【土山】smokingroom

しずよ

二次創作(腐)です。
沖田くん視点。あやしい関係なんじゃないかと思った瞬間の、土方と山崎の話。土山です。ほんのり沖神もにおわせています。
約6年前にサイトに掲載していました。

 付き合ってるんだと思っていた。なので、どうして山崎がひっそりと暗い喫煙室にひとりでいるのか気になった。
 寂しいんだったら電話でもすりゃいいのに。芸能リポーターみたいに他人の色恋沙汰を根掘り葉掘り聞く趣味は持ち合わせちゃいないが、俺の確信にそぐわない行動を山崎がしていたので、つい確かめたくなった。



 月さえ見えない空だった。そこから落ちてくる一粒が頬に当たる。雨だ。次第にそれが絶え間なく降り注ぐようになったので、俺は丑の刻参りを止めて屯所の中へ入った。たたきには脱ぎ捨てた草履が一足、くたびれたように転がっている。こんな幼児みたいな散らかし方は、普段の屯所では見られない。法度に書かれちゃいないが、土方の野郎がうるさいからだ。なので玄関はいつも整然としている。
 誰かの気が緩んだのは、今現在、野郎が出張でいないからだろう。仕舞ってやる気はさらさらない。俺も適当に脱いで上がる。
 廊下を進むと、角の喫煙室の戸が中途半端に開いていることに気が付く。明かりはもれていないので、暇をつぶしている隊士がいる訳でもなさそうだ。それなのに深夜ニ時過ぎに、戸が開け放しになってるのはおかしい。煙草の自販機は節電だなんだと言って、深夜にはコンセントは抜いてある。だから室内は暗い。そっとのぞきこむと、暗がりの中イスに座っている人影が、闇に慣れた俺の目に映った。
「おいザキ、こんなとこで寝てんのか?」
 座っていたのは普段の袴姿の山崎だった。声をかけると、目を開けてはっとした表情になる。
「お、沖田隊長、……お疲れ様です?」
「なんだよその疑問形」
「ああ、すみません。隊長は仕事終わった後じゃねえし、と思ったら変になっちまいました」
 俺が白装束なのを認めながら、ヘラっと笑う。おそらくこいつは帰って間もないんだろう。張り込み帰りか尾行か地取りか。ということは、さっきの脱ぎ捨てられた草履は山崎のものか。
 少しやつれて見える。疲れてんなら早く部屋に戻って寝たらいいのに。
「お前なんでここで居眠りしてんでィ」
 聞きながら隣に腰掛ける。喫煙者ならこの場面で煙草を取り出すんだろうが、今この室内にいるのはどちらも非喫煙者なのが似合わない。
「なんでって、いやあ、部屋にたどり着く前に疲れちまって」
 眉を寄せて、情けない表情を作る。
「ふーん」
 ニヤリと笑う。
「な、なんで笑うんですか」
「監察ならもうちょっと上手い言い訳用意しときなせェ」
「え、上手いも下手もな」
「俺ァてっきり吸い殻に引き寄せられて、ここに来たんだと思ったぜィ」
 そう言うと、山崎は視線を彷徨わせる。分かりやすい奴だなァ。
「電話とかしねぇのか?」と続けて問うと、しばしの後に「……誰に?」と山崎は返した。なぜか苦い表情だ。
「土方さん。報告以外で」
「しませんよ!」
 今度は間髪入れずに答える。
「なんで。寂しいんじゃねえのか?」
「そんなことある訳ないじゃないですか!」
 やけにむきになるから、返って図星だと丸分かりなんだけど。そんな意味の視線を山崎に向けた。自分の態度が過剰だったと気が付いたようで、山崎は自販機の方に顔をそらす。恥ずかしそうにしか見えねえんだけど。
「ふーん。ま、どっちでもいいけど。大人しく主の帰り待って、健気なもんだなァ」
 そうつぶやくと、勢いよく振り返って「だからそうじゃないですって!」と強く否定した。暗くて良く分からねえが、絶対顔が赤くなってると思う。山崎の反応がいちいちおかしくてたまらない。
「まぁ、気が付いたのが俺で良かっただろ?」
 間が空く。どう答えたらいいんだろうか、と考えているんだろうけど。待っていると、山崎はやがてため息を吐いた。
「良かったのは隊長だけでしょうよ……」
 思惑通りの展開になって楽しめたので、親切心で種明かしをしてやることにした。



 ある日の朝礼の後、近藤さんの部屋で二度寝をしていた俺の耳に、怒鳴り声が壁隔てた隣から届いた。土方の野郎が誰かとやりあってるらしい。ちっ、起き抜けに嫌な声聞いちまった。うんざりしながらアイマスクを外す。その日は朝まで降り続いた雨で湿度が高く、閉め切った室内は蒸し暑かった。頭と背中に薄っすら汗をかいていたので、しょうがなく障子を開ける。風が通ると同時に、野郎の声も直接聞こえてきた。隣も同じように縁側の障子が開けられているんだろう。気分のいいもんじゃない。
 言い争ってる相手は、山崎だった。聞くともなしに聞く。明日予定している討ち入りの最終確認をしているらしい。今回に限らず、山崎はたまに野郎の指示に口答えしている時がある。挙句、殴られる山崎の態度に、他の隊士は馬鹿だ向こう見ずだと呆れる者が大半だ。
 確かに馬鹿だけど、そういうことじゃねえだろう。
 溝がない、と感じた。誰かに本心をぶつけて、それでも関係が壊れない自信を持つのは容易じゃない。その時のこいつらの応酬は、喧嘩に聞こえなかった。理解したいと、言ってるようにしか聞こえねえ。それが俺にはとてつもなく恥ずかしかった。
 何か虫唾が走るような甘い台詞をささやいていたとか、抱きしめ合っていたとか、そんな分かりやすいのじゃなくても「ああ、こいつら何かおかしい」ってばれる時はばれるんもんだなァ、と納得しちまった。
 あーあ、嫌なもん聞いちまったなァ。胸やけがするだろうが、全く。
 どうにも喉が乾いてきたので、食堂へ向かうべく俺はわざと足音を大きくして、野郎の部屋の前を横切った。横目でちらりと副長室を見る。山崎も物好きだよなァ、とは思ったけれど、ガキじゃねえんだし勝手にすればいいと思った。
「なあ、ザキ。俺ァ昔っから不思議に思ってたんだけどさァ、目に見えない、匂いもしないし触れもしない他人の本心が分かっちまう時が、どうしてあるんだろうなァ」
 意外な質問だったらしく、山崎はこちらをまっすぐ見据え、二度瞬きをする。それは……、と口を開きかけたが、つぐんでしまう。俺にしたって本当に言いたいことはこんな上っ面じゃないので、もうひとつ畳み掛ける。回りくどいのは趣味じゃない。
「お前らの喧嘩は、いちゃついてるようにしか聞こえねェっつってんの」
 すると山崎は思い切りうなだれて、頭を抱え、うう、と唸る。
「沖田さんの鋭いところ、苦手です……」
 絞り出すような声。完全に打ちひしがれている。
「俺だって別に知りたくもなかったんだけどなァ」
 残念そうにため息をひとつ吐く。俺の好奇心から知り得たんじゃないのが分かったのか、いくぶん安堵した山崎がようやく頭を上げた。
「まぁ、知りたくないことに限って、分かっちゃったりしますよねぇ」
 子どもみたいに落ち着きのない指遊びをしながら山崎が答える。お前が知りたくなくても知ってしまったもんって何なんだ。そこにも興味を引かれたので、日を改めてじっくり問い詰めようと決めた。
「でも沖田さん。そういう機微に気付くってことは、沖田さん自身が似たような心境だからじゃないんですか?」
 まさかの切り返しに、今度はこっちが狼狽する。俺を見た山崎の表情が、息を吹き返したように生き生きとしてきてイラッとした。これ以上突っ込まれたくなかったので、山崎の顔にアイアンクローを仕掛ける。
「ちょ、痛い!止めて!」
 俺の手のひらの向こうから、山崎のくぐもった悲鳴が漏れた。しかし冷静に考えてみると、攻撃しかけたこと自体が、恋を認めているようなもんじゃねえか。くそ、やっぱり他のやつと違って山崎はやりにくい。技を解いて腰を上げた。
「きっと、嬉しいと思いますよ」
 喫煙室のドアをすり抜け間際に、背中にかけられた言葉。なんだよ、それ。主語がなかったが、誰の気持ちを代弁したかったのかすぐに分かった。
 山崎の言葉を反芻しながら廊下を進む。そう言うもんかねェ。知らず知らずに口からもれた。同時に、姉が喜んでいる場面が容易に想像できた。



 翌日、風呂から上がって部屋に戻ったところで、山崎に借りていたDVDを返さなきゃいけなかったと思い出した。ここまで取りに来い、とメールを送ったすぐ後に、どたどたと廊下を走る足音が聞こえた。誰かと思ったら隊服を着た山崎だった。来るの早えよ。よく見ると、髪が半分濡れている。
「あれ、お前ももう寝るんじゃないのか?」
「はい、そのはずだったんですけどねぇ」
 苦笑いをして、面倒くさいと言いたげな雰囲気を作る。しかし妙に浮かれてるの分かるんだけど。理由は知りたいとも思わなかったので、さっさとDVDを渡した。
 妙に蒸し暑い夜で寝つきが悪かった。どうせ眠れないならと、外に出て黒魔術の本を見ながら魔方陣を書いてみる。深夜ニ時頃になると町の灯りも減り、見える星が増える。それでも武州に比べたらずいぶん少ないのが物足りない。里心が付きそうなところで、流れる星が目に入った。と思ったら人工衛星だった。ロマンがねえよなァ。
 玄関に入ると、たたきにハーフブーツがニ人分、折り重なるように脱ぎ捨てられていた。山崎が寝間着からわざわざ隊服に着替えていた緊急の理由は、やっぱり土方の野郎だったか。少しうんざりする。しかも靴の脱ぎ散らかしなんてやらかして、これじゃ示しがつかねえだろう。しかも散らかってるだけじゃなくて、靴同士いちゃついてるようにしか見えねえんだけど。
「……」
 一日も早く副長は交代した方が組のためだな、と思って俺は馬鹿共の靴を蹴散らして上がった。
〈了〉

【土山】smokingroom

【土山】smokingroom

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-10-24

Derivative work
二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

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