求めていた俺 sequel
第五部 「東西学園闘争編」
二十九話 スカイフェニックス810便
ゴォオオオオオオオオ・・・
雲の上を飛行する巨大構造物があった。『スカイフェニックス810便』。 約1200人もの人間を一度に運ぶことができる大型旅客機だ。
この機体は、機首から順番に『ファーストクラス』、『ビジネスクラス』、『エコノミークラス』と、3つの座席エリアに区分けされている。クラスによって座席数も異なり、一般庶民が旅行目的で利用するエコノミークラスは725人、主に平均年収700万円以上のそこそこ稼ぐ民間企業のサラリーマンなどが出張で利用するようなビジネスクラスは403人、そしてVIP専用座席である最上級のファーストクラスは60人と、かなりの座席数が確保されている。
ちなみにファーストクラスは他のクラスと異なり、その待遇も提供されるサービスの品質も格別に違う。例えば、全ての座席の背中に取り付けられているパーソナルモニターの全チャンネルを10円で堪能できたり、最高級機内食である『ビーフステーキ先輩』が通常価格11万4千514円のところを無料で味わうことができるのだ。
エリアを仕切る壁などは無く、座席が3色に色分けされており、青がエコノミー、緑がビジネス、黄色がファーストである。 これならどこの席がどのクラスか一目瞭然だ。
中央に3席、そして2つの通路を挟んで左右にそれぞれ3席と、合計3×3=9列の座席が縦一直線にズラリと並んでいる。 聖川東学園選手団は機首から一番離れた最も座席数の多いエコノミークラスの座席の一部分を一般客に混じって陣取っていた。
ポーン。
機内アナウンスの開始を告げる電子音が鳴る。
『皆様こんにちは。本日も所田航空 “スカイフェニックス810便” をご利用頂き、まことにありがとうございます。お席に着く際は気流の変化に備えて必ずシートベルトをお締め下さい。機内での携帯電話及びその他電子機器類の使用は禁止しております。なお、不審物等がございましたら直ちに客室乗務員にお知らせ下さい。何卒、ご協力オナシャス!
これより当機は水平飛行に移ります。それでは、快適なお空の旅を。』
ポポポポーン。
これは機内アナウンスの終了を告げる電子音だ。
「うげっ・・。離陸から5分で酔った」
飛行機に乗り慣れていないからか、ズボンのポケットから即エチケット袋を取り出しスタンバイする桐生。ちなみに彼がいるのは左側通路沿いの座席だ。
「準備いいのね・・」
右隣には学級委員の香月あずさが座っている。
「まぁな。基本的に乗り物苦手だし。これくらいの準備は当然さ」
「飛行機・・・暇ね」
「だな・・・」
「・・・」
案外会話が続かないものである。もし隣の席に座っているのが白石茜あたりなら多少は会話のキャッチボールが出来ただろうに。
「(俺、なんでこいつの隣に座っちまったんだろう)」
女子の中でも天真爛漫かつギャグセンスの塊である茜とは対象的な性格で、クラス一の真面目系学級委員の隣に座ってしまったことを絶賛後悔する桐生。下手に話題を振ったら振ったで見事に自爆してしまう可能性もあるし、そもそも香月とは趣味が合わない。気苦労に絶えないとはまさにこの事を言うのだろう。そんな2人が沈黙地獄を過ごしている事などつゆ知らず、香月の右隣に座っている一般客のおじさんが紙コップに入ったコーヒーを飲みながら新聞を広げていた。
おじさんに限らず、他の乗客も各々の個人的な時間をゆったりと満喫している。
「(やべぇ、超気まずいわ!)」
ちょうど香月も同じ事を考えていた。
2人は目すら合わせない。
桐生はとりあえず気晴らしに何かを食べる事にした。
「(えぇっと、フライトアテンダントさんを呼ぶボタンは・・・あったあった!)」
桐生はシートの肘置きの側面にくっついている赤いボタンを押す。すると、
カラカラカラ・・・
静かな機内に音が響く。桐生は、フライトアテンドのお姉さんが機内食を乗せたミールカートを押している音だとすぐさま気づく。桐生が呼び出しボタンを押してから10秒も経過していない。
「早いなおい」
その時、奇想天外な光景を目にした。
ガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラ!!!!
通路の正面から、フライトアテンダントのお姉さんがびっくりするくらい猛スピードでミールカートを押して迫って来ているではないか!
「速いなオイ!!」
ツッコミ終わる頃には、すでにフライトアテンダントのお姉さんが桐生の座席の横に到着していた。
そして顔中汗だくのお姉さんが言った。
「ゼハーッゼハーッ・・お、お呼びですかぁ、お客さまぁ・・。機内食はぁ・・。はぁ、はぁ、いかがですかぁゲホッゴホッ!!」
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