悪花

マチミサキ

その日
地元にある公営文化会館に
(しの) (はじめ)】は
たまたま訪れていた。

(はじめ)
ただ、散歩の途中に立ち寄っただけであったが
此方では秋の休日らしく
その手の催しものが行われていた。

地元の素人達が描いた絵画だの
手芸品だのが
各々に小さなブースを立て
それなりに人も賑わっている

一はトイレに立ち寄っただけの
つもりであったが
それでも
せっかく来たのだから、と
アチコチを少し見て回ることにした。

そして、
二階へと上がり
ちょっとだけ興味深いブースを発見した。

そのブースには
今のところ客はなく
逆にその様子が一の目に留まり易かったのかも
しれない。

看板も何もなく
小さなテーブルと
幾つかの小さな
持ち運びができる程度の
引き出しがついた
年代物の色褪せた箪笥のような古民具

その奥に静かに座っているのは

少女であった。


━━━いらっしゃい、無料ですよ。

雑踏の喧騒のなか
やけに
静かに響くその声に

一は引寄せられる様に
テーブルの手前に置かれた
安っぽいパイプ椅子に座った。

━━━で、何が知りたいのかしら?

少女はそう一におもむろに
問い掛けてきたが
一にしてみれば
何の店さえかさえ解っていない。

「え、…ええと、」

それこそ
何をしているブースなのかが知りたい、と
思ったが
なんとなく
それを口にするのは失礼な気がして
口ごもってしまった。

━━━ああ!こちらは占いですよ。

少女は一の様子を察して
そう答えた。

一はその時、初めて気付いた

少女に見えるが
その口調、雰囲気は子供のものではない、
幼く見えるが
それなりの年齢であるのかもしれない。


一は少し考えて
どうせ無料だし
占いなどというものを受けるのは初めてだ、

さて、何を見てもらおうか、

そう少しだけ考え

「では、私は幸福になれますか?」

そんな事を口にしてしまった。

言った直後に我ながら
馬鹿な事を、と
顔が赤くなるのを感じたが

覆水盆に帰らず

もはや
どうしようもない。

しかし
【一見少女】はなんら笑う事も
馬鹿にする事もなく

一に手の平を診せるように告げた。

一は
ただ言われるままに
両手を差し出すと
少女は手術で医師が使うような
薄い手袋を嵌めて

一の両手を広げると
じっくりと観察していた。

━━━うん、この事でしたか…。

時おり
そんな
独り言を呟きつつ

15分ほどであっただろうか

ふと
一の手を離すと

引き出しから
古びた
それこそ
江戸時代を連想させるような本を取り出し

━━ふんふん

と、1人で納得したような顔を浮かべていた。

その様子に呆気に取られていた一で
あったが
このままでは何時まででも放置されそうだ。

「あの、で、結果は?」

━━ああ、ごめんなさい…貴方のご質問は
《幸福になれるか?》でしたよね。

その少女の言葉に
再び耳が熱くなるのを感じたが
言い出しっぺは一だ。

「はい」

そう出来るだけシンプルに答えた。

━━━何を以て幸福とするかは
貴方次第ではありますが…
一般で言うところの
そういったものを掴む為の
ヒントとチャンスなら
差し上げられます。

普通に生きている生活の中では
まず手に入らないモノですが
これは逆に危険をも呼び込む事になる、
とも言えます。

どうしましょう?


「・・・」

一は押し黙った。

怪しさ全開である。

ネズミ講か悪質な勧誘であろうか。

その一の様子を察した少女が再び口を開く

━━━━私はハッキリ言って
どちらでも良いので決めるのは貴方ですが・・
責任も取れませんし。
そうですね
ではまずサービスで。

「はぁ?」

━━━━━お後ろの

━━春子さん、ですか?
お母様は乗り気みたいですよ。

「え!えぇ!?」

一は驚きを隠せず
思わず立ち上がった。

【篠 春子】

それは
上京前に
田舎に居る頃
ずいぶん前に亡くなった自分の実母の名だ。

こんな場所の
この少女が知る訳もない。

悪花

また後で続きを。

今度こそちゃんと。

お約束は出来ませんが。

悪花

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-10-25

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