ループ脱出法

 長い廊下、カーテンを開け放ったばかりのリビング、テレビはつけっぱなし、母さんは台所にいてお皿をあらっている、同じ学校へ通う兄は先に家をでていく、 もやもやとした映像、それは僕が毎日見る、僕はあの日の続き、あるはずだった未来をもう何度も何度もやり直し続けていて、本当の意味で兄の死を取り戻す事もやり直すこともない。ただ黙々とその映像の中あの日の時間が続いている。そこでいつもと同じように、廊下をおり、洗面所へ、歯を磨いてリビング、席に座る、少しぼーっとしていたがたったいま椅子に腰かけていた僕の分のトーストがやけた、僕はパンを皿にうつして、片面だけバターをぬってがぶりつく、7時半、しまった、今日もまたぼやぼやとしていた。
「いってきます」
 あっ、とためいき、今日も兄は出掛けてしまった、その後に事故が起こると知らずに。
「貸りてたゲーム返すよ」
「先にいかないで」
「今日は休んだ方がいいよ」
 夢の中、何度も過去にもぐることができたのに、どうしたら兄は、あの日の続きをやめるのだろう、どんな選択肢を僕が選べば、兄は事故にあわなかったのだろう。

 僕には双子の兄がいる、正確には、その夢の中でしかもう会えないので、かつていた、ということになる、それは5年前のこと、先に同じ小学校にでかけていった兄は、事故にあって亡くなった、それからしばらくは何もなかったのだが、2年ほどたつとおかしなことが起り始めた。
 これは両親にもだまっていることだが、あの日、どうにかしてあの日をやり直せないかと、僕は毎夜毎夜、同じ夢をみる、何度も何度もあの日を繰り返し、そしてその中で、兄を生き返らせようとしている。そして何度もその試みは失敗している。つい先日まで、何も変化のない夢だった、けれど最近、恋人が僕の風邪を看病しにきたときから、夢にみる兄の様子がかわっていった。

 そして丁度昨日のことだった、やっと僕はその夢を変えることができた。そのきっかけが兄ではなく、現実の、恋人とのやりとりだった。
 「話して」
 恋人の声がする、看病の末に、恋人にのぞきこまれていた。
 「なんでもない」
 「なんでもないって」
 三日前のその日恋人とすごく喧嘩をした、そのせいか、夢の様子はかわっていった、そしておととい喧嘩の理由、何があったかといえば、恋人が、あなたは人の気持ちがわからない、とまじめな様子で説教の電話をしてきたことだ、そもそもの始まりが、兄の事を僕が話したがらないからだった。彼女は僕がいつもくらい顔をしている理由が、5年前の兄の死だとしっていて、いつか話してほしいと何度も僕にせまっていたのだ。それでも話さなかったので喧嘩てしまったのだ、その終わり間際、僕は恋人にいった。
 「兄貴みたいだ」
 恋人は余計にないていた。

「右腕の怪我、なおせよ」

 そうだ、兄はあのとき、毎日すごく僕の怪我について心配してばかりいて、その心労が?
希望がわいてきた、ループものみたいな非日常的な夢からにげだせるかもしれない。

 夢の外から兄の声がする。

 あの日、剛速球をとろうとして、むりをして体をひねって右腕を骨折していたんだ。
ループものから逃げ出すには、自分のせいという思い違いをなくすということと、自分の力でなんとかするなんて、思い上がりをなくすこと、それが突破口になる、皆さんもためしてみるといい。

 「兄貴のせいじゃないよ」

 そういったら僕は夢からさめて、兄は死んでいなかったことになった、もう一つの世界に飛んでいた。

ループ脱出法

ループ脱出法

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-10-20

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