求めていた俺 sequel
第四部 「覚醒のズメ子編」
二十一話 疫病神・三枝一真
午前3:00時の聖川東学園二階では、“氷結”の能力者馬場コウスケが桐生達のいる四階に上がる方法を探っていた。
「やはり駄目か・・」
闇雲に階段を上っても、無限ループを繰り返すだけで四階には繋がらず、同じ景色が広がるばかりだ。やはり“ズメ子” が校舎の空間になんらかの影響を及ぼしているせいだろう。
「(しかし仮に、この作用が本当にズメ子に起因するものだとしたら、ヤツは俺たちをこの校舎の中から外へ出させないつもりなのか?)」
するとコウスケはふと、先程道中で手に入れた“三枝一真“という生徒の手帳の存在を思い出し、ポケットからこれを取り出してみる。
「そういえばさっきこの手帳を拾ったけど・・・ん?」
コウスケは、三枝一真の生徒手帳をめくるとページの間になにか一枚の紙切れのようなものが挟まれているのを発見した。ある本のページの一部をそのまま切り取ったように見える。
「こ、これは・・・?」
粗末な紙切れに書かれていた内容を見て思わずコウスケの両眉が湾曲して盛り上がった。
校舎の四階マルチメディア室には、サファイの術中にまんまと嵌り、室内に閉じ込められたズメ子がいた。
「ハッハッハッハッハッ・・・」
“怪物”ズメ子は突進をひとまず諦め、江原の秘密道具によって固定された扉をただまじまじと見つめていた。しかし見つめていたのは目の前の扉だけではなかった。
その能面の奥に隠された、“少年“ の脳裏には、もっと本質的に異なった映像が映し出されていた。
それは、“少年” の記憶であった。
※ ※ ※
一年前の5月ごろ、聖川東学園1年3組で。
教室の端っこで静かに本を読んでいる1人の男子生徒の机の周りを約8人の男女が包囲していた。 その後ろには数名ほど野次馬が集っていた。
『よう、三枝クーン。お前の父ちゃんアル中で母ちゃんに暴力振るってんだってなぁ!!』
8人の中のリーダー格の少年が三枝の読書の邪魔をするようにからかってきた。
『父は・・・酒に酔った勢いで母を殺して今は服役中だよ。学費は僕の兄が賄ってくれてるんだ』
三枝は静かに返答した。
『学校こないでくんない?ウチらにも不幸が移るんだけど』
ヘアピンでミニスカの女子生徒が自分の髪をいじりながら三枝の机の脚を軽く蹴っ飛ばした。
『まぁまぁ、そこまで言うことないじゃないか歩美チャン。いくら三枝クンが”疫病神“でも可哀想だろ〜う? プククク・・』
さっき最初にからかった少年がチラリと三枝と目を合わせてはそっぽを向いてニヤニヤしている。
三枝一真は自身の父親が不祥事を起こして以来、”疫病神“というあだ名をつけられ、クラスメイトからいじめられていた。クラスメイトたちはみな、自分の身の回りに起きた不幸な出来事を全て三枝のせいにして責任を全て彼になすりつけた。中には、ただただストレス発散目的で何らかの口実を付けて三枝をいじめていたやつらもいた。
『僕はこれで失礼するよ』
ガタッ
三枝はこの胸糞悪い空気からいち早く脱するために席を立った。
後ろからは「お、まーた逃げんのかぁ」「だっさぁ〜い」などと男女達の野次が飛んでくるが、三枝はあえて気にせず教室を去った。
(僕を受け入れてくれる者はもう現実世界にはいない。本だけが唯一の拠り所だ。)
三枝は自らを受け入れてくれない現実から逃避するために図書館で本を読むことが頻繁にあった。
ある日、三枝は図書館にて“ある本”に出会う。この出来事がのちに三枝の人生を一転させる遠因となる。
『やけに目立つ本だな・・。』
その本は、怪異現象のコーナーにある一際目立った黒塗りの分厚い本だった。
三枝一真は興味本位で黒い本を手に取り、貸し出しカウンターに向かった。
三枝は早速本を家に持ち帰り、その日は自室に篭って血眼になりながら本を読み漁った。
『日本妖怪大全集・・・能面をつけた怪物・・呪いの力・・・』
三枝は新たに知ってしまった。自らが怪物に生まれ変わる方法を。
『”呪怨の面“・・か。この力さえあれば、僕を馬鹿にしたあいつらを見返すことができる・・』
同時に三枝は確信していた。ただでさえ闇を抱えた自分自身が、さらなる闇の深淵へと堕ちていく運命を。
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