眠気の理由

 いつからだろう、私はいつからか人知れず、自分さえ知らず知らず特殊な超能力をもつようになっていた、うまく説明はできないが、徐々に自覚して、初めは半信半疑だったのだ、だが段々とそれは超能力としか言い難いものだと気がついた、私はテレポーテーション能力をもっている、しかもそれは、時間を飛び越える、私はこれをスキップとよぶ。眠たいとき、どうしても眠たいときが人にはある。それは人によってさまざまな理由があると思うが、私の場合は、どうしても眠たいときがあり、それは常にいやな事があるときだ。
 私は、嫌な事は経験したくない、なければいいと思うタイプの人間だ、だから眠たいとき、この眠気は、ある意味それは現実逃避のため、合理的で仕方のないものではないと思っていた、嫌な事は嫌、眠気に罪はないのだ、そうして15年生きて、ずっと耐えていたが、耐え切れない部分もあり、そうしているうちに、それがさらに発展して、その能力は目覚めた、自分はそう解釈している、必然の超能力だ。
 本日もまたしかり、セーラー服のまま授業中、うとうとと眠りにはいる、いつのまにか嫌な授業がスキップされる、嬉しい反面、とまどう。というのも、超能力とはいえ、制御ができるわけではなく、いつもスキップ先が未来かも過去かもわからず、安定しないのだ、そのことに気がついたのは、それはその超能力が芽生えてからすぐあとからある事だった。

「な……なんで?どうして?」

 初めにスキップをしたのは、嫌な授業の最中だった、スキップ先は前日で、前日で同じ教師の同じ担当の数学、嫌な授業が終わったあとだった。私はせかせかした頭の忙しい数学も、数学の先生が威圧的なのも嫌いなのだ。しかし、スキップ、と名付けておいて何だが、前日にまでもどされたら、スキップとはいえない、スキップといっても時間が戻っているじゃないか。心の余裕は生まれるけれど……同じ日を繰り返す。そう、今日も同じようなスキップをしてしまった、だから今日は二回目の昨日だ。誰も気がついてはいないのだけれど。

 眠ると、嫌な事から逃げられる、けれど前日に戻ってしまう、まだこれくらいならよかった、この能力は思ったより不幸で、能力によって引き起こされる普通よりもっと嫌な事もあった。友達と喧嘩をしたとか、トラブルに巻き込まれたとか、雨降りのあと、車道に出来た水たまり、脇を通り過ぎる車に勢いよくどろをかけられるとか。そういう場合は最悪だ、それが苦しいと中途半端に体験したあとでスキップした場合、もう一度その苦しみを体験する事になる。予測できない嫌な事なんてたくさんあるのに、予想できている嫌な事を二回体験するのは、さらに辛さがましてしまう。

 ただ少し、この超能力の条件が私が考えていたものと少し違うのではないかと解釈し始めたのはつい最近のこと、実は、嫌な事ではなく、興味がないと断じてしまうとスキップ(というよりタイムスリップか)がおこるのではないか、ということだ。嫌な時には眠くなる、私は私のくせで確かに嫌な事があるとき眠くなるのだが、それは冒頭授業の件であって、それは親友が教師に訳もなく小突かれたからだった、確かに数学も教師も嫌いだが、要するにそれも友人と共有した思いからだ。ほかの場合、実は眠気というより、むしろ意識が混沌とする、実は私は私自身について余り関心はない。人に言う場合面白話で嫌だ嫌だということはあっても、自分が嫌な思いをすることにさほど興味はない。そうなのだ、私はものやできごとに興味がないとき、私は眠気とは似て非なる、ぼーっとした意識が混沌と状態になる。眠気との違いが分かりづらく、私も初めは勘違いしていた、しかし紛らわしい事だが、厳密にはそういう場合いタイムスリップ・スキップがおこるらしい。

 私は近頃、私に授けられた超能力に新しい名前をなづけてやった。実際初め、能力を勘違いしていたはじめにこそ、これは嫌な事スキップだ、など名前を付けて喜んだが、そのうち、明確には昨日から晴れてその意味付けが消失し、新しく、無関心スキップ、と改名した。実際私自身は嫌ではないが、私の身近な人が嫌な思いをするとき、私にとってそれは嫌なことでだ。それが間接的に、嫌な事スキップ、という命名とその意味は遠くないとはいえ、スキップのとき、私が無関心な出来事のあるときなど、私のほかに私と親しい人がそばにいる事が前提であり、かつ嫌な目にあっている前提があり、今まで見た中では確率的には低いと思う。とにもかくにも、これは明確にノートに記して今までの出来事を確認した結果なのだが、やはり研究の結果、私一人が中心であることが必要で、超能力の再現確率は、私一人が自分の出来事、嫌な事にも、好きな事とも関係なく、ただ単に何かに無関心であるとき、ぼーっとしているときの発生率の方が頻度が多いつまり、初めこそ、私はこれが有能な能力のように書いたのだが、実際は無関心な事があるとスキップしてしまう、暴発する可能性のある無関心スキップなのだ。そこでもう一度この能力を解釈しなおすと、一番困っている事は何か、あるいはメリットにも感じられるのは何か、メリットは同じ日を何度も繰り返せるというやり直しがきく事、悪い事は一方で、それを人と共有できない事だ、これだけが苦痛なのだ。できればその苦痛だけを減らす工夫ができたらいいと考えている。

 だから私は、私自身、私個人の嫌な事に関して、これまでは無関心に関しても人に話すネタにする程度でしか興味がなかったのだが。そもそも私は、あまり興味のある事がすくなく、周りの趣味や楽しい話しに入っていけない事もおおかったので、ついでといっては何なのだが、これから、は変えようとかんがえていて、近頃、興味のないことも少しは楽しみをみつけることにした、そうすれば、私は嫌な日を二度経験することもなければ、ついでにいかに私が自分に関して無関心で、私の関心がないものに関して冷淡なのかを考える事ができる、こうしていれば、この超能力やその使い方もわかり、ついでにきっと私の超能力の短所も長所に変っていくはずなのだ。

眠気の理由

眠気の理由

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-10-25

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