第8話ー2
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赤道部の全周が5万キロの水しかない惑星ダゴルトは、その中心核だけが唯一、岩石で形成され、強い重力を帯びていた。
周囲には水分子を凝固させた都市が続き、一大都市を形成していた。
惑星の大きさは5万キロのにも及ぶというのに、常に天空には重力を帯びた岩石が恒星のように浮かんでいた。
水分子を凝固する技術で水中に建設された半球状の建物群は都市を形成し、ビザンが父と生活する区画は、白く濁った水分で造られていた。
透明度の高い惑星の水分をそのまま凝固してしまっては、プライベートがなく、色をあえてつけた液体を建物建設にはしようしていた。
道路というものはなく、水中を泳ぐ怪魚の如く、彼らは街中を泳ぎ回っていた。
数多の同じ姿をした同族から父親を見つけるのは、親子でしか分からない些細な見た目の違いで判断していた。
凄まじい速度で長く白い腕を伸ばして、回遊魚のように街中を進む。
すると水を伝わる彼らの種族独特の声が、激しく言い争ってるのが、ビザンの耳を突いた。一方はバクタリアンの独特の訛りがあるので、彼にもすぐに理解はできないが、もう一方の争っている相手の声には聞き覚えがあった。
水中に浮かぶバクタリアンの旅商人の見せは、潜水艇に近い形をしている。無脊椎動物の非ヒューマノイド型種族バクタリアンは、商売の才能に優れており、その長方形のゼリー状の身体から、音波を発し人と会話をする。ただ空気がなければ生存ができないため、その肉体は水中では常に楕円形の酸素カプセルに入っていた。
ガラス素材で作られた潜水艇には、宇宙のあらゆる品が並んでおり、水中では無意味な鋼鉄や銅製品も並んでいた。そうした露店の周囲に白い壁のように街の人たちが集まり、騒ぎになっていた。
ビザンは慌てて泳いでその輪の書き分け、騒ぎの中心に行くと、長い胴体を丸くして、銀で作られた20センチ四方の立方体の物体を抱えこむ男の姿があった。間違いなくビザンの父である。
バクタリアンの商人は激しい怒りなのが音波でわかるが、訛りがひどく聞き取れない言葉でビザンの父親をののしっていた。
楕円形のガラスカプセルに入ったバクタリアンと父の間に身体を入れたビザンは、何を言ってるのか分らないな、と困った心中の声を口に出すことはせず、愛想笑いで薄い唇の口を開き、水を通して声を伝えた。
「品物はお返ししますので、なんとか穏便に」
冷静を顔に張り付けてはいるものの、心中の同様は隠しきれず、彼の立場が背後の父への言葉をきつくする。
「なんで家から出たの。早くそれを返して」
しかし背中を丸めた老人は首を横に振ることしかしない。
「父さん、そんなものをどうするの。家にはも置く場所なんてないだろ」
頑として銀の立方体を放そうとしない父に、困った顔をするビザン。すぐにこの騒ぎを納めなければ、トコが来てしまう。人間の言葉に置き換えれば警察を意味する言葉だ。
青く顔を染めるビザンの元へ、全長10メートルはあるヌラヌラとした黒い軟体動物に捕まって2人の装飾をあしらった衣服をまとった人物が、騒ぎの中へと入ってきた。
トコが来たのである。
「ビザンさん。またですか。お父上の騒ぎは何度目ですか」
困った時の顔の色、緑色に白い皮膚を変えたトコの1人が腕組みをした。
そう。ビザンの父がこうして家を抜け出し街で騒ぎを起こすのは、今に始まったことではなく、病気の症状が悪化するにつれて、頻度が多くなっていた。
「我らの議会代表とは言え、こう何度も騒ぎを起こされては、お父上を連行せざるおえなくなります」
そうトコの1人が言ったところに、ミザンも駆け付けてきた。
「お代はお支払いしますから。父の病気のこともご存じでしょう」
トコとビザンのやり取りを聞いていたらしく、すぐに彼女は白濁した円盤状の物体をバクタリアンの商人へ渡した。それは真珠の一種で、彼らの種族の通貨として使用されていた。
バクタリアンの商人は通貨さえもらえれば満足らしく、訛りの激しい言葉が急に温和になり、品物を持っていけといったそぶりを見せた。
トコの2人も被害者の商人が満足気なのを見ると、ビザンにくぎを刺した。
「しっかりとお父上を管理していただかないと困りますよ。次はありませんよ」
そう厳しい口調で言い終えると、移動手段の軟体動物の皮膚に取り付けられた水分子で作られた取っ手を握り、街の中を高速で消えていった・
「お父さん、家へ帰りましょう」
ミザンが優しく父の身体を抱えると、父親はうなずき、銀色の立方体を抱きしめながら、水の中を泳ぎ始めた。
もううんざりだ。心中で首を振りながらミザンを家路へと帰る。
こうして騒ぎは収束してまた、街に日常が戻った。
第8話-3へ続く
第8話ー2