踊る奇怪

 家の前の歩道をでて、コンビニへ急ぐ。トレンチコートの左右、腹ポケットに手を突っ込んで、私の反対のほうへ世にも恐ろしい歪んだ顔をした、いびつな笑みを浮かべた怪物が歩いて通り過ぎていった、おどろいて振り返る。ふと感じた強烈な違和感は気のせいではない。それは確かに、自分の頭の中にある映像の一部をきりとったようなものだった、振り返り何度も見る、あれは確かに、私の創造物だった。昨日かいた絵だ、幻覚だろうか?あの怪物、あまりにうまくいかずにぐちゃぐちゃにまるめたキメラの絵だった、それがそあを通り過ぎた瞬間から、私は体の中に鈍い痛みを感じて、それから頭のてっぺんから徐々に体全体が重みを感じているのを感じた。
 「そうか、これは報いなのだ」
 あれは創造物の復讐なのだ、私は視界がゆがむのを感じ、視線はぐるぐるそのまま地面を探る、支えとなるものを探す、左手には排水口や背の低い街路樹が並行に均等にならんでいるだけ。私は瞬間的に気を失い、そして乗り物酔いのような状態でふらふらとする。
「大丈夫ですか?」
スーツ姿の男性が手を伸ばした、その手をすぐに遠慮気味にふりはらい、通路の真ん中、重心を持ち直す、すると男性はためらいがちに鞄をかかえて、おきをつけて、と振り払い、転びそうな私の腕ささえて、少し見ていたが、私が何度ももう大丈夫というと安心して歩きだした。急いでいるようだ。
「大丈夫、ありがとう」
私はそのときこうこたえ、とっさに思い出した。父親の姿、今は遠くにいる、昨年までずっと支えてくれていた兄の姿。

 友人が最近、父親と喧嘩したんだっていって悩んでいた。私はそれから体調をくずしていたんだ、昨日は朝からけだるくて、それを自分のせいにして、自分のセンスがないせいだって思っている、只の風邪だろう。友人と話すのさえ最近遠慮がちで、人を避けるようになっている、いい傾向ではない。友人は昔は一緒に絵を描いてあそんでいたのに、いつからか別々の趣味をもった。趣味は違う、話しが合わないわけではない、話しの盛り上がり、共通点やきっかけがつかめない、友人はバスケ、私は絵画、高校に入ってから部活も違う。彼女は何でも相談してくれる、趣味の話もする、悲しい話しもする、大切な友達、なのに最近うなずくばかりの私はなんの力にもなれないときは悲しくてつらい。
 (異形は何かの虫のしらせか?)
私はふと、もう一度ふりかえる、トレンチコートの怪物の姿はない、キメラだぞ、あれは街の厄介もの、カラスとネズミを掛け合わせた異形の姿。この街には必要とされていないけれど、きっと必死で生きている生き物の姿、決して他者の姿ではない、私はあのとき、自分の姿を想像してあれを描いた。私はあれを自分だと思っている、そして私は創造の末、あの紙を丸めてすてたのだ、自分の姿を重ねて、怪物な私は、本当は数日前、友人に相談されたとき、彼女にこういいたかったのだ。
 「あなたは私の絵を才能といってうらやましがるけれど、私はただこれしかないだけ、それに絵しか褒められることのない人の事は、あなたにはわからない」
 そういいたいのに、私は友人や他人が落ち込み苦しんでいると、私の都合を吐き出すことができない、あれから体調を崩した理由はそれだ。私はそれさえ、私のつらさの吐き出し方が思いつかない、昨日丸めた厚紙の絵画ラフ、あれは私、あれは異形だ、帰ったらもう一度書き直そう、そうすれば体調が直る気がするし、さっきすれ違いざま、異形が私の肩をぽんと勇気づけるようにたたいて励ました理由もぽっと思い浮かぶことだろう。

踊る奇怪

踊る奇怪

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-11-03

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