自選歌集 2018年7月~9月
ポケットに盗んだ海と砂浜とクジラを入れて二学期初日
ひとすじの星の軌跡をつかまえて綱渡りする少女のおでこ
電脳の奴隷となった人類を救ってくれよ風鈴屋さん
有識者会議によって方針と一応いけにえも決めておく
会議にはいつも知らない人がいてあしたのために過ぎてゆく今日
暗闇で手を伸ばせない僕たちを扱いかねる掃除ロボット
メガギガで飛んでるものはなんだろう離れていたらひとりはひとり
楽器にはなれない僕はその指に愛されてなどいないのでしょう
踏切を渡ればすぐに見えてくる商店街の看板錆びて
願うほど道は遠くに伸びてゆき帰れなくても森には住めない
守りたい約束をずっとしていない忘れた頃に壊れる時計
お互いの鍵を合わせて街中のドアで試して出口を探す
寝る前にキスするような国でさえ愛は全然足りてないんだ
白黒がシンプルすぎてパンダほど人気がないこと獏は悩まぬ
必要のない殺生はしないので家は代々名無しの村人
いろいろな角度から見て光ならそれはこの世の者ではあるまい
ゆりかごが風から波に手わたされゆらゆらゆらりさいしょのいのち
「飼っていた小鳥が少女になりました」「餌に混じっていたね、星屑」
沈黙の誓いを捨てた蛇たちの月を震わすカウンターテナー
足跡をたどってみるとひまわりがあなたのように待っていました
自選歌集 2018年7月~9月