しわと教授と未来人
ジーン教授は自らの研究所と研究室の中、ただ黙々といつも通り、常に考え事をしている。悲しげな白髪のまゆをひそめる、シワは彼の表情に合わせて鼻のつけね、人の顔の丁度真ん中へ集まっていく。近頃変人教授としてなりふり構わず名前を売るという有名な彼はいったい何の研究をしていたのだろうか?
彼の室内にもくもくと煙が充満する、その発生源は彼のくわえてている葉巻。彼は煙のせいで自らの耳にかけられたまるぶちの大きな眼鏡が曇るのもまったく問題とせず無関心で、ただパーソナルコンピューターのスクリーンにむかってキーボードをパタパタと乱打していた。
近頃教授は忙しい、研究や仕事、手段をえり好みをしている場合ではないし、そんなつもりはない、彼は焦っていた。研究費はともかく必要だ、なりふり構わず、彼の研究のために必要なのだ。
「もう二度と悲劇が起きないように」
彼の娘が悲劇の被害者だった。彼は自らの犯した罪を顧みながら、二度と悲劇が繰り返さぬようにと祈る、彼はいま、上体をひねりパイプ椅子に腰かけ真正面に向かい合っていた白い大きなテーブルを離れ、椅子にすわったまますぐ左に向きうなだれ、鼻の付け根に手のひらでマッサージを加える。
「私にユーモアのセンスが足りなかったばかりに……」
人工知能が支配する未来の地球では、地球に住む人類は、彼等すぐれた知能の傀儡となっていた。彼等による呪縛を乗り越える手段はただひとつ、彼等に気に入られることだけだった。
しわと教授と未来人