B学

 B級映画の何々に学ぶうんたらという本を手に入れた。くわしくいえば、B級映画に学ぶ脇役の在り方、というような名前だったが、詳しい事は忘れた。この本が届くのを一週間も、昨日の夜までまちわびていたのだ。これは、近頃流行していて、自分の通う大学では都市伝説的にこうささやかれている、恋愛成就の本と。そもそも大手ネットショッピングの売れ筋商品なので、僕もそれにあやかり、うわさにもあやかりたいと思ったのだ。

 その日、前日まで本を読みこんでいた、その本はわき役がいかに主役の事を考えて、引き立てるかを説くものだった。それが現実世界で、主役よりも随分すぐれた人間であるかを説いていた。僕はそれに対していつも自分主体の考え方をする事は恥ずかしいとおもっていた。しかしその日ほど日頃の自分が善であるか悪であるかについてまよったことはない、電車で大学までいく間、眠気がひどく、目の前に中学生らしき子供がたっていた、席を譲るか、譲らないか、いつもなら譲るところだが。そう迷っていると、まさか、というタイミングで僕の好きな女子が対面の席に座っていることにきがついた。自分は彼女の前でいい思いをしようとして、ふと迷った、譲るべきか、譲らないべきか。

 しかし、昨日読んだその本の影響か、何々さんの前だから、というのがいやで、やはり動きづらかった、ああ、ほとんどの人間がこうなのだと思う、映画を見ているときの集中力のような、すぐれた知識も機転も、すぐに持つことはできない、自分はB級でいこう、たまに人助けができなくてもかまわない。そもそもいつものように彼女が見ている前でだけ善人でいる事が嫌になったのかもしれない、あれはいい本だった。

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  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-10-24

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