心の広い電脳空間
サイバースペースに夕日が沈む。一人の老婆が困っていた、通りすがりの青年が声をかける。
「おこまりですか」
それは久しぶりの光景だった。電脳空間でさえ、人々は余裕もなく娯楽に没頭していた、ゲームセンターや、イベント、カラオケ、それぞれがそれぞれ個人的な趣味を全うするだけの空間。知り合いでなければ何があろうと関与しない。それがいま、久しぶりに人が人を想うようになった。青年だけではない、だれもが、街中のゴミをひろったり、乗り物で子供に席を譲ったり、その日、奇跡の光景がおきていた。
だが、そんな空間の反面、現実世界は荒んでいた。自然は破壊しつくされ、地球の寿命はもうほとんど残されておらず、人間の過ごせる場所は、一部地域にかぎられていた。それでも夢を持つ者は、仮想世界、電脳世界だけに救いをもとめて、現実逃避をして、その結果、電脳世界内部には一時的であれ理想的な社会が誕生したのだった。
心の広い電脳空間