コルチカム

やない ふじ

 キンモクセイの香りに気付けなかったと悔やむ暇はない、止むな、止まるな、
 いつからこれほどつまらなくなった? 
 問いかけ、返る答えを期待するよりも。目を逸らせようとする大声に惑わされるな、真実を奪う反復に化かされるな。
 音が満ち満ちている、雑音、言葉の成り損ないが頭の中を埋め尽くしている、呼吸音すら邪魔なんだ、耳鳴りよいなくなれ早く、
 混濁の中に見つけられるのか、呪縛、なけなしの道徳すらも捨て去れとおちてしまえよと囁く響きにかかずらうな、音を消して、無音が夢の中でも聞こえている、あなたには華々しい浮き沈みがお似合いだったのにお生憎様ですね、人間の身体は案外重いんだ。
 座標が定まっていなければ飛ばされる程度の重さ、たましいの重さがあってたまるか。という願望、重力を手放したらどこまで行けるのだろうか元素の一部となって真空をどこまでも、引き留められても良いと思えるような思い出は全て置いてきたのであと一歩、あと一歩の覚悟、は甘えだから飛び出すにも居残るにも中途半端だ今日も、成層圏の手前で目を瞑っている。
 思い出だ、思い出せば寂しさが分かるだろうか、人間らしくあろうという気力、と努力、ぽつぽつ自ら千切った糸の切れ端の、呼び名が絆だったらまだましだった。生命線予防線、保険を掛けられる利口さがあれば良かったのになぁ、寂しさの中には悲しさがあるものだよ、と笑うのなら割って見せろよその腹をさ。心臓が勝手に愁色を名乗り始めた理由は散々に燦々たるものなんだろう、分かるためだけに繋ぎ留めたいとする感情は畢竟どうにもならない我儘だ。
 自分で捨てたものを拾いもしないくせに、十の指を使うかどうかだけなのに、思い出す、身体が思い出している、もうさようならだ、ただのさようならじゃない、さいしょでさいごのお別れを告げよう。
 子供らしく子供っぽく、大人として振る舞った数週間。の年相応、の意味さえ知らないで伸び縮みした時間を眠らせる、静かにしたいからあらゆるもの、好きも嫌いもなかったことにしようそれで良いか良いだろう、
 求めていた水平を手に入れたら次はどこへ行こうどこへでも行けるからどこにも行けなくなってしまった、今更どこへ飛べるだろうか。夢のあとさき、夢を見れば眠れなくなる、左側が欠けた満月が言う、音が増す前に、今はもう、

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  • 自由詩
  • 掌編
  • 青年向け
更新日
登録日
2018-10-24

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