リハビリする呪術師。
朝早くからよくとおる声、アパートの自室で目を覚ますと、上体をそって今度は前におろして次は腰をまげて、とラジオ体操のような声が聞こえる、隣室には魔術師が住むというが、いったいなんで朝から体操なんてものをしているのか、いつものように、くせでついつい聞き耳を立ててみる事にした。
「いやまったく、困ったものだ。呪術師のしごともなあ、大変だ。人に頼まれて人を呪うのもらくではないよ、私はとてもかしこいので呪術の代償をしはらうことはないが、失敗したときの依頼者の姿といえばむごたらしいものだ、けがをしたりやけどをしたり、あざを作ったり、思いがつよいほど、そんな結果になる。つよければつよいほど依頼者も、狙われた人間も、両方が不幸になる、世の中にこんな恐ろしい魔法はないねえ」
それを聞いてふと思いついた。つい最近、恋人をつくるおまじだいだか何だかを試した同じクラスの平井君、それは人気のファッション雑誌のあるコーナーにのっていて、平井君はそれを床屋で見たといっていたけど、この前の休み時間、たしか三時限目のおわった直後、彼はこんなことを僕に愚痴っていた。
「最近、母親が自分にやけに過保護なんだ、そうかといえば、いつもより冷淡な感じもあるし、まさか呪術は関係ないよな、僕は○○さんを好きで、それをおまじないで試した後、君の隣に住んでいる、あの呪術師さんに依頼したのに、君のいう評判の呪術師さん、間違ってたんじゃないか、別の人に呪いをかけたんじゃ?」
平井君、君はやっぱり間違っていたよ。たしかに君のいうように、多分魔術や魔法はほかの人に飛び火することがあるらしい、けれど○○さんを、まずは雑誌のまじないで、それで失敗したからと僕の隣の家の魔術師に頼んでまでものにしようとして、失敗した、そして君に代償はなかった、君の呪いの効果とその原点の思いは、その程度だということだよ、諦めよう。
リハビリする呪術師。