ヤドカリ星人

 ホシ街の路地で一人の小学生の女の子が何事かをちいさく、ぶつぶつつとぶやいた、二人組の小学生で、隣を歩く男の子は、こんなふうにつぶやきに返事した。
「~ちゃん本当に宇宙人がすきだね、いつまでもそんなものを信じていてどうするんだ」
「宇宙人はいるわよ」
 あきらめたように反抗する少女、背後から電柱のそば、人影が覗いていたことに少女はきがつかなかった。それどころかスキップをはじめて、横断歩道をわたりきった。溜息をしてもう一人の少年があとに続く。
「宇宙人さんいないかなー」
 少女も幼馴染もその時まで知る由もなかった。その人影のせいで、この少女の身の回りに、この後、恐ろしい事態がまっていようとは。

 数週間後、ある図書館の地下に巨大なホールがあって、そこにスーツ姿の10人ほどの男女が集結していた。ホワイトボードの前に一人の男性がたち、そばに鉄パイプの椅子があった、その前に長机と椅子とに同じスーツの姿の人物が並んで腰を掛けている、彼等はそれぞれ手元に資料があり、それをのぞいていた。
「今日の議題は、いうまでもない、ホシ街に新しく不法に侵入してきた宇宙人の話だ、ヤドカリ星人、洗脳系の能力者だ、まずは一通り説明したとおりだ、具体的に質問はあるか?」
「具体的な弊害は何がありますか?特定の手段は?」
「洗脳の技術らしい、人間の住む家にいつのまにかすみつき、自分と似た思考に変えてしまう、つまり最近ひっこしてきたもの、いつのまにか一緒の家に住んでいて、それまでの記録や記憶がないのに、家に住み着いているような人間、そういう人物がヤドカリ星人の可能性がある」


 冒頭の少女とヤドカリ星人の出会いは、そのころにはすでに起こっていた、さかのぼること数日前。出会いより前から、もともと冒頭の少女——リタ―—はこの惑星の外に、宇宙人が存在することを日ごろから信じているような、変わった少女だった。リタはすぐさま、その異形の人物が宇宙人だと気がついたのだ、それは彼女が眠りにかかっているころ、窓の外にふたつの点が光っているのがみえた、それは、初め星か何かだとおもったのだったが……。
「あなた、だあれ?」
 やがて、リタの無警戒な態度が宇宙人を安心させ、宇宙人は簡単にその家に入り込んだ、あとは洗脳を待つだけだ。しかし宇宙人は、まずこちらを探っているようだった。リタは初めてかれを認識したとき、暗闇の中で人の輪郭だけがみえ、そして目が光っていたので宇宙人だとすぐにさとった。
「ホシノキオク、ワレワレの、ホシノキオクをアツメニキタ、しかし、宇宙船がコショウしてしまい、私はシバラク地球を満喫する」
「それを見つけたら帰るの?」
「アア、だからそれまで」
 その瞬間、窓の外と内側、少女と宇宙人の間に大きな光が現れて、少女は意識を失った。


 一方先程地下に集結していたのは、ホシノダンという秘密結社だった。前回の終結。あれからまた三日後にその地下に集結していた。大きな図書館の地下にその秘密結社のための施設があり、コンピューターや資料室がアリの巣のようにならんでいる。これらすべて、市や警察には知らされていて、秘密裏に許可がおりている。そもそもこの地下も、もともとはこの国の有名な貴族の持ち物で、彼もまたオカルト好きで収集家だった。そのため昔からこの地下には未確認生物や超常現象の膨大な記録が世界から集まる、そのせいかこの街自体が奇怪な事件に遭遇しやすいのだ。その中で、秘密結社のこの区画の現リーダー、30代ほどの男性レイが、若い女性職員ネイに話しかけられた、ネイは手元の資料をもって、件のヤドカリ星人とつながる話をもちかけていた。
「レイ、面白い少女がいます、最近奇妙な言動をとると学校で噂になっているそうです。最近、兄という人がきたといいますがそんな話は幼馴染ですらきいたことがなかったと、この兄は怪しいですね」
「名前は?」
「ノナガノリタ」
「その少女の特徴は?」
「無類の超常現象好きです、しかし、その趣味についてつねに周りからばかにされていたのでいじけているようです、それも幼稚園のころにこっぴどいいじめのような目に遭ったらしく、あるいみでトラウマももっているといえます」
「なるほど、それは恐ろしいことだ、心の弱さにつけいる洗脳系宇宙人にはもってこいの素材だな、その子を調査しろ」

 しばらく時間がたち、そこから3キロ離れたところに、レイの車がついた、数時間がたつと、大きなお屋敷の中、暖炉のそばで老婆と、先ほどリーダー、レイとよばれていたスーツの男性がコーヒーをのんで団欒のときをすごしている。
「一度目は侵略のためにきた、二度目は調査のため、三度目は予言のためにきていた。かれらはヤドカリ星人、本当に過去にきていたのか、ばあちゃん、父さんの話は本当だったのか、ひとつ父さんの部屋からメモをみつけたよ、今回の宇宙人にそっくりだ」
「お前も父から聞いておるじゃろ、子どもの頃からこの街には不思議だらけだ、うんざりするほどね」
「しかし、まさか父の話が本当だとは、だとすると、今回もまた調査にきていたのか……」
「きっと宇宙船が事故にでもあったのじゃろう、おおかたのう……」


 そのころ少女は、兄、として洗脳をしているヤドカリ星人と、深夜向かい合っていた、台所で独り言、そのさきには、甲殻類のようなそれでいて人間のような形をしたものがたちつくして、少女をみていた、それこそがヤドカリ星人だ。少女の眼は、目線はまえをみているものの、その目は光をうしなっていた。
「お兄ちゃん……は、何かを集めている、お兄ちゃん、は、宇宙人……星の記憶、みっつの残骸、おいてけぼり」
「ソウダ、ワレワレは、何度もここへきて、記憶の破片を、この星に、おいている、ソレを、回収スル」


 翌朝、少女の姿を自宅からつけている人影があった、それは宇宙人とは違い、例の秘密結社のスーツの女性、ネイだった、彼女は昼までずっと校内に許可を得て中学生の様子をみまもっていたが、中学校生活、リタの様子を誰もが不思議に思わない。
「これはおかしい……」
 本来、宇宙人が同居しているとあればもっと騒ぎになる可能性もある、それに一番おかしかったのは今朝のことだった、玄関口に、明らかに人外のもの——カニやエビのような姿の——人間がいたのに、迎えに来た向いの、彼女リタの幼馴染らしき少年は、その姿をみて、なにも驚かなかった、それどころか、むしろ自然に接していた、それは明らかに報告と違っていた。少年は宇宙人に
「お兄さん、おはようございます」
 と声をかけた。幼馴染が違和感を持っているという情報さえ、すでに古くなっている。すぐにスマートフォンで電話をかけた。
「ネイです、はい……しばらく観察していましたが、周辺人物への洗脳の程度が……はい、はいでは夕方落ちあいましょう」

「すみません、警察のものです」
それからレイと合流。嘘をいって、リタの家に侵入したのは夕方。警察と名乗って中に入れてもらった、だが、徐々に自分たちの正体をあかしていく……あいては徐々に怪訝な顔になっていった。
「記憶?だからいったではないですか、一度目は侵略、二度目は調査、三度目は予言、私ちゃんとデータを渡しました、この家の兄のメモです、不可解なメモです」
「……すまない、見落としていたようだ」
 家の廊下をいくとき、二人の職員、レイとネイは話をしていた。どうやらレイには、今回の宇宙人の話にどこか心当たりがあるようだった。
 
 母親はヒステリーをおこしていた。
 二人はいやいやながら家へあげたリタの母親に、なんとか自分たちの話をきいてもらおうと説得をこころみた。
「そんなバカな事」
「これは市長のサインだ、今回の調査には市長も警察もかかわっている、なんならどちらかに、両方に電話をしてもらってもかまわない」
 ネイが咳払いををした、こんどはネイが話しをする。
「ともかく、夕方、我々と一緒にきてください、それですべてはっきりします、さっきいったとおり、兄のほう、あれは、あなたのお子さんではありません、あなたは騙されている、第一我々のいうとおり写真はなかったではないですか」
「それは……」
 そうなのだ、二人が声をあらげるのにはわけがあって、彼の、リタの兄といわれる人間には、家族のアルバムなどから一つの写真もみつからなかった、しかし母は、洗脳の影響をうけ、いまだに宇宙人の存在を信じてはいないようだった。やがて話がつき、外へ出ると、幼馴染の少年が玄関の入口でたちつくしていた。
「……」
「君は」
「あの、リタの幼馴染です、あなた方は……メンインブラック!?」
「君もみるか?」
 少年は顔を伏せていた。遠慮なく、といった風にレイは少年の肩をたたいた。


 夕方の小さな森の中、ダダダダと足音、走り去るのは宇宙人らしきいびつな形の人影だ。追いかけるのはリーダーのレイ、段々と上へのぼっていく、それは小山の中だった。その快速が、ついに山の頂上へとせまる、轟音で皆が皆上を見上げた、警察と両親、そしてリタの幼馴染が見守るなか、夕方、ヘリコプターのライトが山の稜線を照らしだしている。レイが最初に声をあげた。
「手を挙げろ」
「うっうっ」
コート姿のレイ上からかぶさるようにするとあっけなくつかまる宇宙人。よくみると傍には、例の少女リタがいた。彼は少女をひきつれてはしっていた。
「やめて!!お兄ちゃんを」
「ダイジョウブ、私がホウリツを犯した、ニンゲンは悪さをしない、ドウホウからキイタ」
 ライトがあたる、宇宙人の姿がみえるとレイ、リーダーは驚いた、その体、まさしく甲殻類の、カニやエビに酷似していた。
(これがヤドカリ星人……)ついに足はおいつき、ヤドカリ星人の真正面、二メートルほど前、学校近くの小山の頂上にて、宇宙人と秘密結社のリーダーとが対峙した。
「そこの宇宙人、少女の洗脳をとけ、話しはそれからだ」
 交渉は30分におよんだ、宇宙人の想定では、彼が洗脳をとく行為は自身の安全を犯しかねない、だからそれは交渉によってレイが緊張をといた、彼は腰にかまえていた拳銃を放りだした、洗脳系ときいていたので、彼等は特殊な装備ももっている、秘密結社のほうに危険はなかった。

 しばらくして空のヘリコプターに無線がはいった、ザザ……という音のあとに
「こちらリーダー、宇宙人を確保した、彼は洗脳をといた」
 それからしばらくして、唐突に少女らしき叫び声が響く。
「きゃーー、宇宙人、宇宙人!!!」
 無線からヘリに連絡が入った、ヘリからみていた別の構成員は、電話口で叫んでいる少女の様子を心配した。
「ああ、少女か、ひどく興奮している……」
 レイgzいうご、構成員もうなずく、そして考える(無理もない、自分の兄だと思っていた人間が、宇宙人だったなんて、ショックもでかいだろう)
「宇宙人に遭えたって喜んでるよ」
「え?」 
 それからしばらくして、先に宇宙人がヘリにのせられていった。少女のもとには、警察や母親がかけつけて、少女は母親にとびついた。幼馴染もかけつけてきて、少女を心配そうにみていた、時刻は6時を迎えていた。
「宇宙人は本当にいたんだ」
 と幼馴染がつぶやく、それに呼応するように、レイは話をした。
「ある男の話だが、昔、子どもの頃、いつからか家に居候していた人がいた、そのころ、親戚の人間ということで男もその通りだとおもっていて、長い間周りの人間が異変に気付かないのでおかしいとおもっていたが、彼はほかの人間と全く違うところがあった、それは食事を、まったくたべなかったことだ、それがおかしいと気がついたころにはそいつはいなくなっていて、周りの人間もそれを覚えていなかった、恥ずかしがるな今日見たものは、きっと夢と笑われるが、信じてくれる人間もいるさ」
 やがて秘密結社が立ち去ろうとする、警察に合図をするとすべてを任せろという風に警察は敬礼をした。そこで少女は分れを察して、メンインブラックに向けて質問をした。
「宇宙人はどうなるの?」
「適切に対処するさ、気にするな、おれたちメイインブラックにまかせろ」
「本当の名前は?」
「ホシノダン、この街の超常現象を調査する秘密結社だ、ホシノダンは地下にいる」

 それから数日後。
「おまえをきにいったらしい」
 レイは宇宙人の宇宙船が修理されるまで彼の相手をまかされた。彼というより、彼女だったのだが……牢屋の前、ときたま顔を出すように上のものにいわれた。今日も顔を出す、すると彼女はぴょんぴょんと牢屋の中ではねていた。レイは呆然として思う。
(眼がハートになっている、それにしてもまんま甲殻類、この区画に配属されてからはや半年、俺は父やあの子のように、宇宙人をすぐに好きになることはできそうにないな)

ヤドカリ星人

ヤドカリ星人

  • 小説
  • 短編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-10-22

Copyrighted
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