頭脳(著作権フリー)
人間の文明が今よりはるかに高度に発展したある時代に、移植可能、既存の脳と互換性のある機械による人工頭脳が誕生する。それから生体頭脳のデータ化、人工頭脳の生体への移植実験、同時に巻き起こる世界を各地の社会的倫理感の論争をへて、他分野と共同での人工頭脳のネットワーク接続実験、電脳世界の開拓と発展によって、数多の人間の頭脳の電脳化、はたまたすでに死去した人間の頭脳の電脳化も可能になり、さらに時代が進むとついに人間の社会では著作権、所有権さえない、著作権フリーの頭脳が生まれ始めていく。
初めこそそれは、データから作られたものだったが、徐々に生体の複製をして、一人の人間に対し、機械的頭脳と生態的頭脳ふたつが同時に存在したり、アンドロイドに移植したり、はたまた、DNAからすでに亡くなっている人間の頭脳をデータ化するなどといった実験が各地で行われた。
これだけでも、今の時代からすると訳が分からなくなるのだが、今の時代の人間や、その時代の価値観は、未来の社会では失われているので、今の時代の人間が苦しむことなどひとつもない。
そして、さらに進んだ時代の話、もうひとつの話をからめてみると面白い話しになる。その世界で、財団をつくり、初めて著作権フリーの人工頭脳、あるいは偉人の人工頭脳のネット無料公開にふみきった、社会活動家のロザレフ博士という人間がいる、彼の旧知の中であり、彼とともに、アンドロイドたちに既存の人間の頭脳の複製の人工頭脳のアンドロイド筐体への移植実験を行った、エドガー博士は、むしろロザレフ博士よりも強く、特に偉人の脳の複製と復活に関心があった。
エドガー博士は、この世にこれ以上にかしこい人間はいないだろうと言われている人で、全身機械化を終えているものの、実際人工知能や、量子コンピューターなどにも匹敵するほどの知能指数をもっていた。その人はその時点で、人類で最長の寿命をもち、それは1万年とまでいわれているが、憶測にすぎないので詳しい事はだれにもわからないわけではあった、それだけでは巷の人々が畏怖の概念を持ちそうだが、彼はとても優れた人格者であり、そしてすでに滅びたいくつかの旧文明について知る只一人の人物だ、まだ存命のため、その人自身はその人自身の手で自分の脳を複製したりしないし、著作権の切れた偉人ではないが、まあそれはおいておき、生きている偉人ではあるのわけで、彼は面白い事をいっていた。
“偉人のほうが今の社会の人間より優れていたという場合もあるのだろう、そこにそれらの実験の真価はある。実際昔の人ほど、今の利便性に富んだ時代の人間にくらべて毎日頭を使っていたという研究結果もあるくらいだ。だからね、私は時々面白い事を考えるのだよ、もし“時代”を再現しようとおもったなら、その時代の偉人すべてを再現するといい、なぜならそれほど古い知能はすべて著作権が切れているのだから”
そういう彼は、ロザレフ博士の思考に一つの疑問を抱かせた。彼は1万年生きている、彼は機械ではないものの、人工の手立ても加え、遺伝子の改良などを経て、生体の長寿を全うし、不死の様に生きている、そのすさまじい成果もさることながら、彼のその想像力は一体どこからくるものか?
もしや、すでに滅びたとされるいくつもの文明は、すでに偉人たちのクローンが実現してそれゆえに、何度も同じ戦争になり、滅びていったのではないか、という仮説だった。
頭脳(著作権フリー)