レガーロ島の悪魔~エピソード0~

レガーロ島の悪魔~エピソード0~

琉奈

原作沿い(フェリチータ加入時)は書かないのか、と要望がありましたので載せてみます。もちろん大まかな設定は考えていたのですが、まだ仲良くない頃を書くのがつらくて。笑

2つの大アルカナを持つ少女

エリスは呆れ返っていた。

ただでさえ新年で浮かれ気味な組織内が、今年は隠す気もないほどそわそわと落ち着きないからだ。

ため息と共に組まれた細腕は、肩出しの黒いブラウスに包まれ、スレンダーな体型を強調するようなベストを着用している。

悪魔【イル・ディアブロ】と契約している証の痣――スティグマータのある右肩を顕にしているのは、ファッションなのかそれとも能力者だという主張なのかはわからない。

「自警組織が聞いて呆れるわね…」

館の廊下を歩きながら、エリスは思わず呟いた。

「――全くだ」

彼女の独り言に相槌を打った人物は、壁に寄り掛かるようにして立っていた。

「あら、ノヴァ」

彼はサムライノヴァと恐れられているだけあって、腰には常に日本刀を提げている。

「いたのね。小さくて気が付かなかった」

「なっ…!お前の方が小さいだろう!その態度のでかさとは反対にな!」

目線はほぼ変わらないのだが、これ以上からかい続けて抜刀されては面倒だ。

「女の子は小さい方が可愛いのよ。――それにしても忙しそうね、警備隊長殿は」

「…1月は浮ついた連中が多くて、島の警備で忙しいんだ。それなのに、ファミリーがこんな状態では…情けなくて腹が立つ」

彼は警備を担う“聖杯”というセリエの幹部なのだ。

「珍しく気が合うわね」

相談役代理を務めるエリスは、腹が立つというより嘆かわしく思っているのだが、その原因である少女に興味があるのは彼女も同じだった。

「そんな組織に新しい風を運んでくれるかもよ♡」

「…どうだかな」

ノヴァは、彼女が言わんとすることを理解した上で曖昧に応えた。

「ハァ…せめて幹部のみんなにはしっかりしてほしいわね」

「お前達の力不足じゃないのか」

「え~~?ジョーリィは確かに“仕方ないだろう”って諦めちゃってたけど、私はこう見えても仕事中なのに♡」

エリスの直属の上司、相談役であるジョーリィも、例の少女に興味があるらしいのだ。――研究対象として、だろうが。

「――ところで、もうすぐ着くんじゃない?出迎え、行くんでしょ?」

「…行かないと、あの馬鹿がうるさいからな」

あの馬鹿――リベルタが、どうしても各セリエの幹部総出で出迎えるんだと騒いでいたのを思い出す。

「うふふ、楽しみね♡元婚約者なんでしょう?」

「…ふんっ。諜報部にでも異動したらどうだ?」

そう言ってノヴァは身を翻した。

(あらら。また睨まれちゃった)

エリスと同い年でまだ幼さの残る彼だが、その厳しい言動はさすが組織のトップ・パーパの甥ということか。

ふぅっと息を吐き、先程までノヴァがいた壁の陰から外を覗くと、そこはちょうど門が見下ろせる位置だった。

館の外には、既にノヴァ以外の4人の姿があった。

(ジョーリィはいないわね…当然だけど)

幼くして両親を亡くしたエリスにとって、ジョーリィは単なる上司ではなく父親代わりでもある。

彼は、錬金術用の実験室にこもっていることが多く、食事の席にすら滅多に顔を出さないのだ。

(肩書きに“パーパ専属の”って追記してあげたいくらい)

ぼんやりしていると、ノヴァが館から出てきて4人と合流する様子が見えた。

幹部長のダンテと部下の諜報部員リベルタ、“金貨”の幹部デビト、“棍棒”の幹部パーチェが談笑している。

各セリエの幹部総出で出迎える、と提案した本人は幹部ではないのだが、大アルカナを持つ実力者ではある。

今日からこの館で暮らし始める少女も、大アルカナを持っている。しかも2種類のタロッコと契約し、2つの能力を持っているらしい。

2つのアルカナ能力を持つ者など、他に聞いたことがなかった。ジョーリィが興味を持つのも当然かもしれない。

(そうじゃなくたって、お嬢様は注目されているのにね)

組織内が浮ついてる原因の少女――フェリチータは、パーパとマンマの実の娘。一人娘なのである。

彼女は3歳の頃までこの館に住んでいたが、その後はずっとマンマや従者と3人だけで、少し離れた小さな家に暮らしていた。

「――あら?そこにいるのはエリス?」

「マンマ…?先に来てたのね」

声のした方を振り向くと、マンマことスミレが立っていた。

豊かな黒髪が艶やかで、白い着物がとても似合う美しい女性だ。

「ええ。私とフクロータは先に運んで貰ったのよ」

「フクロータ…?あぁ、お嬢様のペットのあのフクロウね」

確かダンテがプレゼントしたフクロウの名だったはずだ。

「ペットじゃなくてお友達なんですって。――それで、ルカはそのままフェリチータを迎えに行ったけれど、もうすぐ着くんじゃないかしら」

ルカも大アルカナ所持者なのだが、長く館を離れてすっかり従者が板についてしまったようだ。

――否、昔もセリエには所属せず、パーパの秘書をしていたと聞いた気もする。

「ふぅん…。あとでルカにも会いに行ってあげようかしら」

「フェリチータにもよ?ここには女の子が少ないし、貴女は歳も近いから、仲良くしてあげてほしいのに…エリスったら全然遊びにきてくれないんだもの」

スミレは、不満そうとも残念そうともとれる顔をした。

「ファミリーに入ってすぐ、挨拶に連れて行かれたんだけど?」

「それっきりじゃない。あれから何年経ったと思っているの?あの子、覚えてないんじゃないかしら」

「…私だって忙しかったのよ」

ファミリーに馴染むことも大事だったし、仕事以外にも覚えることは多かったのだ。

「そうね…貴女も大変だったのよね」

スミレは占いを得意とするだけあって、その目に見つめられると、エリスは見透かされるような感覚に陥ってしまう。

(やっぱり年上女性は苦手だわ…)

そのとき、外に動きがあったため、2人の意識はそちらに向いた。

門から入ってきたのは蒸気自動車だろうか。ハットをかぶった執事風の男――ルカが運転し、隣にはお嬢様然としたツインテールの少女――フェリチータが乗っている。

フェリチータの髪はこの距離でも目を引く赤で、左右の高い位置で結ばれていても腿まで届くほど長い。

「じゃあエリス。また今度、ゆっくりお話しましょうね」

スミレは娘の到着を見届けて、引き着の裾を翻した。

(オーラがただ者じゃないのよ…。さすが、あのパーパの妻よね)

一般人にしてみれば、アルカナ・ファミリア自体――特に大アルカナ所持者――が、ただ者ではないのだが。

フェリチータはというと、幹部達と和やかに自己紹介をしているようだ。

(16歳になって急にパーパから呼び戻されるなんてね…。ま、ファミリーに入ることは最終的には本人が決めたらしいけど)

幹部連中に甘やかされるようなことがなければいいと思いながら、エリスは上司がいるであろう地下に向かった。

一部の人間から錬金部屋と呼ばれているその部屋に入ると、室内にも関わらずサングラスをした男がいた。

「ジョーリィ、お疲れ様」

ジョーリィはフラスコを持ったまま反応を示さないが、人の出入りには気付いているだろう。

「お嬢様が館に着いたわよ。幹部のみんなが出迎えてた」

「…そうか。ところで、ノックをしろと教えたはずだが?」

「いいじゃない、私は。頻繁に出入りしてるんだし」

彼は無言で葉巻を咥え、黒手袋をはめた右手をかざした。

ボッ、と青い炎が薄暗い研究室を一瞬だけ照らし、ジョーリィは煙を燻らす。

(いつ見ても手品みたいで綺麗ね…)

エリスは錬金術師の素養がないらしく、火花すら錬成できたことがない。

「幹部不在の“剣”に配属されたってことは、幹部候補ってことよね。…そんな力があればいいけど」

「そんなに気になるなら、お前も会いに行けばいいだろう」

素直になれない子供のような扱いを受け、エリスはジト目で背中を睨みつけた。

「とりあえず報告に来たんじゃない。最近ジョーリィがますます地下に籠ってるから…」

「当然だ。…時間がないからな」

「焦ったっていい結果は出ないと思うけど…まぁいいわ。止めたって無駄ね」

彼はいつだって詳細を話そうとしないが、いつだってパーパのために動いているということは理解している。

「なんだ?手伝ってくれるのか?」

「研究なら弟子のルカちゃんにお願いしたら?私はただ、もう若くないんだから無理しないでって言ってるだけよ」

ジョーリィはかつて失敗した実験によって体こそ不老だが、スミレやダンテより前からアルカナ・ファミリアに所属しているらしい。

(年齢不詳だし、ミステリアスどころじゃないわね)

ジョーリィは広げていた分厚い本をパタンと閉じた。

「ふ…優しい娘を持って嬉しいよ」

「お世辞を言う元気はあるみたいね♡そのまま執務室で報告書に目を通してくれたら嬉しいんだけど」

可愛いと自覚している笑顔で首を傾げてみせる。

「どうせマトモな報告書を出してきたのは聖杯くらいだろう。幹部長殿ですら、平静を装えていないからな」

「もしそうだとしても、怠けたら示しがつかないでしょ。…ノヴァに嫌味言われるのは私なんだから」

腰に提げているレイピアの柄を、カツカツと爪で叩く。

「嫌味には慣れているだろう?――私は忙しい。報告書は代わりに目を通して回しておけ」

「…わかったわよ。落ち着いたら何か奢ってよね」

エリスはジョーリィに平気で口ごたえできる数少ない人物だが、パーパ最優先のこの男を説得するのは不可能だということはよくわかっている。

「せいぜいお嬢様と仲良くするんだな」

どこか愉しそうな声を聞きながら、エリスは研究室をあとにした。

(ジョーリィまで“お嬢様と仲良く”って言うのね)

エリスが相談役の執務室に向かっていると、前方から歩いてくる2つの人影。

「エリス…」

「久しぶりね、ルカちゃん♡」

ジョーリィと同じ黒髪の青年がスッと横に控えると、黒スーツに着替えたフェリチータと目が合った。

「相談役代理のエリスよ。よろしく♡」

「うん、よろしく」

フェリチータの視線は、握手を交わす手を伝ってエリスの右肩のスティグマータに移っていった。

(なんていうか、体のラインを強調したスーツね…。スカート短すぎない?)

エリスはエリスで、無遠慮に新人の服装を観察する。

「…えっ?スカート、短いかな…?」

「お嬢様?」

フェリチータの反応に、ルカもエリスも首を傾げたが、エリスはすぐに彼女のアルカナ能力を思い出した。

「――もしかして、私の心を読んだの?」

恋人たち【リ・アマンティ】の契約者フェリチータは、相手の心を読むことができるから気をつけろと、ジョーリィに言われていたというのに。

「あ、ごめんなさい。見たくて見たんじゃないの」

「相手の能力を忘れて油断してた私も悪いけど…望んでなくても見えちゃうものなの?」

「…もっと訓練すれば、制御できるようになるはず」

少し俯いてしまったフェリチータの隣で、ルカが何かを思い出したように唸った。

「ん?ということは…お嬢様のスカートの丈が短いと思っていたんですね?!貴女だって十分短いですよ!!」

「私は、キュロットスカートだからいいのよ。変態従者さん♪」

「へ、変態ですって…?!」

普段から“へたれ従者”と言われているルカも、これには流石にショックを受けたようだ。

「ま、短い方が動きやすいものね」

「うん、蹴りやすいから」

「あら、やるじゃない。女を武器にするなんて」

「えっ?」

フェリチータはあまり意味がわからなかったようだが、ルカはわなわなと震えている。

「違います!!それに私だって…もっと露出の少ない格好をしていただきたいですよ!」

「なんだ、違ったの?変態従者の教育かと思ったのに♡」

「そんな教育しませんよッ!?デビトじゃないんですから!」

ルカは困り顔のフェリチータに気付き、わざとらしく咳払いをした。

「エリス。私達は先を急ぎますので」

「館の案内?挨拶も兼ねてるのかしら」

うん、と頷くフェリチータに、エリスはすぐ側のドアを指し示す。

「相談役は執務室にいないわよ。しばらく地下の研究室に籠もるみたい」

「えっ…。わかった、ありがとう」

相談役と聞いて眉を顰めたルカだったが、すぐに柔らかい笑顔でフェリチータを促した。

「食堂に行ってみましょうか。――では、失礼します」

2人の背中を見遣り、エリスは小さく息を吐いた。

(心を読めるなんて、楽しそうな能力ね)

エリスが“相談役執務室”と書かれたドアプレートを裏返すと、“相談役不在/代理エリス在室”と書かれていた。

この部屋を訪れる者にとって、ジョーリィがいるかいないかは大きな違いがあるのだ。…主に精神面で。

ドアをくぐると、相変わらずチェロが存在感を放っている。

(この報告書や相談案件を私の部屋に持っていくのも面倒だし…。しばらくこっちにいるなら、あとで私の執務室もプレート裏返しとかなきゃ)

幹部長代理と“棍棒”の幹部を兼任しているパーチェと違い、エリスの肩書きは相談役代理のみ。

執務室にいなくとも特に影響はないだろうが、この広い館で人捜しをするのはひと苦労だとエリスも知っている。

(せっかくだし、相談役代理の存在意義をアピールしなきゃね)

レガーロ島の悪魔~エピソード0~

エピソード0の方ではノヴァが優しくならないように気をつけてます…!

レガーロ島の悪魔~エピソード0~

アルカナ・ファミリアにオリキャラ(女)を加えた二次小説です。相談役代理/ノヴァ寄り?

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • 恋愛
  • アクション
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-10-27

Derivative work
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