シロヒメは南の島のお姫様なんだしっ☀

koyasumi

「ぷりゅぷりゅいっぽんありました~♪ ぷーりゅりぷりゅりゅなそらのした~♪」
「白姫……」
 相変わらず意味のわからない歌詞を口ずさむ白馬の白姫(しろひめ)に、アリス・クリーヴランドは肩を落とす。
 と、続いてすぐに新たな歌が始まる。
「はくばのしまーのおひめさま~♪ そのなもかわいいぷりゅぷりゅりゅ~♪」
「いや、名前わかりませんよ『ぷりゅぷりゅりゅ』じゃ……」
 脱力しつつ指摘する。
 と、白姫は思わぬ反応を見せた。
「ぷりゅ~……」
 憂うつそうなため息をついたあと、ぽつり、
「南の島に行きたいんだしー」
「な、なんですか、その『仕事に疲れた女子』みたいなセリフは」
「実際、シロヒメ、疲れてるんだし」
「えっ」
 思わぬ言葉にアリスは息を飲む。
「何かありましたか」
「あったし」
「それって……」
 次の言葉を待っていると――白姫は、
「アリスだし」
「は?」
「すべてはアリスが原因だし」
「いえ、あの、それはどういう……」
「ぷりゅーっ」
 パカーーーーン!
「きゃあっ」
「ぷりゅー、やれやれ」
「な、なんなんですか! やめてください、いきなりの暴力は!」
「予告したらいいし?」
「予告してもだめです! 暴力そのものをやめてください!」
「えー、だって、アリスが悪いしー」
「悪くないですよ! 何も悪いことしてないです!」
「してはいなくても、悪いんだし」
「なんでですか!」
「ムカつくんだし」
「ええっ!?」
「もー、アリスのムカつかせっぷりはハンパじゃないんだしー。シロヒメ、すっごいストレスなんだしー。アリスのアホにさらされてー」
「アホじゃないです!」
「アホだしー。なんでわかりきってることを否定するしー」
「わかりきってないです!」
「そういうところがムカつくんだし。シロヒメをさらなるストレスにさらしてるんだし。繊細なシロヒメを」
「言ってることはぜんぜん繊細じゃないですからね。ひどいですからね」
 相変わらずの傍若無人な発言にアリスは涙目になる。
「というわけで、南の島なんだし」
「というわけでって……」
 話がそこに戻ってきたところであらためて聞く。
「なんでですか?」
「癒しと言えば南の島なんだし」
「そうとは限りませんけど……まあ、よくそうは言われてますけど」
「夏休みと言えば南の島なんだし」
「いや、ないじゃないですか、白姫には夏休み」
「なんでないんだしーーっ!」
 パカーーーーン!
「きゃあっ」
「夏休みがないなんて、白馬虐待なんだし」
「いま虐待してるのは白姫ですよ! それに、ある意味、毎日が夏休みみたいなものじゃないですか、白姫は! 遊んでばかりで!」
「それーでもー、まーってた~♪ ぷりゅやーすーみ~♪」
「なんですか『ぷりゅ休み』って!」
「というわけで、南の島なんだし」
「というわけでって、だから、ぜんぜんつながってませんよ!」
 大声を出してしまう。すると、
「理由があるんだし」
「えっ」
「シロヒメ、南の島でいろんな動物を見たいんだし」
「動物……ですか」
「そうだし」
 ぷりゅ。うなずく。
「動物と言えば南の島なんだし」
「そうとは限りませんけど……まあ、確かにいっぱいいそうですけど」
「ぷりゅぷりゅ動物ランドなんだし」
「なんですか『ぷりゅぷりゅ動物ランド』って」
「ぷーりゅい、ぷーりゅい♪」
「なんで、いきなり歌い出すんですか!」
「ぷーりゅい、ぷーりゅい♪ はくーばさーんだよ~♪」
「なんですか、白馬『さん』って……」
「ぷーりゅい、ぷーりゅい♪ ぷーりゅい、ぷーりゅい♪ とーってもかわいい~♪」
「はあ……」
「ぷーりゅい♪ ぷーりゅい♪ ぷーりゅい♪ ぷーりゅい♪ しーっぽのしろい~♪」
「それは……白馬ですから」
「ぷーりゅい、ぷーりゅい♪ ぷーりゅい、ぷーりゅい♪ はくーばさーんだね~♪」
「というか、南の島に白馬はいないと思いますけど」
「だからシロヒメが行くんだし」
「『だから』の意味がまったくわかりませんよ」
「アホなんだしー」
「アホじゃないです」
「それに、動物だけじゃないんだし」
「えっ」
 白姫の声に力がこもり、
「シロヒメ、あれだけは絶対に見たいんだし」
「あれ?」
「シロヒメ……」
 目を輝かせながら言う。
「ぷーりゅらが見たいんだし!」
 アリスは、
「……は?」
「『は?』じゃねーし。ぷーりゅらだし」
「ぷ、ぷーりゅら?」
「そうだし」
「………………」
 言葉を失う。しばらく経ってからようやく、
「……何ですか?」
「ぷりゅ?」
「だからその……『ぷーりゅら』って」
「ぷりゅー」
 白姫は肩をすくめ、
「やっぱり、アリスはアホなんだしー」
「アホじゃないです」
「アリスが言ったんだし」
「えっ」
 自分が? そのよくわからない『ぷーりゅら』というものを――
「あっ」
 思い出す。
「ひょっとして、あの話ですか?」
「その話だし」
「えーと……」
 あらためてアリスは困り出す。
 それは――


 数日前だ。
「ぷーりゅら?」
「いや、オーロラですから……」
 白姫とテレビを見ていたときのこと。地球の自然を紹介する番組で、白姫は初めて見たその映像におおいに興味を引かれていた。
「なんかすごいし! ゆらゆらしてるし!」
「そうですね」
 無邪気な感想にアリスも顔をほころばせる。
「アリス、ちょっと取ってくるし」
「え?」
「ほら。早く行くし」
「え、えーと……」
 せかされる中、困惑して、
「取ってくるって……何をでしょうか」
「ぷーりゅらだし」
 絶句。
 おそるおそる、
「あの……それは無理なんですよ」
「なんでだし」
「なんでって……」
「もー、アリスはマジ使えないしー」
「いや、自分だけの問題ではなく、誰にも無理だと」
「じゃー、どうするし」
「どうするって……」
 思いもかけないところに飛んでくる質問にあせりつつ、
「見に行くしかないかと」
「ぷりゅ?」
「オーロラは取るものじゃなくて、出るものですから」
「そーなんだし?」
「はい……」
「わかったし」
「わかってくれたらいいんですけど……って、白姫?」
 白姫が不意にその場から歩き出す。
「あの、どこに……」
 あわてて追いかける。
 すると、
「ぷーりゅぷりゅ、ぷーりゅぷりゅ♪」
「ええっ!?」
 屋敷の中庭――
「ぷーりゅぷりゅ、ぷーりゅぷりゅ♪」
「あ、あの……」
 歌いながら踊る白姫を前に、アリスはあぜんとなる。
「何を……して……」
「ぷーりゅぷりゅ、ぷーりゅぷりゅ♪」
「白姫……」
「ぷーりゅぷりゅ、ぷーりゅぷりゅ♪」
「し……しっかりしてください!」
 あきらかに普通ではない様子に、アリスは白姫の肩をつかんで激しくゆさぶった。
「白姫! 白姫!」
「ぷりゅぷりゅぷりゅぷりゅぷりゅぷりゅ……」
 がくがくとゆさぶられる。
「――ぷ!」
 その目が、はっと見開かれる。
 我に返ったというようにきょろきょろと辺りを見渡し、
「シロヒメ、何をしてたんだし?」
「それは……」
 聞かれても――説明のしようがない。
 と、白姫の目に涙が浮かび、
「シロヒメ、どうしちゃったんだし? 壊れてしまったんだし?」
 アリスはあわてて、
「大丈夫ですよ。ゆっくり治していきましょう」
「ぷりゅ」
 うなずく白姫。と、すぐにまたはっとなり、
「ぷりゅーっ」
 パカーーーン!
「きゃあっ」
 いきなり蹴り飛ばされ、アリスは悲鳴をあげて倒れこむ。
「なっ、何をするんですか!」
「アリスが悪いし。シロヒメをびょーき扱いするから」
「だって、明らかに普通じゃなかったですよ!」
「もちろん、シロヒメ、普通じゃないし。普通じゃなくかわいいし」
「そういうことを言っているわけではなくて……」
「じゃあ、何を言いたいんだし?」
「だって、いきなり踊り出したりしたから」
「それには理由があるんだし」
「理由?」
「シロヒメ……」
 重々しい面持ちで、
「ぷーりゅら乞いをしてたんだし」
「……は?」
 絶句する。
「ぷ……ぷーりゅら乞い?」
「そうだし。ほら、雨乞いってあるし」
「ありますけど……」
「だから、シロヒメも、ぷーりゅら乞いしてたんだし」
「えーと……それで踊ってたんですか?」
「そーだし」
「………………」
 確かに、雨乞いの踊りというのは聞いたことがあるが――
「シロヒメ、始めると入りこんじゃうタイプなんだし。だから、踊ってるうちにいつの間にかトランスしちゃってたんだし」
「トランスって……」
「そーゆーとこ巫女っぽいしー。神秘的だしー」
「神秘的……」
 こちらの理解を超えた発言の連続にあらためて声を失う。
「ぷーりゅぷりゅ、ぷーりゅぷりゅ♪ ぷーりゅら、でろ~♪」
「ええっ!?」
 突然踊りが再開され、アリスはぎょっと目を剥く。
「ぷーりゅぷりゅ、ぷーりゅぷりゅ♪」
「あの、その……」
 たまらず、
「や……やめてください!」
「ぷりゅ?」
 白姫はけげんそうにアリスを見て、
「なんでだし? アリスはぷーりゅら見たくないんだし?」
「見たい見たくない以前の問題ですよ!」
「ぷりゅー?」
「……出ませんから」
「ぷりゅ!」
 白姫の目が吊り上がる。またも蹴られると思ったアリスはあわてて、
「お、踊って出るものではないんですよ、オーロラは!」
「じゃあ、違うことするし? アリスをイケニエに捧げるとか」
「捧げないでください、生贄に!」
「まー、確かにアリスではイケニエにならないし。天罰くだるし」
「なんでですか!」
「まーまー、言いたいことわかるしー」
 アリスをあしらうように、
「確かに雨乞いとか非科学的だし。けどシロヒメにはそーゆー一般的な常識を超えたパワーとかあるからー。どこでも雨とかぷーりゅらとか呼べるからー」
「いやあの、雨はどこにでも降りますけど、オーロラはそういうわけには……」
「なに、やる前から決めつけてるし。行動しないであきらめるなんて騎士失格だし」
「ええっ!?」
「ぷりゅーわけで、アリスもやるし!」
「うう……」
 騎士を目指す者として『騎士失格』と言われるのは耐えられない。結局、恥ずかしさをこらえてアリスも白姫と一緒に踊ることになった。
「ぷーりゅぷりゅ、ぷーりゅぷりゅ♪」
「おーろら、でろ~♪」
 十分後――
「なんで出ないんだしーっ!」
 パカーーーン!
「きゃあっ」
「やっぱり、アリスをイケニエに……」
「しないでください、お願いしますからーっ!」


 ――というようなことが先日あったばかりだった。
「その……」
 踊り狂った自分を思い出して赤面しつつ、
「それと南の島とどういう関係が」
「アリス、言ったし。ぷーりゅらは取るものじゃなくて出るものだって」
「言いましたけど……」
「だから、南の島なんだし」
「いやあの、まったく自分の中で『だから』でつながらないんですが」
「アホだしー」
「アホじゃないです」
「ぷーりゅらはきれいなんだし」
「はい……きれいですね」
「だからだし」
「唐突すぎますよ、白姫の『だから』は」
「この前のぷーりゅら乞いは場所が悪かったんだし。だから南の島なんだし」
「えーと……」
 オーロラは主に北で見られるものだと思ったが――
「南の島もきれいなんだし。きれいでカラフルなものがいっぱいあるんだし。だから、ぷーりゅらも」
「いやいやいや……」
 ようやく白姫の言おうとしていることがわかったアリスは、
「む、無理ですから」
「確かに無理だし。アリスのムカつかせっぷりは南の島でぷーりゅら見て癒されないと無理っていうレベルで」
「そういうことを話してませんよ。というか、そういうことを言わないでください」
「そうだし、アリスのことなんて話してたらよけい気持ち悪くなってきたし。吐きそうだし」
「だからやめてください、ひどいことばかり言うのは!」
「とにかく南の島だし。神様に何かお願いするダンスもあっちが本場って気がするし」
「確かにそういうイメージはありますけど」
「あと、イケニエも……」
「しないでください、生贄えは!」
「ぷりゅーわけで、南の島でぷーりゅら乞いしてぷーりゅら見るんだし! ぷーりゅら見て感動して、それでぷりゅ力を上げるんだし!」
「なんですか『ぷりゅ力』って? 女子力みたいなものですか」
「いいから行くしーっ!」
 言うなり走り出した白姫に、
「えっ、ちょっ……白姫? 本当に行くんですか? というか、いまから!?」
「走り出したら止まれないんだしーっ! シロヒメ、自由を愛する白馬なんだしーっ!」
「いや、自由すぎますから! だいたいどうやって南の島に……」
「なんとかなるんだしーっ!」
「なんとかなりませんから! 待ってください、白姫ーーーっ!」

「いやー、なんとかなったしー」
「……そ……」
 アリスは、
「そんなこと言ってる場合じゃないですよぉ……」
 まだショックが抜けきらずにふるえた声がもれる。
 アリスと白姫は――見知らぬ浜辺にいた。
「……どこなんですか」
「ぷりゅ?」
「だから! ここは一体どこなんですか!?」
「もー、アリス、うるさいしー」
 白姫が顔をしかめる。
「南の島に決まってるし」
「決まってませんよ!」
「決まってるし。シロヒメたち、南の島を目指してたんだから」
「目指してましたけど! だけど……」
 そこから先の言葉が消える。
「………………」
 あらためて辺りを見渡す。
 何度見ても、白姫とアリスの他に動く者の姿はない。
 いや、正確には、砂の上を歩く大きなカニや、ヤシの葉にとまった色鮮やかな鳥たちなどは見受けられる。
「う……」
 普段の生活では見ることのできないそれらの生き物に、アリスは顔を引きつらせる。
 感動――というような感情ではない。
 別世界。
 テレビで見たそのままの異国の風景がそこにはあった。
 やはりここは白姫の言う通り――
「じゃー、踊るしー」
「えええっ!?」
 こちらの感情をまったく無視した言葉に、たまらず驚きの声がほとばしる。
「アリス、火、焚くし」
「火!?」
「そうだし。踊りに火は必須だし」
「いや、その……どういう踊りですか!?」
「もちろん南の島にふさわしい踊りだし」
 そして白姫は、
「ぷんぷんぷりゅりゅん、ぷんぷんぷりゅりゅん♪ ぷんぷんぷりゅりゅん、ぷんりゅんりゅん♪」
「って、マイムマイムじゃないですか! フォークダンスじゃないですか!」
「そーだし」
「確かにキャンプファイヤーの周りを踊りますけど……って、そういうことじゃなくて!」
「じゃあ、こうだし?」
 白姫が歌を変える。
「ぷーりゅぷりゅりゅりゅりゅ、ぷーりゅぷりゅぷりゅりゅ♪ ぷーりゅりゅっりゅっぷーりゅりゅりゅ、ぷんりゅんりゅん♪」
「それは、オクラホマミキサーですよ!」
「アリスがこっちのほうがいいって言ったし」
「言ってません!」
 アリスは涙目になり、そして声を張り上げる。
「自分たち……遭難したんですよ!」
「!」
 全身にふるえを走らせ――白姫は、
「大変だし……」
「そうです、大変なんです! やっとわかってくれて……」
「このままでは……」
 白姫は言った。
「踊れないし」
「……は?」
「シロヒメとアリスだけ!? こんなに数のすくないフォークダンスなんて聞いたことないし! このままでは、ぷーりゅら乞いできないし!」
「いえ、あの……」
 そういう問題か? 問題なのか!? 衝撃のあまりツッコむこともできないでいるアリスの前で、
「ぷりゅーーーーーっ!」
「白姫!?」
 またもいきなり走り出す白姫にあわてて、
「どこへ行くんですかーっ!」
「もちろん生き残りのみんなを探すんだしーっ!」
「それは……」
 正しい。動機が普通のものならばだ。
 ――しかし、
「それって踊るためですかーっ!」
「そーだしーっ!」
「って、なんですか、それはーっ! 真剣にやってくださーい!」
「もちろん真剣だしーっ!」
「白姫の場合は真剣であるところが完全にずれていて……って、待ってください、白姫ーーーーっ!」
 大声をあげながら白姫を追いかける。
 それにしても、とんでもないことになってしまった。
 あまりにも無謀でしかなかった南の島行き。しかし、偶然にも白姫を乗せてくれる船が見つかり、洋上に出るところまでなんとかこぎつけた。
 幸運は――そこまでだった。
 アリスたちの乗った船は嵐に巻きこまれた。
 荒れ狂う海に投げ出され――
 気づいたときには、この浜辺に流れついていたのだ。
「白姫ーーーーーーーーっ!!!」
 走った。
 これからどうなるかわからない中、友だちの姿だけは決して見失うまいと。

「あー、はくーばーのーこーいは~♪ みーなーみのー、かぜにのってぷりゅーぷりゅ~♪」
「白姫……」
 ぐったりしながらもアリスは、
「『風に乗ってぷりゅぷりゅ』って、なんですか……」
 そう聞いておきながら実際はどうでもよかった。
 それどころではなかった。
「どこまで行くんですか……」
「ぷりゅー」
 白姫が顔をしかめる。
 このうっそうとした密林に分け入ってからどれだけの時が経つだろう。
 白姫の行くところにただついてきてしまったアリスだが、さすがにまずかったのではないかと遅ればせながらに思い始めていた。
「なんでですか……」
「ぷりゅ?」
「白姫は、どういう考えでここを探そうと……」
「カンだし」
「カン!?」
「ぷりゅーっ」
 パカーーーン!
「きゃあっ」
「ちなみにいまのは『カン』じゃなくて『パカーン』だし」
「そんなシャレのために人を蹴らないでください!」
「人を蹴ったんじゃないし。アリスを蹴ったんだし」
「同じじゃないですか!」
「同じじゃないし。同じにしたら人がかわいそうだし」
「なんでですか!」
「まー、よーするに、なんの問題もないんだし」
「ありますよ! 思いっきりあります!」
「もー、アリスはうるさいしー」
 白姫は顔をそむけ、
「だいたい、白馬のカンなめてんじゃねーし」
「え……」
「白馬にはするどいところがあるんだし。繊細な感覚の持ち主なんだし」
「繊細だったら、いきなり蹴るようなひどいことはしないでください……」
「だってしょーがないしー。イライラするからー」
「それは誰も見つからないからじゃないですか。ぜんぜんするどくないじゃないですか」
「ぷりゅーっ」
 パカーーーン!
「きゃあっ」
 またも容赦なく蹴り飛ばされるアリス。そして、白姫はいままでのことは何もなかったかのように、
「これは……ここには来ていないのかもしれないし」
「ええっ!?」
 ボロボロながらもアリスは身体を起こし、
「それって、やっぱりこの森にはいないってことですか?」
「この森とか、そういう問題じゃないんだし」
「えっ」
「ひょっとしたら……」
 いままでの傍若無人ぶりが嘘のような静かな目で、
「この島に流れついたのは……シロヒメたちだけかもしれないし」
「……!」
 唐突な発言に息を飲む。
「ど、どういうことですか」
「………………」
 白姫は、
「アリスは……感じなかったし?」
「えっ」
「シロヒメは感じたんだし」
「何を……」
「あの嵐は何か大きな力が引き起こしたものだし」
「ええっ!」
 何か――大きな力?
「そ、そんなこと……」
「白馬のカンをなめんじゃねーし」
 静かな表情のまま白姫が言う。
「その大きな力がシロヒメたちをこの島に呼び寄せたんだし」
「そんな……どうして」
「そこまではわからないし」
 首が横にふられる。と、声に熱がこもり、
「これは……シロヒメたちがやるしかないんだし」
「やるって何を」
「もちろん謎を解くんだし! ぷりゅテリーハンターなんだし!」
「ぷりゅテリーハンター!?」
「そうだし!」
 力強くうなずき歩き始める。
「ちょっ……どこへ行くんですか? 謎を解くって……」
「イヤなら帰るし」
「帰るも何もどうやって」
「浜辺に戻って、ぷりゅおーえすでも出すし」
「なんですか『ぷりゅおーえす』って!」
 そう言いながら――
 結局、アリスは白姫についていくしかなかった。遭難したことの不安に加え、さらにわけのわからない大きな不安に胸を押しつぶされそうになりながらも。

「ぷりゅテリーだしー」
「だから『ぷりゅテリー』って……」
 そこまで言って、アリスも白姫と共に息をのみこんだ。
「う……」
 神殿。
 アリスの頭に浮かんだのはその言葉だ。
(どうして、こんなものが……)
 熱気の満ちる密林を進んできたアリスと白姫。
 そんな彼女たちの前に突如として現れたのが石積みの巨大な建造物だった。
 考古学に詳しくないアリスにも、目の前の遺跡がかなりの年月を経ているであろうことはすぐにわかった。いたるところに深いひびが入りながら、それでもゆるぎなく建物を支えている無数の石組。それは何百年、いや何千年もここにあったと思わせる力強さを感じさせるものだった。
「ぷりゅミッドだし……」
「ぷりゅミッド!?」
 何なのだ、それは!? 驚いて白姫を見ると、
「アリス」
「!」
 逆に見つめ返される。
「う……」
 嫌な予感をおぼえたその直後、
「ちょっと入ってみるし」
「ちょっとって……そんな軽い気持ちで入れる空気じゃ」
「いいから行くし。きっとここにこの島の謎を解く何かがあるんだし」
「じゃあ、白姫も一緒に来てくださいよ」
「ぷりゅ?」
「自分だけ行かせるつもりですか? 白姫は入らないんですか?」
「だって、ワナとかあったら大変だし」
「自分だって大変です!」
「大丈夫だし。アリスだから大変じゃないし」
「どういう意味ですか!」
 たまらず言い返すも、一方で自分を落ち着かせ、
「とにかく、まずは周りの様子を……」
「ぷりゅ!」
 そのときだった。
「ぷりゅりゅりゅりゅりゅりゅりゅりゅ……」
「白姫? どうしたんですか」
「見るし」
「えっ、何を……」
 白姫にうながされてアリスが見たのは、
「あっ」
 馬――
「馬じゃないですか!」
「馬だし……」
 白姫の声がふるえる。
「なんでこんなところに馬が……」
「それは……」
 確かに白姫の言う通りだ。
 石造りの建物の外壁。その高い部分に眼下を睥睨するようにして刻まれていたのは馬と思しき生き物の彫刻だった。
 南の島に――馬?
「これだし」
「えっ」
「きっと、この遺跡がシロヒメを呼んだんだし」
「そうなんですか!?」
 驚きの声をあげてしまう。白姫は真剣な顔で、
「というわけで入るし!」
「!」
「アリスが」
「だからなんで白姫は入らないんですか!」
「だって、罠とかあったら……」
「自分だって大変です!」
 あわてて言ったあと、はっとアリスは我に返る。
 かすかに声をふるわせ、
「……やめましょう」
「ぷりゅ?」
「なんだかこれ……おかしいですよ」
「確かにアリスはおかしいし。アホという意味で」
「アホじゃないです」
 そこはすかさず否定すると、再び真剣な口調になり、
「だって、そうじゃないですか。たまたまたどりついたところに、こんな、馬の彫刻があったりして」
「だから言ったし。この遺跡がシロヒメを呼んだって」
「なんで呼ぶんですか? 目的があるからじゃないですか。ここに入ったらきっと何か大変なことが起こりますよ」
「ぷりゅー」
 鼻にしわを寄せ、白姫が考え出す。未練をにじませつつ遺跡のほうを見て、
「でも……ここまで来て帰るんだし?」
「そのほうがいいと……」
「ワナがあるということは、きっとその先にお宝があるんだし」
「あるかもしれませんけど……。まあ、実際、本当に罠があるかはわからないんですが」
「わからないんだし? だったらないかもしれないんだし!」
 勢いが戻った彼女にあわてて、
「でも、あったら大変で……」
「だから、それはアリスが」
「人に試させないでください!」
「困難を超えて勝利をつかみ取るのが騎士なんだし!」
「全部こっちに押しつけようとしてるじゃないですか、困難を!」
「アリスは見たくないんだし? ぷりゅンカーメンの秘宝を」
「ないですよ、そんなカーメン!」
「なんでこの状況で引き返すとか言えるんだし!? 映画とかだったら絶対中に入ってるんだし! プリューリュン・プリュプリュバーグなんだし!」
「プリューリュン・プリュプリュバーグ!?」
 そして白姫は、
「ぷりゅーーーっ!」
「白姫!? また、そんな突っ走って」
「シロヒメに何かあったら全部アリスのせいなんだしーーっ!」
「やめてください、そんな自分勝手な脅迫ーっ!」
 結局、また白姫についていくしかなく――アリスたちは謎の遺跡に飛びこんでいったのだった。

「暗いしー」
「暗いですね……」
 白姫のつぶやきにアリスは律儀に応える。
 暗闇――
 入り口からそれほどの間もなく、彼女たちは何も見えない闇の中を手探りで進む状態になっていた。
「灯りとか持ってないんだしー?」
「持ってないですよ……」
 そう言いつつ、後悔の念が押し寄せる。
 当たり前だ。
 遺跡という言葉がふさわしいような建物の中に、普通に灯りがあったりするわけはない。現代人ボケと言われても仕方ないが、そもそもこのような探検をすること自体、アリスにとってはまったく予想していなかった成り行きなのだ。
「やっぱり、いったん戻りましょうよ」
「えー、めんどくさいしー」
「めんどくさいって……」
「ここまで来たんだから、なんとかなるし」
「『ここまで』って、どこまで来たのかも」
 そうつぶやいた瞬間、はっとなる。
「……どこです」
「ぷりゅ?」
「自分たち……いまどこにいるんですか」
「………………」
 白姫は、
「まー、なんとかなるし」
「なんとかなってませんよ! 迷ってますよ、自分たち!」
「おそろしいワナだしー」
「罠じゃないです! 自分たちが勝手に迷ってしまったんです!」
 あまりにも考えなしだったことに頭を抱えたくなってしまう。しかし、いまはそんな場合ではないと、
「な、なんとかしましょう、早く……」
「もー、ジタバタすんじゃねーし。落ち着きないし」
「なんで、そんなに白姫は落ち着いていられるんですか!」
「ぷりゅふんっ」
 胸を張る気配が伝わってくる。
「シロヒメは白馬なんだし」
「それが一体……」
「ただの白馬じゃないんだし。かわいくて賢いんだし」
「だから、それがなんなんですか!」
「『なんなんですか』じゃねーし。そこが大事なんだし」
「そこが大事……?」
 言おうとしていることがまったくわからない。
 白姫はやれやれというように、
「白馬は繊細なんだし」
「それは外でも聞きましたけど……」
「感覚がするどいんだし。だからどこへ行けばいいかもわかるんだし」
「あっ」
 そうだ――確かにその通りだ。白姫ならきっと、アリスの感じ取れないにおいや空気の動きから出口の方向がわかるはずだ。
「そうですよね! 白姫ならなんとかなりますよね!」
「なんとかなるし。というわけで行くし」
 次の瞬間、
「えっ」
 不意に――
 白姫の気配が消えたことにアリスは驚きうろたえ、
「ち……ちょっと!? 白姫? どこに行ったんですか、白姫!?」
 あわてふためいて彼女を呼ぶ。
「置いていかないでください! 白姫!」
 なかばパニックになりながらも懸命に声を張る。
「あっ」
 闇に慣れ切っていた目に何かが映る。
 光――
 そして、遠くにかすかに見えるそれに向かっていく影。
「白姫ーーーっ!」
 闇の中を転がるようにしてアリスは走った。
 徐々に光が大きくなってくる。
「!」
 不意に――
 あふれる白い光にアリスの視界は塗りつぶされた。

 ドンドコドコドコ、ドンドコドコドコ。
「う……」
 アリスは――
 どこからともなく聞こえてくる太鼓の音に目を開いた。
「なん……ですか……」
 いまどういう状況なのかまったくわからない。
 確か、白姫と入った真っ暗闇の遺跡の中で光を見つけて――
 それで――
「自分……どうなって」
 ぼやけた視界がはっきりしてくる。
 見えたのは、縦横に密に並べられた幾本もの木の枝だった。
「え……?」
 押してみる。
 硬い。
 先へ進むのを拒むかのように枝と枝とがしっかり組まれていて――
「!」
 周りを見渡す。
 枝! 枝! 枝! 四方を覆う格子状に組まれた無数の木の枝。
 アリスは――木のかごの中に閉じこめられていた。
「なんなんですか、これぇ!?」
 ふるえる声がほとばしる。突然のことにパニックになるアリスだったが、やがて格子の外の景色が目に入ってくる。
「……!」
 見慣れた熱帯の木々。
 だが、そこは明らかに人の手が入ったとおぼしき開かれた場所だった。
 よく見れば、南の国らしい簡素な家屋も建ち並んでいる。
「集落……なんですか」
 あぜんとつぶやく。
 しかし、あり得ないことではない。事実、密林の中に、古いとはいえあれだけ立派な石造りの建造物が存在したのだから。
 と、そこで気づく。
「自分……つかまっちゃったんですか」
 つぶやいた瞬間、再びパニックにとらわれる。
「え? え? なんでですか? 自分、何もしてませんよ? どうしてつかまったり……」
 そこで、さらにはっとなり、
「白姫? 白姫はどこなんですか? 白姫もつかまっちゃったんですか!? どこですか、白姫ーーーっ!」
 あわてふためくままに叫んだ――そのとき、
「!」
 ガサガサッ。
 集落の端にある茂みが揺れた。
 緊張が走る。そうだ……ここが『集落』だとしたら当然住んでいる者たちもいるわけで――
「う……」
 息をのみ茂みを見つめるアリス。
「ぷりゅ」
「えーーーーーーーっ!」
 絶叫がほとばしる。茂みをかきわけてあらわれたのは、
「う……馬じゃないですか!」
「ぷりゅ?」
 思わず放ったその声を聞きつけたのか、馬たちが次々とこちらを見る。
「……!」
 違う。アリスの知っている馬とは。
 その姿だ。
 身にまとっているのは普通の馬具ではなく、未開の地を思わせる緑の葉や鳥の羽を飾った色鮮やかな装束だ。
 確かに南国らしい姿とは言えるが――
「!」
 そこでまたも気づかされる。
 馬――
 アリスはそれをすでに見ている。
 あの遺跡だ。
「じゃあ……」
 ごくりとつばをのみつつ、
「南の島に……本当に馬が」
 そのときだった。
「ぷりゅ」
「え?」
 持ち上げられた。
 アリスごと、アリスの入れられたかごが。
「えっ、ちょ……みなさん?」
 かごを持ち上げた馬たちはそのまま整然とした動きで、
「あの、どこへ行くんですか? というか、なんで、自分、つかまっちゃってるんですか? あの、みなさん? 何か言ってください、みなさーーーーん!」


 そして――
「きゃあっ」
 かごごと放り投げられ、たまらず悲鳴をあげる。
「痛たた……」
 そこは、
「!」
 ドンドコドコドコ、ドンドコドコドコ。
「あ……」
 アリスの意識を覚醒させた太鼓の音。
 それが目の前で鳴り響いていた。
「ぷんぷりゅぷりゅぷりゅ、ぷんぷりゅぷりゅぷりゅ」
 ヒヅメで器用に太鼓を叩く馬たち。その座の中央には赤々と大きな火が燃え上がっていた。キャンプファイヤーのような軽い感じではない。もっと原始的な、まさに燃え盛る炎と言うべきものだ。
「ぷりゅ」
「ぷりゅぷりゅ」
 そして、馬たちにうながされるようにして現れた一際派手な飾りの馬は――
「!」
 信じられない。
 一方、どこかでやはりという想いもあった。
「白姫!」
 かごの中から声を張り上げる。
「っ……」
 ただ冷たい視線だけが返され、アリスは息を飲んだ。
「白姫……ですよね」
 白馬は何も応えない。そして、
「ぷりゅ。ぷりゅぷりゅ」
「ぷりゅ」
 何か指示を出し、そばにいた馬がうなずく。
「!」
 不意にかごが持ち上げられた。ロープを通されたかごは、馬たちの力によって高々と木の上にまでつりあげられた。
 原始的ながら頑丈に作られた装置に組みこまれ、かごはそのまま横に移動する。
「ええっ!?」
 アリスはとんでもないことに気づいた。
 このまま行くとかごは――
 燃え盛っている……あの炎の上に!
「やっ、やめてください!」
 あわてて馬たちに向かって叫ぶ。
「どうしてこんなことをするんですか! 危ないじゃないですか!」
 必死の訴えが通じたのか、馬たちからかすかに動揺する気配が伝わってくる。
「ぷ……」
「ぷりゅ……」
 しかし、そこに、
「ぷりゅ!」
 馬たちを叱咤するような鳴き声が響く。
「白姫……」
 アリスはがく然と、
「どうしてですか……」
「ぷりゅ。ぷりゅぷりゅ」
「!」
 聞こえた。
 おまえは生贄だと――そう言ったのが。
「……冗談ですよね?」
 声がふるえる。感情が止められなくなる。 
「本気じゃないですよね!? そんなひどいこと、本気でやったりしませんよね!」
 訴えかけを無視し、白馬は早くやれというように周りの馬たちをうながす。
 アリスはそれでも懸命に、
「白姫! いいえ、あなたが白姫でなかったとしても聞いてください! 自分は信じてますから! 馬は……」
 想いのすべてをこめて叫ぶ。
「馬はみんな友だちですから!」
 馬たちが動きを止めた。命令を出していた白馬さえも。
「……ぷ……」
 白馬が膝をついた。
「白姫……!」
 何かあったのか!? 危機的な自分の状況も忘れて身を乗り出す。
「……!」
 一際、太鼓の音が大きくなった。
 それに合わせ、巨大な炎がゆらめくように燃え上がる。
 馬たちがいっせいに頭を下げた。身体を小刻みにふるわせながら平伏する――その先にいたのは、
「!」
 恐怖に目を見開く。
 異形。
 突然つれてこられた驚きのせいで気がつかなかったが、それは真っ先に目に入っていてもおかしくない『存在』だった。
 炎に照らし出されたそれは――
 なんと、下半身がタコのような無数の触手になっている巨大な馬の石像だった。
「何なんですか、これは……」
 アリスの声がふるえる。
「あっ」
 うずくまった白馬のふるえが大きくなる。
「白姫、大丈夫ですか!? 白姫!」
 アリスは異形の馬の像をにらみつけた。
 あの像だ――
 直感ではあったが間違いないと思えた。あの不気味な像が馬たちを支配し、ひどいことをさせているのだ。
「やめてください! あなたは何者なんですか!」
 像に向かって声を張り上げる。
 しかし、当然のように、不気味な馬の像から返事はなかった。
「っ……」
 あらためて息をのむ。
 冷徹なる沈黙。それは白馬に対して感じたのと同じものだ。
 やはりこの像が……! アリスは確信する。
「くぅっ!」
 格子をつかみ、腕に力をこめる。日々の鍛錬で腕力には自信があったが、どう組み上げたものか、かごはびくともしなかった。
「みなさん、ここから出してくださーーい! みなさーーん!」
 必死に馬たちに呼びかける。すると、
「みなさん!」
 平伏していた馬たちが頭を上げ始める。
「わかってくれたんですね! 力を合わせてあの悪い像を……」
 言葉の途中で笑顔がこわばる。
 こちらを見る馬たち。その目にあったのは先ほどまでのおびえではなく、白馬と同じ冷たい――
「きゃっ!」
 宙づりになったかごが再び動き出した。
「や、やめ……」
 横に棒の通された大きな柱を馬たちが回すたび、アリスの入ったかごはどんどん炎の上に近づいていく。
「やめてください! 馬がこんなことをしたらだめです! 馬はみんな優しいんです! 自分はちゃんと知ってます!」
 馬たちは――止まらなかった。
「っ……」
 アリスは運命を悟った。
 自分一人の力ではもうどうにもならない。見習いではあるが騎士として、せめて散り際だけは潔くしようと覚悟を決める。
(馬たちは何も悪くありません。悪いのは……)
 自分は屈したわけではない。
 そんな想いをこめて、アリスは邪悪なる馬の像に視線を――
「……!」
 息をのんだ。
 馬たちがあやつられている中、像の後ろからそっと忍び寄る影があった。
「ぷりゅーーーーーーーーーーっ!」
 裂帛のいななき。
 そして、影は邪悪な馬の像を目がけて――
「白姫!」
 パカーーーーーーーーン!
 アリスの声とヒヅメの撃音が響いたのは同時だった。
「!」
 砕かれた。
 そびえ立つ異形の馬の像が。
「あ……」
 力強い後ろ蹴りではじき飛ばされた像の上半分が炎に向かって飛んでいく。
 ボウッ! 炎の中に入った像が勢いよく燃え上がった。
「あぁ……」
 紅蓮の炎に包まれる邪悪の像。そして、
「ぷ……」
「ぷ……りゅ……」
 我に返ったように馬たちの目に生気が戻っていく。
「白姫……」
 予想もできなかった事態にぼうぜんとなるアリス。
 と、白馬がこちらを見る。
「……!」
 今度こそ――はっきりとわかった。
「やっぱり、そうだったんですね……」
 涙がこみあげる。
 白姫は、白姫のままだった。
 白姫は友だちのことを忘れていなかった。
 きっと、あの遺跡に入ったとき、あるいはそこを抜けた直後に、あの邪悪な像によって心を支配されてしまったのだろう。
 しかし、白姫はそれを跳ねのけた。
 そして――助けてくれた。
「ありがとうございます、白姫!」
 興奮のあまり、かごがゆれるのも構わず声を張り上げる。
「自分、信じてました! 白姫は白姫だって! きっと自分のことを――」
 ガコンッ!
「……あ」
 不意の落下感。
「きゃっ……」
 一瞬にしていまの自分の状況を思い出すもすでに遅く、
「いやーーーーーーーーっ!」
 入っていたかごごとアリスは炎に向かって――

「――という夢を見たんだし」
「う……」
 がっくりと。アリスは肩を落とす。
「夢だったんですか……」
「そーだし」
 あらためて言葉を失う。
「あの……」
 なんとか気を取り直すと、
「馬の遺跡とかは」
「古代ぷりゅぷりゅ文明の遺跡だし」
「白姫が馬たちのリーダーになっていたのは」
「ぷりゅハメハ姫だし」
「邪悪な馬の像は」
「馬と海の神プリューケンだし」
「ず、ずいぶん、いろいろ具体的ですね」
「夢だから」
「いや、夢ってもっとあいまいなものじゃ」
「寝て見るほうの夢じゃないんだし」
「えっ」
「ぷりゅーか、予定だし」
「予定!?」
「こーゆーふうに南の島へ行きたいという……」
「やめてください! もっと普通に行ってください!」
 たまらず声を張る。
 やれやれというように白姫が肩をすくめ、
「なにマジになってるしー。こんなの夢でしかあり得ないしー」
「そうですよね……寝て見るほうの夢でしか」
 そう念押しをした後、
「それにしても最後がひどくありませんか? 結局燃やされちゃうじゃないですか」
「アリスだからいいし」
「ぜんぜんよくありませんよ!」
「むしろ感謝するし。アリスがこんがり焼けた後、お空にぷーりゅらが……」
「だから、オーロラはそういうものじゃありません!」
 大声で訂正する。
「じゃあ、どーゆーものなんだし」
「どういうって、それは……えーと」
「もー、めんどくさいから、やっぱりアリスが取ってくるし」
「だから、取ってこれるものでもないんです!」
「だったら行くしかないんだし、南の島に」
「だから、南の島にオーロラは……」
「南の島でお金ためるんだし」
「えっ」
「ぷりゅぷりゅ文明の遺跡にはきっと宝が……」
「それは、だから、夢じゃないですか。ないですよ、宝なんて」
「だったら、遺跡を舞台にプリューリュン・プリュプリュバーグ監督として映画を……」
「遺跡そのものがないんです! あり得ないです!」
「なんで『ない』って断言できるし。南の島全部に行って確かめたんだし?」
「それは……してないですけど」
「だったら、あるし」
「いや『だったら』って」
「ちなみに、アリスは主演だし」
「えっ、主演?」
 アリスの頬がかすかに赤らむ。
「いいんですか? 自分がそんな……」
「いいし。アリスにしかできないし」
「白姫……」
「ぷりゅーか、させられないし」
「え?」
「イケニエで焼かれるクライマックスシーンをぜひアリスに……」
「イヤですよ、そんな危ないこと!」
「大丈夫だし。演技シロートでも本当に焼かれる熱さをそのまま……」
「もっとイヤです! やめてください!」
「いいからやるしーっ!」
「きゃあっ! そんな南の島はイヤですーーーーーーっ!!!」

シロヒメは南の島のお姫様なんだしっ☀

シロヒメは南の島のお姫様なんだしっ☀

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • アクション
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-10-30

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