ゴリラと人間の国
ゴリラが来た。凶暴な凶暴なゴリラ。
私達を喰らいにやってくる。
人間は逃げ惑う。しかし、逃げ切れない。
ゴリラは我々の2.5倍の体格を有しているから。
誰かは、「何故、我々が奴らに喰われなければならぬ。」と言う。
そういう奴は、比較的早々に喰われる。
無駄にぎゃあぎゃあと喚き散らす挙句、
ゴリラに存在を煩わしく思われ、殴り殺される。
私達は数々の逃げる術というものを考えだすのだが、
それらが成功した例は、ひとつもない。
なので、ゴリラに自ら捧げものをして、
無駄に死んでいく同志の数を減らそうという策を施している。
捧げものというのは、勿論人間なのだけれども。
予めゴリラが満足する量の人間を計算しておき、
毎回奴隷の中から選び出して、所定の位置に集結させておく。
そうすれば、ゴリラは喜んで貪り食った挙句、
暴れも人を殺したりもせず、何処かに立ち去っていく。
奴隷の中には「何故、我々が殺されなければならぬ。」
と言う輩もいるが、そういう性質の人間は必ず、
早期に捧げものに出される。
その光景を目の当たりにした奴隷は、必ず何も言わなくなる。
ある日、一人の少年が「何故、ゴリラは僕たちのことを喰らうの?」
と言った。村では、変り者とされていた子供だ。
大人たちは鬱陶しがって、答えるのを面倒臭がった。
けれども、少年は質問を止めなかった。
大人たちは円陣を組んで代わる代わる少年に回答した。
少年は、心得たように大人達の会話を聞いていた。
それから、少年は思い立ったように言った。「どうも、ありがとう」
大人達は、目を丸くしていた。回答は、まだ終わっていなかったから。
大人達がまだ会話を続けているうちに、少年はその場を去った。
少年は、他にも沢山の人々に声をかけて回った。
1人1人の言葉をちゃんと聞き分け、会話をしていった。
その内、少年の人望はぐんぐんと上がっていった。
少年は、5日のうちに、4人の仲間を手中に収めた。
そしてすぐに、村を出て行った。
少年の友達は、少年が何処へ行ったのか知らなかった。
少年は仲間達だけを引き連れ、何も言わず出て行ったから。
友達は、寂しかった。心の中に風穴が空いた気がした。
なので、少年の後を追いかけることにした。
少年と同じ道を使って、沢山の人々と会話をしていって、
辿るべき道を探って見極めて、そうしてあるべき道を見付けた。
代々、外へ出たい者だけが見付けられる道。
そうして、その子も村を出て行った。
そうやって、出たい者だけが出て行って、
残りたい者だけが残っていった。
残りたい者の中には、不平不満を喚く者もいたが、
そう言った者の嘆きは、出て行った者の耳には届かなかった。
村から遠く離れた場所に、温暖な地域があった。
少年は、少年の友達とそこで再会した。
少年の友達は、少年の足元で泣き喚いた。
「なんで、自分を連れて行ってくれなかったのか。」と。
少年は、少年の友達と、その友達が連れてきた仲間を見まわした。
そして「僕の後をついてきてくれる存在が、必要だったんだよ。」と言った。
「僕、一人では、何百人という人を外へ連れ出すことは不可能だからね。
後をついてきてくれる人が、必要だった。僕は、君を信じていたんだよ。」
少年は、友達の目を見てそう言った。その瞬間、
友達の目からは涙が溢れだして、止まらなくなった。
少年は、両親を失っていた。ゴリラに殺されたから。
そしてたった一人の親族であるおじいちゃんも、
村を出る1週間前に、病気で失くした。
少年には、居場所がなかった。村の中では、生きていく自信が無かった。
だから、外へ出た。
沢山の、同じ気持ちを抱えている人々と一緒に。
そうして新しい村を作った。
新しい村にもゴリラは出没するけれど、決して倒せないものではなかった。
ゴリラと人間の国