火の中の栗を拾ってくれませんか?
「猫さん、猫さん、寒いでしょ」
通りかかった猫を猿は手招きで呼び寄せる。薪が乾いた音を立てながら猿の目の前で燃えていた。さらに猿が言う。
「こちらに来て火にあたりなさい」
「手招きは猫の特権にゃん」
猫は不満そうに近づいてきて猿の横に座った。構わず猿は、
「猫さん、猫さん、栗を焼いているよ」
と燃えている薪を指差す。
「ホクホクで温まるよ」
猫が熱がるように火の中を覗くと大粒の栗が五粒くらい転がっている。
「猿さんは食べないにゃん?」
そう言うと猫は手を舐め始めた。
「猫さんと一緒に食べたくて待ってたんだよ。僕が取ってあげよう・・・熱っ」
猿は火の中に手を伸ばそうとして、大袈裟に叫んだのだった。
「大丈夫にゃん?」
猫の心配をよそに尻を描きながら猿が言う。
「火傷で尻が真っ赤っかだ」
「いや、手で取ろうとして尻は火傷しないにゃん・・・というより元から真っ赤にゃん、猿さんの尻」
「そうだった」
嬉しそうに頭と尻を掻く猿だった。呆れながら猫は燃えている薪へと視線を戻した。
「猿さん、栗が焦げ焦げだにゃん!」
忘れてたのか、つられて猿も火の中を覗く。
「猫さん、猫さん、爪で、君の爪で掻き出すんだ」
勢いよく空を切る猿の手が必死だ。
「焦げたら食べられないよ。今がホクホクで食べ頃だよ。早く取るんだ!」
騒ぐ猿がその場でとび跳ね始めた。
「猫さん、猫さんの振りは素早いから大丈夫、火傷しないよ。ああ、熱々でホクホクで甘そうだぁ」
喋りきった猿が黒く焦げ出した栗と猫を交互に見ている。
「いい考えがあるにゃん」
背中を向けた猫が勢いよく地面の土を火にかけ始めた。頭を抱えた猿が叫ぶ。
「ああっ!猫さん、何するの!」
「こうやって火を消すにゃん」
そう答えた猫はさらに勢いよく土を飛ばすのだった。
「そんな・・・・・・冷めちゃうよ。せっかくの熱々の栗が」
崩れるように地面に手をついた猿。そんな姿に構いなく猫が呟いた。
「僕は猫舌だからにゃん」
火の中の栗を拾ってくれませんか?