凪咲さんに話そう」
再び景色を眺める。霧は無く遠くまで見渡せるほど澄んでいるみたいだから、ブロッケンの虹が現れる可能性は低そうだ。だけど、俺はそれを分かっててここに来ている。前に見たブロッケンの虹が現れた場所を見て一礼する。
時崎「ありがとう。この場所が無かったら、大切な人との出逢いはなかったよ」
改めて、この場所の景色を撮影する。虹は見えなくても、とても充実した気分だった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
民宿風水へ戻る途中、知っている人と出会った。
時崎「おはようございます! 直弥さん!」
直弥「あ、時崎君? おはようございます」
時崎「はい」
直弥「朝早くからお出かけだったのかい?」
時崎「はい。朝日と景色を撮影しようと思いまして。直弥さんも最近は朝早くからお仕事なのですね」
直弥「そうだね。色々と片付けが残ってて」
時崎「片付け・・・ですか? あ、すみません。お急ぎの所を」
直弥「いや、気にしなくていいよ」
時崎「いってらっしゃいませ!」
直弥「ありがとう!」
その場で直弥さんを見送る。
時崎「色々と片付け・・・か」
それは、俺にも言える事だ。この街で過ごした事が良い思い出になるように、そして、俺自身も後で悔いが残らないようにしなければ!
民宿風水の前で大切な人がお花に水をあげていた。まだ俺の事には気付いていない。その自然な様子を遠くから眺める。もっと近くで眺めたいけど、近づくと気付いて自然ではなくなってしまうかも知れない。写真機を構えて、望遠レンズのズーム機能使って寄ってみる。表情まで分かり、とても可愛くてそのまま写真も撮らせて貰った。だけど、少し申し訳ない気持ちが後味として残った。
七夏「あっ! 柚樹さん☆ お帰りなさいです☆」
時崎「ただいま! 七夏ちゃん!」
七夏「くすっ☆ あっ!」
時崎「どうしたの?」
七夏「えっと、おはようございます☆ も、一緒にです☆」
時崎「ああ、おはよう! 七夏ちゃん!」
七夏「はい☆」
やはり、俺に気付いた七夏ちゃんは、先程とは違う印象で素直に嬉しいけど、俺の知らない七夏ちゃんの表情も大切だと思う。
時崎「七夏ちゃん! 写真いいかな?」
七夏「え!? はい☆」
時崎「ありがとう!」
七夏ちゃんは写真撮影を意識してか、その場から動かず、じっとしてくれている。
七夏「・・・・・柚樹さん?」
時崎「あ、ごめん。既に撮影させて貰ったから」
七夏「そうなの?」
俺は写真機の液晶画面を七夏ちゃんに見せた。
時崎「これ、いいかな?」
七夏「はい☆」
時崎「ありがとう! やっぱり、さっきのもお願いしていいかな?」
七夏「くすっ☆」
七夏ちゃんは、さっきと同じ機会をくれた。感謝しつつ、大切に撮影する。
時崎「ありがとう!」
七夏「はい☆ 柚樹さん、朝食出来てます☆」
時崎「七夏ちゃんも一緒に!」
七夏「はい☆ ありがとです☆」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
七夏ちゃんと一緒に頂く朝食・・・いつもの日常のように思えたけど、これもあとどのくらいなのだろうか? 楽しそうな七夏ちゃんを見ていると、この街を発つ日を話す事を躊躇ってしまう。
七夏「? どうしたの? 柚樹さん?」
時崎「え!? あ、ごめん。考え事」
七夏「くすっ☆」
七夏ちゃんは、それ以上の事を訊いてこない。これは、これから先も変わらないのかも知れない・・・いや、もっと七夏ちゃんと仲良くなれば、気軽に訊いてきてくれるのかも知れないな。
時崎「この玉子焼き、七夏ちゃんが作ってくれたんだよね!」
七夏「はい☆ どおして分かったの?」
時崎「俺の好きな味付けになってるから!」
七夏「くすっ☆ ありがとです☆」
時崎「こちらこそ!」
七夏ちゃんは俺の事をよく知ってくれていて、俺もそんな七夏ちゃんの心を、少しは分かっているつもりだけど、分からない事も多くある・・・それらは、分からないままになってしまうのだろうか?
七夏「柚樹さんは、この後もアルバム作りですか?」
時崎「ああ、何か手伝える事があれば話して!」
七夏「ありがとです☆ えっと今日、午後からお時間ありますか?」
時崎「大丈夫!」
七夏「ここちゃーと、笹夜先輩に連絡しようかなって思って☆」
時崎「え!?」
七夏ちゃんと海へお出掛けする話しがあったから、その事だと思ってた。
七夏「えっと、大丈夫かな?」
時崎「あ、ああ! もちろん!」
七夏「アルバムのお手伝いのお願いです☆」
時崎「ありがとう! 助かるよ!」
七夏「はい☆」
朝食を済ませ、七夏ちゃんは宿題、俺はアルバム作り・・・これもいつもの事だけど、凪咲さんへのアルバムは、ほぼまとまっている。後は七夏ちゃん、天美さん、高月さんからメッセージや意見を貰えば完成するだろう。この後に撮影した写真は、追加出来る場所を用意してあるから、なんとかなるはず。
もうひとつ、七夏ちゃんへのアルバム作りがある。今まで、考えてきた事をまとめあげながら作業を進める。「飛び出す絵本」のように変化のあるアルバムを作っていると、机の上は自然と材料が広がってゆく。
扉から音がした。
七夏「柚樹さん☆ 居ますか?」
時崎「七夏ちゃん! ちょ、ちょっと待って!」
俺は机の上に広がっていた材料を端に寄せて、七夏ちゃんへのアルバムを目に付かない所へしまう。
時崎「七夏ちゃん、お待たせ! どうぞ!」
七夏「はい☆ お邪魔します☆」
時崎「分からない所あった?」
七夏「え!?」
時崎「宿題」
七夏「えっと、宿題はあと少しで今日の分は終わります。少し休憩です☆」
時崎「お疲れさま!」
七夏「今日の午後から、ここちゃーと笹夜先輩が来てくれる事になりました☆」
時崎「ありがとう! 2人とも大丈夫みたいで良かったよ!」
七夏「はい☆ あ、ここちゃーは、少し遅れるかもって話してました」
時崎「了解! それまでに、準備・・・と言うか、部屋を片付けておくよ」
七夏「くすっ☆ 私も、それまでに宿題を済ませておきます☆」
時崎「ああ」
七夏「では、失礼いたします☆」
七夏ちゃんが部屋を出てから気付いたけど、今朝よりも言葉遣いが丁寧寄りになっていた。俺の良く知っている普段の七夏ちゃんの言葉遣いだけど何かあったのかな? もう一度、少しくだけた七夏ちゃんの可愛く元気な言葉を聞きたいと思ってしまう。
アルバム作りを再開しながら、部屋の片付けも行う。
マイパッドで、凪咲さんへのアルバムのデータを開き、眺めてゆくと---
時崎「高月さん・・・」
マイパッドに高月さんが映った時、あの時の出来事が蘇ってくる。高月さんと自然にお話し出来るように心を引き締める。七夏ちゃんと高月さんは、いつもどおりにお話しが出来ているみたいだから、俺だけの問題なのか、或いは高月さんがどのように思ってくれているかだ。
マイパッド内の高月さんの写真を、順番に眺めてしまう。写真でも充分に伝わってくる魅力的な少女だと思うけど、高月さん本人の事をある程度知っているから、仕草や声まで蘇ってくる。こんな魅力的な高月さんから好意を抱いて貰えるなんて未だに信じられない。だから、自然にお話しと言うよりも、高月さんの心を大切に考えなければならない。
思う事は沢山あるけど、手も動かさなければ・・・俺は再び、七夏ちゃんへのアルバム作りを再開した。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
凪咲さんへアルバムの事を伝えようと思い、部屋を片付けて一階へ降りる。
凪咲「まあ! もうすぐ完成なの?」
時崎「はい。今日、みんなでまとめて、写真屋さんへ製本依頼を行う予定です!」
凪咲「ありがとうございます! 楽しみにしています!」
時崎「かなり遅くなってしまって、すみません」
凪咲「いいのよ。それだけ沢山の思い出が出来たのではないかしら?」
時崎「はい!」
俺は凪咲さんに、この街を発つ予定日を告げた。
凪咲「・・・そう・・・柚樹君が居なくなると、寂しくなるわね」
時崎「ありがとうございます」
凪咲「七夏には話したのかしら?」
時崎「これから話すつもりです」
凪咲「そう・・・」
凪咲さんは、それ以上何も訊いてはこなかった。このあたりは七夏ちゃんも受け継いでいるのだろうなと思ってしまう。
時崎「凪咲さん」
凪咲「はい」
時崎「七夏ちゃんの事ですけど、結局、七色の虹を七夏ちゃんに見せてあげる事は出来ないと思います」
凪咲「柚樹君、前にも話したと思うけど---」
時崎「分かってます! 見た人の数だけ虹の色はあるって事ですよね?」
凪咲「ええ。柚樹君には、柚樹君の虹色があって、七夏には七夏の虹色がある・・・それだけの事」
時崎「あの時、凪咲さんは話してくれましたよね? 七夏ちゃんが、七色の虹に触れたいと望むのなら、母として応援したい・・・と」
凪咲「触れる事が出来るのなら・・・ね」
時崎「っ!!!」
凪咲「柚樹君は、虹に触れる事が出来るのかしら?」
時崎「・・・・・」
凪咲「始めから分かっていた事なの」
時崎「だったら、何故あの時、俺に協力してほしいって?」
凪咲「出来ない事だと分かっていても、努力する事で得られる事は沢山あるの。もしかしたら、出来る可能性だってあるのよ」
時崎「・・・・・」
凪咲「私が協力してほしいとお願いしたから、柚樹君は七夏の為に沢山の思い出を作ってくれたのではないかしら?」
確かに凪咲さんの言葉がなければ、民宿風水にお世話になりっぱなしという後ろめたさが強くなる。だけど、七夏ちゃんの為だと思えば、ここに居る理由・・・いや、ここに居れるはっきりとした理由となる。それで凪咲さんは・・・。
時崎「・・・すみません、何も知らずに・・・」
凪咲「私は、柚樹君に感謝してるわ♪」
時崎「ありがとうございます」
そのまま居間で少し頭を冷やす。凪咲さんが冷茶を持ってきてくれた。現実と夢、現実は思っているよりも厳しい事が多い。七夏ちゃんに七色の虹を見せてあげたい・・・言うだけなら簡単だ。それが出来ないと分かっているのなら、無責任な事を七夏ちゃんに話していた事になってしまう。
時崎「七夏ちゃんに、謝るべきなのだろうか?」
??「ごめんください♪」
時崎「!」
この声は、高月さんだ。思っているよりも早く来てくれたようだ。
凪咲「いらっしゃいませ♪ 高月さん、どうぞこちらへ♪」
笹夜「お邪魔いたします♪」
ど、どおしよう・・・なんて考えている場合ではないっ! とにかく、俺も挨拶に向かう。
時崎「い、いらっしゃい! 高月さん!」
笹夜「まあ♪ 時崎さん♪ 少しご無沙汰いたしております♪」
時崎「え!? あ、ああ。こちらへどうぞ!」
笹夜「はい♪ ありがとうございます♪」
俺は、高月さんを居間へ案内した。
時崎「ど、どうぞ!」
笹夜「はい♪」
時崎「高月さん?」
笹夜「時崎さん、お先にどうぞ♪」
高月さんは俺が先に座るのを待ってくれている。案内しているのは俺なんだけど、高月さんの性格からするとそうなってしまうのかな。
時崎「あ、ありがとう」
笹夜「はい♪」
時崎「って、高月さん!?」
笹夜「~♪」
高月さんは、俺のすぐ隣に座ってきた。向かい合わせに座ると思っていたのだけど、これはどういう事だ? ま、まあいいか。高月さんの行動に驚かされたのは今回だけではないから今更って事にしておく。ん? 高月さんの胸元が光ったようだけど、これは花火大会の時に買ってあげた「ムーンストーンのペンダント」だ。淡く優しい光は高月さんによく似合っている。
凪咲「高月さん、どうぞ♪」
笹夜「ありがとうございます♪」
凪咲「お昼は頂いたのかしら?」
笹夜「軽く頂いてまいりました♪」
凪咲「軽くでしたら、一緒にお昼いかがかしら?」
笹夜「まあ♪ よろしいのですか?」
凪咲「はい♪ では、準備いたしますね♪」
笹夜「ありがとうございます♪」
七夏「お母さん、お客様? って、笹夜先輩!?」
笹夜「七夏ちゃん、こんにちは♪」
七夏「こ、こんにちはです☆ 午後から来られると思ってました☆」
笹夜「時崎さんに会えると思うとつい・・・」
時崎「え!?」
七夏「え!?」
時崎「た、高月さんっ!?」
笹夜「~♪」
七夏「さ、笹夜先輩っ!」
高月さんは、俺の方に少し寄り添ってくる振りをする。高月さんって、こんな性格の人だったかな・・・やっぱり、色々と分からなくなってきた。
笹夜「ごめんなさい♪」
七夏「くすっ☆ もうっ☆ 私、お昼の準備をいたします☆」
時崎「七夏ちゃん、俺も手伝うよ!」
七夏「えっと、柚樹さんは、笹夜先輩のおもてなしをよろしくです☆」
時崎「え!?」
笹夜「ありがとう♪ 七夏ちゃん♪」
この二人、俺の知らない間にどのような事があったのだろうか? まあ、七夏ちゃんと高月さんの関係で、俺の知っている事なんて然程無いから、このような会話も俺が知らないだけなのだと思う事にする。
時崎「ふぅ・・・」
笹夜「時崎さん、お疲れですか?」
時崎「いや、それ程疲れている訳ではないけど・・・」
笹夜「けど・・・なにかしら?」
俺は思った。高月さんなら、俺が思っている疑問に的確に答えてくれるはずだ。
時崎「俺、七夏ちゃんに無責任な事を話してたのかなって」
笹夜「無責任な事?」
時崎「七夏ちゃんに、七色の虹を見せてあげたいって」
笹夜「あっ・・・」
時崎「そんな事、出来るはずないのにって」
笹夜「時崎さんは、七夏ちゃんに七色の虹を見せてあげたいって願われてますか?」
時崎「え!? ああ。もちろん」
笹夜「私も、そう願ってます♪」
時崎「!!!」
笹夜「願っているのだとしたら、その事自体を否定される理由は無いと思います」
時崎「!?」
笹夜「自分の願っている事が言葉になってしまった・・・それって、とても素敵な事だと私は思いますけど、時崎さんは、それでも無責任な言葉だったと思われますか?」
時崎「・・・高月さん・・・」
・・・やっぱり、高月さんは、高月さんだった。少し、戸惑ったけど、今の言葉は俺の知っている高月さんらしい素敵な言葉だと思う。
笹夜「どうかしら?」
時崎「さすが、高月さんらしい素敵な考え方だと思う! ありがとう!」
笹夜「まあ♪ ありがとうございます♪」
時崎「アルバムの事もよろしくお願いします♪」
笹夜「はい♪ 今は、アルバム、どのようになってますか?」
時崎「あ、ちょっと待ってて、マイパッド持って来るから!」
笹夜「時崎さん!」
時崎「え!?」
笹夜「私だけ先に見るよりも、あとで、みんなと一緒の方がいいと思います♪」
時崎「そう?」
笹夜「私が訊きたいのは、アルバムの進み具合です」
時崎「あ、そういう事か。アルバムは今日、高月さんと天美さんからコメントを貰って全体の調整を行えば完成かなって思ってる」
笹夜「まあ♪ 良かった♪ あの時、時崎さんがあと一週間くらいって話されてましたから、少し心配で・・・」
七夏「ひゃっ!」
時崎「な、七夏ちゃん!」
七夏「ご、ごめんなさいっ! お料理こぼしちゃって・・・」
時崎「大丈夫!? 火傷してない?」
七夏「は、はい☆ お料理は熱くないですので」
時崎「良かった! ここは、俺に任せて!」
七夏「は、はい! 私、着替えてきます!」
時崎「凪咲さん!」
凪咲「あら、すみません!」
時崎「この布巾、借ります!」
凪咲「ありがとうございます」
時崎「・・・よし、こんな所か・・・高月さん、ごめんね」
笹夜「いえ・・・時崎さん、すみません・・・。私、何も出来ませんでした」
これは恐らく違うと思う。高月さんは、敢えて何もしなかっただけだ。ここが高月さんの家だったら、間違いなく高月さんが先に動き、俺は何も出来ないままだったと思う。慣れている人が素早く対応しており、人手が足りている場合は、他の人は何もしない方が邪魔にならずに済む。
時崎「高月さんは、敢えて動かなかったんだと思えたけど?」
笹夜「え!?」
時崎「違うかな?」
笹夜「どうかしら♪ でも私、時崎さんのそういう所が---」
時崎「た、高月さんっ!」
笹夜「止められてしまいました♪」
時崎「あー・・・なんか疲れる」
七夏「柚樹さん、ごめんなさい!」
時崎「七夏ちゃん、大丈夫?」
七夏「はい。笹夜先輩もすみません」
笹夜「七夏ちゃん、私こそ何も出来なくて、すみません」
七夏「いえ、笹夜先輩はお客様ですから☆」
笹夜「ありがとう♪ 七夏ちゃん♪」
凪咲「七夏、大丈夫?」
七夏「お母さん、大丈夫です。ごめんなさい」
凪咲「いいのよ。七夏もここに座って。お料理は私が持ってきますから」
七夏「はい」
時崎「・・・・・」
七夏「!? どうしたの? 柚樹さん?」
時崎「いや、七夏ちゃん、着替えるって話してたけど、さっきと同じ格好だから」
七夏「くすっ☆ 着替えてます☆」
時崎「そ、そうだよね。同じ民宿風水の浴衣だからか」
七夏「違う普段着に着替えた方が良かったかな?」
時崎「俺としては、まだ見た事の無い七夏ちゃんの私服姿が見れたら嬉しいけど」
七夏「えっと・・・・・か、考えておきます・・・・・」
笹夜「時崎さん♪」
時崎「高月さん! とても素敵だと思うよ!」
笹夜「私の衣装は・・・まあ♪」
時崎「先手を打たせてもらったよ。あと、ペンダントも良く似合ってる!」
笹夜「まあ♪ 嬉しいです♪」
七夏「くすっ☆」
七夏ちゃん、高月さんと一緒に昼食を頂く。これは初めての事かも知れない。
笹夜「七夏ちゃん、『コイアイ』は読まれたかしら?」
七夏「えっと、まだ途中までです☆」
ふたりは小説のお話しに花が咲いたようだ。こうなると残念ながら俺の入る隙は無さそうだから、このままなんとなくふたりの会話を聞いている。内容はよく分からないけど、楽しそうな二人の声そのものが聞いてて心地よかった。
笹夜「ごちそうさまでした♪」
七夏「ごちそうさまです☆」
時崎「ごちそうさま!」
??「こんちわー!」
今日2回目の聞いた事のある声・・・天美さんだ。
七夏「あ、ここちゃー☆ いらっしゃいです☆」
凪咲「いらっしゃいませ! 心桜さん♪」
心桜「お邪魔しまーすっと!」
時崎「あ、天美さん! こんにちは!」
心桜「おっ! お兄さん・・・と、笹夜先輩!?」
笹夜「こんにちは♪ 心桜さん♪」
心桜「こんにちわ! 笹夜先輩、お早いお付きですねぇ~」
笹夜「ええ♪」
何か、少し嫌な予感がした。
心桜「ま、まさか! お昼を1回分節約されようと!?」
笹夜「お昼はここに来る前に軽く頂いてきましたけど、せっかくですから♪」
心桜「なななんと! あたしもそうしとけばよかった~って、ちょっと用事あったから仕方がないけど」
七夏「ここちゃー☆ まだ果物とアイスがあります☆」
心桜「え!? ホント?」
笹夜「心桜さん・・・」
七夏「笹夜先輩☆ 果物はメロンでいいですか?」
笹夜「まあ♪ メロン♪」
時崎「高月さん・・・」
笹夜「あっ! す、すみません・・・」
高月さんがまた「早く会いたかったから」とか話すことは無かったから、嫌な予感は的中しなかったけど、違う方向で・・・まあいいか。あ、勿論高月さんの想いは、とても嬉しいと訂正しておく。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
心桜「よし、んじゃ、本日のメインと参りますか!」
時崎「あ、じゃ俺、マイパッド持ってくるよ!」
心桜「ここで、確認するの?」
時崎「今、ちょっと部屋が散らかってるから」
心桜「了解っ!」
部屋はざっと片付けていたけど、天美さんや高月さんにも「七夏ちゃんへのアルバム」の事は秘密にしておく方がいいかなと思った。天美さんも高月さんも方向性は違うけど妙に鋭い所があるから、この二人が俺の部屋に居ると、七夏ちゃんへのアルバムの事を知られてしまう可能性が高い。マイパットと付箋と筆記用具を持って、1階の居間へと急ぐ。
時崎「お待たせ! この前と同じ要領でお願いするよ」
心桜「どれどれ~おぉっ! 笹夜先輩!」
笹夜「何かしら?」
心桜「これ見て! 笹夜先輩!」
笹夜「まあ♪ 時崎さん♪」
時崎「え!? って、うわっ!」
七夏「笹夜先輩☆ 素敵です☆」
時崎「これは・・・その・・・」
高月さんの事を考えながら、アルバムを眺めていた状態・・・高月さんを表示した状態でマイパッドの時は止まっていたようだ。前にもこんな事があって、その時は七夏ちゃんだったな・・・反省。
心桜「その・・・何?」
時崎「た、高月さんが先に来ると思ってたから、最初にコメント貰おうかなって・・・ごめん」
心桜「あははっ! 素直で正直が一番だよ!」
笹夜「理由はどうであれ、私は嬉しいです♪」
心桜「だってさ! 良かったね! お兄さん!」
時崎「はは・・・」
心桜「もし、笹夜先輩がお兄さんの事をお気にじゃなかったら、今ので引かれると思うよ!」
笹夜「確かに、今ので惹かれました♪」
心桜「さ、笹夜先輩!?」
笹夜「何かしら?」
心桜「ひ、引かれるの意味が・・・よし! ここはこう・・・と!」
天美さんは付箋に何かを書き上げ、それを七夏ちゃんが読み上げる。
七夏「えっと、笹夜先輩は惹かれて、お兄さんは引かれました?」
時崎「いや、決してそんな事は、俺『も』で、お願いするよ」
笹夜「~♪」
三人は、マイパッド内のアルバムを眺めながら、思い出も楽しんでいるようで、時々、高月さんが軌道修正をしてくれている。
七夏「あっ☆ 笹夜先輩のピアノ演奏☆」
心桜「この場面もう一度、聴きたいなぁ」
笹夜「時崎さんが、録画してくださってます♪」
心桜「そうなんだ。お兄さん!」
時崎「天美さん、どうしたの?」
心桜「このアルバムって、動画は埋め込めないの?」
時崎「動画?」
心桜「せっかくデジタルのアルバムなんだから、写真の一部が動画みたいに動き出したら楽しくないかなって」
時崎「なるほど、ライブフォトっていう種類かな?」
心桜「そうそう! それそれ!」
時崎「これは、製本にも対応させる為のデジタルアルバムだから、動画を埋め込むのは無理なんじゃないかな」
心桜「そうなんだ」
時崎「あ、でも方法はあるかも!?」
心桜「?」
時崎「ちょっと、マイパット貸してくれる?」
心桜「どぞー」
俺は、試しに高月さんの即興演奏を録画した動画のアドレスをコード化し、そのコード画像を写真の隅に配置した。
時崎「これで、どうかな?」
心桜「これって、商品とかに良くある値段を読み取ったりするヤツみたいだけど?」
時崎「そう。これを、マイパッドのカメラで読み込ませると・・・って、マイパッドがひとつしかないから、今は確認できないけど」
笹夜「私の携帯端末でも大丈夫かしら?」
時崎「保存先が同じなら大丈夫だと思う」
笹夜「はい。保存先は変えてませんので・・・えっと・・・」
高月さんは、マイパッドに映し出されているコード画像に携帯端末をかざす。
笹夜「まあ♪」
あの時のピアノ演奏が、高月さんの携帯端末から蘇る。
心桜「おおっ! さすがお兄さん! 凄い!」
時崎「天美さんのアイディアのおかげだよ!」
七夏「映像も見れるアルバム、きっとお母さんも喜んでくれます!」
時崎「よし! じゃ、他にも映像として残っている思い出をコード化してゆくよ」
心桜「うんうん!」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
動画は大きな保存容量を必要とする為、そんなに多くは撮っていなかったから、残っている動画はとりあえずコード化してゆく。
心桜「・・・って、これを映像化しますか?」
時崎「容量を必要とする関係で、あまり映像は撮ってないから、これは貴重な映像だよ?」
コメツキ虫にタックルをお見舞いされた天美さんの映像。今思うと凄く懐かしく可笑しい。
笹夜「まあ♪ どんな映像なのかしら♪」
七夏「えっと・・・」
心桜「さ、笹夜先輩!」
高月さんは、先ほどと同じように携帯端末をコード画像にかざしたけど、その映像は送っていないから見れないはず。
笹夜「あら? 映像が見つからないと表示されます」
心桜「いや~見つからなくて残念です!」
七夏「ここちゃー・・・もう!」
時崎「あ、俺の携帯端末を使えばいいのか!」
心桜「お、お兄さん、いいってばっ!」
時崎「いやいや、このコードが正しく読めるかの確認は必要でしょ!?」
心桜「うっ!」
時崎「おっ! これこれ!」
笹夜「まあ! 心桜さん!?」
心桜「コイツ、まだ生きてんのかな?」
時崎「どうだろうね」
心桜「あたしと再会するまで生き続けるんだぞー!」
時崎「はは・・・天美さんらしいね」
笹夜「楽しいアルバムになりました♪」
心桜「そう言えば、つっちゃーさ」
七夏「どしたの? ここちゃー?」
心桜「つっちゃー沢山映ってるけど、その浴衣が多いよね」
七夏「え!? 普段はこの浴衣ですから☆」
心桜「唯一、違う浴衣は、花火大会の時だけだよね」
七夏「そうだったかな?」
心桜「せっかくなんだから、別の浴衣も撮ってもらったら?」
七夏「え!?」
心桜「去年、着てたやつあるでしょ?」
時崎「七夏ちゃん、他の浴衣もあるの?」
七夏「はい☆」
心桜「じゃ、早速着替えてきなよ!」
七夏「え!? でも・・・」
笹夜「私も、七夏ちゃんの他の浴衣姿、見てみたいかしら?」
時崎「七夏ちゃん、お願いしてもいいかな?」
七夏「柚樹さんのお願いなら・・・ちょっと待っててください☆」
心桜「待ってるよ~」
天美さんが居てくれると、思いもよらない色々な事が起こるけど、これが天美さんの魅力なのだと思う。
時崎「ありがとう。天美さん、高月さん」
心桜「つっちゃーの魅力を引き出すのが、今日のあたしの役目だからね!」
笹夜「七夏ちゃんのアルバムですから、色々な七夏ちゃんを思い出として残せれば素敵だと思います♪」
七夏「お待たせです☆」
心桜「おおっ! つっちゃー! それそれ!」
笹夜「まあ♪ 七夏ちゃん、素敵です♪」
七夏「ありがとです☆ 柚樹さん♪」
時崎「とっても良く似合ってるよ! 髪も結ったんだね!」
七夏「はい☆ 急いでましたから、後ろで軽く結っただけですけど」
時崎「普段の七夏ちゃんのイメージも残ってて良いと思う!」
七夏「良かった☆」
心桜「ささ、つっちゃーこっちに来てこんな感じて座って!」
七夏「こう・・・かな?」
心桜「お兄さん! こっちからどうぞ!」
時崎「あ、ありがとう」
縁側に座る七夏ちゃんを横から撮影した。下駄は無く素足だけど、藍色基調の浴衣から見える素足がとても印象的に思えた。
心桜「どう? お兄さん?」
時崎「撮影はできたけど、どおして、この視点なの?」
心桜「アルバム見てると、横姿のつっちゃーがあまり居ないかなって思ったから」
時崎「なるほど」
天美さんは、七夏ちゃんもアルバムもよく見てくれている。
心桜「昼間だと、あまりぱっとしないね~」
時崎「そう?」
心桜「ま、あたしの記憶では、この浴衣のつっちゃーは夜に見ていたからね・・・写真は残ってないから、余計に記憶してるんだ」
写真に残っていない・・・軽く話す天美さんの何気ない一言が、俺にはとてもずっしりと重たく思えた。天美さんの記憶の中にある七夏ちゃんを、なんとか再現できないだろうか?
時崎「夜・・・か。よし!」
心桜「おっ! お兄さん何か閃いた!?」
時崎「ああ! ちょっと待ってて!」
俺は、今撮影した浴衣姿の七夏ちゃんの写真をマイパッドに転送し、画像加工ソフトで編集を行った。
時崎「こんな感じにしてみたけど、どうかな?」
心桜「どれどれ? おおっ!」
笹夜「まあ♪ 素敵です♪」
七夏「え!? わぁ☆」
心桜「イメージは良いのだけど、合成した感が凄くあるね~」
時崎「あ、やっぱり・・・ダメかな?」
笹夜「七夏ちゃんは、どのようにしてこの場所に来られたのかしら?」
時崎「え!?」
心桜「さすが笹夜先輩! それなんですよ! 池に大きな岩があるけど、どうやってここに、つっちゃーが来れたのか、その理由が分からないと合成感が取れない」
時崎「なるほど・・・いいなと思った背景なんだけど」
心桜「背景は悪くない」
笹夜「花火も綺麗です♪」
七夏「えっと、岩の奥に飛び石があって、そこからこの場所へ辿り着きました☆」
時崎&心桜&笹夜「・・・・・」
七夏「ど、どうかな?」
時崎「七夏ちゃん、凄い!」
心桜「つっちゃー、それ採用!」
笹夜「七夏ちゃん、参りました♪」
時崎「七夏ちゃん、よく思い付いたね! ありがとう!」
七夏「くすっ☆ せっかく柚樹さんが綺麗に合わせてくれたから、頑張って考えました☆」
心桜「つっちゃーには、時々驚かされるよ! んじゃ、これはそういう事で!」
時崎「了解! もう少し、自然な状態になるように調整してみるよ!」
心桜「うんうん!」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
時崎「これで、いいかな?」
心桜「お兄さん、お疲れ! 終わった?」
時崎「ああ! みんなのおかげで、良いアルバムになったと思う! ありがとう!」
心桜「いえいえ! 良かったね☆ つっちゃー!」
七夏「・・・・・」
笹夜「七夏ちゃん?」
七夏「アルバム、完成しちゃったら、柚樹さん・・・」
時崎「七夏ちゃん・・・」
高月さんが話していた「七夏ちゃんが以前から時々落としていた影」・・・今まで見えなかったその影が、今、はっきりと俺には見えた。
七夏「柚樹さん・・・いつ・・・ですか?」
七夏ちゃんにこの街を発つ日を告げるなら、今しかないだろう。
時崎「あと、3日くらい・・・かな?」
七夏「3日・・・」
笹夜「七夏ちゃん・・・」
心桜「つっちゃー! まだ3日もあるっ! しんみりするなら、その時にしなよ!」
七夏「え!?」
心桜「お兄さんが、今の今まで話さなかったの、なんでかつっちゃーなら分かるよね!?」
笹夜「心桜さん・・・」
七夏「は、はい☆ 私・・・ごめんなさいです☆」
時崎「天美さん、七夏ちゃん・・・ありがとう!」
心桜「ま、お兄さんの見送りは、つっちゃーに任せるよ!」
笹夜「心桜さん? 時崎さんのお見送りはされないのかしら?」
心桜「まあ、あたしも色々とあるからね! 笹夜先輩は?」
笹夜「私も、3日後・・・その日は少し難しいかしら? すみません」
時崎「天美さん、高月さん、無理しなくていいよ! ありがとう!」
七夏「私、柚樹さんをお見送りしますから☆」
時崎「ありがとう、七夏ちゃん!」
心桜「はは、つっちゃーは、ここの女将さんなんだから、自然とお見送りだね!」
七夏「くすっ☆」
時崎「それじゃ、写真屋さんへ製本依頼に出掛けるよ」
心桜「今から?」
時崎「製本には日数が掛かるから、早い方が良いんだ」
心桜「んじゃ、あたし達も商店街へ出掛けよう!」
笹夜「ええ♪」
七夏「えっと・・・」
心桜「つっちゃーは、そのままで!」
七夏「え!? 私だけ浴衣なの?」
心桜「ま、普段から浴衣でも出歩いてるでしょ!? お兄さんも早い方がいいって話してるよ!」
七夏「そ、そうだけど・・・」
心桜「お兄さんっ!」
時崎「な、七夏ちゃんさえよければ、もうしばらくその格好で居てくれると嬉しいかな」
七夏「ゆ、柚樹さんがそう言ってくれるなら・・・」
心桜「んじゃ、早速お出掛けとまいりますか!」
笹夜「ええ♪」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
3人と写真屋さんへ出かける。写真屋さんの前で、天美さんと高月さんは待ってくれると話して、写真屋さんへ入っているのは俺と七夏ちゃんだけだ。その理由は、以前にも似たような事があったから分かる・・・小さなお店に用も無いのに大勢で押し寄せるのは・・・という事だろう。七夏ちゃんには、もし、製本アルバムの仕上がりが間に合わなかった時に、代理で取りに来てもらう為、一緒に来てもらっている。
俺は、店員さんにマイパッドのアルバムデータを製本依頼する。
時崎「お時間は、3日くらい必要でしたよね?」
店員「はい」
以前に製本の事を聞いていたから、今日依頼して、ギリギリ間に合うかどうかという所か。もし間に合わなかったら、七夏ちゃんにお願いするか、民宿風水へ郵送で届けてもらう手続きをしなければならない。できれば、直接手渡しが良いのだけど。
時崎「同じアルバムを3部注文させて頂きたいのですが、それでも大丈夫でしょうか?」
店員「いつもありがとうございます。3部でしたら、大丈夫です」
時崎「急な申し出ですみません」
店員「いえ。時崎様は、よく当店をご利用くださっておりますので、お急ぎでお手配させて頂きます!」
時崎「本当ですか!? 助かります!」
店員「少々お待ちくださいませ」
製本アルバムが速く仕上がってくれると助かる。出来れば俺と七夏ちゃんで一緒に凪咲さんに渡したいから。
店員「お待たせいたしました。今からすぐに手配させて頂きますので、明後日の夕方頃には完成できる事をお約束いたします!」
時崎「ありがとうございます! 明後日の夜なら大丈夫という事でしょうか?」
店員「はい! 完成しましたら、すぐに連絡させて頂きます!」
時崎「ありがとうございます!」
七夏「柚樹さん☆ 間に合うみたいで良かったです☆」
時崎「ああ! あと、追加で現像依頼もよろしいですか?」
店員「はい! ありがとうございます。こちらも、製本アルバムと同じ時にお渡しでよろしいでしょうか?」
時崎「はい! お願いいたします!」
七夏「柚樹さん、3部って?」
時崎「天美さんと高月さんの分だよ、後で渡してくれるかな?」
七夏「はいっ☆」
時崎「一応、それまでは2人には内緒で」
七夏「くすっ☆ はい☆」
店員に御礼をして、写真屋さんを出る。
心桜「お兄さん、どうだった?」
時崎「明後日の夜には受け取れるみたいだよ!」
笹夜「まあ! 話されていたよりも速くて良かったです♪」
心桜「間に合って良かったね! つっちゃー!」
七夏「はいっ☆」
心桜「でもさ、今からもし撮影したら、その分はどうなるの?」
時崎「デジタルアルバムには追加できるけど、製本アルバムには無理かな?」
心桜「そりゃ、そうだよね・・・」
時崎「でも、製本アルバムにはその事も想定して、後から写真を追加できる予備のページを設けてあるから!」
心桜「なるほど! そんな話しがあったね!」
時崎「まあ、写真の現像は間に合わないけど、プリントなら当日でもすぐに出来るから」
心桜「ん? どういう事?」
時崎「写真屋さんにあるプリンターで直接印刷すること。現像よりも耐久性は劣るけど、丁寧に扱えば長持ちするから、その点は心配してないよ」
笹夜「そうね♪」
七夏「私、大切にします☆」
心桜「うんうん! んじゃ、この後どうする?」
七夏「私は、浴衣だから、家に戻ろうかな?」
心桜「え!? つっちゃー、もう帰っちゃうの?」
七夏「えっと、ちょっと、喉が渇いたかな?」
笹夜「では、少し休憩にいたしましょう♪」
七夏「はい☆」
こうやって、みんなで喫茶店に来れるのも、これが最後かも知れないな。そう考えると、頼んだコーヒーの苦味が、さっきよりも強くなったように思えた。
笹夜「七夏ちゃん、『コイアイ』読み終わったら、これもお勧めかしら?」
七夏「あ、その小説、私も良さそうだなって思ってました☆」
七夏ちゃんと、高月さんは、今朝話していた小説の話題を再び楽しみ始めた。その様子を見ていた天美さんが俺に小声で訊いてきた。
心桜「お兄さんさ、いつ出発するの?」
時崎「え!? 3日後だけど?」
心桜「それは、さっき聞いたよ。3日後の何時頃かなって」
時崎「あ、そういう事か。なるべく長くこの街に居るつもりだから、夜に出発しようと思ってるよ。どおして?」
心桜「時間によっては、もしかしたら、お兄さんを見送れるかも知れないから」
時崎「ありがとう。天美さん。無理しなくていいよ」
七夏ちゃんと目が合った。
七夏「あっ・・・」
不思議な「ふたつの虹」は、翠碧色から大きく変化する。初めて見た時のように・・・それは、どんな色だとしても、俺にとってこの夏に出逢えた大切な虹である事に変わりはないと思うのだった。
第四十三幕 完
----------
次回予告
虹色よりも大切な色に気付けた時、新しい色が見えてくるのだと思う。
次回、翠碧色の虹、第四十四幕
「虹よりも七色の虹」
虹色の先にある色とは、どんな色なのだろうか?
幕間三十八:想いは色々…って色!?
心桜「ふぅ~」
七夏「ここちゃー、お疲れ様です☆」
心桜「いやいや、つっちゃー居てくれて数学の宿題が捗ったよ! ありがと☆」
七夏「くすっ☆」
心桜「んじゃ、お礼に英語でも~」
七夏「えっと、大丈夫です☆」
心桜「え!? 大丈夫って!?」
七夏「英語の宿題、殆ど終わりましたので☆」
心桜「なななんと! どうなってるの?」
七夏「えっと、柚樹さんが色々と教えてくれました☆」
心桜「ほー、お兄さん、英語得意なの?」
七夏「私よりは・・・あと、色々とマイパッドで調べてくれて☆」
心桜「なるほどね~使える道具は使えって事か!」
七夏「くすっ☆」
心桜「・・・って事は、これから色々遊べるよね!」
七夏「はい☆」
心桜「色々か・・・」
七夏「どしたの? ここちゃー?」
心桜「なんか、お兄さん来てから色々とあったなーって」
七夏「くすっ☆」
心桜「つっちゃーも、色々と変わったなーと思ってさ!」
七夏「そ、そうかな?」
心桜「んー・・・そう言えば、お兄さんの容姿の事なんだけど」
七夏「え!?」
心桜「今まで、殆ど触れられていないでしょ?」
七夏「柚樹さんの容姿なら私、分かりますから☆」
心桜「そりゃ、あたしだって分かるよ」
七夏「???」
心桜「あたしたちには分かるけど、分からない人たちも居るって事!」
七夏「え!?」
心桜「ほらほら、そこに居るでしょ!?」
七夏「???」
心桜「あたし達の事を見守ってくれている大切な人たちが!」
七夏「あっ☆ いつもありがとうです!!」
心桜「ね? その人たちの為にも、お兄さんの容姿を伝えられたらなーって」
七夏「えっと、どうすれば・・・」
心桜「そうですな~・・・昆虫に---」
七夏「例えなくていいです!!!」
心桜「あら? やっぱダメ!?」
七夏「ダメです☆」
心桜「おっ、噂をすれば・・・」
時崎「七夏ちゃん、天美さん、こんにちは!」
七夏「柚樹さん、こんにちはです☆」
心桜「お兄さん、こんちわー!」
時崎「二人で何を話してたの?」
七夏「えっと・・・」
心桜「昆虫・・・じゃなくて、お兄さんの容姿についてだよ」
時崎「俺の容姿?」
心桜「っそ。あたしたちには分かるけど、分からない人も居るでしょ!? だから、その人たちにどうやって伝えればいいのかなーって」
時崎「なるほど。でも、それは敢えて分からないままにしておく方が良いと思う」
七夏「どおして?」
時崎「それは、ある程度の幅を持たせておく方がいいと思うから」
心桜「幅・・・知らない方が良い・・・ていうこと?」
時崎「そうなるね。分からないからこそ、色々と想像できる事になるからね」
心桜「なるほどねー。つっちゃー!?」
七夏「なぁに? ここちゃー?」
心桜「つっちゃーから見て、お兄さんの容姿ってどう? かっこいいと思う?」
時崎「なっ! 天美さん!」
七夏「え!? えっと・・・」
心桜「あははっ! 二人とも顔真っ赤だよ~。ごちうさ! ごちうさぁ~」
七夏「こ、ここちゃー!!」
心桜「わわっ! 赤いヤツ・・・通常の3倍で追いかけてきそうだから、戦術的撤退っ!!! さらばじゃ!」
七夏「もうっ! ここちゃー!!!」
時崎「な、七夏ちゃんっ! ・・・やれやれ。俺一人で、どうしろと・・・」
笹夜「とき---」
時崎「うわっ!」
笹夜「きゃっ!」
時崎「って、た、高月さん!? ごめんっ!」
笹夜「い、いえ・・・私こそ、すみません!」
時崎「天美さんと七夏ちゃんが居なくなって、どうしようかと思ってたから、助かったよ」
笹夜「まあ♪ という事は、今は時崎さんと私、二人っきりなのかしら♪」
時崎「え!? ま、まあ、そうなるんだけど・・・」
笹夜「~♪」
時崎「お、俺はどうすれば・・・」
笹夜「時崎さん♪」
七夏「あっ! 笹夜先輩☆ こんにちわです☆」
笹夜「まあ♪ 七夏ちゃん♪ こんにちわ♪」
時崎「七夏ちゃん、天美さんは?」
七夏「えっと、居なくなっちゃいました」
笹夜「何かあったのかしら?」
時崎「まあ、色々と・・・」
笹夜「すみません。私がここに来るのが遅れてしまって」
時崎「それは、全然構わないよ」
七夏「はい☆」
笹夜「皆さん、どんなお話しをされていたのかしら?」
心桜「こん---」
七夏「ひゃっ☆」
笹夜「きゃっ!」
時崎「おわっ!」
七夏「こ、ここちゃー!? どこに居たの?」
心桜「そっちに隠れてた! つっちゃーそのままあたしに気付かず通り過ぎてたから、可笑しくて笑いを堪えるのが辛かった」
七夏「もうっ☆」
笹夜「心桜さん、『こん』って何かしら?」
心桜「あー、昆虫に例えるとって話。ターゲットは、お兄さん!」
笹夜「た、例えなくていいです!」
心桜「あ、笹夜先輩もダメ派?」
笹夜「ええ♪」
心桜「そっか・・・2対1・・・例えちゃうと色々ありそうで怖いから、おとなしく引き下がっておきますか!」
笹夜「賢明だと思います♪」
心桜「どうやって伝えるか色々と頑張ってみますか?」
七夏「え!?」
心桜「つっちゃーが、一番よく分かってそうだから、頑張って色々と伝えるんだよ!」
七夏「は、はい☆」
心桜「って事で、つっちゃーが頑張る『翠碧色の虹』本編はこちら!」
心桜「http://nanatsuiro.my.coocan.jp/nnt_frma_a.htm」
七夏「色々・・・えっと・・・」
心桜「そして、あたしと笹夜先輩、お兄さんも楽しむ『ココナッツ』宛てのお便りはこちら!」
心桜「http://nanatsuiro.my.coocan.jp/nnt_suiheki_novel.htm#QUESTIONNAIRE」
笹夜「七夏ちゃん、そこは頑張らなくても自然に♪」
七夏「え!?」
時崎「じゃ、俺も色々と頑張るから、一緒に頑張ろう!」
七夏「はいっ☆」
笹夜「私も、微力ながら、時崎さんのお力になりますように頑張ります♪」
時崎「ありがとう! 高月さん!」
心桜「はは・・・あたし、昆虫に例えたら、トンボだったっけ?」
幕間三十八 完
------------
幕間三十八をお読みくださり、ありがとうございました!
本編の方も鋭意制作中ですので、どうぞよろしくお願い申しあげます!
随筆四十六:可愛いと綺麗って!?
心桜「こんちわ~!」
七夏「ここちゃー☆ いらっしゃいです☆」
心桜「あれ? 笹夜先輩は?」
七夏「えっと、少し遅れるそうです」
心桜「そっか。んじゃ、これどうする?」
七夏「あ、おたより☆ ありがとうございます☆」
心桜「笹夜先輩、もうすぐ来られるのなら待ってるけど」
七夏「えっと、ここちゃー読んでみて☆」
心桜「お~い! 笹夜センパ~イ!」
七夏「え!?」
心桜「ん!?」
七夏「そ、そうではなくて、お手紙を・・・です☆」
心桜「あ、そっちでしたか!」
七夏「くすっ☆ 笹夜先輩、おたよりが届いてたら先に読んでおいてって☆」
心桜「了解! んじゃ、読んでみます! ペンネーム、8251・・・さん!?」
七夏「どしたの? ここちゃー?」
心桜「ハチニーゴーイチ・・・って何だ? どっかの飛行隊か!?」
七夏「え!?」
心桜「いつも、ペンネームで引っかかってる気がする・・・つっちゃー、数学得意だよね!? 8251が何を意味するのか考えてみて! 制限時間は3秒!!!」
七夏「え!? えっと・・・」
心桜「3、2、1、はいっ! どぞ~!」
七夏「ハツコイ・・・?」
心桜「・・・・・」
七夏「・・・・・」
心桜「お手紙読むよ! 『ココナッツさん、こんにちは。突然ですが『可愛い』と『綺麗』、言われて嬉しいのはどっちですか? 私は、可愛いではなく、綺麗と言われる方が嬉しいです』だって!」
心桜「つっちゃーは『可愛い』と『綺麗』どっちを言われたら嬉しい?」
七夏「どっちも嬉しいです☆」
心桜「そりゃ、そうなんだけど、どっちかの場合」
七夏「可愛い・・・かな?」
心桜「つっちゃーは可愛い系だよねっ! でも、なんで『綺麗』よりも『可愛』いの方が嬉しいの?」
七夏「えっと、『綺麗』は、主に見た目/容姿の事を言いますけど、『可愛い』は容姿だけじゃなくて、話し方とか、仕草とか心とか、その人の内面も含めて、ちゃんと知ってくれた上でないと、言って貰えないから・・・」
心桜「・・・・・」
七夏「!? ここちゃー!?」
心桜「ごめん・・・あまりに的確過ぎて、絶句しかけた。さっきのペンネームも絶句だったけど、つっちゃー凄いよ! 頑張ってるねっ!」
七夏「そ、そうかな!?」
心桜「ま、あたしは『綺麗』『可愛い』よりも、『明るい』とか『楽しい』と言われる方が嬉しいけど、つっちゃーの話し事を考えると『可愛い』も十分ありだね!」
七夏「ここちゃーは、格好可愛いです!」
心桜「え?『(可愛い)』!? 何!? そのフォロー的な表現」
七夏「え!? フォロー?」
心桜「まさか、フォローという言葉を---」
七夏「し、知ってます!!」
心桜「フォローをフォローしなければ、ならないかと思ったけど・・・」
七夏「もう・・・」
心桜「はは・・・ごめん。んで、括弧で括られた可愛いって?」
七夏「あっ、格好可愛いは、その括弧ではなくて、格好良くて可愛いっていう意味です☆」
心桜「え!?」
七夏「ここちゃーは、格好良く可愛いいから、『格好可愛い』です♪」
心桜「そういう意味か・・・はは、ありがと。つっちゃー!」
七夏「はい☆」
心桜「でもさ、『格好良い』の『良い』が、略されて無くなっても大丈夫なのかなー」
七夏「え!?」
心桜「だって、『格好悪い』って言葉もあるよね?」
七夏「それは、大丈夫です☆」
心桜「なんで?」
七夏「その後に続く『可愛い』が、『良い印象/好意的』を、フォローしていますから!」
心桜「!!!」
七夏「こ、ここちゃー!?」
心桜「ごめん・・・また、絶句しかけた。つっちゃーが英単語を自然に使ってるから!」
七夏「え!? そっちの方なの?」
心桜「いやいや。格好可愛い! 嬉しいよ! つっちゃー、ありがと♪」
七夏「くすっ☆ はい♪」
笹夜「こんにちは♪」
七夏「笹夜先輩、こんにちはです☆」
心桜「こんちわー! 笹夜先輩!」
笹夜「遅くなってすみません」
心桜「いえいえ! あ、でも、お手紙を先に読ませてもらってます!」
笹夜「ええ♪ どのようなお話しなのかしら?」
七夏「えっと---」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
心桜「---という事です!」
笹夜「なるほど♪」
心桜「笹夜先輩は『可愛い』と『綺麗』どっちを言われたら嬉しいですか?」
笹夜「どちらでも嬉しいです♪」
心桜「そりゃ、そうなんだけど、どちらかの場合のお話しです」
笹夜「可愛い・・・かしら?」
心桜「あらま! つっちゃーと同じ!?」
笹夜「『綺麗』は、主に見た印象の事を差すだけですけど、『可愛い』は、見た目はもちろん、その人の心や振る舞いも含まれている気がしますから♪」
心桜「理由までもつっちゃーと同じですか!?」
笹夜「まあ♪」
七夏「くすっ☆」
心桜「でもさ、心や振る舞いが『綺麗』という言い方も出来なくないですか?」
笹夜「確かにそうですね♪ ですけど、『綺麗』という言葉は、元々は目に見える物を差す言葉で、『可愛い』は見える事と、見えない事を差す意味があります♪」
心桜「なるほど『性格が可愛い』はよく言うけど、『性格が綺麗』とはあまり言わないよね」
七夏「くすっ☆ 心が綺麗はあるかもです☆」
笹夜「綺麗な心・・・いつまでもそうでありたいですね♪」
心桜「だねっ! という事で、あたしたちは『綺麗』と『可愛い』なら『可愛い』と言われる方が嬉しいという結論となりました!」
七夏「ハツコイさん☆ おたより、ありがとうございました☆」
心桜「ホントに『ハツコイさん』でいいの?」
笹夜「私も『ハツコイさん』だと思います♪」
心桜「ま、鋭い笹夜先輩が保証してくださるのなら、異論は無いです! 今回、つっちゃーも妙に鋭かったし・・・」
七夏「え!?」
心桜「いや、なんでもないっ! ハツコイさん! お手紙ありがとうございました!」
笹夜「ありがとうございました♪」
心桜「ま、とにかくこの調子で今後も頑張るんだよ! つっちゃー!」
七夏「はい☆」
心桜「って事で、これからもつっちゃーが頑張る『翠碧色の虹』本編はこちら!」
心桜「http://nanatsuiro.my.coocan.jp/nnt_frma_a.htm」
心桜「あたしたち『ココナッツ』宛ての、お手紙はこちらです!」
心桜「http://nanatsuiro.my.coocan.jp/nnt_suiheki_novel.htm#QUESTIONNAIRE」
七夏「ここちゃー☆」
心桜「今ここに、ツインニードル誕生の---って、何?」
七夏「えっと、いつもお疲れ様です☆」
笹夜「進行役も大変ですから、心桜さんお疲れ様です♪」
心桜「ありがとうございますっ! あたしも頑張るっ!」
七夏「くすっ☆」
随筆四十六 完
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随筆四十六をお読みくださり、ありがとうございました!
本編の方も鋭意制作中ですので、どうぞよろしくお願い申しあげます!
第四十四幕:虹よりも七色の虹へ
時崎「高月さん、お気をつけて!」
笹夜「はい♪ 時崎さん♪」
時崎「どうしたの?」
笹夜「あ、あの・・・最後かも知れないから・・・名前で・・・」
時崎「え!?」
どうしようかと迷ったけど。高月さんのお願いも叶えてあげたい。
笹夜「・・・・・む、無理なら・・・」
時崎「ありがとう。さ、笹夜・・・さん」
笹夜「はい♪ ありがとうございます♪」
時崎「ひとつ話しておくけど、次は、今までどおりでいいかな?」
笹夜「え!? あっ・・・」
鋭い高月さんなら、俺の言葉がどういう事を意味しているのか分かってもらえると思う。
笹夜「・・・はい♪ 時崎さんのお言葉・・・大切にいたします♪」
時崎「ありがとう!」
笹夜「それでは、失礼いたします♪」
駅で高月さんを見送った時、過去の記憶と重なった。高月さんとはこれで最後ではないと確信している。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
七夏「柚樹さん! ご飯のおかわり、いかがですか?」
時崎「え!? あ、ありがとう!」
七夏「くすっ☆」
七夏ちゃんと朝食を頂きながら、昨日、高月さんを駅まで送った事を思い出してしまっていた。
時崎「・・・・・」
七夏「はい☆ どうぞです☆」
七夏ちゃんから、ご飯のおかわりを受け取る。
時崎「ありがとう。み、水風さん」
七夏「えっ!? 柚樹さん!?」
時崎「七夏ちゃんの事を、水風さんって呼ぶのも久々かなって」
七夏「くすっ☆ 驚きました☆ どおして急に?」
時崎「丁度、1ヶ月なんだよ」
七夏「え!?」
時崎「七夏ちゃんと出逢ってから1ヶ月!」
七夏「あっ、1ヶ月になるんだ。でも、あの時、私は最初に名前を言いました☆」
時崎「そうだったね。ごめんね。どおして名前なの?」
七夏「えっと『七夏』が、私の名前ですから☆」
時崎「もっともな答えだね」
七夏「初対面の人には、名前から教える方がいいよってお母さんが・・・」
時崎「どうして?」
七夏「えっと、名前だけだと、お家が特定しにくいからかな?」
時崎「でも、あの時、七夏ちゃんは苗字も教えてくれたよね?」
七夏「はい☆ 柚樹さんが先にお名前と苗字を話してくれましたから、私が名前だけって言うのは失礼かなって思って☆」
時崎「なるほど」
七夏「くすっ☆ あっ、柚樹さんなら、他の呼び方でもいいです☆」
時崎「他の呼び方?」
七夏「えっと、ここちゃーみたいにです☆」
時崎「あー・・・みのちゃーとか!?」
七夏「そ、その呼び方は・・・ま、まあ柚樹さんだけなら・・・」
時崎「ごめん。つっちゃー・・・さん!」
七夏「くすっ☆」
時崎「七夏ちゃんの事は、七夏ちゃんって呼ぶのが一番自然かな」
七夏「はい☆ えっと、お話し変わりますけど、柚樹さんは明後日の夜に出発ですか?」
時崎「ああ。出来るだけ、ぎりぎりまで七夏ちゃんと一緒にいたいから!」
七夏「あっ・・・」
七夏ちゃんは、嬉しそうだけど、少し寂しそうな表情を見せたような気がした。七夏ちゃんが楽しめるように考えなければ!
時崎「七夏ちゃん! 海!」
七夏「え!?」
時崎「今日、海へお出掛けしよう! 時間、あるかな?」
七夏「わぁ☆ ありがとうです☆」
時崎「じゃ、えっと・・・これから宿題だよね?」
そう話すと、七夏ちゃんは首を横に振った。
七夏「えっと、柚樹さんと一緒に居る時間を増やしたいから、宿題は後にしようかなって☆」
時崎「え!? 大丈夫なの?」
七夏「はい☆ 今度の土日に頑張ります! お母さんもそれでいいって話してくれました☆」
時崎「なんか、ごめん・・・」
七夏「全然平気・・・です」
時崎「!? 何か、気になる事があるの?」
七夏「えっと、宿題は殆ど大丈夫なのですけど、自由研究だけが、まだ決まってなくて・・・」
時崎「自由研究か・・・そう言えば、前にそんな事を話してたよね」
七夏「・・・・・」
思い出してしまった。自由研究のテーマを探そうとして、民宿風水の外へ出て、大きな虹を見て・・・でも、今の俺はあの時とは違う! もちろん、七夏ちゃんもあの時とは違うはずだ!
時崎「七夏ちゃん! 良かったら自由研究のテーマも、この後一緒に探さない?」
七夏「え!? 一緒に? いいの?」
時崎「もちろん! 今日の分の宿題はそれでどうかな?」
七夏「はい☆ 助かります☆」
時崎「じゃ、ご飯食べたら、早速お出掛けでいいかな?」
七夏「はい☆ よろしくです♪」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
朝食を済ませて、七夏ちゃんの出かける準備を待っている。
時崎「凪咲さん」
凪咲「あら、柚樹君?」
時崎「今から、七夏ちゃんとお出掛けします」
凪咲「海・・・かしら?」
時崎「それもありますけど、七夏ちゃんの自由研究のテーマを一緒に探そうと思って」
凪咲「まあ、ありがとう♪ 私も少し気になってたの」
時崎「そうなのですか?」
凪咲「まあ、何もテーマが見つからなかったら、お料理の事や、小説の感想とかありますから、なんとかなるとは思ってますけど」
時崎「俺は、それでも良いと思いますけど」
凪咲「でも、せっかくですから、新しい事が出来ればいいかなと思ってて」
時崎「なるほど。新しい事ですか」
凪咲「ええ♪」
時崎「意識しておきます!」
凪咲「ありがとう。柚樹君」
七夏「柚樹さんっ☆ お待たせです☆」
時崎「今日は、いつもどおりの格好だけど、よく似合ってるよ!」
七夏「ありがとです☆」
凪咲「柚樹君、お昼はどうなさいますか?」
時崎「どうする? 七夏ちゃん?」
七夏「私、海へお出掛けの用意も出来てます☆」
時崎「じゃ、お昼は一緒に外で頂くで、いいかな?」
七夏「はい☆」
凪咲「分かったわ♪ 2人とも楽しんでらっしゃい♪」
七夏「はい♪」
時崎「ありがとうございます。では、出掛けてきます!」
七夏ちゃんと一緒に歩く。一ヶ月前とは全然違ってて、お互いに自然な距離感が保てていると思う。
時崎「やっぱり、本屋さんがいいかな?」
七夏「はい☆ 柚樹さんも気になる事があったら、お話しくださいです☆」
時崎「ああ!」
七夏「えっと、先に雑貨屋さんへ寄ってもいいかな?」
時崎「もちろん!」
七夏ちゃんと、雑貨屋さんへ寄る。俺も自由研究のテーマになりそうな物が無いか探してみる。
時崎「これは・・・」
目に付いたのは、金属で出来た立体パズルだった。でも、これを解く事が自由研究に繋がるかな? この仕組みを考える事はテーマになりそうだけど、とても難しそうだ。軽く動かしてパズルを解こうとしてみたけど、これがなかなか一筋縄ではゆかない。
七夏「柚樹さん☆」
時崎「え!?」
つい、この立体パズルを解こうと集中してしまっていたようだ。
七夏「くすっ☆」
時崎「あ、ごめん。何か見つかった?」
七夏「えっと、これです☆」
七夏ちゃんが手にしていたのは、釣合玩具。いわゆる「やじろべえ」だけど、木の「やじろべえ」の上に、もうひとつ小鳥の「やじろべえ」があって、その揺れかたはとても複雑で不思議だ。
時崎「二重になると、とても複雑な動きになるね」
七夏「はい☆ ひとつだと分かりやすいですけど、ふたつ一緒になると簡単に予想ができなくなる事・・・これって不思議です☆」
時崎「自由研究のテーマになりそうかな?」
七夏「不思議なのですけど、それが説明できないと難しいのかな?」
時崎「とりあえず、候補のひとつにしておくのはどうかな?」
七夏「はい☆ そうします☆」
雑貨屋で、写真機を水から保護するカバーを見つけた。今日この後、七夏ちゃんと海へお出掛けするから、これは買っておくと良さそうだ。
時崎「七夏ちゃん、ちょっと待ってて」
七夏「はい☆」
写真機の防水カバーを急いで購入した。
時崎「七夏ちゃん、お待たせ!」
七夏「何か良い物、ありました?」
時崎「ああ!」
七夏「くすっ☆ 良かったです☆」
雑貨屋を出て、書店へ移動する。
七夏「えっと・・・あっ!」
時崎「ん? 何か気になる物あった?」
七夏「えっと、今日は小説ではなくて、自由研究の本でした。つい・・・」
時崎「小説も気になるのがあったら、見ていいと思うよ!」
七夏「ありがとです☆」
自由研究になりそうな本を探してみる。「泥団子」「つかめる水」「育つ水晶」色々あるな。そんな中---
時崎「色の科学か・・・」
色についての感覚は、とても繊細な事のように思ってしまう。大切な人と同じように楽しく過ごしたいと思うと、色に関しては、そうならない可能性がある事を分かっているからだ。でも、それは、色以外に関しても言える事なのだと思う。これは、俺にとっての自由研究なのかも知れないな。七夏ちゃんは・・・
時崎「七夏ちゃん!」
七夏「あ、柚樹さん☆ 良さそうなのありますか?」
時崎「そうだな・・・これとか?」
七夏「え!? カブトエビさん? 飼育?」
時崎「この水槽見てたら、水族館での事を思い出して」
七夏「くすっ☆ でも、これ小学生が対象みたいです☆」
時崎「この飼育キットそのものはそうみたいだけど、高校生としての自由研究は・・・」
七夏「高校生? どんな研究なのかな?」
時崎「どんな事が記憶を呼び戻す鍵となるのか?」
七夏「え!?」
時崎「思い出そうとしても思い出せない事って無い?」
七夏「あります」
時崎「だけど、何かのきっかけで、突然思い出せる事もあるよね?」
七夏「はい☆」
時崎「その鍵を見つける方法って? 偶然?」
七夏「えっと、難しいです」
時崎「でも、七夏ちゃんと出逢えたのも偶然なんだよ?」
七夏「あっ・・・」
時崎「その偶然を大切に想い続けるか、忘れてしまうか・・・でも、忘れたように思えても、実は忘れていなくて、思い出せないだけって事も多いと思う」
七夏「えっと、記憶の鍵が見つかれば無くならないって事?」
時崎「そう、記憶の鍵だね! それが、今、俺が手にしている---」
七夏「くすっ☆ カブトエビさん☆」
時崎「そういう事! ごめんね。難しい事を話してしまって」
七夏「いえ、私は、鍵は要らないかな?」
時崎「え!?」
七夏「想い続けてたら、忘れる事はありませんから☆」
時崎「そ、そう・・・じゃあ、これは元の場所に戻して・・・」
七夏「くすっ☆」
俺は、「カブトエビ飼育セット」を元の場所に戻した。
時崎「なかなか難しい」
七夏「くすっ☆ でも、柚樹さんのおかげで、なんとかなりそうです☆」
時崎「そう?」
七夏「自由研究のテーマを探す事も、研究のような気がしてきました☆」
時崎「なるほど、それは言えてる」
七夏ちゃんと海の近くにある喫茶店でお昼を頂きながら、自由研究の話題が弾む。けど、午後からは海で楽しみたいから、一旦自由研究の事は忘れるように話しを持ってゆきたい。
七夏「これから、海、楽しみです☆」
時崎「ああ!」
七夏「えっと、自由研究のお話しは、また後でもいいかな?」
時崎「俺も、七夏ちゃんと同じ事を考えてたよ!」
七夏「くすっ☆」
七夏ちゃんと考える事が似てくる事は、素直に嬉しい。七夏ちゃんに近いという事を、直接実感できるからだろうか?
時崎「お盆を過ぎてるけど、大丈夫かな?」
七夏「大丈夫って?」
時崎「クラゲが居たりしないかなって」
七夏「確かに、気をつけないと後が大変です☆」
時崎「七夏ちゃん、クラゲに刺された事があるの?」
七夏「私じゃなくて、昔、ここちゃーが・・・」
時崎「天美さんか・・・大変だったんじゃない?」
七夏「はい。手の指が凄く腫れちゃって・・・ここちゃー、すぐ興味本位で触ってしまうから」
時崎「何となく分かる」
七夏「でも、その時以来、ここちゃーも海の生き物には警戒するようになりました☆」
時崎「俺も気を付けなければ」
七夏「柚樹さんは、そう言うの詳しそうですから、頼りにしてます☆」
時崎「え!?」
七夏「くすっ☆」
時崎「じゃ、お昼食べ終わったら海へ!」
七夏「はいっ☆」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
街はずれの綺麗な砂浜と海。七夏ちゃんの家からそう遠くは無く、歩いて来れる場所に海があるのはいいなと思う。この街の海、何度目になるだろうか? 心地よい潮風と波音が、以前にあった出来事を呼び戻してくれる。
七夏ちゃんの水着姿は以前にも見てはいるけど、やはり楽しみだ。以前の記憶がより鮮明に蘇ってくる。そういえば、今日は浮き輪を持ってきてないのかな? まあ、七夏ちゃんは泳げる事を知っているから、特に心配は無い。
七夏「柚樹さん☆ お待たせですっ☆」
七夏ちゃんは、俺の記憶には無い姿だった。この前の若葉色の水着ではなく、青を基調とした水着、半透明のスカートが、優しく揺れてとても可愛い。俺は動揺を堪えながら話す。
時崎「あれ? この前のと違うね?」
七夏「はい☆ 去年、買いました☆」
時崎「そうなんだ」
七夏「2度目の初めてです☆」
時崎「え!?」
七夏「えっと、柚樹さん、色々な衣装が見たいって話してくれたから☆」
この前なんとなく話した事・・・七夏ちゃんは、しっかりと覚えてくれている事に動揺は嬉しさで吹き飛んだ。
時崎「ありがとう! とっても嬉しいよ!」
七夏「よかったです☆」
時崎「髪も結ったの?」
七夏「はい☆ 軽くですけど、どうかな?」
時崎「とても良く似合ってる!」
七夏「ありがとです☆」
時崎「撮影、いいかな?」
七夏「はい☆」
可愛く眩しい七夏ちゃんを撮影した。これは後からでもアルバムに加えたいと思う。
時崎「ありがとう! 七夏ちゃん!」
七夏「はい☆ あ、泳ぎます?」
時崎「ああ! ちょっと待ってて!」
七夏「はい☆」
俺は、写真機を防水カバーに入れて保護をした。これで海に浸かっても大丈夫だけど、流石に汎用の防水カバーでは海中での撮影は難しそうだ。この写真機専用の防水カバーを、いずれ購入しておいた方がいいような気がしてきた。
時崎「お待たせ!」
七夏「はい☆」
七夏ちゃんは手を差し出してくれた。
七夏「柚樹さん☆」
時崎「あ、ああ!」
七夏ちゃんに手を引かれながら、一緒に海に入る。クラゲの心配も特に無さそうだ。海の水は思っていたほど冷たくなく、とても心地が良い。七夏ちゃんはそのまま沖へと進み、胸元あたりまで海水が届く。このまま沖へ進むと足が付かなくなりそうだ。俺は大丈夫だけど、押し寄せる波の高さによっては・・・七夏ちゃん、大丈夫なのだろうか?
時崎「七夏ちゃん!」
七夏「はい☆」
時崎「もし、俺が泳げなかったら?」
七夏「それは、大丈夫です☆」
時崎「大丈夫って?」
七夏「手を繋いだら、分かります☆」
時崎「手?」
なるほど。七夏ちゃんに言われて気付く。泳げない人は、手を引っ張られると、突っ張るような反応があるからだ。以前、海に来た時の高月さんの事を思い出してしまった。
七夏「柚樹さんは、私に合わせてくれたから、大丈夫だと思いました☆」
時崎「なるほど」
泳げるかどうかを直接訊くのは、泳げない人だった場合、心を傷つけてしまうかも知れない。七夏ちゃんの少し積極的な行動にもしっかりとした意味があった訳だと、今更ながらに思ってしまう。
時崎「そう言えば、今日は持ってきてないんだね」
七夏「え!?」
時崎「浮き輪」
七夏「はい☆ 今日は海の中を泳ぎたいから☆」
時崎「海の中!?」
手を離してこちらを振り返った七夏ちゃん。碧い海に浮かぶ「ふたつの虹」は、海に落ちる光の輝きよりも眩しく思えた。
七夏「くすっ☆」
七夏ちゃんと目が合う。水中眼鏡を付けたと思ったら姿が消え、海の眩しい光だけが残った。
時崎「七夏ちゃん!?」
俺も海に潜って七夏ちゃんを追いかけようとするが---
時崎「あいたたっ!」
海水が目に浸みてすぐに浮上してしまった。よく考えれば、塩分を多く含んだ海水の中で目を開けるなんて困難な上、水中眼鏡無しで素潜りしても視界は良好ではないだろう。意外と気付かなかった。
七夏「柚樹さんっ☆」
少し離れた場所に七夏ちゃんを見つける。七夏ちゃんは素潜りが得意なようだ。
時崎「な、七夏ちゃん!」
七夏「ゆ、柚樹さん!」
片目を手で押さえている俺を見て、七夏ちゃんはすぐに側まで泳いで来てくれた。
七夏「柚樹さん! 大丈夫!?」
時崎「大丈夫! 海水が目に入っただけだから」
七夏「よかった☆ これ、使います?」
七夏ちゃんは水中眼鏡を指差しながら話す。
時崎「ありがとう。七夏ちゃん、素潜り得意なんだね!」
七夏「くすっ☆ でも泳ぐのは、ここちゃーの方が速いです☆」
時崎「そうなんだ。七夏ちゃん、俺は大丈夫だから、海の中を楽しんで!」
七夏「ありがとうです☆ 柚樹さんからあまり離れないようにします♪」
時崎「あ、ああ!」
しばらく、潜行と浮上を繰り返す七夏ちゃんを眺める。海の水は透明度が高いから、七夏ちゃんを見失う事はないけど、さっきみたいに突然潜られ、さらに海の光が重なると見失うかも知れないから、気を付けなければならないな。
七夏「柚樹さん☆」
時崎「え!?」
七夏「くすっ☆」
呼ばれたと思ったら、再び七夏ちゃんの姿が消える。
七夏「柚樹さん☆」
時崎「え!?」
七夏「これ☆」
時崎「あ、綺麗な貝殻だね!」
七夏「はい☆」
太陽の光を受けて輝く貝殻・・・俺には虹色に見えるけど、七夏ちゃんには・・・いや、七夏ちゃんにも虹色だ!
七夏「どしたの?」
時崎「いや、なんでもない!」
七夏「柚樹さん☆ どうぞです☆」
時崎「え!? 貰っていいの?」
七夏「はい☆ 柚樹さん、好きですから☆」
時崎「え!?」
七夏「虹色☆」
時崎「・・・ありがとう!」
七夏「くすっ☆」
頭では分かってはいたけど、心はまだ慣れていないらしい。でも、この感覚は何度でも味わいたい。虹色の貝殻を受け取ると、七夏ちゃんは再び海の中へ・・・虹よりも眩しく輝いているように見えるのはきっと・・・このままずっと楽しみたい。
海の中を楽しそうに泳ぐ七夏ちゃんを見ている。いつの間にかブイのように浮かんでいた写真機の防水カバーを手繰り寄せる。
七夏「柚樹さん☆」
時崎「どうしたの?」
七夏ちゃんが水中眼鏡を外して手渡してくれる。
七夏「七夏は沢山楽しめましたから、柚樹さんも海の中を見て☆」
時崎「ありがとう!」
七夏ちゃんから水中眼鏡を借り、海の中を見る。碧く澄んだ海の世界はとても綺麗で、七夏ちゃんが夢中になるのもよく分かる。俺は七夏ちゃんのように泳がなかったけど、しばらく海の世界を堪能する。海の中を泳ぐ七夏ちゃんが視界に入ってきた。とても優雅で綺麗に見えるけど「ふたつの虹」は隠れて見えない。それも見えれば、もっと魅力的なのだろうけど、見えなくても俺は知っている。そんな事を考えながら自然と七夏ちゃんを追いかけてしまった。
七夏「柚樹さん☆ あっ!」
時崎「あ、ごめんっ!」
七夏「・・・・・」
七夏ちゃんは、少し恥ずかしそうだけど、嬉しそうにも見えた。
時崎「とっても綺麗だったよ!」
七夏「えっと・・・」
時崎「海の世界!」
七夏「あっ! くすっ☆」
時崎「七夏ちゃんも!」
七夏「・・・あ、ありがとです☆」
七夏ちゃんに水中眼鏡を渡そうとする手の指が、ふやけてしわしわになっていた。
時崎「七夏ちゃん、まだ泳ぐ?」
七夏「七夏は、十分楽しめました☆」
時崎「良かった。じゃ、岸に戻る?」
七夏「はい☆」
今度は、俺が七夏ちゃんに手を差し出す。七夏ちゃんは、しっかりと手を添えてくれた。思っていた以上に、七夏ちゃんは泳ぐのが得意だった事が印象に残った。出来れば海の中を楽しく泳ぐ七夏ちゃんを撮影したかったと思ってしまうけど、その機会がまた訪れるかどうかは俺次第だ。
<<七夏「2度目の初めてです☆」>>
初めて・・・か。確かに初めての事が沢山あった。これからも沢山あるはずだ!
岸に上がり、七夏ちゃんは海風を受けて心地良さそうに休んでいる。
もう少しこのまま眺めていたいと思ってしまう。
時崎「七夏ちゃん! お待たせ!」
七夏「あ、柚樹さん☆ ありがとです☆」
時崎「ココアは無かったから紅茶だけど」
七夏「紅茶も好きです☆」
七夏ちゃんに飲み物を手渡す。
時崎「七夏ちゃん、泳ぐのが上手で驚いたよ!」
七夏「くすっ☆ 海の波に揺られたり、こうして海の風を受けてのんびり過ごすのも得意です☆」
時崎「のんびりも得意・・・七夏ちゃんらしいね」
七夏「はい☆」
これからも、まだ俺の知らない七夏ちゃんを見つけてゆきたい。
しばらくの間、2人で海を眺める。この海、初めてこの街に来た次の日に来ていた事を思い出す。あの時、俺が探していた少女は、すぐ隣に居て微笑んでくれる。
七夏「? どしたの?」
時崎「七夏ちゃんを探して、この海に来た事があったなと思って」
七夏「え!?」
時崎「初めて七夏ちゃんと出逢って、その次の日」
七夏「ごめんなさい。風水の連絡先を、伝えてませんでした」
時崎「それは構わないよ。今、こうして七夏ちゃんとお話しできてるから!」
七夏「初対面だと、どこまでお話ししていいのか分からないですから」
時崎「確かにそれは、分かるよ」
また再び2人で海を眺める。
七夏「・・・・・」
時崎「・・・・・」
七夏「柚樹さん☆」
時崎「ん?」
七夏「えっと、ありがとです☆」
時崎「ああ!」
しばらく時間をおいて、七夏ちゃんが「ありがとう」と話してきた。なんとなく返事をしてしまったが、この「ありがとう」には、どのような意味が込められているのだろうか?
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
時崎「結局、これになったんだ」
七夏「はい☆ 小鳥さん、可愛かったから☆」
雑貨店で、さっき見つけた「小鳥のやじろべえ」を七夏ちゃんは手にしていた。
時崎「自由研究のテーマになりそう?」
七夏「頑張って考えてみます☆」
時崎「俺も協力するよ!」
七夏「はい☆ 頼りにしてます☆」
時崎「まだ何も思いつかないけど」
七夏「くすっ☆」
時崎「この後、写真屋さんへ寄ってもいいかな?」
七夏「はい☆」
時崎「ありがとう!」
写真屋さんで、今日撮影した七夏ちゃんを現像依頼しようと思ったけど、明日中に仕上がるのは厳しいそうだ。現像ではなくプリントならすぐにできるので、その依頼を行った。このプリント写真は、凪咲さんへのアルバムの予備の場所に後で加える事になる。デジタルアルバムの方には、後で追加編集で加えておけば良いだろう。プリントできる写真も明日までが最後になると思うけど、デジタルアルバムには、出来るだけ沢山の思い出を詰め込みたいと思う。
時崎「七夏ちゃん、お待たせ!」
七夏「はい☆」
時崎「他に寄りたい所ある?」
七夏「えっと、今日はこれで大丈夫です☆」
時崎「じゃ、帰ろうか?」
七夏「はい☆ くすっ☆」
時崎「? どうしたの?」
七夏「柚樹さん、帰ろうって話してくれたから☆」
時崎「あっ、戻ろう・・・だね?」
七夏「七夏は、帰ろうがいいな☆」
時崎「じゃ、一緒に帰ろう!」
七夏「はいっ☆」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
七夏「ただいま☆」
凪咲「お帰り、七夏、柚樹君も♪」
時崎「ただいまです!」
七夏「くすっ☆」
「ただいま」と話す俺を見て、七夏ちゃんは嬉しそうに微笑んでくれた。
凪咲「潮風にあたってるはずだから、流してくださいませ」
時崎「七夏ちゃん! お風呂、お先にどうぞ! 俺は先に今日の写真を追加しておくから」
七夏「はい☆ ありがとうございます☆」
凪咲「柚樹君、ありがとうございます♪」
七夏「お風呂あがったら、すぐに柚樹さんに声をかけます☆」
時崎「ああ! 待ってる!」
部屋に戻り、七夏ちゃんの写真をマイパッドに転送する前に、
時崎「これも撮影しておこう」
七夏ちゃんからのプレゼント、虹色の貝殻を撮影する。
時崎「・・・・・」
もう1枚撮影する。
時崎「・・・・・」
もう1枚!
時崎「・・・・・」
七色の貝殻は、撮影する度に色が変わって記録された。普通の事なのだけど、こんな風に・・・。七夏ちゃんと貝殻の写真をマイパッドに転送し、デジタルアルバムに加えてゆく。プリントした写真は製本アルバムが出来たら加えようと思うけど、それは七夏ちゃんと一緒に行おうと思う。後は、七夏ちゃんへのアルバムのみだ。上手く出来ると信じて作業を再開する。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
七夏「柚樹さん☆ お風呂お待たせです☆」
時崎「ああ! ありがとう!」
七夏「くすっ☆ 七夏、ゆっくり入ってましたから、お待たせして、すみません」
時崎「構わないよ。でも、よく考えたら、露天があったなと」
七夏「そういえば・・・です☆」
七夏ちゃんから、とても良い香りが広がってくる。
時崎「明日は露天に入ろうかな?」
七夏「はいっ☆」
時崎「え!?」
七夏「くすっ☆」
今の「はいっ☆」は・・・七夏ちゃんの考えている事が、まだ分からない。
七夏「明日は、露天の準備もしておきますね☆」
時崎「え!? あ、ありがとう!」
露天の準備・・・ようやく、七夏ちゃんの考えが分かった。これは、倒置法の域を超えていると思う。
七夏「柚樹さん☆ ここにお着替え置いておきますね☆」
時崎「いつもありがとう!」
七夏「くすっ☆ ごゆっくりどうぞです☆」
七夏ちゃんと同じ香りのするお湯に満たされてゆく。体が少しヒリヒリとするけど、とても心地良い。ここで過ごせるのもあと2日か、明日も七夏ちゃんと一緒にお出かけ出来るといいな・・・いや、七夏ちゃんと一緒にお出かけしたい! 後で七夏ちゃんにお願いしてみよう! 目を閉じてしばらくこの香りと温もりを楽しませてもらった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
七夏「あ、柚樹さん☆ 冷茶どうぞです☆」
お風呂を上がると、すぐに七夏ちゃんが声を掛けてきてくれた。
時崎「ありがとう! 七夏ちゃん、明日も時間あるかな?」
七夏「はい☆ 大丈夫です☆」
時崎「午後から、一緒にお出掛け、いいかな?」
七夏「はいっ☆」
時崎「七夏ちゃん、お出かけしたい所ある?」
七夏「えっと、七夏のお気に入りの場所かな?」
七夏ちゃんお気に入りの場所・・・あの場所の事だろう。「翠碧色の虹」の事を知ったあの場所・・・。
七夏「どしたの?」
時崎「よし! じゃ、午後からよろしく!」
七夏「はいっ☆ あ、お夕食も出来てます☆」
時崎「ありがとう!」
七夏ちゃんと一緒に夕食を頂いていると、凪咲さんも来てくれた。
七夏「お母さんも一緒に、お夕食どうぞです☆」
凪咲「ありがとう、七夏。柚樹君、いいかしら?」
時崎「もちろんです!」
凪咲「ありがとう」
凪咲さんと七夏ちゃんと3人でお夕食を頂くのは、久々な気がする。いつも凪咲さんは俺より先か後に頂いているからだけど、お客さんが居ない時は、一緒でもよかったのではと思ったりした。
時崎「凪咲さん、明日、アルバムが渡せると思います!」
凪咲「まあ! いよいよ完成なのね♪」
時崎「その予定ですけど、追加で七夏ちゃんを撮影している分がありますので、それを加えてからでもよろしいですか?」
凪咲「ええ♪ 柚樹君がご納得できるまで待ってます♪」
時崎「ありがとうございます。アルバムが完成するのは明日の夜頃になると思いますが、完成したらすぐにお話しします!」
凪咲「今から楽しみだわ♪」
七夏「くすっ☆」
時崎「七夏ちゃん!」
七夏「はい!?」
時崎「七夏ちゃんのマイパッドにも、アルバムのデータを送るから!」
七夏「はい☆ ありがとうです☆」
夕食を頂きながら考える。ここ、民宿風水で行わなければならない事は、他に無かっただろうか? 七夏ちゃんの虹の事以外で、出来る事があれば行っておきたい。
凪咲「柚樹君が、来てくれて色々とあったわね」
時崎「色々・・・ですか?」
凪咲「ええ♪ 色々♪」
時崎「・・・っ! な、凪咲さんっ!」
七夏「ひゃっ☆」
時崎「あ、ごめん! 七夏ちゃん!」
七夏「ど、どしたの? 柚樹さん?」
時崎「色々・・・色!」
凪咲「気付いてくれたかしら?」
七夏「???」
時崎「はいっ! 色々な事と言いながら色が無い!?」
凪咲「ええ♪」
大切なのは色ではなく・・・なんだ!?
時崎「大切なのは、色ではなく・・・えっと・・・」
凪咲「決めない事かしら?」
時崎「決めない事・・・」
七夏「答えが無いのも、答えのひとつかな?」
時崎「七夏ちゃん?」
凪咲「柚樹君は、答えを見つける事に一生懸命になり過ぎていないかしら?」
時崎「それは、俺がここに居られるのは---」
凪咲「違うわ!」
時崎「え!?」
凪咲「アルバムが完成しても、私は柚樹君がこのままずっと居てくれると嬉しいと思ってます」
七夏「お、お母さん!?」
凪咲「七夏もそうよね?」
七夏「え!? えっと・・・はい☆」
時崎「七夏ちゃん・・・」
凪咲「だから見つからなくてもいいの。私にも、七夏にも、もっと大切な事があるのよ」
時崎「凪咲さん・・・ありがとうございます」
凪咲「こちらこそ♪」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
夕食を頂いた後、自分の部屋で改めて凪咲さんの言葉を考える。「見つからなくてもいい」・・・か。でも、俺は別の方法で見つけようとしている。少しでも可能性があるのなら、その事に一生懸命になるのは間違っていないと思いたい。七夏ちゃんへのアルバム・・・これで、七夏ちゃんの望む事が少しでも叶えば俺は嬉しい。そして、俺が喜べば七夏ちゃんもきっと喜んでくれるはずだ。民宿風水にお世話になって、この部屋が本当に自分の部屋のように思えるのは、凪咲さんに感謝しなければならない。
時崎「自分の部屋・・・か」
1ヶ月ほど過ごしたこの部屋。七夏ちゃんが案内してくれた部屋。遠くの海も見えるとても心地よい部屋。
<<七夏「えっと、お部屋は、こちらになります」>>
本当に自由に使わせてもらってたな。明日は、この部屋の掃除を念入りに行おうと思う。
トントンと扉が鳴った。
七夏「柚樹さん☆」
時崎「七夏ちゃん、どうぞ!」
七夏「はい☆」
時崎「七夏ちゃん、今日は疲れたでしょ?」
七夏「えっと、それ以上に楽しかったです☆」
時崎「俺も楽しかったよ!」
七夏「くすっ☆ えっと、明日は午後から一緒にお出掛けですけど、午前中はどうしようかなって」
七夏ちゃんの言葉が嬉しい。午前中も一緒に居てくれる事が伝わってくるから。だけど、七夏ちゃんへのアルバムの仕上げを行いたいから、どう答えたらいい?
時崎「ありがとう! 午前中は、お部屋を片付けようと思ってるんだ」
七夏「お部屋・・・くすっ☆」
時崎「え!?」
七夏「確かにお片付けの方が良いかなって」
時崎「ごめん。ほぼ1ヶ月の間、自由に使わせてもらったから!」
七夏「私もお手伝いします」
時崎「ありがとう! でも、自分でなんとかしたいから」
七夏「え!?」
時崎「自分で散らかしたんだから、自分で片付けたい」
七夏「くすっ☆ はい☆ 私、待っている間に宿題を進めますね☆ 何かあったら声をかけてくださいね☆」
時崎「ああ! ありがとう!」
七夏「それじゃ、柚樹さんも夜更かしは控えて、早めにおやすみくださいませ☆」
時崎「・・・はい」
七夏「くすっ☆ おやすみなさいです☆」
時崎「おやすみ、七夏ちゃん!」
再び、七夏ちゃんへのアルバム作りを再開する。明日の午前中はお部屋の片付けも行いたいから、作業に集中する・・・あともう少しだ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
時崎「・・・よし! これで後は糊が乾けば!」
トントンと扉が鳴った。
時崎「七夏ちゃん!?」
直弥「時崎君!」
時崎「え!? は、はい!」
直弥さんだ。俺は慌て気味に扉を開ける。
直弥「こんばんは。夜遅くにすまないね」
時崎「いえ、どうぞ!」
直弥「いや、すぐに済むからここで構わないよ」
時崎「はい」
直弥「凪咲から聞いたよ。アルバム、明日完成するんだってね」
時崎「はい。明日の夜頃になりますけど」
直弥「ありがとう!」
時崎「お礼はその時でも---」
直弥「すまない。明日から、C11の回送で出張なんだよ」
時崎「え!? 回送?」
直弥「蒸気機関車イベント期間が終了したから、機関車を元の場所に返す事だよ」
元の場所・・・今の俺の気持ちと重なってしまう。
時崎「・・・・・」
直弥「時崎君!?」
時崎「あ、すみません」
直弥「時崎君も明後日、この街を発たれると聞いたから、お礼は今しか言えないと思って、ありがとうございます!」
直弥さんは頭を下げたあと、敬礼のポーズをとった。
時崎「な、直弥さん。そんな、こちらこそ、大変お世話になりました!」
俺も頭を下げて、敬礼のポーズをする。
七夏「柚樹さん? お父さん!?」
時崎「な、七夏ちゃん!?」
直弥「七夏、起こしてしまったか、すまない」
七夏「柚樹さんの声が聞こえたから・・・」
時崎「うっ・・・ごめん」
七夏「くすっ☆」
直弥「七夏、もう遅いから、早く寝なさい」
七夏「はーい☆ おやすみなさいです☆」
直弥「おやすみ、七夏」
七夏「柚樹さんもです☆」
時崎「ああ! おやすみ、七夏ちゃん!」
七夏「くすっ☆」
直弥「それでは、これで失礼します」
時崎「は、はい!」
直弥さんが、わざわざご挨拶に来てくれて、俺はまだまだだと思わされた。直弥さんが明日から出張だという事を知らなかったとしても、俺が直弥さんだったとしたら、同じ事が出来ただろうか。七夏ちゃんを始め、凪咲さんや直弥さんのように心遣いや配慮が出来るようになりたい。そう言えば以前、直弥さんの部屋にお邪魔した時、分解されていた鉄道模型の車両があったけど、元に戻っているのだろうか? 七夏ちゃんに訊いてみようと思ってそのままになっていた。もし、七夏ちゃんがお手伝いをしていたとしたら、俺も一緒に手伝ってあげたい。明日、七夏ちゃんに訊いてみよう。今度は忘れないよう、マイパッドのメモに記しておく。
主 「おやすみ。七夏ちゃん」
大切な人へ心を込めて想うと、自然と言葉になっていた。明日も色々な事がありそうだけど、思い残す事が無いよう、そして、七夏ちゃんと楽しみながら過ごせる1日となるように頑張りたい。俺にとって七夏ちゃんは、虹よりも七色にそして、優しく輝いてくれる存在になっていると思うのだった。
第四十四幕 完
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次回予告
思い出は、想い続けると色褪せる事は決して無い。
次回、翠碧色の虹、第四十五幕
「思い出は七色の虹へ」
想い続ける事で、その時よりも色鮮やかな思い出へと変わる事だってきっとあるはずだ!
幕間三十九:お心遣いは大切です
七夏「えっと・・・」
心桜「ん? つっちゃー、どしたのさ?」
七夏「今日は『幕間』だったかな?」
笹夜「ええ♪ 幕間です♪」
七夏「良かった☆」
心桜「つっちゃーさ、幕間と随筆の違いって、なんか意識してるの?」
七夏「え!? 特には・・・」
心桜「じゃ、さっきの『良かった☆』って何!?」
七夏「えっと、随筆だったら、お話しどうしようかなって」
笹夜「七夏ちゃん、今回は楽しめて良かった♪」
心桜「え!? なになに? つっちゃー楽しめたって!?」
七夏「はいっ☆」
笹夜「心桜さん・・・ゲームもいいですけど、小説もお読みくださいね♪」
心桜「え~だって、文字ばっかだと眠くなるよ!」
笹夜「ご自身の登場している小説くらいは---」
心桜「だって、今回、あたし出番が一度も無かったから!」
七夏「・・・・・」
笹夜「・・・・・」
心桜「? どしたの?」
七夏「た、確かに・・・」
笹夜「私は、少しだけ・・・あっ♪」
心桜「ん? 笹夜先輩? 何かニヤけてません?」
笹夜「え!? な、なんでも・・・コホンッ!」
心桜「ん~ 何があったの~? そっか! 小説読めば分かるんだよねっ!」
笹夜「い、今、読まれなくても---」
心桜「なんで? さっきと真逆の事を話されてません?」
笹夜「い、今は、幕間のお時間ですから・・・」
心桜「んじゃ、笹夜先輩とつっちゃーで進めといてよ。今から急いで読むから!」
七夏「え!?」
心桜「んでは、あとはよろしくっ!」
七夏「こ、ここちゃー!?」
笹夜「まあ、せっかく心桜さんが小説を読んでくれる気になったみたいですから♪」
七夏「さ、笹夜先輩!? もしかして?」
笹夜「ええ♪」
七夏「笹夜先輩にはいつも驚かされます☆」
笹夜「心桜さんには、進行役としてお話の流れを知っておいて貰いたいですから♪」
七夏「はい☆ でも、ここちゃーは、私の事もよく知ってくれてます☆」
笹夜「ええ♪ 私よりも七夏ちゃんの事を知っておられるでしょうね♪」
七夏「くすっ☆ 笹夜先輩も私達の事を良く知ってくださってます☆」
笹夜「そうかしら?」
七夏「はい☆ まだ笹夜先輩と出逢って1年もなってないのに、ずっと前から一緒のような気がします☆」
笹夜「ありがとう、七夏ちゃん♪ 私も同じように思ってます♪」
七夏「なんだか不思議です☆」
笹夜「確かに、不思議です。でも、その理由ならあるかも知れません」
七夏「え!?」
笹夜「出逢った時から、惹かれ合う強さによって、一緒に過ごした時間も多く思えるのではないかしら?」
七夏「強さ?」
笹夜「一緒に居る時間がいくら長くても、お互いが惹かれ合ってなかったら、想い出もそんなに残らないと言えば分かるかしら?」
七夏「なるほど☆」
笹夜「単純に一緒に居る時間で考えれば、私の同じクラスの人の方が、七夏ちゃん達よりも長いはず・・・でも、私は七夏ちゃんや、心桜さんとの方が沢山の思い出が残ってます♪」
七夏「えっと、同じクラスの人とは?」
笹夜「少しはありますけど、それは、学校の行事とか授業の都合で、私自身が望んで過ごしたとは言い切れません。そのような出来事は、あまり思い出にも残らないのです」
七夏「えっと・・・」
笹夜「私には、ピアノがありましたから♪」
七夏「はい☆ 笹夜先輩のピアノは、とっても素敵です☆」
笹夜「ありがとう、七夏ちゃん♪ ピアノのおかげで、クラスの人よりも部活の人の方が沢山の思い出として残ってます♪」
七夏「素敵な思い出がたくさん増えるといいなって思います☆」
心桜「なるほどっ!」
七夏「ひゃっ☆」
笹夜「きゃっ!」
七夏「こ、ここちゃー!?」
心桜「いや~、読んで来たよ! 来ましたよ!」
笹夜「こ、心桜さん!?」
心桜「あ、あの・・・最後かも知れないから・・・名前で・・・」
笹夜「っ!」
七夏「???」
笹夜「こ、心桜さんっ!」
七夏「名前? 笹夜先輩?」
笹夜「は、恥ずかしい・・・」
心桜「まあまあまあ! 笹夜先輩! そういう『役』なのですからっ! それから、つっちゃー、お兄さんと海に遊びに出掛けてたの?」
七夏「あっ♪ はい☆」
心桜「え~! いいな~あたし達も---」
笹夜「心桜さんっ!」
心桜「あ、そうだね・・・すみません」
七夏「くすっ☆」
心桜「でもさ、ホントにまたみんなで海へお出掛けしたいよねっ!」
七夏「はい☆」
心桜「笹夜先輩も、泳げるようになった訳ですから!」
笹夜「こ、心桜さん・・・その、あの時以来、海へはお出掛けしてませんから・・・」
七夏「笹夜先輩☆ 大丈夫です☆」
心桜「そうそう、すぐに感を取り戻せると思います!」
笹夜「ありがとう♪ 七夏ちゃん、心桜さん♪」
心桜「ま、あたしは、みんなでお出掛けできれば、海でも山でもオンラインの世界でも、どこでもいいんだけどねっ!」
七夏「おんらいん?」
笹夜「オンラインはお出掛けにはならない・・・かしら?」
心桜「ま、気分だけでも・・・ってね☆」
笹夜「でも、心桜さんが小説を読んでくれて何よりです♪」
心桜「小説!? え!? ま、まさかっ!?」
笹夜「ええ♪ そのまさか・・・かしら?」
心桜「ありがとう。さ、笹夜・・・さん」
笹夜「まあ♪」
七夏「ここちゃー、それって柚樹さんの真似?」
心桜「はは・・・やっぱ、似せるのは無理だったかな?」
七夏「柚樹さんは、柚樹さんです☆」
笹夜「ええ♪」
心桜「はいはい~! では、この調子でこれからも頑張るんだよ! つっちゃー!」
七夏「はい☆」
心桜「って事で、つっちゃーが頑張る『翠碧色の虹』本編はこちらです!」
心桜「http://nanatsuiro.my.coocan.jp/nnt_frma_a.htm」
七夏「くすっ☆」
心桜「そして、笹夜先輩も頑張る『ココナッツ』宛てのお便りはこちらから!」
心桜「http://nanatsuiro.my.coocan.jp/nnt_suiheki_novel.htm#QUESTIONNAIRE」
笹夜「心桜さんも頑張ってくださいね♪」
心桜「ま、出番があればね~」
七夏「もう、ここちゃー!」
心桜「確実に出番のある随筆で頑張るっ!」
七夏「くすっ☆」
幕間三十九 完
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幕間三十九をお読みくださり、ありがとうございました!
本編の方も鋭意制作中ですので、どうぞよろしくお願い申しあげます!
随筆四十七:ほしい物って無くならない!?
心桜「あっ、見て見て! つっちゃー!」
七夏「どしたの? ここちゃー!」
心桜「これ! いいと思わない!?」
七夏「くすっ☆」
笹夜「ごめんください♪」
心桜「こんちには! 笹夜先輩!」
七夏「笹夜先輩☆ こんにちはです☆」
笹夜「こんにちは♪」
心桜「ねねっ! 笹夜先輩! これ、いいと思いませんか?」
笹夜「え!? まあ♪ シュシュかしら?」
心桜「そうです! いいんだけど、あたしは髪短いからな~」
七夏「ここちゃーも髪を伸ばしたらどうかな?」
心桜「いや~・・・色々と大変だからいいや!」
笹夜「そう言えば、これが届いてました♪」
心桜「おっ! お手紙ですか!?」
七夏「わあ☆ ありがとうございます☆」
心桜「んじゃ、そのまま笹夜先輩! お願いします!」
笹夜「ええ♪ では・・・ペンネーム、キラキラ星ぃ~さん♪」
心桜「来たよ!」
七夏「え!?」
心桜「いつも、このペンネームの意味を考えてしまうんだよね~」
笹夜「続き、いいかしら?」
心桜「え!? 考えないんですか?」
笹夜「ええ♪ ペンネームですから♪」
七夏「ここちゃー☆」
心桜「なるほど・・・お願いします!」
笹夜「はい♪『ココナッツさん、こんにちは♪ 私はほしい物が沢山ありますが、ほしい物って無くならないですよね。それどころか、次々とほしい物が出てきて・・・ココナッツさんは、今ほしい物はありますか? それを手に入れたらほしい物って無くなりますか?』です♪」
心桜「今ほしい物・・・さっき話してたけど、これだね! つっちゃーは?」
七夏「えっと、小説かな☆ 笹夜先輩はありますか?」
笹夜「ピアノ演奏の技術かしら?」
心桜「うわっ! そうきましたか!」
七夏「笹夜先輩のピアノは、今でもとっても上手だと思います☆」
笹夜「ありがとう♪ 七夏ちゃん♪」
心桜「さらなる高みをっていう所ですか?」
笹夜「ええ♪ 常に練習は行わなければなりませんね♪」
心桜「それって、ほしい物というよりも目標ですよね?」
笹夜「そうですね♪」
心桜「今、ほしい物ってありますか?」
笹夜「今、ほしい物・・・メロンのゼリーかしら?」
七夏「くすっ☆」
心桜「はは・・・なんか一気に身近になった気がします! どした? つっちゃー?」
七夏「私もブルーベリーの食べ物があるといいなって思って☆」
心桜「ははは・・・あっ!」
笹夜「心桜さんは苺の食べ物かしら?」
心桜「そうですけど、今の『あっ!』は、そうではなくて!」
七夏「え!?」
心桜「ほしい物って無くなる事もあるっ! 食べ物の場合!」
笹夜「まあ♪」
七夏「ここちゃー、無くならないって言うのは、そういう事ではなくて・・・」
心桜「それは、分かっているんだけど、食べ物の場合は一時的にはそうならない?」
笹夜「食べ物でなくても『消え物』であれば、そう言えるのかも知れません♪」
心桜「好きなものを沢山食べた時『もうしばらくいいや』って思わない?」
七夏「くすっ☆」
笹夜「ええ♪ でも、時間が経過しますと、ほしくなってきますから、結局は無くならないという事かしら?」
心桜「そなんだけどね~! ほしい物が無くならなくて、どんどん増えてゆくのは困るよね!」
笹夜「でも、ほしい物が無くなっても困ると思います」
心桜「え!?」
笹夜「生きる事の楽しみのひとつを、失う事になりませんか?」
心桜「あっ! そうですね!」
七夏「楽しい事は、沢山ある方がいいなって思います☆」
笹夜「心桜さんも、こちらのシュシュで楽しまれては如何かしら?」
七夏「くすっ☆」
心桜「あたしがこのシュシュを買ったら、つっちゃーの髪を束ねて楽しみたいね!」
七夏「え!?」
笹夜「まあ♪」
心桜「あるいは、別の方法で楽しめる事が無いかを考える!」
七夏「別の方法?」
心桜「っそ! 例えばさ、ここにおせんべいがあるけど、これ途中で食べるのをやめた時に、シュシュで束ねてみると・・・」
笹夜「まあ! ちょっと違和感があるかしら?」
心桜「でもさ、これが可愛いお菓子だったら結構似合うかもね!」
七夏「はい☆」
心桜「ま、あたしの場合は、おせんべいを一気に食べるから、結局シュシュの出番は無さそうですけど」
七夏「普通に集めて眺めるのも楽しいです☆」
心桜「コレクションも始めると大変だからなぁ・・・『海これ』も全部集めきれてないし、無理な気がする」
笹夜「まあ、大切なのは楽しめる範囲で、無理せず集める事かしら?」
七夏「ここちゃー、笹夜先輩の今のお話し、聞きました?」
心桜「うぅ・・・確かに、無理してる時があるけど、それも楽しんでいるならいいんじゃない?」
七夏「寝不足には気をつけてくださいね☆」
心桜「・・・はい」
笹夜「心桜さん・・・と言いながら、私も寝不足には気をつけます」
心桜「ん? 笹夜先輩も『海これ』ですか?」
笹夜「美夜には夜更かしにならないように注意してますけど、私も小説を読んでいて夜更かしになったりする事もありますので・・・」
心桜「あ、美夜っちですか!? でも、夢中になってると止め時が難しいですよね」
七夏「・・・はい☆」
心桜「なんだ、つっちゃーも小説で夜更かし組みだった?」
七夏「えっと・・・」
心桜「まあ、ほしい物があるから楽しいって事だよねっ!」
笹夜「ええ♪」
七夏「はい☆」
心桜「ほしい物を手に入れても、ほしい物が無くならない方が良いという事で!」
七夏「くすっ☆」
心桜「んじゃ、これからもつっちゃーが楽しむ『翠碧色の虹』本編はこちら!」
心桜「http://nanatsuiro.my.coocan.jp/nnt_frma_a.htm」
心桜「あたしたち『ココナッツ』宛ての、お手紙はこちらです!」
心桜「http://nanatsuiro.my.coocan.jp/nnt_suiheki_novel.htm#QUESTIONNAIRE」
七夏「キラキラ星ぃ~さん☆ おたより、ありがとうございます☆」
心桜「ありがとうございます!」
笹夜「ありがとうございました♪」
心桜「・・・・・」
七夏「? どしたの? ここちゃー?」
心桜「今、ようやく分かった・・・キラキラ欲しい~だったという事!」
笹夜「まあ♪」
随筆四十七 完
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随筆四十七をお読みくださり、ありがとうございました!
本編の方も鋭意制作中ですので、どうぞよろしくお願い申しあげます!
第四十五幕:思い出は七色の虹へ
小鳥の鳴き声で目覚める。以前は蝉の鳴き声だったけど、気が付くと蝉の声はかなり遠く、蝉の種類も異なるようだ。
時崎「意識しないというのは、ある意味怖いな」
窓を開けて、外の空気を頂く。もうすっかり見慣れた景色だけど、違うこともある。小鳥と蝉の声に混ざって秋の虫の鳴き声も聞こえてくる。季節が夏を片付けようとしているようで、少し切なくなるけど、秋は実りの季節だ。俺がここ、民宿風水で過ごしながら作り上げてきた事・・・秋には少し早いけど、実ってくれる事を願っている。窓を閉めて部屋を見る。
時崎「・・・俺も部屋を片付けないと」
七夏ちゃんへのアルバムを眺める。糊は乾いていて、ようやく完成だと言えそうだ。俺が大切な人の為に想いを込めたアルバム。七夏ちゃんの心に届いてくれる事を願い、鞄の中へ大切にしまうその手は、少し震えていた。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
時崎「おはようございます!」
凪咲「おはようございます、柚樹君。七夏なら、お庭に居ると思います」
時崎「ありがとうございます!」
七夏ちゃんを探していた訳ではないけど、凪咲さんの言葉は嬉しい。大切な人と少しでも一緒に居たい願いを叶えてくれるから。
七夏「あっ☆ 柚樹さん☆ おはようございます♪」
時崎「七夏ちゃん! おはよう!」
玄関先から七夏ちゃんが姿を見せる。
七夏「? お外にお出掛けですか?」
時崎「いや、七夏ちゃん、お庭に居るって聞いたから」
七夏「くすっ☆」
凪咲「七夏、ちょっといいかしら?」
七夏「はーい☆ 柚樹さん、もうすぐ朝食出来ますから、待っててくださいです☆」
時崎「ありがとう! 七夏ちゃんを待ってる!」
七夏「え!?」
時崎「一緒に朝食!」
七夏「あっ、はい☆」
居間で七夏ちゃんを待つ。テレビが点いていたので、なんとなく眺めているけど、よく考えたら七夏ちゃんの家では珍しい事かも知れない。
七夏「どうしたの?」
時崎「いや、テレビが点いてるのが珍しいなと思って」
七夏「えっと、お父さんが---」
時崎「え!?」
七夏「あっ!」
テレビに、見た事のある光景があった。
七夏「お母さぁーん!」
時崎「七夏ちゃん!?」
凪咲さんもテレビを見にきた。
テレビに映る「C11蒸気機関車」と、昨日の直弥さんの言葉で状況を理解できた。蒸気機関車イベントで活躍したC11蒸気機関車を、取材放送しているようだ。
七夏「あ、お父さん! 今、少しテレビに映りました☆」
凪咲「ナオ・・・」
テレビに少しだけど直弥さんが映った。俺もその様子を眺めながら、七夏ちゃん、凪咲さんと同じような嬉しく誇らしい気持ちになっていた。
凪咲「七夏、あまりテレビに近づき過ぎないようにね」
七夏「あ、はーい☆」
そう言えば、以前に七夏ちゃんがテレビの映像を見えにくそうにしている時があるという事を凪咲さんから聞いたけど、楽しそうな七夏ちゃんを見ていると、訊く必要は無いと思った。訊いても俺はどうする事も出来ないだろう。今は七夏ちゃんと一緒にテレビの映像を楽しむ事にする。テレビから取材者の声が聞こえる。
取材者「これから遠くの街まで旅立つ蒸気機関車の姿を見送ろうと、多くの人が集まっています! それでは運転士さんにお話しを伺ってみましょう! 凄い熱気です! え!? 今、手が離せなさそうで、後ろ? あ、後ろの客車の人にお話しを伺ってみます!」
テレビの取材者は直弥さんに話しを訊き始めた。
七夏「お父さん☆ 凄い☆ お話ししてます☆」
凪咲「まあ♪」
取材者「おはようございます!」
直弥「おはようございます!」
取材者「お話し、よろしいですか?」
直弥「はい!」
取材者「近くで見ると、とても大きくて迫力がある蒸気機関車ですね!」
直弥「これでも機関車としては小型なのですよ」
取材者「そうなのですね。こちらの客車は、随分と小型ですね」
直弥「これは車掌車と呼ばれており、この度の回送では、機関車と車掌車だけで出発なのです」
取材者「なるほど、2両だけなのですか?」
直弥「いえ、途中からもう1両、補機が加わります。蒸気機関車だけでは、勾配が厳しい区間がありますから」
取材者「そうなのですね」
大きな汽笛が鳴った。
取材者「いよいよ出発ですか?」
直弥「まだ少し点検と確認がありますけど、もうすぐです!」
取材者「楽しみにしてます! お忙しい中、ありがとうございます!」
直弥「はい! 凪咲、七夏、時崎君! 出発するよ!」
凪咲「まあっ♪」
七夏「お父さんっ☆」
時崎「!」
取材者「ええっと、今のは・・・」
直弥「あ、すみません! つい家族に・・・」
取材者「いえいえ! 良い言葉をありがとうございます! 以上、現場からの中継でした。この後、出発の場面もお伝えしますが、1度スタジオへ戻します」
七夏「お父さんっ☆ くすっ☆」
凪咲「♪」
時崎「俺、名前呼ばれた!?」
七夏「はいっ☆」
テレビを眺めながらの朝食は、別の意味で懐かしく思える。そういえば、七夏ちゃんはテレビを見ながら食事を頂いている所をあまり見た事がない。習慣の違いかな?
時崎「七夏ちゃんは、あまりテレビを見ないの?」
七夏「え!?」
時崎「テレビを見ながらの食事はしない派?」
七夏「あ、お食事の時は、あまりテレビを見ないです」
凪咲「私がお客様がいらっしゃる時は、テレビを見ながらのお食事を控えるように話してますので」
時崎「そうなの?」
七夏「えっと、見てる時もありますけど、手が止まってしまうから・・・」
時崎「それ、分かる!」
七夏「今日は、お父さんから、もしかしたらテレビに映るかもって聞いたから☆」
凪咲「ナオが、出掛ける前に録画予約をしていたみたいで」
時崎「なるほど。今の映像、録画されてるのですか?」
凪咲「ええ♪ ですから後でも見れると思いますけど」
七夏「同じ時間を一緒の方がいいかなって☆」
時崎「それ、分かる!」
七夏「くすっ☆ 柚樹さん、さっきと同じ事を話してます☆」
時崎「はは・・・さっきと言えば、車掌車を見て思い出したけど、七夏ちゃん、直弥さんから鉄道模型のお掃除とか頼まれてない?」
七夏「え!? どおして?」
時崎「この前、直弥さんのお部屋にお邪魔した時、分解されていた車掌車があったから」
七夏「そうなの? 私は頼まれてませんです」
時崎「そうなんだ。後で直弥さんの部屋にお邪魔してもいいかな?」
七夏「私も一緒、いいですか?」
時崎「もちろん!」
テレビから、「C11蒸気機関車」が出発する映像を見ながら朝食を頂く。
<<「七夏「お父さん、本当は運転士さんになりたかったみたい」>>
以前、七夏ちゃんが話していた事を思い出した。直弥さんは運転士になりたかったけど、今は車掌として充実していると話してくれた。願いや想いが全て叶えば良いのだけど、現実はそんなに上手くはゆかない。俺も七夏ちゃんに七色の虹を見せてあげたいと思ったけど・・・直弥さんは、蒸気機関車イベント限定だけど運転士として、凪咲さんとの夢を叶えた。俺も別の方法で大切な人・・・七夏ちゃんの願いを叶えてあげたい。
夢が遠く届かなくても、努力と工夫次第では夢に近い事を実現する事は出来ると思う。生きると言うのは、その為に色々と考える事なのかも知れない。
時崎「色々・・・か」
七夏「? どしたの? 柚樹さん?」
時崎「なんでもない」
七夏「くすっ☆」
色々な色を見せてくれる「ふたつの虹」よりも大切な人、七夏ちゃんは優しく微笑んでくれた。
朝食を済ませ、七夏ちゃんと直弥さんの部屋にお邪魔する。以前、机の上にあった分解されていた車掌車は、元どおりになっていた。
時崎「元に戻ってる・・・」
七夏「え!?」
時崎「この車掌車」
七夏「お父さんかな?」
時崎「恐らく、そうだろうね」
七夏「くすっ☆ 柚樹さんが、来てくれて、この世界も変わりました♪」
時崎「この世界!? ああ、踏切と信号機の事?」
七夏「はい☆」
七夏ちゃんは、俺が蒸気機関車イベントで買って来た「C11蒸気機関車」の鉄道模型を線路に乗せた。
七夏「柚樹さん☆」
時崎「あ、ああ!」
七夏ちゃんの想いは分かる! 俺は机の上にあった車掌車を、C11蒸気機関車の後ろに繋いだ。今朝のテレビの場面が再現される。
七夏「出発ですっ☆」
時崎「出発進行じゃない?」
七夏「はいっ☆ 柚樹さん☆」
七夏ちゃんと一緒に「小さな列車の旅」を楽しんだ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
時崎「それじゃ、七夏ちゃん、俺は部屋を片付けるから」
七夏「はい☆」
自分の部屋に戻って片付けを行う。1ヶ月の間に変わってしまった部屋を、元どおりにして行く。雑誌や飛び出す本を持って帰るのは荷物になるけど、捨てるつもりはない。
七夏「柚樹さん!」
扉の向こうから七夏ちゃんの声がする。
時崎「七夏ちゃん?」
七夏「えっと、これを使ってください」
時崎「ありがとう! 丁度、取りにゆこうと思ってた」
七夏「よかった☆」
七夏ちゃんは、水を入れたタライと布巾を持って来てくれた。
七夏「それじゃ、また後でです☆」
時崎「ああ!」
片付けや掃除は、そんなに楽しくはないと思ってたけど、この部屋の掃除は感謝の気持ちが溢れてくる。目に付いた所は全て布巾で拭いてゆき、ちょっとした大掃除のようになってしまったけど、このくらいは行っておきたかった。
ひと通り片付けと掃除が終わって時計を見る。片付けを始めてから1時間近く経過していた。
時崎「よし、こんなところかな」
タライと布巾を持って、1階の洗面所に向かう。
凪咲「柚樹君、お掃除、お疲れさまです」
時崎「はい! タライと布巾、ありがとうございます!」
凪咲「いえいえ、ありがとうございます。本当は私が行わなければならないのに」
時崎「いえ! こちらこそ、お世話になりっぱなしでしたので、このくらいは行って当然だと思います」
七夏「あ、柚樹さん☆」
時崎「七夏ちゃん、さっきはありがとう!」
七夏「はい☆ お片付け、終わりました?」
時崎「ああ! 午後から、お出掛けだね!」
七夏「はい☆ えっと、今からお昼の準備です☆」
時崎「楽しみにしてる!」
七夏「くすっ☆ 少し、待っててくださいね☆」
七夏ちゃんは、凪咲さんのお手伝いを始めた。俺はここで行なっておくべき事が他になかったかを考える。この後、七夏ちゃんとお出掛けだから、写真機のお手入れと充電を行なっておこう。部屋に戻って写真機の電源を入れる。
時崎「やっぱり・・・」
電池の残量が少ない状態だった。昨日から色々とあった為、すっかり忘れていた。写真機と携帯端末を充電する。
マイパッドの電池は大丈夫だ。そのまま、以前に七夏ちゃんとお出掛けした場所の写真を眺める。七夏ちゃんお気に入りの場所、もう一度この場所へ出掛けるけど、あの時とは違う! あの時よりも七夏ちゃんの心を知っているつもりだ!
トントンと扉が鳴った。
七夏「柚樹さん☆」
時崎「七夏ちゃん!」
俺は扉を開ける。
七夏「? どうしたの?」
時崎「え!?」
七夏「扉に何かありました?」
時崎「扉・・・か」
七夏「え!?」
ここに来た時、これは扉ではなかった。俺も変わっている事に気付いた。七夏ちゃんの事を想っていると確信する。
時崎「確か、ここに来た時は『ドア』だったなと思って」
七夏「あっ!」
時崎「『ドアをノックする』から『扉が鳴る』になってて」
七夏「くすっ☆ 私、英語も頑張ってます☆」
時崎「ああ! 知ってる!」
七夏「ありがとうです☆」
時崎「あ、ごめん。お話しあるんだよね?」
七夏「はい☆ えっと、お昼は、お弁当を作ろうかなって☆」
時崎「お弁当!?」
七夏「お出掛け先で一緒に頂いて来たらってお母さんが話してくれて・・・どうかな?」
時崎「お弁当か! 嬉しいよ! ありがとう!」
七夏「良かった☆ じゃあ、頑張って作ります☆」
時崎「楽しみにしてるよ!」
七夏「くすっ☆」
七夏ちゃんはそっと扉を閉めてくれた。一緒にお弁当か・・・「あの時とは違う」を、より強く実感する。
そういえば、七夏ちゃんお気に入りの場所で過ごした後の事を考えてなかった。七夏ちゃんの事だから、俺が見たい場所を訊いてくるだろう。
時崎「俺の見たい場所・・・」
考えてるまでもない。七夏ちゃんの見たい場所だから。だけど、それだと話しが進まないから、二人が一緒に見たい場所という事になりそうだ。この街で他にそのような場所がないかをマイパッドの地図で眺めてみる。商店街、駅前、学校・・・は、どうだろうか? ある所に目を奪われた。
時崎「! バス停!!!」
俺が見たい場所! 七夏ちゃんと初めて出逢った場所! 俺はこのバス停がいいと思った。あとで七夏ちゃんにお願いしてみよう!
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
七夏「柚樹さん☆ お弁当、出来ました☆ 今からお出掛けの準備をしますね☆」
時崎「ああ!」
凪咲「柚樹君、七夏の事、よろしくお願いします♪」
時崎「はい! こちらこそ!」
凪咲さんは、お弁当と水筒を手渡してくれた。
時崎「ありがとうございます!」
七夏ちゃんを待つ間、マイパッドで再び以前に撮影した写真を眺める。あの時の七夏ちゃんの大きな帽子が印象に残っている。今日もあの時と同じように大きな帽子の姿を見せてくれるのだろうか? それとも、水族館の時のように大きくイメージを変えた姿なのだろうか? どちらにしても楽しみである事に間違いはない。
七夏「柚樹さん☆ お待たせです☆」
時崎「七夏ちゃん! じゃ、出掛けようか!」
七夏「はい☆ あ、お弁当!」
時崎「凪咲さんから受け取ってる! 水筒も!」
七夏「ありがとうです☆」
時崎「凪咲さん、今から出掛けてきます」
凪咲「いってらっしゃいませ!」
七夏「はい☆」
七夏ちゃんは、あの時と同じ格好をしてくれた。青いラインの入った白いワンピース姿で手には大きな帽子・・・それが、俺にはとても嬉しく思えた。
七夏ちゃんお勧めの場所へ再び向かう・・・。舗装されていない、轍のある道・・・以前よりも緑が鮮やかになっていた。日差しは高く、影は短いながらも、ふんわりとしたワンピースのゆらめきを、はっきりと地面に投影していた。俺は写真機の電源を入れて試しに訊いてみた。もう一度、あの時の七夏ちゃんを!
時崎「随分大きな帽子だね!」
七夏「はい☆ こうすれば体全体を守ってくれます☆」
時崎「なるほど!」
あの時と同じようにしゃがんでくれた七夏ちゃんを今度は逃さず撮影した。
七夏「ひゃっ☆」
時崎「あ、ごめん!」
七夏「えっと、み、見えてませんでした?」
時崎「え!?」
七夏「えっと、その・・・」
時崎「あ、大丈夫! 写ってないから!」
七夏「良かった☆」
時崎「でも、それだったら、どうしてしゃがんでくれたの?」
七夏「えっと、柚樹さんならいいかなって☆ でも、写真に残るのは恥ずかしいから」
時崎「・・・返事に困る・・・かな?」
七夏「ご、ごめんなさい!」
時崎「いや、俺は嬉しいけど」
七夏「くすっ☆」
なんか少し気まずい。話題を変えよう!
時崎「そ、そう言えば七夏ちゃん! 今日はセブンリーフ、身に付けてないんだ」
七夏「え!? えっと・・・付けて・・・ます・・・」
時崎「え!? そうなの? どこに付いてるんだろ!?」
七夏「えっと・・・内緒です☆」
七夏ちゃんは、少し恥ずかしそうにうつむき、そう答えた。
時崎「内緒か・・・」
七夏「あの・・・柚樹さん」
時崎「え!? ああ、ごめん!」
内緒と言われたので、ついそれを探してしまい、結果的に七夏ちゃんをじろじろと見つめてしまっていた。どこにセブンリーフがあるのか、結局分からなかった。
七夏「さっき、見えてたら気付いたかも・・・です」
時崎「え!? それって」
七夏「・・・・・」
時崎「ご、ごめんっ!」
七夏「くすっ☆ えっと、ここに四葉があって、こっちが三葉です☆」
七夏ちゃんは手で胸元と、お腹の少し下を押さえながら話してくれた。さすがに鈍い俺も見えないけど、セブンリーフが何なのかを理解できた。
なんと言うか、七夏ちゃんの考える事が分からない時があるけど、過去にもこのような出来事が無かった訳ではない。
水着の試着の時や、体温計で体温を計っている時に同じような事があった。学習していないのは俺の方かも知れない。七夏ちゃんは、下着を見られて恥ずかしいとは思わないのだろうか? そんな事を訊ける訳ないか。
七夏「柚樹さんっ☆」
時崎「あ、ああ!」
少し先を歩く七夏ちゃんに呼ばれる。いつも七夏ちゃんが気遣ってくれる。先を歩くのは七夏ちゃんだけど、実際は俺の側の少し後に居る感覚があるのは、七夏ちゃんの持つ見えない魅力のひとつなのだと思った。
草原の上にキラキラと光り輝く海。あの時の記憶と重なってくる。七夏ちゃんに初めてこの場所を案内してもらった時と同じ感覚だけど、このまま記憶を追いかけているだけでは、思い出に浸っているだけだ。今日、ここに来た事を新しい思い出となるように意識する。
七夏「到着です☆」
時崎「前も案内してもらったけど、綺麗な場所だね」
七夏「くすっ☆」
時崎「お弁当、ここに置いていいかな?」
七夏「はい☆ ありがとうです☆」
荷物から敷物を広げて、お弁当を置いた。広がる海と空を見渡すように眺める。もっと海が見える所まで歩くと、足元に街も広がってきてとてもいい眺めだ。七夏ちゃんも俺の隣に来てくれたけど、何も話しては来なかった。一緒に景色を眺めてくれている。ここで今、大きな虹が現れたら、どうなっていただろうか。
時崎「・・・・・」
七夏「・・・・・」
時崎「・・・・・」
七夏「・・・・・虹」
時崎「え!? まさか!?」
七夏「あ、えっと、前にここで虹のお話しをしました☆」
七夏ちゃんから虹のお話しをしてきた事に驚いたけど、冷静に考えれば自然な流れなのかも知れない。七夏ちゃんにも俺と同じように、この場所で以前の思い出があるのだから。
時崎「そ、そうだね」
七夏ちゃんにとっては苦手な虹。他の人と違う事を思い出させてしまう虹。翠碧色の虹。この虹にどのように触れて良いのか分からない。触れる事なんて出来ないのは分かっているし、俺には見る事さえ出来ないのも・・・だけど---
七夏「ここで分かった事も、たくさんあります」
時崎「分かった事?」
七夏「他の人と一緒じゃなかった事、一緒じゃないといじめられる事・・・」
時崎「七夏ちゃん・・・」
七夏「でも、助けてくれる人が居る事、一緒じゃなくてもいいって話してくれる人も居る事」
七夏ちゃんの「ふたつの虹」が綺麗な翠碧色に輝く。七夏ちゃんの本当の瞳の色は分からないけど、真っ直ぐに相手の心を捉えた時が本心であり、その時の色が本当の色なのかも知れない。
時崎「俺は、どんな色でもいいと思ってる。一緒に居て、同じように眺められるだけで嬉しい」
具体的な事は言わなくても、七夏ちゃんには伝わっているはずだ。
七夏「本当は、七色の虹も見てみたいなって思ってます。でも、その理由は、他の人と一緒じゃないからって思ってましたけど、今はそうじゃなくて---」
時崎「ああ! 分かってるよ」
<<七夏「虹が、柚樹さんの好きな虹・・・私も一緒に見えて、一緒に喜んであげれたらいいなって・・・」>>
以前に七夏ちゃんが話してくれた事。
七夏「くすっ☆ 」
時崎「また、一緒に見れるといいね!」
七夏「はい☆ 柚樹さん☆」
時崎「え!?」
七夏「お腹すきませんか?」
時崎「そういえば、もうお昼過ぎてるね!」
七夏「では、お昼にします?」
時崎「ああ! とても楽しみだよ!」
七夏「くすっ☆」
七夏ちゃんと一緒にお昼を頂く。綺麗な景色の中で頂くお昼は、とても贅沢に思える。七夏ちゃんの作ってくれたお弁当には、タコの形をしたウインナーのような物は入っていないけど、手堅く作られている。いつも頂いている民宿風水の味って言うのだろうか? 俺の好みの味付けが多くあって、箸が進んだ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
時崎「ご馳走様でした!」
七夏「はい☆ 柚樹さん、沢山食べてくれて嬉しいです☆」
時崎「美味しかったから・・・でも、ちょっと食べ過ぎたかな」
七夏「大丈夫ですか?」
時崎「大丈夫! 少し横になれば---」
七夏「あ、だったら、ここに頭を乗せてください☆」
七夏ちゃんは、自分の膝を手のひらでトントンと叩いた。これって膝枕なのでは?
時崎「い、いいの?」
七夏「はい☆」
七夏ちゃんの厚意に感謝し、甘えさせてもらう事にした。
時崎「ありがとう。七夏ちゃん!」
七夏「くすっ☆」
七夏ちゃんの膝に頭を乗せる。太陽の光が眩しいと思ったら、七夏ちゃんは帽子を調整して俺の顔を影で覆ってくれた。七夏ちゃんの顔がはっきりと見えるようになる。ふたつの虹は綺麗な翠碧色だった。膝枕って心地良さそうだなとは思ってたけど、こんなにも幸せに満たされるのだと実感する。
七夏「ごめんなさい」
時崎「え!?」
七夏「お弁当、ちょっと作り過ぎちゃったから」
時崎「とっても美味しかったし、そのおかげでこうして膝枕してもらえたから嬉しいよ」
七夏「こういうのって、憧れの場面かな?」
時崎「憧れ?」
七夏「小説でも時々、膝枕の場面があって、いいなって思って☆」
時崎「そうなんだ」
七夏「柚樹さんのおかげで、いいなって思える事が沢山できました♪」
七夏ちゃんの言葉がとても嬉しい。七夏ちゃんが「いいな」と思える事を、俺はあとどのくらい出来るのだろうか?
時崎「・・・・・」
そよ風が心地よく、自然と目を閉じてしまう。お腹がいっぱいになった事もあってか、少し眠たくなってくる。
七夏「柚樹さん☆ 眠ってもいいですよ☆」
そんな俺の気持ちをすぐに読み取ってくれる七夏ちゃんに心から感謝する。
時崎「ありがとう・・・七夏ちゃん・・・」
七夏「くすっ☆」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
時崎「・・・んん・・・七夏・・・ちゃん?」
七夏「あ☆ 起きました?」
時崎「あ、ああ。ありがとう」
七夏「くすっ☆」
七夏ちゃんの膝枕で少し眠ってしまったけど、今はとても心地が良い。起きて再び景色を眺める。七夏ちゃんは、海と街が良く見える場所へ歩いてゆく。
七夏「柚樹さん☆」
時崎「ん?」
七夏「さっきは、七色の虹だといいなって話しましたけど・・・」
七夏ちゃんはさっきの話の続きを始めた。
時崎「!?」
七夏「やっぱり、次に出逢えた時は・・・翠碧色の虹でもいいかな☆」
時崎「七夏ちゃん・・・」
七夏ちゃんは七色の虹を見てみたいと思っているし、翠碧色の虹でもいいと話してくれた。これの意味する事は・・・。
七夏「七夏は、虹が七色に見える事よりも、このままがいいなって☆」
時崎「・・・ああ!」
七夏「くすっ☆ とっても楽しみです☆」
時崎「え!?」
七夏「次に出逢える虹が、どんな色なのかなって☆」
時崎「そうだね!」
本当は叶えてあげたい・・・だけど、俺には・・・・・。俺も七夏ちゃんも答えは分かっている。だけど、分かってても楽しみに思う事が素敵な事であり、七夏ちゃんらしい考え方なのだと思う。
七夏「柚樹さんっ☆」
俺の気持ちを察したのか、七夏ちゃんは微笑んでくれる。
七夏「一緒です☆」
時崎「え!?」
七夏「翠碧色の虹、柚樹さんには分からなくて、七色の虹、私には分からないから一緒☆」
時崎「あ、ああ! 一緒だ!」
俺はそう答えるのがやっとだった・・・。七夏ちゃんは俺なんかよりもしっかりしている。こんな時こそ、優しく微笑んであげなければならないのに・・・。
七夏「柚樹さんは、これからも七夏の事、追いかけてくれるのかなぁ☆」
時崎「え!? あ、ああ! あの時、話したからね。七夏ちゃんの虹を追いかけたいって!」
七夏「くすっ☆」
そうだ! 俺はこれからも追いかけ続ける! さっき無理だと思った事・・・七夏ちゃんに七色の虹を見せてあげたいと願っている事・・・これがもし叶えば、この上無く嬉しいけど、その先はどうなるのだろうか? 目的を失うというのは、ある意味怖い。
無理だと分かっていても追いかけ続ける方が、一緒に居る事の喜びに繋がるのではないだろうか?
七夏ちゃんも俺もお互いの虹の色を見る事が無理だと分かっている。だけど、想い願い続ける事は無理な事ではない。
時崎「七夏ちゃん!」
七夏「はい☆」
時崎「今日、この場所に来れて良かったよ! ありがとう!」
七夏「くすっ☆ 七夏も柚樹さんと一緒です☆」
時崎「え!?」
七夏「一緒の事、考えてました☆」
時崎「そう! 良かった!」
七夏「柚樹さん☆ この後、どこか見たい所ってありますか?」
思ったとおり、七夏ちゃんは、俺の見たい場所が無いかを尋ねてきた。
時崎「七夏ちゃんは?」
七夏「私はこの場所に来れたから、今度は柚樹さんの見たいところがいいな☆」
俺の見たい場所・・・あの場所だ!
時崎「じゃ、バス停!」
七夏「え!?」
時崎「七夏ちゃんと初めて出逢った場所・・・バス停はどうかな?」
七夏「くすっ☆ 今からお片付けして参ります?」
時崎「ありがとう!」
七夏ちゃんと初めて出逢った場所・・・ただのバス停が特別な景色に見えてくる。俺はあの時と同じようにバス停の長椅子の端に腰掛ける。七夏ちゃんも同じように座ったけど、俺のすぐ隣ではなく端の方・・・長椅子の端と端に距離を置いて座る二人。この距離感、さっきは膝枕してくれた事を考えると今は少し不自然に思えるけど、世間的には自然な構図に見えるのだろうか。しばらくそのままの状態が続き、風に揺れる樹々の音が耳に届くようになる。七夏ちゃんはのんびりと過ごす事を好む女の子だけど、俺もそんな七夏ちゃんの気持ちがよく分かる。この街に来てから、俺自身も変わったと実感する。七夏ちゃんが椅子から離れ、時刻表を眺める。
七夏「バス、しばらく来ないです☆」
そう話す七夏ちゃんの表情は長い髪に隠れてよく見えない。だけど、俺には見えるかのように七夏ちゃんの表情が伝わってくる。見えないのに見えるって、そう言う事なのだ!
時崎「そうなんだ。ありがとう!」
七夏「くすっ☆ 柚樹さん、お話ししてくれました」
時崎「え!?」
七夏「バス停の椅子を借りる時は、バスがしばらく来ない事を知っていたら、いいかなって☆」
時崎「そんな事を話したような気がする」
七夏「くすっ☆」
七夏ちゃんは、こちらに振り返る。
虹! ふたつの虹が綺麗に変化しながら輝く!
あの時みたいな驚きはなかったけど、とても嬉しく思う気持ちはあの時より遥かに大きい。
時崎「なっ、七夏ちゃん!?」
七夏「♪」
今度は俺のすぐ隣に座ってきた七夏ちゃんを見て、この場所での思い出も変わったのだと実感した。俺はあの時の不思議に思っていた事を七夏ちゃんに訊くなら、今しかないと思った。
時崎「七夏ちゃん、訊いてもいいかな?」
七夏「はい☆」
時崎「あの時、どおして写真撮影の許可をくれたの?」
七夏「えっと・・・柚樹さん、好きなんだなって☆」
時崎「え!?」
七夏「写真☆」
時崎「あ、ああ! どおして分かったの?」
七夏「お休みしながら、とても大切に写真機を抱きしめてました☆」
時崎「そ、そう?」
七夏「自分が苦手な事でも、それが好きな人も居ます。楽しい事や、好きな事に一生懸命な人は、応援してあげたいなって思って☆」
・・・今さらながら、七夏ちゃんの言葉に驚いた。
七夏「あ、今のはお父さんが話してくれて・・・」
時崎「そ、そうなんだ。でも、七夏ちゃんもそう思ってくれたんだよね。ありがとう!」
七夏「それに・・・くすっ☆」
時崎「?」
七夏「あの時の柚樹さん、とても一生懸命に、お願いしてくれました☆」
時崎「うっ・・・ごめん」
七夏「はい☆ でも、黙って写真を撮られる事もありましたから、そう言う人と、柚樹さんは同じじゃないです☆」
時崎「それってやっぱり?」
七夏「・・・・・」
時崎「・・・・・」
七夏ちゃんは自分の瞳の色が変わる事を分からない。けど他の人には分かるから、珍しがって無断で写真撮影をする人がいる事を考えると、写真が苦手になるのは自然な流れになるだろう。でも、七夏ちゃんだって負けてはいない。自分の目の特徴から相手の反応や心を読み取っていたのだ・・・自分では分からない特徴でも、他の人の反応で感覚出来る事はある。俺は七夏ちゃんの瞳と心にどのように映って、どのような影響を与える事が出来たのだろう。俺の望む事は七夏ちゃんが喜んでくれる事、特別な事ではなく普通の事のように接する事だ。だけど、俺が一生懸命お願いした事だけで写真撮影の許可をくれた事に不思議な思いがまだ残る。七夏ちゃんは、一生懸命お願いすれば誰にでも撮影許可してくれるようには思えなかったから。七夏ちゃんの事を大切に想っている心が、これ以上この事に踏み込むのを抑えようとしている。
時崎「初めて出逢った時は、そう思ったよ」
七夏「柚樹さん?」
時崎「ああ! でも、俺は不思議な出来事を大切に想いたくて・・・その時からなのかも知れないな」
七夏「やっぱり、柚樹さんは少し変わってます☆」
時崎「七夏ちゃんだけでなく、天美さんや高月さんと出逢った時も不思議な感覚だったよ。天美さんには警戒されたけど」
七夏「くすっ☆」
あまりこの話を続けるのは良くない気がした。七夏ちゃんの事を想って、この話題を切り上げる。
時崎「とにかく、七夏ちゃんとこの場所で出逢えた事に感謝かな」
七夏「私も、柚樹さんに声を掛ける事が出来て良かったです☆」
そうだった。最初に声を掛けてくれたのは七夏ちゃんの方だ。
時崎「どおして? 声を掛けてくれたの?」
七夏「えっと、ご旅行のお客様には親切になさいって、お母さんに言われてます☆」
時崎「なるほど、さすが民宿の女将さんの娘さんだね」
七夏「くすっ☆ ずっと前にも同じような事があって、その時は声を掛けられなかった事を思い出したからかな?」
時崎「そうだったの? いずれにしても感謝だよ」
七夏「私、幼い頃はあまり自分から話しかける事が出来なかったの。お母さんが、女将さんになりたければ、色々な人とお話しをして、人の心を理解出来る力を養いなさいって」
時崎「凪咲さんらしいね」
七夏「私、お母さんみたいになりたいなって☆」
時崎「なれると思う! ・・・って言うか、もうなってるよ!」
七夏「くすっ☆ そうだといいな☆」
時崎「ああ!」
七夏「お母さんの言う事を聞いてて、良かったなって思ってます☆」
お母さんの言う事・・・か。確かに、凪咲さんのようなお母さんが居てこその七夏ちゃんだと思う。
時崎「俺もお母さん孝行するよ!」
七夏「はい☆ あ、柚樹さん!」
時崎「え!?」
七夏「急ですけど、カレーとシチューどっちが好きですか?」
時崎「どっちも好きだよ! ・・・って、ごめん。どうして?」
七夏「えっと、今日のお夕食、七夏も頑張る事になってます☆」
時崎「それは楽しみだ! 七夏ちゃんの好きな方でいいよ!」
七夏「えっと、シチューでいいかな?」
時崎「もちろんいいよ!」
七夏「ありがとうです☆」
時崎「お買い物あるなら、付き合うよ」
七夏「はい☆」
時崎「ありがとう!」
七夏「!? どしたの?」
俺は、バス停と椅子にお礼をする。
時崎「この場所にも感謝かな?」
七夏「くすっ☆」
時崎「じゃ、一緒にお買い物へ!」
七夏「はいっ☆」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
七夏ちゃんとお買い物を済ませる。さっきまで青かった空は、ほのかに夕焼け色になってきていた。
時崎「シチューの素、買ってなかったの?」
七夏「えっと、お家にビーフシチューの素はありますので、それにしようかなって思ってたのですけど、ホワイトシチューもいいかなって☆ 柚樹さんはどっちがいいですか?」
七夏ちゃんが再び尋ねてくる。これは迷う事はない。
時崎「ホワイトシチューがいい!」
七夏「くすっ☆ ありがとです☆」
七夏ちゃんの「ありがとう」には、色々な意味が含まれている気がした。
民宿風水に戻った時、携帯端末に連絡が入った。
七夏「ただいまー☆ どしたの? 柚樹さん?」
時崎「七夏ちゃん! アルバム! 完成したって!」
七夏「わぁ☆」
時崎「俺、今から取りにゆくから!」
七夏「はいっ☆」
凪咲「おかえり、七夏、柚樹君」
時崎「ただいま、なんですけど、行ってきます!」
凪咲「え!?」
七夏「くすっ☆ 柚樹さんは、お出掛けみたいです☆」
凪咲「そうなの? いってらっしゃいませ!」
時崎「はいっ!」
七夏「柚樹さん、ありがとうです☆ お荷物、ここに置いててください☆」
時崎「ありがとう!」
俺は写真屋さんへと急いだ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
写真屋さんでアルバムと現像した写真を受け取る。
店員「ありがとうございます!」
時崎「こちらこそ、大変お世話になりました。色々、無理なお願いをしてすみません」
早速アルバムを確認する。思っていた以上の仕上がりになっている。七夏ちゃんをはじめ、天美さんと高月さんにも感謝する。
時崎「綺麗に仕上がってます! ありがとうございます!」
店員「いえいえ! 時崎様、またいらしてくれると嬉しいです!」
時崎「はい! あと、プリントもお願いしていいですか?」
店員「はい! いつもありがとうございます!」
今日まで撮影した七夏ちゃんの写真と、アルバムにもある俺のお気に入りの写真もプリント依頼をした。印刷が終わるまでの間、少し店員さんとお話しをする。店員さんは、俺がこの街を発つ事を何となく分かっていたのだと思う。
店員「お待たせいたしました」
時崎「ありがとうございます」
プリントされた写真を受け取る。
時崎「それでは、これで失礼します!」
店員「時崎様!」
時崎「はい!?」
店員「これを、差し上げます」
時崎「これは、写真立て?」
店員さんは、写真立てをくれた。以前、俺が七夏ちゃんに買ってあげたセブンリーフの写真立てだ。
時崎「いいのですか?」
店員「はい! ぜひどうぞ!」
時崎「あ、ありがとうございます!」
俺は店員に深くお礼をして民宿風水、いや、七夏ちゃんの家へと急いだ。
時崎「た、ただいま!」
アルバム三冊を抱えて走ると、結構身体が暑くなって、少し息も苦しい。
凪咲「おかえりなさい、柚樹君、大丈夫?」
時崎「は、はい! 大丈夫です! 七夏ちゃんは?」
凪咲「今はお風呂かしら? 今日も暑かったですから」
時崎「そうですね」
凪咲「柚樹君も汗を流してください」
時崎「え? でも、今は七夏ちゃんが・・・」
凪咲「七夏が露天の準備もしてくれてますので」
時崎「露天の湯か! そうだった!」
昨日、露天がいいなって話してた。
凪咲「柚樹君、きっと走ってくるから、帰ってきたら露天の湯に案内してあげてって七夏が話してたわ♪」
時崎「七夏ちゃん・・・」
七夏ちゃんの心遣いが本当に嬉しい。確かに少し走ってきたので、すぐにお風呂に浸かりたい。
時崎「ありがとうございます!」
凪咲「はい♪」
民宿風水には露天風呂がある。この露天風呂は混浴となっている。屋内の温泉とは別の通路になっているようだが、その理由は時間帯に関係なく、露天の湯だけは常に誰でも利用できるようにと言う事らしい。早速、露天の湯の方へと足を運ぶ事にした。しかし、露天の湯には、なんと先客が居た・・・七夏ちゃんだ。俺は、かなり動揺したが、七夏ちゃん自身は少し驚いた程度だった。
七夏「??? 柚樹さん???」
時崎「な、七夏ちゃん! そ、その、誰も居ないと思ったから・・・ごめん!」
七夏「ここは混浴ですから、謝ることはないです☆ 柚樹さん、お体冷えちゃいますから・・・どうぞ♪」
時崎「あ、ありがとう・・・七夏ちゃん」
七夏「はい☆」
お風呂のお湯で体を洗い流して、お湯に浸かる。七夏ちゃんも、バスタオル姿で、湯船に浸かっている。長い髪は頭上のタオルで束ねられている為、随分と印象が違って見えた。ふと、疑問に思った事を訊いてみる。
時崎「七夏ちゃん、屋内のお風呂に居ると思ってたんだけど・・・」
七夏「えっと、露天の準備をしてたら、こっちに入りたくなって・・・それで・・・」
時崎「そうなんだ・・・俺が、ここに入ってくる可能性は、考えなかった?」
七夏「その時は、その時で・・・まあ、柚樹さんなら、いいかなって思ってました☆」
七夏ちゃん・・・嬉しいんだけど、それはとても意味深だ・・・。しかし、今までの七夏ちゃんの行動を考えると、七夏ちゃん自身はそれ程深く考えていないのかも知れない。とりあえず、今は七夏ちゃんと、のんびり過ごそう・・・と意識はするが、のんびり所ではない。バスタオル姿の七夏ちゃんにドキドキしてしまう・・・。七夏ちゃんの頬は赤いが、顔は涼しそうだ・・・恥ずかしくは無いのだろうか・・・。
七夏「・・・・・」
時崎「・・・・・」
七夏「・・・・・」
時崎「・・・・・」
しばらく二人、露天で七夏ちゃんはのんびり、俺はドキドキ過ごす。お湯が揺れる音、風で木々が揺れる音、虫の声も聞こえてくる。七夏ちゃんと一緒だからだろうか・・・お湯が結構熱く思える。七夏ちゃんは、俺より先に湯船に浸かっていたけど、大丈夫だろうか? 俺が居る事でお風呂からあがりにくいって事も考えられる。七夏ちゃんの方を見ると、さっきより顔が赤くなっている。七夏ちゃんと目が合った。
七夏「柚樹さん・・・」
時崎「え!?」
七夏「お湯、熱くないですか!?」
時崎「俺は大丈夫。七夏ちゃんは?」
七夏「はい。大丈夫です☆」
時崎「顔、結構赤いよ。七夏ちゃん」
七夏「柚樹さんも・・・です☆」
時崎「そ、そう?」
七夏「ちょっと、体が熱くなってきましたので、涼みますね☆」
時崎「え!?」
そう言うと、七夏ちゃんは風呂から上がり、湯船の縁に座った。膝から下だけ湯船に浸かり、足湯のような格好だ。そして手で軽く首元を扇いでいる。全身バスタオル姿の七夏ちゃんを見てしまい、さらに動揺してしまう。
七夏「柚樹さん・・・大丈夫ですか?」
時崎「え!?」
七夏「のぼせないように、気をつけてくださいね♪」
お湯も結構熱いが、それよりも、バスタオル姿の七夏ちゃんでのぼせてしまいそうだ。七夏ちゃんを見上げる格好になっている今のこの状況では、どう考えても七夏ちゃんの方がレベルが上だ。俺も負けじと訊いてみる。
時崎「七夏ちゃん!」
七夏「はい!?」
時崎「その・・・は、恥ずかしくないの?」
七夏「え!?」
時崎「ば、バスタオル姿で・・・」
訊いてしまった。
七夏「あ・・・これ、お湯着です☆」
時崎「おゆぎ!?」
七夏ちゃんは、そう言うと、扇いでいた手を胸元へ持ってきて、バスタオルを軽く掴む。
七夏「えっと、お風呂で着る水着・・・になるのかな?」
時崎「み、水着!?」
七夏「はい☆」
七夏ちゃんは、そう言うと、立ち上がり、その場でゆっくりと1回転して、お湯着全体を見せてくれた。バスタオル姿だと思ったら、バスタオル風の水着だという。今はそんな温泉用のアイテムもあるのか!?
時崎「つ、つまり、バスタオル風の水着って事!?」
七夏「はい☆ そうなります♪ だから、大丈夫です☆」
七夏ちゃんは、湯船の縁に座りなおして話す。大丈夫・・・つまり、水着だから恥ずかしくないという事なのだろうか!?
時崎「お湯着・・・そんなのがあるんだね。知らなかったよ」
七夏「くすっ☆ これ、お母さんが作ってくれました♪」
時崎「凪咲さんが!?」
七夏「はい☆ 私が露天の湯でも恥ずかしくないように・・・って☆」
時崎「なるほどねー。って事は、民宿風水のオリジナル商品!?」
七夏「おりじなる・・・」
時崎「特製商品って事!」
七夏「そうなるのかな?」
時崎「混浴の露天の湯を利用したいけど、ちょっと恥ずかしいって人には、いいかも知れないね!」
七夏「そうですね♪ 男の人用も有りますので♪」
時崎「あ、あるんだ・・・」
七夏「はい☆ 柚樹さんも使ってみます?」
時崎「そ、そうだな・・・七夏ちゃんと混浴できるならっ!」
七夏「えっ!?」
俺は、なんとか七夏ちゃんと同じレベルになるように仕掛けてみる。七夏ちゃんは目を逸らしつつ、再びお湯に浸かった。目線の高さが同じになり、これは効果があったと思いたいっ!
七夏「・・・・・」
時崎「・・・・・」
七夏「・・・・・」
時崎「・・・・・」
俺は、七夏ちゃんの次の言葉を待つ。七夏ちゃんがまた一緒に混浴してくれるかどうかという答えを・・・。
七夏「婚約・・・・・」
時崎「え!? こ、婚約!?」
七夏「混浴・・・・・ですよね?」
時崎「え・・・あ、ああ。混浴!!!」
七夏「私、婚約って聞こえたから・・・その・・・」
時崎「ごめんっ!! 紛らわしくて!!」
七夏「い、いえ・・・私の方こそ、聞き間違えちゃって、すみません・・・」
時崎「た、確かに混浴と婚約は似てるなぁ・・・」
七夏「・・・・・」
時崎「・・・・・」
七夏「・・・・・」
時崎「・・・・・」
き、気まずい。七夏ちゃんは、お湯に深く浸かり、目を逸らしたままだ。でも、これは俺にとっては嬉しい気まずさだ。七夏ちゃんとの、こんな混浴が、今後もできればいいなと思っている。七夏ちゃんも、そう思ってくれると嬉しいのだが---
七夏「や、やっぱり今度は、いつものお風呂にしておきますっ!」
時崎「そ、そう・・・・・」
流石の七夏ちゃんも、今回は恥ずかしくなったようだ。何か複雑な気持ちではあるが、七夏ちゃんと同じレベルに追いつけたような安心感もある。
七夏「いつものお風呂なら、お湯着を使わなくても、いいですから☆」
時崎「ぶっ!」
七夏「くすっ☆ 柚樹さん! 大丈夫ですか!?」
時崎「ちょっと咽ただけ・・・参りました・・・」
七夏「くすっ♪」
やはり、七夏ちゃんの方が一枚上手のようだ・・・。ここは七夏ちゃんのお家だから、色々と七夏ちゃんの方が優位なんだと、無理矢理思い込む。
時崎「七夏ちゃん!」
七夏「はい☆」
時崎「その・・・お湯着姿、可愛かったよ!」
七夏「あっ・・・えっと・・・ありがと・・・です☆」
また七夏ちゃんと混浴できるかどうかは、俺次第という事か・・・。でも、そういう機会があるといいなと思った。
七夏「そ、それじゃあ、七夏は先にあがります☆ 柚樹さんは、ごゆっくりどうぞです☆」
時崎「あ、ああ!」
つい、七夏ちゃんを見送り・・・目を逸らしてしまう。まだ少し落ち着かなかったけど、目を閉じて湯に深く浸かると、心地良く、自然といつもの時間に変化してゆく。だけど、もう少し七夏ちゃんと一緒に居たかったという残心もあって複雑だった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
七夏「あ、柚樹さん☆」
お風呂をあがると、いつものように七夏ちゃんが声を掛けてくれ、冷茶を持って来てくれた。七夏ちゃんとお風呂が一緒になった事、凪咲さんは知っているのだろうか?
七夏「? どしたの?」
七夏ちゃんはいつもどおりに見えたから、俺もいつものように合わせるけど、まだ心は落ち着いてくれてはいない。
時崎「ありがとう!」
七夏「くすっ☆ お夕食、もう少し待っててくださいです☆」
時崎「ああ。七夏ちゃん!」
七夏「はい☆」
時崎「後で時間あるかな? アルバムの事で」
七夏「えっと、写真、追加するのかな?」
時崎「さすが! アルバムの予備の場所に追加する写真を一緒に選んでほしい」
七夏「くすっ☆ 私も楽しみです☆」
時崎「凪咲さんにはその後で、七夏ちゃんと一緒に渡したいんだけど、それでいいかな?」
七夏「はい☆ 柚樹さんと一緒がいいです☆」
時崎「ありがとう! じゃ、部屋で準備しておくよ」
七夏「はい☆」
夕飯のホワイトシチューは、じっくり味わいたいけど、まだ少し熱い。シチューの香りを楽しみ、スプーンで冷ましながら頂くと、熱いさの中から美味しさが広がってきて、七夏ちゃんが頑張って作ってくれた事が伝わってくる。
七夏「少し熱かったかな?」
時崎「とても美味しいよ!」
七夏「良かった☆」
時崎「七夏ちゃんも一緒に!」
七夏「はい☆ あ、おかわり、たくさんありますから☆」
時崎「ありがとう!」
・・・美味しくて、2回もおかわりしてしまった。少しお腹が苦しい。お昼も食べ過ぎたのに学習してないなと思いながらも、七夏ちゃんの作ってくれるお料理はたくさん頂きたい。たくさん頂くと七夏ちゃんが喜んでくれる事も学習しているから。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
夕食後、七夏ちゃんと一緒にアルバムの写真を選ぶ。
七夏「えっと、いくつかアルバムに載ってる写真もあるみたい」
時崎「そうだね。 俺のお気に入りも印刷したから、重複しているのは選ばなくていいと思うよ」
七夏「はい☆」
選ばなかった写真も、七夏ちゃんは別のアルバムを買って大切にしたいと話してくれたので、全て預ける事にした。
七夏「柚樹さん☆ お気に入りの写真はどれかな?」
時崎「え!?」
七夏「お気に入りの写真、私が貰ってもいいのかなって」
時崎「もちろん、構わないよ! 俺はいつでも現像できるから」
七夏「ありがとです☆」
時崎「ああ! じゃ、凪咲さんへ渡しにゆこう!」
七夏「はいっ☆ あ、柚樹さん☆」
時崎「え!?」
七夏「預かった写真、お部屋に置いて来ますから、少し待っててくれますか?」
時崎「ああ!」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
七夏「お待たせです☆」
七夏ちゃんと一緒に凪咲さんの所へ移動する。いよいよだ。凪咲さんも、きっと喜んでくれるはずだ。凪咲さんは居間で本を読んでいた。その様子は七夏ちゃんとよく似ているなと思った。
七夏「お母さんっ☆」
凪咲「あら? 七夏、柚樹君も一緒なの?」
時崎「凪咲さん!」
七夏「これ・・・」
時崎「七夏ちゃんのアルバムです!」
凪咲「まあ♪ 『ななついろひととき』」
アルバムのタイトル名は、七夏ちゃんと一緒にここ、民宿風水での楽しい一時を過ごさせてもらった事への感謝を込めて決めた。
凪咲さんはアルバムを眺めはじめる。
七夏「くすっ☆」
七夏ちゃんも凪咲さんの隣に座って一緒に眺めはじめた。俺はその様子を祈りに近いような感覚で眺めていた。
凪咲「・・・・・」
七夏「・・・・・」
長いようで短かった1ヶ月。七夏ちゃんの生活を中心にまとめたアルバム。俺は凪咲さんが取り戻したいと願っていた大切な事を、少しでも補えたのだろうか?
凪咲「・・・・・」
アルバムの時間を進めながら、凪咲さんの様子が険しい表情に変わってきたように思え、俺は少し焦った。何か問題でもあったのだろうか?
凪咲「・・・・・」
七夏「・・・・・」
凪咲さんは少し震えているように思えたけど、俺も同じように震えていた。もし、凪咲さんに辛い想いをさせたのなら、俺は取り返しの付かない事をしてしまった事になる。考えられる原因は思い付かない・・・なんなのだ!? その時---
凪咲「うぅ! ななつぅー!」
七夏「ひゃっ☆ お、お母さん!?」
時崎「!!!」
凪咲さんは、七夏ちゃんに抱きついて泣き始めた。七夏ちゃんは驚いた様子だったけど、すぐに凪咲さんをぎゅっと抱きしめた。まるで親子が逆転したかのような二人を見て、俺は理解した。凪咲さんの少し険しかった表情は、溢れ出る嬉しさの感情を堪えていたのだと。俺も凪咲さんと同じ気持ちになっていた。凪咲さんのお母さんになったような七夏ちゃんの姿を思い出として残したいと思ったけど、やめておく。これは、俺の目と脳に焼き付いたから、忘れる事は無い・・・いや、忘れる事なんて出来ないだろう。
七夏ちゃんに抱かれながら泣いている凪咲さんを、このまま見ているのは失礼だと思い、俺は和室の縁側へと移動する。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
夏でも夜になると涼しく、夜風が心地よい民宿風水・・・縁側に来ると、近くでは虫の声、遠くから波の音が聞こえてくる。俺はその場に座り、この一時を楽しむ事にした。空を見上げると、丸くて大きな月。今夜は月が明るく、その月の光を海が受け取り、優しくゆらめく光となって俺の所まで届いてくる。月の光が届く他の場所を見てみると、七夏ちゃんが、お水をあげていた朝顔の花は、すでにお休みしているようだ。
時崎「夏でも、夜は涼しいな」
七夏「あ、柚樹さん☆」
時崎「七夏ちゃん!」
七夏「ここに居たのですね☆」
時崎「ああ。今日は、月がとても明るいよ」
七夏「はい☆」
七夏ちゃんが、夜空を見上げる。月の光に照らされた七夏ちゃんの浴衣姿が、はっきりと浮かび上がる。見慣れたはずの民宿風水の浴衣・・・月の光の影響か、いつもと違う印象に思える。俺も七夏ちゃんと同じように月を眺めてみる。ん? よく見ると、月の外側に虹のような輪が見えるようだ。
時崎「あれは・・・月虹!?」
七夏「え?」
時崎「月の回りに、輪のような光が見えない?」
七夏「えっと・・・」
七夏ちゃんが、目を細めて月を眺めている・・・。俺は、七夏ちゃんも、月虹を見つけてほしいと願っていた。
七夏「あっ!」
月の外側にある虹の存在に気付けたのか、七夏ちゃんの表情は穏やかになった。俺の見ている月虹と、七夏ちゃんが見ている月虹は、同じではないのかも知れない。でも、二人が見てる虹が違うなんて、誰が言えるのだろうか?
七夏「柚樹さん☆」
時崎「え?」
七夏「~♪」
七夏ちゃんが、俺の隣に座ってきた。更に、少し俺の方に寄り添ってくる・・・。横座り(女の子座り)だから、自然と俺の方に寄り添ってくる形になるのは分かるが、少し動揺してしまう。浴衣を通して、七夏ちゃんの温もりがはっきりと伝わってくるにつれ、俺の動揺は、少しの範囲を超えかけそうになる。
時崎「な、七夏ちゃん!」
七夏「くすっ☆」
七夏ちゃんが、甘えてきてくれる事が、はっきりと伝わってきて嬉しい。その反面、七夏ちゃんは、仲良くなった人に対しては、誰にでもこんな風に甘えるのかな・・・という思いが込み上げてくる・・・。この思いは、不安・・・というよりも、一種の嫉妬じみた感情なのかも知れない。この先、七夏ちゃんの未来の事を考えると、これは、少し危険な事のような気がしてならない。俺は、遠まわしに訊いてみる。
時崎「な、七夏ちゃん」
七夏「はい☆」
時崎「その・・・」
七夏「???」
時崎「な、七夏ちゃんって、結構甘えん坊さんだったりする?」
七夏「はい☆ 私、甘えん坊さんです☆」
時崎「あ、開き直った!?」
七夏「くすっ☆」
・・・てっきり、恥ずかしがって、俺との距離をとってくれると思ったのだが、俺の予想に反して、七夏ちゃんは開き直ってしまった。ここまで、素直になられると、次の言葉に困る。
時崎「な、七夏ちゃん!」
七夏「はい☆」
時崎「そ、その・・・あんまり、誰に対しても甘えるのは・・・」
七夏「あっ、ごめんなさい!」
俺の心境を理解してくれたようで、七夏ちゃんは、ほんの少しだけ俺との距離をとってくれた。でも、七夏ちゃんの温もりは、まだはっきりと伝わってくるのが分かる。
時崎「いや、俺は、七夏ちゃんが甘えてくれて、とっても嬉しいよ」
七夏「・・・よかった」
時崎「ただ・・・七夏ちゃんくらいの年頃の女の子に、甘えられると・・・その・・・」
七夏「あっ、私、これでも相手の事は、見ているつもり・・・です☆」
俺の言葉から、七夏ちゃんは、その先の事を読み取ってくれたようで、安心する。今までも七夏ちゃんが、他人の事を第一に考え、行動してきたという事を沢山知っている。
時崎「それは、俺も知ってる・・・つもり」
七夏「くすっ☆ 私、優しく包んでくれる人・・・柚樹さんは、そういう人だと思ってます・・・だから・・・」
そう話すと七夏ちゃんは、さっきよりも、ぴったりと寄り添ってきた。それが、答えだという事くらい、俺でも分かる。とても嬉しいけど、俺の不安は拭えきっていない。七夏ちゃんは「優しく包んでくれる人」なら、誰にでも甘えてしまいそうだから・・・。
七夏「柚樹さんは、お父さんみたいで・・・」
時崎「え!?」
俺は、七夏ちゃんから出てきた「お父さん」という言葉に、戸惑いを覚える。七夏ちゃんが俺のことを「お父さん」のように認識していたとすると、甘えてくるのも納得できる。お父さんかぁ・・・俺の不安は、少し切ない気持ちへと変わりつつある中---
七夏「私、お父さんみたいに、優しく包んでくれる人が、いいなって♪」
時崎「七夏ちゃん!?」
七夏「だから、誰にでも・・・って、訳ではないです☆」
時崎「・・・・・」
七夏「柚樹さんと初めて会った時、私の目の事、訊いてきませんでした」
時崎「!!!!!」
体に電気が走った。今日、バス停で切り上げた話題を七夏ちゃんから話してくれた。七夏ちゃんは、優しく包んでくれるような人に好意的だという事は、なんとなく理解していた。そうか! この判断の源として、七夏ちゃんの瞳が大きく影響していたという事。初めて逢ったあの時、俺が七夏ちゃんの事を第一に考え、瞳の色が変わるのを訊かなかった事。七夏ちゃんは、しっかりと受け止めてくれていたようだ。
七夏「それで、柚樹さんは、私の事を考えてくれる人だって、思いました☆」
時崎「七夏ちゃん・・・」
七夏「だからあの時・・・柚樹さんの写真撮影のお願いを・・・」
時崎「え!?」
<<七夏「あの時の柚樹さん、とても一生懸命に、お願いしてくれました☆」>>
俺の写真撮影を許可してくれた七夏ちゃん。バス停で話してくれた「俺が一生懸命お願いした」だけで許可してくれた事に少し違和感を覚えていたけど、今の七夏ちゃんの言葉が本心なのだと思った。その言葉を聞いて、心が熱くなってくる。
時崎「ありがとう・・・七夏ちゃん!!」
七夏「私ね、いきなり目の事を聞いてきたり、褒めたりする人は、苦手・・・です」
時崎「え!? 褒められても?」
七夏「はい。だって、そういう人って、自分の事が一番だって、言っているように思えるから・・・」
自分の事が一番・・・誰だって基本的にはそうだろう。「自分さえ良ければいい」という考え方だ。だけど、七夏ちゃんの言う「自分の事が一番」は違う。「自分さえ良ければいい」という考えの人と一緒に居ても、辛くなるだけだという事。俺の思ったとおり七夏ちゃんは、相手の事も、自分の事と同じくらい大切にできる人かどうかを、自分の目の特徴を利用して判断していた・・・と、いう事になる。これは、七夏ちゃんだからこそできる判断の仕方だ。虹が七色に見えなくても、七夏ちゃんは、それ以上に大切な、でも、普通の人では気付きにくい「人としての優しい心」を持つ事が出来たという事なのだろう。
時崎「七夏ちゃん!」
七夏「はい☆」
俺は、さっきから気になっている事を、訊いてみようと思った。これは、単純に考えると、俺が「自分の事を一番に考えている」と、捉えられかねないが、敢えて、はっきりと分かる形で・・・。七夏ちゃんが、どう解釈するかは、分からないけど、確かめたいっ!!!
時崎「もし、俺と同じような人が現れたら・・・」
七夏「え!?」
時崎「七夏ちゃんは、その人にも甘えてしまうのかな?」
七夏「・・・・・」
時崎「・・・・・」
訊いてしまった・・・。七夏ちゃんは、無言のままだ。俺は、どうするべきなのか・・・。
七夏「柚樹さんっ☆」
しばらくしてから、七夏ちゃんが答えてくれた。
七夏「私、甘える人は、お父さん、お母さんと・・・後は、も、もう一人だけで、いいかなって、思ってます☆」
時崎「え!?」
七夏「そ、それ以上、たくさんの人に優しくされても、受け止め切れません・・・だから・・・」
凪咲「七夏、柚樹君!?」
七夏「あ、お母さんっ!」
時崎「凪咲さん!」
凪咲「二人とも、ここに居たのね♪」
七夏「・・・・・」
時崎「はい。とても月が明るくて」
凪咲「あら、ほんと、綺麗ね♪」
俺は、七夏ちゃんの言う「もう一人だけ」の人になれるかどうか、この先の事は分からない。だけど、そうなる未来がいいなと思う事自体は、構わないと思う。勿論、七夏ちゃんが、同じように思ってくれる必要があるのは、言うまでも無い・・・七夏ちゃんも幸せになってほしいから・・・。
凪咲「柚樹君♪」
時崎「は、はい!?」
凪咲「素敵なアルバム、ありがとうございます♪」
時崎「はい!」
凪咲「七夏も、ありがとう♪」
七夏「ひゃっ☆ お、お母さんっ!?」
凪咲「~♪」
七夏ちゃんが、俺に寄り添っているように、凪咲さんも七夏ちゃんに寄り添う。
二人から三人になっても、明るい月は、先程と同じように暖かい光を三人に分けてくれている。俺と凪咲さんの間で、少し恥ずかしそうな表情の七夏ちゃん・・・。ん? 俺の居る位置って、これは、やっぱり「お父さん」ということなのか!?
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
お休み前に、明日の事を考える。アルバムを見て凪咲さんがとても喜んでくれたように、今度は七夏ちゃんも喜んでもらいたい。俺のこの度の旅行の目的は、まだ終わっていない。凪咲さんが喜んでくれて、ようやく折り返し地点に来たところだ。
それにしても、今日は色々な事があったな。
時崎「色々・・・」
色としては見えない事も多かったけど、俺にとっては七色のような一日だったと思う。今日の事は七色の思い出になると確信する。
トントンと扉が鳴った。
七夏「柚樹さん☆」
時崎「七夏ちゃん!」
俺は扉を開ける。
時崎「どうぞ!」
七夏「ありがとです☆ アルバム、お母さんとっても喜んでくれました☆」
時崎「ああ! 俺も嬉しいよ!」
七夏「くすっ☆ 七夏もとっても嬉しいです☆」
時崎「あの時の七夏ちゃん、お母さんみたいに見えたよ」
七夏「え!? お母さん?」
時崎「今日、膝枕してもらった時も思ったんだけど、七夏ちゃんは、優しいお母さんになると思う!」
七夏「あ・・・ありがとです☆」
時崎「今日は色々あって疲れたでしょ?」
七夏「とっても楽しい1日でした☆」
時崎「ああ!」
七夏「柚樹さん☆ 明日、ここちゃーと笹夜先輩に電話してみよかなって思って」
時崎「え!? でも、天美さんも高月さんも、明日は用事があるって話してなかった?」
七夏「はい。でもなんとか柚樹さんをお見送りする時間が出来ないか、もう一度訊いてみようと思ったのですけど・・・柚樹さん、いいですか?」
時崎「ありがとう。七夏ちゃん。でも、二人が無理だったら、俺は構わないから」
七夏「はい。では、おやすみなさいです☆」
時崎「おやすみ! 七夏ちゃん!」
七夏ちゃんが、そっと扉を閉めてくれたあと、今の「おやすみ」が一旦は言い納めになるのかと思うと、少し切なくなった。でも、本来の予定ならもっと早かったはず、今日まで一緒に過ごせた事に改めて感謝しつつ、明日も楽しく過ごせように意識を切り替えた。
時崎「明日、この街を発つのか・・・」
本当なら「自分の住む街に帰る」という言い方になるのだろうけど、これはもう意識とは別に心が「この街を自分の帰る場所」のように思っているからなのかも知れない。俺は、いつかこの街に帰ってくるという決意を固め始めるのだった。
第四十五幕 完
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次回予告
最初から分かっていた事だ。出逢いの先に別れがあるという事は・・・
次回、翠碧色の虹、終幕
「虹が晴れる時」
別れは終りではない。お互いの心が惹かれあっていれば、再び自然と出逢えるはずだ!
虹が晴れても、この想いは残る! 見えないからこそ、より強く!
幕間四十:未来を考えて!?
心桜「つっちゃー!」
七夏「ここちゃー☆ いらっしゃいです☆」
心桜「いや~、今回、つっちゃー頑張ったね!」
七夏「はいっ☆ ここちゃー、いつも頑張ってって応援してくれるから☆」
心桜「え~と、お弁当に膝枕・・・」
時崎「天美さん!?」
心桜「お兄さんと一緒に・・・っ!」
時崎「えっ!?」
心桜「あ、お兄さん! こんちわ!」
時崎「いらっしゃい! 天美さん!」
心桜「つっちゃー! お兄さんと一緒にお風呂入ったの?」
七夏「え!? えっと・・・」
時崎「あ、天美さん・・・そ、それは・・・」
七夏「わ、私、お湯着を着てましたから☆」
心桜「お湯着? あーあれね・・・」
時崎「(七夏ちゃん?)」
七夏「(どしたの? 柚樹さん?)」
時崎「(天美さんに、どこまで話したの?)」
七夏「(え!? 私、何もお話ししていません)」
心桜「な~に二人でヒソヒソ話してるっ!」
七夏「ひゃっ☆」
時崎「な、なんでもないっ!」
心桜「まあ、あたしは別にいいけどさっ! つっちゃーが楽しくて幸せなら!」
七夏「ここちゃー☆ ありがとです☆」
心桜「んで、お兄さんさ、つっちゃーがお風呂から出た後、お湯飲んだりした?」
時崎「・・・全て飲み干してやろうかと思った! ・・・っておいっ!」
心桜「あはは! お兄さん、さらに腕あげたね!」
七夏「もう! ここちゃー! 柚樹さんも、そんな事をしたら、お体壊します!」
心桜「あれれ? あたしとお兄さんとで、つっちゃーの対応が違う!」
七夏「そ、それはその・・・」
心桜「違うぅー」
七夏「えっと・・・」
心桜「違うがうガウガウガウ・・・」
時崎「あ、天美さん・・・これは、どうすれば・・・」
笹夜「こんにちは♪」
七夏「笹夜先輩☆ いらっしゃいです☆」
心桜「こんちわ! 笹夜先輩!」
時崎「高月さん! いらっしゃい!」
笹夜「まあ♪ 時崎さん♪」
時崎「高月さんが来てくれて助かるよ!」
笹夜「? 何をお話しされていたのかしら?」
心桜「つっちゃー、今回かなり頑張ったってお話しです!」
笹夜「まあ♪ もう少し早く来れたらよかったかしら?」
心桜「あたし、今回頑張って小説を読んだよ!」
笹夜「私も後で楽しませて頂きます♪」
時崎「はは・・・なんかちょっと複雑な気持ちだけど、まあいいか」
笹夜「これから先、七夏ちゃんの未来・・・私も気になりますし、応援もいたします♪」
心桜「今回は、思い出とかのお話しが多かったです!」
笹夜「七夏ちゃん、素敵な思い出になったかしら?」
七夏「はいっ☆」
心桜「前にも話したかも知れないけど、あたしは今を楽しく生きる事を目標にしてるから、結果的に思い出も楽しくなるよ!」
時崎「天美さんらしい良い考え方だね!」
心桜「でしょ!? んでもさー、お兄さんとの思い出は、楽しい事だけじゃなかったけどね!」
時崎「え!? それって初対面の時の?」
心桜「あはは! そんな事もあったね~! だけどそうじゃなくて、オルゴール直してくれた事!」
時崎「ああ! あの時の事か!」
心桜「っそ! あの思い出は、楽しいって言うよりも、切なく嬉しかったかな~って!」
笹夜「素敵な思い出は、未来へも進行形となりますね♪」
時崎「高月さんの、そういう考え方も良いと思うよ!」
笹夜「まあ♪ ありがとうございます♪」
時崎「時間を戻す事は出来ないから、戻す必要が無いと思えるよう、今を大切に過ごす事かな?」
笹夜「はい♪ 時間は未来への一方通行で、止める事もできませんから、今を大切に考える事が、素敵な未来へと繋がるのだと思います♪」
心桜「なんか、お兄さんと笹夜先輩、どうされたのでしょう?」
七夏「くすっ☆」
心桜「時間を止めれないって事は・・・強制スクロールの世界にいるような事!?」
七夏「すくろーる?」
心桜「ほら、つっちゃー! ゲームで画面に挟まれて---」
七夏「あっ☆ ここちゃーが『勝手に動く画面に潰された』ってよくお話してました☆」
心桜「そうそう、それそれ!」
時崎「確かに、時間に追われているっていう意味では、間違ってないかな?」
笹夜「朝、眠たくても強制的に起きなければならないですから・・・」
心桜「笹夜先輩って、目覚ましで起きれない人ですか?」
笹夜「いえ、私は大丈夫ですけど美夜が目覚ましで起きれない時があって・・・私が起こしてあげる事があります」
心桜「なんとなく、分かります!」
七夏「くすっ☆ 柚樹さんもそういう時があります☆」
時崎「うっ・・・ごめん! 七夏ちゃん」
七夏「くすっ☆」
心桜「そういう人の為の対処法があるよ!」
笹夜「まあ! どんな方法なのかしら?」
時崎「俺も知っておきたいよ」
心桜「目覚ましを2個使う!」
笹夜「それは、行ってます」
心桜「まだ、続きがあります! 1個目は起きたい時間に鳴るようにする・・・ここまでは普通だね。んで、2個目は手が届かない所・・・つまり起きなければ止めれない所に置く」
時崎「もし、2個目の目覚ましが鳴っても、布団にもぐったりしてしまった場合は?」
心桜「ここからが重要な事なんだけど、2個目の目覚ましは、起きなければ遅刻しそうなギリギリのヤバイ時間に鳴るようしておくと、目覚まし鳴ったら飛び起きれるよ!」
笹夜「まあ!」
時崎「おおっ! なるほど!」
七夏「でも、驚いて起きると、体の負担になる気がします。起こしてあげられる時は、起こしてあげたいな☆」
心桜「ま、どうすれば、すっきりと起きれるかは本人次第ってことかな?」
笹夜「ええ♪」
心桜「あれ? 未来のお話から目覚ましのお話になってるけど、まあいいか!」
時崎「実用的なお話もあると助かると思う!」
心桜「だねっ!」
七夏「はい☆」
心桜「って事で、いよいよ『翠碧色の虹』も、あとは終幕のみとなりました。ここまでお読みくださり、ありがとうございました!」
七夏「ありがとうです☆」
笹夜&時崎「ありがとうございます」
笹夜「あ、時崎さん、すみません!」
時崎「いや、こっちこそ・・・」
笹夜「でも、心桜さん・・・突然どうされたのかしら?」
心桜「はは・・・一応、進行役って事になってるみたいですので・・・」
七夏「ここちゃー☆ 頑張ってです☆」
心桜「ありがと☆ んでは! つっちゃーが楽しむ『翠碧色の虹』本編はこちらから!」
心桜「http://nanatsuiro.my.coocan.jp/nnt_frma_a.htm」
心桜「そして、あたしと笹夜先輩も頑張る『ココナッツ』宛てのお便りはこちらです!」
心桜「http://nanatsuiro.my.coocan.jp/nnt_suiheki_novel.htm#QUESTIONNAIRE」
時崎「俺も、頑張るよ!」
七夏「くすっ☆」
心桜「それじゃ! 楽しい未来へ!」
七夏「出発ですっ☆」
時崎「出発進行じゃない?」
笹夜「進行形・・・ではないかしら?」
心桜「はは・・・なんか、みんなバラバラな気がする・・・未来を考えて!?」
幕間四十 完
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幕間四十をお読みくださり、ありがとうございました!
本編の方も鋭意制作中ですので、どうぞよろしくお願い申しあげます!
随筆四十八:隠れたおしゃれって?
心桜「ほほう~」
七夏「どしたの? ここちゃー?」
心桜「https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=74297838」
心桜「つっちゃー! 今日はセブンリーフなんだ」
七夏「え!? どおして分かったの?」
心桜「何年つっちゃーと一緒だと思ってんの?」
七夏「くすっ☆ でも、私はここちゃーの、分からないです☆」
心桜「これぞ心眼! 心桜の眼で見る!」
笹夜「・・・心桜さん・・・」
心桜「でもさ、隠れたおしゃれって大切だよね!」
笹夜「ええ♪ 身に付けているという意識が色々な事に影響しますから♪」
七夏「内緒にしておくっていう想いもあったりします☆」
心桜「秘密願望っていうやつ?」
笹夜「秘密願望?」
心桜「ほら! 魔法少女で、自分が魔法使いって事を誰にもばれないようにしている事に喜びを覚えているのが、あったでしょ!?」
七夏「喜び・・・なのかな?」
笹夜「まあ、人は『他の人とは違う』という事に特別感・・・いえ、優越感を覚えますからね」
七夏「私は、他の人と一緒でもいいな☆」
心桜「ほほう~ つっちゃー特別なセブンリーフ付けてて言いますか!?」
七夏「え!? これは時々ですから特別って訳では・・・ここちゃーも一緒にどうかな?」
心桜「え!? あたし!? まあ、つっちゃーと一緒ならいいけどさ!」
七夏「くすっ☆」
笹夜「他の人と一緒だと安心感が得られるのも確かですから、人の心はなかなか定まらない所もありますね♪」
心桜「だねっ! んでさ、その・・・隠れたおしゃれを他の人に気付いてほしいと思うかどうかなんだけど、気付かれたら隠れてないよね?」
七夏「はい☆」
笹夜「ええ♪」
心桜「お二人は、隠し通したい派ですか?」
七夏「えっと・・・相手によります☆」
笹夜「私も、七夏ちゃんと同じかしら?」
七夏「やっぱり、せっかく特別なおしゃれをしているから、気付いてほしいなって思ったりする心もあります☆」
笹夜「秘密にしていたいと思う心と、気付いてほしいと思う心の葛藤・・・鬩ぎ合い、その二つの心に弄ばれている自分に、とてもドキドキします♪」
心桜「さ、笹夜先輩!?」
笹夜「そういう心は、自然と相手へ伝わって・・・気付かれてしまう事になりますけど」
七夏「くすっ☆」
心桜「なんと申しますか・・・はは・・・」
笹夜「おしゃれは、相手に気付いてもらうというのが前提です♪」
七夏「気付いてもらえるように頑張る事も、おしゃれかな☆」
心桜「この中では、あたしが一番おしゃれと距離があるからなぁ・・・」
笹夜「心桜さん、もっとおしゃれを楽しまれてみてはどうかしら?」
心桜「はい! 考えておきます!」
笹夜「あら♪ 今日はとてもあっさりとされてますね♪」
心桜「そうですか? いつも、あっさり、さっぱりだと思ってますけど?」
七夏「えっと、ペンネームお菓子な人さん・・・」
心桜「ちょっ! つっちゃー! いきなり手紙を読まないで!」
七夏「そろそろ、読んだ方がいいかなって☆」
心桜「おっ! つっちゃー頑張ってるだけじゃなく、尺も意識してたんだ!」
七夏「はい☆」
心桜「んじゃ、そのままお願いします!」
七夏「ペンネーム、お菓子な人さん・・・『ココナッツさん! こんにちは! 私にはこんな友達が居るのですけど・・・部屋に招くと、置いてあったお菓子を見て「これ開けていい?」って訊いてきたから、ひとつくらいならいいかと思って「いいよ」って話したら、そいつはそのお菓子を全部食べ尽くした。ここまでならまだ許せたんだけど、そいつはそれを3回繰り返して、部屋にあったお菓子を全部食べ尽くした。これってど---」
心桜「厚かましいっ!」
七夏「ひゃっ☆」
笹夜「こ、心桜さん! まだ七夏ちゃんがお手紙を---」
心桜「分かってます! けど、これはどうよっ!」
七夏「えっと、これってどう思いますか?」
心桜「だから厚かましいっ!」
七夏「ひゃっ☆」
心桜「なんだよ! ソイツ!」
笹夜「でも、そのお友達さんが、そのようなお方だと分かっておられるのなら、対処法もあったはずです」
心桜「いやいやいや、笹夜先輩! この場合は明らかに、お菓子な人さんのお友達がおかしい・・・っていうか、そんなヤツ、あたしなら友達認定しない! おかしいのはソイツだ!」
七夏「この日がそうだっただけって言う事は・・・」
心桜「だったら、こんな内容のお手紙にはならないでしょ!?」
七夏「お菓子な人さんは『お友達』って話されてます☆」
心桜「どう思いますか? って訊いてこられているから、友達と思えなくなっているって所じゃない?」
笹夜「確かに、心桜さんのお話しが近いかしら?」
心桜「近いと言うよりも、くっ付いてます!」
笹夜「お手紙の主さんは、まだ迷いがあるようですから・・・」
心桜「何を迷う必要があるのですか!? 迷っている間に、お菓子はどんどん無くなってゆくのです! 今すぐブロックせねばっ!」
七夏「えっと・・・お菓子を置いてなかったら、特に何も問題はなく、お菓子をほしいと話してはこないそうです」
心桜「あっ・・・続きあったんだ?」
笹夜「心桜さんが、割り込まれたのでは?」
心桜「はは・・・すみません」
七夏「お菓子を置いていなかったら問題ない?」
笹夜「対処法としては有効ですけど、どうやら、お手紙の主さんの心はそう単純な事ではないようですね」
心桜「ん!? あげても良い分だけのお菓子を置いとけばいいんじゃない?」
笹夜「そうではなくて・・・」
七夏「一緒に頂きたかった・・・かな?」
笹夜「ええ♪ 或いは相手の心も知ってもらえるようになってほしいって事かしら?」
心桜「・・・なるほどね~。お菓子な人さんの隠れた心が、見えるようになってもらいたいという事ですか!?」
笹夜「ええ♪」
心桜「ま、そういう人は、見える事しか分からないのかも知れないからね・・・隠れたおしゃれが大切って事と繋がるね!」
七夏「くすっ☆」
心桜「よし! んでは、まず、隠れたお菓子で試してみよう!」
七夏「そんな意地悪しなくても・・・」
心桜「いやいやいや、隠れたお菓子って、卵型のチョコレートの中に色々隠れてるヤツ!」
七夏「あっ☆」
笹夜「心桜さん・・・そういう事ではないような・・・」
心桜「でも、分からない事を考えて読むという事は、人の心にも当てはまると思います!」
笹夜「まあ! で、実際にはどうされるのかしら?」
心桜「そうですね~。その卵型チョコをソイツの索敵範囲に設置する!」
七夏「索敵範囲って既に敵なの?」
心桜「そいつは『食べていい』って訊いてくるはずだから、食べいててけど、食べる前にその中身が何かを当てさせる」
笹夜「・・・なるほど♪」
心桜「んで、当てる事が出来たら、別のを食べても良いと言う。当てれなかったら、今日はそれでお終いと言う!」
七夏「くすっ☆ 楽しくなります☆」
心桜「そうそう! 何事も楽しくなるように舵を切れば、嫌な想いをする事も少なくなると思うから、お菓子な人さんも試してみてください!」
笹夜「さすが心桜さん♪」
心桜「別に、卵型チョコじゃなくても何でもいいんだよ!」
七夏「何でも?」
心桜「っそ! お菓子の種類当てとか、個数当てとか、掴み取りさせて、何個とか色々考えられるでしょ?」
七夏「はいっ☆」
心桜「ちょっと、ひねくれて素数でもいいよ!」
七夏「素数だと、ひとつしか取らないかな☆」
心桜「ひとつ? ・・・なんで? ・・・って、ぬうぉあっ!」
笹夜「・・・心桜さん・・・」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
心桜「って事で、今回はつっちゃーが頑張ってくれました!」
七夏「お菓子な人さん☆ おたより、ありがとうございます☆」
笹夜「ありがとうございます♪」
心桜「ありがとね! では、今後もつっちゃーが頑張る『翠碧色の虹』本編はこちら!」
心桜「http://nanatsuiro.my.coocan.jp/nnt_frma_a.htm」
心桜「あたしたち『ココナッツ』宛ての、お手紙はこちらです!」
心桜「http://nanatsuiro.my.coocan.jp/nnt_suiheki_novel.htm#QUESTIONNAIRE」
笹夜「七夏ちゃん♪」
七夏「はい!?」
笹夜「頑張る事も大切ですけど、それよりも楽しく参りましょう♪」
七夏「ありがとうです☆」
心桜「あたし、隠れておしゃれ、楽しもうっと!」
七夏「え!?」
随筆四十八 完
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随筆四十八をお読みくださり、ありがとうございました!
本編の方も鋭意制作中ですので、どうぞよろしくお願い申しあげます!
終幕:虹が晴れる時
いつもの朝。だけど、俺の心は「いつも」とは違う。今日、1ヶ月間お世話になったこの街、民宿風水を発つ日という事が、かなりの重圧のように思え、なかなか布団から出られない。感覚的には夏休みの最終日の朝の切なさに近い。このままではダメだ! 気合いを入れて起きようとした時---
トントンと、扉が鳴った。
七夏「柚樹さん☆」
時崎「七夏ちゃん!」
七夏ちゃんの声を聞いた瞬間、今朝からの憂鬱は晴れ飛んだ! 七夏ちゃんに会いたい!
時崎「七夏ちゃん! どうぞ!」
七夏「おはようございます☆」
時崎「おはよう! 七夏ちゃん!」
七夏「くすっ☆ 柚樹さん、昨日も夜更かしさんだったのかな?」
時崎「え!?」
七夏「朝食の準備できてますから、早く降りて来てくださいです☆」
時崎「ああ! ごめ・・・いや、ありがとう!」
大きく背伸びをする。今日も1日を楽しく充実した日にする為に気合いを入れた!
七夏「お布団いいかな? まだおやすみします?」
時崎「起きるし、俺も手伝うよ!」
七夏「ありがとうです☆」
七夏ちゃんと一緒にお布団を1階の洗面所まで運んだ。
凪咲「おはようございます♪ 柚樹君♪」
時崎「おはようございます! 凪咲さん!」
凪咲さんも、七夏ちゃんと同じく、いつもと変わらない。そう、ここ民宿風水では、今日も今までと変わらない1日が始まるのだ。
七夏「柚樹さん☆ ここに座って☆」
時崎「ありがとう! 七夏ちゃん」
凪咲さんと七夏ちゃんが、朝食の準備をしてくれている。
凪咲「お待たせしました」
七夏「ごはん、よそいますね☆」
時崎「なんか、ごめん」
七夏「え!?」
時崎「結局、お世話になりっぱなしで、あまりお手伝いが出来なかったから」
凪咲「いいのよ♪ 柚樹君は私達には出来ない事でたくさん助けてもらったわ♪ ありがとうございます♪」
七夏「柚樹さんが来てくれて、色々な事が変わりました♪」
凪咲「そうね♪ いちばん変わったのは、七夏かしら?」
七夏「え!? そうかな?」
凪咲「柚樹君のおかげだと思うわ♪ ありがとうございます♪」
時崎「・・・こちらこそ、ありがとうございます!」
凪咲さんと七夏ちゃんの言葉が嬉しい。
時崎「七夏ちゃん! 一緒に!」
七夏「はい☆ お母さんも☆」
凪咲「柚樹君、いいかしら?」
時崎「もちろんです!」
三人で、のんびりと朝食を楽しむ。
七夏「柚樹さん☆ 後でここちゃーと笹夜先輩に電話してみます☆」
時崎「ありがとう! 昨日話してくれた事だよね?」
七夏「はい☆」
凪咲「柚樹君、出発は今夜かしら?」
時崎「はい。その予定です」
七夏「・・・・・」
凪咲「お夕飯、早めに作りますから、頂いてください」
時崎「ありがとうございます! 七夏ちゃん? どうしたの?」
七夏「え!? えっと、柚樹さん☆ おかわりあります☆」
時崎「ありがとう! 七夏ちゃん!」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
朝食を頂き、自分の部屋で少し休む。七夏ちゃんからこのお部屋に案内された時の事を思い出していた。
時崎「ここから始まったんだな・・・」
扉に背中を付けながら、部屋全体を撮影する。
マイパッドのデジタルアルバムに、撮影した写真を追加して仕上げを行なってゆく。七夏ちゃんからコメントをもらった時のように、俺もコメントを添えようと、色々な言葉を考えるのだけど、気の効いた言葉が見つからず、結局「ありがとう」という言葉になってしまった。無理に飾ろうとせず、素直に感謝の気持ちを伝えれば、七夏ちゃんなら喜んでくれるはずだ。
時崎「よし! 後は七夏ちゃんのマイパッドへ転送するだけだ!」
七夏ちゃんへのアルバムも糊がしっかり乾いている・・・なんとか間にあった!
だけど、もうひとつアクセントがほしい。海で七夏ちゃんからもらった七色の貝殻を七夏ちゃんへのアルバムと合わせてみると、なかなか良い印象に思えた。でもこれは、七夏ちゃんが俺にくれたから、ここで使うのは違うと思う。と言うよりも、この七色の貝殻は俺が持っていたい。
時崎「そういえば!」
鞄の中を漁る。
時崎「あった!」
以前に雑貨店で買った「ラブラドライドのペンダントトップ」があった。これなら、チャームのようなアクセントとなる。七夏ちゃんへのアルバムと合わせて見ると、七色の貝殻と同じような印象だった。
時崎「この石を付けてから、七夏ちゃんに渡そう!」
俺は七夏ちゃんへのアルバムの最後の仕上げに取り掛かった。
時崎「これで、あとは七夏ちゃんに渡すだけだ」
先に七夏ちゃんに気付かれてしまったら少し切ないので、七夏ちゃんへのアルバムを目に付かないところへしまう。
部屋を出ると、1階から七夏ちゃんの声が聞こえてくる。電話で誰かと話しているみたいだけど、相手は天美さんだろうか? 七夏ちゃんのお話しが終わるまで自分の部屋へ戻って待つ事にする。扉は開けたままなので、七夏ちゃんの声がなんとなく聞こえるような状態だけど、その会話の内容までは分からない。
マイパッドで、今夜の列車の出発時刻を調べる。特に乗車する列車を決めているわけではない。指定席を確保すると、その予定に拘束されてしまうから、融通が利かなくなってしまう。俺がこの旅行を計画的に考えていたら、今、ここには居ないだろう。計画も大切だけど、旅行はのんびりと楽しみたい。
時崎「・・・のんびりし過ぎだな・・・」
だけど、それが良かったのだと思う。のんびり過ごす事の楽しさや心地良さは、七夏ちゃんが教えてくれた。
七夏ちゃんの声が聞こえなくなった。電話が終わったのだろうか?
部屋を出ると、再び七夏ちゃんの声が聞こえてきたけど、さっきよりも言葉遣いが丁寧になっている。相手は高月さんだと思う。七夏ちゃんのお話しが終わるまで部屋に戻って心地良い時間を楽しむ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
七夏「あれ? 柚樹さん? 扉、開いてます?」
時崎「ああ。開けてたから」
七夏「くすっ☆ 」
時崎「七夏ちゃん! 電話終わった?」
七夏「はい☆ えっと、ごめんなさい」
時崎「え!?」
七夏「ここちゃーも笹夜先輩も、今日は用事があるみたいで・・・」
時崎「ありがとう! 七夏ちゃん!」
天美さんと高月さんに会えないのは残念だけど、前から聞いていた事だ。少し落ち込んでる七夏ちゃんに俺は話す。
時崎「今日は七夏ちゃんと二人きりだね!」
七夏「え!?」
時崎「アルバム、天美さんと高月さんに届けてくれるかな?」
七夏「あ、はい☆」
七夏ちゃんはいつもの笑顔になってくれた。
時崎「それと、七夏ちゃんのマイパッドにアルバムを送るから! マイパッドを貸してくれるかな?」
七夏「はい☆ じゃ、七夏のお部屋へ来てください☆」
時崎「ああ!」
七夏ちゃんに付いてゆく。
七夏「どうぞです☆」
時崎「お邪魔します」
七夏「柚樹さん☆ ここに座って☆」
時崎「ああ。 っ!」
七夏「どしたの?」
時崎「七夏ちゃんっ!」
七夏ちゃんの机の上を見て、心が大きく揺れた。
<<時崎「そのフォトスタンドに似合う写真が、早く見つかるといいね」>>
七夏「あっ☆ えっと、みんなの写真です☆ 七夏のお気に入りの写真☆」
時崎「七夏ちゃん・・・」
俺が七夏ちゃんのお誕生日にプレゼントしたセブンリーフのフォトスタンド・・・いや、写真立てには、凪咲さんと直弥さん二人の写真・・・蒸気機関車イベントで撮影した写真が飾られていた。そしてもひとつは、七夏ちゃんと俺が一緒に写っている写真。これも蒸気機関車イベントで撮影してもらった時の写真だ。
七夏「えっと、柚樹さんが写っている写真ってあまりなくて・・・その・・・」
時崎「ありがとう! とても嬉しいよ!」
七夏「くすっ☆ こうして一緒に並べると、柚樹さんも家族みたいに見えます☆」
時崎「え!? 家族!?」
<<七夏「柚樹さんは、お父さんみたいで・・・」>>
俺は、七夏ちゃんにどのように思われているのだろうか? 家族って事は、兄弟のように思われているのだろうか? だとしたら・・・。
七夏「? 柚樹さん?」
時崎「え!? あ、ごめん! 七夏ちゃんのマイパッド、貸してくれるかな?」
七夏「はい☆」
デジタルアルバムのデータを七夏ちゃんのマイパッドへ送る。
七夏「あっ☆ 届きました☆」
時崎「これで、いつでも見れるようになるよ!」
七夏「はい☆ ありがとうです☆」
時崎「後、動くアルバムにするための動画も送るから!」
七夏「はい☆」
動画を送っている少しの間、そんなに面白い画面でもないのに、七夏ちゃんはマイパッドを眺めている。俺もその様子を眺めていた。
時崎「よし! これで全部送れたと思う!」
七夏「ありがとうです☆」
時崎「早速、試してみる?」
七夏「はい☆ あ、お母さんに見て貰いたいかな?」
時崎「そうだね! じゃ、今から凪咲さんのところへ!」
七夏「はい☆」
七夏ちゃんと一緒に1階へ降りる。
七夏「お母さん☆」
凪咲「あら、七夏? 柚樹君も一緒にどうしたのかしら?」
凪咲さんは、アルバム「ななついろひととき」を優しい表情で眺めていた。
七夏「えっと、アルバムいいかな?」
凪咲「いいわよ♪」
七夏ちゃんは凪咲さんの隣に座って、アルバムを一緒に眺めはじめた。
七夏「あ! この場所で、こう・・・かな?」
凪咲「?」
七夏ちゃんは、マイパッドをアルバムにかざした。
凪咲「まあ♪ 七夏が動いて・・・」
七夏「よかった☆ 柚樹さん☆ 上手く出来ました☆」
時崎「よかった!」
凪咲「素敵なアルバムに、さらにこんな仕掛けがあったの?」
時崎「動くアルバムって言うのかな?」
七夏「くすっ☆ この印がある写真が動きます☆」
凪咲「この印に、そんな意味が込められていたのね・・・ありがとう! 柚樹君! 七夏!」
俺は、一礼して、アルバムを楽しむ二人を残して自分の部屋に戻った。
さっきの事を考える。七夏ちゃんは俺の事を兄弟のように思っていたとすると、俺の想いは届くのだろうか?
これから渡す七夏ちゃんへのアルバムには、俺の願いを込めた。七夏ちゃんの心に届いてくれると信じるしかない。
相手の事を自分の事と同じように想ってくれる七夏ちゃんだけど、最後は、俺から想いを伝えなければならない!
七夏ちゃんは、過去に二人の人からの告白を断っているから、俺の想いをはっきりと断られる可能性も十分に考えられる。俺は祈るような気持ちでいた。
七夏「柚樹さん☆ 居ますか?」
扉の向こうから七夏ちゃんの声が聞こえた。
時崎「な、七夏ちゃん!」
俺は扉を開ける。
七夏「ありがとです☆ 柚樹さん、いつの間にか居なくて・・・」
時崎「親子水入らずの方がいいかなって!」
七夏「くすっ☆ お母さん、とっても喜んでくれました☆」
時崎「七夏ちゃん!」
七夏ちゃんへのアルバムを渡すなら今だ!
七夏「!?」
時崎「これを、七夏ちゃんに!」
七夏「え!? アルバム?」
時崎「ああ!」
七夏「七夏色一時・・・」
↓【翠碧色の虹】七夏色一時/七色に変化する瞳の少女【水風七夏】アニメーション
https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=74413313
七夏ちゃんと出逢って、一緒に過ごした1ヶ月。アルバムの名前は、凪咲さんへのアルバムと読み方をお揃いにした。
七夏「中を見てもいいかな?」
時崎「もちろん!」
七夏「・・・・・」
身近な事や自分の事って、案外分からない時がある。七夏ちゃんの場合は、それが瞳の色の変化だというだけの事だ。でも、他人から言われても分からないとしたら、それは辛いはずだ。
こんなにも魅力的な「ふたつの虹」・・・七夏ちゃんにも伝わってほしい! 他人の俺が出来るのは、七夏ちゃんの隣から七夏ちゃんの「ふたつの虹」を別の方法で届ける事だ。アルバム「七夏色一時」に俺の想いを託した! 七夏ちゃんに届いてくれ! 頼むっ! 俺は祈る気持ちで、七夏ちゃんの言葉を待っていた。
七夏ちゃんは、アルバム「七夏色一時」を開いて眺め・・・閉じた。
七夏「・・・・・」
その様子を体の奥底から、溢れてくる震えのような感覚を抑えながら祈っていた。
七夏ちゃんは、再びアルバムを開いて眺めて閉じた。もう一度・・・アルバムを開いて---
七夏「ゆ、柚樹さん!」
時崎「!?」
七夏「こ、これ・・・私・・・目の色が」
時崎「っ!!!!!!!」
七夏「・・・色が・・・変わって見えます!」
伝わった!!!!!!!
時崎「うっ!」
七夏「ゆ、柚樹さん!?」
時崎「ご、ごめん!」
さっきよりも震えが大きくなっていた。だけど、これは嬉しい震えに変わっていた。そんな俺の気持ちが七夏ちゃんに伝わったのか、七夏ちゃんは何も話さず、再びアルバムを眺める。開いて閉じてを繰り返し、それは蝶が花の上で一時を過ごすようにも見えた。
どのくらいの時間が経過しただろうか・・・俺の気持ちが落ち着いてきた時、七夏ちゃんが話してきた。
七夏「柚樹さん」
時崎「!?」
七夏「私の目・・・こんな風に見えるの?」
俺は首を横に振った。
七夏「え!?」
時崎「もっと綺麗に見える!」
七夏「ううっ・・・」
七夏ちゃんも俺と同じ気持ちになってくれている事が伝わってきた。俺は七夏ちゃんがそうしてくれたように、それ以上は何も話さなかった。
七夏「柚樹さん・・・ありがとです」
時崎「あ、ああ!」
何度も交わした言葉。だけど、この言葉は今までよりも特別な事のように思えた。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
七夏「まさか、柚樹さんからこんなに素敵なアルバムを贈って貰えるなんて、思ってませんでした☆」
時崎「喜んでもらえて良かったよ!」
七夏「はい☆ 七夏、ずっと大切にします☆」
時崎「ありがとう!」
七夏「くすっ☆」
七夏ちゃんなら、本当にずっと大切にしてくれると思う。
いつものように、心が晴れたような清々しい気持ちで七夏ちゃんとお話しが出来る事。これって普段は気が付かない事だけど、本当は大切な事なのだと思う。そして、人の心はすぐには見えないけれど、ゆっくりと時間をかければ、少しずつ見えるようになるのだということも、七夏ちゃんから教わった。
七夏「柚樹さん☆ 本当にありがとうです☆」
時崎「俺も七夏ちゃんの撮影で、人を撮る事の楽しさを知ったよ。ありがとう!」
七夏「え!?」
俺は人物の撮影を避けていたけど、七夏ちゃんを撮影してゆくうちに・・・人物を避けるのではなく、人物を選べばいいという事に気付かされた。
俺自身、こんなに沢山の人物を撮影するなんて考えられなかった。お礼を言わなければならないのは俺の方だ。
時崎「それまでは、人を撮影する事があまり無くて・・・」
七夏「そうだったの?」
時崎「風景の方が気楽に撮影できるから」
七夏「くすっ☆」
俺は、人物の撮影を避けていた本当の理由を、七夏ちゃんには話さなかった。何度か夢にも出てきて、その度に切ない想いになったけど、これからは違う! これも七夏ちゃんから教わったのかも知れない。
七夏「柚樹さん☆ お腹すきませんか?」
時崎「え!? あ、もうお昼前?」
七夏「はい☆ お昼の準備をしますね☆」
時崎「ありがとう! 七夏ちゃん!」
七夏「くすっ☆」
七夏ちゃんは「おむすび」を作ってくれた。
七夏「柚樹さん☆ もしよかったら、これもあります☆」
時崎「ホワイトシチュー!」
七夏「昨日の残りですけど」
時崎「ありがとう! 頂くよ!」
七夏「はい☆ では、温めてきますね☆」
時崎「ああ!」
おむすびとホワイトシチューという、少し変わった組み合わせだけど、それが家庭的な事のようで、嬉しく思う。ホワイトシチューは、昨日よりも味が深くなっているように思えた。
七夏「柚樹さん☆」
時崎「?」
七夏「お夕食も、頑張って作りますね☆」
時崎「あ、ああ!」
七夏「それから、柚樹さんを駅までお見送りします☆」
時崎「え!?」
七夏ちゃんの気持ちは嬉しいけど、駅まで送ってもらうと、その後で七夏ちゃんを暗い夜道の中、一人で帰らせてしまう事になってしまう。最後にそのような事をさせてしまうのは良くないと思う。
七夏「!? どしたの?」
時崎「あ、ごめん! なんでもない」
凪咲さんが一緒なら安心だけど、そこまでお願いするのは厚かましいと思う。民宿のお仕事もあるだろうから。
お昼を頂いて、少しのんびりと過ごす。七夏ちゃんと凪咲さんは、後片付けをしてくれているのを見て、申し訳ない気持ちが大きくなってくる。
<<時崎「俺も手伝うよ」>>
<<七夏「柚樹さんは、ごゆっくりどうぞです☆」>>
七夏ちゃんに言われたからだけど、やっぱり自分だけのんびりとしている姿を見られるのは心苦しく、そのまま和室へと移動した。壁に七色の光が映っている。以前に買ったサンキャッチャー風鈴の光だ。七夏ちゃんは、この光を見てとても喜んでくれた。縁側の窓を開けると、風鈴は心地良い音を奏ではじめた。この光も音色も、ここでの生活の一部に溶け込んでいて、あまり意識しなくなっていたけど、無くなってからその存在の大切さに気付く事も多い。人は後先を考えているようで、案外今しか意識していないのだ。
時崎「まあ、後先を考えなかったから、今があるのかも知れないな」
しばらく心地の良いひとときを楽しむ。目を閉じていると、今までの出来事が蘇ってくる。その殆どが七夏ちゃんの事だ。それだけ、俺の心に大きな存在となっている。七夏ちゃんの心に俺はどのくらいの存在で居るのだろう?
<<七夏「一緒がいいな☆」>>
俺の心の中で、七夏ちゃんが「一緒がいいな☆」と話し掛けてきた。いつ七夏ちゃんがそんな事を話したのか分からないけど、そんな印象が出来ているのだろう。七夏ちゃんは「一緒」という事を、とても大切にしている。だから、楽しい事、嬉しい事は、俺だけや、七夏ちゃんだけでは、七夏ちゃんは心から喜んでくれない。
時崎「一緒か・・・」
七夏ちゃんの行動と、「一緒」という事を合わせて考えると、今までの出来事がより彩りを増して蘇ってきた。
七夏「柚樹さん☆」
時崎「!?」
七夏「くすっ☆」
お片付けが済んだのだろうか。七夏ちゃんは、俺の隣に座ってきた。昨夜と同じように。女の子座りのためか、少し寄り添うような形になるけど、俺はとても嬉しい。七夏ちゃんと一緒に心地良いひとときを楽しみたい!
時崎「・・・・・」
七夏「・・・・・」
俺は何も話さなかったけど、七夏ちゃんには届いている・・・と、思っている!?
七夏「・・・・・」
時崎「!?」
七夏ちゃんは、そのまま手にしていた小説を読み始めた。俺の心は届いている!? 七夏ちゃんの心境が分からない・・・小説なら一人でも・・・っ!
「一緒」
さっき考えていたばかりなのに、大切な事って意識し続けないと、すぐに見失ってしまう。俺はこのまま七夏ちゃんとの「一緒」を大切に意識し続けた。
寄り添う七夏ちゃんと俺の様子を、凪咲さんに何度か見られているけど、特に何も言われない。このまま一緒に過ごしたいと思うけど・・・そうだ! 七夏ちゃんは駅まで送ってくれると話してくれた事を思うと、少し早めに民宿風水を発つ方が良いだろう。だけど、それをどのように話せばいい? いつも気を遣ってくれる七夏ちゃん。自分の為に俺が早く出発する事を思わせる事なく、自然に話す方法が思いつかない。
七夏「!? 柚樹さん?」
時崎「な、七夏ちゃん?」
七夏「どしたの?」
時崎「七夏ちゃん、小説は?」
七夏「えっと、一区切りです☆」
時崎「そ、そう・・・」
七夏「今日は柚樹さんと一緒に、のんびりがいいな☆」
時崎「ああ! 俺も七夏ちゃんと一緒の事を考えてたよ」
七夏「くすっ☆」
時崎「俺も小説、読んでみようかな?」
七夏「え!?」
時崎「七夏ちゃんのお勧めってある?」
七夏「えっと、それじゃあ、七夏のお部屋で☆」
時崎「ああ!」
七夏ちゃんのお部屋に案内された。
七夏「柚樹さん☆ ここへどうぞです☆」
時崎「ありがとう!」
七夏ちゃんのお部屋でのんびりと過ごす。さっきはアルバムのデータを贈るという目的があったから、あまり意識はしなかったけど、女の子のお部屋に居るという事を意識し始めると、心は少し落ち着かなくなってきた。
七夏「柚樹さん、これはどうかな?」
七夏ちゃんは一冊の小説を持ってきてくれた。「歌恋」・・・初めて見る小説の題名・・・まあ、俺にとっては殆どの小説がそうなのだけど。「うたこい」って読むのだろうか?
七夏ちゃんも隣に座って小説を読み始めた。さっきよりも、ぴったりと寄り添ってくれる事が嬉しいけど・・・。
時崎「な、七夏ちゃん」
七夏「はい☆」
時崎「そ、その・・・どうしたの?」
七夏「前に笹夜先輩がこうしてて、いいなって思って☆」
あの時の事を、七夏ちゃんも意識してくれていたみたいだった。
時崎「た、確かに、いいなって思う!」
七夏「くすっ☆」
俺は心を落ち着かせる事がなかなか出来ず、小説の内容が頭に入ってこない「小説を読んでいるように見えるだけ」の状態だと思うけど、七夏ちゃんと一緒という事だけで良かった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
しばらくの間、小説の中の文字を眺めている。この小説「歌恋」の世界は、歌が上手くなりたいと努力する少女と、歌が上手いけど少し意地悪な少年の出逢いから始まっている。出逢い・・・か。七夏ちゃんとの出逢いはとても印象的だったけど、この小説の出逢いもなかなか・・・。
----------「歌恋」----------
「おまえ、音痴だよなぁ。なんでこの部に入った?」
「なんでって・・・」
「これでも叩いとけ!」
「!? カスタネット!?」
これって歌うなって事!?
「打楽器なら音程気にしなくてもいいからな!ははっ!」
「うー」
「ま、せいぜい、リズム感から養うんだな!」
意地悪なそいつ・・・でも、部を辞めろとは言わない。
・・・そう、私はそいつの歌声に恋をしていた。
そいつじゃないっ! あくまでも「歌声」にっ!
----------「歌恋」----------
俺とはかなり性格が違う少年だと思うけど、七夏ちゃんは、こんな男の人が好みなのだろうか? つい、そのような事を考えてしまう。七夏ちゃんの好みか・・・。
<<七夏「優しく受けとめてくれる人がいいな☆」>>
また、俺の中の七夏ちゃんが語り掛けてきた・・・昨夜、七夏ちゃんとお話しした時の事だろうけど、これは俺の勝手な解釈だ。なぜ、こんな言葉が・・・確か---
<<七夏「そ、それ以上、たくさんの人に優しくされても、受け止め切れません・・・だから・・・」>>
優しくされる事は嬉しい。だけど、その優しさに答えられるのは1人だと言う事なのだろうか?
・・・やっぱり、よく分からない。しばらく考えていると、七夏ちゃんは足を伸ばして座り直す。その時、さらにぴったりと寄り添う形になって、七夏ちゃんの温もりが届いてくると思う間もなく、七夏ちゃんは少し揺れ始めた。足先を動かしているようだけど、この揺れがとても心地良い。七夏ちゃんはご機嫌な様子だから、このまま一緒に楽しみたいのだけど、声をかけるべきなのだろうか?
時崎「な、七夏ちゃん!?」
七夏「はい☆ あ、ごめんなさい」
時崎「どうしたの?」
七夏「えっと、足が少し・・・こうして足先を動かすと、心地良くて☆」
時崎「な、なるほど」
再び七夏ちゃんの「心地良い」が俺にも伝わってくる。
分かる事と分からない事。七夏ちゃんが可愛いという事は分かる。でも、まだまだ分からない事も多い。人の心は1ヶ月で分かる程、単純ではない。だから大切な人とは、ずっと一緒に居たいと思うのだろう。一緒に居る時間が長いほど、分かる事が増えるのだから・・・七夏ちゃんは、どう思ってくれているのだろうか?
時崎「七夏ちゃん! ありがとう!」
七夏「くすっ☆ 続きもあります☆」
このまま小説「歌恋」を読み続けると、夕方になってしまいそうだ。
時崎「続きは、自分でなんとかするよ! 小説の題名『歌恋(うたこい)』は覚えたから!」
七夏「あ、それは『歌恋(かれん)』って読みます☆」
時崎「えっ!? そうなの?」
七夏「くすっ☆ 『うたこい』でもいいと思います☆」
時崎「『かれん』で、覚えなおしておくよ!」
七夏「はい☆」
俺は七夏ちゃんに、民宿風水を発つ時間を早める事を話す。
七夏「え!? 今日の夜じゃないの?」
時崎「ごめん。少し早めに出発しようと思って」
七夏ちゃんを夜道、ひとりで歩かせない為に、仕方のない事だ。
七夏「そう・・・なんだ・・・」
時崎「七夏ちゃん・・・」
七夏「それじゃ、私、今からお弁当の準備をします☆」
時崎「え!?」
七夏「列車の中でどうぞです☆」
時崎「・・・ありがとう!」
最後まで気遣ってくれる七夏ちゃん。七夏ちゃんが喜んでくれる事が他にないだろうか?
七夏「柚樹さんは、ここで小説の続き、読んでいますか?」
七夏ちゃんのお部屋に俺がひとりで居る事を、七夏ちゃんは何とも思わないのだろうか?
時崎「いや、俺も一緒に降りるよ! 女の子のお部屋に俺ひとりっていうのは・・・」
七夏「くすっ☆ 柚樹さん、前に七夏の看病をしてくれました☆」
時崎「え!?」
七夏「その時、私、眠ってましたから・・・」
時崎「あ、ああ。そうだったね」
七夏「だから、柚樹さん、七夏のお部屋にひとりでも大丈夫です☆」
時崎「!?」
つまり、七夏ちゃんのお部屋に俺ひとりで居ても、部屋を詮索される事はないと思ってくれているという事か。確かに勝手に詮索するつもりはないけど、そう思ってくれているのは嬉しい。
七夏「? どしたの?」
時崎「ありがとう! でも、一緒に降りるよ! 七夏ちゃん、何か手伝える事ってないかな?」
七夏「それじゃあ、居間で待っててもらえますか?」
時崎「ああ!」
七夏ちゃんと一緒に1階へ降りる。
凪咲「あら? 七夏、どうしたの?」
七夏「えっと、今からお弁当を作ろうと思って☆」
凪咲「お弁当!?」
時崎「凪咲さん。今日の出発を少し早めにしようと思いまして」
凪咲「あら、そうなの?」
凪咲さんはその理由までは訊いてこなかった。
時崎「すみません」
凪咲「いいのよ。では、私も七夏のお手伝いをいたしますので♪」
時崎「あ、ありがとうございます」
七夏ちゃんを凪咲さんがお手伝い・・・この時点で俺が手伝うのは、足を引っ張るだけのような気がした。
七夏「柚樹さん☆ ここに座ってて☆」
時崎「え!?」
七夏「お手伝い、お願いできる事があったら、声をかけますから☆」
時崎「あ、ああ! 分かったよ」
七夏「くすっ☆」
・・・しかし、結局、何も手伝える事は無かった。七夏ちゃんは、最初から分かっていたのかも知れない。相手の好意を受けとめて、自然な形で全てを行なってくれる。俺もそんな気遣いが出来るようになりたいけど・・・。
時崎「凪咲さん!」
凪咲「はい♪」
時崎「何か手伝える事ってありませんか?」
凪咲「ありがとう。柚樹君。そうね・・・昨日のテレビで、ナオが映っている録画を、これに残す事は出来るかしら?」
時崎「はい! 任せてください!」
凪咲「ありがとうございます♪」
時崎「このディスク3枚に残せば良いのですね?」
凪咲「はい♪ よろしくお願いします♪」
時崎「分かりました」
俺は、直弥さんが映っている録画映像をディスクに残す。ディスク3枚と聞いて時間的に大丈夫かなと思ったけど、そんなに時間はかからないようだ。
七夏「あ、お父さんの?」
時崎「え!?」
七夏ちゃんはその様子が気になったのか、声をかけてきた。
時崎「ああ! この映像をこれに残しているんだよ」
七夏「あっ!」
時崎「!?」
七夏「柚樹さん、虹・・・持ってます☆」
ディスクの記録面に輝く七色の光・・・。七夏ちゃんは、その光を嬉しそうに「虹」と話した。これは、空元気ではない。どんな色に見えようと「虹」は「虹色」なのだから。
時崎「虹を持つ!? その発想は無かったよ!」
七夏「くすっ☆」
虹は、見えても手が届かない存在・・・ずっと、そう思っていた。だけど、虹の七色が分からない少女、七夏ちゃんの方が、俺よりも虹の事を知っている気がする。これからも「ふたつの虹」いや、七夏ちゃんを追いかけたい!
時崎「案外、身近な所にあるんだな」
七夏「はい☆ あ、柚樹さん☆」
時崎「!?」
七夏「えっと、お弁当、出来ましたから、七夏、これからお出掛けの準備をします☆」
時崎「ありがとう! 七夏ちゃん!」
そう話した七夏ちゃんは、自分の部屋へ移動する。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
大丈夫だとは思うけど念の為、ディスクに移した直弥さんの映像が、正しく録画されているか、3枚とも読み込んで確認を行った。
時崎「凪咲さん! これ、出来ました!」
凪咲「ありがとう♪ 柚樹君♪ 急なお願いでごめんなさいね」
時崎「いえ! え!?」
凪咲さんは、ディスクを1枚差し出してくれた。
凪咲「ひとつは、柚樹君の♪」
時崎「いいのですか!?」
凪咲「ええ♪ よろしければ♪」
時崎「ありがとうございます!」
凪咲「こちらこそ、ありがとうございます♪」
七夏「柚樹さん☆ お待たせです☆」
時崎「七夏ちゃん!」
凪咲「あら? 七夏、それは?」
七夏「くすっ☆」
七夏ちゃんは、アルバム「七夏色一時」を手にしていた。
七夏「柚樹さんが、私に教えてくれました☆」
凪咲「教えて?」
七夏ちゃんはアルバム「七夏色一時」を凪咲さんへ手渡す。凪咲さんは、アルバムの中を見て・・・パタパタとさせた。七夏ちゃんの時と同じように。
凪咲「これは! 七夏の目が!」
七夏「七色に変わります☆」
凪咲「な、七夏! 分かるの!?」
七夏「はいっ☆」
凪咲「・・・うぅ・・・七夏っ!!」
七夏「ひゃっ☆ お、お母さん!?」
凪咲さんは七夏ちゃんを抱きしめる。
凪咲「ずっと、教えてあげたいって思ってて、でも出来なくて・・・」
七夏ちゃんの「ふたつの虹」・・・凪咲さんが、ずっと七夏ちゃんに教えてあげたかった事・・・触れたくても触れられなかった事。凪咲さんのこれまでの想いが、心を締め付けられるほど伝わってきた。
凪咲「ありがとう・・・柚樹君・・・ありがとう・・・」
時崎「・・・・・」
俺は、凪咲さんの言葉と気持ちを受けとめる事がやっとだった。凪咲さんと七夏ちゃんを見て、喉の辺りが熱く詰まったような感覚・・・喉に栓をされたかのように声が出てこなかった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
時崎「それでは、1ヶ月間、お世話になりました」
凪咲「こちらこそ、大変お世話になりました♪」
七夏「柚樹さん☆ お弁当ですっ☆」
時崎「ありがとう! 七夏ちゃん!」
凪咲「柚樹君、いつでも風水にいらしてくださいませ♪」
凪咲さんの言葉は社交辞令ではない事が伝わってきて、嬉しく思う。
時崎「はいっ!」
七夏「それじゃ、七夏は柚樹さんを駅まで送ります☆」
凪咲「七夏、気をつけてね♪」
七夏「はいっ☆」
凪咲「柚樹君、またのお越しを、心待ちにいたしております♪」
時崎「ありがとうございます! 行ってきます!」
俺は「失礼します」とは言わなかった。必ず民宿風水に戻ってくるという想いを込めて・・・。
七夏ちゃんと一緒に駅まで歩く。すっかり歩き慣れたこの光景もしばらく見納めになるのか・・・。
七夏「どしたの? 柚樹さん?」
時崎「一ヶ月前と、変わったような気がするけど、変わっていないような気もあって・・・」
七夏「くすっ☆ 七夏は、結構変わったかなぁ☆」
時崎「そう?」
七夏「柚樹さんと出逢って、色々変われたと思います☆ あ、いいなって思える私にです☆」
時崎「良かった」
少し微笑む七夏ちゃんは、とても可愛い。俺はこれからもこの可愛い七夏ちゃんと一緒に過ごしたいけど、七夏ちゃんの心がまだ分からない事もあって・・・でも、俺の想いを伝えるのは今日しかない。想いを伝える為に心を落ち着かせようと努めているけど、心は逆に大きく揺れている。
自意識過剰かも知れないけど、七夏ちゃんは、俺の事を好意的に想ってくれていると信じたい。少なくとも、苦手な人とは一緒に居たいとは思わないだろうから・・・。
歩きながら七夏ちゃんは、駅前の書店を見ていた。
時崎「七夏ちゃん!」
七夏「あ、ごめんなさいです」
時崎「え!?」
七夏「つい、本屋さんを見ちゃって」
時崎「構わないよ! 本屋さんに寄ろう!」
七夏「え!? でも・・・」
時崎「特に列車の時間を決めてる訳じゃないから」
七夏「そうなの?」
時崎「来た列車に乗る! のんびりとね!」
七夏「くすっ☆」
時崎「それに、『歌恋』を買って読もうかなと」
七夏「あっ☆ はいっ☆ 七夏が案内します☆」
七夏ちゃんと一緒に書店に入る。小説コーナーを一緒に眺めているけど、女の子が読む小説コーナーに俺が居ると、浮いて見える・・・いや、周りからどのように思われているかと思う事が、心を浮かせているのだろう。七夏ちゃんは、すぐに『歌恋』を見つけて、俺の所に持って来てくれた。
七夏「えっと、これです☆」
時崎「3冊ともあったんだ」
七夏「はい☆ 全部買いますか?」
時崎「七夏ちゃんのお勧めだから、全部買うよ!」
七夏「くすっ☆」
時崎「七夏ちゃんは、何か気になる小説ある?」
七夏「えっと・・・少し、待っててもらえますか?」
時崎「もちろん、構わないよ」
七夏「ありがとです☆」
しばらく、七夏ちゃんを待つ間、「歌恋」の表紙を眺めている。少女漫画風の絵が描かれているのだけど、これを俺がレジに持って行くのか・・・心の動揺は、もう何に対してなのか分からなくなってきた。七夏ちゃんの事を想って書店に着たけど、最後にこんな試練が待っていたとは・・・と、とにかく、落ち着こう。
七夏「柚樹さん☆ お待たせです☆」
七夏ちゃんは、特に小説を持ってはいなかった。
時崎「あれ? 小説、見つからなかった?」
七夏「えっと、ありましたけど、今はいいかなって」
時崎「そうなの?」
七夏「小説買っちゃうと、すぐ読みたくなりますから」
時崎「構わないと思うけど」
七夏「宿題を先に済ませてからのお楽しみにと思って☆」
時崎「うっ・・・ごめん」
・・・そうだった、ここしばらく、七夏ちゃんは午前中に宿題をしていないみたいだったけど、それは俺が原因だと思う。
七夏「くすっ☆ 柚樹さん、宿題の事は七夏がそうするって決めた事ですから☆」
時崎「ありがとう・・・七夏ちゃん」
七夏「はいっ☆」
・・・で、「歌恋」をレジに持って行く訳だけど、俺の心境を七夏ちゃんが見逃す事は無かった。
七夏「柚樹さん☆」
時崎「え!?」
七夏「小説、七夏が買ってきますから☆」
時崎「い、いいの?」
七夏「くすっ☆ 柚樹さん、少し歩き方が不自然みたいです」
時崎「ご、ごめん・・・じゃ、お願いするよ」
七夏「はい☆」
俺は、七夏ちゃんに小説とお金を渡した。いつも俺の事を気遣ってくれる七夏ちゃん。本当に可愛くて素敵な女の子だと思う。俺が追いかけたいのは「ふたつの虹」ではなく、七夏ちゃんなのだ。
七夏「柚樹さん☆ どうぞです☆」
時崎「ありがとう! 七夏ちゃん」
七夏ちゃんから小説とおつりを受け取った。小説はブックカバーが付けられており、これで人前で読んでも、何も思われる事はないだろう。
書店を出て、駅に着くと、既に列車は到着していた。けど、俺にはこの列車が今すぐ出発しないという事が分かった。
七夏「列車、来てますけど、出発はもう少し先みたいです☆」
時崎「あ、ああ」
七夏ちゃんも、列車の出発が今すぐではないという事に気付いている様子だった。俺は乗車券を購入し、七夏ちゃんは駅員さんから入場券を受け取った。お見送りの場合は、入場券を受け取るだけでいい事になっている。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
心桜「ごめんくださーい!」
凪咲「あら? 心桜さん!?」
心桜「つっちゃーとお兄さん居ますか?」
凪咲「それが---」
心桜「えっ!? あたし、今から駅に行きますっ!」
凪咲「こ、心桜さんっ!」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
心桜「さ、笹夜先輩!」
笹夜「あら、心桜さん!? そんなに慌ててどうしたのかしら?」
心桜「笹夜先輩! つっちゃーとお兄さんに会いませんでした?」
笹夜「え!? ええ。まだお話していた時間には---」
心桜「それが、お兄さん、予定よりも早く出発したって! もう駅に---」
笹夜「まあ!」
心桜「と、とにかく駅に急いで!」
笹夜「ちょっ! 心桜さん!?」
心桜「笹夜先輩! 早くっ!」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
駅の構内で七夏ちゃんにお礼を言う。
時崎「七夏ちゃん、本当に色々とありがとう!」
七夏「はい☆」
時崎「天美さんと、高月さんにもよろしく!」
七夏「はいっ☆」
俺は、極力平静を装っていたが、内心の切ない気持が溢れ出ないように必死だった。七夏ちゃんは、いつもと変わらない様子で、俺は安堵する反面、少し複雑な気持ちもある。それは、俺が七夏ちゃんとお別れするのが・・・。
時崎「・・・・・」
七夏「・・・・・」
俺は、七夏ちゃんの綺麗な「ふたつの虹」を記憶に焼き付けようと、七夏ちゃんをじっと見つめる。列車のディーゼルエンジン音が急に大きくなった時---
七夏「・・・・・あっ!」
「ふたつの虹」から溢れ出る光・・・。列車の出発時刻が迫っている事を告げる大きなエンジン音・・・七夏ちゃんと水族館へ出かけた時は、あんなに心が弾んだ音なのに、今、この音を聞くと、とても切ない・・・。七夏ちゃんは、今まで堪えてくれていた事が分かって、俺の気持ちも一気に溢れ---
時崎「七夏ちゃんっ!!!」
七夏「ゆっ!!!」
列車が大きな音をたててながら駅を通過してゆく。
俺は、七夏ちゃんから溢れ出る感情を零さないよう、しっかりと包み込む。俺の手の中で、七夏ちゃんは少し震えているのが、はっきりと伝わってくる。
時崎「好きだ!!! 七夏ちゃんっ!!!」
七夏「っ!!!」
そんなに大きな声ではなく、搾り出すように俺の気持ちを七夏ちゃんに伝えた。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
笹夜「こ、心桜さん! 待って!」」
心桜「笹夜先輩! 急いで!」
笹夜「きゃっ!! こ、心桜さん! 待ってって話したけど、急に止まらな---」
心桜「・・・・・」
天美さんは「静かに」というポーズをとった。その行動に、高月さんも状況を理解する。
笹夜「・・・・・」
心桜「笹夜先輩・・・」
笹夜「!?」
心桜「初恋双葉・・・大切に見守らないと・・・ですよね!」
笹夜「・・・・・ええ♪」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
時崎「な、七夏ちゃん・・・」
七夏「柚樹さん・・・・・」
ギュッとしていた七夏ちゃんから、そっと離れる。七夏ちゃんは堪えながらも、笑顔を搾り出そうとしている。
七夏「柚樹さん・・・これ・・・」
七夏ちゃんは、髪留めをひとつ外して、俺に差し出してきた。
時崎「これは、七夏ちゃんが大切にしているセブンリーフの髪留め・・・」
七夏「はい。柚樹さんに持っていて・・・ほしい・・・です」
俺は、少し考える。七夏ちゃんが、とても大切にしているセブンリーフの髪留め・・・手渡してくれたのは四葉の方だ。これが、どういう事を意味しているのか・・・。四葉のクローバーは幸せの象徴だ。七夏ちゃんが俺の幸せを願ってくれるなら、俺もそれに答えなければならない!! しかし、今のんびりと考えている時間は無い!! どうする!? 俺は答えた。
時崎「七夏ちゃん! ありがとう。じゃ、少しの間、借りておくよ」
七夏「え!?」
時崎「必ず、返しに来るから!!」
七夏「・・・・・はいっ!!」
駅のアナウンスに押され、列車に乗る。俺と七夏ちゃんの間に、列車の扉が躊躇いも無く割って入る。俺と七夏ちゃんは列車の扉の窓越しに見つめあう。列車のエンジン音が更に大きくなり、景色がゆっくりと流れ出す・・・。しかし、七夏ちゃんだけは同じ位置のまま・・・列車の動きに合わせてきた。
時崎「七夏ちゃん!」
俺は、扉の窓越しに七夏ちゃんの姿を収め続ける。しかし、徐々に速度を増す列車に、七夏ちゃんは付いてこれな・・・その時---
七夏「○○○○○!!! ○○○○○○!!!」
時崎「え!? 七夏ちゃん!!!???」
七夏ちゃんが、何か叫んだが、それに共鳴するかのように、列車の警笛が大きく鳴り響き、七夏ちゃんの姿は見えなくなった。
時崎「七夏ちゃん・・・」
俺は、自分の心も落ち着かせる。不思議な虹を追いかけて、水風七夏という名の不思議な少女と出逢った。虹は七色だと思っていた・・・。しかし、それは俺の思い込みに過ぎなかった。七色よりも、もっと深く、繊細で、暖かくて、優しくて、可愛くて、少し甘えん坊さんで・・・。俺と七夏ちゃんとの一時は、これからも続く・・・いや、続けさせてみせる! 俺の手の中で暖かくなった七夏ちゃんの髪留めが、力強くそう感じさせてくれて、気持ちが高揚してきた。列車の揺れは心地よく、そんな俺の高鳴る気持ちを、落ち着かせてくれているかのようであった。
そう・・・俺にとって、本当の虹は---
---列車の警笛がこだまする---
時崎「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
離れなければ見えない事もある。虹は、そういう存在だと分かっていたはずだ!
<<凪咲「少し、距離を置いてみると、色々と見えてくると思うわ」>>
時崎「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
俺の気持ちは七夏ちゃんに届けたけど、七夏ちゃんの気持ちは分からないままだ。
時崎「・・・やっぱり、七夏ちゃんの心を確かめたいっ!」
そんな気持ちが、どんどんと大きくなってゆく・・・。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
七夏「うぅ・・・うぅ・・・」
心桜「つっちゃー・・・」
七夏「っ!!! こ、ここちゃー!?」
笹夜「七夏ちゃん・・・」
七夏「さ、笹夜先輩!? ど、どおして?」
心桜「実は、お兄さんの見送り、笹夜先輩と話して驚かせようと思ってたんだけど、予定より早く出掛けたって凪咲さんから聞いてさ・・・」
笹夜「・・・ごめんなさい」
七夏「うぅ・・・ここちゃー、笹夜先輩・・・うぅ・・・」
心桜「つっちゃー、元気だしなよ! 駅の端っこでいつまでも泣いてると、お兄さんも悲しむよ!」
笹夜「七夏ちゃん、また時崎さんと会えると思います♪」
七夏「・・・はい・・・」
心桜「そうそう! ほら、列車来たよ! お兄さん、つっちゃーに会いに戻って来てくれるかも・・・なんてねっ!」
笹夜「心桜さん、さすがにそれは---」
時崎「七夏ちゃんっ!!!」
心桜「え!?」
笹夜「まあ!」
七夏「ゆ、柚樹さんっ!」
大切な人が俺の元に掛けてきてくれ、そのまま自然と抱きしめあった。
大切な人との2度目の再会---俺は、七夏ちゃんの想いがはっきりと伝わってくるのが分かった。惹かれ合い、心から結ばれ、お互いの虹は晴れてゆくのだった。
虹は、どんな色に見えますか?
翠碧色の虹 終幕 完
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「翠碧色の虹」を終幕までお読みくださり、ありがとうございました!
幕間四十一:お疲れ様でした!
心桜「つっちゃー! お疲れ様!」
笹夜「七夏ちゃん♪ お疲れ様♪」
七夏「はいっ☆ お疲れ様です☆」
心桜「ねねっ! つっちゃー!」
七夏「なぁに? ここちゃー?」
心桜「あたし、気になってる事があるんだけど」
七夏「え!?」
心桜「最後、お兄さんに、何て叫んだの?」
七夏「え!? えっと・・・」
笹夜「心桜さんっ!!」
心桜「わ、分かってます! でもでもっ! あたし、気になっちゃうよ!」
笹夜「それは、私も・・・ですけど、でも、そういう事は無粋です!」
七夏「でも、ここちゃーと、笹夜先輩。あの時、来てくれて嬉しかったです☆」
心桜「そうだ! とっても大切な事!!! つっちゃー!!!」
七夏「は、はい!?」
心桜「翠碧色の虹、最後までお付き合いくださり、ありがとうございました!」
七夏「あっ、ありがとうございます☆」
笹夜「ありがとうございます♪」
心桜「やっぱり、読んでくださる方の支えなくして小説は語れないからねっ!」
笹夜「心桜さん、どうかなさったのですか?」
心桜「読んでくださる方の支えが沢山もらえれば、続編の可能性もあるって事!!」
七夏「えっ?」
笹夜「まあ☆」
心桜「んー、だってさぁ。あたしと笹夜先輩。本編の出番少ないでしょ!?」
笹夜「それは・・・私は支える側ですので♪」
心桜「笹夜先輩、その容姿で支える側なんて、勿体無いっ!」
七夏「ここちゃーと、笹夜先輩のお話、たくさん教えてもらえると嬉しいな☆」
心桜「ところで、つっちゃー。何パタパタさせてんの?」
七夏「くすっ☆ これは、柚樹さんが教えてくれました♪」
↓【翠碧色の虹】七夏色一時/七色に変化する瞳の少女【水風七夏】アニメーション
https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=74413313
心桜「ん!? おおっ!」
笹夜「まあ♪」
七夏「こうすると、目の色が変わります☆」
心桜「つっちゃー分かるの?」
七夏「はい☆」
笹夜「素敵です♪ さすが時崎さん♪」
心桜「お兄さん、なかなかやりますな~・・・んで、お兄さんは!?」
七夏「えっと・・・」
時崎「ここに居るけど・・・」
心桜「うわぁ!」
七夏「あ、柚樹さん☆ お疲れ様です☆」
笹夜「時崎さん♪ お疲れ様です♪」
時崎「お疲れ様!」
心桜「はは・・・驚いたけど、お兄さん、お疲れ様!」
時崎「みんな、駅に居て驚いたよ! 用事があったんじゃ?」
心桜「あたしが、お兄さんとつっちゃーを驚かせようと思って、笹夜先輩にもお願いしたんです」
笹夜「すみません」
時崎「いや、全然構わないよ! 驚いたけど、嬉しいよ! ありがとう!」
笹夜「でも、あの時、私たちは時崎さんの目に映らなかったみたい」
時崎「い、いや、その・・・ごめん」
心桜「ま、無理もない・・・か」
笹夜「七夏ちゃんが眩し過ぎたのかしら?」
七夏「え!?」
心桜「でもさ、結局、お兄さんは次の列車で帰っちゃったけどね」
時崎「来た列車にのんびり乗る!」
七夏「え!? くすっ☆」
心桜「はいはい、ごちうさ~!」
笹夜「私は、みんなでお見送りが出来て良かったです♪ あの時、時崎さんが話してくれた事は、本当の事になりました♪」
心桜「あの時って?」
笹夜「時崎さん『今回だけだから』っていうお話しかしら♪」
七夏「笹夜先輩?」
笹夜「~♪」
時崎「た、高月さん!?」
笹夜「~♪」
心桜「あ、笹夜先輩が遂に落ちた!」
笹夜「~♪」
七夏「え!? えっと、ど、どうなっちゃったの!?」
心桜「さて、これからもあたしは頑張るから、つっちゃーも頑張りなよ!」
七夏「は、はい☆」
心桜「お兄さんもだよ!」
時崎「あ、ああ!」
七夏「くすっ☆ 柚樹さん☆」
時崎「どうしたの? 七夏ちゃん?」
七夏「えっと、柚樹さんは、どおして七夏の事が・・・」
時崎「えっ!?」
心桜「そりゃ目でしょ! 目!」
笹夜「ちょっと、心桜さん!」
心桜「もういいよねっ! つっちゃーの心も晴れたんだから!」
七夏「・・・やっぱり、私の目の色が変わるから・・・なのかな?」
時崎「違うよ! す、好きになった人が、たまたま目の色が変わる女の子だっただけで・・・その・・・」
七夏「あっ・・・」
心桜「おぉ~! ごちうさ~! ごちうさ~!」
笹夜「まあ♪」
七夏「ゆ、柚樹さんは、七夏の事が好きなんだ☆」
時崎「な、七夏ちゃんは?」
七夏「え!? えっと・・・内緒ですっ☆」
心桜&時崎「ええぇ~!!!!!!!」
笹夜「まあ♪ お二人が両想いでないという事は・・・まだ私にも♪」
七夏「え!?」
心桜&時崎「ええぇ~!!!!!!!」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
時崎「みんなに渡したい物があるんだ!」
心桜「え!? 何!?」
七夏「これですっ☆」
笹夜「まあ♪ アルバム♪」
心桜「ななついろひととき! あたし達の分もあるの!?」
七夏「はい☆」
心桜「うわぁ~い! ありがと~! つっちゃー! お兄さん!」
笹夜「時崎さん♪ とっても嬉しいです♪」
時崎「喜んでもらえて、良かったよ!」
七夏「はい☆」
心桜「んでは、これからみんなで思い出に浸りますか!」
笹夜「それもいいかも知れませんね♪」
心桜「んでは! 翠碧色の虹は、今回で一旦おしまいだけど、あたしたちココナッツの活動は、これからも続くかも知れないので、引き続き応援してくれると、ありがたや~です!」
七夏「ここちゃー、ちょっと昔の人の言葉が混ざってます☆」
心桜「つっちゃー、細かい事は気にしない!! 笹夜先輩も、良かったらよろしくお願いいたしますじゃ!」
笹夜「はい♪」
心桜「ではでは、続編の『翠碧色の虹 彩(いろどり)』で、また会えるよねっ!」
七夏「こっ、ここちゃー!?」
笹夜「まあ☆ 続編ってあるのかしら!?」
心桜「んー、どうなんだろうね?」
七夏「くすっ☆」
心桜「って事で、つっちゃーが頑張った『翠碧色の虹(無印)』の本編はこちらです!」
心桜「http://nanatsuiro.my.coocan.jp/nnt_frma_a.htm」
笹夜「心桜さん『翠碧色の虹』です! 無印って何かしら?」
心桜「今から続編との区別です!」
笹夜「今は必要ないと思いますけど・・・」
心桜「まあね! そして、あたしと笹夜先輩も楽しむ『ココナッツ』宛てのお便りはこちらです!」
心桜「http://nanatsuiro.my.coocan.jp/nnt_suiheki_novel.htm#QUESTIONNAIRE」
心桜「それじゃ、また会えるよねっ! きっとだよ!」
七夏「ご意見、ご感想を貰えると嬉しいな☆」
笹夜「今まで、ありがとうございました♪」
心桜「んではっ! そういう事で! 今後も『翠碧色の虹』を---」
七夏&心桜&笹夜「よろしくお願いいたします☆!♪」
時崎「!? よ、よろしく・・・」
心桜「もぉ~!!! お兄さんっ!!!」
時崎「ご、ごめん・・・」
笹夜「心桜さん・・・さすがに今のは無理もないと思います・・・」
時崎「高月さん。ありがとう」
笹夜「いえいえ♪」
七夏「前にもこんな事があったような・・・」
時崎「あったと思う!」
七夏「くすっ☆」
時崎「七夏ちゃん!」
七夏「はい☆」
時崎「また、戻ってくるよ! この街に!」
七夏「はい☆ 待ってます☆」
心桜「あたしも、待ってるよ!」
笹夜「私も、心待ちにいたしております♪」
心桜「ではでは、また来週~!」
笹夜「来週はあるのかしら?」
七夏「くすっ☆」
幕間四十一 完
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幕間四十一をお読みくださり、ありがとうございました!
本編の方も、どうぞよろしくお願い申しあげます!
閉幕:現実の虹
「今日も疲れたな・・・」
出張先の街。歩き慣れない道を進む中、少し古びれた長椅子が目に留まる。疲れた足が意思を持つかのように、その椅子まで誘導され拝借する。その場所はちょうど木陰になっており、思っていた以上に涼しく、心地よかった・・・そのまま目を閉じる・・・遠くから学校のチャイムの音が耳に届いてきた・・・。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
・・・どのくらいの時が経過したのだろう・・・・・。再び目を開けると、そこには先ほどと然程変わらない風景・・・ただ、さっきと違うのは隣(と言っても、少し離れている)に、一人の少女が座っていた。紺色と白のセーラー服姿で、髪は椅子に届くくらい長い・・・。中学生か、高校生くらいだろうか。その少女は、本を読んでいるのに夢中なのか、こちらには気付いていない様子で・・・と、その時---
??「七夏! お待たせ! 何読んでんの?」
七夏「あっ、小説です☆」
??「それは分かってるんだけどさ」
七夏「えっと、翠碧色の虹・・・です☆」
??「すいへきいろのにじ!?」
七夏「はい☆ 『虹は、どんな色に見えますか!?』っていうお話しで・・・」
??「虹の色!? 七色じゃないの!?」
七夏「そうですけど、この小説に出てくる女の子は、そうじゃないみたいで・・・」
そのような会話が私の耳を通過してゆく・・・。私は、その会話の元へと視線を送ってしまっていた・・・「ななつ」と呼ばれていた少女が、こちらの視線に気付き、私と目が合う。その瞳は、綺麗な翠碧色だった。私は軽く会釈をすると、少女も軽く会釈を返してくれた。
??「??? 七夏!? 知り合い!?」
七夏「いえ・・・」
??「ふーん・・・まっ、いいや! 早く帰ろっ!」
七夏「はい☆」
そんな会話を残しつつ、少女達は椅子を後にした・・・。
再び静寂な時間が訪れ、木々の揺れる音が耳に届くようになる。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
駅前へ向かう道中、1軒の書店が目に留まる。次の列車の出発時刻までは、まだ余裕があったので、時間潰しに寄ってみる。たくさん並ぶ本が視界を流れてゆく中、何かが光った。立ち止まり、それを追い戻すと、その光は・・・小説の扉絵に描かれている少女の瞳だった。小説のタイトルは「翠碧色の虹」。先ほど「ななつ」と呼ばれていた少女が読んでいた小説だろうか。あの時は、ブックカバーがされていたため、分からなかったが、扉絵に描かれている少女は、「ななつ」と呼ばれていた少女と再会したかのようによく似ていた。ただ、明らかに違うのは瞳の色だ。この本の扉絵の少女の瞳は、見る角度によって色が変わる「ホログラム印刷技術」が使われているようだ。そのホログラムの光があったから、こうして私はこの本を手にしている・・・。そのまま、なんとなく、小説の中を覗いて見る・・・。
「翠碧色の虹」
序幕:不思議な虹を追いかけて
写真撮影・・・今は、多くの人がその気になれば---
翠碧色の虹 完
翠碧色の虹(2)
お知らせ。
「翠碧色の虹」をお読みくださり、ありがとうございます!
「翠碧色の虹」の動画を公開しております。お時間がございましたら、どうぞよろしくお願いいたします。
↓「翠碧色の虹」登場人物紹介動画です☆
https://youtu.be/GYsJxMBn36w
↓小説本編紹介動画です♪
https://youtu.be/0WKqkkbhVN4s
「翠碧色の虹」アンケートを実施いたしておりますので、ご協力頂ければ嬉しく思います。
アンケートご協力者様へは「翠碧色の虹」オリジナル壁紙(1920 X 1080 Full-HD)のフルカラー版をプレゼントいたします!壁紙サンプルは下記アンケートページにございます!
http://nanatsuiro.my.coocan.jp/nnt_frma_a.htm
ご協力くだされば嬉しく思います!