忙しい街 

 地球表層から空、空から宇宙へそびえたつ塔のような物体があった。それは建物のようであって、額縁にいれるべき機能面の弱いアートのようなファンタジーの世界の城のようでもあった。それは、SF世界で語り継がれてきた軌道エレベーターだった。軌道エレベーターは地球表面から、その同期軌道上に宇宙空間へと続くエレベーターだ。エレベーター上にはいくつもの構造物が、まるで商業施設のように点在していて、地球にある国や街のように人がそこかしこに住んでいる。
 悩みに悩まれた軌道エレベーターの設計は当初から何度となく改良が加えられたが、結局強度と柔軟さの両面を必要としたため。最新の強度素材を利用し相当な高度をもつ筒状の部分を柔軟な素材でいくつも上へつなげた設計を採用した、その筒状の部分は、交換可能なように、柔軟素材の部分は可能な限り、後から回収に都合のいい設計と工夫のできた、いくつもの使い道がある特殊な施工がされた。

 それぞれの階層は、軌道衛星と地球との運搬、輸送、乗り物のレールの役目を持つほかに、その軌道エレベーター全体の生活者たちのためのライフライン、ネットワークそのものを考え、理想的な構造が出来上がっていた。階層にはマンションのように、地表から順に番号がふられていて、人の住む階層にはそれぞれが担当した仕事があたえられ、それに準じた生活をしていた、その中で一番忙しいのは、丁度真ん中にあたる1116階層だった。住人達はこんな会話をしていたのを、月の監視員たちが拾っていた。

「今日も大変だなあ」
「月に住んでいる、上の連中は何をやっているのかねえ」
「上はいいよ、上はただ、上に住んでいるだってだけさ、まだ宇宙開拓の研究をしているし僕らの事も考えている、まあ資源は月欠けているが、夢を与えてくれる分はいい、一番いやなのは、ケツに火をつける連中なんだよ」

 忙しいながらも彼等は建設的でよかった、その時代で最も傲慢なのは、地球に住む人々だった。
「地球は終わらないんだ!!未来はまだある!!宇宙船は帰ってくる!!」
 今まで幾度も失敗した宇宙船による他の惑星の開拓、それによる地球資源の枯渇、それでもまだ人間の住むことのできる惑星がある、それを信じて軌道エレベーターの住民や、その先の月の住民に研究と生活を託すものたち。それが地球人口のほとんどを占めている。彼等は生活のほとんどを月や軌道エレベーターにまかせきりで、地球の荒廃を信じず、彼等のほとんどが、地球がじきに人が生活するのは不可能な星になることを信じない人々だった。

忙しい街 

忙しい街 

軌道エレベーター 地球の未来。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-10-28

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